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2012.10/04 必要な知識を短時間で身につけるには

無機材質研究所へ留学するために最初に猪股先生へおかけしました電話では、セラミックスの研究歴が無い点を指摘されました。猪股先生へのこの最初の電話では、2週間後に開催される学会でお会いする約束をしたかったのですが、そこまでたどり着く前に、断られてしまったのです。しかし、失礼とは思いましたが、学会で名刺交換だけでもさせて頂こうと、先生の発表日に学会へ出席し、名刺交換と自分の売り込みをいたしました。

 

2週間という短時間でSiCの専門家に認めて頂けるような知識をどのように身につけたらよいか、1日悩みました。当時のセラミックス関係の有名な専門書は、キンガリー著「セラミックス材料科学入門」でしたが、とても2週間で読み切れるページ数ではありません。最低限でも猪股先生の論文を読んでおこう、と思いまして3編ほど最新論文を集め読んで見ました。

 

3編ともセラミックスの焼結過程を熱力学の観点で論じた論文でした。猪股先生が新しい焼結理論を構築しようとされていることは、緒言を読むと理解でき、従来の理論の問題点も整理されていました。キンガリーの教科書に該当部分が無いか探しましたら、10ページほど古い焼結理論の説明がありました。教科書を読んでいたときには、よく理解できなかったのですが、猪股先生の論文と対比しますと、不思議なことによく分かります。

 

猪股先生の論文と教科書の該当する部分を比較しますと、セラミックスという学問が、相図などの状態変化を扱いつつも、形態学的な観点で研究されてきたのではないか、という疑問がわいてきました。物理化学を少しかじれば、状態変化は熱力学で議論するのが基本ということを理解できます。猪股先生の焼結理論は、実験結果の整理を熱力学で行う姿勢が明快でした。猪股先生とお話するときには、熱力学を十分に理解していることが重要と思いました。

 

セラミックスのプロセシングで重要となる焼結について、その理論が議論されている状況という段階ならば、基礎科学の観点でセラミックスという学問が見直しをされているのではないか、という疑問を持ちました。猪股先生のご専門であるSiCについて、どの程度研究されているのか調べましたら、速度論的研究に大穴を見つけました。SiCはシリカ還元法と呼ばれる方法で製造されますが、気相と固相の両者が関わるために反応機構が複雑になります。反応機構についていろいろと提案されていましたが、固相だけあるいは気相だけで進む反応機構を取り扱った論文はありませんでした。

 

高純度SiCを合成できる高分子前駆体をすでに開発していましたので、この前駆体を用いれば、固相均一反応の取り扱いで速度論を議論できるのではないかと考えました。反応副生成物は、すべてガスですから熱重量分析法でモニタリングできます。熱力学と速度論については学生時代に勉強しましたので、猪股先生の論文を中心に知識の整理をいたしました。不思議なことに、猪股先生の論文を中心にSiCに関わる熱力学や速度論の問題を整理しましたら、セラミックスが分かったような気分になりました。

 

この時の経験で、必要な知識を短時間で身につけるには、一人の研究者の考え方を整理してみるのもコツではないかと思いました。読み古した教科書ならば短時間に復習できますが、真新しい教科書では短時間に知識を身につけることは難しいように思います。しかし、一人の研究者の論文であれば、たとえそれが難解な論文でも、教科書片手に読み進んでゆくとその分野の知識が、教科書よりも短時間で身につくように思います。これは、一人の研究者の論文は、一人の研究者の哲学で一貫しているから知識が頭の中で整理されやすいのではないか、と考えています。

 

高分子材料のツボセミナー」(注)では、この時の経験も取り入れ、高分子材料を実務で扱う時に、とりあえず知識として頭に整理しておきたい事項を教科書とは異なる視点でまとめてみました。2時間前後で知識の整理を行うのに便利なツールをめざし企画しました。

 

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2012.10/03 研究開発に必要な知識と情報

研究開発に必要な知識と情報につきましては、各企業の企画業務で伝承されていると思います。しかし、専門外のファインセラミックスフィーバーが突然発生し、ファインセラミックスの企画をしなければならない状況では、おそらく外部のコンサルタントを活用するのが一般的ではないかと思います。

 

