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2014.10/27 技術の伝承(8)

特公昭35-6616の技術は本物だった。しかし特許の権利は切れていた。ただ、この特許のおかげで、ライバル各社が網の目のように出願していた領域に公知領域の穴を開けることができる、と考えた。

 

知財部とプロジェクトを結成し、シミュレーション結果を基に特許出願戦略を作成した。とりあえず実験は産学連携テーマだけ進め、特許出願を中心に業務を進めた。

 

センター長付が主要業務だったので忙しかった。しかし、特許の明細書を書き上げるのは、ゴム会社で高純度SiCの特許出願を行ったときにI次長から指導を受けていたので苦労しなかった。弁理士が仕上げをできる程度に書けば良いので、実施例以外は気楽であった。

 

特許を書きながら疑問がわいてきた。従来技術の事例を書くためにライバル会社の10年分の特許を参考に熟読してみても特公昭35-6616が出てこないのだ。そして20年前の特許には記載されていた非晶と結晶の言葉が消えていることも奇妙に思った。

 

一社について時系列的に公開特許の内容を整理してみたところ、過去には特公昭35-6616が引用されていたが途中から全く引用されていないこと、そして酸化スズについて過去では結晶と非晶の比較が発明の論点だったが途中から論点が一般の金属酸化物で電子伝導性という内容に権利範囲が広げられていることが分かってきた。ただし、いずれの特許も公告時には権利範囲が結晶性酸化スズとなっていた。

 

特許の成立過程を整理してゆくとライバル各社の知財戦略が見えてくる。アメリカの会社は非結晶の五酸化バナジウムを守る戦略を、国内大手はアンチモンドープ酸化スズ結晶を軸に結晶性酸化スズ全てを権利範囲にするような戦略である。

 

この二社の特許出願経緯を整理するとうまく技術の伝承が行われている様子がうかがわれる。さらに国内大手にはこの分野の専任のライターがいるようで、いつも発明者に登場する名前があった。転職した会社ではこの分野を諦めているようにも感じられた。

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2014.10/26 技術の伝承(7)

特公昭35-6616特許について社内の技術者に意見を求めたところ、実施例を実験しても再現しないヘボ技術という評価ばかりであった。また、大した技術ではないから1件出願してそのままになっていたのだろう、という意見もあった。

 

転職して半年後学卒新入社員の中に大学院へ留学したいという希望を持っていた新入社員がいた。しかし、会社にはその様な制度が無かった。会社の近くの大学に相談し、特公昭35-6616に記載された酸化スズゾルの導電性を計測する研究をテーマにして業務の一環として通学させることにした。

 

この産学連携は比較的短期に成果が出た。通学して最初に行った実験で酸化スズゾルが電子伝導性であることや、合成条件で2桁程度導電性が変化する事などわかった。ここまで分かれば十分である。

 

あとはアンダーグラウンドで準備していたパーコレーション転移のシミュレーションプログラムで計算して薄膜を形成したときの導電性をシミュレーションした。アスペクト比の影響なども調べた。

 

シミュレーションの結果から効率良くパーコレーション転移を起こせば膜の力学物性に影響を与えず帯電防止膜ができることを理解できた。

 

さっそく実験をやってみたところ、驚くべきことにインチキ特許と言われた特公昭35-6616が再現性の高い技術で、再現性を高める因子を匠にノウハウとして隠していたことが分かった。すなわちこの特許の発明者は何らかの理由でこの特許を一件しか書くことができなかったのだろうと想像した。

 

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2014.10/25 技術の伝承(6)

窓際になるまで特許の整理やパーコレーション転移のシミュレーションプログラムの作成などソフト業務をアンダーグラウンド業務として行っていた。パーコレーション転移の研究の経緯については後日書くが、特許の整理を行ってみて転職したセンターが全くの新設ではなく、過去に何度もそのような部署が作られていたことが見えてきた。

 

そして特公昭35-6614という一生忘れないであろう特許を見つけた。それは一件だけ小西六工業という写真会社の前身の会社からぽつんと出願されていた。

 

絶縁体の酸化スズがInやSbを添加すると導電性が出ることが発見され、ITO膜が研究され始めたころである。まったく独自の発想で高純度の酸化スズゾルを合成し、その塗布膜が湿度に依存しない電子伝導性を有することを発見し発明を完成していた。

 

この発明の後10年以上酸化スズに関連した特許はこの会社から出願されていないが、他社からはITOや五酸化バナジウムを用いた帯電防止層の研究成果を特許出願する傾向になっていた。

