「混ぜる」技術は存在しても「混ぜる」科学は存在するのだろうか。ゴム会社で研究開発を担当したときの疑問である。「混ざった状態」を議論する科学は存在している。例えばパーコレーション転移がそれだ。ボンド問題とサイト問題として数学者の間で議論され、それぞれの問題で閾値が異なっていた。要するにパーコレーション転移は確率過程の現象である、ということまでは真理として当たっているが、自然現象がボンド問題あるいはサイト問題のいずれに相当するのか分かっていないし、それが分かったところで現実の技術に対する影響はほとんど無い。
粒子とバインダーの間に全くの相互作用が無い状態では、パーコレーション転移が確率に制御されて発現する現象という真実は重要である。パーコレーション転移を利用した技術では、ロバスト設計が不可欠である。これを感度重視で設計を行った場合には大きなペナルティーを被る。ロバスト設計を行えばわかるが、閾値近辺の配合処方は、最もロバストが低い処方となる。ゆえにロバストを高めた処方は、この科学の真実を前提としたときに、閾値の手前か転移したあとの配合処方となり、閾値周辺は危険領域となる。
閾値周辺の配合処方で配合を組み立てたいときにどうするのか。微粒子のパーコレーションの場合では、微粒子の凝集体が分散した状態で設計することになる。すなわち微粒子の凝集体ではパーコレーション転移が完了した安定状態になっており、その凝集粒子を一単位としてパーコレーション転移が起きる前の割合に配合を組み立てると閾値周辺の配合処方をロバスト高く組み立てることが可能となる。
このようなシステム設計を実現できる混練技術はどのようなものか。ここで「混ぜる」過程について、非平衡状態の科学がどこまで有益な情報を提供できるかという問題がある。この科学は難解であり、さらにその研究成果として得られている真理は特定の前提条件を必要としている。すなわち技術を考えるときにこの分野については、「混ざった状態」の科学の制約を受けるが、「混ぜる過程」の科学については、経験を上回る成果は無いのである。すなわち、制御された凝集粒子を用いてパーコレーション転移の制御を混練過程でできるかどうかという議論は無意味で、「混ざった状態」を心眼で見抜き、それを実現する配合処方と既存プロセスの組み合わせで汗を流しながら実験するのか、あるいは奇抜なプロセスを発明して楽をするのか、やってみなければ分からない世界である。但し、蓄積された経験があればできるかどうかの確度の高い予測は可能である。
カテゴリー : 一般
pagetop
仮説を設定し、推論を展開し、問題解決を行う。科学的問題解決はこのような手順で行う、と学校で学ぶ。この手順について否定をしない。この手順があるのに、世の中にはタグチメソッドはじめ多くの問題解決手法が存在する。
USITやTRIZは科学的問題解決手順を忠実にプログラムした方法で、科学的に当たり前の答が出てくる。当たり前の答が欲しい場合には、この手法は良い。しかし、当たり前の答は難解なTRIZやUSITを使わなくても出てくる。TRIZは昔々、科学を最重要視したロシアで生まれた方法であることを思うと、もはや趣味の世界の問題解決法だろう。
技術的に使いやすい問題解決法とはどのような手順だろう。現代は科学的思想の時代なので、技術的な問題解決法でも科学的思想のカテゴリーでなければ受け入れられないであろう。たとえばタグチメソッドは有名な「技術」分野の問題解決法だが基本的なSN比の計算手順など科学的である。但し、誤差を必然誤差として眺めるところは科学的統計理論とは異なる視点である。真理を追究するのではなく、機能を追究している点で科学を研究する姿勢ではない。
弊社の問題解決法で採用している思考実験の内容は科学的視点で取り上げるが、思考実験そのものは非科学的方法とマッハは述べている。思考実験のシナリオを考え出すK2チャートでは、論理の流れは科学的に行うが、起こりうる場合と起こりえない場合、あるいは可能性を考えられる場合と考えられない場合など全ての事象をひねり出して考えるので非科学的である(アイデアを出すために科学と非科学全ての可能性を考えることは重要である)。
