5日に富士フイルムが公開したコンパクトデジタルカメラ「FUJIFILM X100V」のPR動画に「盗撮を推奨するような内容」などと批判の声が寄せられ、まもなく削除されたらしい。
動画を見ていないので、いくつかのWEBニュースからの想像となるが、とんでもない時代になった、というのが実感である。
動画では写真家の鈴木達朗氏が「X100V」を手に渋谷の街を歩き、ストリートスナップを撮影している様子を映し出したものだったらしい。
10年以上前になるが、秋葉原でニュースに表現されたような同様の撮影スタイルでスナップ撮影をした経験があり、びっくりしている。
当時は事件になっていないし、そのような撮影スタイルで撮られた写真は、写真雑誌や展示会でも多かったスナップ写真の一手法である。
だからX100Vというカメラを手にしたときに、当方はすぐにこのカメラのコンセプトを理解できた。まさに日常を映すために設計されたカメラなのだ。
撮影に必要な条件は、ダイヤル操作ですぐに設定できるし、設定状態はダイヤルの表示ですぐに確認できる。銀塩カメラを彷彿とさせる設計でコンパクトである。
しかし、今そのカメラを持ち歩き日常で撮影できるエリアはかなりの制約を受ける時代になったようだ。肖像権の問題で許可なく人物を撮影することは許されないし、また撮影した画像を公開することも許されない。
街の撮影で許されるのは、ネコかカラス、雀、そしてたまに道路を走るネズミぐらいしか動的な被写体は無い。X100V、いいカメラだが時代を読み間違えた企画かもしれない。
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1980年に発泡ポリウレタンの難燃化研究を担当していた時に、プロジェクトの一員として熱重量分析を担当していた。
先代の管理職が熱重量分析が好きで、何台も熱重量分析装置を買っていた、と上司が批判的に言っていた。
職場には真空理工の熱重量分析装置と理学電機の熱重量分析装置があった。しかし、以前にはまだ数種類存在し、置き場所が無かったので廃棄されたという。
もったいないと思ったが、上司の説明では、機種によりデータが異なるので厄介な問題が起きたからだという。どのような厄介な問題かは、その後上司の仕事のやり方を見ていて想像がついた。
残された二台の熱重量分析装置の測定データには、機種間の差異が小さかったが、それでも丁寧な実験を行うと、その差が大きく現れることもあった。
定時後この機種の差がどのような原因で現れるのか研究してみた。詳細は理学電機に悪いので書かないが、真空理工の装置のほうが優れた設計であることを見出した。
高純度SiC合成について速度論的研究を行うときには、迷わず真空理工に熱重量分析装置の発注をしている。
購買担当からは理由を聞かれたので、この難燃化研究時代のデータを添付し、優れた機械だから、と説明している。優れた装置が市場で生き残るとは限らないので注意が必要だ。
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今回ゴムタイムズ社から発刊された混練の本は学術書ではない。当方が2005年にPPS無端ベルトの開発を担当したときに、たった半年でコンパウンディングプラントを立ち上げた。その時に活用した知識で構成した内容である。
当時一流コンパウンドメーカーからコンパウンドを購入し、押出成形で半導体無端ベルトの開発が進められていた。
しかし、一流メーカーの混練技術者が開発したコンパウンドでは歩留まりが上がらず事業に失敗すると思われたので、コンパウンドの改良を一流技術者にお願いした。
その時に一流混練技者から「素人は黙っとれ」と言われたので、しかたなく、ド素人の当方が10万円前後の混練の本を数冊買い込んでコンパウンド工場を建てるために勉強した。
しかし、せっかく買い込んだ高価な本から得られた知識では、改良されたコンパウンドを生産できる工場を生産できないという問題に遭遇したのである。
高価な混練の本に書かれた形式知を駆使して技術サービスしているのだから、一流コンパウンドメーカーの技術者は優秀だ。しかし、残念なことにお客の問題解決ができない。
ドラッカー流にいえば、「困ったことに優秀な人がしばしば成果を出せない」状態だった。すなわちコンパウンドの何が問題であるのかさえも高価な混練の本は教えてくれなかったのだ。
具体的には、分配混合と分散混合で混練について論理展開する従来のパラダイムでは、パーコレーション転移を安定化するために何をしなければいけないのか、という問題について明らかにできなかった。
そもそも混練とは、高分子を混合し練り上げるプロセスである。そこで問題となるのは、高分子のレオロジーであり、相溶現象であり、諸々の高分子ゆえに生じる現象である。
これはゴム会社で初めて混練を学んだときの指導社員の言葉だ。分配混合や分散混合によるパラダイムとは異なる世界である。
