STAP細胞の再現にむけて小保方氏がメンバーに加わってから、再現確認ができたとの報告が無い。200回以上もSTAP細胞を作ることに成功した、と会見で言われていたのでそろそろ再現成功の報告があってもよい頃である。
STAP細胞の有無はともかくその現象も含めて科学的に高度な内容でありながら、そこに一般の関心が集まる、まさに英知を結集しているテーマといえる。当方もお節介ではあるが、問題解決に役立ててもらおうとその生成機構に関係する可能性の高い論文を1ケ月前に提供させて頂いた。
当方が提供させて頂いたのは、細いスリットを通過するときに生じるレオロジー現象について考察された最も新しい論文で、キャピラリーを細胞が通過するSTAP現象を考察するときに必要となる考え方が書かれている。すでに報告されているようにSTAP細胞は細いキャピラリーを通過したときにできる。ただその再現が難しく、小保方氏以外では成功していないので問題が発生しているのである。
2相以上で構成された物質が細いキャピラリーを通過するときに、そこで働く剪断速度により、相界面などの微細領域においてレオロジーに起因する不思議な現象が発生する。例えば当方の発明したカオス混合装置はそこに着目し技術開発を行い、フロリー・ハギンズ理論(注1)に反する結果を8年前に発見してその開発に成功している。
この成果は退職前に元写真会社の子会社の工場でプラントとして実現することができた。そして、そこで生産された材料を使った製品が年間1000億円程度売り上げているとのうれしい話を風の便りに聞いた。科学的に未解明な機能を使った製品を送り出してから大きなトラブルも無くプラントが稼働しているのは、科学と技術の違いを30年間考え続けてきた成果ともいえるのでうれしい。
当時は細い隙間で発生しているレオロジー現象の論文も無く、ただ目の前で起きた現象をすなおに機能として活用してプラントを立ち上げた。研究を行わず技術としての完成を目指した(注2)ので無事成功したのである。この点が重要であり、さらに最近この時の現象を説明できる論文が公開されたので送ったのである。
植物の細胞と人間の細胞は、細胞膜の有無などその構造が異なる。植物ではSTAP現象が観察されるが動物では観察されない、というのがこれまでの科学の常識であった。しかし、STAP現象というものが微細領域のレオロジーが関わる現象ならば、動物の細胞でも起きる可能性がある。ただ、このレオロジー現象については、まだ科学的に不明な点が多い。
材料科学の成果である当方の仕事では送付した論文程度で現象をうまく説明できたが、生科学分野ではさらに精度をあげた実験が必要になってくる。生科学と高分子科学の境界領域の科学が一気に進むことを願って論文を送った。
(注1)ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。
(注2)技術としての完成を目指すために観察記録は重要である。しかし、当時開発期間が1年も無く社内のステージゲートもどきの研究管理に対応するため、実験ノートをつけるやいなや新しい現象をパワーポイントの資料としてまとめる必要があった。
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タイヤには30以上の配合の異なる部材が使用されている。この商品に使用する大半のゴムは、昔からバンバリーでノンプロ練りを行い、ロールでプロ練りを行われてきた。しかし、このプロセスは効率が悪い。最近では、一部のゴムについて二軸混練機による混練が行われているという。
タイヤ以外のゴム製品では、今では圧倒的に二軸混練機によるゴムが多いという。熱可塑性エラストマー(TPE)の普及でゴム製品の多くは射出成形で作られるようになった。さらにゴムを混練しながら架橋する動的架橋技術も進歩し、樹脂と複合化されたTPEの一種TPVも汎用ゴムとして使われるようになった。
かつてバンバリーとロールで混練し、長時間かけて加硫と成形を行うのがゴムのプロセスであったが、1990年以降TPEの普及により、その多くが二軸混練機と射出成形によるプロセスで製造されるゴムに置き換えられた。
バンバリーとロール、そして長時間の加硫工程で製造されるゴムが無くなってしまうのか、という心配(?)はいらない。このプロセスの違いに大きな性能差が生まれるからである。すなわち、いくら動的加硫の技術が進歩してもTPVは、バンバリーとロールで混練された樹脂補強ゴムの物性に勝てない。
新入社員のテーマで樹脂補強ゴムの開発を行ったことをかつてこの欄で書いた。そこも合わせて読んで頂きたいが、耐久疲労試験では、製造プロセスの影響が大きく現れる。すなわち厳しい運動性能が要求される分野では将来もバンバリーとロール混練によるゴムが使用されてゆくと思っている。このようなローテクのゴムの話も未来技術研究所( www.miragiken.com )で扱う予定だが、高分子のプロセシングの問題については、まだ研究すべき事がたくさん残っている。
