アイドリング時と高速走行時の両者で振動吸収できるゴムを樹脂補強ゴムで30年以上前に開発した。この時勉強になったのは、同一配合であってもプロセスが異なると耐久試験の結果に大きな差が出る、という経験をしたことだ。この経験のおかげで高分子材料を配合処方だけでなくプロセス履歴も総合して眺める習慣がついた。
ゴムの耐久試験方法は幾つかあるが、スクリーニングの段階で行う評価法として繰り返し引張耐久試験法が用いられる。エンジンマウントの場合には圧縮永久歪みが耐久試験として重要だが、最初のスクリーニングは繰り返し引張耐久試験法を行うのが良い、と習った。
繰り返し引張耐久試験法は圧縮永久歪み試験よりも過酷である。しかし、スクリーニングで過酷な試験を行っておけば、商品化の段階で行われる品証評価でトラブルを防ぐことができると教えられた。また、過酷な試験法はエラーの検出感度が高い試験でもある。
この高い感度のおかげで、新入社員の1ケ月は何度もロール練りの工夫をすることになった。すなわち、レオロジー特性は良好でも耐久試験に通過しないサンプルばかり作っていた。その結果耐久試験とプロセスの関係が体に染みついた。
樹脂補強ゴムはTPEの仲間であるが、一般のTPEは二軸混練機で製造される。昔はコポリマーのTPEが多かったが最近はコストの安い動的加硫されたTPEが増えている。新入社員時代に開発した樹脂補強ゴムは二軸混練機で動的加硫して製造することも可能であるが、バンバリーとロール混練で製造された材料に比較すると極端に性能が悪い。
耐久試験は100倍異なり、圧縮永久歪も10倍以上異なる。同一処方でこれだけ圧倒的な物性の差を体験すると高分子材料におけるプロセシングとは何か、という問題意識を持たないほうがおかしい。バンバリーとロール混練のプロセスを用いた場合でも、ロール混練の技が未熟であると耐久試験で10倍、圧縮永久ひずみで4倍ほどの差が出る。
このテーマのあと高分子の難燃化技術開発を担当し、その難燃化技術で見出した高分子材料変性技術を用いた高純度SiCの開発をスタートするのだが、防振ゴムの開発で体験した高分子のプロセシングの効果は強烈な印象として残っている。セラミックスの開発に比較すれば短期間であったが、ロール混練に関しては職人並みの技を身に着けた。
ロール混練で悩まれている方はご相談ください。
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東京モーターショー2013で樹脂製ボールベアリングを見つけた。すでにハンドルの部品として実用化され、軽量化とコストダウンに寄与しているそうである。エンジニアリングプラスチックスの用途として過酷な使用環境である。実用化するためには、それなりの信頼性試験が要求されたと思われる。
樹脂は軽量化とコストダウンを実現する手段として自動車部品に使用されていることは知っていたが、金属部品しか使用できそうもない、と思っていたところにも樹脂が入ってきている。かつてセラミックスフィーバーの時に、自動車部品にセラミックスが普及したが、その置き換わったセラミックス部品の幾つかは、また耐熱合金に市場を奪われている。ファッション機能だけで普及した部品はコストダウンの波に勝てないのである。自動車部品の樹脂化は軽量化とコストダウンの2つの目的でどんどん進んでいるようだ。
国内の汎用樹脂事業は、統合に次ぐ統合で苦戦が続き、エンプラ分野も一部はコモディティー化が進み、コスト競争に移ってきている。素材会社は大変だが、部品メーカーは技術力があればそれなりの商売ができているのかもしれない。
ここで技術力とは評価技術である。すなわち自動車分野では軽量化とコストダウンの目的のため、金属から樹脂に置き換える動きは今後も続くが、その時に金属なみの信頼性を樹脂で確保できるかどうかが鍵になり、そのためには信頼性試験をうまくできなければならない。金属材料と同じ評価試験を行うのは当然だが、樹脂の弱点が信頼性に影響を与えていないかどうかを見るための評価技術が重要となる。
この評価技術は樹脂の問題点をよく理解していなければ構築できない。高分子科学についてはアカデミア以上の経験が要求される難しい分野である。評価技術で悩んだら弊社へご相談ください。自動車部品メーカーと精密機器メーカーで高分子材料の開発から評価技術開発まで多くの実績があります。
