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2013.05/14 成功する技術開発(19)

1983年4月から無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学した。担当したテーマはSiC単結晶の線膨張率直接測定。X線四軸回折計のゴニオメーターに取り付けられた6Hや2HのSiC単結晶をレーザーで2000℃まで加熱し、結晶格子の座標系から線膨張率の異方性を直接観察する研究であった。市販されている接着剤の耐熱性が1000℃前後が限界なので、2000℃まで実験することができず、その接着剤を開発しなければならない。

 

科学で考えると大変難しい仕事である。しかし、このような問題は技術で考えると易しくなる。あるべき姿は、SiC単結晶がゴニオメーターに2000℃まで安定に固定されている状態を作り出せば良いのである。ゴニオメーターは金属でできた精密部品である。しかし、カーボンロッドの先に取り付けられた単結晶をレーザーで直接加熱しているので、40℃以上に上がっていない。残る問題はカーボンロッドとSiC単結晶の接合部分である。2H単結晶は1400℃で転移するのでカーボンとの拡散接合という手段が使えない。

 

世の中に存在する接着技術で2000℃までSiC単結晶とカーボンロッドを安定に固定することは不可能であるとすぐにわかった。技術的視点からは、安定に固定する機能をどのように実現するのか、という問題となり接着以外の固定方法を考えることになる。

 

2000℃まで安定な材料はカーボンがある。カーボンでSiC単結晶を包み、それを石英製の透明ガラスに不活性ガスとともに封入すれば技術として完成する。石英製の透明ガラスは、予め豆電球の構造に作っておき、その中にカーボンロッドとSiC単結晶、不活性ガスを封じ込めば良いのでガラス細工で何とかなる。有機合成実験ではガラス細工は必須の技能であったので、成功に至る手順は頭の中に具体的に描かれた。

 

残る問題は、どのようにSiC単結晶をカーボンで包みカーボンロッドに固定するのか、ということである。

 

<明日へ続く>

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2013.05/13 成功する技術開発(18)

無機材質研究所I先生との電話の中で、留学生受け入れ定員がすでにオーバーしていること、またセラミックスを事業としている会社の留学生を優先していることなどを知らされ、現状で専門外の研究者の留学は難しい、と断られた。しかし、2週間後のご講演予定を知らされた。電話でI先生の優しい人柄を感じられたので、2週間後のご講演後の面会に備え、猛勉強をした。また50周年記念論文の内容を高純度SiCの事業に絞りこんだ論文に仕上げた。

 

I先生の講演終了後1時間弱の面談で、専門外の研究者が今無機材質研究所へきても指導できないので留学生は単なるお手伝いとなってしまう現状を説明された。しかし、勉強は独学で進めることと、用意していた高純度SiCのビジョンを熱くプレゼンテーションした。この熱意が伝わり、後日会社の上司と無機材質研究所へ訪問することになった。

 

セラミックスフィーバーの始まる前から、無機材質研究所はファインセラミックス分野で世界の先端を走っていた。取締役と直属上司の3人でI先生を訪ねたところ、無機材質研究所長をご紹介された。研究所長は、以前勤務されていた大阪工業技術試験所時代にブリヂストンタイヤ㈱創業者石橋正二郎氏と親交のあった話をしてくださるとともに、「SiCという材料ならば㈱ブリヂストンが研究するにふさわしい。」、と会社の幹部を前に力強いアドバイスをしてくださった。

 

さらに、SiCという材料はエンジニアリングセラミックスとして注目を集めているが、高純度化できれば半導体分野でも有望な材料となること、そしてその耐熱性ゆえにパワートランジスターの材料として期待されており、将来電気自動車用の電装部品事業に進出できる、と夢のようなお話を語ってくれた。専門外の若者が書いた論文よりも迫力があり、会社の幹部とセラミックスの夢を共有することができた。

 

<明日へ続く>

 

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2013.05/12 成功する技術開発(17)

