バンバリーの使用方法にもノウハウがある。バンバリーはゴムを投入して5分から10分程度混練するだけの操作、と思っている人が多い。投入順序や混練する組成、投入量の容積比などの加硫ゴムの物性を左右する因子は多い。また、バンバリーで加硫ゴムの最終組成を混練しない場合もある。すなわち一部の添加物をバンバリーで添加せずロール混練で行う、というケースである。
また、バンバリー投入前にロールでゴムを素練りする場合もある。バンバリーの使用方法に制限は無い。但しバンバリーのロータは剪断力が大きいので長時間の使用はゴムの分子量低下を引き起こす。そのため長時間の混練は通常行われないが、ある樹脂について投入量を少なめにして30分ほどバンバリーで混練したところ、分子量低下は起きず二軸混練機では得られない効果が出た経験がある(注)。
このようなバンバリーの特殊な使用方法と混練物に与える効果のデータはあまり公開されていない。これは余談だが、樹脂の混練にバンバリーを使用する例は教科書に書かれていない。しかし二軸混練機で期待したような樹脂の混練物が得られない場合にはバンバリーを試してみると良い。バンバリーはゴム専用の混練機ではなく樹脂も混練することができ、二軸混練機では達成できないレベルの混練物が得られる場合がある。最近はバンバリーの性能を出せる連続運転可能なニーダーも開発されているので特殊な性能が要求される樹脂の混練でバンバリーを検討する価値はある。
バンバリーはバッチ操作なのでコストに与える影響も大きい。しかし加硫ゴムにおいてこのプロセスは物性に影響を与えるのでコスト重視のプロセシングになっていない場合がある。しかしバンバリーを匠に使用し加硫ゴムの物性を創り込んだ場合にこの効果は後工程のロール混練で隠れてしまう。このため加硫ゴムのリバースエンジニアリングを難しくする。
さらに加硫ゴムの混練ではバンバリーを使用せず、すべてロール混練で行う事もできるのでバンバリーのプロセスはさらにブラックボックス化される。但しバンバリー混練の効率はロール混練よりも高いので、ノンプロ練りでバンバリーを使用しないケースは稀である。加硫ゴムのリバースエンジニアリングで配合組成が分かっても物性を再現できない場合には組成物の添加順序を検討してみると良い。そこからノンプロ練りにおけるバンバリーの使用方法がおおよそリベールできる場合がある。
バンバリー投入前のゴムの素練りについては、リバースエンジニアリングで解明できない。どのようなゴムでこの操作を行うのかについても詳しく書いた教科書は無い。このあたりの技術については経験知を持った技術者に指導を受けるのが賢明である。
(注)ある樹脂について特許を出願しているが、その特許にはバンバリー投入量と投入順序の詳細を実施例に書いていない。しかしバンバリーを使用しなければ達成できない高次構造を実現している。換言すればその樹脂組成の高次構造を見ればバンバリーの使用を特定できるのである。
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ゴムはバンバリーとロールで混練を行う。この混練というプロセシングについて、その分野の参考書には、装置の説明はあるが、その作業の方法が詳しく書かれていない。ゴムに限らず他の材料の混練に関する記述は主に装置に関する説明ばかりである。しかし、ゴムや樹脂などの高分子を混練するときに装置以外で材料物性に関わる因子が多く経験知が無いと材料開発が難しくなるのが混練技術である。
すなわち装置を購入し特許の実施例をそのまま実施しても再現できない場合が多いのが混練プロセスといえる。そもそも高分子材料の物性は、プロセシングの影響を受ける、ということが教科書にも書かれていないことが問題だ。高分子は大別すると、ゴムと樹脂、そしてその中間のTPE(熱可塑性エラストマー)に分かれるが、ゴム物性は最も混練プロセスの影響を大きく受ける。
ゴムの混練プロセスは、ゴムの種類により様々である。まずこのことがよく理解されていない。バンバリーとロールを用いて加硫ゴムを混練するのだが、バンバリーとロールの組み合わせプロセスは無限に存在する。しかし、多くの教科書には最初にバンバリーで混練してその後ロール混練を行う、という記述程度しか書かれていない。これは多くの加硫ゴムの混練プロセスの一例である。
そもそも最初にバンバリープロセスが行われることが常識になっているが、ロール混練が最初に行われ、その後バンバリー、ロール混練と実施される場合もある。あるいは、バンバリーを用いずにロール混練だけでゴムを練り上げる場合が存在する。同一配合でそれぞれのプロセスで混練を行うと、混練して加硫されたゴム物性は皆異なる。どのプロセスが選択されるかは、加硫ゴムの配合により異なる。そしてゴムの配合とプロセスの組み立ては経験的に決められる。
