無機材質研究所に留学して半年後に受験したゴム会社の昇進試験で落ちた。その結果、高純度SiCの新規合成ルートについて実験する機会が生まれたことを以前この欄で書いている。
これは無機材質研究所のI総合研究官が所長と調整されて実現したチャンスであるが、昇進試験に落ちたときにゴム会社の人事部長は、「君は人間リトマス試験紙だ」(注)と励ましてくれた。
人事部長の力でも研究開発部門の意向である昇進試験の結果を動かすことができず、組織の強い意志であることを知った言葉であるが、人事部長は留学を終えてからどこの部署に行きたいのか考えておくように、とも言われた。
これが一年後には、研究開発本部に残ることになり高純度SiCの事業化を推進するのだから、人生はわからない。
ちなみにこの時の昇進試験の解答は当時の社長方針に沿った唯一の解答だった、とも言われた。人事部長は落ち込んだ当方を激励されたかったのだろう、と今でも感謝している。
人事部長との面談の翌日から始めた4日間の研究で高純度SiCの合成に成功している。パイロットプラントではこの時の条件で試作を繰り返し、住友金属工業に提供している。人事部長の言葉が高純度SiCの事業化推進に一番大きい影響を及ぼした、と今でも思っている。
(注)当方を評価しない組織は悪い組織である、と激励してくれた。この激励で無機材研で生まれたチャンスを成功させて、昇進試験に書いた事業を実現させたいと人事部長に元気よく答えている。無機材研で行う実験や基本特許出願についてこの時にゴム会社で許可が出たのだが、この許可についても研究開発部門は好きなようにやってよい、という判断だった。これが研究開発本部長が代わり、大きくテーマの取り扱いが変わった。そして新たな本部長のリーダーシップで事業が立ち上がってゆくのだが、その後30年間ゴム会社の事業として推進され、当方が在職していたら、退職したであろう年に、当方の故郷愛知県の会社に事業売却されている。この高純度SiCの仕事には運命的なものを感じるとともに、誠実真摯に努力することの重要性を学んだ。
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トランプ大統領は、今回の新型コロナウィルスを中国が発生地とわかるような名前にしたい、とツイッターで話していた。
中国は、歴史に名を残したくないので、PR活動に必死である。また、コロナ禍以外に香港問題もあり、米中冷戦時代の到来などとも言われだした。
表に出てきている情報だけでも米中関係の今後は暗く難しい状況だが、胡錦涛や江沢民の動きが活発化しているとの裏情報も出てきて、単純に米中冷戦時代に突入したくない中国国内事情がある。
中国国内の政治の話は書きにくいが、コロナ禍からいち早く立ち直った感のある中国産業界は、カオス状態である。
2年ほど前から中国のローカルタイヤメーカーは倒産ラッシュで最近は1本1000円という怪しいタイヤを日本で見かけなくなった。
コロナ禍で中国国内のタイヤ以外のメーカーも、わが国同様青色吐息のはずなのだが、ニュースで報じられているほど経営者は青くなっていない。
10年ほど前に農業人口3割を目指して第二次産業に移行してきた中国で表向きのGDPは日本のバブル以上に急成長した。
しかし、人口の半分以上は、今でも日本の労働者よりはるかに安い賃金で働いており、いわゆる出稼ぎ労働に近い。ゆえに仕事がなければ多くの従業員はクビになる前に第一次産業へ戻ってゆく。
日本では考えられない労働者の第一次産業と二次産業の間の流動性があるので、日本の労働者のようにコロナ禍で全く食えなくなるような事態にはならない。
ゆえに経営者もそれほど深刻になっていないのかもしれない。むしろ、このコロナ禍で故郷に帰ったまま工場に戻らない従業員を呼び戻す心配をしなければいけない。そんなことをある経営者は話していた。
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混練技術に関しては、ノウハウとなる部分が多い。樹脂を融点以下で混練すると、分子量低下が起きるから好ましくない、とステレオタイプ的にいう人がいる。高分子の混練技術をよく知らない人だ。
例えばゴムはゴムのTg以上でロールに十分なトルクがあればロール混練が可能である。但しものすごい音がするので慣れていないとびっくりする。