通産省(今の経済産業省)のムーンライト計画が引き金となりセラミックフィーバーが起きた1980年頃の話である。入社した会社が50周年を迎えた。CIを導入し、社名からタイヤが無くなり、「ファインセラミックス」と「電池」、「メカトロニクス」を新事業の3本の柱に育てる全社方針が発表されるとともに、50周年を記念した各種の行事が企画された。

 

その中の一つに会社の未来の夢を描く「50周年記念論文の募集」があった。経済学部の大学教授が選者でその企画は進められた。NHKテレビの特集「日本の先端技術」という番組の録画が、社内のテレビで何度も放映された。番組ではセラミックスフィーバーを取りあげていた。専門外であったが、会社の意図を汲み、セラミックスフィーバーを取り入れた論文を書くことにした。

 

ゴム会社のコア技術である高分子材料技術でセラミックスを合成する話を中心にして、材料科学分野で進歩が遅れていたセラミックス材料の研究開発が進み、新材料が技術を牽引するという内容でまとめ応募した。タイヤ会社で半導体事業を展開する夢のような話である、とその論文を自己評価した。しかし、極めてリアリティのある話でフローリーハギンズの理論との整合性を考えなければ研究論文として読むことができる内容であった。

 

同期の天才肌の友人がその論文を読み笑った。今回の記念論文募集の主旨は現実的な話では無く、もっと夢を膨らませた話を求めているのだろう、と。〆切は1日過ぎていたが、友人は事務局に電話をかけ、明日でも受け付けてもらえるのか尋ねた。驚いたことに8名の応募しか無く、事務局は職制を通じ改めて再募集をかけているとのこと。友人と二人で従業員の関心の低さに驚いた。

 

さて、同期の友人は1日で書き上げた論文を応募したのだが、なんとそれが主席となったのだ。内容は、牛の旨みと豚の繁殖力を生かしたトンギューなる生物をバイオ技術で生み出す話や、奇想天外なマリンスポーツの話がちりばめられていた。いずれも30年経った現在でも実現されていないユニークさでは抜群の内容であった。入選した論文はそれぞれの夢にあふれていた。高分子からパーフェクトセラミックスを合成し、その技術で事業を展開するという夢のような話と思っていたが、専門外の人が読むとすぐに実現しそうに思われる内容なので佳作にも入らなかった。

 

しかし、海外留学のチャンスが生まれた。人事部長に呼び出され、論文に書かれたことを実現したらどうだ、ということになった。うれしい話ではあったが、今更あれは難しい夢の話とも言いにくかった。世間ではセラミックスフィーバーの嵐がますます激しくなっていた。学生時代は有機合成以外勉強してこなかったので、大学時代の無機系がご専門の恩師に相談したら、海外に行くよりも国内の研究機関の方が技術が進んでいる、と教えられた。論文を調べてみてもセラミックスの研究は、当時日本が最も進んでいた。

 

恩師から無機材質研究所M先生のご紹介を受け、落選した50周年記念論文を持ってM先生をご訪問したら、I先生をご紹介してくださった。M先生は無機高分子からガラスを合成する研究を進めていた先生でしたが、論文に書かれた内容から高純度SiCを合成したら面白い、と言うことになり、SiCを研究していたグループのリーダーであるI先生をご紹介くださった。しかし、その日I先生は不在で改めて出直すことになった。人事部長に海外留学を国内留学に変更する了解を得た。

 

電話でI先生に面会のアポを求めたところ、セラミックスフィーバーの影響で無機材質研究所は日本企業の留学生で満杯である実情を知らされた。セラミックスフィーバーが始まってから研究所の規程が作られ各研究グループ3名という定員ができ、現在どこのグループも定員いっぱいであると言われた。

 

