子供の頃年末になると大掃除を終えた翌週に餅つきを毎年行う習慣だったのが、小学6年の時に家を改築してから土間が無くなったのでその習慣が消えた。長年使われた石臼は庭で金魚鉢となった。餅つきを年末やらなくなったので米屋から餅を買うことになった。米屋の餅だからおいしいと期待したが家でついた餅よりもまずかった。
米屋には同級生の息子がいたので、餅がまずいとクレームをつけたら、機械で作っているので味が落ちる、我慢しろ、と正直に答えてきた。さらに餅には古米を使わず良心的に新米で作っているから、味は製造方法の違いだ、と言っていた。
実際に当時の名古屋市内の米屋で購入できる餅はどこも練り餅で、臼でついた餅ではなかった。近所の和菓子屋がわざわざ臼でついた餅を倍の値段で販売していた。臼でついた餅と練った餅でどうして味が違うのか不思議だった。
中学に進級したとき同級生が餅米を持ってきたらその餅米で餅を作ってくれる、というので味の違いを確認するために親に頼んで毎年親戚から送ってくる餅米を持って行き餅に加工してもらった。確かに練り餅はまずく、餅の味の違いは製造法の違いであることを確認できた。
当時の餅製造機はバンバリーのような装置でバッチ式であった。練り上がってできた餅は臼でついた餅と同じように見えるが、つきあがった餅を伸ばしてみると伸びが半分ほどしかない。臼でついた餅はよく伸びて、食べているときに困るぐらいであった。しかし練った餅は一応餅ではあるがあまり伸びない。また歯ごたえも微妙に違う。製造法の違いがレオロジーに現れたわけだが、子供の頃大変不思議な現象に思った。
今では同一型番の二軸混練機でも機械が異なると条件を揃えても混練物のレオロジーまで揃えることができず悩んでいる話を聞いたりしているので、臼でついた餅と練った餅で味が異なることなど当たり前に思うようになった。たまに商店街の行事で餅つきがあると正真正銘の臼でついた餅を味わう機会があるが、その味に感動しなくなったのは少し寂しい。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
お正月のテレビ番組はつまらない番組が多いが、お正月の定番として未来について語る番組がどこかにある。また元旦に配達される新聞にも未来の展望という記事が必ずある。この数年は高齢化社会のやや暗い未来に関する話題ばかりだったが、NHKの番組では2020年の社会を取り上げ少し明るい議論をしていた。
2020年には高齢化率が29.1%となり、この社会を支えるためには一人当たりの負担が今よりも年間17万円増え、消費税を12%に上げないと維持できないという。2020年と言えばあと6年後である。サラリーマン初めての単身赴任が2005年でそれからあっという間に8年が過ぎた。PPSと6ナイロンを相溶させた中間転写ベルトが世の中に出てから現在までの時の流れは早かった。
今年は消費税8%に上がるが、やがてそれが12%に。何も改善されなければ恐らく消費税は上がり続けるであろう。しかし、世の中にはすでに高齢化社会に対応する動きが出てきているという。例えば高齢者を積極的に労働力として採用してゆく動きと、高齢者を有望な消費者と見立てその消費活動をターゲットにした商品開発、それから高齢者の一戸建ての自宅を買い上げ、高齢者には便利な都会のマンションに住んでもらい、一戸建てを若い人に分譲し街の若返りを促進する持続的な社会作りなどである。
これらの動きの中で、高齢者を労働力として採用してゆく動きについては知識労働者が増えている現状で難しい側面がある。すなわち現在の労働者が高い目標に向かって自己実現努力をしなければ高齢者になっても働ける職場が限られる、ということである。知識労働の職場は年々新しい知識が要求される変化が起きている。知識労働者は自己実現努力を怠ればすぐに知識社会の動きから置き去りにされる。
現在の知識社会において肉体労働の比率が高い職人という職種が改めて見直されるかもしれない。職人は熟練すればするほど価値が出てくる職業である。科学的知識で武装した職人は技術者である。高学歴の職人が科学的知識を身につける努力をするのか「技」を磨く努力をするのか選択を迫られている時代である。中途半端では生きてゆけない。
カテゴリー : 一般
pagetop
