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2015.05/01 問題解決(1)

企業の研究開発は事業の一シーンでもあることを考慮すると科学的プロセス以外の問題解決プロセスの重要性が見えてくる。仮説を立ててそれに基づく実験を行え、という指示だけでは、仕事は進まない。また、研究成果は企業の重要な将来への投資と考え、大学と同様の研究を行ってみても、事業への貢献はさほど大きくない。

 

さらに、人類に役立つまったく新しい機能の発見は、頻繁に起きているわけではない。例えば、高純度SiCの合成に用いた高分子前駆体の技術は、当時普及し始めていたポリウレタンのリアクティブブレンド技術と同様である。電気粘性流体の増粘防止技術も科学的に書かれた報告書では界面活性剤では不可能と結論が出されていたが、技術ができれば従来の界面活性剤の知識の範囲で説明できる内容であった。報告書はあまりにも科学的に仕事が進められた結果の産物である。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は、コンセプトが新しかっただけで、技術の根幹にある超微粒子への高分子吸着の研究は、同じ頃に行われていた。PPSと6ナイロンの相容や、ポリオレフィンへポリスチレンを相容させた実験の二つが、現代の科学では説明できない現象を含んでいた。

 

32年間の研究開発を思い返してみても科学的にまったく発想が難しいと思われる事例は2点だけである。高純度SiCの開発で体験した不思議な現象を見つけて以来ヒューマンプロセスによる研究開発を心がけてきたが、科学的に説明できない技術はたった二つで、後の事例は技術ができあがってから科学的研究を行ってみると、科学でうまく説明できた。

 

科学で発想できない技術を心がけてきてもそれを実現できたのは32年間に二つ、ということは、科学的プロセスで問題解決していても日常困らない、という常識を支持していることになる。しかし、ヒューマンプロセスには、科学的プロセスには無い問題解決のスピードがある。もし科学的プロセスにこだわるならば、ヒューマンプロセスで問題解決してから、それを科学的プロセスでトレースしてみれば良い。それでも最初からすべてのプロセスを科学的に進めるよりはスピードのある問題解決が可能となる。

 

当方の事例ではうさんくさいかもしれないが、ヤマナカファクター発見プロセスがその事例、と言えばヒューマンプロセスの重要性をご理解いただけるのではないか。そしてあの研究成果はTRIZやUSITを使用していたなら、山中先生が生きている間に成果が出なかった可能性が高い。TRIZやUSITを用いてiPS細胞の発見ができたかもしれないが、そのためには山中先生が申されているように天文学的な膨大な時間が必要だった。

 

注)ヒューマンプロセスについては、www.miragiken.com 

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2015.04/30 科学の重要性(15)

企業のリーダーでTRIZやUSITを普及しようと考えている人がいるなら,今の時代はやめた方が良いとアドバイスしたい。以前にも書いたが、この手法は、旧ソビエト時代に科学的にすべての問題を解く手法として研究された方法である。コンピューターが登場したときに、ロジックで問題解決できるならコンピューターであらゆる問題を解決することが可能、と短絡的に発想して企画された。

 

冷静に考えていただきたい。現代の科学で自然現象がどこまで解明されているのか、ということを。科学ですべてが解明されているならば、TRIZやUSITで、身の回りのすべての問題を解くことが可能になるだろうが、いまだ科学で解明されていない領域が多いので、多くの科学者が失業しないで済んでいる。

 

科学で多くの自然現象が整理され、小さい頃からそれらを学んできた。その目的の一つは、科学的に未解明の現象へチャレンジできる次の世代を育てるためである。すなわち、人類の大半が未解明の科学現象が多く存在することを前提に現代の科学教育を受けている。

 

そのうえ、その未解明な科学現象が、単なる科学的知識だけでは解明できない、と考え、情操教育も含めた芸術分野の教育も義務教育で行っている。さらに知識の習得を確認するテストでは、ヤナマナカファクター発見の原動力になったあみだくじの引き方まで学べる形式が採用されたりしている。