今更あの論文の内容は実現できない話です、とか国内留学先は満杯です、などと言えない。少なくとも実現できない話の部分だけでも何とかしようと文献調査をつぶさに行ったが、ファインセラミックスブームであるにも関わらず、無機高分子と有機高分子を均一に混合して高純度セラミックスを合成するという科学的に非常識なコンセプトの論文は皆無であった。自分で実現する以外に道は無かったが、アイデアはあった。上司に提出しボツになっていた企画に記載していたアイデアである。しかし、仕事の手順を間違え、少し困った流れになっていた。

 

<明日へ続く>

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2013.05/11 ミドリムシプラスチックの反響

ミドリムシプラスチックの反響は、予想外に少なかった。高分子同友会の講演で講師が「藻からオイルを抽出する技術に比較して注目度が足りない」と嘆いていたが、本当だった。バイオエネルギーは100円/lの壁が問題になっているのだが、ミドリムシプラスチックは、光学用樹脂を目標にすれば500円/kgでも充分に採算ラインになる。技術者ならば、そのラインは既に楽に越えていることを読み取らなければならない。

 

実は30年以上前、半導体用高純度SiCの企画を立てたときに上司から、指導とは言えない軽蔑に近い批判を受けた。しかし、その企画は紆余曲折の後、30年事業として続く仕事になった。上司は研究肌の人でコストがどのような展開をするのか読むことができなかった。しかし最もショックを受けたことは、実験室で購入していたポリエチルシリケートが、タンクローリーで購入すると1/10の価格になることと、実際に見積もり書を取った後の煩わしさだった。

 

業者からはいつから事業を始めるのか問い合わせが頻繁に来るようになった。また新聞社からも問い合わせの電話が来るようになった。上司からは見積書を取ったことをひどく叱られた。当方は企画書で上司から指摘された量産時の価格を調べるようにと指示をもらったので、そのまま材料メーカーに問い合わせただけだった。

 

入社して2年、まだ駆け出しの技術者に量産時の価格を調べよ、と調査方法も言わずに指示を出す上司とそれをまともに受けて見積書を取った部下とを見比べたときに、今ではため息が出るが、原材料価格が1/10になるのを見ても、企画を否定した判断はどうかと思う。最初から認められない企画であれば、そのように部下の指導をすべき役目が管理職なのである。

 

ミドリムシプラスチックは、まだ研究が始まったばかりであるが、射出成形体を実際に見て光学用樹脂としてパーフェクトポリマーと呼べるのではないか、と感じた。バイオポリマーなので分子量分布も揃っている。そして非晶性でTgも高い。少なくとも光学用ポリオレフィン樹脂よりも優れている実際のデータが揃えば世間の見方もかわるだろう。しかし、その時注目しても遅い。注目されていないが良いシーズを拾い上げ事業化に努力するのも技術者の大切な役目である。

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2013.05/10 ミドリムシプラスチックは光学用樹脂の本命!か。

昨日高分子同友会の講演会で産総研芝上先生のミドリムシプラスチックの研究成果を拝聴させて頂きま した。講演の中では詳しい説明が無かったのですが、プラスチックの物性と実際の射出成形体を見せて 頂いて驚きました。光学用樹脂の本命になるポテンシャルを秘めていたのです。コストの議論が出まし たが、現在市販されている光学用樹脂の値段を出席者の皆さんご存じないためでしょうか、射出成形体 を見て感動したのは私だけだったようです。

 

ミドリムシプラスチックはまだ市販されていません。しかし、光学用樹脂として液晶用フィルムに使用 されているTACと同様のプロセスで樹脂を製造でき、さらに精製しなくとも良い点はTACよりも優れてい ます。すなわちセルロースの精製で問題になるアルデヒド類が出ないので、量産すればTACよりも安価に なる可能性を秘めています。講演の中ではこれからの樹脂として紹介されていましたが、ミドリムシの量 産に目処がつけば、TACの合成プロセスを使って理想的な光学用樹脂を製造できます。既存のアペルやゼオ ネックスと同じレベルの価格で。 (ミドリムシは汚水と光を与えれば容易に増える!小学生の時、近くの畑の肥だめのプランクトンを顕微 鏡で見たら大半がミドリムシだった。今時糞で培養はさすがに難しいでしょうが、ブタや牛の屎尿処理と 火力発電のCO2利用と組み合わせれば環境技術になる!)。