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて、新しい年を迎えますと今年一年をどう過ごすのか概略のアクションプランを考え、それを抱負にまとめ上げる。弊社は設立時に電子出版「電脳書店」を始めたが、集客が悪く1年ほどで閉鎖し、新たな事業企画の練り直しを行ってきました。本年はその新たな事業企画として再度電子出版をスタートさせますが、従来の世間同様の電子出版ではなく、そもそも本とは何であったのか考え直した事業ですので開店をご期待ください。
電脳書店では「中国語5文型」のような音の出る語学書や「高分子のツボ」のようなセミナー形式の書籍など他社と毛色の異なる電子書籍を販売していたのですが、お客が集まらず売り上げを伸ばすことができませんでした。ただ、訪問者に対し購入者比率は高かったので電子出版事業に再チャレンジすることに致しました。
そもそも本の役割とは知識・情報の提供と思想や知恵の醸成にあります。この機能があれば紙媒体である必要がなく電子出版というあらたな事業が生まれました。しかし現在一般に販売されている電子書籍は紙媒体の本をそのまま電子化したものが大半です。一方電子出版事業が出現する前から読書人口の減少から書店の倒産が始まり、現在の書店の数は最盛期の半分になったとも言われています。
少子化の影響とか言われていますが、そもそも本を購入して読む必要性を感じる人たちが減少したことが大きいと思っています。その原因は、インターネットの普及で本を購入する目的の一つであった知識・情報の吸収がパソコンを使いできるようになったからです。いまやインターネットを利用して得られる単なる知識・情報のビッグデータから世の中の情勢や思想まで取り出すことができる時代になりました。すなわちインターネットそのものが本の役割を担うようになってきたのです。
この可能性に早く気がつくべきだった、と反省しまして電脳書店を急遽閉鎖し、新たな時代の「本」という商品を考え直しました。新たな電子書籍を世の中に提供する、これが弊社の今年の抱負です。間もなく開店します。
カテゴリー : 一般 宣伝 電子出版
pagetop
2011年3月11日の福島原発の事故以来日本のエネルギーに関する議論が活発に行われている。福島原発の事故処理費用はじめ公にされてこなかった原発の隠れたコストを考慮すると日本で原発は極めてコストの高い発電方法と言わざるをえない。脱原発の小泉発言が問題になっているが、この髙コストの問題を明確に議論すれば、日本で原発を行う大義が無くなる。
それでは低コストの発電方法は、となると現在のところ安価な天然ガスを用いた火力発電ということになる。これは従来技術の延長で集中発電方式を考慮したときの結論である。もし分散発電という考え方になってくると、現在のガス供給ラインを用いた各家庭における燃料電池発電が最有力と一部で言われている。
今のところ燃料電池の価格も高くこれを各家庭の負担で設置しなければいけないので普及していないが、各家庭で発電された電気の余剰電力を買い取るシステムが結びつけば一気に普及すると思われる。ただこれには法整備の問題があるのでまだ時間がかかるが、分散発電によりインターネットのようにエネルギーのネットワーク化が進んだ社会をスマートグリッド社会という。この小規模分散ネットワーク型システムでは新たなビジネスが誕生する可能性があり、今注目を浴びている。
この詳細は来年議論したいが、スマートグリッド社会では燃料電池以外に太陽電池や各家庭で蓄電するための安価な蓄電池など電池技術が不可欠で、「安価な電池」は今目に見えている重要なコンセプトである。レドックスフロー電池は最も安価な電池と言われているが結構場所をとる。鉛蓄電池がその次に位置している。
鉛蓄電池は自動車用として長年の間に改良されてリサイクルシステムもできあがっており、分散型発電における安価な期待される電池だが、現在のLi二次電池の技術を応用したNa二次電池の技術が東京理科大から3年前発表された。スマートグリッドの世界では安心安全安価な三安電池が不可欠である。
弊社ではスマートグリッド実現に向けすでに調査を開始しており、独自の蓄電池シナリオをすでに技術情報協会の書籍に発表しました。来年も弊社は元気な日本のために頑張りますのでご支援よろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