高価な本を読み、巷に常識となっている混練技術の問題に気がついた。すなわち、そもそも高分子のプロセシングとして考察するためのパラダイムがおかしい。
そこで、とりあえず当方が学んだ混練のパラダイムを公開するために本を書いてみた。混練技術者だけでなく、広く高分子の実務に関わる方にも読んでいただきたい。
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高分子の熱重量分析を材料の評価ルーチンとして行い、データ観察を行っていると面白いことに気がつく。
例えば、窒素中と空気中の評価結果では、空気中の重量減少速度の方が早いと思いがちだが、これがある温度領域では逆転する現象が観察されたりする。
そのような場合に雰囲気ガスの流入速度を変えてやると、窒素中では浮力による誤差が観察されるだけだが、空気中では重量減少速度が変化する。
これは高分子の熱分解に酸素が関わっているためで、リン系の難燃剤が添加されていると表れる。
何が面白いのかと言うと、単純に右から左へ受け流されるような変化とならない場合がある。このような現象に出会うと、ムーディー勝山の歌について別の側面の面白さが見えてくる。
ムーディー勝山の持ち歌には、上から下へ落ちてゆくものを見る男というのがあるそうだ。聞いたことは無いが、右から左にしても上から下にしても、このような取るに足らない点を笑いとする発想に感心する。
エントロピーは、自然現象においてただ増加するだけである。これが減少するようなことは、自然現象で起きない。自然界でエントロピーはただひたすら増加する。
しかし、化学反応では、触媒が存在すると反応機構が変わり、見かけの活性化エネルギーが下がり、左から右へ変化を促す場合が出てくる。
これが不触媒になると、左から右に進行していた反応を止めたりする。リン系の難燃剤は、270℃から350℃の範囲の温度領域で、高分子の脱水反応を促し、二重結合を生成しその後のチャー生成を促進するように働く。
しかし、リン系難燃剤の中には、簡単にオルソリン酸を生成して、低温度から活発にこの反応に関与する化合物からそうでない構造の化合物まで存在する。
問題となるのは、オルソリン酸が240℃前後に沸点を持っていることだ。すなわち反応に関与しているオルソリン酸は240℃前後で揮発してゆかないが反応に関与していないオルソリン酸は揮発するので、重量減少カーブに影響する。
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武漢受け入れ業務を担当していた内閣官房職員の自殺が報じられた。ただ右から左へ仕事を受け流すことができない、生真面目な人だったらしい。
自殺された方が、内閣官房と武漢帰国者との板挟みになられ、ストレスで自殺に至った様子を組織で類似の板挟みについて経験された方なら理解できるかもしれない。
社会における組織業務では程度の差こそあれ、責任ある立場になれば、誠実真摯に仕事を遂行しているときにこのような板挟みが生まれる。
板挟みを解消するためには、第三者がどちらかの板を取り除かない限り、挟まれている本人は、自殺するか退職するか、二者択一以外に逃げ場が無くなる。
組織のあるべき姿は、本来このような板挟みを解消できるような運営ができていなければいけないが、組織を運営しているのが人間である限り悲劇的問題が起きたりする。
例えば、板を取り除く役割の担当者が不誠実であると自殺者が生まれる。板を取り除く役割の担当者に勇気が無く、板挟みにあっている人に生きる勇気があれば辞職者となる。
STAP細胞の時にも職場における自殺者がでたが、職場を死に場所とする自殺の多くは組織に対する沈黙の抗議というメッセージと言われている。
新入社員時代に半年もかけずに開発したホスファゼン変性ポリウレタンフォームを工場試作まで行い始末書を書かされた経験があったが、これは、本来書くべき人が下位職者に責任を押し付け、それが最下層まで落ちてきた結果だ。
テーマ決定権の無い新入社員に始末書を書く資格があるかどうか不明である。女性の指導社員によれば新製品会議で課長が新入社員がやりたいといったのでやらせたと応えたそうだ。
当方がごねれば、指導社員が板挟みになったのかもしれないが、指導社員は始末書の書き方について課長に相談するように、と板挟みとなるのを回避しているので誠実ではないが賢明な人だった。
当方は、ごねる代わりに、始末書で新テーマの提案(注)を行って製品化という成果を出したが、学会発表の役割を頂く以外の評価はもらえなかった。
ただ、当時は板挟みとなってもそこからするりと逃げ出す判断ができるだけの余裕があった。
他社買収後はそのような逃げ道はふさがれ、とんでもない事件が起きている。右から左へ受け流す仕事が許されるような風土は今回の事件を防ぐ一つの運営方法かもしれない。
しかし、組織のあるべき姿を目指しそれぞれの職位が誠実真摯に業務に当たればこのような事件は起きないだろう。組織運営では板挟みを発生させてはいけない。