ところが混練に関して書かれている書物では、分散混合と分配混合で混練は進行し、といかにも混練の技術を簡単にモデル化できそうな書き方がされている。確かに混合はそれで問題解決するかもしれないが、混練の「練り」の部分については、未だ解決されていない部分で、そこを詳しく論じた書物が無い。
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100-500kg/h程度の吐出量の二軸混練機は、中古市場に豊富である。さらに1000万円前後と格安である。但し中国ではこの値段よりも安くて新品が買える。おそらく中古機を購入するよりも中国から輸入した方が安上がりかもしれない。
中古機を購入するときの注意として、その道の専門家に依頼した方が良い。すなわち中古機の値段は水物である。たまたま量産機として手頃なKOBELCOマークの二軸混練機を見つけた。倉庫にあった吐出量が30kg/h前後の混練機と同年代の機械であり、比較的新しかった。しかし、配電盤はホコリをかぶっておりそのまま使用すると危険な状態であった。
業者に試作依頼をしたところ、動作確認はできるが試作はだめだ、と言われた。動作確認のため部下を出張させたが、その動作確認も事前に確認した配電盤の状況から不可能であった。モーター等は壊れていないようで、ジョイント部も含めサビの発生がなく、恐らく問題ないと思われたので価格交渉を行ったところ、2000万円に跳ね上がった。
新品が一億円前後の品物なので2000万円でも安いと思ったが、動作確認もできずに値段が二倍に上がったのである。完全に足下を見られた。一度この場を引き下がり、根津にある中小企業に相談し、交渉してもらった。そしたら3000万円だという。さらにすでにお客さんの予約があるから、3000万円でダメなら売らない、と言われたという。
当方は予約をしていないので、とりあえず購入を諦めかけたが、後日会社へ電話がかかってきた。他のお客さんの引き合いがあるから、早く結論を出せ、と言われた。このような駆け引きはしたくなかったが、もう不要になった、と応えた。1000万円が1ケ月以内に3000万円である。
結局ほとぼりが冷めた頃に、他の業者にお願いしてその機械を見に行ってもらったら買い手がつかずテント倉庫に放置されていたという。そして、二軸混練機と配電盤以外にサイドフィーダーとストランドカッタ-をつけて2000万円と言われたという。
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たまたま倉庫で見つけた小型の二軸混練機のスクリューセグメントは伸張流動が注目される10年以上前の古い設計であった。すなわちニーディングディスクとロータの組み合わせ部分がスクリューに二カ所存在し、剪断混練を行うのにちょうど適したセグメント配置になっていた。
外部のコンパウンドメーカーは伸張流動重視のスクリューセグメントでPPSと6ナイロン、及びカーボンを混練していた。そのためカーボンの凝集粒子は細かくなり、その大きさは不揃いで樹脂の中に分散した高次構造となっていた。特許にも書いたが、同じ組成のコンパウンドを剪断混練すると、大きさの揃ったカーボンの凝集粒子が均一に分散した高次構造の材料ができる。
すなわち公知の説明であるが、剪断流動でカーボンを分散するとその分散粒径はある粒径までしか到達せずナノオーダーレベルまで分散ができないが、伸張流動を行うとフィラーをナノ粒径まで分散できると言われている。だから、2000年以降伸張流動重視の混練の考え方が普及した。外部のコンパウンドメーカーもそのような技術思想でコンパウンドの混練を行っていた。
教科書には伸張流動の分散効率の高さが説明されているが、ことカーボンに関しては剪断流動の効率が高いように思われる。ただし凝集粒子の大きさを小さくできないが、均一の大きさの弱い凝集状態で全体に均一に分散した方が良い結果の得られる場合がある。すなわちパーコレーション転移を制御して10の9乗Ωcmという中途半端な抵抗を実現したい時である。
カーボンの体積固有抵抗は1Ωcm前後なので、そのまま分散制御を行うと、パーコレーション転移が急峻に生じる。しかし、これを弱い凝集体の粒子にして、その粒子の体積固有抵抗が10の4乗Ωcm程度にすると、絶縁体の樹脂に分散し、その複合材料の体積固有抵抗を10の9乗Ωcmでも安定に創り出すことができる。
たまたま使われなくなって倉庫で何年も眠っていた二軸混練機が頭に描いていた理想的な混練機だった。ただしL/Dは40程度なので少し短いのが心配だったが剪断流動の効率の高さで無事目的を達成することができた。さすがKOBELCOマークである。ただ、これでは吐出量が小さいので量産ができない。