当時、ファインセラミックスを会社の事業方針に掲げた時には、日米3社のシンクタンクの情報で立案された企画に基づいておりました。市場規模はじめ綿密に調査されたレポート等それなりの金額が支払われた情報の数々は、経営が判断するに十分なデータ量でした。しかし、研究開発を実際に担当する立場では、単なる情報に過ぎず、特にセラミックスの専門家のいない会社では、具体的にどう研究開発を進めたらよいのか暗中模索の状態でした。

 

研究開発部門では某コンサルティング会社に依頼し、研究開発テーマを提案できるコンサルタント数人によるプレゼンテーションを実施したのですが、提案内容について自分たちで裏付けを取るために特許調査をしてみると、特許の観点から平凡な提案ばかりでした。画期的と思われるテーマもありましたが、アカデミアの先生のご意見を伺いますと「大嘘」の企画であることがわかりました。

 

畑違いの企業が新たな市場に参入するためには、その市場でイノベーションを起こせる画期的な技術アイデアが求められます。私が提案した高分子前駆体によるファインセラミックス事業のシナリオは、人事部の目にはとまりましたが、研究部門では、画期的ではあるがコストが高く事業性が無い、という判断が下されていました。そのような背景もあり、海外留学をやめて自分の提案した企画について研究開発の企画部門の判断が正しいのか確認するために無機材質研究所へ留学先を決めたのですが、結論としましては、日本化学会化学技術賞まで受賞し、30年経過した現在でも事業が継続する技術シーズを当時の研究開発部門で、いとも簡単にダメテーマに分類していたことになります。

 

無機材質研究所において最低限学びたかったのは、半導体材料のコスト計算を正しくできるスキルでした。すなわちイノベーションを可能とする技術ならば従来のプロセスにも革新もたらし、その結果コストダウンにつながるシナリオも描けるのではないか、と期待していました。このあたりのカンは、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームを開発したときの始末書の学習効果が生きていたと思います。しかし、そのようなことを無機材質研究所総合研究官猪股先生には申せません。人数制限など物理的制約を取り除いても、留学生として受け入れて頂けるような、見識と実力を兼ね添えた人材であると表現できるように知識と情報を短期間で身につけなければならなかったのです。

 

「高分子材料のツボ」セミナー(注)は、この時の経験を生かし、高分子材料開発を行うために必要な知識と知恵を2時間程度で身につけられる電子書籍という考え方で企画しました。

 

 

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2012.10/02 電子セミナー「高分子材料のツボ」のご案内

㈱ケンシューでは、デジタルコンテンツならではの、他にはない新しい形として、購読者参加型の電子セミナーを販売中です。

 

弊社の提供している電子セミナーは、直感的に理解しやすいよう項目毎に1ページを当て、そこへアイデアを出すために必要な重要事項をまとめ、音声による解説もつけております。また電子書籍の形式なので、空いた時間に購読者側のペースで受講し、途中で中断・再開する事も、受講終了後も自由に閲覧することもできます。今回はその一つ、弊社電脳書店で販売中の電子セミナー「高分子材料のツボ」についてご紹介させて頂きます。

 

「高分子材料のツボ」では、高分子の身近な歴史や高分子構造をどのように理解すればよいのか、から始まり、その評価技術、結晶化は何故起きるのか、古典的なレオロジーの位置づけ、そしてプロセッシングについても、実際に実務を経験してきた技術者ならではの視点で解説しております。

 

本コンテンツの特徴は、購読者の質問を受け付けている事です。質問につきまして、質問者へ直接回答はできませんが、一定期間(およそ1か月前後)届きました質問を分類し、その回答を定期的に追加していきます。質問回数に制限はなく、セミナー内に記載された期限内であれば何度でも質問する事が可能です。

 

本コンテンツの対象は学生、専門外の技術者、そして専門技術者の知識整理目的となっております。
興味を持たれた方は是非ご購入を検討してください。

 

 

クリックすると説明とサンプル閲覧ができます。

(¥1000)

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弊社では同時に顧問契約によるコンサルティングも行っていますので、高分子材料の分野でお困りの方はご相談ください。

 