(注)燃焼時にガラスを生成し、ポリマーを難燃化する、という斬新なアイデアでできるかどうか不明だった。しかし、始末書の相談時にそのプロトタイプを用意していたので課長は納得した。課長が右から左へ流しやすいように相談をしたのである。
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お笑い芸人が反社会勢力の宴会に出ていた問題で自粛していた芸人の復帰をめぐり、NETにいろいろな見解が出ている。
40年以上前に出版された「花王のパソコン革命」という本が引き起こした騒動の思い出について昨日書き上げたが、その時の上司の特異な能力がムーディー勝山の歌の面白さであることに気がついた。
実は、最初にこの歌を聴いたときにただ右から左へ受け流すと生真面目に歌っている姿に面白さがあると思っていたが、WEBに公開されている歌を改めて聞いてみたら、「左から右へは受け流さない」と面白いことを歌っていた。
おそらくムーディー勝山の歌を聴いて笑っていた人の中には、組織で見かけるただひたすら右から左へ仕事を必死に流している上司を思い浮かべ聴いていた人もいるのではないだろうか。
残念ながら当方は最初にこの歌がヒットした時にそれほど面白い歌と思っていなかったが、「花王のパソコン革命」の思い出から、上司の特異な能力に気がつき、改めてこの迷曲を聴いて笑ってしまった。
ただひたすら右から左へ仕事を流している人にお願いをしなければいけない時には、右側からお願いをすればうまく成果を他の人に受け流してくれる。
組織活動において、とにかく組織外へ成果が出ていかなければ大きな成果とはならない。右から左へしか仕事を流せない上司ならば、右から話をすればよいのである。
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信じられないことだが、上司は全社の事務管理がどのように行われているのか、ご存じなかった。
全社の事務管理が大型コンピューターで行われ、給与計算から従業員管理、設備管理、予算管理までゴム会社ではすでにOA化されていたのだ。
これは、新入社員の研修で創業者の先見性の事例として学ぶ同時に、職場配属された時にOA化された職場でどのように事務を進めるのか訓練された。
ただ、研究所では庶務の女性が数人いて、端末の操作含め研究員が一般事務に触れる機会は無かった。
管理職に至っては、毎月打ち出された事務関連情報が回覧されてくるので、事務管理の仕組みなど知らなくても仕事ができた(驚くべきことだが、この出力さえも大型コンピューターから打ち出されたものであることを上司は知らなかった。)。
このような背景があったので、研究所でOA化のプロジェクトが立ち上がった時に、大型コンピュータで管理されていなかった、試薬管理のデータベースをまず構築することになったのだ。
プロジェクトの司会を上司が行っていたので、当然理解されていると思ったら、プロジェクトの流れすらも理解していなかった。
試薬管理で100万円かかるのなら、本に書いてあるような従業員の住所管理からやったらどうか、などと言い出した。
そして毎月回覧されてくる従業員の勤怠表がすべてカタカナだからこれを漢字表示するようにしてくれ、と続けてきた。
さらに、漢字表示させるだけなら、本体と漢字プリンターがあればよいだろう、と訳の分からないことを言い出したので、せっかくの機器調査の説明がとん挫した。
一緒に説明していた元指導社員が、とりあえずそうですね、と言い出したのでびっくりしたが、打ち合わせを終えてから、もう一回日をあらためて、時間を4時間ぐらい取って、説明しようと、覚悟を話してくれた。
すなわち、全社の事務の状況とOA化のプロジェクトにおける流れ、当方の努力などをまとめ上げ、購入前の説明に3時間ほど費やしてこの上司の理解を得ることに成功した。
企業における上司とのコミュニケーションのコツは、幼稚園の生徒に話すつもりで、と教えてくれた人がいたが、サルに芸を教えるつもりで説明すると腹も立たない、とこのプロジェクトで学んだ。
その心は、時にはエサが必要、である。元指導社員は、上司が安全管理責任者である点に着目し、試薬管理のデータベースが出来上がった時に、職場の安全管理にどのように役立つのか、という点を中心に説明していた。
コンピューターの説明などほとんどせず、試薬整理のために毎月1日行っていた棚卸が不要になることや、庶務の女性を1名減らせるなどと、100万円のコンピュータシステムを導入することにより生み出される効果が5000万円とぶちあげた。
以上はオフィスにコンピューターが登場したころの実話である。上司が無能に見えるのはいつの時代でも同じで、上司が無能である、と嘆く前に上司を動かすことのできるコミュニケーション能力を部下は身につけなければいけない。
