活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2014.02/14 パーコレーション転移(5)

昨日書いたようにパーコレーション転移は、処方とプロセスに大きく影響を受ける。これら以外の因子として粒子の大きさや、分子の形状なども重要な因子である。パーコレーション転移の因子については、実験を行っていると幾つか見えてくるが、見えない因子もある。


しかし、シミュレーションでパーコレーションという現象を抑えておけば、見えない因子の存在に気づくことができる。材料系でパーコレーション転移を扱った論文を読むときに注意しなくてはいけないのは、その論文のテーマが主要因のごとく書かれている場合がある。もともと科学論文は、一つの真理を明らかにすることを目的にしているので、そのような書き方になることを読むときに考慮すべきである。


ところが昨日簡単に紹介したように二元系のパーコレーション転移でも複数の因子が複雑に絡み合っている。昨日の例で、ラテックスのTgが80℃以上という前提を置いたのは、塗布乾燥過程でコロイド粒子が変化しない、という条件設定である。このような条件を設定しても他の因子の影響をうけてパーコレーション転移はシミュレーションと異なる結果になる。


現象に合わせてモデルを組みシミュレーションを行っても合わないことがある。うまくシミュレーション結果と合致した場合には論文を書くことが可能になる。昨日の例では、酸化スズゾル粒子がうまくネットワークを作っているTEM写真を撮ることができた。すなわちラテックスのまわりに酸化スズゾル粒子が凝集した、きれいな網目の写真をとることができた。


また、塗布乾燥条件を工夫し酸化スズゾルが表面に偏析した単膜を作ることにも成功した。面白いことに、酸化スズゾルの添加量が同じ時にネットワーク状態でも表面に偏析した場合にも同一の表面比抵抗になったことだ。


現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。

PRセミナーについてはこちら【無料】

本セミナーについてはこちら【有料】

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2014.02/13 パーコレーション転移(4)

酸化スズゾルとラテックスを用いたパーコレーション転移の実験は、パーコレーション転移の制御にケミカル因子とプロセス因子がどのように関係するのか整理するのに便利である。


ラテックスは、数10nmから数100nm、酸化スズゾルは1nm前後の一次粒子が金魚のウンコのようにつながった粒子で、どちらも一定の大きさを持ったコロイドである。またラテックスのTgが80℃以上の高分子ラテックスであれば、乾燥過程で両者の粒子が壊れることがない。


ラテックスに酸化スズゾルを凝集しないように添加してよく撹拌する。この手順だけでもパーコレーション転移の制御因子が幾つか含まれている。例えばラテックスのpHや溶液の温度制御などの因子でパーコレーション転移は影響をうける。何も制御しないでこの作業を行った場合に、沈殿や凝集といった現象が起きる場合もあるが、詳細はコンサルティング内容になるので省略する。


実は二種以上のコロイド溶液を安定に分散する技術は難度の高い技術である。運良く沈殿が生じていないように見えても、混合時に小さな凝集体ができたりしている。目視で見えない凝集体をどのように観察するのかも容易ではないがこのあたりも含め、研究を行いパーコレーション転移とは異なる分野で写真学会から賞を頂いた。


この手順において幸運にも沈殿や凝集がまったく発生せず均一に安定に分散した二元系のコロイド溶液が得られたところから話を続ける。ワイヤーバーを使用して、表面処理されたPETやTACなどのフィルムにこのコロイド溶液を塗布する。この段階でもパーコレーション転移は影響を受ける。


塗布後の乾燥条件もパーコレーション転移に影響を与える因子だ。乾燥後の熱処理でもパーコレーション転移は影響を受け、冷却過程を得て帯電防止薄膜となるのか単なる微粒子分散薄膜になるのかは処方次第である。


現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。

PRセミナーについてはこちら【無料】

本セミナーについてはこちら【有料】

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2014.02/12 パーコレーション転移(3)

バインダー高分子と導電性微粒子の二元系シミュレーターでも分散パラメーターを導入すると実際に生じるパーコレーション転移の現象に近づけることができる。現実系との関係が希薄なパラメーターを導入して行うシミュレーションにどのような意味があるのか、という疑問がわくかもしれない。


