マツダが同社のリコールの原因は部品にある、として東海ゴムを訴えたという。これまでの日本における部品メーカーと組立てメーカーとの関係ではあり得ない訴訟である(注)。東海ゴムの利益がすべて無くなってしまう金額である。詳細については新聞記事をご覧ください。
以前この欄でも書いたケミカルアタックの問題もこのような事件と関係してくる。樹脂材料メーカーと組み立てメーカーの間では、品質問題が生まれたときに暗黙の了解で組み立てメーカーが責任を負っているケースが多い。すなわち市場の問題解決のためには樹脂メーカーの協力が必要で、迅速な解決を優先し樹脂メーカーと二人三脚で市場問題の解決に当たるために組み立てメーカーが譲歩してきた。
樹脂部品の接合部分には応力がかかるので、樹脂の製造ばらつきで大きく強度低下する場合には明らかに樹脂メーカーの責任であるが、そのような場合でもケミカルアタックという言葉が使われてきたケースがある。明らかに大手樹脂メーカーに過失があっても、ケミカルアタックとして問題解決した事例を少なくとも一度体験した。一度の体験で多くあるような書き方をしている、と思われると心外だが、担当者の話で樹脂メーカーにケミカルアタックと言われたらそれで終わりだ、という言葉もある。
この体験が元になり会社の品質問題のデータベースを見たところ、ケミカルアタックが原因となっている品質問題が多くびっくりした。ケミカルアタックは樹脂の接合部分で発生する原因不明の品質問題で使用するには便利な言葉のようだ。
マツダと東海ゴムの問題はケミカルアタックではない。ゆえに本欄の表題は、あたかもケミカルアタックが自動車のリコール問題と関係しているかの誤解を生む表現である。意識的にこのような表題をつけている。すなわち誤解を生み出す言葉の不思議さに気がついて頂きたいからである。業界用語の中には大まかな定義の言葉があり、当業者がその大まかな定義の中で納得しながら言葉を使用している。
ケミカルアタックは本来ケミカル製品の影響で樹脂部品の寿命が著しく低下した現象で使用されてきた言葉である。しかし、樹脂メーカーは原因不明の強度低下の問題にまでこのような言葉を使い始めたために、この言葉の意味は大きく拡張された。実際にあった話だが、現場で接合部分の強度低下が起きると、原因を調べもせずケミカルアタックとして処理していた。
言葉を適切に用いなかったために現場の感度が低下した事例だが、組み立てメーカーと部品メーカーとの関係においても、従来の慣習から見ると違和感のあるマツダと東海ゴムの訴訟のような刺激が必要になってきた時代かもしれない。すなわち材料メーカーや部品メーカーがあぐらをかいているとこのような訴訟が必要なように、不適切な言葉の使用でその場を繕っていると、そのうちこの言葉から大きなしっぺ返しを受けるかもしれない。
(注)海外では多い。
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省燃費タイヤのトレッドにはフィラーとしてシリカが使われている。このシリカについて最も研究が進んだのは20世紀末の20年間である。セラミックスフィーバーもあり、様々なシリカ粒子が登場した。タイヤ用フィラーとしてもオイルショックの影響から省燃費フィラーとしての研究が行われていた。
高純度SiCの開発を担当した時にもシリカについて検討したが、コストダウンは可能であるが反応時にSiOガスの生成が多くなるので、前駆体用に採用することは見送った。すなわちフェノール樹脂とポリエチルシリケートからリアクティブブレンドで合成される前駆体で、シリカは分子状で分散していることが間接的に証明された。
超微粒子のシリカをシリカゾルと呼んでいるが、写真会社に転職し、改めてその奥深さを学んだ。シリカの結晶である石英よりもはるかに面白く難解な材料である。特にアモルファスである点が問題を難しくしている。表面状態は合成法により様々に変化する。用途によりその影響が大きく出る場合もあれば、表面状態に鈍感な用途も存在する。
また、合成時にアルミなどの原子をドープすると表面に塩基性サイトと酸性のサイトを創りだすことが可能である。このような工夫をしたシリカ粒子に高分子を吸着させるとシリカゾルをミセルに活用できるようになる。
金属酸化物ゾルをミセルに用いる研究は2000年以降行われているが、世界で初めての成功は写真会社である。過去に研究が行われていたかどうか調べて、自分たちが初めてだとわかっても、単純な技術なので初めてだという自信が無かった。特許だけ書いてそのままにしていたら外国の研究者による論文が2001年に発表された。
その論文にはゾルをミセルに用いてオイルを分散した初めての研究とあった。編集者は日本の特許など読んでいないことはすぐに分かった。あわてて高分子学会で報告したが、あまり反響は無かった。しかしシリカゾルへの高分子の吸着を研究しているアカデミアの研究者と知り合うきっかけになった。