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モーターショーの一角で「Smart Mobility City 2013」を開催している。未来の自動車社会の提案コーナーだが、新聞等のニュースに登場した事柄以外に目新しい展示物は無い。車が都市と市民を結ぶ、というのがテーマのようだがすでに描いた夢の焼き直しを見ているようだ。
年をとったせいかもしれないが、わくわく感の少ないショーである。車の自動運転が全面に出てきて今後開発されるであろう技術を見せるような展示を期待していたが、特許の問題もあるのか、自動運転に関しては話題の中心になっていない。
自動車好きにはモーターショーは重要な催し物であるが、自動車も巻き込む大きなイノベーションが社会で起きているときには、それがメインテーマになり、各社そのテーマにちなんだ展示があったが、昨日も書いたように今年はそれがよく見えない。車の自動運転は大きなイノベーションのように思うのだが。
その中で燃料電池車の説明に小便小僧を用いて、排出されるのは水だけ、とこの先は説明の必要がないアクションを見せられたのには驚いた。やや***である。かわいい小便小僧ならばまだ良いが、スクリーンも兼ねているので3m以上もある巨大な「小便怪物」である。それが水を排出する前に不気味に目を光らせる。この展示の評価については意見が分かれるかもしれない。
自動車にあまり興味が無い当方にとっては、感動が少ないモーターショーだが、部品メーカーの展示に面白い提案が幾つかあった。例えば西館のデンソーのブースである(注)。電気自動車が普及したときの街の様子を展示し、非接触による給電方式などすでに公開された技術以外に全てが電気自動車となったときに生じる問題のソリューションを提案していた。
詳細は足を運んで見て頂きたいが、車のエネルギー源をガソリンから電気に置き換えたときに充電時間の問題以外に、様々な問題があり、その解決に幾つか細かいインフラが必要になる。それを模型でうまく説明していた。地味な内容だが、この展示を見に行くだけでも勉強になる。さすが自動車部品大手のデンソーである。社会的使命を心得ている。
車好きならスバルのブースが面白い。新車レヴォーグのデザインとそのスペックを見るとすぐに買いたくなるかもしれない。また、エクシーガはクロスオーバーSUVとして置き換わる。そのデザインが運転したくなるかっこよさだ。昔スバルのデザインや内装は今ひとつだったが、最近のスバルは別会社のようだ。
(注)デンソーは東館にもブースを構えている。
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弊社は電子出版社として東京モーターショーのプレス発表に参加した。プレス発表初日は布をかぶっている新車も多い。それぞれプレス発表の時間になるまで隠されているのだ。
かつてセラミックスフィーバーの時には、あらゆるメーカーがこぞってセラミックス部品を展示し先進性をアピールしていた。いすゞ自動車は、セラミックスエンジンを搭載し公道を世界で初めて走行したセラミックスアスカを展示していた。環境問題が話題になったときには、環境対応が各社の目玉になっていた。
今年は、統一テーマになるような話題がなく、メーカーによりアピールポイントが異なるが、自動車に移動手段以外の付加価値をつけたことや、日本車ではターボチャージャーによる燃費改善や、気筒数を減らして燃費改善を行ったりした欧州車と同じような燃費改善技術の発表があった。ハイブリッド車一色のトヨタのレクサスにもターボ車が登場した。自動走行の話題を期待して参加したのだが自動走行については、大きなテーマにはなっていない。
恐らく未来も自動車は移動手段の道具として活用され、無くなることはないだろう。だから移動手段以外の付加価値の提案、というのは納得できるが、各社アイデアが陳腐である。思わず吹き出しそうになったのは、トヨタ自動車の運転者と自動車が対話をしている映像。助手席には誰も乗っていない。
確かに独身者が増えているので、一人で車を運転する人が増えるだろう。しかしその寂しさを解消するために車との対話というのはあまりにも悲しい未来のような気がする。お友達のような車というのは人口減少や高齢化、独身の増加という社会現象を考えたときに時代の流れに沿った提案であるが、何か寂しくそして笑える複雑な提案だ。