パーコレーション転移は微粒子のクラスターのつながり具合で物性が大きく影響を受ける現象である。クラスターの構造と現象との関係を知るだけでも大きな意味がある。例えば一次粒子の凝集体が分散して生じるパーコレーション転移を考えてみる。


凝集体が均一の場合と不均一の場合の二通りが考えられ、それぞれ特徴あるパーコレーション転移が生じる。詳細はコンサルティング内容となるのだが、この結果が分かるだけでも材料設計に有用な情報となる。


写真会社で製品化された技術の特許がすべて公開されているので詳細は特許をご覧頂きたいが、酸化スズゾルを用いたときに生じるパーコレーション転移について無知であったためにおかしな事が起きていた。


小西六出願の特公昭35-6616は、透明導電体を写真フィルムの帯電防止材として活用した世界で初めての大変重要な特許だが、この出願後ライバルの写真会社からアンチモンドープの酸化スズを用いた発明が20世紀末まで大量に出願されている。


1991年に転職した会社では、酸化スズの技術はライバル会社の技術と信じている人ばかりであった。そしてライバル会社の特許に書かれているように酸化スズゾルには導電性が無いために帯電防止材として使用できない、という伝説ができていた。


ゴム会社でセラミックスの研究開発をしてきたおかげで、セラミックス粒子に関する心眼があったので、伝説に疑問を持ち特許を整理してみた。そして古いライバル会社の特許から特公昭35-6616の存在を知った。またその頃の特許にはゆず肌とか粒子の凝集とか分散に関わる用語が多く、パーコレーション転移の問題で苦しんでいることが伺われた。


古いライバル会社の特許に書かれた比較例の実験結果と特公昭35-6616の実施例の結果との違いをシミュレーションで考察するためにプログラムを組んでみたところ、酸化スズゾルに導電性があるという結果を出せた。


すなわちライバル会社の特許の思想は、酸化スズゾルに導電性が無いためにアンチモンドープの酸化スズが好ましい、という構成であったが、それはパーコレーション転移という現象を隠して特許を成立させるための方便だったのだ。


パーコレーション転移については古くから数学者により議論されていたので、パーコレーション転移をよりどころに容易性でいくつかの特許の成立を防ぐこともできた、と思われる。技術が無いために実験で現象の再現を難しい時にはコンピューターシミュレーションが極めて有効である。知財戦略担当者は参考にして欲しい。。


現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。

PRセミナーについてはこちら【無料】

本セミナーについてはこちら【有料】

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop

2014.02/11 パーコレーション転移(2)

導電性粒子を高分子バインダーに分散して生じる現象について考えようとすると、とたんに難しくなる。例えば導電性粒子がカーボンでバインダーがPPSの場合を考えてみる。PPSはカーボンをカミコミにくい樹脂として知られている。PPSの分子構造からはカーボンとの濡れが良さそうなイメージを受けるがベテランに尋ねるとカーボンとの相性が良くない樹脂、という。


カミコミの悪い樹脂にカーボンを分散するには分散剤を添加する、という技術手段がとられる。バインダーと粒子という二元系の問題が三元系の問題になってゆく。このような状態になってくると、コンピューターの中のパーコレーションのように科学的な確率で議論できる明確な問題ではなくなってくる。


バインダーである高分子と、添加剤、カーボンの三元系でそれぞれの相互作用を考慮してシミュレーションを行う、というアイデアが浮かぶが、経験からそれぞれの相互作用を考慮しただけでは説明できない現象が思い浮かぶ。


例えば導電性微粒子を分散したフィルムを押し出したときに表面と裏面でカーボンの分散状態が異なる現象が起きる。プロセス因子が絡んでいるのである。溶融状態の対流現象や冷却過程における熱伝導などを考慮しても実際のプロセスは非平衡の場合が多く、現象の数学的扱いが困難になる。