 

自然現象を解明するのに、科学は一つの良い方法であるが、それだけでは不十分らしいことに一部の人は気がつき始めた。そしてイムレラカトシュのように科学の欠陥を指摘する人まで現れている。科学的ロジックの一つの問題として、科学的に説明できない現象が起きた場合に、それがロジックで否定されるという困ったことになる。そこに、新たな科学現象が現れていたとしても、その現象に至る科学的知識が欠落していた場合には、否定証明で否定する人が現れる。

 

現代の科学で解明されている知識だけを使い、導き出される答えとは何か。そこから生まれるのは、科学的で当たり前の結果だけである。そうでない場合には、現代の科学にどこか欠陥があることになる。だからTRIZやUSITで導かれるのは当たり前の結果であり、そのため、この方法を重視しているリーダーは、科学をよく理解した若手から軽蔑される(その逆に、理解していない若手からはうっとうしがられる)。

 

現場でこの方法を強制されてやらされている光景を見てきたが、若い人がかわいそうであった。その手法を使っている途中で答えが見えてきても、最後までまとめろと強制される(パワハラだ!)。科学のプロセスを身につける訓練ならばそれでよいかもしれない。しかし、そのような訓練は小学校時代から十分に受けてきた。若い人が目の前の問題を解くときに、科学的方法以外で行おうとしていたならば、まず、その理由を尋ねるべきである。

 

なぜなら、当人たちは目の前のテーマで解決策が無くて困っている状態だからだ。TRIZやUSITで見つかる答えならば、すでに検討済みの可能性が高い。このような理由で、TRIZやUSITを普及しようという動きがあっても、中間転写ベルトの開発では、それらを使わなかった。使っても解決策は科学的に当たり前の答えしか出ないことが見えていたのと、担当者のモラールダウンを恐れたからだ。

 

さらに前任者のこれまでの努力の結果では、科学的な方策がやり尽くされていた。換言すればにっちもさっちもゆかない状態だった。皮肉になるが、科学の良いところは、方策が無くなると袋小路に入ることだ。そしてその袋小路には、科学で未解明な現象がいっぱい隠されている。

 

イムレラカトシュは、科学で完璧にできる証明法は、否定証明だけだ、と述べている。すなわち「できない」という結論を出すには、科学は大変便利な道具である。科学的なロジックで誰もが納得できる結論を導き出すことができる。袋小路に入ったら科学的方法は重宝する。

 

電気粘性流体の増粘の問題では、界面活性剤で問題解決できないという完璧な報告書ができていた。中間転写ベルト開発において前任者に優れたところがあるとしたならば、自分でこれはできない、と言わなかったことだ。周囲のだれもが科学的にできないと見ていても、きっと誰かができるという希望を持っていたことだ。

 

中間転写ベルトのテーマを引き継いだときの状況はこうだった。だから躊躇無くヒューマンプロセスで取り組むことにした。そして、ヒューマンプロセスの成果で得られた周方向の抵抗が安定したベルトが完成したときに、それを作る方法ではなく、できあがった製品について科学的証明を行った。作る方法である「あやしい」プロセスについては、科学的品質管理方法で説明した。

 

短期間に「あやしい」新技術(これは決して怪しくない。昨年6月に高分子学会から招待講演者として呼ばれて講演している)を開発したが、これらの科学的説明で周囲は納得し、コンパウンドの内製化のため8000万円を予算外で投資した。ここに科学の重要性がある。ヒューマンプロセスについてはwww.miragiken.com をご覧ください。

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2015.04/29 科学の重要性(14)

故ウトラッキーが20世紀末にEFM(The extensional flow mixer)を発明したが、あまり普及していないようだ。この装置は、細く鋭利なスリットで伸張流動を発生させ、高分子のナノオーダーレベルのブレンドを可能にする。欠点は流動抵抗が大きく生産性が悪い点である。

