界面活性剤の話が水と油の関係で議論されているおかしさに気付いている人はどれだけいるだろうか。
界面は、水と油のような性質の異なる物質の間ではどのような組み合わせでも必ず生じる。例えばPPSに6ナイロンをブレンドした時にもPPSと6ナイロンとの間に界面が形成されて相分離する。
この時界面エネルギーを安定化させる添加剤を高分子の世界ではコンパチビライザーと呼ぶ。あるいは相溶化剤とも呼ぶがこれも界面活性剤の1種と見なせるが、界面活性剤の教科書にここまで書いてない。
あるいは、これを界面活性剤と呼ぶと高分子を知らない人だという学者もいる。それでは、仮に界面活性剤とコンパチビライザーの中間の性質の界面に影響を及ぼす効果のある物質があったとするなら、これを何と呼ぶのか。
電気粘性流体の耐久性改良実験で見つかった界面活性剤は、水に分散するとミセルを形成し、臨界ミセル濃度も存在したが、他のよく見かける界面活性剤とは少し異なる分子構造をしていた。
アイオノマーとポリオレフィンのコンパチビライザーになりそうな格好にも見えた。すなわち界面活性剤として知られていたが、コンパチビライザーとしても用いることが可能な添加剤だった。
逆に、高分子添加剤の中には、わずかに水和により溶解し分散する添加剤がある。おそらくこのような添加剤は界面活性剤と呼ばれていないだろう。しかし、特殊な用途では、界面活性剤として機能するときがある。
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界面活性剤の機能について教科書には、親水基と疎水基の比率を用いたHLB値というパラメーターで議論するとよい、と書かれているが、同一HLB値でも異なる界面活性効果のあることについては触れていない。
また、水の中に油を分散した場合に用いる界面活性剤(O/W型)と油の中に水を分散した場合に用いる界面活性剤(W/O型)の存在について触れている教科書もあれば、触れていない教科書もある。
ひどい教科書になると界面活性剤について水の中に添加してミセルを形成する話だけしか書いてないものがある。このような教科書しか書けない大学の先生は研究者として失格である。
現実をもっと勉強すべきだが、現実を知らないことを自慢する学者もいたりするので厄介である。昔ならば隠遁生活の研究者はそれなりに価値があったかもしれないが、現代において研究が社会に及ぼす効果を自覚していない研究者は、公的機関の研究者として好ましくない時代となった。
企業でも同様で、事業にどのように役立つのか検討せず研究に没頭する研究者をそのまま放置していては損失を生み出す。40年の研究所生活で見てきた経験を言えば、そのような研究者は善良そうに見えるけれども何かしら問題を抱えている人が多かった。
ゴム会社で当方のFDを壊した犯人も日常では少し変わった程度の人であったが、社会感覚の少しずれた発言が見られた。
このような人にひどい目に遭ってみるとその恐怖を理解できる。これは経験しないとわからない恐怖である。当方が転職してから、「あの人はおかしい」と言ってきた人がいたが、日常の生活でみかけ無害の人である。
界面活性剤ではないが、科学を道具として用いるという社会とのバランス感覚は重要である。17世紀以降に科学は生まれており、連綿と続く人類の経験知の蓄積である社会生活とは、まだ完全な融合がなされてない。
科学一辺倒であった教育界にようやくプログラミング教育という非科学の世界に少し触れられるカリキュラムが用意された。ようやく科学の形式知と非科学的な経験知や暗黙知の重要性に気付くきっかけを日本社会が提供し始めたのだ。
1980年代に科学に対して批判的な著書が多数現れたが、バブル崩壊とともに忘れられたようだ。あれから40年経ってようやくプログラミング教育の導入である。この教育で科学以外の問題解決の道具を学んでほしい。
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主成分分析は因子分析の一つで多変量解析手法である。ビッグデータからそこに潜む因子を容易に整理し導き出すことができる。さらに各因子の傾向について、データ群を説明できる序列まで示してくれる。
「界面活性剤を第三成分と呼べ」と命じられて一瞬目が点になったが、増粘した電気粘性流体と組み合わせた界面活性剤以外の市販されている界面活性剤のデータまで集めて主成分分析を行った。
すでにマイコンは8ビットから16ビットの時代になり、フロッピーディスク以外にハードディスクも普及してきた。MZ80Kで作成した多変量解析のプログラムをLATTICE社の C で書き直していた。
このLATTICE社処理系の良いところは、多数のライブラリーが用意されており、行列演算のライブラリーも当時安価に手に入った。独身時代に8ビットから16ビットに移行したので、自宅のパソコン環境はゴム会社の研究所よりも進んでいた。