科学的なシミュレーションが困難でも、フィルム成形やベルト成形などの押出成形やゴムの加硫、射出成形、塗布などのフィルムの表面処理等微粒子分散系について多くの成形加工プロセスを経験すると現象を頭の中に再現することが可能になってくる。E.S.ファーガソンの言葉を借りると心眼で見えるようになってくる。


不思議なことだが、この心眼が働くようになるとコンピューターシミュレーションを活用してアイデアを導き出す事が可能になる。すなわち二元系のシミュレーターに心眼で見えた分散を再現できるようにプログラムを組み、コンピューター実験を行うのである。


現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。

PRセミナーについてはこちら【無料】

本セミナーについてはこちら【有料】

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2014.02/10 パーコレーション転移(1)

1991年10月1日にゴム会社から写真会社へ転職した。前日までゴム会社に勤務していたのでこの月は給与明細書が2通ある。年金も両方の会社から支払われている。高純度SiCの事業を諦め趣味でその研究を続けながら、新たに高分子科学の勉強を始めた。たまたま最初に東工大住田教授の論文を読んだところ、シミュレーションプログラムを趣味で作成していたパーコレーションの話が書かれていた。


転職するきっかけとなったERFでは、粒子がクラスターを作り、そのクラスターの性質で機能が制御されるところはパーコレンションそのもの。30年前にプログラミング言語Cに興味を持ち、LatticeCという処理系を使ってプログラミングの勉強をしていた。勉強を進めるため、パーコレーション転移のシミュレーター開発を趣味で日曜日に自宅で楽しんでいた。


転職後帯電防止技術を担当することになり、その技術にパーコレーション転移が関係している、と直感的にひらめいた。高分子の専門家でないことが幸いした。作りかけていたプログラムを早く完成させるために会社でもプログラミングを始めた。管理職として転職したので数ヶ月は自由な時間を取ることができた。


シミュレーターが完成後、帯電防止層の導電性のシミュレーションに応用したところ現象をうまく表現できた。パーコレーション転移をコンピューターの中で再現するのは簡単である。導電性粒子間に相互作用が働かないときには確率過程で生じる現象だからである。ゆえにこの条件でパーコレーション転移がどのような挙動をとるのか科学的にコンピュータを使用して調べることができる。


パーコレーションの理論についても40年以上前に数学者についてボンド問題とサイト問題として議論されn次元のパーコレーションまで解かれている。すなわちその現象が科学的にほとんど解明され、スタウファーによる優れた教科書も発売されている。しかしこれはあくまで導電性粒子間に相互作用が無い、という前提である。


現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門セミナーの受講者を募集中です。

PRセミナーについてはこちら【無料】

本セミナーについてはこちら【有料】

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2014.02/09 神や仏は実在するか

昔小学生の家庭教師をしていたときに、教え子が社会のテストで世界の三大宗教を問われ、「神様、仏様、お日様」と書いて×をもらっていたが、この答には少し責任を感じた。日頃、日々の活動は神様や仏様、そして昼間なら太陽が見ている、と教えていた。キリスト教や仏教、イスラム教のいずれも信仰していないが、ここぞと言うときに何故か人は手を合わせてお祈りをする。

 

高純度SiCの開発に初めて成功したときに、神の存在を信じたくなるような出来事があった。前駆体を炭化処理し、SiC化の反応を無機材質研究所の新品の電気炉で初めて行った日のことである。

 

その電気炉は納入されたばかりの新品で、電気炉の昇温プログラムは担当されていたT先生がセットしてくれた。そして不測の事態が発生したら非常ボタンを押せばよいだけになっていた。SiC化の反応条件はT先生が論文から見いだした温度パターンをインプットしていた。

 

ビジターの立場で企画した最初で最後の実験になる、という状況だったので必死だった。プログラム制御で動いていた電気炉の前で祈りながら3時間何もしないで見ている予定だった。しかし、突然プログラムが暴走し、電気炉の温度が上がり始めた。T先生に実験室から電話をしたところ、PIDが不適切かもしれないのでしばらくしたら実験室へ来てくれることになった。

 

PIDの影響か、と安心して眺めていたらどんどん温度が上がるので慌てて非常ボタンをおした。すると当たり前だが温度が下がり始めた。プログラムされたSiC化の反応温度まで下がったところでT先生が実験室に来られて、生焼けで無駄にするのも何だからとスイッチを入れてくださった。