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タグチメソッドで有名な田口先生は個性的な先生だった。写真会社がタグチメソッドを導入するに当たり、田口先生をコンサルタントに招き、田口先生から直接学ぶ体制が取られた。当方も帯電防止技術やフィルム表面処理技術をテーマに直接御指導していただいた。
田口先生は基本機能の研究は認めたが、それ以外の研究について認めなかった。また、「タグチメソッド」を「田口メソッド」と書いていると、この書類は大きな間違いをしている、と指摘された。タグチメソッドはアメリカからの輸入品なのでカタカナで書く必要があった。
田口先生は、システムと基本機能を明確にせよ、とよく言われた。そして基本機能のロバストを上げることが技術開発であると。感度よりもSN比を重視するのがお約束であり、感度を最大にするような条件を選択すると叱られた。技術開発ではロバストが一番大切である、とSN比重視の技術開発と設計段階からSN比を評価することの重要性が田口先生の口癖であった。
帯電防止技術では、パーコレーション転移を田口先生にご理解頂くのが難しかった。ロバストの話をすれば良かったのだが、シミュレーション結果で話をしたので雷が落ちた。田口哲学を十分理解していないときだったので、議論は平行線になった。議論の過程で科学的現象ではなく、技術の話に絞れば良いことに気がつき、基本機能として低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値を提案したところ褒めて頂いた。
基本機能としてインピーダンスの絶対値のロバストを高めれば帯電防止層の接着力も同時に改善されているはずだ、と言われた。最初は力学現象と電気的な現象が同時に解決つくのか不安であったが、接着力の評価法を工夫し、インピーダンスの絶対値を基本機能にしてもその値に反映できるようにした。すなわち力学特性も電気特性も同時に計測できるようにしたのである。
科学的に開発を進めているときにこのような物性評価の考察を行わない。あくまでも科学的な情報がどこまで精密に得られるのか考える。技術では機能のロバストを評価するために評価技術が重要なのだ。
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絶縁体である高分子に導電体のカーボンを分散した半導体材料は、多くの分野で用いられている。この材料技術で最も難しいのはカーボンクラスターの制御である。いわゆるパーコレーション転移の制御を生産技術で実現できるかどうかにかかっている。
導電性の高いカーボンで10の9乗Ωcmを安定に実現するのは大変である。すぐに10の5乗Ωcmレベルまで下がってしまう。押出成形において押出工程でパーコレーション転移の制御を行うことは難しく、コンパウンド段階で目標となる抵抗を実現できるように創りこんでおかなければいけない。
このとき、どのような材料設計が理想かと言えば、カーボンの同じ大きさの弱い凝集体が均一に分散している構造が理想である。これは科学的に考察しモデルをつくりコンピューターでシミュレーションすればすぐに理解できる。
弱い凝集体もカーボンのクラスターだが、この凝集体のパーコレーション転移を制御したほうが、カーボン粒子の分散をあげる設計よりも技術的に容易である。すなわち1Ωcmの粒子が分散した時に生じるパーコレーション転移は急激に抵抗が下がるが、弱い凝集体では、その抵抗は凝集状態で制御でき、パーコレーション転移を穏やかに制御できるようになる。
すなわちカーボンの凝集体は凝集が密になればなるほどその抵抗は下がる。高分子の中にできるカーボン凝集体の抵抗は、おおよそ10の7乗から10の3乗Ωcm程度まで変化する。目標とする抵抗の凝集体ができるように高分子の配合設計を行えば、パーコレーション転移をうまく制御できるのである。
このように科学的なモデルで説明できる知恵が、なぜ教科書に書かれていないのか不思議である。「目標とする抵抗の凝集体を作る」という部分が技術的に難しいが、試行錯誤にプロセスで制御できる因子を動かし、カーボンクラスター生成の様子を体系化すればよいだけである。この部分は科学的に考えると意外と実現が難しくなる。
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製品化ステージでコンパウンドの内製化など提案しても反対されたかもしれないが、運よくグループ内の別会社でコンパウンド工場を立ち上げることができ、外部購入のコンパウンドと同等の扱いで開発を進めることができた。開発を進めた、といっても土日を利用したボランティア活動だ。製品化ステージなので集めなければいけないデータは生産に関わるデータだけである。根津にある中小企業のご厚意で実験を進めることができた。