初めて混練実技を教えていただいたときに、温まっていないロールに天然ゴムを絡ませて指導社員が混練を始めた。ロールをクリーニングしているという。見るからにきれいなロールだが、コンタミで実験データがダメになるのは避けなければいけない、と、つねに道具を実験前に洗浄する習慣の大切さを教えられた。しかし、指導していただいている間にものすごい音がしていてハラハラしていたが、そのうちロールの温度が上がり、静かになった。
この本にはこのようなことは書いていないが、幾つか実務で重要なノウハウを体験したまま書いている。ご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。
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給付金の委託をめぐって電通が先日釈明を行ったことがニュースとして報じられた。おそらく電通が言っているように書類上から明らかになる不正は行われていないと思われる。
ここで問題として考えなければいけないことは、利益が低いのにわざわざ引き受けている、という言い訳である。このような言い訳をするからさらに疑われるのだ。
利益が低く、電通にとって旨味のない事業をなぜトンネル会社まで作って行うのか。それは、やはり政府の事業に旨味があるからである。
今回の給付金に限らず、政府の事業は基本的に公募制である。しかし、公募制といっても大抵はデキレースで、政府の事業予算を獲得するのに一苦労する。
ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げたとき、政府の補助金を頂ける話があった。しかし、社長が2億4千万円会社のポケットマネーをだすから心配しなくてもよい、と言って、研究所までさらに建ててくれた。
この話は、その昔創業者が世のためにと数億円というお金を某国立研究所に寄付をした、さらに深いいい話とつながっているのだが、本日は省略する。
しかし、プロジェクトがスタートし4年ほど経過したら、社長が交代し研究予算が大幅に削減された。慌てて文部省の事業に応募して資金確保した。この事業以外に転職後も政府の公募に応募し、外したことはない。
会社を設立後某会社のコンサルティング委託を受け、政府の公募事業に応募した。しかし通らなかった。採用されたテーマは公開されるので応募したテーマとの比較が可能だ。実用性のない大手の糞のようなテーマが採用されていた。
こんなことが数回続き、以後政府の公募事業の応募はあきらめた。今回の電通が請け負った事業では10%の利益が確実に見込まれるのである。
しかも人件費の計上も可能なので、経営を少しご存知な方であれば、トンネル会社を作ってでも何をやってでも受注したい、ものすごい旨味のある事業であることを理解できると思う。
ここで問題としなければいけないのは、政府の公募事業がデキレースで展開される点である。公募事業には企業にとって必ずメリットがあるから応募するのだ。電通のようにわざわざトンネル会社まで作るのはそのためである。しかし、公募の選定が公平に行われていないところが、大きな問題なのだ。
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昨日カイロ大学が小池都知事の卒業について声明を出し、1976年に卒業されたことが明確になった。
実はこれ以前にも小池氏は卒業証書を公開されているが、都知事選を控え、学歴詐称疑惑を書き立てるマスコミが現れた。
STAP細胞の騒動の時に博士の学位ですら、いい加減な審査が行われていたことが明らかになったのに、なぜこれほどまで学歴や肩書を騒ぐのか。もうそろそろ社会における実績で評価する時代になっても良いのではないか。
当方は中部大学で工学博士の学位を授与されたが、実は某国立T大で学位論文を英文でまとめている。しかし、その途中でFD事件をゴム会社が隠蔽化するという事態に写真会社へ転職した。
ところが、である。実はゴム会社から小生が学位取得にあたりT大には奨学寄付金が支払われていたので、T大の某先生から転職先の写真会社からも奨学寄付金を収めてください、と言われた。
学位も金次第という噂を聞いていたが、露骨に言われたので、学位審査を辞退する、と申し出て、T大の学位取得をあきらめた。論文のひな型のコピーを頂く程度の指導で、ひな型となった実用性のない論文よりも立派な事業になった内容を英文の論文としてまとめられただけでも、満足だった。さらにこの下書きさえも何らアドバイスをいただいていない。