10年以上前には家族の時代、というメッセージを発信していたメーカーがあり、家族のために車を中心に楽しさを提案していた。これにはほほえましさがあったが、一人で運転し、車と対話を行っている映像には、未来に対する夢というよりも暗さがある。助手席にパートナーを乗せて欲しかった。
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高純度SiC前駆体は、フェノール樹脂とポリエチルシリケートを酸触媒存在下で反応させて均一混合を実現している。有機無機複合材料の合成手法として30年以上前には画期的な方法だった。この30年間に京都大学中條先生や東京理科大阿部先生、郡司先生その他無機高分子研究会に関係されている諸先生方により、様々な有機無機複合材料の新しい合成手法が提案された。
分子レベルでハイブリッドにする方法以外に多段湿式法という超微粒子を均一に混合する手法もセラミックス合成において有機無機ハイブリッドと同様の効果があることが見いだされた。すなわち新しいセラミックス材料を合成するときに分子レベルまで均一に分散していなくてもナノオーダーレベルの超微粒子を用いれば同様の効果が得られるらしいことが分かってきた。
ここで「らしい」と書いたのは、高純度SiCの反応機構解析を行ったときに、前駆体中にエアロゾルのシリカを混合した場合には、気相反応が少し関与することが観察されたからである。しかし、多少反応機構が変化しても生成するSiCの形態に大きな影響は無かったが、シリカ源としてエアロゾルの割合を増やすと、SiC化の条件によってはウィスカーが生成する場合がある。フェノール樹脂とポリエチルシリケートから合成した場合には、どのようなSiC化の条件でもウィスカーは生成しない。
このように前駆体の構造(分子レベルで均一になっているのか、超微粒子で構造を作っているのか)は生成物に多少なりとも影響を与えるが、工業的見地からは経済性が優先される。ナノオーダーの超微粒子でも分子レベルで均一に分散した場合でも生成物に大きな影響が無ければ、経済的に有利な手段が選ばれる。一般に金属アルコキシドの価格は高い。
そこで超微粒子を有機化合物と均一に混合する新しい経済的な手法が意味を持ってくる。写真会社に転職してこのような問題意識も有り、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術というアイデアを煮詰めていた。また、セラミックス合成の前駆体以外の用途として、薄膜にセラミックス超微粒子の持つ機能を付与したい場合にもこの方法は有効である。たまたま転職した写真会社でこの技術を実用化しなければならない状況になった。1991年の話である。
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炭化珪素(SiC)は半導体に分類されるが、高純度SiCは絶縁体である。かつてセラミックスフィーバーの時にはベリリアを助剤にして高熱伝導性のICパッケージも製造された。
SiCは共有結合性が80%以上なので、助剤無しでは焼結しない。SiCを焼結するときには助剤が必要で、その結果できた焼結体は半導体になる。助剤を工夫すると体積固有抵抗を下げることが可能で、導電性をあげてセラミックスヒーターを設計することができる。
セラミックスフィーバーの時に反応焼結SiCで製造されたヒーターが販売されていた。1500℃前後まで空気雰囲気下で使用する電気炉にはこのSiCヒーターが使用されていた。
しかし、このヒーターの純度は低く高純度雰囲気が必要な電気炉には使用できない。そこで高純度のSiCヒーターを開発した。SiCはホットプレスを用いれば、ほとんどの元素に助剤作用を見いだすことができる。高純度SiCの純度を活かした焼結には、高純度Siか高純度Cあるいは高純度のジメチルポリシランを助剤として用いることが可能である。
Cを助剤にして高純度SiCをホットプレスで緻密化する技術は、高純度SiCが開発されたときにその焼結性確認の手段として実現されていた。高純度SiCを合成するときにカーボンが1%前後過剰になるように前駆体を調整すると、カーボンとSiCが均一に混合された状態で高純度SiCが得られ、これはそのままホットプレスで緻密化できる。