2つの技術分野の問題解決法を簡単に眺めてみても、科学と技術の違いが見えてくる。すなわち科学は思想であり、技術は実際の「コト」と表現するとわかりやすいかもしれない。論文を書くためには科学的問題解決手順は重要であるが、実務の問題解決では、非科学的手法でも取り入れない限り、科学で未解明な事象に答え(注)を導き出しイノベーションを起こすことなどできない。iPS細胞で有名なヤマナカファクターも非科学的手法で発見されている。
学校で12年以上習う科学的問題解決法は、科学的研究を行う単なる一手法に過ぎない。技術開発では機能を実現する方法を研究開発するのでUSITやTRIZではその目的が異なる(注2)。タグチメソッドは、制御因子を探索する設計段階では良い方法だが、その手前の企画から設計までのところでは、逆向きの推論や思考実験、K0チャート、K1チャートを駆使する弊社の問題解決法が有効だ(注3)。
(注)技術では機能を達成できれば良いので、科学で未解明でも答が得られる。例えばヤマナカファクターは、iPS細胞を創り出す技術手段として実現された成果である。どのようにイノベーションを引き起こしたら良いのか、という一つの答を山中博士は提示してくれた。弊社の問題解決法は30年の実績があり、フローリー・ハギンズ理論で説明できない現象など科学的に未解明な現象を活用した技術アイデアを導き出すのに成功している。どのようにイノベーションを起こしたら良いのか、科学的常識にとらわれないことが重要である。
(注2)TRIZやUSITでは個人差が出る分析的思考が重要視されている。タグチメソッドでは、例えば直交実験で制御因子を見つけてゆく。この差が科学研究に用いる問題解決法と技術開発で用いる問題解決法との違いである。
(注3)TRIZやUSITはWINDOWSの操作でおなじみのオブジェクト指向で問題解決を行うが、弊社の問題解決法はエージェント指向である。オブジェクト指向では、オブジェクト間の答が不一致の場合にフリーズするが、エージェント指向では、答を中心に問題解決を行うので、問題解決者が求めている答を必ず見つけ出す。TRIZやUSITでは、フリーズを避けるために、当たり前の答を提示する。今求められている問題解決法はイノベーションを引き起こす問題解決法である。
カテゴリー : 一般
pagetop
タグチメソッドで多変量解析といえばマハラビノスタグチ法であるが、多変量データの組を単純に分類するだけならば主成分分析法が便利である。
例えば、半導体微粒子を絶縁オイルに分散した電気粘性流体(ERF)がゴム製の容器に封入されている。耐久試験を行ったところ增粘してきた。ゴム容器からゴムの配合成分がERFへ溶け出したため、と推定される。
この問題の解決には界面活性剤が有効であるが、水に油を分散する場合、あるいは油に水を分散する場合ではそれぞれ用いる界面活性剤の構造が異なることはよく知られている。しかしERFには水は入っていない。界面活性剤、というアイデアにすぐ結びつかない人もいる。さて、どうするか。
半導体粒子とゴムからの抽出物、そしてオイルである。ゴムからの抽出物が、半導体粒子とオイルに作用して增粘している様子が頭に描かれると、水と油の関係で無くても界面活性剤で問題解決できそうだ、というあるべき姿が見えてくる。しかし、そこまで見えてきても、界面活性剤は星の数ほど世の中に存在する。この後どうするか。
界面活性剤に詳しい人ならばHLB値という界面活性剤の分子構造の指標を頼りに探索する。しかし水と油の関係ならばHLB値で何とかなるが、今回の場合には、有機物の微妙な界面相互作用を界面活性剤で制御しようというのである。HLB値だけで考えて問題解決できる、と思う人は弊社の問題解決法のプログラムを勉強する必要がある。弊社の問題解決法では、このような短絡的な思いつきアイデアよりも有効なアイデアを導き出す方法を伝授している。