プロセスの組み立ては経験知でノウハウの塊である。ゴム会社の指導社員は大変優秀な研究者であると同時に職人技も持っていた。ゴム材料の開発はまず職人の技を盗まなくては始まらない、というのが指導社員の口癖であった。ゆえに最初の1ケ月は毎日座学と実験室の繰り返しであった。おかげで職人技まで獲得するには至っていないが、経験知を充分に学ぶことができた。プロセスの組み立ては最初に決めなければならないが、加硫ゴムの物性により見直す必要がある重要項目、というのは大切なノウハウである。
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第54回電池討論会JFEテクノリサーチの発表について、別の側面からも感心した。それは機密情報に対する姿勢である。発表内容は、電極反応に関わる情報でその情報を得るための技術は高くどこの企業でも簡単に得られる情報ではない。このような情報についてともすれば機密情報として学会報告を認めない会社もある。
まず機密情報については、情報セキュリティーISO27001に基づくが、品質マネジメントISO9001に準拠して考えると、各企業の判断に任されていることになる。また、その判断の結果を文書として残し管理している情報がその企業の機密情報である。
研究開発の情報を外部発表する場合には、外部発表の許可願を提出することになるが、その時の判断で研究開発成果がその企業にとって機密かどうかが決まり、何を機密としているかにより企業の判断能力の高低を知ることができる。すなわち何でも機密扱いにする企業は判断能力が低く、機密を管理していないのと同じ状況になる。なぜならそのような管理方法では企業活動でどんどん機密が増加しやがてコストの増大を招き管理できなくなるからである。ゆえにISO9001の文書管理が重要になってくる。
それでは技術情報の場合にどのような判断で機密扱いにするのか。それは機密にしなければ守れない技術についてである。例えば技術開発の成果の多くは特許によりその権利は守られるが、特許にできないノウハウは機密扱いにしなければ守ることができない。ゆえにそのようなノウハウは機密情報として機密文書に残し、しっかりと管理しなければならない。そしてこの管理されている情報がその企業の機密情報となる。
ちなみに公開された特許情報の技術は機密扱いにしない企業がほとんどである。但し、公開された特許情報の重要度や他社特許との関係性については機密扱いになる場合がある。すなわち情報の組み合わせについてその考え方が企業活動に大きな影響を与える場合には機密扱いにしなければならない。そしてこの結果は機密文書として残すことになり、機密文書として管理されている間は機密情報である。
ところで科学的成果は機密扱いにすべきかどうか。純粋な科学的成果は、いずれどこかの機関から公開される運命にあるので機密扱いにしない企業は多いが、ここで企業の技術力が試されることになる。すなわち科学と技術を正しく理解し、公開の判断を下せるかどうかは技術力に依存する。
JFEテクノリサーチの発表はこの観点で見事であった。純粋に科学的成果に絞って発表されており、そのメカニズム仮説については現在検討中としたのだ。昨日も触れたが、発表された成果から仮説を立てることは容易な状況である。しかしもし発表内容がどこかの企業の情報を参考にしていたときにメカニズムの仮説が機密情報に触れる場合がある。このような微妙な場合には、純粋な科学的成果だけに絞って情報公開するほうが無難である。その判断のメリハリが発表内容から伺われた。
科学情報や技術情報をどこまで機密扱いにするのかは、技術に関する判断になるのでその企業の技術力を知る尺度になる。また企業活動から得られた科学情報や技術情報の積極的な公開はその企業の技術力のPRになる。この時の判断において科学と技術を正しく理解しているかどうかが重要である。機密情報は文書管理で決まるが、その基準を決めるためにも科学と技術の目的を正しく理解する必要がある。
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今週は3連休になり、今日はその初日。今週は久しぶりに刺激の多い1週間だった。特に電池討論会は面白い発表が幾つかあり、楽しむことができた。その中でもJFEテクノリサーチの発表は、半沢直樹の倍返し以上の面白さであった。
