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2025.05/11 多因子実験

50年ほど前は、実験計画法を使った多因子実験を行っていると、その研究者を軽蔑する研究所もあったのかもしれない。


当方が最初に就職したゴム会社では、QCに力を入れており、新入社員全員日本科学技術連盟が主催する1名50万円かかるBASICコースを1年間受講させられた。カローラDXが80万円で買えた時代で、アルトが30万円でニュースとなっていた時代である。


ゴム会社は「最高の品質で社会に貢献」という社是をかかげており、品質活動には力を入れていた。但し、これはタイヤ部門の話で、研究所では創業者のレガシーはじめ品質については笑い飛ばしていた。


BASICコースを1年間受講してもそれを研究活動に導入しようとすると軽蔑されるような職場だったので、BASICコースの最後に行われる職場実習で実験計画法による解析レポートを作成するときに悩んだ。


職場の先輩に相談しても適当に作文して提出すれば合格点をもらえる、と言われ困った。高分子の難燃化研究の部署に配属されていたのでL9実験である難燃剤の最適化実験をおこなってみたのだが、最適条件が見つからず、先輩はじめ職場全員から笑われた。


「統計手法ってそんな程度」というのが職場の認識であり、仕方が無いので結果を正直にレポートにまとめたら70点という採点だった。


これは最低の合格点であるが、講師のコメントが外れていた内容を書いていたので、さらに悩むことになった。教える方も実験計画法の直交表の性質を理解していなかった可能性があることに後で気がついた。これではゴム会社の研究所で50万円の研修が軽蔑されても仕方がないと思った。


その後、この点に納得がゆかず、周囲から笑われても実験計画法で実験を重ねたら、最適条件が合う場合と合わない場合が出てくることに気がつき、直交表の外側に相関係数を配置した実験計画法を行ったところ、最適条件が外れなくなった(注)。


詳細は省略するが、これはタグチメソッドの動特性を利用した実験で感度が最大になる条件を求めていることになるのだが、当時故田口玄一先生はこの手法をアメリカで指導されており、当方は全くタグチメソッドとは独立で、類似手法を考案したことになる。


写真会社に転職して1年ほどして田口先生の講演が日野市であり、参加し写真会社でタグチメソッドを導入すべき、という出張報告を書いている。


その後写真会社では3年間田口先生から直接ご指導を受けているが、ゴム会社の研究所と写真会社の研究所では雰囲気が異なり、タグチメソッドが定着している。


これは、写真会社の研究所とゴム会社の研究所との風土の違いである。写真フィルムは多数の因子が絡んで機能が発現されている商品であり、科学で行われるような1因子実験では設計が難しい。


ゴム会社で行われていたような、科学の理論に合わせて実験データを出すようなテクニックの研究などもやっていなかったので、タグチメソッドが定着したのである。


今の時代であればゴム会社の研究所でタグチメソッドは常識になっているかもしれないが、30年前はタグチメソッドさえも軽蔑されたかもしれないゴム会社の研究所の思い出である。


(注)この成果を課内会議で報告したら大笑いされた。直交表の実験は実験数を減らして合理化するための手法であり、相関係数を外側に配置したならば全体の実験数が増えるので、一因子実験で十分だ、というのが理由である。この見解は、タグチメソッドを理解していない見解である。当方も最初は実験数が増えることで、皆から笑われることを承知していた。しかし、相関係数を直交表の外側に配置して実験を行うのは、合理化目的ではないのである。「機能の最適化」というパラダイムの実験となり、これはタグチメソッドにおける基本機能に着目した実験計画と同じ思想である。

カテゴリー : 一般

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