 

すなわち転職した会社では、世界で初めての透明金属酸化物を用いた帯電防止技術の特許出願を行いながらも10年近く放置されていたのである。その間他社は周辺技術の特許出願を行ってきたために転職したときに圧倒的な差がついているような状況になっていた。

 

 

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2014.10/24 技術の伝承(5)

企画のネタの一つにフィルムの帯電防止技術があった。帯電すると品質故障となる写真フィルムには必ず搭載される技術で、研究開発の歴史が長いのに毎年特許が出願されている分野である。当時特許のトレンドは導電性の酸化スズを用いた帯電防止技術であった。

 

しかし、転職した部署ではこの技術に関して開発を諦めていた。ライバルから山のような特許が出願されていたためである。しかし、現像処理後も帯電防止機能が残っていることや帯電防止材が安定なので写真性能に影響を及ぼさない点で将来主流になることは予想された。

 

特許を調べたところ確かに20年間に1000件以上もの関連特許が出願されている。この状況を見ただけでも酸化スズを帯電防止材に用いようとする意欲は無くなる。しかし、各種の帯電防止技術と比較すると最も性能が優れていたので、まったく技術開発を行わないという判断は間違っているように思われた。

 

ところでどうしてこのような一方的な状況になったのかという疑問も出てくる。帯電防止技術について各社の技術を調べたところ、A社とB社は現像処理後も帯電防止性能を有する金属酸化物の永久帯電防止技術を採用していたが、転職した会社とC社はイオン導電性高分子を帯電防止材として使用していた。一部の商品には現像処理前だけ帯電防止性能がある導電性アルミナを用いた技術もあった。

 

面倒ではあったが、大量の特許を整理して各社の動向を知るための技術年表を作成してみた。転職したばかりだったので比較的自由な時間があったが、帰宅時間は窓際になるまでいつも遅くなった。

 

 

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2014.10/23 技術の伝承(4)

転職し最初に配属されたセンターが成果を出さず、短期でリストラされたが、最初の業務がセンター長付主任研究員だったのでセンターの状況を理解し活動していた。マネジメント業務を行いながら、アンダーグラウンドで実験を行うために若手の弟子として願い出たりした。

 

そのとき5つほどテーマ企画のネタを仕込むことができた。いずれのテーマもこのセンターに伝承されているべき技術を前提にした企画である。しかし、基盤技術が無いために、若手のアドバイスに従い実験を行ってもうまくゆかなかったり、実験をしても無駄だというアドバイスだったり、極めつけは他社の特許が大量にあるから実用化できないと言われた。

 

基盤技術が存在しないような部署だったが、T1社やT2社から転職してこられた当方よりも10年以上年配の上司は、だから苦労している、と言われるだけでマネジメント上の対策を何もしていなかった。

 

関係部署から依頼された日々のテーマをトコロテン式にこなしているだけだった。中には他部署の人手として活動しているテーマもあった。他部署がどのような状況か調べてみたら、さすがにこのようなひどいセンターは他にはなく、まともな体制で運営されているように見えた。

 

ある日センター長のアメリカ出張を巡り、センター長と衝突した。時期が悪い上に予算が無い。さらに出張計画そのものが企業の出張として無茶苦茶だった。センター長付の職務をはずされ、転職して1年で窓際になった。

 

このとき窓際の居心地の良さを味わった。自由に仕事ができるのである。ドラッカーの言葉が正しければ貢献さえできれば給料はもらえるはずだ。窓際は窓さえ開ける努力をすれば社内や社外から貢献が見えるはずである。さらにゴム会社を急に辞めたため宙ぶらりんになっていたT大の学位も取得に向けて努力する時間ができた。これは自己実現の活動である。

 

窓際は暗いイメージが伝えられているが、窓際なので本来は明るい場所なのである。明るい場所で思いっきり知識労働者として活動すれば必ず立場は好転するはずだ。このあと20年間に2回窓際になるが、最後は窓を開けて外に飛び出す決断を行い、現在に至っている。

 

ところで、海外出張の手続きは他の管理職により進められたが、経理から案の定ストップがかかり、当方に経理から問い合わせが来た。当方はセンターが赤字の状況を伝えた。海外出張の手続きは経理で業務がストップした。経理の古参の係長がセンター長との衝突の噂を聞き酒で慰めてくれたのだが、元気に振る舞っていたため割り勘になった。

 

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2014.10/22 技術の伝承(3)