JFEテクノリサーチの発表のどこが面白かったのか。それはLiイオン二次電池の負極材料として注目を集めているシリコン(Si)を扱っていたからではない。ただそれだけならば、AKB48をゲストに迎えた歌番組と同じで大した魅力は無い。AKB48のセンターがその番組で突然卒業発表するという程度の衝撃も越えた面白さである。
Liイオン二次電池でSiを負極に用いた時には、カーボン負極のようなインタカレーションではなく合金化によりLiイオンが安定化する。かつてソニーが「Liイオン二次電池」と「イオン」という言葉をわざわざ用いたのはLi金属を用いていないので安全をアピールするためと言われているが、これは安全で高容量のLi二次電池を設計するときの設計指針でもある。
すなわち、Li二次電池では、Li金属の形態で析出しないように設計することが二次電池の安全につながる、という考え方である。Si負極ではインタカレーションではなく、合金化によりLiを安全な形態にでき、さらに高容量化できるので注目を集めている。ちなみに最も高容量化できる負極はLi金属を用いたときであるが、Na金属やLi金属は水分と接触すると発火するので負極に用いることはできない。
現在のところLi二次電池を高容量化するのにSiが最も安全な負極材料であるが、Liイオンを合金化すると体積膨張が生じ負極がぼろぼろになる。ゆえにLiイオンを安定に合金にできるSi負極材料はそれなりに工夫した設計が重要になる。この材料設計において、技術的に試行錯誤で有望な材料を試験して見つけてゆく方法とJFEテクノリサーチの発表のように科学的に一歩一歩攻めてゆく方法がある。電極材料は後者の方法が良いように思うが解析技術や装置において一企業では難しくアカデミアの仕事と思っていた。
昨今のアカデミアの状況は企業の開発に近いような研究をされている先生が多く、やや残念に思っているが、アカデミアも30年前に比較すると厳しい状況になってきたので仕方がないのかもしれない。しかし、JFEテクノリサーチで行われたような研究はアカデミアから発表があるべき内容と思われる。そのくらい質の高い研究発表であった。
その内容については先日書いたが、LiイオンがSi結晶と合金化するときのメカニズムに関わる研究で、Si結晶の特定の面からLiイオンがSi結晶内に拡散するという内容である。充分な分析データを解析して得られた結論であるが、この結論はSi負極の研究が、Si単結晶を用いる半導体分野の研究や有機合成における有機金属であるSi化合物を用いた合成反応とつながってゆく面白さがある。この面白さはAKB48の突然の解散劇(はまだ行われていないが)よりも面白い。
すなわちある程度は予想されたが、実際に起きた現象は筋書きからずれていた、という面白さである。LiイオンがSi単結晶と合金化する機構については、Si単結晶のエッチングや、Siの種結晶を用いた結晶成長、あるいはSi基板上におけるGaNの結晶成長などを観劇してきた人には筋書きが見えていた。しかし実際に演じられた結果はむしろ有機金属化合物の反応機構までつながる面白さがあったのである。
JFEテクノリサーチの発表は、麻里子様の卒業発表よりも数段おもしろかった。アカデミアではなく企業の研究である点にも注目すべきである。今の日本は産業界がアカデミアに負けないぐらい基礎研究の力をつけているのである。技術が科学を先導する時代なのかもしれない。
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昨晩高校の同窓生で東京在住者が毎月集まる東京旭丘会月例会(旧東京愛知一中会)の当番だった。そこでボーイング787の機長を務めた同期の小川良君(今年すでにJALを定年退職)に講演をして頂いた。彼はフジテレビの「矛x盾」で放送された飛行機マニアとJALの対戦にJAL代表として美人の客室乗務員町田さんと一緒に出演したTV映えのする二枚目である。
講演内容は同窓生対象なので表題の話題以外に彼の機長として、あるいはJALの元社員としての興味深い飛行機の話が大半であった。ただ、表題の話題については技術という側面を分かりやすくプレゼンテーションしていたことと、以前本欄で紹介したこともあるのでここで話の一部を取り上げた。
ボーイング787が最新鋭機として他の767や777はじめその他の7シリーズと比較しどこが優れているのか、という話の中でバッテリー不具合対策が紹介された。あくまでも同窓生対象なので、プレゼンテーションでは難解な技術用語は飛び出さず分かりやすい説明であったが、ここでは技術的に翻訳して要約する。