休日にそのような努力と苦労をしていたことなど同僚の誰も知らないと思っていたら、問題社員のひげ親父だけは気がついていたようだ。出世するとたいへんですな、と言ってきた。この仕事ができてもこれ以上出世できる年齢ではないので出世目的ではない、と答えたら、俺も最後の仕事だからいい仕事をしたい、と言ってきた。
まっとうな人物で安心した。臭いのきつい煙草をパイプで吸い、サングラスをかけて現場で仕事をしているその姿は、およそサラリーマンの姿ではなかった。この姿は最後まで変わらなかったが、仕事に向かう姿勢は出会った時と180度変化し、積極的になっていた。知識欲も旺盛であった。
二軸混練機など扱ったことが無い、というので面白い男と二人並べ混練の講義を行った。当方も二軸混練機の扱いは初めてだった。しかし中古機の整備など土日のボランティア活動で薀蓄を語れる程度にはなっていた。その上混練の教科書には書かれていない高分子融体のレオロジーについて講義をしたので先生と呼ばれるようになった。ゴム会社で教えてもらったことがサラリーマン最後の仕事で活きた。
できあがった技術もカオスだがこの時の二人も多分にカオスであった。ただこの二人がいなければ、短期の生産立ち上げから安定生産維持に至るまで供給をショートすることなく立ち上げることができなかった、と思っている。
この二人がどこまで技術を理解して仕事に臨んでいたのかは不明であるが、メヤニはじめ工程で発生した細かいトラブルの対応は見事だった。科学的ではなく、現場的発想のヒューマンプロセスで動きに無駄は無かった。人手もなく予算も無かったので問題解決できればそれでよし、という姿勢を貫いた。お互いが初対面で性格もカオスであったが、量産開始後は安心して二人に仕事を任せていた。
ただ、化学工場の中でひげ親父に堂々とパイプを吸われた時には慌てた。マネジメントで苦労したのは、プラントからは遠かったが喫煙室まで行く習慣をつけなければいけないことぐらいであった。
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実用化された技術は、中古の二軸混練機の先に弁当箱よりも少し大きめの箱が取り付けられただけのシンプルな装置である。大きな弁当箱には、ある幅のスリットが3本内蔵され、ストランドを押し出すための穴が前面に幾つか開いている。このような単純な構造だが、その穴からは、フローリー・ハギンズ理論を信じていては理解できない樹脂が吐出する。
PPSと6ナイロン以外では確認していないので他の樹脂でどのようになるのか不明である。特許を書くためにPC/ABSで実験を行ったところ、驚くべきことに細かく均一に分散したゴム相だけが見える高次構造の写真が得られた。興味のある方は特許を見ていただきたいが、明らかに二軸混練機だけで混練した場合と大きく異なる高次構造である。二軸混練機だけの場合には、不均一なゴム相と他の樹脂相の分散した高次構造が観察される。
科学的な研究も技術開発もほとんど行わず、いきなり生産機を立ち上げたのはこれが初めての経験だった。日本化学会技術賞を受賞した高純度SiCのパイロットプラントを立ち上げた時には、独自開発した2000℃まで測定可能なTGAを用いて速度論的解析を済ませていた。実現すべき機能が明確になっており、それを達成できる手段があるならば、科学ですべてが証明されていなくても技術を作り上げることができる。
科学の無い時代でも技術が存在し進歩できたのは、人類の欲求が機能を明確にし、試行錯誤で達成手段を探すことができたからだ。科学の時代になり、人類は科学の成果に期待するようになった。科学の成果により機能や達成手段がパーツのごとく提供される時代である。そのおかげで技術者は科学の恩恵を受けて科学の無い時代よりも速いスピードで技術を進化させることができた。
その結果、学校教育も科学一辺倒となりネコも杓子も科学的な思考プロセスで問題解決するようになった。確かに科学的プロセスは論理的であり、その結果に誰もが納得する。但し科学で解明された分野は未だ自然現象のほんの一部分であることを忘れている。たとえば高分子融体については科学的に不明の部分が多いにもかかわらず、高分子材料技術者は多く残されている未解明な領域で技術を創り上げなければいけない。そのような状況でも技術者に科学的な答えを要求するケースを見かける。
技術者には技術者特有のヒューマンプロセスがあるはずで、それは時々KKDと揶揄されたりするが、それを大切に伝承する風土がメーカーには必要である。ゴム会社ではそのような風土が存在したが、残念ながら写真会社ではそのような風土を築くことは否定された。科学的プロセス以外は認められなかったのである。弊社の研究開発必勝法プログラムはゴム会社で考案したヒューマンプロセスを独自ツールで使いやすくしたプログラムである。