 

彼は伸張流動に着目したが、カオス混合のような急速に長く引き延ばす特殊な伸張流動までには思いが至らなかったようだ。科学者と技術者の違いかもしれない。この装置の面白い点は二軸混練機の先に取り付けて使用するパッシブな装置であることだ。

 

EFMでは無数のスリットのため吐出量を増やそうとすると大型設計しなければいけない。しかし、二軸混練機の先に取り付けるアイデアは秀逸で、このアイデアのマネをした装置を作ってみることにした。

 

但し、スリットを平行平面にして急速な引き延ばしの流動が発生するようにした。もしカオス混合というものが指導社員の言われたように効率の良いものであれば、三段程度でも混練は進行するはずである。

 

科学的に設計されたEFMを参考に30年前の妄想技術を作ってみたら驚くような結果が出た。PPSと6ナイロンを二軸混練し、この装置に流してみたら透明になって吐出されたのだ。それもPPS単独よりも透明度が高いので驚いた。

 

フローリーハギンズの理論では相容しないはずのPPSと6ナイロンが相容したのである。科学を技術が追い越した瞬間である。この技術には科学で証明されていない新しい現象が起きているはずで、それがなんであるのか科学的に説明しようと、今、努力している。

 

科学の良いところは、科学の成果を集めてきて、それらと比較しながら検証できる点である。科学論文の捏造が厳しく弾劾されるのは、成果の再利用が不可能になるからである。

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2015.04/28 科学の重要性(13)

急速に引き延ばされた流れが瞬時に折りたたまれて、カオス混合は進行する。ロール混練ではこれが起きている、と指導社員は教えてくれた。当時この指導社員の話を妄想という人が多かったが、当方は30年間信じていた。

 

この指導社員は、ダッシュポットとバネのレオロジーモデルを電卓で計算している人だった。ばりばりの理論肌の人で、時々妄想のような話をする面白い人だった。ただその妄想は技術の話で、科学の話ではなかった。しかし妄想よりもすごかったのは、ダッシュポットとバネのモデルは無くなるだろうという予測であった。

 

そしてこの予測は21世紀の現在当たっているが、少なくとも当時科学と思われていたその手法が廃れることを指導社員以外から聞いたことはなかった。ゴム会社の顧問を務めていた狸に似た京都大学の大教授は、ゴムの架橋モデルをその手法で説明し悦に入っていたし、学会でもその手法開発がレオロジーという学問の重要な研究対象であった。

 

指導社員をよく知らない人ならば彼を変な人ぐらいにしか見えなかったかもしれないが、身近で見ていた弟子の立場では、妄想は未来予測に聞こえた。だからカオス混合の技術アイデアも30年後に実用化することができた。

 

技術に問題があるとするならば、科学のようにうまく伝承できないことだろう。科学でまとめられた事柄ならば、たとえ次の時代にそれが真実でなかったことがわかっても、その時代にうまく伝承される。

 

そして伝承された後、もし真実でないことがわかったならば、但し書きがつけられて次の世代に伝承される。科学では常にその真実が検証されながら進歩している点が重要である。そして技術について、いつの時代でも科学で説明するように努力しなければいけない。

 

技術の説明者はその技術を開発した人でなくてもよいから科学で記述し、次の世代へ伝承しなければいけない。科学で記述されなかった技術は、伝承されないだけでなく、緻密な特許戦略を立案することが難しいので、他社に権利を侵害されるかもしれない。写真会社でその現実を目の当たりにした。科学の重要性が力説されなければいけないのは、この点であり、問題解決のプロセスでは、科学にとらわれず自由にヒューマンプロセスを実践するのが良いのではないか。

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2015.04/27 科学の重要性(12)

PPSとナイロンの相容については、東工大の扇澤教授が面白い研究をされていた。この先生のご研究は多岐にわたっているが実務に直結したテーマをうまく選ばれており、助手の時代からその研究内容に注目してきた。

