ゴム会社に入って2年目1980年に軟質ポリウレタンの難燃化技術を担当した。難燃化技術には炭化促進型と溶融型がある、と最初に指導された。後者の技術には胡散臭さを感じた。溶融型と同様のコンセプトとして変形して炎から逃げる技術で成功した話を聞かされたからだ。
実験してわかったことだが、溶融型で高分子を難燃化するとLOIは21を越えなくても各種試験を通過する。一方餅のように膨らみ変形する硬質ポリウレタンフォームは、難燃2級の試験だけパスして、他の評価試験にはいくつかパスしない。ASTMの試験ではうまく炎から逃げ切るように変形すると規格に通過できるが、逃げ切れなかったときには燃焼して燃え尽きる。すなわち10サンプル試験を行うと半分は通過しないサンプルとなり不合格となる。
溶融型ではLOIの値は低いが、建築材料以外の用途に要求されるあらゆる試験に通過するので、変形して炎を逃げるタイプの難燃化技術と少し異なる。また、実際に寝具を組み立ててみて、寝たばこと同様の状況で実験を行ってみても火が消えるのである。溶融型はLOIが低くても難燃化技術として使用できそうである。
しかし、高い難燃効果を高分子材料に付加するならば炭化促進型である。普及し始めたUL試験を行ってみると溶融型は最も下位ランクの試験にしか合格しない。V0試験ではドリップそのものがあってはならないので溶融型では合格しない。
難燃性軟質ポリウレタンフォームの開発を行いながら難燃性評価試験を幾つか検討し、難燃化技術を科学的に行うにはどのように研究を進めたら良いのか悩んだ。コーンカロリメータがまだ無かった時代で、LOIの普及が始まったばかりの時である。
LOIは、酸素濃度の値を指数で表す評価試験方法で、空気中で燃えるか燃えないかという科学的な判断には使用できそうに見える。しかし、溶融型についてはLOIとは無関係に自己消化性を示すのである。すなわち高分子材料に実際に火がついてもその火が消えるのである。炭化促進型では、LOIが21を越えない限り自己消火性にならない。
炭化促進型は空気中で燃えにくい=空気の酸素濃度においては自己消火性となる、という感覚的なズレが存在しないが、溶融型では空気中で燃えやすく燃えることにより溶融し自己消火性となっているので不安が残る。しかし、難燃剤を用いなくとも高分子の分子設計だけで各種難燃化規格を通過できるのでコストパフォーマンスは良い。アカデミアの研究者の意見を聞いても初期消火に効果がある難燃化システムという評価である。
高分子材料は実火災においては燃えてしまうので初期消火に効果がある難燃化システムでも意味がある、と当時言われていた。また普及し始めたUL規格も用途に応じた難燃グレードの試験方法を提供しており、溶融型による難燃化システムを認める規格になっている。
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高分子の難燃性評価試験は、帯電性評価試験と同様に実際の現象との相関性が厳しく問われる。1947年に建築基準法が制定されて以来不燃材料の評価は何度も見直されてきた。特に1969年の同法の大幅な改正は建築材料認定の出発点と言われている。
高分子の難燃化技術については科学的な取り組みが古くから行われてきたが、実験室における評価技術の実火災との対応になると、コーンカロリメータの発明ではじめて科学的に分かりかけてきた、という印象を持っている。元名古屋大学武田邦彦先生のご研究は、この分野で科学的に高い成果をあげている。科学的に取り扱いにくい火災という現象をアカデミアの立場で研究を行う時の参考になるだけでなく、難燃化技術について勉強するときに役にたつアカデミアの成果の一つだと思う。
1970年代にも科学的研究は行われていたが、難燃化技術が先行していた。その結果とんでもない難燃化技術が開発されたりした。某会社が開発した硬質ポリウレタン発泡体の天井材で商品名は「炎を断つ」意味の名前がついていたが、よく燃えた。一応建築基準であるJIS難燃2級を取得していたのだが、このJIS難燃2級の評価法を研究して生まれた材料のようだ。
すなわちその「炎を断つ」という商品名の天井材を評価すると、餅のように大きく膨らみ、評価試験に用いている炎から材料がうまく逃げるように変形する。その結果材料は評価試験中燃えること無く温度も上がらなければ煙も出ないので、評価試験を通過することになる。
評価試験と材料の関係から見れば、あっぱれ、と言いたくなるが、実火災を想定したときにこのような天井材では役にたたない。ちなみにLOIを測定したら19という低い値であった。1970年代はこのような建築材料も難燃性材料として建築基準を通過していた時代である。コーンカロリメータの発明が建築材料開発に与えた影響は大きい。
