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2013.11/22 東京モーターショー2013(2)

モーターショーの一角で「Smart Mobility City 2013」を開催している。未来の自動車社会の提案コーナーだが、新聞等のニュースに登場した事柄以外に目新しい展示物は無い。車が都市と市民を結ぶ、というのがテーマのようだがすでに描いた夢の焼き直しを見ているようだ。

 

年をとったせいかもしれないが、わくわく感の少ないショーである。車の自動運転が全面に出てきて今後開発されるであろう技術を見せるような展示を期待していたが、特許の問題もあるのか、自動運転に関しては話題の中心になっていない。

 

自動車好きにはモーターショーは重要な催し物であるが、自動車も巻き込む大きなイノベーションが社会で起きているときには、それがメインテーマになり、各社そのテーマにちなんだ展示があったが、昨日も書いたように今年はそれがよく見えない。車の自動運転は大きなイノベーションのように思うのだが。

 

その中で燃料電池車の説明に小便小僧を用いて、排出されるのは水だけ、とこの先は説明の必要がないアクションを見せられたのには驚いた。やや***である。かわいい小便小僧ならばまだ良いが、スクリーンも兼ねているので3m以上もある巨大な「小便怪物」である。それが水を排出する前に不気味に目を光らせる。この展示の評価については意見が分かれるかもしれない。

 

自動車にあまり興味が無い当方にとっては、感動が少ないモーターショーだが、部品メーカーの展示に面白い提案が幾つかあった。例えば西館のデンソーのブースである(注)。電気自動車が普及したときの街の様子を展示し、非接触による給電方式などすでに公開された技術以外に全てが電気自動車となったときに生じる問題のソリューションを提案していた。

 

詳細は足を運んで見て頂きたいが、車のエネルギー源をガソリンから電気に置き換えたときに充電時間の問題以外に、様々な問題があり、その解決に幾つか細かいインフラが必要になる。それを模型でうまく説明していた。地味な内容だが、この展示を見に行くだけでも勉強になる。さすが自動車部品大手のデンソーである。社会的使命を心得ている。

 

車好きならスバルのブースが面白い。新車レヴォーグのデザインとそのスペックを見るとすぐに買いたくなるかもしれない。また、エクシーガはクロスオーバーSUVとして置き換わる。そのデザインが運転したくなるかっこよさだ。昔スバルのデザインや内装は今ひとつだったが、最近のスバルは別会社のようだ。

 

(注)デンソーは東館にもブースを構えている。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報

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2013.11/21 東京モーターショー2013(1)

弊社は電子出版社として東京モーターショーのプレス発表に参加した。プレス発表初日は布をかぶっている新車も多い。それぞれプレス発表の時間になるまで隠されているのだ。

 

かつてセラミックスフィーバーの時には、あらゆるメーカーがこぞってセラミックス部品を展示し先進性をアピールしていた。いすゞ自動車は、セラミックスエンジンを搭載し公道を世界で初めて走行したセラミックスアスカを展示していた。環境問題が話題になったときには、環境対応が各社の目玉になっていた。

 

今年は、統一テーマになるような話題がなく、メーカーによりアピールポイントが異なるが、自動車に移動手段以外の付加価値をつけたことや、日本車ではターボチャージャーによる燃費改善や、気筒数を減らして燃費改善を行ったりした欧州車と同じような燃費改善技術の発表があった。ハイブリッド車一色のトヨタのレクサスにもターボ車が登場した。自動走行の話題を期待して参加したのだが自動走行については、大きなテーマにはなっていない。

 

恐らく未来も自動車は移動手段の道具として活用され、無くなることはないだろう。だから移動手段以外の付加価値の提案、というのは納得できるが、各社アイデアが陳腐である。思わず吹き出しそうになったのは、トヨタ自動車の運転者と自動車が対話をしている映像。助手席には誰も乗っていない。

 

確かに独身者が増えているので、一人で車を運転する人が増えるだろう。しかしその寂しさを解消するために車との対話というのはあまりにも悲しい未来のような気がする。お友達のような車というのは人口減少や高齢化、独身の増加という社会現象を考えたときに時代の流れに沿った提案であるが、何か寂しくそして笑える複雑な提案だ。

 