さらに合成時にアルミニウムイソプロポキシドを均一分散して得られた粉体は、焼結条件を工夫すれば常圧焼結も可能で、SiCヒ-ターを常圧焼結で製造できた。このAl添加常圧焼結SiCヒーターの面白いところはPTC特性を示したことだ。ただ、その後の研究で中途半端なPTC特性であり、実用性がないことが示された。ゆえに高純度SiCヒーターはフェノール樹脂を助剤に用いてホットプレスで製造されたヒーターだけが実用化されている。この基本特許の権利も消滅した。
カテゴリー : 電気/電子材料
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ポリアセチレンが発見されるまで、有機半導体の研究は、どこまで導電性が上がるのかが興味の関心だった。「有機半導体」という教科書を購入して間もなくポリアセチレン発見のニュースを聞き、高価な教科書がゴミになった悲しい思い出がある。
ホスファゼン導電体の研究は、プロトン導電体として企画された。大学院の修了式を終えた後、残務整理として10日ほどでまとめた。導電体以外に数種類新規のホスファゼン誘導体を合成して楽しんだ。大学の研究生活が楽しくて上京するまで実験していた。
ポリアセチレンが発見された後だったので、研究の価値はほとんど無かったが、これが電気粘性流体用絶縁オイルの設計やLiイオン電池の電解質用難燃剤へのアイデアにつながってゆく。この経験から研究というものが時代の流れで大きな価値を失ったとしても納得のゆくまでまとめる必要がある、と学んだ。指導してくださった先生に感謝している。
会社を退職して満足な研究環境ではないが、会社で十分にやりきれなかったことについて見直しを進めている。セラミックスから有機高分子まで、タイヤや防振ゴムからSiC半導体や感光体、電子情報機器まで様々な材料や商品の開発を経験した。大学では体験できないことである。企業の研究開発の面白さでもある。
ホスファゼン導電体同様に今では研究開発テーマとして価値の無いものもあるが、少しずつまとめてみると、面白いことにそこから未来が見えてくるのである。これは経験者で無ければ理解できないことかもしれないが、一生懸命開発していたときには気がつかなかった技術の新しい応用方法が見えてくるのである。温故知新という言葉が好きだが不易流行という言葉が合っているのかもしれない。
技術の営みには不易のものがあり、それが新しい技術を生み出す原動力になるのであろう。ホスファゼン導電体を導電体として見ている限りでは、不易はわからない。しかし、PN環の特殊性は不易のものである。その特殊性は時代のニーズの流れの中で新しい発見も加わりいつの時代にも新素材として生まれ変わる原動力になっている。技術も製品化ではそれが具体化された姿しか見えないが、それを概念として眺めなおすと新しい機能を生み出す手段に見えてくる。
本欄ではサラリーマン生活32年間の研究開発生活を中心に書いているが、見えてきた未来について別途HPを立ち上げ未来技術をまとめる企画を検討中。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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「事故が起こるはずがない施設だった」と社長が謝罪したという。「20年間この作業をしているが事故が起こったことはない。なぜ起きたのかと思う」とも。事故は廃油から不純物を取り除く工程で起きたという。
事故原因はまだ明らかにされていないが、可燃性の油を使用しているならば100%事故が起きない、という保証を誰もできない。冒頭の社長の言葉は、福島原発の教訓を学んでいない発言である。
ゴム会社に入社し1年目に、実験室のオートクレーブの爆発事故を目撃したため、32年間研究開発に携わり、一番気をつけてきたことは安全対策である。オートクレーブの事故はもの凄い音だった。幸い安全対策が十分されていたので、操作していた女性は腰を抜かした程度だったが、恐怖感から同一業務を担当できなくなった。
事故原因は不明だった。ただ、圧力がかかりすぎたときに開くはずの安全弁にはゴムが詰まっていた。それが事故で詰まったのか、以前から詰まっていて機能しなかったために爆発したのか納入業者立ち会いのもと調査を進めても解明できなかった。