 

特許にはうまく再現できない事例が多いが、科学の世界の論文は真理を追究しているので再現性を期待できる。この理由で、彼の科学論文に書かれた実験も信頼でき、その中の一つの実験、4,6ナイロンとPPSの相溶現象をその場観察する実験から得られる考察は正しいはずである。

 

さっそく先生にこのご研究の話を伺いに行ったら、χが小さいんでこの実験を行った、と言われた。そして4,6ナイロンではうまくいくが、χの大きい6ナイロンではうまくいかない、とも言われた。

 

すなわちPPSと6ナイロンは科学の世界では相溶しないことになっていることを確信し、これを相溶させる技術を退職前に実現しようと決心した。もしこれが成功すれば、技術が科学を追い越した事例になる。

 

ゴム会社の新入社員時代に指導社員が教えてくれた究極のカオス混合技術を開発することにした。また、これは指導社員が当方に出してくれた宿題でもある。指導社員の話が正しければ、そもそも究極の混練は高分子の分子レベルまで作用し進行するので、χが大きくても相溶現象は生じるはずである。

 

中間転写ベルトの開発を始めた頃、指導社員の母校である京大からカオス混合のシミュレーション結果が発表された。偏芯二重円筒でモデル的に生成するカオス混合をシミュレーションしたものだが、それが大きなヒントになった。

 

科学の成果は真理であり、その真理を基に思い描いて生まれた技術は、例え科学的な証明が難しくても実現できるはずだ。また、そこに科学の重要性があるとともに新しい技術の科学的ではない生み出し方がある。(www.miragiken.com をご覧ください。)

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2015.04/26 黒田投手と藤浪投手

広島ー阪神戦で一触即発の大乱闘になるところだったらしい。ゲームを見ていないので状況は不明だが、黒田投手の対応に賛否両論がある。11-3で広島が勝ったこのゲームで何があったのかは、新聞記事を読んでいただきたい。

 

大切な点は、ベテランがその現場で19歳の若者を叱っている点である。掛布氏は、これを大人げない、と表現し、他の評論家は指導と評価しているところだ。プロ野球のようなショーで大人げない怒りは、面白さでもある。但しそれも頻繁になれば面白くなくなるが、ニュースを読む限り、黒田投手の行動には冷静さが残っていたようなので、掛布氏の評論は、阪神びいきに思われる。

 

ところで、ベテランが現場で若者を真剣に指導していた時に危険作業に遭遇したらどうするか。やはり黒田投手のように真剣に叱るのが正しい、と思ってきたが、今はパワーハラスメントとして捉えられる時代である。

 

優しく穏やかに指導しなくてはいけない。しかし、危険という二文字を指導する時に、そのような指導でうまく伝わるのだろうか。30年以上前の新入社員時代に、ロール作業はじめいくつかの危険作業が業務で必要だった。いわゆる3K職場で働いていたのだが、厳しい諸先輩のおかげでけがひとつ無く実験ができた。

 

職場の安全は保たれるべきである。しかし、プロ野球に限らず人間の生活する空間には、暗黙の了解による安全対策をとらなければならない環境は多い。パワハラという言葉にひるむことなく、先輩が厳しく注意するのが正しいのではないか。黒田投手は、ピッチャーが、打者となったピッチャーに危険球を投げることが禁じられている暗黙のルールを指導したかった、と思われる。

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2015.04/25 科学の重要性(11)

PPSを用いた中間転写ベルトの設計は、酸化スズゾルのパーコレーション転移を制御した帯電防止技術開発で得られた次の成果を用いた。

 

1.導電性粒子と絶縁性バインダーの組み合わせにおいて、両者に相互作用が無ければ、パーコレーション転移は確率的に生じる。

2.パーコレーション転移後に生成する材料の導電性は、微粒子とバインダーの関係で決まる抵抗が安定に生成する(カーボン粒子を用いた場合には、カーボン粒子の抵抗で変わるが、ほぼ100から10000Ωcmの体積固有抵抗となる。)。