10年以上前には家族の時代、というメッセージを発信していたメーカーがあり、家族のために車を中心に楽しさを提案していた。これにはほほえましさがあったが、一人で運転し、車と対話を行っている映像には、未来に対する夢というよりも暗さがある。助手席にパートナーを乗せて欲しかった。

 

 

カテゴリー : 一般 電子出版

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2013.11/20 ゾルをミセルとして用いたラテックス

高純度SiC前駆体は、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを酸触媒存在下で反応させて均一混合を実現している。有機無機複合材料の合成手法として30年以上前には画期的な方法だった。この30年間に京都大学中條先生や東京理科大阿部先生、郡司先生その他無機高分子研究会に関係されている諸先生方により、様々な有機無機複合材料の新しい合成手法が提案された。

 

分子レベルでハイブリッドにする方法以外に多段湿式法という超微粒子を均一に混合する手法もセラミックス合成において有機無機ハイブリッドと同様の効果があることが見いだされた。すなわち新しいセラミックス材料を合成するときに分子レベルまで均一に分散していなくてもナノオーダーレベルの超微粒子を用いれば同様の効果が得られるらしいことが分かってきた。

 

ここで「らしい」と書いたのは、高純度SiCの反応機構解析を行ったときに、前駆体中にエアロゾルのシリカを混合した場合には、気相反応が少し関与することが観察されたからである。しかし、多少反応機構が変化しても生成するSiCの形態に大きな影響は無かったが、シリカ源としてエアロゾルの割合を増やすと、SiC化の条件によってはウィスカーが生成する場合がある。フェノール樹脂とポリエチルシリケートから合成した場合には、どのようなSiC化の条件でもウィスカーは生成しない。

 

このように前駆体の構造(分子レベルで均一になっているのか、超微粒子で構造を作っているのか)は生成物に多少なりとも影響を与えるが、工業的見地からは経済性が優先される。ナノオーダーの超微粒子でも分子レベルで均一に分散した場合でも生成物に大きな影響が無ければ、経済的に有利な手段が選ばれる。一般に金属アルコキシドの価格は高い。

 

そこで超微粒子を有機化合物と均一に混合する新しい経済的な手法が意味を持ってくる。写真会社に転職してこのような問題意識も有り、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術というアイデアを煮詰めていた。また、セラミックス合成の前駆体以外の用途として、薄膜にセラミックス超微粒子の持つ機能を付与したい場合にもこの方法は有効である。たまたま転職した写真会社でこの技術を実用化しなければならない状況になった。1991年の話である。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.11/19 SiCヒーター

炭化珪素(SiC)は半導体に分類されるが、高純度SiCは絶縁体である。かつてセラミックスフィーバーの時にはベリリアを助剤にして高熱伝導性のICパッケージも製造された。

 

SiCは共有結合性が80%以上なので、助剤無しでは焼結しない。SiCを焼結するときには助剤が必要で、その結果できた焼結体は半導体になる。助剤を工夫すると体積固有抵抗を下げることが可能で、導電性をあげてセラミックスヒーターを設計することができる。

 

セラミックスフィーバーの時に反応焼結SiCで製造されたヒーターが販売されていた。1500℃前後まで空気雰囲気下で使用する電気炉にはこのSiCヒーターが使用されていた。

 

しかし、このヒーターの純度は低く高純度雰囲気が必要な電気炉には使用できない。そこで高純度のSiCヒーターを開発した。SiCはホットプレスを用いれば、ほとんどの元素に助剤作用を見いだすことができる。高純度SiCの純度を活かした焼結には、高純度Siか高純度Cあるいは高純度のジメチルポリシランを助剤として用いることが可能である。

 

Cを助剤にして高純度SiCをホットプレスで緻密化する技術は、高純度SiCが開発されたときにその焼結性確認の手段として実現されていた。高純度SiCを合成するときにカーボンが1%前後過剰になるように前駆体を調整すると、カーボンとSiCが均一に混合された状態で高純度SiCが得られ、これはそのままホットプレスで緻密化できる。

 