さっそく自前のパソコン環境で界面活性剤データを主成分分析にかけたところ、70%の寄与率を有する強力な第一主成分が見出された。
主成分得点を精査したところ、界面活性剤のHLB値に相当する因子であることが分かったが、HLB値の第一主成分への寄与は80%程度であり、市販されている界面活性剤の機能をHLB値だけで説明できないこともわかった。
科学の教科書では今でも界面活性剤といえばHLB値であるが、界面活性剤を特徴ずける因子がほかにもあり、驚くべきことにそれが30%を超す寄与率を持っていた。
第一主成分と第二主成分の象限に各サンプルの主成分得点をプロットしたところ、いくつかの群に分かれ、そのうち最も大きな群は、第一主成分と相関するように広がっていた。
電気粘性流体の耐久性問題を解決できた界面活性剤は、この大きな群から外れたところの群に属し、その広がりには、第一主成分と第二主成分との相関は無く、独立した集団として存在していた。
得られた多変量解析結果は、界面活性剤のビッグデータを用いているので界面活性剤の統計的分類を示しているが、形式知的な界面活性剤と、形式知で説明できない界面活性剤が存在する、と読み解くことができる。
そこで、増粘した電気粘性流体を回復できた界面活性剤は、形式知で説明できない界面活性剤に属していたので、狭義の界面活性剤と第三成分という分類を行うことにした。
マハラビノスのタグチメソッドでも同じような解析が可能であるが、タグチメソッドは統計ではない、というのが田口玄一先生の遺言であるので、科学の世界では統計手法である多変量解析を使うことが正しい。
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来週開講の無料セミナーは2時間枠で2日間行う予定でおり、現在テキストを作成中です。当初予定では、これまでのテキストの使いまわしを考えていたのですが、2日間に分けて行う長所を出せるように作り直しております。
第一日目には、日本企業の多くが導入している、あるいは導入経験のある科学的問題解決法の問題点を指摘し、第二日目には、科学を道具として使う問題解決法について説明したい。
すなわち、非科学的な問題解決法を中心に前回は行ってきましたが、科学的な問題解決法を中心に講義しようと思い、内容を作り直しています。
ゆえに申し訳ないのですが、有料テキストのダウンロードは金曜日とさせていただきたく。
なお、来週の無料セミナーはこれまでと同一内容ですが、テキストは科学論を補強し書き直したものを用意させていただきます。
また、カオス混合を開発した非科学的方法も公開いたします。これは、以前高分子学会から招待講演を依頼されました時に1時間お話しした内容を短縮して公開いたします。混練の知識が無くてもその方法を理解でき、業務に応用可能です。
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技術者は自分を納得させるために科学を道具として活用する。科学的に導き出された結果であれば、現代の技術を開発するためにそれは現代の物差しとして使えるからだ。
統計は、このような場合に便利な科学的道具である。「統計でウソをつく」という本があるように、科学の道具として珍しく柔軟性がある。悪が使えば凶器にもなる。
「女性の何%は**だから、**」という口説き方もあり、恋愛の道具になったりする。科学に毒された女性ならば、簡単に口説くことができてしまうのも統計が科学の道具として愛用される理由でもある。
ただし、女心は秋の空、という言葉が示すように、魅力的な女性は統計で語ることのできない技術者のようでもある。
秋の空のようにその心の変化をつかみにくくとも、現象から機能を取り出す技術者と同じような考え方の背景のようなものが女心にはある。
そこを男性は理解しようと努めなければ、女心に永遠に振り回されることになる。女心を取説に例えた歌に騙されてはいけない。それを信じるのは科学的問題解決法で問題を解きはじめようとする愚行だ。
まず、最初にやらなければいけないことがある。弊社が提案している問題解決法では、多くの科学的問題解決法が教えていない最初のステップを大切にしている。
多変量解析は、大量のデータを処理するときに便利な科学的道具である。女心さえもこれで処理できる、と科学者は誤解する。ただし、処理するときに用いたデータのよりどころ、時代背景を付記することを忘れてはいけない。
江戸時代の女心のデータを多変量解析にかけた結果と現代の女心のデータを多変量解析した場合では、まったく異なる結果になるはずだ。もし一致する結果となれば、それは時代を超えた普遍的な形式知と呼んでも良いような成果である。
このような思惑で、マテリアルインフォマティクスという学問が今流行している。多変量解析だけでなく、シミュレーションも駆使して、科学者たちが一生懸命に、あたかも技術者が科学を道具として活用するように取り組んでいる。