 

ちなみにTgが高い非晶質樹脂もできており、光学用ポリオレフィン樹脂のカタログに記載されているTgと 同等以上の耐熱性です。光学用ポリオレフィン樹脂では、あまり知られていませんが80-90℃前後に 隠れているTgが存在し、見かけの耐熱性がこのTgで制限を受けます。

 

しかし一次構造から推定してもミドリムシプラスチックにはそのような隠れたTgは存在しないので、光学 用ポリオレフィン樹脂よりも実際の耐熱性が高くなります。さらに、光学用ポリオエフィン樹脂は結晶化 する可能性が存在しますが、ミドリムシプラスチックはアセチル化を工夫すれば(実際には工夫しなくて もできていたが)完全非晶質プラスチックも容易にできます。

 

汎用樹脂でミドリムシプラスチックを捉えたならば、ポリエチレンやポリスチレンとの比較になりますが、 光学用樹脂として捉えた場合には、光学用ポリオレフィン樹脂が比較対象になります。ご興味のある方は 弊社へお問い合わせください。

 

(本日は予定を変更して講演会の報告とさせて頂きました)

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2013.05/09 成功する技術開発(16)

成功する技術開発について、フローリーハギンズ理論を基に体験しことを思いつくまま書いている。多くの指南書に書かれていない事柄で本日まで指摘したことを少しまとめてみる。

 

1.技術開発の企画は、会社のあるべき姿を目標に真摯に企画されたテーマであるべきだ。

 

2.技術開発のテーマは、商品化段階に到達したならば、必ず成功させなければならない。

 

3.技術開発のマネジメントは重要であるが、現場担当者の高いモラールは失敗の淵にあるテーマさえも成功に導く。

 

4.科学で完璧に証明できるのは、否定証明だけで、科学的と言われている考え方の中には怪しい理論も存在する。

 

5.技術開発のシナリオは、複数のアイデアで構成すべき。好ましいのは、成功すると期待される道筋を否定する道筋までも考えられたシナリオである。

 

6.科学的に否定される手段以外は、可能性があると考える。技術の可能性は科学よりも広がりアイデアは自由である。

 

7.科学では真か偽か二者択一の選択になるが、技術では実現することが易しいのか難しいのか、あるいはコストがどれだけ許されるのかという選択になる。

 

8.科学では真実が重要であるが、技術では機能発現が重要となる。

 

9.機能発現の手段は、コストを無視すれば、その分野の科学的成果を越える数だけ存在する。

 

10.技術開発の途中で科学の真理が一瞬垣間見えるときがある。その方向に成功のヒントがある。

 

11.技術開発に失敗しても事故に遭わない限り命を落とす可能性は無い。明るく大胆に挑戦すべきだ。

 

12.技術開発の成功に不思議な成功は無い。

 

13.技術の成功要因には無形の力が存在する。技術の伝承の難しさの一つであり、成功体験を共有することで伝承できる。

 

14.知恵のある技術者は知恵を出し、知恵の無い技術者は汗を出し、努力を続ければ必ず成功する、と信じて開発を行えば必ず何か得られる。何も得られないのは努力が足りなかっただけだ。

 

15.努力とは自分の意志で楽しく続ける点で、根性と異なる。根性だけで技術開発は成功しない。

 

16.ロードマップよりも各担当者の技術シナリオが重要である。管理者は技術シナリオが各アクションについて成功した場合と失敗した場合のそれぞれの対策がどのようにとられているかチェックすることにより成功への道筋をマネジメントできる。

 

明日からは異なる事例で成功する技術開発について経験談を書いてみる。

 