さらに合成時にアルミニウムイソプロポキシドを均一分散して得られた粉体は、焼結条件を工夫すれば常圧焼結も可能で、SiCヒ-ターを常圧焼結で製造できた。このAl添加常圧焼結SiCヒーターの面白いところはPTC特性を示したことだ。ただ、その後の研究で中途半端なPTC特性であり、実用性がないことが示された。ゆえに高純度SiCヒーターはフェノール樹脂を助剤に用いてホットプレスで製造されたヒーターだけが実用化されている。この基本特許の権利も消滅した。

 

 

カテゴリー : 電気/電子材料

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2013.11/18 ホスファゼン導電体

ポリアセチレンが発見されるまで、有機半導体の研究は、どこまで導電性が上がるのかが興味の関心だった。「有機半導体」という教科書を購入して間もなくポリアセチレン発見のニュースを聞き、高価な教科書がゴミになった悲しい思い出がある。

 

ホスファゼン導電体の研究は、プロトン導電体として企画された。大学院の修了式を終えた後、残務整理として10日ほどでまとめた。導電体以外に数種類新規のホスファゼン誘導体を合成して楽しんだ。大学の研究生活が楽しくて上京するまで実験していた。

 

ポリアセチレンが発見された後だったので、研究の価値はほとんど無かったが、これが電気粘性流体用絶縁オイルの設計やLiイオン電池の電解質用難燃剤へのアイデアにつながってゆく。この経験から研究というものが時代の流れで大きな価値を失ったとしても納得のゆくまでまとめる必要がある、と学んだ。指導してくださった先生に感謝している。

 

会社を退職して満足な研究環境ではないが、会社で十分にやりきれなかったことについて見直しを進めている。セラミックスから有機高分子まで、タイヤや防振ゴムからSiC半導体や感光体、電子情報機器まで様々な材料や商品の開発を経験した。大学では体験できないことである。企業の研究開発の面白さでもある。

 

ホスファゼン導電体同様に今では研究開発テーマとして価値の無いものもあるが、少しずつまとめてみると、面白いことにそこから未来が見えてくるのである。これは経験者で無ければ理解できないことかもしれないが、一生懸命開発していたときには気がつかなかった技術の新しい応用方法が見えてくるのである。温故知新という言葉が好きだが不易流行という言葉が合っているのかもしれない。

 

技術の営みには不易のものがあり、それが新しい技術を生み出す原動力になるのであろう。ホスファゼン導電体を導電体として見ている限りでは、不易はわからない。しかし、PN環の特殊性は不易のものである。その特殊性は時代のニーズの流れの中で新しい発見も加わりいつの時代にも新素材として生まれ変わる原動力になっている。技術も製品化ではそれが具体化された姿しか見えないが、それを概念として眺めなおすと新しい機能を生み出す手段に見えてくる。

 

本欄ではサラリーマン生活32年間の研究開発生活を中心に書いているが、見えてきた未来について別途HPを立ち上げ未来技術をまとめる企画を検討中。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.11/17 千葉県リサイクル工場の事故

「事故が起こるはずがない施設だった」と社長が謝罪したという。「20年間この作業をしているが事故が起こったことはない。なぜ起きたのかと思う」とも。事故は廃油から不純物を取り除く工程で起きたという。

 

事故原因はまだ明らかにされていないが、可燃性の油を使用しているならば100%事故が起きない、という保証を誰もできない。冒頭の社長の言葉は、福島原発の教訓を学んでいない発言である。

 

ゴム会社に入社し1年目に、実験室のオートクレーブの爆発事故を目撃したため、32年間研究開発に携わり、一番気をつけてきたことは安全対策である。オートクレーブの事故はもの凄い音だった。幸い安全対策が十分されていたので、操作していた女性は腰を抜かした程度だったが、恐怖感から同一業務を担当できなくなった。

 

事故原因は不明だった。ただ、圧力がかかりすぎたときに開くはずの安全弁にはゴムが詰まっていた。それが事故で詰まったのか、以前から詰まっていて機能しなかったために爆発したのか納入業者立ち会いのもと調査を進めても解明できなかった。

 

オートクレーブ中の反応はラジカル反応であり、その制御がうまくゆかなかった時には、爆発する。しかし、責任者は制御した反応条件なのでその可能性は無い、ときっぱり否定したために原因不明となった。ただ、化学をご存じの方は気がつかれたと思われるが、ラジカル反応が暴走したときにはもう手の施しようが無い。ゆえにそのような反応を扱う装置では、二重三重の安全対策が取られなければならない。オートクレーブの爆発事故では、三重の安全対策がとられていたので、音が外に漏れただけで大事故に至らなかった。