オートクレーブ中の反応はラジカル反応であり、その制御がうまくゆかなかった時には、爆発する。しかし、責任者は制御した反応条件なのでその可能性は無い、ときっぱり否定したために原因不明となった。ただ、化学をご存じの方は気がつかれたと思われるが、ラジカル反応が暴走したときにはもう手の施しようが無い。ゆえにそのような反応を扱う装置では、二重三重の安全対策が取られなければならない。オートクレーブの爆発事故では、三重の安全対策がとられていたので、音が外に漏れただけで大事故に至らなかった。
福島原発では安全対策が不十分だった上に、補助電源車のコネクターが合わない、とか温度センサーの電源が外れていたとか、工場の配管を詳しく知らない技術陣とかお粗末な事態が重なり、現在制御された状態になっていても怪しい事故(注1)が起きている。
事故は起きるものである、あるいは人間はミスをするものである、という前提に立った安全対策がされない限り、事故を防ぐことはできない(注2)。すなわち事故が起きても周囲に影響を及ぼすような大惨事に至らない安全対策が本当の安全対策である。
ちなみに使用済みの天ぷら油でも自然発火する危険性があることは主婦でも知っている知識である。油の中にラジカルを発生しやすい過酸化物ができるためで、昔は天ぷら油を何度も使用したので、それが原因の火災が何件か毎年起きていた、と聞いている。今回の火災原因の解明はこれからだが、可燃性の油を取り扱い、事故が起こるはずがない、と考えるのは危険である。事故は起きるものである、という前提が重要で、安全な作業職場でも必ずKYTは行われている。
(注1)例えば汚染水のタンクを傾斜した土地に設置し、高いタンクから低いところのタンクまで連通管でつなぎ、一番高いタンクだけに1本水位センサーを設置した汚染水漏れ事故は、どのように理解すれば良いのだろうか?汚染水を貯める前に、一番低いタンクから水漏れを起こすであろうことは、高校の物理レベルの知識ですぐに気がつくはずだ。
(注2)ボーイング787の二次電池の事故では、電解質は炭化して外に飛び出したが、飛行機には影響を与えていない。GSユアサの技術の賜物であるが、それでもその後さらに二重三重の安全対策に取り組んだと言うから凄い。確かにその後事故は発生していない。
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複合材料の設計にタグチメソッドは便利である。また複合材料の設計思想として強相関ソフトマテリアルの考え方はハードマテリアルにも使用できる。この両者の手法は時々材料設計に利用している。
25年ほど前にセラミックス製切削チップを企画した。当時SiCで鋳鉄を研磨できないと言われていた。表面にフェロシリコンが生成し摩耗速度が速くなるケミカル摩耗が進行するため、と言われていた。SiCをベースにした切削チップでこの常識にチャレンジした。
当時Si-Al-Cの3成分の相図について研究報告が出始めていた。またSi-Ti-Cに関する研究も行われていた。ゆえに情報が出始めたこれらの組成に着目し、プリカーサー法で元素を均一に混合する技術を使用し、S―Ti-Al-Cという新材料の合成を企画した。開発効率を上げるために実験計画法を用いた。ただし、ラテン方格の外側には、荷重を変えた硬度測定で観察される亀裂の幅を変数に割り付けた。
タグチメソッドなど知らなかった時代に、タグチメソッドの感度をラテン方格の外側に割り付ける実験計画法を行っていた。これは新入社員時代から開発戦術として統計手法にこだわり続け編み出した方法である。特性値をそのまま割り付けると実験計画法で見いだした条件で最適解が得られないことが多かった。ゆえに研究所では実験計画法が使われなくなったのだが、これをうまく使いこなすことにこだわり続け、相関係数を割り付ける方法を考案した。不思議なことに、この方法で行うとうまく当たるようになったので、愛用戦術の一つになった。
TEOSと、Alイソプロポキシド、Tiイソプロポキシド、フェノール樹脂を高速撹拌し前駆体を合成した。ここで、アルコキシドだけ事前に撹拌しておくとフェノール樹脂との反応をマイルドに行う事が可能になる。なぜかという理由は化学の専門であれば考えるとすぐにわかる処方である。SiC化の条件と同様にして、36種類の処方で粉体を合成した。得られた粉体をそのままHPにかけると、99%以上の密度まで全ての処方が焼結した。処方の中には、低温度で液相を生成する場合もあったので、36種の粉体でHPの条件は異なっている。