バッテリー事故では新聞でも紹介されたように原因解明には時間がかかり終結までの見通しが不明であった。但し、バッテリーそのものは本欄で紹介したようにGSユアサの技術力で、エラーが起きても火災を引き起こすまでに至らなかった(注1)。
そこでバッテリーに予想される不具合108項目(実際に発生するかどうかは別にして科学的に考えられることすべて)を再度見直し、対策が不十分と改めて判定された80項目(すでに対策が取られていてもリスクがあると思われる項目)すべてに新たに3重の対策を施したという。その一例が写真とともに紹介された。
この話は品質工学のFMEAという手法を3重に行っている、という内容である。このFMEAという手法は、科学の時代でも科学で解明されていない現象を含む技術の品質保証ではメーカー各社どこでも行っている“はず”の手法で、経験が積み重ねられれば品質の信頼度を急激に高めることができる。108項目についても初めてのフライト前に当然行われていた。しかし原因不明の事故が起きた、ということで重要な80項目についてさらに3重に対策を行った、という。一例では過剰品質といえるところまで行っていた(注2)。JALの安全に対する厳しさが伺われる説明であった。
電池というものは、イオンの拡散という現象で科学的に説明ができるが、その耐久性も含め、科学的に完全に説明がつかない現象も多数存在する商品である(高度な技術の商品は皆この問題を抱えている)。本欄で科学と技術を科学技術という曖昧な言葉で集約するのではなく、技術開発でそれぞれの目的が異なる点を重視している一因であるが、科学の成果と思われている商品すべてが実は技術の成果で創られており、その中には現代の科学で解明できない現象が商品に含まれている問題に改めてここで取り上げたい。
技術の成果に科学で解明されていない現象が含まれているかもしれないのでFMEAというヒューマンエラーを防止する対策を行うのである。ただ、ここで注意しなければいけないのはFMEAそのものは科学的視点で行われている、ということだ。すなわちFMEAを行っても科学で理解されない現象が起きればせっかくの科学的論理で導かれた対策をくぐり抜けてエラーが発生する。このようなエラーは科学で理解できないので「経験」という行為を積み重ねる以外に防げないのである。
ゆえに市場でエラーが発生する度にFMEAを繰り返しているのがメーカーの品質管理のやりかただが(注3)、それを一気に3重まで一度に行う、というやりかたは初めて聞いた。だからボーイング787は今無事に飛べるのである。
傾斜のある土地にタンクを並べその最上段に1個だけセンサーをつけて安心して汚染水を垂れ流していた東京電力はJALを見習うべきである。科学の初歩的な学力があれば分かる現象でミスが発生する間抜けな状態(注4)というのはFMEAが行われていないことを意味している。
(注1)飛行機には発電装置が8基あり、これがすべて壊れたときにさらに2基あるバッテリーが使われる、という安全に安全を重ねた多重の対策が成されている。ゆえに新聞で報道された事故で飛行機が墜落することは無いそうだ。
(注2)関連メーカー技術者を含めた企業の横断的プロジェクトで推進された、ということでGSユアサの技術者も加わっていたはずである。
(注3)車のリコールは恥ではなく技術を高める活動の一つである。ゆえにそれを隠蔽するのは罪だけでなく技術開発を放棄している行為である。
(注4)今回の汚染水漏洩は、連通管と同じ原理に設計してセンサーを1個にした、というならば間抜けな対策である。傾斜した連通管で一つだけセンサーをつけるならば傾斜した最も低い位置にある管にセンサーを1個取り付けるのが常識である。傾斜した連通管の最も高い位置に取り付けたのは、「間抜け」か「意図的」なのかどちらかである。もし後者ならば犯罪である。永遠に水を貯めることができるタンクと称して汚染水をこっそり垂れ流すことができるので今回の事件は犯罪の可能性もある。犯罪でなければ東電の技術者は中学生レベルと見なすべきである。
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第54回電池討論会では、電気自動車やハイブリッド車の話題もあった。環境問題の解決策として電気自動車は取り上げられるが、電気自動車が使用する電気の発電方式が火力発電であると、その普及が必ずしも環境対策にならない場合がある、との指摘があった。これは日本の脱原発の動向とともに考えなければならない問題だろう。以前問題になっていた給電スタンドについては都市圏で電気自動車を使用する限り解消されたとの説明があったので、そろそろ普及期を考慮しての問題提起と思う。