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若い技術者1名と技能者1名でコンパウンド内製化チームを作った。当方も現場で作業をしなければならなかったが、短期決戦では少人数により効率をあげることができる。特許に公開されているように3mm未満のスリットへPPSと6ナイロン・カーボンが混練された状態で通過させるとフローリー・ハギンズ理論で否定される現象が生じる。すなわちPPSと6ナイロンの相溶が起きて、PPSのTgは85℃まで低下する。
中古機の検収条件として、PPSと6ナイロンだけ混練し透明になることを記載した。この検収条件は科学に反するが、量産開始3ケ月前に一発で検収に成功している。コンパウンドの内製化工場は大成功だった。立ち上げて7年近くになるが問題なく稼働しているようだ。
さて細いスリットへ高分子の混合物を流すアイデアは、1995年にウトラッキーがEFMという装置で実現している。ただ、これは鋭利なスリットを使い、伸張流動を発生させる装置でカオス混合を狙った装置ではない。特許に書いたように平行な距離が10mm以上のスリットでカオス混合が起きる。ロールと同様に剪断流動により生じる急速な伸張で二相界面の規則性は無くなりカオス混合となる。
急速に引き延ばされているので伸張流動という呼び方になるのかもしれないが、スリットの間隙が狭いことから発生する大きな剪断力がカオス混合を実現している、と考えている。この技術実現のためにアイデアは30年以上練られたが技術を実現するために費やされた時間はせいぜい数ケ月である。十分な科学的研究は行われていない。
KKDと批判されてもいいような技術であるが、科学に先行する技術とはそのようなものだ。iPS細胞でもできた当初はKKDの賜物である。KKDと科学を節操も無くブレンドして推進されたのがSTAP細胞だ。
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押出成形技術については、新入社員時代の工場実習でゴム会社の職長から学んでいた。コンパウンドが作りこまれていなければ品質を維持できない、「いってこい」の世界である、と習った。押出工程でできるのは金型の温調ぐらいしかないので、コンパウンド段階で性能を作りこまない限り成形体の品質を安定にできない技術である。
このテーマのコンパウンドで目標性能を作りこむプロセスとは、カオス混合以外考えられなかった。さらにそのアイデアもこれまでの経験から十分に熟成できていた。あとは商品化直前のステージで行う方針変更について周囲を説得する戦術だけであった。
大きな問題は内製場所と予算だった。コンパウンドの内製化はテーマに含まれていなかった。ただこの問題は、二つの企業が統合するに当たりカンパニー制になっていたので、他のカンパニーに依頼すれば解決できる。本来ケミカル会社は現在の電子写真の子会社で会った方が良かったのだが、なぜか幸運にもコーポレートの研究を行う会社の子会社になっていた。ゆえにこのケミカル会社にコンパウンド工場を作ることを決心し調整を始めた。
次に金の問題である。製品化テーマのため開発予算変更は製品価格に影響するので、大幅な変更はできない。ただ、投資を1億円以下にして、数種類の製品でコンパウンドを活用するシナリオにすれば、新たな投資金額を誤差の範囲にできる可能性があった。また二軸混練機の納期は通常半年以上かかるので中古機以外に選択の余地は無いので1億円以下でプロセスを組み立てる見通しも立った。
残るのは人の問題である。製品化まで1年しか無い状態でコンパウンドの内製化技術を立ち上げるとなるとそれなりの人数を割かなければいけない。押出成形技術だけでもいろいろな問題を抱えていた。当方も工数を割かなければ内製化プラント立ち上げまでやりきれないことは見えていた。
また短期決戦では、少人数活動で効率を上げたほうが成功率が高くなる。すなわち、外に出せる業務は可能な限り外部に委託して、外部に委託できない仕事だけを行う方法である。金はかかるが、計画を立てやすい。幸い面白い男は教育のため当方の下につけていた。さらに現場には一名仕事はできるが問題社員のひげ親父がいた。
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朝のミーティングでカオス混合装置の話をしたが、マネージャーからはコンパウンドをどこで作らせるのか、という現実的な話になった。このテーマでは、PPSと6ナイロン・カーボン系のコンパウンドを外部コンパウンドメーカーAから購入して押出成形技術を創り上げることがミッションだった。