PRはさておき、頭のいい人の場合は、增粘した物質を解析してその結果から界面活性剤を選ぼうと考える。実際の現場でもこのような科学的アプローチが取られていた。そして界面活性剤では不可能だ、という結論が出されていた。
詳細は省き、とりあえず答を書くが、科学的結論が間違っていたのである。この場合は、界面活性剤の公開されている情報(多変量データ)を主成分分析にかけ世の中に存在する界面活性剤を分類する。そしてできあがった分類マップから、代表例の界面活性剤を一つづつ選び、增粘したERFに添加してみる。そして少しでも改善されたなら、その効果のあった界面活性剤の属するグループの界面活性剤を增粘したERFに添加して最良の状態になる界面活性剤を選ぶ、という方法が有効で、実際に問題解決できた。すなわち泥臭い刑事コロンボ型で問題解決するのがベターな方法である。
この問題解決を行ったのは20年以上前(ゴム会社を転職する1年前)であり、マハラビノスタグチ法を知らなかった時代であるが、知らなくて良かった、と思う。単純に界面活性剤を主成分分析してグループ分けをする、という手順が今でも最良の解決方法だと思っている。
主成分分析は、科学的統計手法として心理学の分野や経済学の分野でもよく使われている。既製服のA体、B体、AB体などの分類も主成分分析で決められる。因子分析の一手法であるが、全体の変動の大きな順に主成分が並べられるので便利である。興味のある方は多変量解析を勉強してみてはどうだろう。技術の分野でも重宝する手法だ。
カテゴリー : 一般 宣伝 電気/電子材料 高分子
pagetop
タグチメソッドでは、基本機能のSN比を最大にできる制御因子の条件で確認実験を行う。しかし、その条件で感度が必ずしも最大になるとは限らない。動特性のSN比の式に感度は入っているにもかかわらず、実験結果においてSN比最大の条件を選択して感度が高くないときにどうするのか、これはタグチメソッド初心者が悩むところである。
そのときタグチメソッド指導者の中には、あくまでSN比最大を選ぶ、という指導の仕方をされる方がいたが、田口先生は感度最大をあえて選ぶ技術の選択もありうる、と述べられていた。最高の機能が必要なときにはSN比最大を必ずしも選ばない、そんな技術者の選択もあると(但し常時このことを言われていたわけではない。ある議論の結果である)。
しかしタグチメソッドの基本はあくまで機能のロバストネスを高めることだ。感度最大を選ぶのは特殊なケースである。
L18実験を行い、SN比を最大にする条件と感度を最大にする条件が異なったときにどうするか。両方の条件で確認実験を行いSN比の違いを確認すると良い。L18実験では多少SN比に大きな開きがあっても、確認実験ではL18ほどの差が出ないこともある。また逆に差が開くこともあり得る。これまでの経験では、後者は無かった。
また確認実験を行うときにこの2条件以外に、SN比最大の条件で感度が大きくなる条件を入れた水準も確認実験すると良い。田口先生はこちらの水準を指導されていたが、感度とSN比の両者を高める条件が異なったときには、いつも3水準以上の実験を行ってきた。
確認実験の水準を多く取るのではタグチメソッドの意味が無いのでは、と疑問を持たれる方もいるだろう。しかし逆である。確認実験を多く行ってきた約20年の経験からタグチメソッドの有効性を実感している。
タグチメソッドの直交表を用いる実験では、科学的実験プロセスに慣れ親しんできた人にある種の気持ち悪さが伴うことは確かである。日科技連ベーシックコースで実験計画法の用い方を学んで現場で使用していたときに大変気持ち悪かった。しかし会社の方針ということで、周囲が使用していないにもかかわらず、半分意地で使用した時の感覚と比較すれば、タグチメソッドにおける直交表の実験は気持ち悪さの程度が異なる。これは、外側因子が入っている影響が大きいと思う。
カテゴリー : 一般
pagetop
タグチメソッドを理解するための近道は、科学の研究と技術開発の違いをまず理解することである。科学の研究は言い古されているように真理の追究がその目的にある。技術開発は、それに対してロバストの高い機能の実現が目的だと田口先生は言われた。まことに至言である。