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燃焼試験器のコーンカロリメータは建築材料の難燃化研究のために考案された評価装置だが、実火災に近い材料の難燃性試験ができるために、1998年の建築基準法改正以来、日本の建築規格にも取り入れられている。
普及しているUL規格では、自己発熱により燃焼を継続するタイプの難燃性を評価しているため、高分子の熱分解が燃焼を抑制し、気相で燃焼阻害を発揮する難燃剤の機能を高く評価する傾向にある。
これに対し、コーンカロリメータでは、サンプルが評価中にヒータから継続して輻射熱を受けるために気相における燃焼阻害を引き起こす難燃剤の効果を低く評価する。実火災ではこの評価条件がより適しているとの考察が成されているので、ノンハロゲン系難燃剤技術への期待が高まることになる。そしてこれは環境対策にもなるので昨今のノンハロゲン難燃化システム開発ブームとなっている。
コストから材料の物性、難燃性能まで考えたときに最も良い難燃化システムは、三酸化アンチモンと臭素系難燃剤の組み合わせシステムである。さらにコストダウンを狙えば塩素系難燃剤との組み合わせとなる。しかし、ノンハロゲン系システムでは、リン以外に有効な元素が50年以上行われた高分子の難燃化研究の歴史の中で見つかっていない。
組み合わせ難燃化システムかつ添加量が多い系で幾つかノンハロゲンのシステムが見つかっているが高分子材料の力学物性の低下を引き起こしている。リン系難燃剤では、一般にリンの含有率で難燃効果が決まる、と言われている。実際には含有率以外に、リン化合物の構造や高分子材料への分散状態で難燃性能は左右される。
ホスファゼン誘導体は、難燃剤として注目されて以来効果の高い難燃剤として有名で、さらに煙の発生も抑える優れた効果があると報告されている。しかし、ホスファゼン誘導体の全てがこのような性質を持っているわけではない。ホスファゼン誘導体でもハロゲン原子を含んでいる場合には、煙は多くなる。すなわちススの発生は気相で働くハロゲン原子が原因である。ただし、これは経験談で科学的に確認したわけではない。
科学的ではないが、30年前50種類ほど難燃剤の組み合わせシステムを検討したときに、ハロゲン元素を含んでいる系では、アラパホ式煙量計で評価したときに煙量が多かったので経験的に間違いではない、と信じている。
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酸化スズゾルのパーコレーション転移を制御して18vol%という低添加率で10の9乗Ωcmの体積固有抵抗を有する帯電防止層を開発したが、これは特公昭35-6616という昭和35年の特許の実施例をトレースした成果である。
インピーダンスの異常からパーコレーションの閾値を評価する方法を考案するアイデアも生まれた。そのアイデアから多数の特許を出願し、改めて昭和35年に公告となった技術領域の権利を取り直した。
温故知新の典型例だが、世の中にはこれよりもすごい事例が外にもある。例えば難燃性の評価試験器のコーンカロリメータは、1917年米国のThortonが発見した酸素消費量と発熱量の関係が基になっている。60年以上経ってからこの研究成果の再確認がなされ、コーンカロリメータの開発に至っている。
コーンカロリメータは、有機物の燃焼時に消費される酸素の量1kgに対して発生する熱量が13MJとほぼ一定であることを利用し、燃焼時の発熱量を酸素センサーで求める装置である。1993年にはつくばでこの評価技術に関する国際会議まで開かれている。そして現在建築材料の規格にまで取り入れられている評価装置である。
火災という現象に関して科学的に取り組める方法を提供した装置でもある。この評価装置の面白いところは、発熱量の変化を酸素の消費量でモニタリングしているので微妙な現象の変化までうまく捉えることができる点である。温度は強度因子なので、大きな物体の燃焼物に関して温度で発熱量を推定することは難しい。発熱量という容量因子を同じ容量因子である酸素の消費量でモニターしているので評価装置として成功した。
このコーンカロリメータを用いた研究はかなり進んだようで、理想的な難燃剤の作用機構のあるべき姿まで描かれるようになった。この装置が無い時代に燃焼時にガラスを生成するポリウレタンの難燃化システムを開発したが、その時用いたのはTGAとLOIである。
大容量熱天秤という科学的に怪しい装置があったので重宝した。一般の微量で測定する熱天秤の結果と少し測定値がずれたり、重量減少のプロファイルが変化したりするが、測定原理が分かっていれば技術分野には便利に使えた。
コーンカロリメータは、大きなサンプルで実験できるので実火災で発生する現象に近い状態で難燃性の効果を評価することができる。また、その測定原理も科学的に指示される。このような評価装置では技術と科学をつなぐ重要なデータが得られる。