製品化まで1年という期間のテーマ、すなわち製品化ステージに入っており、新たに混練技術を内製化する、という変更ができない状態だった。しかし、PPSと6ナイロンを相溶させる以外にこのテーマを成功させる道は無い。結局カオス混合技術を外部コンパウンドメーカーAで実現する以外に道は無かった。
そこで、混練プロセスの見直しを行いたい、という申し出を行ったところコンパウンドメーカーAは非協力的だった。説得するために納入されているコンパウンドの混練方法について少し見解を述べたら、素人は黙っていろ、と同等の厳しい言葉を言われた。
伸張流動が注目されていた時代である。そんな時代に剪断流動を重視した混練を提案しても否定されるのは分かっていた。さらにフローリー・ハギンズ理論に反した結果でこれを信じて1年以内に生産プロセスを作れ、といっても無理な話であることは当方も理解していた。しかし、PPSと6ナイロンを相溶させパーコレーション転移のシミュレーションから導かれた最適なカーボンクラスターを実現するためには、二軸混練機におけるスクリューセグメントの設計から見直したかった。
いくら説明してもダメだった。コンパウンドメーカーAの技術営業の頭が硬いのではなく当方を信じていない、ということが分かった。コンパウンドメーカーAの技術者も自信があるのであろう。当方が担当している押出技術さえ完成すればこのテーマは成功する、とまで言ってきた。早い話が押出成形技術の未完成はコンパウンド技術ではなく当方の責任、と言っているようなものだ。
当方はカーボンクラスターの説明からカオス混合の可能性まで一通り情報提供したが、ムダだった。質問すら無かった。信用が無い、ということはコミュニケーションもおかしくする。せっかく面白いデータが出て、それをすぐに業務へ反映させようとしたが、外部の協力が得られず頓挫した。コンパウンドメーカーAへの対応はマネージャーに任せ、内製化の準備を始めた。
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昨日まで表題の討論会に参加していた。表題の討論会は、昭和30年代後半高分子の物性加工で分からないことが多かった時代に、学会が主催する講演会では時間が少ないのでゆっくり討論できる時間を取るためと官学交流の場として企画されたそうだ。
当方はゴム会社から写真会社に転職した20年前に東大N先生に紹介されて参加している。参加のきっかけは、ゴム会社で半導体用高純度SiCの冶工具事業を立ち上げ、FDを壊されるという事件で転職したばかりの頃、転職先の高分子技術のレベルが低く、当方が研究管理だけやっていたのではだめな状況だったから。
自らが技術を引っ張りあげなければレベルが上がらない、と考え、N先生にご相談した。N先生はゴム会社の先輩に当たり、当方のキャリアがセラミックスであったこと、そして学位を取得したばかりだったことなど考慮してくださり、この討論会を紹介された。
今回の討論会もそうだったが、学会の講演会と異なり、研究としてまとまっていない話題が多い。だから問題点が明確になる。面白い討論会である。また学会発表であれば聞きに行かないであろうテーマの講演もホテルに夜9時まで拘束されるので聞くことになる。
勉強の場として初めて参加したときにレベルの高さについて行けなかったが、門前の小僧習わぬお経を読む、のごとく、2回程参加したところ高分子の先端の話題を理解できるようになった(注)。門外漢には便利な討論会である。
ただ20年近く参加してきて感じていることは、アカデミアから新しい話題が無くなってきたことである。AFMの見直しや高分子の管モデルからの脱却、粗視化の工夫など温故知新的な取り組みには、期待できそうな香りがあったが。
環状高分子の精密合成のようなそれを研究して何に役立つのか分からないようなテーマと思われる講演もあった。ところが、20年近く聞いてきたので感動もしないと思われた環動高分子の基礎と応用で、環動高分子を微量添加したときの物性変化の話題が、このテーマと頭の中で結びつき、疑問に思っていたことが氷解し感動した。
科学の真理の中には、社会に役立つどのような機能に結びつくのか分からないものもある。だから基礎研究はもう不要というのは乱暴で、このテーマのように真理が確定したことで、それを活かすアイデアが生まれる場合がある。科学の研究にムダはない、といった物理学者がいたが、自然界の真理を確定する成果が出る限りにおいて恐らくそれは正しいのだろう。じっくり聞ける講演会の長所である。
(注)OCTAの世界を勉強できたのもこの講演会のおかげである。写真会社の後半の仕事に勉強の成果を活かすことができた。前半の仕事は、酸化スズゾルのパーコレーション転移制御のように「高分子」が無くても出せた成果が多い。
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