倉地育夫

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Info@kensyu323.com

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2012.10/02 出会い

科学技術庁無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学する手続きは、少し面倒でした。アカデミアの先生からご紹介をいただき、猪股先生に電話にて面会のご都合を伺ったのですが、セラミックスの研究経験が無いことと、ビジターの定員3名という制限でSiCの研究グループが満員であることを理由に、面会そのものが断られました。ファインセラミックスフィーバーの状況で、同様の問い合わせが、フィーバーの中心素材でもあるSiCの研究グループへ数多くきているのではないか、と想像しました。

 

その2週間後学会で猪股先生にお会いすることができ、初対面で生意気とは思いましたが、猪股先生の発表内容に関して肯定的なコメントさせていただき、SiC合成のための新しい前駆体高分子とそれを用いたシリカ還元法の反応機構を研究するシナリオのお話をさせていただきました。猪股先生は、セラミックスの新しい焼結理論の構築に努力されていましたが、日本セラミックス協会の古い研究者には支持されていませんでした。

 

当時教科書に載っていた焼結理論は、電子顕微鏡の観察結果から導かれたような理論でしたが、猪股先生の理論は、科学の世界では一般的な熱力学に基づく理論で、高分子や無機の結晶の速度論や自由エネルギーの考え方と共通に論じることができる、科学的な理論でした。しかし、日本セラミックス協会誌には、その科学的理論に批判的意見が掲載されていました。猪股先生にゴマをするつもりは無かったのですが、先生の理論から、高純度SiC用前駆体高分子の熱重量分析データを活用する速度論的研究のアイデアが浮かびましたので、その研究アイデアの評価を頂くため、アイデアの基になった先生のご研究に対し肯定的なコメントをする必要がありました。

 

猪股先生から、「君のSiCの研究テーマを研究所に持ち込んで頂いては困るが、SiCについてそこまで詳しいのならば、留学の件何とかしましょう」と言ってくださり、会社の上司と無機材質研究所へ訪問することになりました。この時猪股先生から、無機材質研究所で動いているテーマのお手伝いをする覚悟で留学するようにクギをさされました。すなわち、高純度SiCの新合成法の研究やその反応速度論の研究を無機材質研究所でしてはならない、とまで明確に留学の条件を提示されました。

 

直属の上司であるO課長とY取締役、私の3名で無機材質研究所へ訪問いたしました。研究所を見学後、猪股先生は、田中無機材質研究所長をご紹介くださり、その場で留学の許可を頂くことができました。田中所長もSiCの研究者として著名な方で、学会で猪股先生にお話ししたSiCの反応速度論の研究シナリオについて、ほめてくださるとともに、無機材質研究所で3年間勉強した後、必ず高純度SiCの研究を成功させ事業化を行うよう私たちを激励してくださいました。

 

高純度SiCの新合成法発明の機会ができただけでなく、この田中所長との出会いで、新しい問題解決法を生み出すこともできました。その詳細につきましては、「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(注)に紹介しております。また、「問題は「結論」から考えろセミナー」(注)では、問題解決法の手順に絞り、セミナー形式で解説しております。是非ご一読ください。

 

 

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2012.10/01 会社の留学制度

入社して2年目に会社は創立50周年を迎え、CIが導入され、社名からタイヤが消えました。そして、非タイヤ部門を強化する方針が発表され、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスの3分野を事業の柱とする戦略が発表されました。同時に50周年記念論文の募集(1980年)があり、私は有機無機複合材料から高純度セラミックスを合成し、それを基盤技術としてファインセラミックス市場に進出するシナリオを提案いたしました。この提案は、入選しませんでしたが、海外留学のチャンスを頂きました。

 

留学し学位を取得するのは一つの夢でしたので、このチャンスは夢実現につながる朗報でしたが、日本が先端を走っているファインセラミックスフィーバーの状況と会社の方針を考慮すると、留学先を日本とし会社の事業戦略に直結する研究テーマを選ぶべき、という思いが浮かび、アカデミアの先生3人に最良の留学先について相談いたしました。すると3人の先生方全員が研究環境の観点で無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)を一番の留学先であると教えてくださいました。

 

しかし、無機材質研究所の留学では研究所に学位審査権が無いので学位は取れません。学位取得の容易さと会社の方針、そして会社が用意してくださいました海外留学先も含め悩みましたが、30年以上担当することになるであろうファインセラミックスの仕事を中心に考えを整理し、S人事部長とご相談しました。すると、無機材質研究所から留学許可が得られるならば、海外留学制度にとらわれる必要は無い、という見解を示され、研究所の上司にも調整してくださいました。