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高分子にカーボンブラックを分散し、その分散状態を制御する技術に関して、1992年に東工大住田教授の論文でパーコレーションとの関係が記載されている。特に住田教授の論文を調べたわけではないが、住田教授が行われた外部セミナーの資料に添付されていた論文である。
相分離状態で観察されるカーボンの分散に関して議論した論文であるが、特許ではパーコレーションという現象でありながらその言葉と結びつけていない技術が20年以上前から出願されていた。すなわちパーコレーションという現象も技術が科学よりも先行していた。
カーボンを分散して製造するゴム製のスイッチは、早くから実用化されていたが、これもパーコレーションという現象とカーボン粒子の形態をうまく活用した技術である。カーボン補強したゴムの弾性率がばらつく現象もパーコレーションと関係している。しかし、これらの技術事例はパーコレーションという現象でありながら、その科学的内容が明らかにされないまま用いられてきた。
科学の時代なので現在活用されている技術がすべて科学的に明らかになっている、と信じている人もいるかもしれないが、実際には科学的に明らかになっている現象の方が少ない。それらの現象を科学的に明らかにすれば、また新しい技術の発展を期待できる分野が多数存在する。
アカデミアの研究は無駄な物が多い、と批判される方がいるが、学会発表を見る限り本当に無駄な研究は半分くらい、と思っている。毎年日本化学会年会に参加しているが、半分程度は何らかの価値を見いだせる研究である。世間で批判されるほど日本のアカデミアはひどい状態ではない。
セラミックスから天然物合成、高分子合成、高分子物性まで様々な分野を技術として扱い、幾つかは科学的研究も行って学位を取って、学会の研究を眺めてみると、研究を評価する側の責任の重さを考えたりする。表面的に見ればムダと思われる研究でも、技術で遭遇した現象と結びつけると頭の上に電球が灯ったような感動を覚えることがある。そのような研究は無駄な研究では無いはずだ。
世の中の技術の中には、アカデミアの研究テーマとなるようなネタがたくさんあるので、アカデミアの先生も技術を勉強されると面白いのではないかと思う。
91年に写真会社へ転職し、酸化スズゾルを導電性粒子として用いてパーコレーション転移のシミュレーションとパーコレーションとインピーダンスの関係を研究していたときに、部下が住田先生のセミナーに参加した。当方はセラミックスの専門家として写真会社の社内で紹介されていたから、高分子フィルムの表面処理に関しては素人に見られていた。
そんな素人の企画だから軽く見られていたが、住田教授の論文は、怪しいと思われていた開発方針が間違っていないことを示す事例として当時役立ち感謝している。
技術は機能を実現する方法や行為であるから、専門分野よりも問題解決力が大きく影響する。問題解決力があれば専門性は不要といっても良いかもしれない。タグチメソッドの田口先生も類似のことを言われていた。弊社の問題解決法は技術者の問題解決力に大きく貢献します。
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パーコレーションの理論的解析によると、次元によらず無限のクラスターの生成する確率(閾値)が存在する。そしてその確率は次元が高くなると小さくなる。やっかいなのは、どの次元でもサイトで考えた場合とボンドで考えた場合でその確率が異なることだ。
パーコレーションの閾値手前(仮にA領域)と閾値付近(B領域)、閾値を過ぎた確率(C領域)で物性が最も安定なのは、C領域でその次はA領域である。B領域ではばらつきが最も大きく、この領域で微粒子分散系の材料設計をしてはならない。
好ましい材料設計方法は、目的とする複合材料の導電性の1/100から1/1000程度導電性がある異方性の大きい微粒子をC領域の体積分率で添加する方針である。ただし、この設計方針では微粒子が凝集する問題を考えていない。微粒子が凝集する場合にはn次元のパーコレーションが参考になる。
例えば、1Ωcmの微粒子を絶縁体高分子に分散して半導体領域の抵抗を自由に作り出すにはどうしたらよいか。
この問題は、微粒子を凝集体として分散すればよく、凝集状態の見かけの比重を真比重の1%から60%程度まで変化させて分散する。微粒子表面の性質にもよるが、10の4乗Ωcmから10Ωcm前後まで凝集粒子の体積固有抵抗を制御することができる。この凝集粒子をC領域あるいはA領域の体積分率で絶縁材料に分散すれば、10の9乗Ωcmから10の5乗Ωcmまで安定に抵抗を制御できる。