ハイブリッド車は電気自動車普及までのつなぎ、とその登場時から世間で思われているが、産総研の方のこの講演を聴き、少し認識を変える必要を感じた。個人的な話題になるが、おそらくこの2-3年の間に車を買い換えるとしたら人生最後の車になるかもしれないので、車関係の講演を選んで聞きマイカー選択について考えてみた。
ハイブリッド車といえばその登場時トヨタの独壇場であったが、ホンダがその市場に参入すると面白い比較広告がトヨタからPRされた。それは二人乗り自転車の比較広告で、老人と子供の乗った自転車と筋肉もりもりの若者が二人乗った自転車との競争である。大変分かりやすい広告であった。しかしこの公告の甲斐無くホンダのハイブリッド車は市場に歓迎された。
今年になってスバルからXVというSUVのハイブリッドが登場した。スバルはトヨタとの提携関係にあるので、トヨタ方式のハイブリッド車が登場したのかと思ったら、ホンダ方式でモーターが小さいハイブリッド車であった。ただホンダと異なるのはエンジンと直結していないので、モーターだけの走行も可能になっている。
ハイブリッド車に関してはメーカー発表の燃費と実燃費の違いが問題にされており、やや胡散臭い車と思っていたが、スバルはハイブリッド車の魅力としてターボチャージャーのような役割として捉え、燃費向上を考えていない、と新車発表時に説明があった。この潔さに魅力を感じ、試乗してみると、2000ccの排気量であるが、一クラス上の車のような運転感覚である。
プリウスはどちらかと言えば電気自動車的な未来感覚であったが、スバルXVはターボチャージャー付きの車をさらに改良したようなガソリンエンジン車という感覚のハイブリット車である。アクセルを踏み込めばポルシェと同じ水平対向エンジンの気持ちよい加速感である。WRXのような過激さはないが、アクセルに対する加速感の応答が自然である。加速感としてはホンダのCR-Zも面白いハイブリッド車であったが少し気恥ずかしさがあり購入を見合わせたが、XVは大人のハイブリッド車という印象を受けた。問題は車高の高さである。
トヨタの比較広告でハイブリッド車はトヨタというイメージを持っていたが、ホンダやスバルのようにエンジンをモーターでアシストするハイブリッド車という発想も悪くない。ターボチャージャーのような低回転域の非力さが無いので高排気量の車を運転しているような錯覚になる。
プリウスでも実燃費はカタログ値の60%から70%である。ハイブリッド車という技術を燃費改良という視点ではなく、ガソリン車の性能向上という発想で活用したスバルXVは、人生最後に選ぶ車の候補に考えても良いのかもしれない。実燃費もプリウスより1-2割悪いだけである。同じ価格で二クラス上の車という印象を与えるXVの商品価値は高い。少し値段は高いがホンダの話題の車アコードにも試乗してみたい。
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今週月曜日から水曜日まで大阪で表題の討論会が開催されている。昨日時間を調整できたので参加した。このような討論会の良いところは技術のトレンドを瞬時に把握できる点である。
例えばLiイオン二次電池の負極に数年前から注目が集まっていたが、Sn系はもう時代遅れで、Si系も技術開発のピークになって最終完成系ができているのでは、と思われる雰囲気であった。
Si系負極を採用した電池については昨年既に上市されたが、まだ理論容量に到達していない。実験室では到達していても実用系ではまだまだ問題がある。その問題解決につながるかもしれない、興味深い発表がJFEテクノリサーチからあった。
金属SiにLiイオンが拡散する時に<101>面から選択的に入り合金を形成するそうだ。貴重な分析データが公開されたが、このデータを見るだけでも新幹線代は高くない、と思わせる内容だった。
金属Siをそのまま負極に用いることができないのは充放電で大きな体積変化が生じる為で、Liと合金化すると負極がダメージを受ける。ただ一度膨張した後収縮はせずそのまま充放電ができる点が少し不思議だったが、発表内容からその現象を理解でき、新しいSi系負極のアイデアが浮かんだ。
Liイオン二次電池はブリヂストンから発売されたポリアニリン正極の二次電池が最初だが、登場してから30年以上経ち性能は著しく向上した。時期尚早と思われていたが飛行機にも実用化された。そしてGSユアサの技術力もあり、万が一電池が壊れても火災の原因にならないことを証明した。