科学と技術の境界線は時代により変化するといった人がいるが、まさか科学者が技術者のような仕事を行う時代になるとは想像していなかった。まさに業務改革花盛りである。
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高分子用添加剤は高分子の機能性向上を目標にして多数開発されているが、樹脂用添加剤の場合に共通した欠点として可塑化効果のために高分子の耐熱性を下げる問題がある。
PPSは難燃性が高くTgも100℃近くであり、コストが下がり始めた耐熱エンプラとして最近注目され使用量が増加している。
このPPS用添加剤についてTgを下げず、成形時におけるPPSの流動性と靭性を改善する添加剤を新しいコンセプトで開発した。
面白いのは、カオス混合ではコンセプト通りの性能を実現できるが、二軸混練機だけの混練では、十分な性能が発揮されない点である。
カオス混合と二軸混練機だけの混合では混練の効果が異なるためだが、カオス混合の特徴を示す良い事例となった。
また、この事例により、混練で添加剤が高分子にどのように分散してゆくのか、その結果何が起きるのか想像通りであったことも開発成果と言える。
詳細は弊社へ問い合わせていただきたい。来週の問題解決セミナーにおいて時間があれば問題解決事例として説明する。
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科学と技術の境界は時代により変わる、という名言がある。また、20世紀の経営者による「科学と技術は車の両輪であり、どちらかが遅れても科学技術はおかしな方向へ発展する」というたとえ話は、1960年代に起きた企業の研究所ブームがどのようなものであったかを理解させる。
バブル崩壊後企業は研究開発のあり方をみなおしている。しかし、1980年代に導入が始まった研究開発管理手法であるステージ・ゲート法や科学的問題解決法のTRIZやUSITを現在でも愛用している時代遅れの企業が存在している。
あれから約40年、非科学的方法による研究でノーベル賞受賞者が出る時代になった。アジャイル開発も一般的になってきたが問題解決法は従来のまま、というのは時代遅れである。
サラリーマン技術者の時代から、企業の研究開発のあり方に関心を持ち、科学的問題解決法に疑問を感じてきた。研究開発も含め企業で発生する問題を視野の狭い科学的問題解決法で解いていては、それこそ問題であることをドラッカーは指摘している。
高校生のころからドラッカーの著書を愛読書とし考案した問題解決法を無料で公開しております。
今月は11月24日と25日に問題解決法の無料セミナーを予定しております。
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技術者にとって、科学は最も重要な道具である。AIの時代となり、ますますそれが鮮明になってきた。AIの科学者を量産することはできるが、技術者のAIを量産してもコストに合わない。
技術者とは、形式知同様に経験知や暗黙知を重視する。これらは技術者個々により、身に着けている内容が異なるし、昨日の暗黙知を否定する新たな暗黙知を今日作り出すような気まぐれさも技術者の特徴である。
技術者の暗黙知をAIに教師データとして教え込んでも使い物にならない。そもそも暗黙知をAIに教え込むことは困難である。暗黙知は情熱や感情にも左右される。技術者は、やりたくない仕事あるいは経験のない仕事でも科学を道具として使い、学習し、挑戦する。
電気粘性流体は、やりたくない仕事だった。しかし、住友金属工業と高純度SiCの事業化を始めたと言っても所属が研究所である限り、やらなくてはならない。
「界面活性剤ではなく、第3成分と呼べ」と言われても、電気粘性流体の耐久性問題を解決できたのは、紛れもなく界面活性剤を添加したからである。しかし、組織の中で働く技術者は、上司に従うか、上司に不満であれば転職するかの2択しかない。
組織に残るならば、第3成分と自分を納得させるよりどころが必要になる。技術者は機能の動作について、自分の納得のゆかない動作を改良することができないからである。
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技術者は現象から素直に機能を取り出す。そしてその再現性とロバスト向上に努力する。そしてそれが優れた機能ならば、素直にその機能についてロバストを説明する。
データを捏造したり、機能を見出した経緯をごまかしたりしない。ひたすら品質向上に努めないと市場に受け入れてもらえないからである。
ところで、界面活性剤で電気粘性流体の増粘問題を解決ができたのだが、界面活性剤を第三成分と呼べ、と実験結果についてリーダーがその内容を捻じ曲げるように要求してきた。
界面活性剤では解決できない、という研究報告書が出されていたのがその理由で、材料系の本部長から音と振動の大家の本部長に代わっていたので、第三成分は界面活性剤ではない、とごまかそうとする魂胆が見えてくる。一部の善良ではない科学者特有の悪である。