pagetop
光コンピューターというコンセプトがある。学術書も販売されているので夢物語では無くその分野の研究も行われているのだろう。光ならば7色少なくとも3色使用できるので、電気信号の現在のコンピューターよりも多くの情報を扱えるだけでなくスピードも早くなる。
現在の汎用CPUはシリコーンを基板にして何層も積み重ねて製造されている。ガリウムヒソを基板とする速度の速いCPUも開発されている。またSiCを基板としたCPUも登場した。特にSiC製のCPUは耐熱性や熱伝導性の観点で注目されている。CPUではないが、SiC製パワートランジスターは高級ステレオアンプにも使用されているので20年後までには汎用CPUとしてSiCウェハーを用いたコンピューターが登場するであろう。
電気信号のCPU材料についてはかなりのシナリオを描ける状態で、それゆえすでにCPUの速度限界も議論され始めている。しかし光コンピューターの材料シナリオは見えていない。また光コンピューターにおいてメモリーをどのように設計するのか、という見通しも十分に得られていない。光コンピューターで演算を行うためにはメモリー機能が不可欠で長時間どのように光を閉じ込めるのか議論されている。
未来のコンピューターについて話題を拾ってみると20年後に実用化されているコンピューター技術のおおよその姿は見えてくる。すなわちSiCウェハーの大型化に成功すればSiで問題となる発熱温度の上限が高くなり、今よりも高速駆動可能なコンピューターが登場する。SiCウェハーの大型化技術はほぼ見えてきており20年後の技術として実現可能性が高い夢である。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
pagetop
機能性低分子材料のコンピューターによる材料設計は、40年前コーリーらが逆合成のコンセプトで分子の合成ロジックを完成し、コンピューター上で効率的な合成ルートを評価したことに始まる。そして現代ではパーソナルコンピューターでその機能をシミュレーション可能なレベルまで到達している。
また、無機材料も固体物理の進歩によりコンピューターでその機能をシミュレーション可能なレベルに到達している。しかし、高分子については10年ほど前に元東大教授土井先生らのOCTAが完成したが、現在シミュレーターのテスト段階という状況である。
テスト段階であるが、例えばSUSHIのように現実系に適用できるシミュレーターもできている。ポリマーアロイの材料設計についてはSUSHIと経験知を併用するとコンピューター上である程度の実験が可能となる。OCTAが機能性低分子材料の設計のように使われるまでまだまだ時間がかかりそうであるが、原因は高分子物理の遅れにある。
高分子物理については、元東大教授西先生らのグループが地道に行っている分子1本のレオロジーの研究が重要である。レオロジーについては40年前の状況と現在では大きく変わったにもかかわらず、その変化が産業界に十分認知されていないように思う。
昔はあるスケールの大きさで高分子を眺め、計測されたレオロジーデータから高分子物性を議論していたのが、現在は分子一本から観測されるレオロジーデータを考察し高分子物性を議論しようとしている。この実験は気の遠くなるような実験で一つのデータを見る限り遊んでいるようにしか見えない問題がある。
しかし、このデータが必要な実務の現場が多数あるはずで、産業界はもっとこの研究に注目し、現場の情報を提供すべきであろう。実務の現場で得られたデータとこの研究が結びついたときに分子1本からメソフェーズ領域、そして目視可能なマクロ領域まで高分子物性の理解が連続的に進む。その結果高分子の材料設計がモノマーから自由に可能となる。
このコンセプトをある程度コンピューター上で実現しようとしたのがOCTAのように思われる。ここで「思われる」としたのは門外漢としてOCTAを眺めてきたからである。しかし退職後OCTAを勉強してみると高分子物理の向かうべき方向が示されていると考えるようになった。すなわちコンピューターのプログラムがあたかも高分子物理の哲学のようでもある。細部のプログラムを理解できていないのでオペレーションからの推定になるが、土井先生がOCTAで目指されたのは高分子材料設計における設計図の概念かもしれない。