 

その後手続きを進め、無機材質研究所へ留学することになりましたが、当時国内の大学以外の研究機関への留学は全社の留学制度として前例が無く、海外へ毎年研究所から1名留学するのが常態化していましたので、研究所の同僚からは今回の国内留学が前例となったなら、海外へ留学しにくくなるのではないかとの批判も聞かれました。また、仕事中心ではなく学位取得と語学を成果として考えればよい、とアドバイスしてくださる先輩もいました。

 

会社に留学制度がある場合に、その目的の一つは人材育成ですが、それ以外は会社により様々と思います。研究所の上司からも柔軟に考えるように、ともアドバイスを頂きました。その後学位取得に苦労しましたから、当時の自分の判断が正しかったのかどうか悩むこともありましたが、無機材質研究所へ留学し、高純度SiCの新合成法を完成することができ、そしてその事業が現在も続けられていることを思いますと、海外留学と学位のチャンスを見送り、無機材質研究所を留学先に選びましたのは、正しかったのではないかと思っています。ただ、発明の成功により先行投資2億4000万円が決まり、高純度SiCの新合成法のパイロットプラントを建設することになり、3年間の留学予定が1年半になりましたのは誤算でした。

 

上司の説明による当時の全社留学制度は、語学留学が目的で、将来の海外派遣要員育成という目的があったようです。将来のキャリアプランとして社内ベンチャーを起業したい、という夢もございましたので、全社留学制度の趣旨どおりの留学でも良かったのかもしれません。しかし、SiC半導体の原料となる高純度SiCの新合成法のアイデア実現が、社業に貢献できる成果として具体的に見えておりましたので、無機材質研究所への留学を決意しました。また、当時の無機材質研究所は、ファインセラミックスフィーバーの中心研究機関で、セラミックスメーカーからのビジターが多く、留学先のSiC研究グループは、海外の留学生も含め満杯の状態でした。ところが小生のビジョンを理解してくださった猪股先生が田中無機材質研究所長と調整してくださり、受け入れてくださいました。さらに、田中所長は、留学の挨拶で訪問した会社幹部に、高純度SiCの用途が、パワー半導体やLED、半導体冶工具に広がり、将来一大マーケットが形成されるという説明をして、高純度SiCの研究の後押しをしてくださいました。この詳細は「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(1)あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」(2)に紹介してあります。

 

(1)(2)は、クリックして頂くと、リンク先からサンプルを閲覧できます。

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2012.09/30 実験の目的

実験は、仮説を検証するために行う、とは、大学で研究の指導を受けているときに言われた言葉である。確かに仮説を検証するために実験を行えば、企業の研究開発業務でも効率があがる。

 

哲学者イムレ・ラカトシュ著「方法の擁護」には、科学的論理で完璧にできるのは否定証明だけである、と書かれている。興味を持ちましたのは、否定証明された科学的真実について、それを否定する事実が出現したらどうなるか、という点で、それは科学的にありえないことになるが、新発見として認められれば、否定証明に使われた論理のどこかが間違っていたか、前提条件が不足していたことになるので、そこから新たな科学の研究が始まる、すなわちイノベーションを起こすことができる。しかし、このような今までの科学が否定された現象が見つかった、というニュースをほとんど聞かない。科学が進歩し、自然現象の解明が進んだからだ、と説明されるかもしれないが、高分子物理の世界には、怪しい式が存在する。

 

イムレ・ラカトシュが言うように、否定証明だけが完璧な論理展開とするならば、仮説を検証するための実験についても2通りの実験計画が考えられる。一つは、仮説の正しさを確認するための実験と、仮説を否定するための実験である。通常の研究開発では、科学的成果を活用し開発速度を上げるために前者が採用され、仮説で見いだした因子の最適化を行い、製品化作業を進める。また、科学的成果から立案した仮説をわざわざ否定するような実験は、経験上から多くの場合失敗する、と考える。しかしイノベーションを期待できるのは後者の実験である。仮説を否定した実験が成功すれば、その仮説の基になった科学的成果は疑わしくなり、新たな可能性が展開する世界が開けてくる。

 