 

福島原発では安全対策が不十分だった上に、補助電源車のコネクターが合わない、とか温度センサーの電源が外れていたとか、工場の配管を詳しく知らない技術陣とかお粗末な事態が重なり、現在制御された状態になっていても怪しい事故(注1)が起きている。

 

事故は起きるものである、あるいは人間はミスをするものである、という前提に立った安全対策がされない限り、事故を防ぐことはできない(注2)。すなわち事故が起きても周囲に影響を及ぼすような大惨事に至らない安全対策が本当の安全対策である。

 

ちなみに使用済みの天ぷら油でも自然発火する危険性があることは主婦でも知っている知識である。油の中にラジカルを発生しやすい過酸化物ができるためで、昔は天ぷら油を何度も使用したので、それが原因の火災が何件か毎年起きていた、と聞いている。今回の火災原因の解明はこれからだが、可燃性の油を取り扱い、事故が起こるはずがない、と考えるのは危険である。事故は起きるものである、という前提が重要で、安全な作業職場でも必ずKYTは行われている。

 

(注1)例えば汚染水のタンクを傾斜した土地に設置し、高いタンクから低いところのタンクまで連通管でつなぎ、一番高いタンクだけに1本水位センサーを設置した汚染水漏れ事故は、どのように理解すれば良いのだろうか?汚染水を貯める前に、一番低いタンクから水漏れを起こすであろうことは、高校の物理レベルの知識ですぐに気がつくはずだ。

 

(注2)ボーイング787の二次電池の事故では、電解質は炭化して外に飛び出したが、飛行機には影響を与えていない。GSユアサの技術の賜物であるが、それでもその後さらに二重三重の安全対策に取り組んだと言うから凄い。確かにその後事故は発生していない。

 

 

カテゴリー : 一般

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2013.11/16 SiC基切削チップ

複合材料の設計にタグチメソッドは便利である。また複合材料の設計思想として強相関ソフトマテリアルの考え方はハードマテリアルにも使用できる。この両者の手法は時々材料設計に利用している。

 

25年ほど前にセラミックス製切削チップを企画した。当時SiCで鋳鉄を研磨できないと言われていた。表面にフェロシリコンが生成し摩耗速度が速くなるケミカル摩耗が進行するため、と言われていた。SiCをベースにした切削チップでこの常識にチャレンジした。

 

当時Si-Al-Cの3成分の相図について研究報告が出始めていた。またSi-Ti-Cに関する研究も行われていた。ゆえに情報が出始めたこれらの組成に着目し、プリカーサー法で元素を均一に混合する技術を使用し、S―Ti-Al-Cという新材料の合成を企画した。開発効率を上げるために実験計画法を用いた。ただし、ラテン方格の外側には、荷重を変えた硬度測定で観察される亀裂の幅を変数に割り付けた。

 

タグチメソッドなど知らなかった時代に、タグチメソッドの感度をラテン方格の外側に割り付ける実験計画法を行っていた。これは新入社員時代から開発戦術として統計手法にこだわり続け編み出した方法である。特性値をそのまま割り付けると実験計画法で見いだした条件で最適解が得られないことが多かった。ゆえに研究所では実験計画法が使われなくなったのだが、これをうまく使いこなすことにこだわり続け、相関係数を割り付ける方法を考案した。不思議なことに、この方法で行うとうまく当たるようになったので、愛用戦術の一つになった。

 

TEOSと、Alイソプロポキシド、Tiイソプロポキシド、フェノール樹脂を高速撹拌し前駆体を合成した。ここで、アルコキシドだけ事前に撹拌しておくとフェノール樹脂との反応をマイルドに行う事が可能になる。なぜかという理由は化学の専門であれば考えるとすぐにわかる処方である。SiC化の条件と同様にして、36種類の処方で粉体を合成した。得られた粉体をそのままHPにかけると、99%以上の密度まで全ての処方が焼結した。処方の中には、低温度で液相を生成する場合もあったので、36種の粉体でHPの条件は異なっている。

