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2013.06/22 科学と技術(混練5)

無溶媒で行う混練については、そこで発生している現象について不明点が多い。混練のシミュレーション技術も進歩しつつあるが、いまだ科学的シミュレーションと言えるレベルではない。混練中の二軸混練機の中を可視化した装置を用いて研究している現場を見学しても、何をやっているのか分からない状態である。2色の樹脂が混練されて単色になってゆくのは見ればわかる。しかしそれは想像していた様子と変わらず、それ以上の情報が得られない。

 

想像していた様子と同じであるから価値がある、と言われてみてもスクリュー形状が変わっても大きな変化が見られない実験ではシミュレーション結果との整合性を取ることができない。ロール混練で観察される現象に比較すると、お金がかかっている実験であるにもかかわらず得られる科学的情報が少ない。

 

混練を科学的に研究しようとすると実際に起きている現象をモデル化するところが難しい。それでも単純な系では科学的なデータが集まりつつある。しかし、まだ技術開発に大きく貢献した、といえる事例は少ない。これが低分子溶媒を用いた高分子の混合の世界になると科学的に体系化され、技術開発に役立てることが可能である。

 

例えばラテックスについては、その合成から2種以上のラテックスの混合まで科学的に実験が行われ実際の現象との整合性がとれる質の高いデータが公開されている。ラテックスの合成はミセル内で行われるが、その動力学的成果は四塩化スズの加水分解でゾルが生成し沈殿する系に応用したところ技術的実験データと相関したのには驚いた。

 

混練の世界で科学的データが参考になり技術開発に結びついた経験は1度しか無いが、ラテックスの分野では科学的成果に助けられた。約20年前にセラミックスの研究開発をあきらめなくてはならない状況になり、転職した会社でフィルムの表面処理技術を担当したときに科学的情報の多い分野だったので助かった。専門外の人間でも一ヶ月ほど科学的情報を中心に勉強すれば、技術者として新しい成果を出せるようになるのである。

 

高純度SiCの開発を行っていたときには科学と技術が同時進行していたような時代であったが、ラテックスを用いたフィルムの表面処理については、科学的に質の高いデータが多くすぐに新しいアイデアを考え出せる環境だった。おかげで転職した2ケ月後には新たな企画を提案でき、20年間に200件以上の特許を書くことができた。科学の成果は普遍的真理の体系であると実感した。

 

 

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2013.06/21 科学と技術(混練4)

液状の高分子の混合では、高速剪断が活用されている。この事が教科書に詳しく書かれていない。教科書に書かれている混練と言えば室温で固形あるいは高粘度の高分子が対象である。ゆえに35年前のゴム協会誌に剪断流動で混練後の構造はミクロンオーダーよりも小さくならない、と実験データとともに記述されていても誰も疑問としなかったのだろう。

 

ゴム会社に入社2年後、ポリウレタンエラストマー発泡体(PU発泡体)の研究開発を担当した。PU発泡体は、スラブフォームとRIMの2種類扱ったが、生産機のミキシングヘッドは両者ともに高速剪断装置であり、これを用いてミクロンオーダーよりも小さい高次構造を形成できた。

 

ミキシングヘッド内の高分子の滞留時間は2秒以下で、瞬時に混合分散が進んでいることになる。当時ヘッド内の設計は現場のノウハウであり写真撮影が禁止されていた。ゆえにプレゼンテーションでは毛虫のような図で代用していた。何も知らない人には毛虫に見えたのかもしれない。毛虫はエンペラーと呼ばれており、毛虫の皇帝か、という冗談が受けた。

 

毛虫が高速回転するそのミキシングヘッド内では分子レベルの混合が、たった2秒間で行われている。エンペラーの構造から剪断流動が発生していると推定され、剪断流動でも分子レベルの混合ができることを示していた。

 

ホスファゼン変性PU発泡体では、ホスファゼンをTDIとのプレポリマーにして添加した場合と、低分子固形物で添加した場合で試作を行ったが、前者の難燃性能が20%程度高かった。力学物性から、前者は可塑剤として作用していることが推定され、分子レベルで分散している様子が推定された。また、電子顕微鏡写真の比較でも、後者ではホスファゼン超微粒子が観察されたが、前者では単相を示していた。

 

たった2秒間の混合で分子レベルの混合を達成できる高速剪断装置の混練効率は極めて高い。なおミキシングヘッドは運転中に外装を触れても12月の試作にかかわらずひんやりするほど冷却されていた。

 