これはNAS電池の事故後の事件でもあり、あの程度で収まったことは驚くべきことである。恐らくLi二次電池の負極開発競争はあと2-3年で終了し、電池の部材のコストダウン競争が始まるものと思われる。
昨年電池材料を開発している友人から面白いジョークを聞いた。海外で学会がある時に電極材料メーカーの社員はエコノミークラスに搭乗するが、電解質メーカーはビジネスクラスに乗っている、という話である。
電池討論会を聞いているとLi二次電池の液体電解質についてはもう企業の技術開発が完了している印象を受けた。今Li二次電池のホットな話題は、電解質を固体にした全固体Liイオン二次電池に移っている。
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溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームの難燃化に燃焼時の熱で無機高分子(ガラス)を生成するシステムを検討した。予想通り溶融物は落下せず自己消火性炭化促進型軟質ポリウレタンフォームが合成された。
燃焼面に生成したチャーを分析すると最表面にはボロンホスフェートが生成していた。また添加したリン酸エステルに相当するリンが検出された。熱分析を行った後の残渣でも同様に添加した量に相当するリン及びホウ素が残っており、このことから燃焼時にホウ酸エステルとリン酸エステルとの反応が推定された。
ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせについて15種類ほど添加量の違いも含め全部で50サンプル前後のホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームを合成し、燃焼実験をASTMの規格で行ったところ、すべてでボロンホスフェートが生成していること、さらに多変量解析結果でもホウ素の役割がリンと同程度であることなども示すことができた。
ちなみにホウ酸エステルだけではLOIは19.5までしか上げることができず、軟質ポリウレタンフォームに自己消火性の機能を付与することはできない。リン酸エステルを組み合わせたときだけLOIは21を越え、さらにTGA曲線の微分を観察すると熱分解速度が最大になる温度がホウ酸エステル無添加の時に比較して高音側にシフトするとともに熱分解速度も低下している。
しかし、ホウ酸エステルとリン酸エステルとの組み合わせにおいて、燃焼試験時における溶融物の状態がわずかに異なることを発見した。すなわちリン酸エステルの構造によっては溶融物がわずかに落下することもあるのだ。これはホスファゼン変性軟質ポリウレタンの時と異なる燃焼時の現象である。
この燃焼時の現象の差異がどこから起因するのか不明であったが、30年後PETの難燃化技術開発を行った時におおよその原因を想像することができた。恐らく燃焼時にガラスを生成する場合には燃焼面にガラス成分が集まり炭化促進反応が進むが、昨日のホスファゼン変性軟質ポリウレタンの場合では溶融物内部で炭化促進を行っている、と想像している。
この想像は現象を観察した結果であり科学的ではない。しかし、燃焼時に樹脂の分解、溶融という現象は熱可塑性樹脂の場合に必ず発生するので難燃剤の機能発現の場がどこであるかは重要である。科学的ではないが、ノウハウの知識として身につけておく必要がある。
(注)ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームについては科学論文に投稿したが、ホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームはその後商品化されたために論文発表できなかった。但し学位論文には掲載許可が下りたのでそちらにまとめてある。また一部クローズドセミナーで発表しておりその予稿集には多変量解析のデータと解析結果が掲載されている。
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溶融しやすい樹脂を炭化促進型で難燃化するには、燃焼時に溶融物の粘度を高くなるような組成にすれば良い、そしてリン系の難燃剤を用いるときにはオルソリン酸として燃焼時に系外へ揮発しないように難燃剤の分子設計を行う必要がある、ということがホスファゼン変性ウレタンフォームの開発経験で得られたノウハウである。