驚くべきことに、硬度計によりつけられた亀裂から求められるK1cが20を越える処方が一つ見つかった。他の処方は、高くてもせいぜい8前後である。ちなみにSiCは2-3と計測される。20以上というのはサーメット製の切削チップと比較しても遜色の無い材料である。電子顕微鏡で組織観察を行うと、大変細かい組織が得られていた。すなわち、焼結過程で液相が生成していてもSiCが異常粒成長を起こしていなかったのだ。
この材料で切削チップを作成し、東京都立工業技術試験所で評価して頂いたら、鋳鉄の研磨ができたのである。それを狙って材料設計したのだから当たり前の結果であるが、当時びっくりしたのと感動で、太い鋳鉄が何本も細くなってゆく評価実験を見ながら涙が出てきた。
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昨日高分子同友会講演会で表題の講演を拝聴した。経済産業省化学課長茂木正氏が化学産業の現状と未来についてまとめられた成果の講演である。現状分析についてうまくまとめられており知識の整理に役立った。
このようなうまくまとめられた講演を伺うと、見落としていたところなどが改めてクリアになる。ただ講演者の立場から原発について踏み込んだ内容は当然語られていない。3.11前後で原発政策の見直しが必要になった、という程度である。実は3.11前後で変わったことは多数あり、3.11がサラリーマン最後の日であった当方は身に染みて感じている。
小泉氏が脱原発を叫び始めたが、将来の脱原発についてはもう国民の総意ではないだろうか。原発が一度事故を起こせば経済的な損失は計り知れなく、最終処分場の話も含め本当はエネルギー価格が大きな発電方法ではないかと国民は疑っている。ただ、今どうするか、これが議論の分かれるところで、こわごわ脱原発を達成できるまで原発を使うのか、第二の福島が発生したら日本は終わり、と考え原発をやめるのは「今でしょ」、という判断が難しい。
しかし、この難しい判断について国会で決められるように明快な指針となる情報を経産省は出すべきと思っている。すくなくともこの判断ができる情報だけでも経産省はまとめる義務がある。
化学産業を巡る状況は現在厳しさを増すばかりであるが、経産省がエネルギー自給自足政策の可能性について打ち出せば新しい産業が動き出す下地ができはじめている。すなわちエネルギー自給自足に役立つ産業に対して将来投資を国が行えば、化学産業にもその波及効果が及ぶ。なぜならエネルギー自給自足を推進するためには化学産業が中心にならなくてはいけないからである。
仮にこの4-5年発電コストが急激に上昇したとしても20年先にはそのコストが回収される。しかし、民間ではそのような息の長い投資は不可能で国のレベルでやるべきである。今までの産業は原料を海外から輸入して発電し、その発電エネルギーで付加価値を出した製品を作り輸出するのが20年前まで資源の無い日本の有効な戦術であった。付加価値を出した製品を輸出する戦略そのものは今でも有効で、ただ化学産業はその戦略の中で高度成長期に損な役割に置かれていただけである。
これは、アッセンブリー企業における材料屋は下請けとなり良い処遇を受けられないという経験から出てきた視点である。例えばPPSと6ナイロンを相容させる技術を開発しても評価されず、それを複写機の部材である中間転写ベルトに仕上げて初めて成果として認められる状況は化学産業とよく似ている。
化学産業は素材産業から部材産業へ転換する機能性化学の道をこの20年歩いてきたが、ここへさらに国がエネルギー自給自足政策という方針で投資すれば、化学産業も大きく発展する。エネルギー自給自足が可能か不可能かという議論は無意味で、それを実現しなければ島国日本は生き残れない、と考えている。またそれができる環境と技術の下地がこの2年半の間にできてきたのである。3.11を不幸な出来事のまま終わらせるのではなく、日本のエネルギー政策を大きく舵きるきっかけとして位置づけ、その後の日本が幸せになる、というシナリオを作れるのは経産省である。
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