そのほか溶媒を用いない高分子の混合の例ではシリコーンLIMSがあり、スタチックミキサーが使用されるが、これも剪断流動で混練を行っている。すでに述べたように剪断流動では混練後の高次構造のサイズが剪断速度に影響を受ける。スタチックミキサーを使用するときに注意しなければいけないのは充分な剪断速度が発生しているかどうか、という問題である。

 

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2013.06/20 科学と技術(混練3)

高分子の混練装置には、バッチ式と連続式があり、バッチ式にはバンバリー、ニーダー、ローラーが、連続式には一軸から二軸さらには多軸式の混練機がある、と教科書に書かれている。そしてバッチ式はゴムの混練に用いられ連続式は樹脂の混練に用いられる、とある。

 

当方も混練に関する執筆を頼まれたときには、昔ながらのこの分類に従い説明をしているが、やや恥ずかしさを感じている。多くの書籍でこのような説明がなされているが、これは一例であってこの方式にとらわれる必要はない。むしろこの説明はタコツボ技術式説明だろうと思う。ゴムを連続式混練機で混練しても良いし、逆に樹脂をバッチ式混練機で練っても良い。

 

ただし、これは混練物の物性を考えなければ、の話である。すなわち混練物の物性を考慮した場合には、ゴムも樹脂もバッチ式混練機のロールで混練した方が良い。ただ、バッチ式は生産効率に難があり、一方樹脂の場合連続式で混練してもユーザークレームが少なかったので連続式混練機が用いられたという経緯がある。

 

加硫ゴムについては、連続式混練機では混ぜるのが難しい、と書いてある教科書がある。しかし、これはウソである。装置を工夫すれば、特に原材料の投入口を工夫すれば加硫ゴムでも混練可能である。ただし、連続式混練機で混練された加硫ゴムの物性は、熟練者によりロール混練された加硫ゴムに比較すると劣っているという問題の存在と、ストランドで押出したときのダイスウェル効果に驚く事になるが。換言すれば加硫ゴムは、樹脂に比較して混練プロセスにその物性が大きく左右される難しい材料といえる。逆に樹脂は適当に混練しても一応の物性が出るので経済性を優先して二軸混練機で混練されている、と説明した方が正しいだろう。

 

このようなことを書くと樹脂の混練技術者に叱られるかもしれないが、バッチ式による加硫ゴムの混練技術に比較して樹脂の連続式混練技術のほうが制御因子が少なく技術的難易度が低い。さらに加硫ゴム技術者はプロセスと物性の関係に苦しむが、樹脂技術者は成形技術者に問題を押しつけることが可能で、実際に樹脂メーカーの技術者の成形技術者に対する横柄な発言にびっくりしたことが多々ある。

 

混練は剪断流動と伸張流動の組み合わせで進行するが、剪断流動では剪断速度で混練物の状態が大きく変わる。また伸張流動では高分子溶融体の粘度でその効果が左右される。混練物のレオロジーや成形体の力学物性を考慮すると、ゴムと樹脂という種類で単純に混練装置が決まる、と考えない方が良い。

 

もし高分子の研究を行うときに、高分子を混練するための設備を1台しか導入できないとしたら(株)小平製作所製の二本ロールを購入すると良い。混練物の特性を示せば使いやすい二本ロールを納入してくれて使用方法も教えてくれる。ロール混練では使用方法を工夫するとカオス混合もできる便利な装置であるが、「技」が要求される難しい装置でもある。構造は二本の回転するロールがあるだけなので極めて単純である。

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2013.06/19 科学と技術(混練2)

30年前、混練技術の教科書はハードウェアーの説明書であった。混練したい高分子材料の種類により、どのような混練機を選べば良いか、という説明と、混練機のハードウェアーの説明があれば教科書として充分と思われていたようだ。

 

高分子材料の設計における混練技術の役割が論じられるようになったのはこの10年ほどのことである。10年ほど前に推進された高分子精密制御プロジェクトは、あまり評価されていないが、アカデミアの成果は大変大きかったのではないかと思う。

 

例えば、ナノオーダーまでの混練は、伸張流動を利用しなければできないが、剪断流動では、ある構造サイズ以下の材料を製造できないとか言われていたが、実用化は難しいが小さな実験機で高速剪断で混練すればナノオーダーまで到達できることが示されたし、伸張流動でナノレベルの材料を量産できることも実証された。

 