<明日へ続く>

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2013.05/08 成功する技術開発(15)

福島原発の事例を考えてみる。津波は想定できなかったので天災である、とする見方は正しいだろうか。海辺に建設された原発で津波の被害ゼロはありえない。万が一のことまで考えて安全対策をとるのが原発建設で重要なはずである。津波が起こりうることまで考え、防波堤を築いたならば、その”防波堤の効果が無かった時の対策”まで考えなければならない。その対策が講じられて初めて万全な津波対策になるのではないか。

 

津波を想定していたから防波堤を作ったはずである。津波の高さはあらゆる地震を想定して決められなければならない。科学的な発生確率ではなく、想定される地震の規模の上限が大切である。これまで世界で発生した地震の最大規模でどれだけの津波になるのか分からないが、そのような時に発生した津波に備えておれば今回の事故は起きなかった。

 

一度事故が発生すれば取り返しのつかないことになるのが原発事故の特徴である。化学工場の爆発とは異なる、ということを考えて対策をとらなければならなかったはずだ。原発では事故発生確率0が目標と言われている。さらに福島原発では津波対策だけでなく、その後事故を大きくしたお粗末な問題が存在する。例えば、全電源喪失という事態となり、電源車を集めたところコネクターが合わず緊急事態に対応出来なかったとか、内部を観察するセンサー装置のコードが外れていたとか、信じられない凡ミスが報道されている。

 

外部電源を取り入れる準備ができていながら、コネクターが合わず機能しなかった、という問題で責任が問われないのは不思議である。津波の事故に限らず、全電源喪失という事象を考えたからこそ外部電源取り入れの準備をしていたのである。しかし、そのコネクターが合わなかった問題は、人為的ミスなので必ず責任が問われなければいけない。事故を大きくした原因は全電源喪失にあるとした見方がある。その視点に立てば電源車のコネクター問題は大きな問題のはずである。

 

福島原発の事故で誰も責任をとらないとしたならば、国民は政治不信となるであろう。少なくとも被害に遭われた方々は納得しない。防波堤の高さだけでなく、被害を大きくした人為的ミスも幾つか報道された。一方でこれだけの大事故を一人の責任者で責任が負えるのか、という意見も出てきている。

 

もしも、を考えてみても福島原発の問題は解決しないが、もしも電源車のコネクター問題が無かったならば大きな事故にならなかった、という仮説をあえて考えてみる。すると現場の技術者のモラールの問題が見えてくる。もし現場の技術者のモラールが高かったならば外部電源のコネクターの重要性をよく考え、あらゆるコネクターと互換性をとれる設備を提案していただろう。現在までかかった費用を考えるならば、あらゆるコネクターを用意する費用は大した金額ではない。過去の実績ではそのための費用は1万円以下であった。

 

かつて高純度SiCのパイロットプラントを建設したときに、高電圧電源のコネクターが複数存在するだけでなく呼び方も複雑であることが建設途中でわかった。すでに設備を発注した後で、あわてて仕様の再確認を装置メーカーへお願いした。それでも万が一に備え、高電圧のコンセントに適合するあらゆるコネクターを一組準備した。現場の担当者の発案である。そしてその準備は無駄にならなかった。再確認まで行っていたので装置メーカーがお客のために準備していてもよいケースであるが、某メーカーの納入された装置についてお客の準備したコネクターが役立ったのである。それは最も大きな設備であったので、お客の立場を主張し当日コネクター準備をお願いしていたら工期が1日延びた可能性があった。想定されることにすべて備えるのは成功する技術開発で大切なことである。科学的に発生確率が低いから準備をしない、というのは技術開発では許されない。準備不要が許されるのは、科学的に発生確率が0の場合だけである。

 

<明日へ続く>

 

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2013.05/07 成功する技術開発(14)