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神戸製鋼所が本格的に二軸混練機の開発を始めたのは、Farrel社から技術供与を受けた1970年頃と聞いている。1980年代前半にはL/Dの大きいLCMシリーズを開発している。
このLCMは混練部が3つの領域を持つ3翼の断面のロータ型スクリューで構成されている。最初にフルフライトの送り部、次に順送りと逆送りロータを有する混練部、ロータ部の末端には再び混練部がある。
以上は営業担当から昔受けた説明であるが、神戸製鋼所のロータは、剪断混練を行うときに重要なスクリューセグメントである。世界的ブランドのコペリオンではロータは大きなピッチのスクリューエレメントとして考えられているのか、神戸製鋼のそれと比較すると見劣りがする。
コペリオンでは、ロータよりもニーディングディスクに力を入れているようで、工場にはダブルフライトのニーディングディスクや昔懐かしいおにぎり型の三条ネジのニーディングディスク、およびそれらの特殊型が多数置いてあった。
ロータとニーディングディスクどちらが良いのかは混練物に依存するかもしれないが、神戸製鋼のロータの混練性能は高い。コペリオン社ではダブルフライトニーディングディスクは、チップクリアランスを大きくすることによってディスクチップ間における材料への過度の剪断応力を減少させ、チップ通過量を増大させて均一な混合物を得るように工夫したセグメントである。類似のセグメントに可塑化時における剪断応力のピークを避ける目的で考案されたシングルフライトのニーディングディスクがある。
コペリオン社には神戸製鋼のように特徴あるロータセグメントは無いが、様々な形状のニーディングディスクがあり、これらを組み合わせて樹脂材料の混練に最適なスクリューセグメントを決められるようになっている。ややマニアックな話になったが、この約30年間の二軸混練機の進歩をスクリューセグメントの紹介で示した。スクリューセグメントの考え方は各社各様なのである。
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二軸混練機の世界的なブランドは、おそらくコペリオンだろう。中国の南京にあるコペリオンの工場を見学したが、さすが世界的メーカーと思える工場だったが、神戸製鋼所ほどの感動は無かった。
KOBELCOは高性能高品質の信頼のブランドである。セラミックスのHIP装置からタイヤに使われている大型プレス装置、そして二軸混練機までこの会社で作られる製品は、デザインはともかく性能は世界一だと思う。特にPRする義理は無いが、CIP装置始め二軸混練機までサラリーマン時代にこのブランドの装置を使って成果を出す事ができた当方にとっては、信頼のブランドである。但し高価である。
中間転写ベルトの開発ではPPSと6ナイロンを相溶させる混練技術が必要であった。最初外部のコンパウンドメーカーにアイデアを実行してもらおうと思ったら馬鹿にされた。お客さんを馬鹿にする失礼な会社だけでなく新しい技術の提案を受け入れないので将来の見込み無しと判断して黙って自前開発を行い、高性能コンパウンドを生産できる工場を立ち上げた。そして外部から性能の悪いコンパウンドを購入するのを辞めた。
混練技術の実情を見ると、昨日まで塗布技術をやっていた人間が打ち合わせに出てきて混練技術について講釈をしだしたら、その道30年の技術者はカチンときても仕方がないことだろうと今から思えば同情できる。当方はお客さんという思いがあったので遠慮無く技術アイデアを述べさせてもらったが、ことごとく否定され挙げ句の果て素人は黙っとれ、となった。
その道30年の技術者は、1980年以降の急激に技術が進歩した最前線で戦ってきたのである。もう少し当方がその点をおもんばかって謙虚にお願いをすれば、土日のサービス業務や徹夜する苦労などしなくても済んだ。自業自得であった。
ただ、この苦労も今は楽しい思い出となっている。その思い出の中で、最初に倉庫からKOBELCOマークの小型混練機を見つけ、その中古機と同じシリーズで大型のKTXシリーズを中古市場から部下が探し出してきた感動は、今でも忘れない。豊川には小型のKTX、東京に大型のKTXを置き、黙々と実験を行った。KOBELCO製品を2台も短期にお金をそれほどかけず入手できたのは大変幸福であった。
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混練技術の連載を書くつもりは無かったが、台風情報の台風を見ていたら一軸混練機に見えてきた。そして意外と多い混練機に対する誤解を思い出した。
二軸混練機がかなり昔から存在した、と思っている人が多いが、少なくとも今日のような大容量を混練できる高性能な装置が生まれたのは、1980年以降である。第二次世界大戦以前に存在したのは押出機で混練能力は低い。もし1980年以前の混練機があったならそれでポリマーアロイを混練しようと思わない方が良い。みかけはできても高性能化は難しい。