しかし,これは難燃試験を行いながら観察して得た仮説に近く科学における定理ではない。但しリン系の難燃剤が燃焼時にオルソリン酸として揮発している現象について当時の科学論文に書かれていた。また、熱重量分析を行い、その重量減少カーブの解析や分析後の残渣を組成分析したところ、ホスファゼン変性ウレタンフォームにおいてほぼ添加した量に相当するリン成分が含まれていたが、市販の5種類のリン酸エステル系難燃剤では600℃における残渣にリン成分がまったく観察されなかった。
難燃剤の分子設計に関して科学的検証に耐えうる情報は得られたが、燃焼時の溶融物の粘度については溶融物中でホスファゼン誘導体がどのように振る舞っているのか不明のため検証が困難であった。例えば単純に軟質ポリウレタンフォームのポリエーテルポリオールとホスファゼン誘導体を混合してみても混ざらない。
ただ、系外にオルソリン酸としてリンの成分が揮発しない場合にはリンの難燃化成分で高粘度化できてドリップを防げるのではないか、と予想された。そこで一般のリン酸エステル系難燃剤を用いる時に、燃焼時の熱で無機高分子を生成する可能性のあるホウ酸エステルを組み合わせて難燃化する手法を試してみることにした。
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溶融しやすい樹脂を70%以上含む場合は、炭化促進型で難燃化が難しい、と述べてきたが、できないわけではない。開発に時間がかかるのである。もし2年程度の時間があれば、目標とする材料を開発できるかもしれない。かもしれない、と書いたのは、2年も基礎検討を行った開発経験が無いからだ。
但し、溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームを半年で炭化促進型により難燃化した経験がある。ホスファゼンで変性した軟質ポリウレタンフォームは、ホスファゼンの添加量が7wt%前後でもASTMの試験で溶融物が生じない状態で炭化促進型の難燃化を実現している。
イソシアネート化合物とのプレポリマーを合成して反応型難燃剤に設計し軟質ポリウレタンフォームに応用した。入社2年目の成果を出せた、と思ったら始末書を書かされた。市販されていない難燃剤を使用したので量産できないことが問題になった。今から考えればこれは管理者の問題であるが、無知な新入社員が勝手にやった仕事として扱われ責任を取ることになった。当時は責任を取れるぐらいの立場になった、と勘違いして始末書を躊躇せず書いた。
後日開発管理部長から褒められたので訳が分からなくなった。始末書も初めての経験ならば、それが原因で褒められたのも最初で最後であった。サラリーマンを終えてみると開発管理部長が褒めてくれた理由がよく分かる。責任感の欠如した管理者に対して責任感のある新入社員という構図である。自分が開発管理部長の立場でも褒めたくなる。ただ、責任感の欠如した管理者をなぜ誰も注意しなかったのか、という疑問は残る。ゴム会社ではこの始末書を初めとして褒められるよりも叱られた記憶の方が多いからだ。12年勤務して多くの方から叱咤激励され大変勉強になった。
ところでホスファゼン誘導体はリンの含有率が高く、リン酸エステル系の難燃剤に比較すると同一添加量でリンの添加量を多くできる。また、一般のリン酸エステル系難燃剤は燃焼時にオルソリン酸の形で揮発するが、ホスファゼンは燃焼時に揮発せず、系内に残り難燃化の機能を果たすので、溶融物の增粘に効果がある。
しかし、いつでも增粘効果が十分に発揮され溶融物を抑えるわけではない。溶融の激しい樹脂では、ホスファゼンをかなり大量に添加しなければ燃焼時の溶融を抑えることができない。ホスファゼンは大塚化学の努力で最近価格が下がったが、まだ一般の難燃剤に比較すると高価なためコストの問題が発生する。コストのバランスを取りながら、溶融しやすい樹脂を70wt%以上含有し炭化促進型で難燃化する技術は、難易度が高く開発時間がかかる。
ホスファゼンは側鎖を変性し様々な誘導体を合成可能である。ゆえに難燃化しようとする樹脂に分散しやすい構造の高分子量体を20%程度添加(この時難燃化をしたい樹脂は80wt%の含有率になる)すれば炭化促進型の難燃化を達成できるかもしれない。しかし、その時の樹脂の他の物性については予測不可能である。溶融型システムで強相関ソフトマテリアルの設計を行い難燃化した方が経済的で樹脂の物性バランスも取りやすい。
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