ところが、剪断流動の成果は、高分子が低分子量化したからナノオーダーの構造になったのであって、とか、伸張流動の成果は、あんなL/Dの大きな二軸混練機は生産機として使えないとか陰口を言われている。しかし、混練技術のレベルにようやく科学が近づき始めたことをなぜ評価しないのだろうか。

 

高速剪断装置で高分子を混練すると発熱が大きくどうしても分子の断裂が発生するが、この実験結果は、もし発熱の小さい高速剪断流動ならば、どのような混練が進行するのか、という問題を提案している、ととらえることもできる。この問題の答は、分子の断裂が起きず、ナノオーダーまで混練が進む、と考えられる。

 

また、それを示唆する技術的なコンセプトで行って得られた実験結果もある。すなわち剪断流動では高次構造を小さくできない、と過去に言われていたが、それは剪断速度を考慮していない条件における結論だった。剪断速度が大きく変化したときの剪断流動は、一般の二軸混練機では得られない現象が生じる。高速剪断装置では分子の断裂が起きているので信用できないデータ、という否定的な見方をしている限り、新しい技術は生まれない。未知の世界へチャレンジして得られた結果に問題があったなら、その問題が本当に全ての結果を否定しなければならない問題かどうか慎重に考える必要がある。高速剪断装置の実験結果は新しい技術アイデアを生み出すヒントを示している。

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2013.06/18 科学と技術(混練1)

「混ぜる」技術は存在しても「混ぜる」科学は存在するのだろうか。ゴム会社で研究開発を担当したときの疑問である。「混ざった状態」を議論する科学は存在している。例えばパーコレーション転移がそれだ。ボンド問題とサイト問題として数学者の間で議論され、それぞれの問題で閾値が異なっていた。要するにパーコレーション転移は確率過程の現象である、ということまでは真理として当たっているが、自然現象がボンド問題あるいはサイト問題のいずれに相当するのか分かっていないし、それが分かったところで現実の技術に対する影響はほとんど無い。

 

粒子とバインダーの間に全くの相互作用が無い状態では、パーコレーション転移が確率に制御されて発現する現象という真実は重要である。パーコレーション転移を利用した技術では、ロバスト設計が不可欠である。これを感度重視で設計を行った場合には大きなペナルティーを被る。ロバスト設計を行えばわかるが、閾値近辺の配合処方は、最もロバストが低い処方となる。ゆえにロバストを高めた処方は、この科学の真実を前提としたときに、閾値の手前か転移したあとの配合処方となり、閾値周辺は危険領域となる。

 

閾値周辺の配合処方で配合を組み立てたいときにどうするのか。微粒子のパーコレーションの場合では、微粒子の凝集体が分散した状態で設計することになる。すなわち微粒子の凝集体ではパーコレーション転移が完了した安定状態になっており、その凝集粒子を一単位としてパーコレーション転移が起きる前の割合に配合を組み立てると閾値周辺の配合処方をロバスト高く組み立てることが可能となる。

 

このようなシステム設計を実現できる混練技術はどのようなものか。ここで「混ぜる」過程について、非平衡状態の科学がどこまで有益な情報を提供できるかという問題がある。この科学は難解であり、さらにその研究成果として得られている真理は特定の前提条件を必要としている。すなわち技術を考えるときにこの分野については、「混ざった状態」の科学の制約を受けるが、「混ぜる過程」の科学については、経験を上回る成果は無いのである。すなわち、制御された凝集粒子を用いてパーコレーション転移の制御を混練過程でできるかどうかという議論は無意味で、「混ざった状態」を心眼で見抜き、それを実現する配合処方と既存プロセスの組み合わせで汗を流しながら実験するのか、あるいは奇抜なプロセスを発明して楽をするのか、やってみなければ分からない世界である。但し、蓄積された経験があればできるかどうかの確度の高い予測は可能である。

 

 

 

カテゴリー : 一般

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2013.06/17 科学と技術(メソッドについて)

仮説を設定し、推論を展開し、問題解決を行う。科学的問題解決はこのような手順で行う、と学校で学ぶ。この手順について否定をしない。この手順があるのに、世の中にはタグチメソッドはじめ多くの問題解決手法が存在する。

 

USITやTRIZは科学的問題解決手順を忠実にプログラムした方法で、科学的に当たり前の答が出てくる。当たり前の答が欲しい場合には、この手法は良い。しかし、当たり前の答は難解なTRIZやUSITを使わなくても出てくる。TRIZは昔々、科学を最重要視したロシアで生まれた方法であることを思うと、もはや趣味の世界の問題解決法だろう。

 