32年間の企業の研究開発において、仮説を否定する実験を3度成功させた。その最初の実験の成果が、高純度SiCの前駆体高分子の合成である。1980年の技術調査結果では、高純度SiCを合成するための原料として幾つか提案されていたが、珪素源と炭素源のいずれも高純度で経済的な原料の組み合わせ、あるいは高純度化を達成できる経済的なプロセスは存在しなかった。例えば珪素源としてポリエチルシリケートは、半導体原料にも用いられている経済的な高純度の珪素源であり、フェノール樹脂は、高純度炭素を製造するのに経済的な原料である。それゆえ、それぞれを珪素源もしくは炭素源として用いて、その他の珪素源あるいは炭素源とを組み合わせた発明が公開されていた。しかし、その他の珪素源や炭素源の純度が悪いために、合成されたSiCの純度を99.0%以上の高純度化に成功した発明は無かった。もし、この両者を組み合わせてSiCの前駆体に用いることができるならば、理論上100%純度のSiCが合成できるはずである。

 

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせが存在しなかったのは、両者を混合すると相分離するからである。すなわちうまく混ぜることができないからである。これは、フローリー・ハギンズのχパラメーターの説明を読めば容易に説明がつく。簡単に申せば、異なる構造の高分子を安定に混ぜることができない、混ぜれば必ず相分離する、という理論が高分子物理の世界に存在する。この理論を知らなくとも、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を混ぜてみれば、白濁しすぐに2相に分離するので、この2種の組み合わせをあきらめることになる。ポリウレタンの合成経験を生かして、ポリエチルシリケートを低分子量のテトラエチルシリケート(TEOS)にしても改善されない。純度を犠牲にして界面活性剤あるいはコンパチビライザーを用いれば少し改善され、白濁した状態の混合物が得られ、それを加熱してゆくと、運が良ければうまく硬化するが、運が悪ければ発泡する。運が良かろうが悪かろうが得られた硬化物の構造を見ると数ミクロンのシリカ粒子が析出している。シリカゾルとフェノール樹脂の混合物はナノオーダーの構造なので、ポリエチルシリケートあるいはTEOSとフェノール樹脂の混合など実験を行う動機は生まれない。

 

しかしポリエチルシリケートとフェノール樹脂の均一混合を成功させたいと思った。それは、樹脂補強ゴムの開発を行っていたときに、高分子の相溶に疑問を持つような結果を体験し、フローリー・ハギンズの理論のあまりにも単純な仮説に疑問を持っていたからである。構造の異なる2種の高分子を分子レベルで混合し(相溶し)安定化する一つの手段は、構造の異なる2種の高分子を反応させる方法である。これをリアクティブ・ブレンドというが、反応でできた結合が安定であれば、混合後放置しても相分離しない。分子レベルで反応しているので、炭化すれば分子レベルのシリカと炭素が混合された前駆体ができる。この前駆体を用いれば、未反応の酸化珪素が残る可能性は無くなる。しかし、そのためにはフローリー・ハギンズの理論を否定する実験を行わなければならない。

 

このフローリー・ハギンズの理論を否定する実験は、無機材質研究所留学時代に行い、成功しましたが、この成功は、フローリー・ハギンズの理論を否定する新たな実験のアイデアを生み出し、定年退職前にカオス混合を簡便に行う混練装置の発明につながりました。カオス混合につきましては、「高分子材料のツボ」セミナー(クリックしてください)をご覧ください。

 

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2012.09/29 高純度SiC前駆体の発明

硼酸エステル変性ウレタンフォーム(1)は、燃焼時にアモルファスボロンホスフェートを生成し、高分子の難燃化を行うコンセプトで開発しましたが、合成された高分子は、高純度ボロンホスフェートの前駆体高分子とみなすこともできます。

 

1980年頃通産省主導でセラミックスガスタービンを開発目標にしたムーンライト計画というプロジェクトがスタートし、セラミックスフィーバーが始まりました。ファインセラミックスの製造プロセスとして、金属アルコキシドを用いるゾルゲル法は注目を集めておりました。セラミックスは高温でも安定なので、高純度のファインセラミックスを得るためにセラミックスを合成してから高純度化するよりも、原料段階で高純度化できるゾルゲル法が有利だからです。しかし、アルコキシドの安定性や反応バランスから、合成できるセラミックスが制限されておりました。高分子マトリックス中にセラミックスの成分を固定化したゾルゲル法であれば、原料のアルコキシドの制約が無くなります。

