PETは結晶化速度が遅いので、そのままで射出成型が難しい樹脂である。ゆえに押出成形やブロー成型用樹脂として多く使用されてきた。PETを射出成型して良好な成形体を製造するためには、結晶化を促進する添加剤(核剤)を用いる。
核剤を添加したPETは結晶化速度が速くなるので、射出成型が容易になるが、それでもPCのように表面が良好な成形体を得るためには、特定の狭い領域の成形条件を選択することになる。
スパイラルフローなどを用いて成形条件を求めても、外観が良好な大物の射出成型はそれなりの工夫が必要になる。すなわち核剤を用いても金型内を流動している間に結晶化速度がばらつき、表面状態がきれいにならないのだ。
このPETにカオス混合を用いてある高分子を相溶させると結晶化度が少し下がるが、表面が良好な成形体が得られるようになる。しかも射出成型のOWも広くなり、PCと比較してもそん色のない成形性を示す。
すなわちポリマーアロイとして変性すると結晶化速度が変わるだけでなく、レオロジー特性も変化する。結晶化を促進する核剤の添加では溶融結晶化温度で急激に結晶化が起きるが、ポリマーアロイにすると溶融結晶化温度は大きく変化せず、結晶化速度はPETよりもほどよく加速され射出成型しやすいレオロジーカーブを描くようになる。
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PETは結晶化速度が遅いので、そのままでは射出成型が難しい樹脂である。ゆえに押出成形やブロー成型用樹脂として多く使用されてきた。PETを射出成型して良好な成形体とするためには、結晶化を促進する添加剤(核剤)を用いる。
核剤を添加したPETは、結晶化速度が速くなるので、射出成型が容易になるが、PCのように表面が良好な成形体を得るためには、特定の狭い領域の成形条件を選択することになる。
スパイラルフローなどを用いて成形条件を求めても大物の射出成型はそれなりの工夫が必要になる。すなわち核剤を用いても金型内を流動している間に結晶化速度がばらつき、表面状態がきれいにならない。
このPETにカオス混合を用いてある高分子を相溶させると結晶化度が少し下がるが、表面が良好な成形体が得られるようになる。しかも射出成型のOWも広くなり、PCと比較してもそん色のない成形性を示す。
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PPSの結晶化速度は、想像していたよりも早かった。GPCによる分子量分布はいびつな形をしていた。PETで見慣れた分布ではない。
PPSには、大別すると古くから開発されている架橋タイプと呼ばれる部分的に酸素で架橋された構造のPPSと、リニアタイプと呼ばれる構造のPPSが存在する。
前者の分子量は後者よりも低いため、押出成形に用いることができないと書かれていたりするが、ブツを気にしなければフィルム化も一応できる銘柄が存在する。押出成形に適した材料は後者で前者よりも分子量が高いと言われている。
東ソーは前者だけを製造し、その品ぞろえには定評があるので、架橋タイプを検討したいときには便利な会社である。クレハは後者だけを製造しており、ポリプラスチックスから販売されている。DIC、東レの2社は両者を製造しているが、このようにPPSの市場は寡占状態に近く高値で価格が維持されている。
興味深いのは、リニアタイプと称されれているPPSを押出成形してみると、成形条件やブツの発生の仕方が各社の製品で異なっている。どのように異なっているのかは書きにくいが、恐らく合成方法や条件が異なるためだろう。
よくいわれるように高分子は製造の履歴が反映される困った材料である。氏素性の優れたPPSが、必ずしも良いわけではないが、市場の占有率はこの10年、ほとんど動いていない。
このあたりは、汎用樹脂であるPETと大きく異なるところである。ただし、カオス混合により6ナイロンやその他を相溶するとその差は小さくなる。PPSは少し個性の強いエンプラでありCDも含めPPSにご興味のある方はお問い合わせください。
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PPSとPETの違いはブツの量だけではなかった。PPSの結晶成長速度がものすごく早いのだ。ダイから出てきた溶融物をサイジングダイで冷却しているのだが、金属音が鳴り響いている。
すなわち冷却していても球晶が大きくなっている。だからプロセス条件が異なるとベルトの靱性が大きく変動する。
例えば材料の靱性を測定するのにMIT試験をおこなうと1000未満から3000程度までばらつく。これを3000程度になるよう工程管理を行うのだがこれが大変な作業である。
ところでMIT試験とはフィルムを繰り返し折り曲げそれが切断したときの回数をそのまま採用し、靱性の尺度とする試験である。靱性の高いフィルムでは10000回を超える。
3000前後は動的部品にかろうじてベルトとして使用できる値だった。2000前後になると動的部品として使用できないレベルとなる。すなわちぎりぎりの規格値で試作されていた。