 

不思議なことにそこからきれいに何事も無くプログラムが始まり、その後は安定に動作して実験は終了した。記録計には、電気炉が暴走した温度パターンが残っていた。その後、原因を探るために同様の実験を行っても異常はおきなかった。おかげで学位論文のデータを取ることができただけでなく、驚くべきことは、電気炉が暴走し、たまたまできた温度パターンが最良のSiC化の反応条件らしいことも明らかになったのである。

 

電気炉の暴走原因は今でも不明だが、またタイミング良くT先生が実験室に来られたのも不思議なことだが、真黄色で粒度分布がシャープな粉末がたった一度の実験で得られた奇跡とその暴走事故のおかげで原因探索を兼ねて実験を継続することができた幸運に遭遇したことを思い出すと神や仏の存在を信じたくなる。

 

この時生まれた黄色い粉をゴム会社の社長に見せ、世界で初めてのレーリー法によらない半導体に使用可能な高純度のSiCとしてプレゼンを行い、2億4千万円の先行投資を決断して頂いた。新たな研究所建設も決まり順風満帆な高純度SiCの研究開発がスタートした。その後FDを壊される事件が起き写真会社へ転職することになる。

 

そして写真会社を早期退職した最終日(2011年3月11日)には未曾有の地震のおまけまでつき、人智の及ばない力で翻弄されたサラリーマン人生だった。またFDを壊されなかったら写真会社への転職も無く、高純度SiCの技術について日本化学会技術賞の審査時のコメントを自分が書くような珍事も起きなかっただろう。

 

神や仏の存在を信じたくなるが、神や仏がいなくともドラッカーは誠実で真摯に仕事を行え、と説いている。神がかりなことも含め仕事で遭遇する幸運は、誠実に仕事を行ってきたおかげかもしれない。

 

 

カテゴリー : 一般

pagetop

2014.02/08 承認欲求

昨日佐村河内氏の問題を書いた。しかし、18年間共犯であったにもかかわらず、この時期にゴーストライターが名乗り出てきた理由に疑問が沸いた。フィギュアスケートの高橋選手にしてみれば迷惑な話である。せめてオリンピックが終わってから、という配慮がなぜ無かったのか。

 

社会的影響はともかくもこれから競技を行う選手にとって精神的なトラブルを抱え込むことになる。18年間沈黙していたのなら、あと1ケ月の我慢がゴーストライターにできたはずである。すべてを知っているゴーストライターが冷静に判断し、公表したときの影響を考えたら、ソチ五輪が終わってからになるはずである。今更高橋選手は曲を変更することはできない。

 

しかし、高橋選手への配慮を考えなければ、タイミングとしては世界の注目を集めるのに最も良い。自分の承認欲求を満たすには良いタイミングの一つだ。18年間の沈黙を破り、この時期に公表する、という行為には状況を鑑みるとゴーストライター側の意図すら疑いたくなる。

 

もし今行わなければならない理由が他にあるならばゴーストライターは公表を高橋選手の演技が終わるまで待つべきだった。それでも世界では話題にならないかもしれないが、日本における承認欲求は十分に満たせて高橋選手の演技への影響を回避することができた。高橋選手にとって一番悪いタイミングの告白であるが、ネットでは、すでに世界中で話題になり始めた。

 

最近、アルバイト店員がアルバイト先の冷蔵庫に入っている写真や、担当している食品をつまみ食いしている写真をツイッターに投稿し炎上するといった事件が相次ぎ、話題になっている。この問題でも承認欲求の議論がネットでされているが、これも難しい問題である。議論しているときにどのような状況やレベルにおける承認をイメージしているのか、という観点で見解は変わる。

 

例えばアルバイト先の冷蔵庫に入る問題と承認されないから仕事を手抜きするといった問題とは承認欲求を同列で議論できない。いずれも承認欲求とは異なる問題と思う。そもそもこの両者について承認欲求の側面から議論すること自体間違っている。承認の前に社会における働く意味と貢献を理解しているかどうか、の問題である。