 

硼酸エステル変性ウレタンフォームの開発が完了した時に、フェノール樹脂発泡体開発プロジェクトが社内にできました。フェノール樹脂は耐熱性が高い樹脂ですが、当時のフェノール樹脂で発泡体を製造すると難燃性が低下する問題がありました。しかしフェノール樹脂は、燃焼時に炭化物を多く生成する樹脂ですので、リン酸エステル系難燃剤が無くとも難燃性向上ができるのではないかと推定し、硼酸エステル変性ポリウレタンフォームのコンセプトを見直し、シリカゾルだけで難燃性向上を狙ってみました。見事的中し、LOIの向上とJIS規格準不燃レベルも低密度フェノール樹脂発泡体で合格することができました(2)。このフェノール樹脂とシリカゾルの複合材料は、窒素中800℃で炭化(蒸し焼き)しますと、高純度のシリカ(SiO2)と炭素(C)の均一に混合された材料になり、さらに1600℃以上の高温度で反応させますと、高純度SiCが合成されます。すなわち、シリカゾルで難燃性を向上させましたフェノール樹脂発泡体は、高純度SiCの前駆体高分子でもあるのです。

 

1990年代に有機無機ハイブリッドの研究報告が活発化しますが、1980年代に高分子前駆体からセラミックスを合成する研究は、ノーベル賞が噂された故矢島先生のポリジメチルシランのご研究が存在したぐらいで、2種以上の高分子を均一混合し、セラミックス前駆体に用いる研究報告はありませんでした。ホームランを狙い、フェノール樹脂とシリカゾルのハイブリッドポリマーの研究をフェノール樹脂発泡体開発の傍ら続けました。

 

難燃性を向上させたフェノール樹脂発泡体は某大手建築会社の天井材に採用されますが、この天井材開発は成功しても、いろいろなマネジメント上の障害が多数発生し、開発プロジェクトの活動は精神的苦労が大きかったので、良い思い出になっていません。ただ、プロジェクト活動中はストレスの多い毎日でしたので、時間外のテニスを有機無機ハイブリッドポリマーの研究に切り替えて、気分転換し楽しんでおりました。

 

天井材用に開発されたフェノール樹脂とシリカゾルのハイブリッドポリマーでもナノレベルの複合化を達成していました。さらに難易度が高い分子レベルの複合化をめざして、シリカゾルのかわりに、水ガラス(ケイ酸ソーダ)から抽出したケイ酸ポリマーとフェノール樹脂のリアクティブブレンドを研究していましたが、中間処理にジオキサンやTHFを用いますので作業環境の問題を抱えておりました。この研究は、フェノール樹脂とポリエチルシリケート(TEOSなど)とのリアクティブブレンド及びそれを用いた高純度SiCの発明(3)(4)へ発展しますが、難燃剤の研究が、ファインセラミックスフィーバーの影響を受け、ゴム会社の事業とは無関係の新しいアイデアを生み出す原動力になっておりました。

 

この時の思考過程は、コンセプト重視の考え方に思考実験を組み合わせたプロセスでしたが、ソフトウェアー工学のオブジェクト指向やエージェント指向の勉強もしておりましたので逆向きの推論の有効性に着目し始めておりました。「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」や「問題は「結論」から考えろ!セミナー」では、若い時にどのようにアイデアが浮かびそれを実現してきたのか、その方法をまとめています。是非ご一読ください。

 

 

 

<参考文献>

1.特開昭58-1366158

2.特開昭59-100144

3.特開昭60-226406

4.特開昭61-132509(特公平6-2565)

 

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2012.09/28 高分子を混ぜる

混練の話につきまして過去にしておりますが、改めて高分子を混ぜる技術について。

 

混練機の中では、溶融した高分子で発生する剪断流動と伸張流動の2種の力により、分散が進行すると言われております。そして、分散効率の点では剪断流動が、分散粒径の点では伸張流動が有利とまで説明している教科書もあります。しかし、混練のこの説明は再度見直した方がよい、あるいは技術的に高分子を混ぜるとはどうすればよいか、を材料とハードウェアーの関係において改めて根本的に見直すべきではないか、と思っています。その結果新しい混練機が生まれるように思います。