科学の研究は自然現象が相手であり、そこで観察される誤差は偶然誤差を前提とするが、技術開発では、ロバストの高い機能の実現という理想に向けて必然誤差を考える。まず、測定値で観察される誤差について義務教育で習ってこなかった必然誤差というものを理解しなくてはならない。計測された値について四捨五入とか誤差を丸めるなどという考え方を前提にしていない。むしろ誤差を積極的に評価している、ぐらいの感覚である。
だから実験を行うときにも誤差因子を多数取り入れて実験を行う。タグチメソッドでは機能を安定化させる制御因子を見つけることが目的であるが、この誤差因子はそのために重要な因子である。誤差因子は一つだけで無く可能な限り多数の因子を取り上げる。そして基本機能に対して誤差がどのように働いているかに注意しつつ、誤差を調合して実験を行う。
この誤差の調合は結構注意が必要である。調合誤差について2水準から3水準の実験を行いSN比を求めるので、誤差因子の組み合わせ方を間違えると変動が小さくなり、制御因子を見つけることが難しくなる場合がある。誤差の調合は変動が大きくなるように組んでやることがコツである。
また、信号因子も可能な限り大きく変動させる。信号因子については思い切って大きく振れ、というのが田口先生のお言葉である。タグチメソッドの習い始めはこのあたりにも慎重になる。信号因子を大きく振ったら誤差が大きくなってしまう、という心配をする。ところがタグチメソッドでは誤差が大きく出るところでSN比を安定にする制御因子をみつけようと(ここまで言って良いのか分かりませんが)しているのでこの心配は無用だ。
制御因子を見つける作業には直交表を利用すると便利だ。直交表はL18程度の大きさで充分。あまり大きな直交表を用いると結果をまとめるまで時間がかかりすぎる。L9やL8でもよいが、もしL9やL8を繰り返して用いるくらいならL18を1回やった方が良い。
直交表を用いた実験は、慣れないと気持ちが悪いそうだ。また直交表の実験では時として欠損データが出たりする。日科技連の実験計画法で欠損データがあるときのデータ処理方法をもちいても良いが、タグチメソッドでは、欠損データに関してはSN比の平均値を入れるだけでも大丈夫である。このあたりは、データ整理を行うときに大変助かる。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般
pagetop
タグチメソッドは難しい、とよく言われる。また、タグチメソッドを統計手法と誤解している人もいる。タグチメソッドは、技術開発の一手法であって、その考え方を理解すれば難しいメソッドではない。TRIZやUSITのような時代遅れの手法とは一線を画す技術開発の手法である。TRIZやUSITは科学に忠実な問題解決手法をめざして失敗しているが、タグチメソッドは技術開発の理想をめざして考え出された手法である。
田口先生に直接御指導頂いた体験は貴重な財産となっている。システムの基本機能を追究することの重要性だけでなく、そもそも開発すべきシステムが正しいシステムなのかを問うことの重要性まで教えて頂いた。もっとも記憶に残っているのは誤差因子に対する考え方である。システムのロバストネスを改善するためにはノイズというものを正しく認識しなければいけない。誤差を必然誤差と考えることの重要性である。
直交表を使わなくても、タグチメソッドの考え方を使ってシステムを見直すだけでも開発が完了したことがある。コンパウンドの新しい混練システムでは、システムの見直しを行っただけで、問題解決できたのである。
コンパウンドを他社から購入していたので、混練実験ができない状況だった。技術サービスとの打ち合わせの過程で混練システムの考え方の変更をお願いした。新しいラインを入れるのではなく、混練ラインにおける原料の投入方法の改善を新しいシステムの考え方でお願いしただけである。その結果ロバストネスが向上した。