奨学金50万円程度でもよいと言われたが、奨学金以外にも、実験に全く貢献していなかったO助教授が当方のデータを勝手に使い論文を投稿していた問題にも結論が出ていなかったので、学位そのものもあきらめた。
しかし、高純度SiCの研究については学会発表を行っており、無機高分子と有機高分子をリアクティブブレンドでポリマーアロイにしてセラミックス前駆体に用いるという手法は、当時斬新な研究で、それなりに当方は研究者として学会で知られていた。
そして、ある先生からT大の学位取得について聞かれたときに、一部始終をお話したら、O先生ならありうる話だが大問題となるので言わない方が良い、と口止めされた。30年ほど前の話である。
口止めをされた先生が、中部大学を改めてご紹介くださり、試験を受けたりせっかく英文でまとめた学位を日本語でまとめなおしたりと、散々な苦労の末に学位を取得した。
学位取得は大したことないですよ、と謙遜される人がいるが、当方はとてもそのような言い方はできない。もっともT大で取得していたら、今頃そのように言っていたかもしれないが、普通に学位審査を受けて取得するならば大変な苦労を伴う。
苦労が報われ感動したのは、審査料の8万円ぽっきりで学位取得ができたことだ。当方から主査の先生に、T大から請求された金額程度は準備していますが、とお尋ねしたら、学位はお金でとれるものではない、とたしなめられ、胸が熱くなった。
それだけではない。マントや帽子など貸与されて学位授与式が盛大に行われ、ささやかなお祝いまでして頂いた。もしT大で学位を取得していたらここまでの思い出深い学位授与式はしていただけなかっただろう。
写真会社で部下一人を博士に育てたが、仕事の都合もあって、学位授与式には参加しなかったという。大学から連絡がなかったうえに、部下もその日のことを報告してくれなかったので、かわいそうなことをした。
小池氏の卒業証書がなぜこれほど問題になるのかわからない。それよりも小保方氏の学位の行方や当方の学位取得の経緯の方が大問題である。当方の学位の経緯については30年前公開された論文にもその痕跡が残っている。
もう30年たったので当方の学位取得における問題を公開したが、小池氏の卒業問題は、当方の学位取得の経緯に比べれば、大した問題ではないと思うのだが。それに、小池氏の卒業は、もう40年以上前の話だ。
週刊誌を読むと4年間在籍していた事実を記者は認めており、卒業証書が怪しい、という内容である。4年間授業を受けられていた様子なども書かれており、それだけで当方などは十分だと思う。
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ウトラッキーにより20世紀末伸長流動装置が開発された。二軸混練機の先に取り付けて使用する仕様になっていたが、生産用として普及していない。
原因はその装置の構造にあり、押出量を増やそうとすると装置が大きくなり、実用的ではなくなるからだ。
この装置はその名前の如く、コンパウンドの伸長流動を促し、ナノオーダーレベルで高次構造の設計が可能だ。
伸長流動装置の発明から10年ほどしてカオス混合装置が開発された。これもウトラッキーの装置同様に二軸混練機の先に取り付ける仕様となっている。
ウトラッキーの装置と異なるのは、伸長流動と剪断流動を発生させる仕組みの段数が2-3段しかないので量産用の装置を設計しても伸長流動装置ほど巨大化しない。
この装置は当方が2005年に発明し、それから15年間半導体ベルト用コンパウンドの量産に使用されているが、パッシブな構造のため故障0の生産用として優れた装置だ。
中国ではこのコピー品が勝手に普及し始めたが、国内の生産用はまだ2社だけである。
テスト機用も当初高価だったため、見積書を提出しても販売に結びつかなかったが、加工賃の安い中国の金型メーカーを見つけたので一気に見積価格を下げることができた。
条件は付くが、仕様さえ合えばテスト機用のTダイよりも安価である。ご興味のあるかたは弊社へお問い合わせください。
もし中国のコンパウンドメーカーに市場を奪われた国内のコンパウンドメーカーがあれば、サービスしたいと思っている。
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混練技術についてシミュレーションが可能と誤解されてる人は多い。また、そのためのソフトウェアーも市販されているために、その成果に期待し購入後失望するケースもある。