技術的に使いやすい問題解決法とはどのような手順だろう。現代は科学的思想の時代なので、技術的な問題解決法でも科学的思想のカテゴリーでなければ受け入れられないであろう。たとえばタグチメソッドは有名な「技術」分野の問題解決法だが基本的なSN比の計算手順など科学的である。但し、誤差を必然誤差として眺めるところは科学的統計理論とは異なる視点である。真理を追究するのではなく、機能を追究している点で科学を研究する姿勢ではない。

 

弊社の問題解決法で採用している思考実験の内容は科学的視点で取り上げるが、思考実験そのものは非科学的方法とマッハは述べている。思考実験のシナリオを考え出すK2チャートでは、論理の流れは科学的に行うが、起こりうる場合と起こりえない場合、あるいは可能性を考えられる場合と考えられない場合など全ての事象をひねり出して考えるので非科学的である(アイデアを出すために科学と非科学全ての可能性を考えることは重要である)。

 

2つの技術分野の問題解決法を簡単に眺めてみても、科学と技術の違いが見えてくる。すなわち科学は思想であり、技術は実際の「コト」と表現するとわかりやすいかもしれない。論文を書くためには科学的問題解決手順は重要であるが、実務の問題解決では、非科学的手法でも取り入れない限り、科学で未解明な事象に答え(注)を導き出しイノベーションを起こすことなどできない。iPS細胞で有名なヤマナカファクターも非科学的手法で発見されている。

 

学校で12年以上習う科学的問題解決法は、科学的研究を行う単なる一手法に過ぎない。技術開発では機能を実現する方法を研究開発するのでUSITやTRIZではその目的が異なる(注2)。タグチメソッドは、制御因子を探索する設計段階では良い方法だが、その手前の企画から設計までのところでは、逆向きの推論や思考実験、K0チャート、K1チャートを駆使する弊社の問題解決法が有効だ(注3)。

 

 

(注)技術では機能を達成できれば良いので、科学で未解明でも答が得られる。例えばヤマナカファクターは、iPS細胞を創り出す技術手段として実現された成果である。どのようにイノベーションを引き起こしたら良いのか、という一つの答を山中博士は提示してくれた。弊社の問題解決法は30年の実績があり、フローリー・ハギンズ理論で説明できない現象など科学的に未解明な現象を活用した技術アイデアを導き出すのに成功している。どのようにイノベーションを起こしたら良いのか、科学的常識にとらわれないことが重要である。

(注2)TRIZやUSITでは個人差が出る分析的思考が重要視されている。タグチメソッドでは、例えば直交実験で制御因子を見つけてゆく。この差が科学研究に用いる問題解決法と技術開発で用いる問題解決法との違いである。

(注3)TRIZやUSITはWINDOWSの操作でおなじみのオブジェクト指向で問題解決を行うが、弊社の問題解決法はエージェント指向である。オブジェクト指向では、オブジェクト間の答が不一致の場合にフリーズするが、エージェント指向では、答を中心に問題解決を行うので、問題解決者が求めている答を必ず見つけ出す。TRIZやUSITでは、フリーズを避けるために、当たり前の答を提示する。今求められている問題解決法はイノベーションを引き起こす問題解決法である。

 

カテゴリー : 一般

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2013.06/16 科学と技術(主成分分析法)

タグチメソッドで多変量解析といえばマハラビノスタグチ法であるが、多変量データの組を単純に分類するだけならば主成分分析法が便利である。

 

例えば、半導体微粒子を絶縁オイルに分散した電気粘性流体(ERF)がゴム製の容器に封入されている。耐久試験を行ったところ增粘してきた。ゴム容器からゴムの配合成分がERFへ溶け出したため、と推定される。

 

この問題の解決には界面活性剤が有効であるが、水に油を分散する場合、あるいは油に水を分散する場合ではそれぞれ用いる界面活性剤の構造が異なることはよく知られている。しかしERFには水は入っていない。界面活性剤、というアイデアにすぐ結びつかない人もいる。さて、どうするか。

 

半導体粒子とゴムからの抽出物、そしてオイルである。ゴムからの抽出物が、半導体粒子とオイルに作用して增粘している様子が頭に描かれると、水と油の関係で無くても界面活性剤で問題解決できそうだ、というあるべき姿が見えてくる。しかし、そこまで見えてきても、界面活性剤は星の数ほど世の中に存在する。この後どうするか。

 