ドラッカーは知識労働者の活躍する社会では、自分のアウトプットを他の人に活用してもらえるように活動する責任がある、と説いており、相手の無能さに責任は無く、相手の理解を得ることのできないコミュニケーションスキルの責任を指摘していた。
若い時にはなかなか理解できないかもしれないが、有能な先輩のコミュニケーションスキルを観察すると見えてくるものがある。組織のあるべき姿はメンバーの能力に依存せず機能し、成果を出せる仕組みである。有能な社員とは、どのような組織体制であっても成果の出せる人である。成果の出ない組織とはメンバー全員が無能とみなされる。
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弊社担当分を売り切ることができました。サービス期間にお申し込みされた方に感謝いたします。来週から書店に並ぶかと思われますが、本体4800円です。ゆえにご購入時には5280円となります。弊社でも購入可能ですのでお問い合わせください。但し郵送料180円必要ですの5460円となります。
180円必要となりますが、おそらく書店に注文するよりも弊社に発注をかけられた方が速いかと思います。
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TGAで得られたデータには、測定雰囲気等のある測定条件における熱分解速度に関する情報が含まれている。
これは等速昇温データでも恒温測定データでも同様であるが、恒温測定データでより精度が高いことをすでに説明した。
40年以上前には、Doyl-小沢法とかFreeman-Carol法とかTGAを用いた反応速度論解析法がいろいろな高分子で検証されたが、最近このような方法による実験データを見かけない。
いずれの方法も解析に用いた仮説に対応した値が得られたので訳が分からなくなった可能性が高い。
このような科学の発展過程を見ると、科学のかかえる問題点を知ることになる。イムレラカトシュが言っていたように肯定証明でいつでも永遠の真理を見出せるとは限らないのだ。
そもそも高分子の熱分解機構は、高分子の高次構造の影響を受ける。例えばフェノール樹脂とポリエチルシリケートとの相溶化された前駆体炭化物と相溶化していない前駆体炭化物では、SiC化の反応機構が異なり、その結果が恒温測定データに現れる。
すなわち、相溶化された前駆体炭化物ではSiOガス生成がなく、核生成の誘導期間を恒温測定データの曲線に観察できるが、相溶化されていない前駆体炭化物から得られたデータでは、いきなりSiOガス揮発による重量減少曲線となる。
これは高次構造のわずかな差でSiC化の反応機構が異なるからで、高分解能の電子顕微鏡観察をしない限り、このわずかな高次構造の違いを観察できない。
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40年以上前にはこのような高分解能な電子顕微鏡が無かったから、科学的に無駄な研究が多数なされた、といえるが、そのような時代を経験しても、科学100%のパラダイムによる開発の効率の悪さに気がつかない。
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花王では、8ビットのPC8001で事務管理をやっている、と本に書かれていた。ゴム会社では、事務の一部はIBMの大型コンピューターで管理されており、各部門にその端末が一台置かれていた。実態は、花王よりも進んでいたのである。
大型コンピューターの端末の価格は、当時300万円前後と言われていた。PC8001は、すでに12万円程度になっていた。但しこの価格はCRTその他が付属していない仕様の価格である。
もしデータベースプログラムが稼働し、そのメンテナンスができるようにするには、本体以外にCRTやフロッピーディスク、プリンターなどが必要で、NEC製で揃えても50万円以上となった。
ただし、このセットでもIBM大型コンピューターの端末同様に漢字表示できないので、これを漢字表示可能にするには、インターフェースボックスと漢字ボードが必要となる。
それならば、ソード社の100万円前後で売られていたシステムが有利であり、漢字表示できて、8ビットCPUが二つ付いており、PC8001よりも速く動作した。
さらにOSやワープロなどのソフトもついていたので、当時のコンピューターシステムでは、最も安価だった。PC8001で同様の仕様まで揃えると100万円を越えた。
以上の調査結果を一覧表にして上司に説明したら、一言「君たち花王のパソコン革命という本を読んだかね。PC8001一台でOA化ができたと書いてある。」となった。
CRTやフロッピーディスクの必要性を説明しても理解してもらえなかったばかりではなく、研究所に設置された大型コンピューターの端末よりPC8001が優れていることを知らないのか、と言い出した。
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