(注)OCTAは名古屋で生まれたので名古屋の市のマーク「丸八」(布団屋ではない)から由来している。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
昔タイヤがそのまま自動車になった乗り物が登場する手塚治虫のマンガがあった。タイトルは忘れたが斬新な発想である。今年のモータ-ショーにはその様な車は出ていなかったが、それでも未来感覚の車の提案が幾つかあった。
今から20年後の自動車はどのようになっているだろうか。自動運転の車が注目を集めているが、おそらく実用化されていると思われる。しかし、これはまだ車のカテゴリーの自動車だ。
今から30年ほど前のモーターショ-にいすゞ自動車のセラミックアスカが実際に路上を走ったコンセプトカーとして展示されていたが、コストと信頼性を克服できず夢に終わった。しかし、トヨタブースの目立たないところに展示されていたエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車は実用化された。もっとも当時のハイブリッド車は、ガスタービンとの組み合わせで、ガスタービンのエネルギー効率を上げる目的のため電気モーターとのハイブリッド設計になった。
当時のムーンライト計画では断熱セラミックスガスタービンが開発目標になっていた。ガスタービンエンジンはレシプロエンジンと異なり、高回転域の運転を得意とするエンジンである。そのかわり回転数を大きく変化させて使用するには不向きのエンジンだ。それでもセラミックスフィーバーの10年前の少年漫画には夢の車のエンジンとしてガスタービン車が描かれ、あの有名なバットマンの愛用車もガスタービンエンジンだった。
20年後の車を夢見るときに従来の延長線上で想像を膨らませても陳腐な予想しかできないだろう。思い切った発想でパラダイムシフトしたアイデアを生み出す必要がある。例えば日本は4人に一人が老人という社会になるので、老人に優しい車というコンセプトは未来に不可欠だと思う。痴呆症の老人が一人で乗っても安全な車、という難しい問題を考えれば良いアイデアが出てくるかもしれない。
またこれも従来の延長の発想では出てこないと思われるが、省エネから創エネの車というコンセプトも重要だ。すなわちエネルギーを生み出す車である。東京から名古屋まで車を走らせたら、帰りに必要なエネルギーが生み出されるような車という発想が重要になってくるのではないか。
単なる燃費を二倍にするのではなく、減速エネルギーの回生システム以外に風力発電や太陽電池も含め走っている間に発電されたエネルギーを蓄電するのである。エネルギー保存則から否定されるから100%は無理にしても使用したエネルギーに対し70%以上を目標にすることは可能なはずだ。
自動運転が可能になっているならば、車の中で事務が可能となる移動オフィス車も登場するだろう。そもそも居眠り運転の罰則規定も無くなるかもしれない。20年後の社会では生産性を今よりも上げなければならないから、車の中で事務をやるよりも安眠できる車が良いかもしれない。
今年もあとわずかになったが、今年一年を振り返ってみると未来への夢を語るきっかけとなるアイテムがたくさん登場した年である。アジアの動きも最悪の日韓関係に見られるように、真剣に明るい未来シナリオアジア版を考えなければいけない状況になった。
また、東京オリンピック招致運動はおもてなしで盛り上がったがとんでもない事件でつまづき次回のオリンピックに都知事がゲストで出席できない事態である。このように一寸先は闇だが来年は明るい未来を考えられる電子出版の新形態をスタートする。ご期待ください。
カテゴリー : 一般 宣伝
pagetop
フジフィルムのデジカメの成功で2年ほど前からクラシック感覚のデジカメが増えてきた。そして今年ニコンDfという画期的デジカメが発売された。どこが画期的かというと、画素数とか感度とかのスペックを宣伝しないカメラである。見て触って買ってください、といわんばかりのカメラ好きを狙った商品だ。