研究開発マネジメントに関する著作は多い。しかし現実の悩ましい問題を解決してくれる指南書を見たことが無い。理想的なマネジメントを行うことができたとしても、そのマネジメントの成否は開発現場で生み出される成果に左右される。開発担当者のマインドが不健全な場合には成功する技術開発を実践することは難しい。昨今はゆとり教育を受けた若者が開発現場に増えてきている。彼らのクールな目をどのように熱くするのか、難しい問題がある。

 

成功する技術開発で一番大事なことは、モデルでも良いから開発の初期段階でゴールに相当する“モノ”をまず造ってみることである。不完全でも良いから世間の技術を駆使して“モノ”を造ってみて開発の難易度を予測することである。現在世の中にある技術を駆使して“モノ”を造ろうとして“モノ”ができなければ、3年経ってもできない、と考える。不完全でも一応機能する“モノ”ができれば、あとは時間とコストの問題である。企画段階で何とか”モノ”ができたならば、時間とコストをかけて必ず造ることができる。時間とコストの問題に持ち込めれば技術開発の成功予測をしやすくなる。コスト削減が困難であれば企画を中止する。時間はマンパワーで調整可能である。

 

必ずできる技術手段を一つ見つけることができれば、技術開発シナリオを考えやすくなる。但し、この技術開発シナリオを考える時に、必ずできると思われる技術手段が失敗したときのことも考えなければならない。全く異なるコンセプトの技術手段を考えても良いし、コンセプトが同じアイデアでも構わない。とにかく2つ以上の技術手段を用意してシナリオ作りをしなければならない。弊社の研究開発必勝法ではそのシナリオの作り方も指導している。

 

この技術開発シナリオで大切なことは現場に密着したシナリオを作ることである。ロードマップとは異なる発想が必要となる。市販の研究開発に関する指南書の中にはロードマップを重視している考え方があるが、研究開発の成否が現場の成果に左右されることを考えると現場に密着したシナリオの重要性がわかる。マクロな経済の動きも研究開発に影響を与えるが、研究開発にまつわる経営環境の問題は多くの書籍で取り上げられている。しかし多くの書籍で取り上げられている注意を払って、完璧と思われるマネジメントを行っても失敗する”不思議な失敗”が存在する。

 

成功する技術開発では、不思議な失敗を無くすことが大切で、外部要因の失敗は、もし企画段階で充分な解析が行われていたのなら避けられない失敗とあきらめるべきだろう。他社の技術開発に携わっている方と研究開発マネジメントに関する議論をしたときに、世間に不思議な失敗例が多いと感じた。外部要因の変化等明確な失敗は残念であるが誰でも納得する。しかし、不思議な失敗は開発担当者のモラールを下げる。

 

研究開発マネジメントが悪くても成功例はある。それらはすべて現場の努力の成果である。現場の努力の成果を引き出すマネジメントが重要で企業風土以外にも現場のスキルといった課題がある。

 

<明日へ続く>

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2013.05/06 成功する技術開発(13)

製品化を半年後に控え、絶縁体の樹脂と6ナイロン樹脂、カーボンの配合系について思い切った施策を打てる状況になった。6ナイロン樹脂とχの小さいナイロン樹脂の併用系はコンパウンド納入メーカーに任せておけば仕事は進む。6ナイロン単独系で得られている実験結果は科学的な視点で電気特性を均一にできても6ナイロンのドメインサイズを小さくできないので靱性の低いシートとなる。許されている技術手段はコンパウンドの購入先変更、すなわちコンパウンドのプロセス変更という手段だけである。

 

現場で許されている技術手段の中で最大限の努力をする。これは成功する技術開発のために重要な姿勢である。32年間の技術開発経験の中で上司の指示で残念ながら手を抜かざるを得ない状況(注)もあったが、最大限の努力を行った時には必ず何か得られた。不思議なことに真摯にその技術を追究すれば必ず何か報われた。成功体験は重要と言われるが、2-3度経験すると手を抜かざるを得ない状況以外一生懸命努力する習慣がつく。企業風土も影響するが、技術者の育成過程で成功体験を積ませることは大切なことである。裁量権の与えられたテーマをすべて成功することができたのは成功体験によるところが大きい。