 

硼酸エステル変性ポリウレタンフォームを商品化するために、何度も試作を繰り返しました。自分が発明した技術を現場で試作を行い、商品に仕上げるまで体験できたのですが、このとき、液状の原料を高速撹拌する装置に興味を持ちました。通常の高分子の混練装置の10倍以上の回転数で攪拌機は回転しています。実験室ではワンショット法と呼ばれる方法で、エマルジョンを混合する特殊な高速攪拌機を用い混合していましたが、これを実用化するときにはどのような混合方法を行うのか大変興味がありましたので、試作では率先して装置の準備や試作終了後の洗浄に参加させていただきました。技術を学ぶには、実際に現場で操作する、体育会系精神が一番近道です。

 

攪拌機の部分はノウハウの塊で特許出願を行っていない、と説明を受けました。単なるスクリューではなく、ブラシのような形状の攪拌機です。撹拌される原料の粘度が低いので、このような多数の羽根で剪断流動を起こすことができるのでしょう。また、羽根の大きさから実験室よりも攪拌時に発生している剪断速度は数倍速くなっていると思いました。発泡体のセルも小さく均一度が高いです。一番びっくりしましたのは、イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールとの反応効率が2-3%向上している点です。実験室よりも実機の方が、撹拌性能が優れていたのです。

 

撹拌部分の形状から、攪拌時に発生しているのは明らかに剪断流動です。この装置で分子レベルの効率が上がっていますので、剪断流動には分散粒径に限界がある、という定説は、普遍的な真理ではなさそうです。剪断流動でも剪断速度を上げれば伸張流動と同じくナノ分散ができるはずではないかと当時推定しましたが、21世紀になり、(独)産業技術総合研究所で1000回転以上の回転数を発生する高速混練機が開発され、実験データが公開されました。その報告では、ナノ分散が達成されていますが、分子量低下も起きているとのことでした。また、残念ながら、大変大きなモーターを開発しなければいけないので、この装置を生産用にスケールアップすることは不可能です。

 

高速混練機は残念な結果でしたが、剪断速度を上げれば、伸張流動と同様に剪断流動でも分散粒径を小さくできることがわかりました。科学の世界では分子量低下の効果も議論する必要がありますが、技術の世界では、この実験結果やポリウレタンフォームの体験を組み合わせ、イメージし、実際に装置を工夫して実現できれば十分です。そして、剪断速度をあげ分子量低下を起こさない混合方法は、同じ頃開発に成功しています。「高分子材料のツボ」セミナーには、このほかにイタリアの学会で報告された混練方法なども紹介していますのでご興味のある方はご覧ください。

 

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2012.09/27 学会発表の意義

企業活動において学会との関係は、経営者の考え方や各企業の方針で大きく変わるかと思います。32年間研究開発に携わり、学会活動も行ってきた経験から、知財との関係で学会発表の長所の例について。

 

学会発表は、企業活動において短所もありますが、積極的に活用しますとその長所の方が大きいことに気づきます。特に知財面では、特許出願で抑えきれない分野を科学的に公知とすることで、「奇妙な」特許出願を抑制することができます。公知化には、学会発表以外にもいくつか方法がありますが、学会発表における公知化では、実用化しようとする技術の権利範囲が科学的に不明確である場合に特に有効です。

 

例えば結晶と非晶質の境界は曖昧です。分析技術が高度化し、ナノ結晶の実態も明らかになってきました。ナノ結晶を非晶質に入れるのか文字通り結晶にするのか、物質ごとに意見が分かれる場合があります。先願の実施例に書かれた合成法では、ナノ結晶しかできないことに着目した後発メーカーが、ちゃっかりと結晶を権利範囲とする特許を多数出願し、気がついたら後願の特許群に権利範囲を全部抑えられていた、ということを経験しました。当然ながら、このような特許群に対して、科学的証拠で対応すれば、先願の権利範囲周辺についてぽっかりと穴を開けることができますが、科学的証拠を集めにくい状況では、学会発表が有効です。学会発表で科学的事実を積み重ね、特許の不明確な境界を過去から存在したであろう客観的事実で記述できれば、特許の権利の境界を明確にすることができます。