3.導電性粒子間の導電機構はホッピング伝導であり、固く凝集させた場合には、導電性粒子そのものの体積固有抵抗の10倍の状態まで実現できるが凝集力が弱まると100倍前後までその値は変動する。

 

この科学的成果を確認するために、6ナイロンにカーボンを分散させた後それをPPSへ分散し、カーボンが分散しているナイロンのドメインがパーコレーション転移を生じる現象について観察した。

 

科学的成果から予想された体積固有抵抗の中間転写ベルトを押出成形で製造することができた。しかし、ナイロン相のドメインが大きいために、紙のような脆いベルトであり、実用性が無い。

 

6ナイロンの相をPPSに相容させればドメインを小さくできる可能性がある。しかし、6ナイロンとPPSの相容については、フローリーハギンズの理論から導かれる制約があり、このアイデアは科学的に否定される。

 

科学は重要であるが、科学だけに頼っていては、商品としての中間転写ベルトを完成させることができない。科学の成果を活用し、新たな現象を推論する作業は、大学で十分な訓練を受ける。

 

しかし、科学的ではない機能を活用できるようにするプロセスについては、社会に出るまで訓練の機会は無い。STAP細胞の騒動でもこの点の問題が露見したが、あまり注目されなかった。

 

それよりも大学で十分な訓練を受けなかった(されなかった?)未熟さが問題とされた。科学的で説明できない機能を実現するには、技術開発で用いられる問題解決プロセスしかないが、これを訓練する機関が無い。

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2015.04/24 科学の重要性(10)

技術を技術のまま放置していてはその伝承は難しい。技術を科学としてまとめることができれば、時代が過ぎても科学という哲学がある限り、誰でも正しくその技術を実現できる。科学では不変の真理を基に知識を体系化できるからだ。科学の重要性はここにある。

 

特公昭35-6616の技術は、大変優れた透明フィルムの帯電防止技術だったが、科学としてまとめられていなかったので、平成の時代になるまで実用化されなかった。

 

酸化スズの導電性について科学的に解明されていなかったこともあり、結晶性酸化スズが高い導電性を持っている、という奇妙な特許も成立している。科学では真理がすべてであるが、技術では機能を実現できれば、真実がどうであれ許される。

 

透明フィルムの帯電防止技術開発では、高純度SiCの時と同様に可能な限り、科学的に解明することに努めた。パーコレーション転移とインピーダンスの関係についても、福井大学客員教授時代に青木先生のご指導を得て、数値シミュレーションで現象理解に努めた。

 

そしてこの成果は、退職5年前に担当した中間転写ベルトの開発に生かすことができた。中間転写ベルトでは、パーコレーション転移を起こしたドメインをPPSマトリックスに分散し、パーコレーション転移を起こさないようにする技術を開発した。

 

科学の重要性は、真理が体系化されたときに、新たな真理を生み出す効果がある点である。もし体系化された真理から論理的に導き出された仮説が間違いであったなら、科学の体系に間違いが潜んでいることになる。

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2015.04/23 面白いCM

G’s Baseball PartyというトヨタのCMが話題になっているそうだ。いしたにまさき氏のニュースで知った。http://bylines.news.yahoo.co.jp/ishitanimasaki/20150422-00045030/

 

ニュースでは女性の神業的スイングが話題にされていたが、車のCMなのに車が最後に出てくるという演出に感心した。ただこのCMでは、G`sボタンが随所に出てくるので、単なる車のCMではなくG`sというブランドのCMであったことが、最後の車で理解できるという、なかなか手の込んだCMである(注)。

 

G`sというのはトヨタのスポーツカーのブランドで、プリウスなどの一般車をスポーツ車に改良して、そのブランドで販売している。販売戦略的に成功しているのかどうか知らないが、価格が若干高めなので付加価値として一定の利益はあがっているのだろう。