 

6ナイロン単独系ではプロセス開発以外に技術手段は残っていなかった。中古の二軸混練機を購入し検討を始めた。二軸混練機の運転は初めての経験であった。スクリューのセグメントは最も剪断力のかかるセグメントに設定しコンパウンドの開発を始めた。2000年頃に高分子精密制御プロジェクトが国研として推進されたが、その時伸張流動が樹脂の混練で重要と言われ、ウトラッキーの伸張流動装置(EFM)も検討された。EFMは、量産に対応出来ない装置であったが、伸張流動でナノオーダーまで混練が進むことが確認された。世間で伸張流動に注目が集まった。

 

伸張流動を重視したセグメント構成が当時の流行で剪断流動を重視したスクリューセグメントは時代遅れともコンパウンドメーカーの技術者から教えられた。しかし、それでも剪断流動を重視したセグメント配置にこだわった。理由は混練効率が高いからである。カーボンブラックの分散を行うには剪断流動が必須と新入社員の時にゴム会社で習った技術の教えを忠実に守った。

 

混練温度とスクリュー回転数、投入量などを因子にL18実験を行い、得られたコンパウンドの写真を見たところ、外部から購入していたコンパウンドとカーボンの分散状態が変わっていた。外部から購入したコンパウンドの高次構造はやや微細に見えたが、カーボンブラックだけに着目してみると外部から購入していたコンパウンドでは、6ナイロン相にカーボンブラックが取り込まれていなかった。しかし中古の混練機で分散した場合にはナイロン相にカーボンブラックが取り込まれ、その相は大きかった。

 

完全ではないが、二軸混練機でもバンバリーで混練した場合と類似した高次構造のコンパウンドが得られることが分かった。コンパウンドを購入しているメーカーの技術者から素人の考えと一笑にふされた混練条件ではあったが、あるべき姿に近い構造のコンパウンドが得られる感触を得た。さらにカオス混合にも挑戦した。技術の詳細は弊社に相談して頂きたいが、二軸混練機でもカオス混合と類似の混練ができる。

 

驚くべきことに、絶縁体樹脂と6ナイロン樹脂はχが大きいにもかかわらず、透明な溶融体樹脂が吐出口から出てきたのである。その条件でカーボンブラックを添加してコンパウンドを製造したところ、あるべき姿と一致した高次構造を有するコンパウンドが得られ、そのコンパウンドを用いて半導体シートを製造したところ、電気特性の均一性が極めて高いシートが得られた。さらにシートの延伸条件を調節すると抵抗調整を1ケタの範囲でできることが分かった。

 

すなわち科学では否定的な答しか得られない配合でも技術で問題解決できたのである。さらにその問題解決手段では、必ず成功すると思われ外部メーカーに依頼していたコンパウンドよりも品質が高い半導体シートを容易に製造することができた。外部メーカーに依頼していたコンパウンドの場合、品質は劣り歩留まりは悪いが、一応製品仕様を満たす半導体シートを得ることができた。短時間の開発ではあったが、思い切った施策で、失敗すると懸念されたテーマが大成功の成果を生み出した。

 

<明日へ続く>

(注)研究開発管理を厳しく行うと成功とはほど遠い結果となる場合がある。組織活動において現場の担当者は上司に従わなくてはならない。技術開発では現場担当者の裁量をある程度認めたマネジメントが好ましい。なぜなら最新の実験情報に最初に接するのは現場の担当者である。

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2013.05/05 成功する技術開発(12)

本来中断すべき判断が正しい、と思われる状況でもその判断が出されず、研究開発が続けられる場合がある。いろいろな原因がそこにはあるが、技術内容の共有化という作業が難しいこともその一つである。

 