しかし、あくまでもこれは計算上のことで実際にこれを行おうとすると、高分子中に微粒子を分散し制御する技が必要になってくる。ただ、特許をみると偶然この技が使われている場合があるから面白い。
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パーコレーション転移の閾値近傍で材料設計を行うと物性がばらつく、という科学的真理は30年以上前から数学の世界で明らかにされていたが、材料科学分野では1990年代に入ってから普及し始めた。
1980年代まで材料科学分野では、混合則とか複合側とか呼ばれている電気抵抗の直列接続と並列接続のときの抵抗計算式とよく似た式が使用されていた。
1991年になり雑誌「炭素」で、コンピューターシミュレーションする方法が公開され、手軽にパーコレーション転移のシミュレーションができるようになった。科学の世界ではすでに7次元で生じるパーコレーション転移について数値解析が行われていた。
多次元のパーコレーションが実用上意味があるのか、というと実用上の意味は不明だが、多次元空間を実空間の現象に翻訳して活用することはできる。
例えば、凝集粒子で生じるパーコレーションの問題である。クラスターの生成を凝集粒子内で生じるクラスターと凝集粒子そのものが形成するクラスターの2種考えなければいけない場合である。単純には6次元のパーコレーションを考えることになるであろう。
しかし、これを科学の真理そのままで理解しようとするとかなり難解で盆休み程度の短期間で凡人には理解不能。また、理解できたからといって他人に説明するときに6次元のパーコレーションを説明するにしても難しい。天下り的に結果がこうだからこうなる式の説明しかできない。
凝集粒子の問題については、すでにある一定のクラスターが生成している塊が分散するモデルを考えると直感的に理解しやすい。すなわち、多次元空間で考えるのではなく、あくまで重量分率と体積分率の関係を用いて3次元空間で考えるのである。そうすると凡人の頭でもすっきりと理解可能である。
凝集粒子のクラスターが均一である、そしてそのクラスターは確率に依存しないという仮定を暗黙のうちに置くことになるので、やや科学的な正確さには欠けるが、実務にそのまま展開できる表現で科学の真理を正しく理解することは重要である。このような科学の理解の仕方は、科学を技術へ展開するときに便利である。但し不正確さの原因となる前提条件を忘れないこと。
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パーコレーション転移について不変の真理として重要なことは、パーコレーション転移の閾値近傍で材料設計してはならない、という点である。
例えば絶縁体高分子と導電性微粒子を混合して10の9乗Ωcmから10の4乗Ωcmの領域の材料を閾値近傍の添加量で設計するときに、導電性の高いカーボンを使用すると材料設計が難しくなる(できないわけではない。安定に設計する方法はある。)。
それでは、この領域の材料を設計するにはどうしたらよいのか。それはパーコレーション転移のシミュレーションから解が出てくる。詳細は弊社に相談して頂きたいが、何も考えずに閾値近傍の添加量で混合すると材料の抵抗が、大きくばらつく。また仮に実験室で安定に目的の抵抗の材料ができたとしても量産段階で制御できなくなることもある。
半導体領域の材料設計でなくとも注意が必要な場合として、絶縁体材料を設計したいが、その材料が持っているある機能が必要なために導電性化合物の配合をしなければいけない、例えば難燃剤として添加したい材料が導電性化合物の場合である。
これは、10年以上前に発生したF社製のハードディスクが短期間で使用不能になった事故が有名である。原因はハードディスクのコントローラーが突然誤作動するようになったことだ。ハードディスクのコントローラーは樹脂パッケージのICで、難燃性の機能を付与するために赤燐粒子が添加されていた。
赤燐粒子の表面は一部加水分解していてリン酸を生成し導電性がある。そのためシリカ等で粒子の表面処理を行っている製品もある。教科書にも書いてある話である。しかし、実験室の評価では表面が導電性になっていても絶縁性を確保できていたので、そのまま生産に入ったようだ。
仮に実験室で安定に分散できる技術ができたとしても、パーコレーション転移の閾値近傍で微粒子を配合したならば、必ずばらつきが大きくなるという科学の真理を思い出さなければならない。閾値近傍より添加量が少なくても、成形段階で分散状態が変化し、樹脂表面に偏在してクラスターを形成することもある。
科学の真理は、時として新たな発見でひっくり返ることもあるが、科学の時代における技術開発では、まずそれを重視しなければならない。それを信じた上で、その真理に挑戦する技術開発を行うならば意味のある結果を期待できるが、真理を忘れて技術開発を行うと失敗する。このあたりは無謀な登山と冒険家の登山の違いに似ている。