このあたりを混練技術の奥深さを分かっていない人に理解させるのは難しい。とにかくスクリューが二本ついてて、高分子を二種類投入すれば混ざって出てくる、それだけで安心している人がいる。最先端の混練技術ではナノオーダーの制御までできるのである。また、自由体積の制御もやろうと思えばできる。一応ゴム業界のレベルの混練技術らしき練りができるようになったのは2000年以降である。
2000年頃に国研で高分子精密制御プロジェクトが推進された。終了したときに何も成果が出なかった、という陰口を聞いたが、それはとんでもない誤解である。当方はこのプロジェクトに関わっていなかったが成果報告会を聞きに行っていたから成果を理解できた。
その会場では悪い評判が多かったが、このプロジェクトでは技術者が21世紀の高分子材料開発でやらなければいけない事が具体化された、と思っている。そのような結論は無かったが、成果報告会を聞いていて思った。
批判が多かったのはL/Dの大変大きな二軸混練機を作ったことである。伸張流動を重視したスクリュー設計でナノオーダーまでの制御が可能といわれた(注)。ウトラッキーの伸張流動装置も検討された。また、剪断流動の極限を追究した高速混練機も開発された。
それらは直接産業界に応用されることは無かったが、基礎データあるいは考え方は重要で、2005年に単身赴任して中間転写ベルトの開発を行うときに大変役だった。無駄な研究を行わなくても確実な技術イメージを描くことができた。
(注)伸張流動を活用して分散混合を進めようとすると大変長い二軸混練機が必要なのである。
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高分子の混練技術にはノウハウの部分が多い。セミナー会社や科学情報書籍を発刊している会社からは、その点を考慮し複数の講師によるセミナーや書籍が企画されている。ただそれらは主にハードウェアーからの視点ばかりだ。高分子材料の視点から混練技術を論じている企画は少ない。
その数少ない企画の中で、先月東工大で開催された「14-2 ポリマーフロンティア21」( http://www.spsj.or.jp/entry/annaidetail.asp?kaisaino=943 )は、当方の講演も含めて3件ほど混練に関わる講演があった。恐らく材料側の視点で混練技術を論じた場合には、それが表題から隠れてしまうのかもしれない。
また、高分子材料についても塩ビのように混練技術が無くてもそこそこの混練ができてしまう場合やポリオレフィン系材料のように混練技術の差異がわからないか、あるいは不要の材料から、混練技術がその生産性にも影響を及ぼす複雑なポリマーアロイまで様々なので十把一絡げに高分子材料と混練技術という具合に論じられないのであろう。
特許を見ると稀に混練プロセス条件がクレームに入っている発明が存在する。多くは剪断混練(当方の呼び名であり、業界用語でも学術用語でもない)にかかわる内容である。高分子材料の混練では剪断流動と伸張流動が発生し、この力で混練が進行する。剪断混練とは、剪断流動が主に働くようにシリンダー温度やスクリューセグメントの配置を工夫した混練方法である。
多軸混練機について、その歴史は100年も無く、100年以上というゴムの混練技術に比較して技術蓄積が少ない。ゴムの混練では、今一部のゴムで多軸混練機による混練技術の開発が進められているが、高性能ゴムについてはいまだに、バンバリーとロールの組み合わせによるノンプロ練りとロール混練によるプロ練りの二段階の工程で行われている。混練工程時間も多軸混練機では10分前後で混練が完了するが、タイヤに使われるような高性能ゴムでは短くとも15分以上かけられている。
多くの混練の教科書を見ると、分散混合と分配混合で混練が進む様子が説明されている。ゆえに混練の実際を知らない人は多軸混練機でも問題なく混練が進むと勘違いするが、この高性能ゴムの混練時間の長さを理解すると多軸混練機に対する視点が変わると思う。
当方がお客様のアドバイスを聞いてくれなかったコンパウンドメーカーのおかげで自前の混練プラントを作らねばならなくなったときに最初に考えたのは、この高性能ゴムの混練工程であり、新入社員時代の思い出である。新入社員時代から退職するまでの自分の仕事の見直しをしなければならない、という退職前の仕事として最高に良い仕事に巡り会えた。
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かつて日本には押出機や多軸混練機のメーカーが多数存在した。その何社かは廃業し、現在残っているメーカーは、それなりの特徴のあるメーカーである。根津にある小平製作所はロール専業メーカーとしてスタートし、現在は工作機械や各種プロセス機械も扱っている。