界面活性剤に詳しい人ならばHLB値という界面活性剤の分子構造の指標を頼りに探索する。しかし水と油の関係ならばHLB値で何とかなるが、今回の場合には、有機物の微妙な界面相互作用を界面活性剤で制御しようというのである。HLB値だけで考えて問題解決できる、と思う人は弊社の問題解決法のプログラムを勉強する必要がある。弊社の問題解決法では、このような短絡的な思いつきアイデアよりも有効なアイデアを導き出す方法を伝授している。

 

PRはさておき、頭のいい人の場合は、增粘した物質を解析してその結果から界面活性剤を選ぼうと考える。実際の現場でもこのような科学的アプローチが取られていた。そして界面活性剤では不可能だ、という結論が出されていた。

 

詳細は省き、とりあえず答を書くが、科学的結論が間違っていたのである。この場合は、界面活性剤の公開されている情報(多変量データ)を主成分分析にかけ世の中に存在する界面活性剤を分類する。そしてできあがった分類マップから、代表例の界面活性剤を一つづつ選び、增粘したERFに添加してみる。そして少しでも改善されたなら、その効果のあった界面活性剤の属するグループの界面活性剤を增粘したERFに添加して最良の状態になる界面活性剤を選ぶ、という方法が有効で、実際に問題解決できた。すなわち泥臭い刑事コロンボ型で問題解決するのがベターな方法である。

 

この問題解決を行ったのは20年以上前(ゴム会社を転職する1年前)であり、マハラビノスタグチ法を知らなかった時代であるが、知らなくて良かった、と思う。単純に界面活性剤を主成分分析してグループ分けをする、という手順が今でも最良の解決方法だと思っている。

 

主成分分析は、科学的統計手法として心理学の分野や経済学の分野でもよく使われている。既製服のA体、B体、AB体などの分類も主成分分析で決められる。因子分析の一手法であるが、全体の変動の大きな順に主成分が並べられるので便利である。興味のある方は多変量解析を勉強してみてはどうだろう。技術の分野でも重宝する手法だ。

カテゴリー : 一般 宣伝 電気/電子材料 高分子

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2013.06/15 科学と技術(タグチメソッド10(SN比と感度))

タグチメソッドでは、基本機能のSN比を最大にできる制御因子の条件で確認実験を行う。しかし、その条件で感度が必ずしも最大になるとは限らない。動特性のSN比の式に感度は入っているにもかかわらず、実験結果においてSN比最大の条件を選択して感度が高くないときにどうするのか、これはタグチメソッド初心者が悩むところである。

 

そのときタグチメソッド指導者の中には、あくまでSN比最大を選ぶ、という指導の仕方をされる方がいたが、田口先生は感度最大をあえて選ぶ技術の選択もありうる、と述べられていた。最高の機能が必要なときにはSN比最大を必ずしも選ばない、そんな技術者の選択もあると(但し常時このことを言われていたわけではない。ある議論の結果である)。

 

しかしタグチメソッドの基本はあくまで機能のロバストネスを高めることだ。感度最大を選ぶのは特殊なケースである。

 

L18実験を行い、SN比を最大にする条件と感度を最大にする条件が異なったときにどうするか。両方の条件で確認実験を行いSN比の違いを確認すると良い。L18実験では多少SN比に大きな開きがあっても、確認実験ではL18ほどの差が出ないこともある。また逆に差が開くこともあり得る。これまでの経験では、後者は無かった。

 

また確認実験を行うときにこの2条件以外に、SN比最大の条件で感度が大きくなる条件を入れた水準も確認実験すると良い。田口先生はこちらの水準を指導されていたが、感度とSN比の両者を高める条件が異なったときには、いつも3水準以上の実験を行ってきた。

 

確認実験の水準を多く取るのではタグチメソッドの意味が無いのでは、と疑問を持たれる方もいるだろう。しかし逆である。確認実験を多く行ってきた約20年の経験からタグチメソッドの有効性を実感している。

 

タグチメソッドの直交表を用いる実験では、科学的実験プロセスに慣れ親しんできた人にある種の気持ち悪さが伴うことは確かである。日科技連ベーシックコースで実験計画法の用い方を学んで現場で使用していたときに大変気持ち悪かった。しかし会社の方針ということで、周囲が使用していないにもかかわらず、半分意地で使用した時の感覚と比較すれば、タグチメソッドにおける直交表の実験は気持ち悪さの程度が異なる。これは、外側因子が入っている影響が大きいと思う。

カテゴリー : 一般

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2013.06/14 科学と技術(タグチメソッド9(コツ))