科学者の中には専門外の人間に対して、理解を容易にするために言葉でごまかすことに躊躇しない人がいる。善良ではない科学者は、このリーダーだけではない。
技術者には実直な人が多いが、技術や職人を小ばかにする科学者もいるので、そのような人も悪人ではないが善人とは呼べない。ちなみに当方の転職原因を作った人は優秀な科学者だった。
なぜ技術者が愚鈍で実直にならざる得ないのかというと、そうでなければ市場からしっぺ返しに遭うからだ。科学者は研究論文を重視するが、技術者は市場の顧客を重要視する。
11月24日と25日に問題解決をテーマとした無料webセミナーを行う予定でいます。時間は13時30分から15時30分を予定しており、2日間4時間でまとまる内容を企画している。現在それぞれの日をどのような内容にするのか検討中ですが、とりあえず参加者を募集します。弊社へお申し込みください。原則2日間参加できる方が対象ですが、1日だけでも参考になるかと思います。
お申し込みはこちら
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科学的に改善不可能と否定証明で論じられた現象でも、技術で改善可能である。このことが技術的問題解決法と科学的問題解決法とが等しくないことを示している。
現代の科学で解明できないから、技術的に不可能という結論をすぐに出す人がいるが、科学と技術では、やる「コト」が異なる。
技術では現象から「機能を取り出すコト」が目標であり、科学とは現象を説明する仮説の真偽を明らかにすること、すなわち「現象から真理を導き出すコト」が目標になる。科学的に不明でも技術で再現よく改善できれば実用化できることに気が付いてほしい。
科学を先導できる技術者こそ優秀な技術者であり、そのためには科学の形式知に精通していなければならない。例えば材料技術者ならば、セラミックスから高分子、金属まで科学の形式知を学んでおく必要がある。
この意味で高分子だけ知っています、という材料技術者は未熟である。しかし、高分子科学者という職業ならば、尊敬される場合も出てくるかもしれない。
添加剤の入っていないゴム処方を開発せよ、と電気粘性流体の開発プロジェクトリーダーから命じられた時に、目が点になった。すぐに「あほか」と言いそうになったが、そこはこらえて「回答は1週間待ってほしい」、と伝えている。
1週間あれば界面活性剤を見つけることができると考えたからである。しかし、界面活性剤の検討を電気粘性流体の担当者たちが1年続けていたことを知っていたので、ここは忖度して、「高純度SiC事業の共同開発先とテーマの調整をしたい」と回答している。
組織活動においては、科学者に対する忖度による知恵の発揮が重要で、これができないと、科学者は否定証明の論理を用いてチャンスをつぶしにかかる。企業の科学者にはこのような輩が多いので技術者は組織活動における忖度の働かせ方を学ばなければいけない。
忖度をはたらかせて、謙虚に「1週間勉強のために、耐久試験を終えて増粘した電気粘性流体を少しほしい」と伝えたら、ドラム缶にいっぱいあるから自由に使ってよい、と言われた。
ヘドロのようになった電気粘性流体を譲り受け、それを300個のサンプルビンに分取し、手持ちの界面活性剤はじめ社内にある界面活性剤になりそうな化合物まで集めてきて、それらをサンプルビンに次から次へと添加した。
スタップ細胞の騒動ではハートマークやビックリマークだけで書かれた白紙の実験ノートが話題になったが、この時の当方の実験ノートには、界面活性剤になりそうな化合物から界面活性剤まで、その成分情報やHLB値、曇天などのデータや当方の経験からのアイデアメモなどこの一晩の実験だけのために数ページが真っ黒になった。
科学者の中には実験ノートをメモ程度に考えている人がいる。すなわちメモ程度でも後からロジックで正しく実験時の情報を表されると考えているからだ。
技術者は機能を取り出す必要から、ロジックではなく、試行錯誤で実験を行う場合が多くなる。ゆえに実験ノートには詳しく情報を残しておかないと、後から重複して無駄な実験をすることになる。
さて、この時も試行錯誤の実験となったが、300個のサンプルビンを振盪機にかけて一晩おき、翌日そのサンプルビンを観察したところ数個のサンプルビンで明らかに粘度が下がっていた。さらに、そのうち1個のサンプルビンでは、上澄みが透明になっていた。
詳細は当方の書いた特許を見ていただきたいが、試行錯誤で耐久試験問題の解答が見つかったのである。何も難しいことを考えてはいない。正しい問題に対して手当たり次第に答えを探しただけである。
サルでもできる、というと言い過ぎだが、優秀な科学者の数名が1年かかっても解けなかった不具合現象を電気粘性流体に関する基礎知識のない当方でも一晩で改善できたのである。
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