タグチメソッドの難しさは、問題解決しようとするシステムの捉え方にある。必ずしも目の前にあるシステムが正しいとは限らないのである。間違ったシステムの捉え方で改善を行っても大きな成果は得られない。田口先生はシステム選択は技術者の責任と言われ、それ以上のことをおっしゃらなかったが、実はこの技術者の責任遂行が一番難しい。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般
pagetop
写真感材用フィルムの表面処理技術について田口先生から御指導を頂いた時の話。酸化スズゾルを用いた帯電防止薄膜について、基本機能の議論で田口先生も楽しまれていた。
帯電防止薄膜は半導体薄膜なので、それまでの事例では導電性を基本機能としてみなし直流で測定されたVI特性を動特性として使用していたそうだ。その事例に対し、インピーダンスを基本機能にした方が良い結果になる、と提案した。動特性を直流で計測するよりも交流で計測してL18を行えば、電気特性を計測しても薄膜の接着力という力学特性まで評価していることになり、基本機能のSN比を改善したときに薄膜の物性すべてが改善された結果になる、まさにこれこそ基本機能だ、と提案した。
なぜ直流で測定するよりも交流で測定した動特性の方が優れているのか。理由は交流で測定した場合には情報量が多くなるからだ。直流で計測した場合には容量成分を見ていない。しかし、交流で測定すると容量成分を見ることになるので、膜の付着力をテストする誤差を調合して実験すると、この容量成分に誤差の結果が大きく反映されるからだ。
直流で計測した場合にも膜の付着力のテスト結果は少し反映され、基本機能としての役割をしているが交流で計測した方が誤差因子に対して大きく影響を受けた結果を得ることができる。
実際に調合予定のそれぞれの誤差因子に基本機能がどれだけ影響を受けるのか実験をしてみたところ、交流で計測した場合には全ての誤差に計測結果が影響を受けるが、直流で計測した場合に幾つかの誤差因子に影響されないケースが観察された。
基本機能の動特性を用いて実験を行い、SN比を改善すると、システムにおける全ての品質項目が最適化される、という点がタグチメソッドのセールスポイントだが、これを胡散臭く思っている人もいる。しかし、帯電防止薄膜についてインピーダンスを動特性に用いてタグチメソッドの実験を行ったところ、帯電防止薄膜のシステムについて全ての品質項目が改善された。このテーマのコンサルティング結果について田口先生は大変満足されていた。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
リン系難燃剤のシステムでリン酸エステル系難燃剤の添加量は制御因子か、信号因子か。教科書を見ると制御因子で考えることになる。しかし、難燃化システムの基本機能としてLOIの増加率を考え外側にリンの濃度を取った場合には、信号因子として扱うことになる。基本機能の認識の仕方でこのような考え方も可能なのだ。これもタグチメソッドを難しくしている。
タグチメソッドの指導者にこの点を質問した場合に、その指導者が高分子の難燃化技術に詳しければ混乱はしないが、タグチメソッドに詳しいだけで技術というものを知らない指導者だった場合には最悪の事態になる。田口先生と直接議論したから当方もこの点を理解できたのだが、この場合田口先生はどちらでも良い、と言われる。すなわち技術者の責任なのである。
そもそもどのような制御因子を選んで実験を行うか、という点も技術者の責任である。この点を指導者の方が勘違いされてああだこうだ、と指図し、担当者の感覚とずれていたときに混乱が起きる。実験者が自由に設定できてSN比を改善できる因子が制御因子なのである。最近の教科書にはこのように書いてある本もあるが、10年以上前は難しい説明がされており理解するのに困難だった。その他調整因子とか因子の名前がいろいろ出てきて混乱した。しかし一番大切なのはSN比を改善できる制御因子を見つけることである。