当方も2005年の時に混練技術のシミュレーションを試みたが、シミュレーション結果は役立たなかった。おそらく今でも同様の状況だと思う。
結局混練の経験を積まない限りこの分野の技術を理解することができない。そんな状況を少しでも改善したいと思いまとめたのがこの著書である。アマゾンでは消費税込みで5000円以上の価格がついているが、弊社へお申し込みいただければ、ただいまサービス価格でご提供中です。
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ポアソン比とは、1800年代に活躍した、シメオン・ドニ・ポアソンという物理学者が見出した物性値である。
一般に材料は、引っ張ると荷重方向(歪a)と荷重に垂直方向(歪b)で変形が生じる。この時b/aをポアソン比と言い、0から0.5の範囲となる。
ポアソン比が0に近い物質とは、応力と垂直方向において伸び縮みしない物質で、例えばコルクのような多孔質の物質である。
一般の材料は、0.2から0.4の範囲に収まり、多くは0.3前後であるが、体積一定の変形が可能なゴムの場合には、0.4から0.5となる。
金曜日夜あるいは、土曜日朝放送された「チコちゃんに叱られる」では、アカデミアの先生がビーカーとメスシリンダーに水を入れて見せて、ゴムの体積一定の変化をうまく説明していた。
昨日朝も同じ番組を見ていて、アカデミアの先生が実験して見せてくれた部分に触れないのも失礼かと忖度し、本日取り上げてみた。
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昨日本欄でゴムのことを少し書いたら、NHK夜の番組で、ゴムを引っ張ると縮むのは何故、という質問が出た。
その時のアカデミアの先生の説明では、水のようだから、というのが解になっていたが、もう一言「お手々つないだ」水のようだから、としてほしかった。
なぜなら、未加硫ゴムを引っ張れば、ズルズルと伸びて変形したままになるからだ。昨日書いたように、ゴムは加硫することで一般に感じているゴム弾性を示すようになる。
もちろん未加硫ゴムでも微小変形において弾性を示すが、昨日の質問は大変形時の弾性について答えるべきだったと思う。
ゴムはアカデミアの先生が説明されたように室温では各原子が自由に振動し動いているが、引っ張られると各原子がつながっているためにその自由度が小さくなる。
この時の気持ちを考えれば自由に戻りたい、と考えるだろう。だから縮む方向へ戻ろうとするので、昨日のアカデミアの先生が茶目っ気たっぷりに引っ張られたときのゴムの気持ちを考えて、と言われたのは、番組へのサービス精神だ。
当方なら恥ずかしくて言えない。なお、このような自由度が束縛される、あるいは場合の数が減少するような変化は、エントロピーで表現されるので、ゴム弾性のことをエントロピー弾性と呼んだりする。
但し、このような説明では昨日の番組で却下されただろう。物事をわかりやすく説明するということは、易しいようで大変難しい。難しいことを難しく説明するのは易しいことである。チコちゃんを見ていると、この年でも気づきに巡り合える。
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タイヤのゴムは、ゴムの高分子を加硫して製造される。加硫を簡単に説明すれば、ゴムの高分子の一部を互いに反応させて網目状にするプロセスである。
ゴムは、加硫してはじめてゴム弾性を示すが、加硫しなければ流動するので用途が限られる。
その昔、ゴムとイオウを混ぜた状態で暖炉の近くに置いていたら、流動性が無くなり硬いゴムとなったので加硫という反応が技術開発された。
昔は、ゴムと言えば加硫ゴムだけだったが、最近は、熱可塑性エラストマーというゴムと樹脂のハーフ高分子もゴムとして普及している。
この熱可塑性エラストマー(TPE)は二軸混練機で製造されるので加硫ゴムよりも安価である。車のワイパーのゴムは、高級車でない限り、TPEが使われている。
そのほかに、シリコーンLIMSから製造されるシリコーンゴムは、大半がスタティックミキサーで混練されており、プロセスコストは安い。
シリコーンゴムについて、昔は加硫ゴムだけだったので高級品以外使用されていなかったが、最近はシリコーンLIMSの普及でゲーム機のカバーなどにも使われるようになった。
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