 

トヨタにはレクサスという高級車ブランドがあるが、G`sブランドはおそらく車好きの大衆を狙ったブランドに育てるつもりかもしれない。ところが車好きの大衆にはスバルというブランドがあり、スバリストという言葉もある。最近はマツダも車好きの注目を集めている。

 

しかし、G’s Baseball Partyを見ていると、スバリストとは異なる大衆を狙っているように思われる。初老のおじさんやおばさん(CMの中でけっこうかっこいい)も登場するのである。そして最後のシーンで「車って、スポーツだ」というメッセージが出る。スポーツカーではなく、車そのものがスポーツだと言い切っているのである。あらためてトヨタ車が売れる理由を確認した次第。

 

(注)CM全体ものすごく丁寧に作られている。これだけ手の込んだCMを久しぶりに見た。CGや撮影技法でこりにこったCMではなく、演出で勝負してくるCMはドラマよりも面白い。

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2015.04/22 科学の重要性(9)

超高温熱天秤は、熱源として赤外線イメージ炉とYAGレーザーを用いている。一般のヒーターを用いなかった理由は、サンプルのみを加熱したかったからだ。2000℃まで耐熱性のある材料は限られ、全体を加熱する構造では、安価なアルミナやシリカを用いることができない。ゆえに、試料だけを加熱する構造に設計できれば、アルミナなどを使用できるようになるだけでなく、急速加熱や急速冷却も可能になる。

 

製造された超高温熱天秤の熱源設計は、赤外線イメージ炉で1200℃まで予熱し、その後YAGレーザー光で熱を与える、という構造だった。このような構造で、1秒以内に1800℃まで確実に昇温可能となった。この性能の熱天秤で高純度SiC前駆体炭化物の恒温測定を行ったところ、核生成の律速段階がくっきりと重量減少曲線に現れた。

 

すなわち、高分子前駆体から製造された炭化物では、シリカとカーボンが分子レベルで均一に接触しており、その界面で反応開始の核が発生している。ところが、シリカとカーボンを粉体状態で混合し、同様にこの熱天秤で重量減少曲線を書かせると、この核生成の段階が観察されず、いきなり重量減少が開始し、そのプロファイルは大きく異なったものになる。

 

すなわちシリカとカーボンを粉体で混合した場合には、反応温度において部分的にシリカがカーボンにより還元されてSiOガスがシリカ表面から発生し、この反応が極めて速いために核生成段階が重量減少曲線に現れない。すなわち、高分子前駆体を用いた場合のシリカ還元法は、それまで知られていたシリカ還元法の反応機構と大きく異なることが分かった。

 

これは、昨年起きたSTAP細胞の騒動と同様の驚くべき現象で、シリカ還元法では、中間体にSiOガスの発生があるので、ウィスカーの混入は避けられないと言われていたのが、直接SiC化する反応が現象として発見され、高純度の3C単結晶の粉体を工業的に製造できる可能性が見つかったのである。

 

すぐに論文発表したかったが、会社の許可が当時下りなかった。すなわち、この見つかった現象を機能として実現し、工業生産できるようになってから、と言うことになった。その後、これも特許出願した成果であるが、異形プッシャー炉が納入された。パイロットプラントが稼働し1日10kg超高純度SiCを量産できるようになった。上司から国立T大の先生を紹介され学位論文をまとめ始めた(注)。

 

技術を技術のまま放置していてはその伝承は難しい。技術を科学としてまとめることができれば、時代が過ぎても科学という哲学がある限り、誰でも正しくその技術を実現できる。科学では不変の真実を基に知識を体系化できるからだ。科学の重要性はここにある。

 

(注)奨学金を支払い学位の指導を受けたが、学位論文がまとまった頃、写真会社へ転職したために、以前ここで書いたような科学の世界であるまじき経緯になった。

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