リン系難燃剤を用いた実験で難燃剤の種類を制御因子に選ぶ場合がある。直交表にこの制御因子を入れた場合には、実験は少しややこしく感じるかもしれないが、処方が面倒になるだけで、実験そのものは難しくない。すなわちリンの濃度を揃えて処方を組めば良いのである。ずぼらをするのであれば、あとからリンの濃度を計算してSN比を決めても良いのである。
リンの濃度ではなく、難燃剤の添加量を信号因子にする場合もある。これも難燃化システムの捉え方が異なるだけで、間違ってはいない。技術者がシステムをどのように認識しているのか、と言うことである。
リン酸エステルの添加量を信号因子に取った場合には、難燃剤に含まれるリンの量が難燃剤の種類により異なるので解析に注意が必要になるが、それは技術の捉え方の違いの範囲内である。当方はリンの濃度を信号因子に取った方が考えやすいのでリンの濃度を推奨するが、添加量で信号因子をとったほうが考えやすいケースがあるのも事実である。どちらがよいか、それは技術者の責任である、と恐らく田口先生は天国から言われると思う。
高分子材料の難燃 化技術においてリンの濃度以外の基本機能を考えても間違いではない。設計しようとしているシステムに対して何を基本機能とするかは、技術者の責任なのである。このあたりは10年ほど前の品詞工学フォーラムの雑誌に竹とんぼの例が載っており、基本機能を考え竹とんぼを作ったがうまく飛ばなかった、というオチが書かれていた。もちろんこの例はタグチメソッドを否定するために書かれた記事ではない。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
高分子の難燃化技術について、炭化型システムでは、極限酸素指数(LOI)の増加率は基本機能だろう。溶融型システムでは基本機能とならない場合も出てくる。高分子の難燃化技術で基本機能を考えるときに難しい点である。基本機能を難燃化技術に直接関わらないところで考えることも可能であるが、ここでは炭化型システムでLOIの増加率を基本機能とした場合を考えてみる。
難燃化成分を横軸に取り、LOIを縦軸に取ると、難燃剤の場合、LOIが21前後まで一次線形の関係が得られる。LOIの増加率が高い系は、炭化型システムにおいて難燃性が高い傾向にある。また、難燃成分の中には、LOIが20で上限となり、その成分を増加させてもLOIが上昇しない場合もあるが、一応LOIの増加率を求めることができる。
ところがリン原子は、どのような高分子についてもLOIが22程度まで一次線形で正の相関係数をとる。リン系の難燃剤で難燃性の高い高分子材料を設計したいときには、信号因子としてリン原子の濃度を取り、LOIとの関係式からSN比を求める。このSN比を用いて他の制御因子について直交表を使い探す。
制御因子として何を考えるのか。予備実験から効果的な制御因子が分かっている場合は苦労しないが、全く分かっていない場合に、いきなり大きな直交表を用いた実験を行わない方が良い。L18が適当な大きさである。直交実験に慣れていれば、L8やL9という小さな直交表を使うのも良いが、L8やL9を二回行うくらいならば、L18を使用すべきである。
技術ができあがっていると制御因子のおおよその挙動は見えているが、技術が全くできあがっていない段階であると制御因子と思っていた因子がそうではなかったケースも経験している。一因子実験では制御因子のように見えても直交表を使用した実験では、効果が見られないことがある。これは実験を失敗したのではなく、タグチメソッドのメリットであり、実験者の誤解がその実験からあきらかになったのである。
直交表を用いたタグチメソッドの実験の良いところは、基本機能のSN比を“本当に上げることができる”制御因子を素早く見つけられることである。これは一因子実験をくり返して行い求めることもできるが、効率が異なる。但し、L18実験をすべて完了しなければその結果が得られないのがつらいところである。タグチメソッドを嫌う人の多くがこの点を指摘するが、実験計画をうまく組めば多くの場合1週間以内に結果が揃うので、タグチメソッドの欠点ではない。