 

驚くべきことに、硬度計によりつけられた亀裂から求められるK1cが20を越える処方が一つ見つかった。他の処方は、高くてもせいぜい8前後である。ちなみにSiCは2-3と計測される。20以上というのはサーメット製の切削チップと比較しても遜色の無い材料である。電子顕微鏡で組織観察を行うと、大変細かい組織が得られていた。すなわち、焼結過程で液相が生成していてもSiCが異常粒成長を起こしていなかったのだ。

 

この材料で切削チップを作成し、東京都立工業技術試験所で評価して頂いたら、鋳鉄の研磨ができたのである。それを狙って材料設計したのだから当たり前の結果であるが、当時びっくりしたのと感動で、太い鋳鉄が何本も細くなってゆく評価実験を見ながら涙が出てきた。

 

カテゴリー : 高分子

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2013.11/15 化学産業の課題と今後の政策対応の方向

昨日高分子同友会講演会で表題の講演を拝聴した。経済産業省化学課長茂木正氏が化学産業の現状と未来についてまとめられた成果の講演である。現状分析についてうまくまとめられており知識の整理に役立った。

 

このようなうまくまとめられた講演を伺うと、見落としていたところなどが改めてクリアになる。ただ講演者の立場から原発について踏み込んだ内容は当然語られていない。3.11前後で原発政策の見直しが必要になった、という程度である。実は3.11前後で変わったことは多数あり、3.11がサラリーマン最後の日であった当方は身に染みて感じている。

 

小泉氏が脱原発を叫び始めたが、将来の脱原発についてはもう国民の総意ではないだろうか。原発が一度事故を起こせば経済的な損失は計り知れなく、最終処分場の話も含め本当はエネルギー価格が大きな発電方法ではないかと国民は疑っている。ただ、今どうするか、これが議論の分かれるところで、こわごわ脱原発を達成できるまで原発を使うのか、第二の福島が発生したら日本は終わり、と考え原発をやめるのは「今でしょ」、という判断が難しい。

 

しかし、この難しい判断について国会で決められるように明快な指針となる情報を経産省は出すべきと思っている。すくなくともこの判断ができる情報だけでも経産省はまとめる義務がある。

 

化学産業を巡る状況は現在厳しさを増すばかりであるが、経産省がエネルギー自給自足政策の可能性について打ち出せば新しい産業が動き出す下地ができはじめている。すなわちエネルギー自給自足に役立つ産業に対して将来投資を国が行えば、化学産業にもその波及効果が及ぶ。なぜならエネルギー自給自足を推進するためには化学産業が中心にならなくてはいけないからである。

 

仮にこの4-5年発電コストが急激に上昇したとしても20年先にはそのコストが回収される。しかし、民間ではそのような息の長い投資は不可能で国のレベルでやるべきである。今までの産業は原料を海外から輸入して発電し、その発電エネルギーで付加価値を出した製品を作り輸出するのが20年前まで資源の無い日本の有効な戦術であった。付加価値を出した製品を輸出する戦略そのものは今でも有効で、ただ化学産業はその戦略の中で高度成長期に損な役割に置かれていただけである。

 

これは、アッセンブリー企業における材料屋は下請けとなり良い処遇を受けられないという経験から出てきた視点である。例えばPPSと6ナイロンを相容させる技術を開発しても評価されず、それを複写機の部材である中間転写ベルトに仕上げて初めて成果として認められる状況は化学産業とよく似ている。

 

化学産業は素材産業から部材産業へ転換する機能性化学の道をこの20年歩いてきたが、ここへさらに国がエネルギー自給自足政策という方針で投資すれば、化学産業も大きく発展する。エネルギー自給自足が可能か不可能かという議論は無意味で、それを実現しなければ島国日本は生き残れない、と考えている。またそれができる環境と技術の下地がこの2年半の間にできてきたのである。3.11を不幸な出来事のまま終わらせるのではなく、日本のエネルギー政策を大きく舵きるきっかけとして位置づけ、その後の日本が幸せになる、というシナリオを作れるのは経産省である。

 