 

貢献しなくても承認するのは愛である。承認欲求が満たされていないというのは、愛が不足している社会を意味している。一方、貢献があればそれを承認するのは社会の掟である。そして貢献してもその貢献が正しく評価されないのは社会の厳しさである。さらに貢献してもその貢献を横取りする社会があるのも事実である。

 

どのような社会であっても、まず貢献することの重要さ、貢献しようと努力する姿勢を指導することこそ重要である。そしてその貢献がいつも承認されるような甘い社会ではないが努力を続ければやがては承認される、という現実を正しく理解するように努めなければならない。

 

そして社会のリーダーは少しでも貢献が正当に評価され、公平感が存在する社会を作れるよう努力しなければならない。まず、貢献ありき、これを若い人に教育しなければならない。そもそも働く意味に貢献という考え方が極めて重要であることを理解しなければならない。

 

かつて高純度SiCの反応速度論の論文を書いたときに、研究企画から実施までしてもなぜか論文の筆頭者になれなかった、新事業立ち上げを行ったが特許の報奨金すら頂いていない(注)、とか貢献しても報われなかった残念な事例は山ほどある。

 

しかし、それでもなぜ貢献を続けるのか。亡父は「誰かが必ず見ている。少なくとも仏様は見ている」と言っていた。そしてドラッカーの「断絶の時代」を高校生の時に読むように勧められた。以来ドラッカーは愛読書になったが、そこには知識労働者の貢献の重要性が書かれていた。

 

貢献がいつでもタイムリーに評価されるわけではない。努力してくじけそうになったら少しぼやいてみれば良い。情けないが酒を酌み交わしながら見苦しいぼやきをすれば必ず誰かが聞いてくれて、次の貢献のエネルギーが沸いてくる。

 

退職後、最後に担当した仕事が社長賞を受賞したらしくその記念品が元同僚から届いた。PETボトル4本だったがうれしかった。社業への貢献を考えたらささやかすぎるが、わざわざ贈ってくれた行為の輝きは太陽を越えている。承認欲求とは別次元の喜びである。

 

(注)高純度SiCの仕事ではS社との半導体冶工具に関する特許をはじめ全ての特許でゴム会社から特許の報奨金は支払われていない。無機材質研究所で書いた基本特許では国から斡旋を受けた形式になったので、その特許の国への報奨金は支払われた。そしてI先生がそのことを教えてくださって、I先生の報奨金をすべて発明者である小生に送ってくださった。神様のような凄い先生である。これは貢献は誰かが必ず見ている、という一つの体験でもあり、当時サラリーマンとして大変辛い時だったので大変勇気づけられた。

 

カテゴリー : 一般

pagetop

2014.02/07 佐村河内氏の問題

現代のベートーベンと呼ばれた佐村河内氏にゴーストライターがいた問題は、いかにも現代という時代を象徴した事件である。すなわち分かりやすい付加価値をつけなければ物を高く売れない難しい時代の事件である。音楽などの感性で判断される商品まで音楽本来の価値以外で勝負しようとしてサギに近い形でアーティストを売り出した。いや、耳が聞こえるかもしれないからサギかもしれない、という意見も出てきた。

 

サギかどうか当方の判断する役目ではないし、佐村河内氏についてはNHKなどで紹介されて名前まで知っていたが、CDまで購入して聞くほどの音楽ではない(自分の好みではない)と評価していたので自分が騙されたわけでもない。現代のベートーベンという彼に与えられた称号も以前から胡散臭いと感じていた。

 

べートーベン作曲のCDやレコードは、特にクラシックファンではないが10枚以上持っている。寺内タケシ演奏の「運命」までもCDを持っている。音楽については自分が評価しない限り、レコードやCDを購入しない主義だ。高校生の時、お小遣いが月1000円の時代に1枚2000円のLPレコードの価値を考えたら、音楽という商品はそのくらい真剣に評価する対象だった。

 