さっそく触ってみた。軽い!といってもペンタックス(リコー)の一眼レフカメラよりは重く感じた。実際にはペンタックスK3よりもわずかに軽いのだが、ペンタックスの製品はレンズも軽く作られているのにニコンのレンズは重い。ただ見た目の大きさから推定される重量よりも軽い。特にレンズセットで発売された組み合わせは、フィルムカメラを触っているような錯覚になる。ダイヤルの感触がまたよい。単なるぎざぎざダイヤルではなく昔懐かしい触り心地である。シャッターボタン始めボタン類の触り心地も抜群である。今バックオーダーを抱えているヒット商品だそうだ。
雑誌「アサヒカメラ12月号」に掲載された開発者インタビューを読み開発本部長山本氏の発言にしびれた。「構想段階ではしっかりと手を使って書き、イメージを膨らませるという教育をしている」と語っている。今時は3次元CADで図面を描けば、立体物の構想をPC上ででき、そのまま図面に落とせる便利な時代である。それでも構想段階では手を使うように教育をしているとのこと。
理由はCADで良いデザインができても実際に組み立ててみるとダイヤルの間隔が極端に狭かったりするそうだ。それで構想段階では手書きで、実際の自分のイメージを平面で確認しながら構想を具体化できるように教育をしている、という。これこそ心眼を大切にする技術者教育である。E.S.ファーガソンも同じような事を「技術者の心眼」に書いていた。
ニコンDfを1時間ほど店頭で触れてみたが、これだけ手になじむデジカメは初めてである。学生時代からペンタックスの手触り感が好きで、カメラはペンタックスを使い続けてきたが、このカメラには技術者の気合いを感じた。ただ、今売れに売れているので30万円近くする。センサー類はD4、その他はD610の部品の流用らしくD4よりは値段は安いが、外観にそれなりのお金がかかったカメラなのだろう。
高画素のデジカメD800よりも高い。D800と比較するのは無粋なことなのだろう。Dfは比較する対象が無い、それを欲しい人が買う商品である。そしてライカよりもお買い得である。カメラに興味が無い人もお金が余っていたらファッションアイテムとして買っても良いカメラである。価格もスペックとニコンカメラの製品ラインから考えるとビミョーに高い「持ちたくなる価値」を細部まで技術で表現した商品である。
カテゴリー : 未分類 電気/電子材料
pagetop
パーコレーション転移について材料科学の分野では未解明な部分が数多く残っている。数学的には確率過程で説明されるが、材料科学ではここへ材料固有の問題が加わる。すなわち高分子をバインダーに用いて導電性粒子をその中に分散し、半導体フィルムを製造しようとすると、溶融時の高分子の挙動が科学的に解明されていない場合には技術でこの問題を解くことになる。しかもKKDを働かせて科学的取り組みを行いながらモノを創り上げてゆく。
パーコレーション転移を材料設計で自由自在に使いこなすにはコツがある。詳細はコンサルティングで個別に請け負うことになるが、未経験で知識が無い場合にはカーボンと高分子1組成の単純な2元系のシステムでも隘路にはまる。
その結果、添加剤を加えて制御しようと試みる。パーコレーションに限らず材料のシステムは成分が増えれば増えるほど複雑になる。そもそも高分子という材料は多成分系である。そこへ全く構造の異なる物質を添加すれば見かけ上改善されても隠れた問題のために商品化で苦労することもある。
実際に問題解決を依頼されたケースでは、高分子AにカーボンXを添加して検討していたが抵抗が安定しないので高分子Bも加えて制御しようとした。2割ほど偏差が小さくなったが仕様に入らない。そこでXよりも微粒子のカーボンYを添加して凝集させようと試みたところ偏差が2元系よりも大きくなった。偏差が小さくなるときもあるので1年間タグチメソッドで最適化を試みたがロバストを上げることができなかった、という内容である。
故田口先生が聞かれたら、それはシステムが悪くタグチメソッドの責任ではない、と明快におっしゃるに違いない。パーコレーション転移の制御にはあたかも機械系のシステムのごとく最初にある程度の設計が必要である。カーボンの選択もその一つであるが、そのコツを書いた教科書や文献が無い。論文では現象の解説はあるが、解決方法を書いていない。
パーコレーション転移の問題は電気抵抗に限らない。実はフィラーを高分子に添加して力学物性を改善しようとするときにも現れる。しかしフィラーによる力学物性の改善は、せいぜい10倍程度なので電気抵抗のように100倍の偏差など生じない。それで問題になっていないだけである。