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1990年頃までパーコレーション転移の科学が普及していなかった化学の世界で、パーコレーションという現象を記述する方法は、混合則という数式であった。
すなわち、電気抵抗の直列接続と並列接続になぞらえた式を中心に、様々な式が提案されていた。1980年代の日本化学会の年会におけるアカデミアからの発表でも混合則が使用されており、数学の世界で誕生したパーコレーションの考え方は普及するのに、議論開始から30年以上かかったことになる。
絶縁性オイルに半導体粒子を分散した電気粘性流体の研究開発を担当したときにパーコレーション転移の世界を知った。同じ時期に東工大の研究者から、高分子微粒子分散系の現象を考察するときに混合則ではなくパーコレーションの考え方を用いた報告があった。
写真会社に1991年に転職し1年間ほど時間に余裕があったのでパーコレーションの科学について勉強した。数値計算では実際のパーコレーションと一致しないような印象を受けたので、立方格子をモデルとして使用し、Cでシミュレーションプログラムも作成した。
プログラムが完成したころ、雑誌「炭素」に類似のシミュレーションプログラムがあるのを見つけた。発表時期からほぼ同じ頃に同じ事を考えていた人がいたことがわかった。
パソコンが16ビットから32ビットへ移行するときで、手軽にコンピューターシミュレーションができる環境ができた時期で有り、パーコレーションのシミュレーションに関する研究報告が増えてきた。
ある雑誌のコラムには、パソコンの普及でパーコレーションの研究が進んだ、と書かれていたが、これは認識違いで、30年以上前に数値解析で数学者達は基礎研究を完成させていた。1990年頃にはn次元空間におけるパーコレーションの研究が完了していた。
n次元空間のパーコレーションの研究は何に活かされるのかよく分からない研究であるが、真理を追究するのが科学なので、面白い研究であれば、実用性など無視してどんどん研究は進む。科学の世界とはそういうもので、その結果パーコレーションの不変の真理というものが見いだされてきた。
パーコレーションの世界で、この不変の真理とは、次元が高くなればなるほどパーコレーション転移の閾値の確率が小さくなること、また粒子のアスペクト比が大きくなればなるほどやはり閾値の確率が小さくなることである。そして、確率過程でパーコレーション転移は生じるので、閾値近傍では、物性のばらつきが大きくなる。
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パーコレーション転移という現象は、高分子に粒子を分散するときに物性変化の現象として観察される。例えば粒子が導電性であれば、パーコレーション転移で微粒子を分散した高分子の電気抵抗が大きく変化する。この時弾性率も同様に変化する。
弾性率の変化はせいぜい数10倍までだが、電気抵抗は1/1000まで変化するのでかなり昔から注目されていたらしい。パーコレーション転移という名称はあたかも電気が抽出されるような転移という意味で、コーヒーを抽出するときに使用するパーコレーターにちなんで命名された。
パーコレーション転移を制御する技術は1990年頃までノウハウとして伝承されていた。科学の世界では、数学者達が1950年代頃取り上げていた、という記録が残っている。ボンド問題とかサイト問題とか呼ばれていたらしい。
このボンド問題とかサイト問題の呼び名は、粒子のつながり(クラスター)の考え方から由来しており、クラスターのできかたが、立方体を仮定したときに、稜でつながりを考えるのか、面心に存在する粒子のつながりで考えるかにより、転移が生じる確率が変化した。そのため数学者達の関心を呼び、研究が進められた、とスタウファーの教科書に書かれている。
また、パーコレーション転移は、粒子が真球であるのか、短径方向と長径方向の比(アスペクト比)が1以上異方性を持った粒子なのかにより発生確率が異なっている。例えば、発生確率を高分子に微粒子を分散したときの、微粒子の占める体積分率で表現すると、真球の場合には、0.35前後に臨界確率(閾値)が存在し、ボンド問題とサイト問題ではその値が異なる。
クラスターをどのように捉えるかにより転移の閾値が異なるので、真理を追究するのが目的である科学、とりわけ数学の世界で研究が大きく進歩した。数学の世界から30年以上遅れ、化学の世界でも1990年前後からパーコレーション転移について研究されるようになった。
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