タグチメソッドを理解するための近道は、科学の研究と技術開発の違いをまず理解することである。科学の研究は言い古されているように真理の追究がその目的にある。技術開発は、それに対してロバストの高い機能の実現が目的だと田口先生は言われた。まことに至言である。

 

科学の研究は自然現象が相手であり、そこで観察される誤差は偶然誤差を前提とするが、技術開発では、ロバストの高い機能の実現という理想に向けて必然誤差を考える。まず、測定値で観察される誤差について義務教育で習ってこなかった必然誤差というものを理解しなくてはならない。計測された値について四捨五入とか誤差を丸めるなどという考え方を前提にしていない。むしろ誤差を積極的に評価している、ぐらいの感覚である。

 

だから実験を行うときにも誤差因子を多数取り入れて実験を行う。タグチメソッドでは機能を安定化させる制御因子を見つけることが目的であるが、この誤差因子はそのために重要な因子である。誤差因子は一つだけで無く可能な限り多数の因子を取り上げる。そして基本機能に対して誤差がどのように働いているかに注意しつつ、誤差を調合して実験を行う。

 

この誤差の調合は結構注意が必要である。調合誤差について2水準から3水準の実験を行いSN比を求めるので、誤差因子の組み合わせ方を間違えると変動が小さくなり、制御因子を見つけることが難しくなる場合がある。誤差の調合は変動が大きくなるように組んでやることがコツである。

 

また、信号因子も可能な限り大きく変動させる。信号因子については思い切って大きく振れ、というのが田口先生のお言葉である。タグチメソッドの習い始めはこのあたりにも慎重になる。信号因子を大きく振ったら誤差が大きくなってしまう、という心配をする。ところがタグチメソッドでは誤差が大きく出るところでSN比を安定にする制御因子をみつけようと(ここまで言って良いのか分かりませんが)しているのでこの心配は無用だ。

 

制御因子を見つける作業には直交表を利用すると便利だ。直交表はL18程度の大きさで充分。あまり大きな直交表を用いると結果をまとめるまで時間がかかりすぎる。L9やL8でもよいが、もしL9やL8を繰り返して用いるくらいならL18を1回やった方が良い。

 

直交表を用いた実験は、慣れないと気持ちが悪いそうだ。また直交表の実験では時として欠損データが出たりする。日科技連の実験計画法で欠損データがあるときのデータ処理方法をもちいても良いが、タグチメソッドでは、欠損データに関してはSN比の平均値を入れるだけでも大丈夫である。このあたりは、データ整理を行うときに大変助かる。

 

<明日へ続く>

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2013.06/13 科学と技術(タグチメソッド8難しさ)

タグチメソッドは難しい、とよく言われる。また、タグチメソッドを統計手法と誤解している人もいる。タグチメソッドは、技術開発の一手法であって、その考え方を理解すれば難しいメソッドではない。TRIZやUSITのような時代遅れの手法とは一線を画す技術開発の手法である。TRIZやUSITは科学に忠実な問題解決手法をめざして失敗しているが、タグチメソッドは技術開発の理想をめざして考え出された手法である。

 

田口先生に直接御指導頂いた体験は貴重な財産となっている。システムの基本機能を追究することの重要性だけでなく、そもそも開発すべきシステムが正しいシステムなのかを問うことの重要性まで教えて頂いた。もっとも記憶に残っているのは誤差因子に対する考え方である。システムのロバストネスを改善するためにはノイズというものを正しく認識しなければいけない。誤差を必然誤差と考えることの重要性である。

 

直交表を使わなくても、タグチメソッドの考え方を使ってシステムを見直すだけでも開発が完了したことがある。コンパウンドの新しい混練システムでは、システムの見直しを行っただけで、問題解決できたのである。

 

コンパウンドを他社から購入していたので、混練実験ができない状況だった。技術サービスとの打ち合わせの過程で混練システムの考え方の変更をお願いした。新しいラインを入れるのではなく、混練ラインにおける原料の投入方法の改善を新しいシステムの考え方でお願いしただけである。その結果ロバストネスが向上した。

 

タグチメソッドの難しさは、問題解決しようとするシステムの捉え方にある。必ずしも目の前にあるシステムが正しいとは限らないのである。間違ったシステムの捉え方で改善を行っても大きな成果は得られない。田口先生はシステム選択は技術者の責任と言われ、それ以上のことをおっしゃらなかったが、実はこの技術者の責任遂行が一番難しい。

 

<明日へ続く>

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