例えばポリマー電池だから軽量化でき、将来の電気自動車用二次電池として有望といって学会賞を受賞後、研究企画を行った受賞者が転職した事例が存在する。その後二次電池は比重ではなくエネルギー密度が重要とわかり、ポリマー電池では勝ち残れないとの判断で事業は中断された。学会賞目的に事業として難しい企画をプレゼンテーションスキルの悪用で提案してくる輩もいるのである。技術開発を中断するのか進めるのかは、容易に判断できるケースばかりではない。

 

企画担当者が科学的なウソで固めた企画を提案してきたときには、ウソを見破らない限り正しい経営判断を出せない。ウソとまでいかなくとも都合の良いデータだけで説明する輩もいる。本来企画担当や実際に研究開発を担当している人は経営者のことも配慮して研究開発を推進すべきであるが、理想とかけ離れた現実が稀にある。

 

ゴム会社で半導体用高純度SiCを開発したときに一人で苦しくとも死の谷を歩き続けたのは先行投資をしてくださった経営陣の期待に応えるためであった。このような真摯な姿勢は必ず後継者にも伝わる。その結果30年事業が続き、技術の基本となるアイデアを実現し事業立ち上げまで行った企画担当者がメンバーに入っていない学会賞の受賞例も存在する。しかしいつでもこのような真摯な姿勢の企画担当者ばかりではないのである。

 

科学的に考えると中断しなければならない状況でも開発が続けられている時にどうするのか。このような状況では技術で開発をやり遂げる道を担当者は必死で考えなければならない。6ナイロン樹脂の6をとった一般のナイロン樹脂を使うという技術的発想が認められなければ、例えば他の技術手段である6ナイロン樹脂と他のナイロン樹脂との併用を承認してもらえるように目指すのである。この時、6ナイロン単独系での検討も進めるが、併用系も了解して欲しい、と検討会議で提案すれば”NO”という判断は出ない。製品化を半年後に控えて成功確率の高い技術手段を選ぶ、という選択を有能な経営者であれば誰でもする。

 

6ナイロンを使用した時に6ケ月後成功する場合と失敗する場合の2つのケースを示し、失敗するケースについてナイロン樹脂を同時に添加した系で成功に導く、と説明すれば製品化間近なのでその意見に反対する経営者はいないはずだ。

 

この後、研究開発の進め方は真摯な担当者とそうでない担当者に分かれる。科学的視点から6ナイロン単独系ではうまく行かない、と思われるので実験計画から外す、という考え方は不誠実である。たとえ6ナイロンと絶縁体樹脂に相溶しうるナイロン樹脂との併用系の検討が科学的見地から成功への近道と分かっていても、6ナイロンでもうまくいく技術の可能性を現場の担当者は最後まで真剣に考えなければならない。それが企業の技術者としての義務である。科学的にだめだ、と思われても技術の可能性を真摯に追求しなければいけない。ただし熱力学的に完全に不可能と判断が出されている永久機関のようなテーマはこの限りではない。しかしすでに説明したように世の中の科学的理論の中には怪しいものが存在するので技術者は科学的理論の正しさを実務の中で検証してゆくという姿勢をとる必要がある。

 

ワークライフバランスなどの考え方やサービス残業に対する批判から労働者の時間管理が厳しくなっているが、テーマ検討会議で検討課題にあげた以上可能性が低いと思われても最大限の努力をするのである。時にはヤミ実験も必要になる。

 

ナイロン樹脂併用系を認められた以上失敗の可能性は無くなったのだから、6ナイロン単独系の技術開発はだめでもともとと、大胆なアクションをとることが可能である。製品化半年前に技術的な“博打”を打っても良いようなチャンスが生まれた。また、最初に”モノ”を作り成功する道筋も用意できているので挑戦的なアイデアを失敗しても製品化計画への影響は無い。技術の挑戦をするのは今しかない、という状況を作り出す研究開発マネジメントは、新しい技術を生み出したいときに有効である。

 

<明日へ続く>

 

 

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