 

また、あまり知られていない古い情報があり、新概念で生み出した技術とその関係が不明確の場合に、学会で議論を行うと情報が掘り起こされるとともに、新概念の客観的位置づけを知ることができます。硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの特許は、硼酸エステルの文献情報が多数存在し、現物は見つかっていませんでしたが、リン酸エステル系難燃剤との組み合わせ技術の存在が疑われましたので、かなり権利範囲を限定し出願いたしました。しかし、ガラス生成による難燃化技術として学会発表を行いましたところ、概念そのものが新しいとわかったので、特許出願を工夫すればもう少し広い範囲の権利化ができたのではないか、と反省しています。

 

すなわち、当時まだアルコキシドによるゾルゲル法が登場したばかりで、高分子マトリックスを活用し無機材料を合成する技術は、この難燃化技術が生まれてから5年後に学会発表が活発化しています。有機無機ハイブリッドの研究発表は、1980年代のセラミックスフィーバー以降活発になりました。ゆえに硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの発明の内容を有機無機ハイブリッドとし、高分子前駆体をセラミックス原料に用いる発明まで拡大すれば、基本特許とすることができました。もったいないことをした、と現在後悔しております。学会発表は、単なる情報収集だけでなく、知財権の観点で積極的に活用する場として見直してもよいのでは、と思っています。

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2012.09/26 ガラスを生成して樹脂を難燃化(4)

新規開発された硼酸エステルには、バイプロダクトの水が含まれていましたが、水を取り除きますと粘度が上がり固体に近くなり、取り扱いに不便です。ポリウレタンの合成には、イソシアネート(この時にはTDI80を使用)とポリエーテルポリオール(この時にはPPG3000を使用)を用いますので、PPG3000にバイプロダクトの水も含めて分散し用いました。水は発泡剤としてバイプロダクトで含まれる量より多く添加しますので、発泡剤の添加量を調整し、バイプロダクトの問題を解決いたしました。

 

リン酸エステル系難燃剤として揮発しやすいTCPPを用いて、硼酸エステル変性ポリウレタンフォーム(発泡体)を何種類も合成しました。難燃性の評価を行ったところ、TCPPの添加量が0%の時に硼酸エステルの添加量を20%程度添加しても難燃性が上がらず(LOIで19程度)、硼酸エステルそのものは、ポリウレタンに対する難燃性能が低いことが分かりました。しかし硼酸エステルを3%程度添加し、TCPPを5%程度添加しましたら、空気中で自己消化性を示しました。この系において硼酸エステル0%の時に、TCPPは30%以上添加しないと自己消化性を示しません。同じレベルを達成するためにホスファゼンでも10%前後添加しなければなりません。驚くべき結果です。さらに燃えかすの分析を行いましたところ、添加したTCPPの60%に相当するリンが燃えかすの中にボロンホスフェートの構造で含まれていました。

 

すなわち、高温度で安定なガラス類似物質を燃焼時に生成させてリンを固定化し、ホスファゼン同等の高い難燃システムを開発することができたのです。ボロンホスフェートの生成機構を確認するために、200℃以上で100℃ステップで温度を上げ、状態観察を行いましたところ、400℃で黒光りしている薄膜が生成しました。化学分析しましたところリンの量が多いアモルファスのボロンホスフェートが生成しておりました。すなわち、硼酸エステル変性ポリウレタンフォームにリン酸エステル系難燃剤を添加しますと、燃焼時にオルソリン酸が揮発するのを抑制するため、難燃剤の添加量を減らすことができ、低コスト高防火性能の難燃システムを開発できることが分かりました。

 

硼酸エステルの合成は、2成分の化合物をただ100℃程度で撹拌するだけですから、内製でコストダウンも見込めました。この硼酸エステル変性ポリウレタンフォームは、他の物性にも優れたところが有り、低コスト高機能ポリウレタンフォームとして販売されました。始末書を書いたホスファゼンの問題にくじけることなくリベンジができたことは、技術者として大きな自信になりました。また、サラリーマンは始末書程度でへこむ必要のないことも学びました。多少居心地は悪くなっても、会社に貢献することを忘れなければ、チャンスがくるという人生訓を体得いたしました。

 

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カテゴリー : 高分子

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