1年間に数枚購入できるかどうかの商品で、それがいつの間にか諸物価が上昇し、消耗品の感覚の商品になった(注)が、それでも自分の感性に合わない商品は買わない。寺内タケシの「運命」も「メローフィーリング」というLPが気に入り購入したついでにベートーベンの「運命」が好きで一緒に買った。そしてエレキギター用に編曲された「運命」という曲そのものよりも寺内タケシの演奏テクニックに驚き感動した。

 

「エレキの神様」どころかあのトレモロ奏法は神業を越えていると感じた。神業を越えた演奏を目で確かめたくてコンサートまででかけた。そして目の前で見えないくらい速い動きの指をみて驚愕した。本当は舞台から遠い席だったので指の動きまで見えなかったのだが凄さは伝わってきた。

 

佐村河内氏の音楽については、世間で騒がれていてもCDを購入するほどの音楽ではない、と感じていた。高橋大介選手がソチでプログラムの曲として採用すると聞いても「?」という評価だった。マスコミの評価で現代のベートーベンという称号(商号?)を誇大広告とも感じていた。

 

当方は、科学教育が蔓延した日本で、「本物の技術」の重要性を訴えたい動機もあり、事業を始めた。21世紀は、技術が科学を牽引しなければならない時代になった、と思っている。しかし、科学と技術が混同され、本当の技術が冷遇すらされる体験もしている。またiPS細胞の名前のように科学ですらその名前の付け方に工夫しなければ注目されない時代である。この事件、どのように終息するのか興味深い。

 

(注)卵のように物価が上昇してもそれに連動してCD1枚の価格は上がっていない。1時間の曲が入ったCDが500円の雑誌の付録についているものすごい時代である。

カテゴリー : 一般

pagetop

2014.02/06 ケミカルアタック(5)

ケミカルアタック(4)では実務の具体的手順を示したので「樹脂の破壊」について簡単に説明する。

 

ゴムや樹脂の破壊機構については諸説がある。代表的な破壊の様子を文章で書くと

1.引張応力に対して垂直にクラックが発生して破壊に至る。

2.あるいはクラックが現れる前にクレイズがいっぱい発生して破壊に至る。

3.延性破壊。

 

2から1に進む、と考えて破壊機構は2つ程度と考える人もいる。クレイズは屈折率が元の材料から変化しているので白っぽく見える。あるいはミクロンオーダーの大きさなので光の乱反射で「白トビ」のように見える。クラックの前駆体がクレイズと考えられる。表面にキズがあったり、ボイドがあったりするといきなりクラックが発生することがある。

 

ところで剪断降伏は最大引張方向に対して一定の角度を有する最大の応力の方向(剪断力の方向)に発生するが、この条件下では塑性変形が大きくなり、上記3に至る。以上がケミカル物質が存在しないときの材料の破壊の概略である。

 

ケミカル物質が存在するとどうなるか。

たとえば有機溶剤が存在したときにそれが樹脂中に浸透拡散する場合を考える。このケースではSPやχパラメータが重要視される。樹脂に有機溶剤が拡散すると可塑化効果が観察される。クレイズをよく観察するとフィブリルがたくさん観察されるが、これは高分子の束が滑って抜けている様子で、可塑化効果が進むとこれが生じやすくなる。すなわちクレイズが発生しやすくなる。

 

また、有機溶剤を樹脂が含むと分子運動しやすくなり、すなわちTgが下がり、容易に塑性流動しやすくなってクレイズが発生する、とも説明できる。いずれにせよケミカル物質が可塑剤として働き、樹脂の強度を低下させる現象である。

 

クレイズ発生をフィブリル表面のエネルギーに関連ずける考え方もある。こちらはクレイズ発生臨界歪みを定義し、破壊力学の観点で材料の破壊機構をSPやχパラメーターと結びつけて議論する時に便利である。

 

いずれにせよ、破壊原因となるクレイズ発生についてSPあるいはχパラメータ-が関係していることになるので、ケミカルアタックの問題は、科学的視点からは、SPやχパラメーターに着目すれば防ぐことができる、という結論に至る。しかし、これは現象を狭く捉えた結論で、実際のデータには、SPやχパラメーターと無関係の油と樹脂の組み合わせでケミカルアタックが起きている事例も報告されているから、実務の対応が重要になる。