写真会社では組織名が刻印された実験ノートが全員に無償配布されていた。そしてそのノートを使い終えると新しい実験ノートが支給されるという習慣だった。さらに組織移動や退職した場合には、刻印された職場に実験ノートを残しておくルールになっていた。

 

STAP細胞では実験ノートを単なるメモがわりに使用している状態が公開されたが、写真会社の実験ノートでは日々上長がチェックする習慣になっていた。すなわち日報も兼ねていたのである。

 

この実験ノートの習慣は研究開発部隊に良い習慣だと思った。しかし、転職して1年半後リストラでこの組織はつぶれ、新しい研究所になったが、実験ノートはその組織で作られず、習慣は途絶えた。

 

転職した部署がつぶれたのでびっくりしたが、新しい上長は転職のいきさつなども知らず、全くの新天地での仕事と同様の状態になった。転職した当時のセンター長は挨拶も無くさっさと退職し、後味の悪い状態となった。新しい上長との引き継ぎもなされていない状態だった。

 

古参の社員に過去の話を伺ったら、この部署はいつもそうだった、とぽつりと語った。これでは技術の伝承などできるわけがない。確かに当方が転職して一年半、この部署ができて3年近く何も成果が出ていない。

 

外から見るとおっとりした会社であったが、実際はゴム会社よりも厳しい会社だった。新組織で受け持った30名のグループについてはゴム会社同様に徹底的に成果主義の体制を組み活動を始めた。

 

実験ノートの代わりに新しいフォーマットの週報を作成し、実験ノートに書かれていた日々のデータを別管理とする様式にした。新しい週報のファーマットは、左上に1週間後のゴールを、右上にはそのゴールをどこまで実現できたかをまとめ、残りはゴールに関する活動報告という形式で、週単位の目標管理を行った。

 

実験ノートを辞めたのは、日々管理で業務がトコロテン方式なっていたのでそれを改めるため。すなわち組織ゴールを各メンバーのゴールまで落とし込み、徹底してゴール実現を目指すためだった。日々のゴールまで落とし込みたかったが、そこまで実行するとメンバーの業務の自由度が無くなる可能性があった。

 

実験ノートについては、会社からの配布が無くなったので、自己責任と自己実現のためのノートとしてグループ内で市販のノートを無料配布することにした。すなわち、週報を会社責任の記録とし、実験ノートは自己責任と自己実現のため、と記録の意味を明確にしたのだ。

 

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2014.10/21 技術の伝承(2)

ラテックスを用いたPETの表面処理技術は、写真会社で技術が磨かれてきた可能性が高い。特許を整理してみても、特殊なラテックスが昔から使われていた。その合成技術にしても生産技術が難しい材料が実用化されていた。

 

当然それらを開発した時の考え方や合成技術のデザイン方法など伝承されていて良いはずなのだが、中堅技術者に質問しても担当が異なるから、という回答しか得られない。現場に入って学ぶしかない、と決心し、あるプロジェクトの若手リーダーにお願いし、部下にして頂いた。

 

現場で実験を行いながらさらに驚いた。物性測定にしても特殊な測定法をルーチンとして実験補助者と称する女性陣に任せ実験を進めている。その実験では測定値だけで無く、測定中の挙動も重要なはずだが、それを観察し記録する習慣すら無い。

 

確かに品質スペックは測定値だけなので、他の情報は不要かもしれない。しかし、計測中の挙動には材料の脆さなどの情報も観察されるので異常があったときにはメモをするのは当然だが、異常が無くともキズの付き具合などはメモっておくと後で役にたつ。

 

若手リーダーに話したところ、どのみち品質規格値を満たさなければ採用されないのだからそれでも良いでしょう、と問題意識が希薄である。製品を現場で管理する立場ならそのような考え方で許されるかもしれないが、研究開発の現場では新しい知見の発見も大切な業務である。

 

最近ではSTAP細胞の騒動で若手研究者が、ハートマークやマンガを実験ノートに書いていたが、肝心の実験に使用したサンプル情報などを残していなかったために騒動になったばかりである。

 

当たり前と思われることでも研究段階で観察されることを記述する習慣の伝承は、技術の伝承の一部である。研究開発業務に携わる場合に大事な習慣である。

 

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2014.10/20 技術の伝承(1)

ゴム会社から写真会社へ転職し、セラミックスの研究開発から高分子材料の研究開発へ大きく担当する職務が変わった。転職先のセンター長は某フィルム会社T1社から10年前に転職された方で、T1社と異なる某フィルム会社T2から転職された方が次期センター長という位置づけでマネージメントを担当されていた。

 