ここまでリン系の難燃化システムの例で説明したが、他の難燃化システムでも同様である。例えば、ガラス生成の難燃化システムでは、ガラス成分とLOIの関係を直交表の外側に割り付ける。
ところで、難燃化技術では、燃焼速度の変化率が基本機能だ、という人もいる。もし自分たちの難燃化技術の哲学が燃焼速度を遅くする技術こそ大切である、と言うのであればそれでも良いのである。田口先生は基本機能を決めるのは技術者の責任だ、と言われた。タグチメソッドの責任では無いのである。何から何まで機械的に決めてくれないので、このあたりがタグチメソッドを難しくする原因になっている。あくまでもタグチメソッドは“メソッド“なのであるが、哲学的側面もある。基本機能は技術者がシステムを設計するときに自己責任で決めなければいけないコンセプトでもある。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
タグチメソッドの実験では直交表を使用する機会が多い。そのためタグチメソッドを実験計画法の一つと誤解されている人がいるかもしれない。しかしタグチメソッドを技術開発に用いるときには、直交表は必ずしも必要ではない。制御因子や調整因子を効率的に見つけるために直交表を利用するのであってそれを用いなくともタグチメソッドを活用できるシーンは多い。
タグチメソッドの実験で直交表はいつも必要ではないが、SN比を求めるのに動特性を用いることは必須と頭に入れるべきである。動特性を求めることができないときに、望小特性とか望目特性などを仕方がないから使う。ただその時でも基本機能の特性であることが求められる。
例えば直交表を使った実験で、外側因子として信号因子を使いSN比を求めるようにした実験と望目特性などを入れた実験では、制御因子の信頼度が異なる。タグチメソッドの一般の教科書にはここまで踏み込んで書かれていないが、田口先生も言われていたし、実際にタグチメソッドを20年近く使用した経験からもそれは教科書に書くべき事柄ではないか、とも思っている。
動特性でSN比を求める、とはどのような行為を言うのか。一般的に入力信号に対して応答する出力をプロットしたグラフを動特性のグラフという。タグチメソッドの実験を行うときにも入力信号を横軸に3水準程度とり、その入力信号に対して出力の値を求めるグラフを書く。そして実験で得られたグラフと理想的なグラフとの差異からSN比を求める。
一般的なタグチメソッドでは、理想的なグラフに対して直線を仮定し、その直線からのずれでSN比を求める。実験値についても一次線形のグラフを仮定し、その傾きは感度であり、理想的な直線からのずれがSN比になる。タグチメソッドの教科書に書かれた信号因子からSN比を求める方法の説明では、SN比の公式に感度が含まれている。
SN比とか感度は、ここまでの説明でその意味が漠然と分かってくる。特に感度とは一次回帰式の傾きのことだ、と言えば理解しやすい。またSN比は、理想的な直線からの誤差を示した値と理解できる。理想的なグラフを仮定できるためには、入力信号と出力信号は何らかの関数関係が成立していなければならない。これが信号因子の意味となってくる。信号因子の例として、電流電圧の関係とか延びと力の関係とかあるが、タグチメソッドで重要な信号因子は基本機能の信号因子だ、とよく言われる。
基本機能とは何か。実はタグチメソッドでこれが一番難しい概念です。科学的研究をやってはいけない、技術開発をやれ、基本機能の研究を行え、というのは田口先生の口癖で、この言葉から、基本機能の重要性とともに基本機能を見つける難しさが分かる。そして基本機能については何か、その具体的なことに関してタグチメソッドに書かれていない。田口先生は、基本機能は技術者の責任で見つける、と言われていた。
すなわち個々の技術で基本機能を技術者の責任で見いだし、その動特性のSN比でシステムの信頼性を議論する、これがタグチメソッドの重要なポイントと思っている。
<明日へ続く>
カテゴリー : 一般
pagetop