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報

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2013.11/14 SiO2-C複合粉体

TEOSをフェノール樹脂球に含浸させて熱処理を行うと、シリカが炭素中に傾斜組成で分散した球体を製造することができる。熱処理温度を変えることで、中心部分の炭素の抵抗を制御できる。シリカは表面部分に濃度が高く中心にゆくに従い少なくなる傾斜組成をとっている。この分散の仕方は含浸条件を制御することで自由にデザインできる。すなわち表面を高抵抗にして中心部分を導電体にした、帯電しやすく放電しやすいという矛盾した性質を持った粉体を設計できる。

 

この粉体は電気粘性流体用に開発された材料だが、その技術は昨日書いたC-SiC繊維の技術をそのまま使用している。ゆえにこの粉体を1600℃以上で焼成すれば、表面がSiCの粉体を製造可能である。ところがSiC化まで進行させると、表面の抵抗が10の8乗Ωcm以下まで下がるので電気粘性流体には使用できない。電気粘性流体にこの粉体を利用する場合には、1400℃以上の熱処理を行ってはいけない。

 

この傾斜組成の粉体(これをAとする)の御利益がどのくらいあるのか電気粘性効果で比較したことがある。フェノール樹脂球を炭化した後TEOSで表面処理し、表面だけにシリカを析出させた粉体(これをBとする)、非晶質シリカとフェノール樹脂をメタノール中で混合後スプレードライして製造した、シリカ分散カーボン(これをCとする)について電気粘性効果を評価したところ、A>C>>Bとなった。

 

Cの材料でそこそこの性能が発現しびっくりした。当時のプロジェクトで評価していた粉体と同程度の性能が出た。実験結果を基に考察を進めると、Cでも帯電しやすく放電しやすい性質を持っていることがわかった。

 

二律背反の物性を持った材料を設計するときに、複合材料設計というのは考え方の定石であるが、どのように設計したら良いか、すなわち複合化方法にはどのような方法があるのか可能性のある複合化手段をすべて評価しておく必要がある。この時実際に材料を製造し評価するのが最も良いが、時間とコストの問題がある。その時便利なのがシミュレーションである。どんな場合でも適用できるシミュレーション手法があるのでご興味のある方は問い合わせください。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.11/13 C-SiC繊維

炭素繊維はエジソンの発明だが、東レのPAN系炭素繊維で新素材としての用途が拡大した。ピッチ系炭素繊維や、故矢島先生のジメチルポリシランを前駆体とするSiC繊維など各種無機繊維が登場したが、東レの炭素繊維が最も多く使用されている。コストも下がってきており、自動車用途にも使用されるようになった。

 

SiC繊維が登場した数年後に開発されたC-SiC繊維は、表面がSiCで中心が炭素繊維という傾斜組成の繊維である。炭素繊維をFRMに応用しようとしたときに界面で金属炭化物が生成し脆くなる問題がある。その問題の解決を狙い、約30年ほど前に表面だけSiC相を形成した繊維を開発した。

 

作り方はフェノール樹脂繊維(カイノール)にTEOSを含浸させ、特殊なパターンで熱処理を行い、最後に1600℃以上で焼成する。この最後の温度は2000℃まで上げることが可能で、ポリジメチルシランを前駆体とするSiC繊維を1500℃以上に上げると著しい強度低下が生じる欠点があるのに対し、差別化の特徴となっている。

 

ポリジメチルシランから合成されるSiC繊維が1500℃以上の熱処理で強度低下を生じるのは、繊維を形成していた非晶質SiCが結晶化するためで、結晶化を抑えるためにTiを添加したチラノ繊維が上市されている。しかし、C-SiC繊維は、傾斜組成となっているので、1600℃以上の高温度で熱処理を行ってもSiCが異常粒成長することなく繊維形状を保ち、強度低下はわずかである。

 

面白いのは繊維断面の顕微鏡写真で、CとSiCとの界面が見えない。但し、XMAでSiのマッピングを行う事は可能で、中心までSiは拡散していないことがXMA像でわかった。

 

約30年前に少し研究しただけなのでデータは少ないが、Alを用いたFRMの検討まで行っている。炭素繊維を用いたAl基FRMはAl単体よりも強度は上がる。しかしC-SiC繊維を用いたFRMは、それよりも強度が上がり靱性が著しく高くなる。界面のSiCの効果である。

 

カテゴリー : 高分子

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