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PPSとPETの違いはブツの量だけではなかった。PPSの結晶成長速度がものすごく早いのだ。ダイから出てきた融体をサイジングダイで冷却しているのだが、金属音が鳴り響いている。
すなわち急冷していても球晶が成長している。だからプロセス条件が少し変わるとベルトの靱性が大きく変動する。
例えば材料の靱性を測定するのにMIT試験をおこなうのだが、この値が1000未満から3000程度までばらつく。これを3000程度になるよう工程管理しており、大変な作業だった。
ところでMIT試験とは、フィルムを繰り返し折り曲げてそれが切断したときの回数をそのまま靱性の尺度とする試験である。靱性の高いPETフィルムでは10000回を超える。
3000前後は動的部品にかろうじて使用できる値だった。2000前後になると動的部品として使用できないレベルとなる。すなわちぎりぎりの規格値で試作されていた。
このようにPPSは脆い材料として知られたエンジニアリングプラスチックであるが、フィラーと複合化させた射出成形体が主たる用途だった。その材料を電子写真用ベルトとして写真会社が初めて実用化している。
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前任者に誘われPPSベルトが押し出されている光景を眺め、ブツが多いのに驚いた。前任者はブツが問題ではないといったが、当方にとって表面性の悪いベルトはその用途を考えると大問題だと伝えた。
前任者は形状矯正でブツを修正できるから大丈夫だという。しかし、当方はコストも考え、押出成形されたベルトをそのまま使えるプロセスにすべきだと前任者にアドバイスをしたら、当方が担当しそれを実現してください、と言われた。
このような会話が幾つかなされ、いくつかアドバイスしたことが原因で当方が担当しなければいけなくなった。技術課題がたくさんあるにもかかわらず、その完成納期が半年後という難易度の高さに惹かれたのかもしれないが、とにかく引き受けることにした。
PETフィルムにもブツは出たりするが、PPSのそれはあまりにも多すぎる。中には工程の問題も含まれていたが、ブツの原因を分類したところ、PPSという樹脂の特徴から起因しているブツが多い。
すなわち溶融し押し出されているはずが、未溶融部分が多数残っている、と考えなければ説明のできないブツが多く、L/Dのとてつもなく大きな押出機を用いなければ解決できないのでは、と懸念したりもした。
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写真会社の思い出の一つに、PPSとPETというプロセシングの視点で見つめると性質が大きく異なる樹脂を同時に比較しながら扱った仕事がある。
写真会社では、転職後10年近くPETの成膜とその表面加工を担当していたので、押出成形についてはそれなりに理解しているつもりだった。
しかし、定年直前に担当したPPSの押出成形では、成形温度の違いという単純な問題以外に、プロセスにおけるコンパウンディング技術が成形体の結晶化挙動を制御している重要性に気がついた。
そこで、PET樹脂についてこの視点から改めて見直すために、PPSの押出成形を完成させて製品展開をしていた時に、リサイクルPET樹脂を用いた環境対応射出成形体の開発を企画した。
この時、プロセシングの視点で改めてPETを見直した結果、高分子成形体のプロセシング依存性に潜む「味」を楽しむことができた。
もちろん前任者が当方を頼ってくれた仕事であることと、純粋にPPSという新しい研究テーマを担当できた楽しさもある。
さらに、依頼されたときに現場を見学して、およそ製品化を成功させることなど難しいと思えるぐらいの難易度だったことも、このうれしさと関係している。
しかし、PPSの押出成形がPETと似ているにもかかわらず、できあがりのPPS成形体がPETと著しく異なる挙動を現場で発見した。
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アブラミの指数については均一核形成と不均一核形成で指数が異なる。均一核形成では、三次元的であれば4、二次元的であれば3、一次元的であれば2となる。これが不均一核形成になると、それぞれ3,2,1となる。
しかし、昨日述べたように、高分子の結晶成長において一次核形成過程を無視できない。論文でよくt0.5の条件でアブラミの指数を求めたりしているが、PEなどで議論された結果をみると、結晶成長の20%以下すなわちt0.2とかt0.1あたりで求めたほうがよいように思われる。
無機材料でアブラミの指数を求めると比較的きれいな値が得られるが、高分子では、整数値が得られていない事例が多い。そもそも高分子の融体からの結晶では球晶となるが、この球晶が最初から球晶を目指して結晶成長しているのではなく、一次核形成過程ではラメラ晶となっており、ラメラ晶の表面にできた二次核からさらに結晶成長している場合もあるのだ。