ずぶの素人の当方はただ言われるがままの職務をする毎日であったが、素人目におかしな光景がいくつか気になった。そもそも写真会社に伝承されていた高分子技術は何だったのかよく見えない。

 

PETフィルムの表面処理技術にしても、帯電防止技術にしても、取り上げられていたテーマがおかしかった。その分野の素人なので技術がよく分からなかったのだが、毎日議論されている内容から「問題」は見えてくる。

 

例えば日々の技術の議論が、ただ処方因子を変化させてうまくいっただのいかないだのという内容である。そしてある程度目標物性に近づくと工場実験を行い、またうまくいっただのどうだったかの議論になる。

 

係長クラスの担当者に質問すると昔からやってきたことだから、という答が返ってくる。また写真の乳剤というのは難しい技術だから大きな技術の変更はできない、ともいっていた。

 

すなわち、現在のやり方は過去から伝承された技術だというのである。

 

日々の仕事のやり方はうまく伝承されているのだが、肝心の技術の中身に関してはほとんど伝承されていない。当方が理解したいために技術の中身について質問すると、昔から使われてきたから、というのがお決まりの回答だった。

 

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2014.10/19 テーマ依頼

研究開発では自部門で取り扱えない問題を他部門に依頼するケースや、社内の横断的プロジェクトを組んでいるときにテーマ依頼をするケースが出てくる。このときドラッカーが教えるように「何が問題か」を議論したほうが良い。正しいテーマを依頼していない場合もあるからだ。

 

写真会社に転職したばかりの頃、工場から「工程汚染の改善」というテーマ依頼があり、調べたところ毎年依頼されているテーマだった。担当者から説明を聞いたところ、モグラたたきのような状態になっており、対策をとると問題になっていた物質による汚染は無くなるが、他の汚染が新たに発生している、という状態だった。

 

この問題はフィルムの表面処理工場の現場から見れば「工程汚染の改善」だが、本質的には表面処理技術のレベルが低いことが問題だった。ラテックス下引きと呼ばれる表面処理技術では硬膜剤が必要でその硬膜剤が工程汚染を引き起こしていたのだ。

 

毎年の依頼テーマでは、硬膜剤の変更を行うことがルーチン業務になっており、依頼された物質の汚染を0にする成果が出ていた。しかし、翌年には新たな硬膜剤の汚染対策と言う問題が依頼されていた。

 

この問題では、「硬膜剤を使わないラテックス技術の開発」が正しい問題である。担当者から、「それはできない。あなたは技術を知らないから簡単に言えるのだ」と言われた。先月まで高純度セラミックスの技術開発をやっていたので、担当者の指摘は外れていないが、「何が問題か」考えるのは、素人の方がうまく問題を見つけられるのかもしれない。

 

昔から岡目八目と言う言葉がよく言われるがこのことを言っているのだろう。他部門からのテーマ依頼を検討する時に全く関係ない企画部門のマネージャーも加えて「何が問題か」議論するのが良いかもしれない。正しい問題を解かない限り、正しい答えは出ない。

 

「硬膜剤を使わないラテックス下引き技術」は、若手を抜擢し、T大N先生のご指導を仰ぎながら進め、無事開発できた。N先生のご指導も「何が問題か」を考えるご指導だった。硬膜剤の反応という問題を考えるのではなく、レオロジーで解決するという具合だった。またご相談内容も下引きという問題ではなかった。「何が問題か」という問う作業は本質を問う良い質問である。

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2014.10/18 リーダーシップ

 リーダーシップは天性の素質があれば容易に発揮できる。しかし素質が無くても管理者になったなら求められ、これで悩む人が出てくる。

 

高3の時、「僕は君たちのような優秀な生徒を教える自信が無い」と挨拶された先生がいた。この挨拶には受験を前に不安になるとともに驚かされたが、授業は、挨拶以上に謙虚で、黒板の前で本当に悩んでいるのか、と心配になる時もあった。

 

不思議なことに、この不安を与えるポーズのおかげで授業中に寝ている人や内職をやっている人が皆無であった。皆ハラハラしながらその先生の授業を受講していたのである。

 

受験を控えた時期であったが、その授業で不満を言う生徒はいなかった。先生が一生懸命生徒に教えている、という意欲が十分に伝わってきたからである。

 

誠実と真摯は、ドラッカーに良く出てくる単語で、経営者は後継者を選ぶ時に誠実で真摯な人物を選べ、とある。リーダーシップの素質が無くても管理者になった時に、この数学の先生のように誠実で真摯に実践すれば、部下はついてくる。

 

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