 

ケミカルアタックの問題が難しいのは高分子のクリープとも関わっているからで、時間のファクターが大きく影響する。科学的にモデルケースを解くことができても、それを一般化して実務にとり込む手続きはしないほうが賢明である。あくまで一つのケースの事例に留めるべきで、科学的に問題解決する以外に実務的な対応が再発防止に重要である。

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2014.02/05 STAP細胞発見の意味(5)

昨日幸運のプロセスについて書きながら、入社4年そこそこの若僧の提案に2億4千万円の先行投資を決断してくださった社長のことを思い出した。転職前に在籍したゴム会社は、人材育成に力を入れており若手活用に長けた会社だった。この会社ではいろいろあったが、社長の前のプレゼンテーションの思い出はその後の研究生活で心の支えになっていた。毎年1度は会社の幹部の方が新設された研究所を見学に来られ一人で歩いた死の谷の数年間を短く感じた思い出がある。

 

最近は、目標管理を導入し人事評価を成果主義で行っている企業は多いと思う。その時今回のSTAP細胞発見と同様に適切な評価ができているだろうか。新聞報道ではSTAP細胞の研究企画とその立役者は小保方さんである、と誰もが見えている。ものすごく透明性が高いのだ。

 

企業で同じような成果が出たときに企業機密の問題もあるのでこれほど透明性を高めた報道をしにくいだろう。この点はしかたがないが、企業内においてその成果の評価まで正しく行われているかどうかについて疑問がある。少なくとも自分の体験から現在の国の研究所ほど公平性と企業内の透明性が進んでいる企業は多くはないと思う。例えば10年以上前の事例だが青色発光ダイオード発明の話題では見苦しい企業内のゴタゴタが表に出た。

 

10年ほど前、高分子同友会で高分子学会賞を受賞されたUさんを招いて研究管理の勉強会を行った。その時話題提供されたUさんが、「技術の立役者は自分ではなくXさんで、彼は研究開始から数年間死の谷を歩かれた後他部署へ異動し、自分があとを継いだ時に今日の成果が出た。だから学会賞メンバーに彼の名前を入れました」(注1)と説明された。勉強会に参加された方は皆感動した。しかし、冷静に考えれば当たり前のことである。

 

後を継いだ方の誠実、不誠実でその事業の功労者が変わるというのも妙な話だが、それが現実である。Uさんの誠実さはしみじみと伝わり、このような人と一緒に仕事をやりたい、と感じた参加者は多かったはずだ。

 

経営判断の原則はプロセス責任であり、多くの会社の研究企画プロセスは、いまやステージゲート法あるいはそれに準じた方法が定番となりつつある。研究者の人事考課をこのステージゲート法と連動し行っている企業も多いと思う。しかし時としてこのプロセスからはみ出た成果が出る場合がある。またそれくらい活性化された研究所であるべきだが、その時にそれを正しく評価できるかどうかは中間管理職の力量に依存する(注2)。

 

しかし正しく行われなかったときの会社の風土に与える損失が大きいことをトップは認識すべきである。今回のSTAP細胞の報道から研究成果の取り扱いについて国の研究所の透明性(注3)を知ることができたが、その結果若手育成についてもいつのまにか企業より恵まれた環境になっていることが明らかになった。

 

(注1)Xさんの所属が研究開発とは無関係の職場であり、参加者メンバーからその部署の役割について質問が出た。その時の回答。

 

(注2)そもそも新しい研究シーズが生まれるような風土作りは、全社方針も重要だが中間管理職のマネージメントが風土に与える影響が大きい。

 

(注3)新聞記事は小保方さん中心であったが、その研究に関わった方々の談話でも感動した。大きな発明は多くの人の協力で実現する、という典型例だろう。ただし創造という活動の多くは、個人の努力の賜で、ブレークスルーした立役者がそれなりに評価されたかどうかはその後の企業風土に影響する。うまくできない企業はイノベーターが育ちにくい。

 

カテゴリー : 一般 連載

pagetop