高分子の複雑な球晶の構造を思うときに、安直なアブラミの指数を求めて議論を進めるのは誤解のもとである。またアイデアをつぶす原因になる場合だってある。
例えばPPSの融体は、複雑な挙動を示す。すなわちPPSの混練状態で溶融結晶化温度が2-3℃ずれるだけでなく、その結晶化速度も変化することを確認している。
さらにカオス混合で6ナイロンを7%相溶させたPPSを急冷すると球晶がすぐに現れないので極めて靭性の高いフィルムが得られ、複写機の高速稼働するベルト部品として実用化されている。
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実務では融体からの結晶化に遭遇する場面が多いと思う。そこで見られるのは球晶が大半でラメラ晶は特別な場合である。しかし、結晶成長の初期にはラメラ晶が現れるので球晶との関係がつかみにくい。
ラメラ晶が球晶へ成長するモデルとして
1.ラメラ晶が円板状に成長し、上下方向へ積層して球晶へ成長。
2.ラメラ晶が円錐状に積層化
(1)傾きは一定
(2)円錐の頂点が球晶の中心
などが考えられ、異なる速度式になりそうだ、と想像される。
一方高分子の結晶成長機構が無機材料のそれと大きく異なるのは、このラメラから球晶へ成長する機構以外に、結晶核の形成機構がある。
無機材料では、観察することもできない核の存在を仮定しているが、高分子では分子1本が折れ曲がり塊になっている構造を核として想定している。それはすでにラメラ晶まで成長しているかもしれないが、その段階の核生成について無機材料では極めて速くその後の結晶成長機構が速度式に反映されることになるが、高分子結晶成長モデルではそれなりの速度でこの段階が観察されるようだ。
ようだ、と書いたのは、自分で解析したことがないからだ。実はこの結晶成長モデルについて結晶核の形成機構と結晶成長の二段階に分けて考えるが速度論を議論するときにはあたかも区別しないように扱う当たりが、当方には気持ち悪く感じる部分である。
無機では、結晶の核の存在は仮定するが、それを見ることはできないとし、核が発生するや否や結晶成長が始まるとしているが、高分子では結晶の核の成長過程までも相変化現象としてモニターするような前提となっている。そしてこの段階を一次核形成(primary nucleation)と呼ぶ。
そしてこの一次核上に二次核が形成されてさらに結晶成長が進行するが、一次核については、均一核形成と不均一核形成過程がある。
しかるにアブラミの指数を求める時には、二次核形成過程も含めて全結晶化速度として扱い、その相変化量は、球晶が占める体積の割合に基づく結晶化量Xで近似している。
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無機材料の結晶成長過程は比較的イメージしやすいが、高分子の結晶化過程はいささか不気味である。真夏の夜それをイメージすると少し涼しくなるくらいである。今は値段が高くなってしまい、あまり見ることができないが、昔魚屋の店頭にバケツに入った多数のウナギがこの時期並べてあった。
ウナギはアジなどと同じ扱いだった。3年前中国の海辺町シャントウでも同様の光景を見ることができ、子供の頃を懐かしく思い出した。しかし中国のウナギは頭の形が少し異なっていたので、不気味さは子供の頃よりも増した。
狭いバケツの中に十匹以上のウナギがうごめいている様子は、さながら高分子の融体からの核生成の様子に似ている、といってもこれは当方の勝手な妄想である。教科書にはもう少し美しい物語が描かれている。
すなわち折りたたまれた1本の高分子鎖の塊が核となり、そこへさらに高分子が折りたたまれながら集まり、ラメラへ成長する様子が描かれている。その時ねじれが生じると球晶に成長してゆく。静置された融体からの結晶では球晶ができる。
ポリエチレンの結晶成長はかなりよく研究されており、まさにこのような機構で進んでいるような解析結果を論文で読むことができる。すなわち溶融状態で高分子鎖は自らが運動して折れ曲がることにより自由エネルギーを下げているのだ。たいへんわかりやすい説明である。
しかし、レピュテーションモデルの話を聞くと実際の結晶化は教科書に書いてあるような美しい話ではないだろうと思う。まさにウナギの塊が蠢いて集団の中の自分の居場所を探しているような動きの中で、自分自身で体を折り曲げたほうが安定と思いながら固まってゆく。想像すると不気味で気持ち悪い。
ウナギでは少し短いのでは、と思われる人は大蛇が100匹ほど塊になって蠢いている様子を思い描くと、体の模様の効果もありさらに涼しくなる。マクスウェルの悪魔になって、側鎖基の運動の様子を加えると恐怖になるかもしれない。
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