混練プラントを建設するときに建屋の費用以外にどれだけかかるのか。例えば1t/h程度の混練機を用いた場合に2億円前後あるいはそれ以上の見積もりが出てくる。この価格が妥当かどうかの判断力は、各社の生産技術を担当する技術者の力量に依存する。かつて1億円以下で混練プラントを建設した経験から、この世界も水商売だと思った。
信頼性が価格に入っている、とある営業担当が言っていたが、1億円以下でも退職までトラブル無しで稼働していた。1億円以下で担当してくれたのは日本の中小企業だが、他社が倍以上の見積もりを出してくる中、もの凄い根性を見積もり書から感じた。計量フィーダーも手抜きをせず一流品を使用していた。
先日中国の混練機メーカーを見学し、腰が抜けた。日本の1/5以下の価格で二軸混練機が販売されているのである。しかも納期は2-3ケ月とのこと。見学した工場には、完成した二軸混練機がずらっと並んでいた。説明を聞くと、シリンダーやスクリューの加工プロセスが日本のメーカーに比較し劣っていた。HIP処理を行っていないのである。
しかし、溶接部分やその他の加工を見ても中国品質としては丁寧な仕上がりで、その値段の安さが光っていた。500kg/hの吐出量の混練機の価格は、発売されたばかりのレボーグGTS300馬力一台購入できる程度である。スペックを見る限り、ガラス繊維などのフィラーが添加されていないコンパウンドであれば無理なく混練できるのではないだろうか。
スクリューセグメントもフルフライトスクリュー、各種ニーダーローダーからローターまで揃っている。形状や仕上げを見てもPEやPPなどのコンパウンドを問題なく混練できると思われる。そしてその実績もあるとの説明を受けた。日本では見かけたことの無いメーカーだが、欧米の有名な混練機メーカーの技術者がスピンアウトして設立した会社だという。
そしてグループ会社にはフィーダーのメーカーも存在し、この企業グループに頼めば5000万円以下でも新品の混練プラントを作れそうである。驚異的である。中国の技術進歩は二軸混練機にも見ることができ、産業用機械の分野では日本の技術に肉薄してきた。
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単身赴任する前に日本化学会産学交流委員会のシンポジウム委員長を務めていた。委員会の休憩時間に花王の研究所長との雑談でケミカルアタックという言葉は不適切、と聞いた。花王ではケミカルアタックという言葉をケミカルクラックとストレスクラックとして使い分けているとのこと。
射出成形体には成形時の内部応力が蓄積されており、それが化学物質と応力で破壊に至ったときがケミカルクラックで、化学物質が存在しないときにはストレスクラックとのことだった。手元にある「溶解性パラメーター適用事例集」には、溶剤クレイズや溶剤クラック、環境応力割れという言葉が使用されている。
そしてこの言葉の使い分けとして、非晶性プラスチックであるPCやABS樹脂では溶剤クレイズや溶剤クラックという言葉が用いられ、結晶性の樹脂で環境応力割れという言葉が使用されるとある。そして両者をまとめて環境応力割れと称する、と説明されている。
その他、環境応力歪みやケミカルストレスクラックなどもケミカルアタックの現象を称して使用されている。言葉の問題は科学の世界では定義が重要になってくるが、実務の世界では業界によりそれぞれの言葉が存在する。ケミカル製品を提供する立場の花王で、ケミカルアタックという言葉は忌み嫌われる言葉ではないかと想像した。
また自社の製品が使用される環境によっては問題を引き起こすことをパンフレットで説明しているのは企業姿勢として好感を持てる。最もPL法を考慮すればリスク回避の視点でもあるが、パンフレットから伺われる企業の誠実な姿勢にはコンパウンドの責任を成形メーカーに押しつける某企業と雲泥の差がある。
それでは業界用語であるケミカルアタックについて常識としてどのような言葉がよいのか。
例えば特許では、どの言葉が主流なのか調べてみた。特許庁のデータベースで公開特許に
ついてキーワード検索をしてみると以下の結果になった。
ケミカルアタック 37件
ケミカルクラック 10件
ケミカルクラッキング 0件
ストレスクラッキング 58件
環境応力亀裂 192件
環境応力歪み 0件
ケミカルストレスクラック 4件
環境応力亀裂が圧倒的に多いので、ケミカルアタックという現象は学会でも使用される機会が多い環境応力亀裂という言葉が一般的に使用されていると推定される。特許検索では、これらの用語をすべて和集合として検索する必要があるが、当方の経験ではケミカルアタックが金原現象やパーコレーション同様に古くから存在する言葉でなじみ深い。
混合則については最近あまり使われなくなり、力学物性の分野でもパーコレーションが使用されている。ケミカルアタックという言葉はいずれ使われなくなるのか、樹脂メーカーの都合の良い言い訳の言葉として残っていくのかどちらかだろう。
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