パーコレーション転移の科学は単純化されたモデルでうまく説明できるが、全ての材料システムに当てはめた科学理論、すなわち問題が発生したときに必ずこうすれば解決する、という理論はまだ無い。奥深い内容を含んだ技術の問題である。しかし、技術としてこうすれば良い、という経験則は存在する。ご興味のある方はご相談ください。
現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。
PRセミナーについてはこちら【無料】
本セミナーについてはこちら【有料】
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
技術の伝承のために体験が不可欠である。どのような技術でも体験無しに伝承することは難しい。もし体験をしないで伝承可能な技術があったとしたらそれはすべて科学的に解明された万民が認める公知の技術か、あるいは大した技術ではないのかどちらかだろう。科学のおかげで科学で説明できる技術は論文で伝承可能である。しかし、技術の中には科学で解明されていない内容が含まれる場合もある。その部分を伝承するときに文章だけではうまく伝承できない。
技術の伝承のために何故体験が必要なのか。例えばパーコレーション転移という数学で原理が解明された現象を化学の世界で活用しようとするときに、未だパーコレーション転移は化学の分野で科学的に全てが解明されていないので、技術の伝承が文章だけでは難しくなる。
どのように難しくなるのか。例えば技術的に完成したパーコレーション転移制御による帯電防止層を体験無しに文章で説明しても伝わらず、何か品質問題が発生したときに文章で伝承された人が技術的には品質問題解決を不可能という誤った結論を出す、ということが起きる(これは実際に起きた問題であるので少し書きにくいが)。
その場合に、化学の世界におけるパーコレーション転移という知識と数学における成果を結びつけて品質問題の原因仮説を設定できるにもかかわらず、そのような行動をとろうとしない。化学の世界におけるパーコレーション転移について科学的に解明されていないため、自分が経験上獲得した他の知識と品質問題を結びつけて原因仮説を設定し、論証しようとするためおかしな事が起きる。
すなわち文章で伝承された技術は次世代の人の体験レベルまで結びついた理解が無い限り、技術がうまく伝承されない。難解な技術、というものはほとんどの場合科学的な解明がなされていない部分が多く残っている。このパーコレーション転移という現象もコンピューターの中で制御因子は解明されているが、化学の世界では未解明の因子が存在する。
この例で言えば導電性粒子表面とバインダー高分子の濡れの問題はすべてが解明されているわけではない。濡れの問題については界面活性剤の経験を数多く積んでいるためにすぐに界面活性剤を用いた仮説をアイデアとして考える傾向にある。バインダー高分子のコンフォメーションやその高分子が結晶化していた場合などに濡れが変化するという知識や経験をしていないためだ。その結果、界面活性剤など持ち出さなくても解決できる問題を界面活性剤で解決しようとしてパーコレーション転移の制御因子を増やし問題を難しくしたり解決できなくする。
特公昭35-6616という特許は酸化スズゾルを世界で初めて写真フィルムの帯電防止層として用いた技術だった。しかし酸化スズの物性やパーコレーション転移に関する数学的解明もされていなかったため、1991年にその特許の偉大さの再発見がされるまで誰もその技術の重要性を評価し理解できなかった。その特許を出願した会社においてさえ技術の痕跡すら無かった。
ライバル会社はその技術を否定するような特許を多数出願していた。写真フィルムには無色透明の酸化スズゾルが最も適しているのに青みを帯びたアンチモンドープの酸化スズが良い、という特許を出願していたのである。写真フィルムの色材以外の材料は無色であることが一番良いのは素人にも理解できるが、技術が伝承されていないとこのような不思議なことが起きる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop