樹脂を難燃化するために難燃剤を添加する。難燃剤が無機フィラーであれば脆性の低下が、液状であれば可塑剤として働くために弾性率の低下が問題になる。樹脂を難燃化する時に力学物性の低下は避けられない問題である。力学物性のバランスをとるためにポリマーアロイという手段がある。
しかし、液状もしくはTgが低い難燃剤で力学物性の低下よりも問題が大きいのはブリードアウトという現象である。ブリードアウトという現象は身近な製品で誰でも経験しているはずです。例えば皮状のケミカルバッグやケミカルシューズ、電化製品例えばPCのマウスに使用されているゴム状の部分。長年使用していてべたべたしてきたことはありませんか。
これは、樹脂を柔らかくするために添加していた可塑剤が外に滲み出てきた現象です。構造が異なる分子を混ぜると相分離という現象が生じます。例えば水にヘキサンという有機液体を分散し激しく撹拌し静置しますと2層に分離します。これが相分離という現象で、構造が異なる分子どおしを混合しますと必ず生じる現象です。
樹脂に何か有機物を分散しても構造が異なれば相分離し、表面に浮き出てきます。これがブリードアウトという現象で樹脂製品の外観品質を悪化させます。ブリードアウトという現象は、物質の拡散で生じており、温度が高くなると早く発生するようになります。その時間スケールは物質の組み合わせで様々で有り、製品寿命の間に発生しないように材料設計することは可能で、樹脂製品の多くはそのように設計されています。
難燃剤のブリードアウトで見落としがちなのは、表面で難燃剤の濃度が高くなり、金属が接触していた場合には錆を引き起こしたり、電気製品であれば絶縁性を低下させたりする原因になる故障です。ゆえに難燃性樹脂の促進試験では、市場環境あるいは市場における使用方法を想定した促進試験が重要になってきます。
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問題解決をこのように考えますと、答を実現するアクションについて答を決めた時に気がかりになるはずですから、答から逆向きに考えるのはものすごく自然な行為になるはずです。そして問題解決の一番最初にしなければならないことは、答すなわちあるべき姿を具体的に決めることであり、これが具体的に決まりますと難しかった問題について解決の糸口が逆向きの推論で明確になります。すなわち問題解決力とは、あるべき姿を具体化できる意思決定力のことだと思います。そして具体化されたあるべき姿に向けて行動を起こせば人生のあらゆる問題は解決されてゆくと思います。
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1万Ωcmから10が10個前後並んだ領域までの体積固有抵抗を持つ材料を半導体という。下限を1000とか10万Ωcmとしている教科書もある。上限も12個程度10が並んだ領域まで半導体領域とする教科書もある。半導体とは、適当に電気を流してくれる材料なので、その物性も適当に扱われているように見える。
しかし、実用化するときには、厳密なスペックの中に物性をおさめなければならない。これが難しい。例えば、導電体であるカーボンや金属粉を絶縁体である高分子に分散して抵抗を調整しようとすると偏差が4桁以上ばらつく場合も出てくる。
パーコレーション転移が起きるためである。たまたま実験室で安定にできても安心できない。確実にパーコレーション転移を制御できる材料設計を行わない限り、自然現象に任せていてはロバストの高い商品はできない。
絶縁体に導体を分散して半導体領域の材料を設計する場合以外に、金属酸化物半導体もその抵抗は大きくばらつく。難黒鉛化カーボンもロットにより2桁程度抵抗偏差が生じる。半導体領域の材料は、うまく設計しない限り2桁以上は抵抗がばらつく、という常識を持っていた方が良い。たまたま測定値が安定な材料が得られたときに、その原因や理由が明らかになっていなければ安心してはいけない。
コニカへ転職して間もないときに帯電防止材料の新規アイデアを相談してきた人がおり、アイデアを話したところ、その後なしのつぶて。たまたま相談者と廊下で出会ったときに、進捗を聞いたところ、「うまく進捗しているからほっといてくれ」という意味に近いことを言われたので、ばらつきの制御だけは注意するようにアドバイスしたが、その1年後帯電防止層の品質問題が起きて、仕事が自分のところへ回ってきた。量産が始まったところで導電性が2桁程度ばらつき、問題だ、とのこと。帯電防止層の処方を見たら、ただ材料を2種類混ぜているだけで材料設計されていない処方であった。技術を甘くみてはいけない。
実は材料物性において、導電性はその偏差の大小が材料および設計方法により大きく異なる。力学物性よりも測定値の偏差は小さいと思っているととんでもない失敗をする。導体である銅でも純度が管理されなければ1桁程度ばらつく。半導体領域になるとそのばらつきが目立つようになるだけと考えると気楽だが、商品の中には1桁以内に偏差を抑えることが要求される場合もあるので高度な技術が必要になってくる。
この材料設計では、複合材料で半導体を製造する場合と単一組成で半導体を製造する場合とでは戦略が異なる。ただし、プロセスの負荷が小さくなるように設計する方針で考える、あるいは、プロセスの負荷が大きくなる場合には既存のプロセスに改良を加え生産の安定化設計を行うなど、共通する部分もある。大切なことは、半導体領域の材料設計が、絶縁体や導電体よりも安定した物性を造り込むことが難しい点を認識することである。
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思考実験はニュートンにより始められた、と言われていますが、案外遠い昔から無意識に行われていた方法かもしれません。それをニュートンは無意識ではなく意識的に行い、それを発明のために良い方法だと気がついたマッハは、弟子のアインシュタインに教えたのでしょう。
祖先が無意識にやっていた経験に基づく問題解決を、科学の時代には科学的方法論でまとめ上げ、それを教育というシステムの中で伝承するようになり、本来人間に備わっていた勘や心眼による方法が軽視されるようになりました。
しかし、山中博士のノーベル賞を受賞した研究から、勘や心眼が持っている問題解決力のポテンシャルを改めて見直しても良いのではないでしょうか。幸いなことに勘や心眼は日常の生活の中で鍛えることができます。さらに、本書で紹介しました問題解決法は、勘や心眼を鍛える道具として使えます。
従来の問題解決法が役に立たない、と否定しているのではありません。そもそも問題を解くとは、答がある問題について答を実現するアクションを考えることなのです。問題そのものを科学的に分析して答を導き出すという行為は、科学者が答を見出すために行う一つのプロセスなのです。従来は問題を解く意味と答を見出すプロセスをごちゃまぜにしていただけです。答を見出すのに、科学的プロセスも使えますが、科学の無い時代のように勘や心眼、さらに経験までも使うことができるはずです。
<明日へ続く>
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カラスは、自動車を使い殻を割りクルミの実を食べるという方法を発見して動作として身に着けたのだろうと思います。他のカラスは、仲間がやっている方法を見て真似をすることでそれが広がっていったのではないでしょうか。
ここで重要なのは、クルミの硬い殻が自動車に轢かれて割れて中から食べられるおいしい実が出てくるのを最初に発見したカラスは、誰なのかということです。すなわち、彼こそがクルミの実という答を発見し、その答を導き出すアクション、すなわち車に轢かせて硬い殻を割るという方法を考案したカラスの世界のノーベリストです。
カラス如きに考案という熟語がふさわしく無いとするならば、この答とそれに直接結び付くアクションがワンセットであることを木の上から偶然見て、その同じ光景を仲間に見せることでその方法を伝承していったのです。すなわち彼は、硬いクルミの実を食べるにはどのようにしたら良いかという問題を偶然の発見により解くことができ、経験を積み重ねながら仲間たちに伝承していったのです。
科学の無い時代における技術の伝承も、おそらく人類はカラスと同じことをやっていたのではないかと想像できます。ただ、人類がカラスと大きく異なるのは想像力という万能シミュレーターを持っていたことです。
硬いクルミが像に踏まれることにより割れるのを見た人類は、像の代わりに自分で踏んでみることを試みたのかもしれません。そして自分の代わりに道具で硬いクルミの殻を割る方法を発明したのではないかと思います。
あるいは「像」に踏まれて硬いクルミの殻が割れるという発見から、「重いもの」に踏まれて硬いクルミの殻が割れるとか、「重い石」でクルミの殻が割れるとか、つぶやきながら頭の中でクルミの殻が割れるシミュレーションを行い、像によるアクションから石という道具の発見があったのかもしれません。
<明日へ続く>
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なお、本技術が開発された時には、ゾルでミセルを作ることができること、あるいはゾルの粒子に高分子が吸着するとミセルのように挙動することなどわかっていませんでした。脆いゼラチンをライバルの技術よりも優れた技術で割れにくくすることはできましたが、そのメカニズムの科学的な解明はできていません。
しかし、電子顕微鏡写真には、シリカゾルやラテックス粒子が全く凝集構造を作らないで分散している状態が映し出されていました。世界で初めての科学的成果は得られましたが、そのメカニズムの科学的解析ができましたのは、2000年に発表された論文のおかげです。
技術の世界には科学で解明されていなくとも、「あるべき姿」を具体化できれば実現できるKKDという不思議な力があります。第四章の問題解決法は科学的ではありませんが、ここで紹介しました事例のように発想力を引出し、眠っているKKDを呼び起こす作用があります。
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かつてテレビや電化製品の外装材といえば、ABS樹脂が主流でした。しかし、最近はPCとABSをブレンドしたポリマーアロイがよく使われています。
PCはCDに使用されている光学特性に優れた樹脂です。しかし、耐衝撃特性(すなわち割れやすい)や流動性(射出成形時に複雑形状を作れない)が悪い、という欠点があります。高分子材料技術では、一成分のポリマーの物性を改良するためにブレンド技術がプロセスと処方の両面で開発されています。
PCとABSのポリマーアロイは、PCの物性を改良するために開発された、と教科書には書かれています。この説明はおそらく間違っていないでしょうが、その材料の射出成形体のきれいな外観を見ますと、ABSの安っぽい外観を改良するために考案されたような印象を持ちます。
最初にこの組み合わせを考えた人がどのようなコンセプトでポリマーアロイを設計したのか聞いてみたい気がしています。流動性を改良するためであれば、PCにナイロン樹脂をブレンドしても目的を達成できるからです。またPSをブレンドしても耐衝撃性や流動性をある程度改善できます。
確かにPCとABSのポリマーアロイPC/ABSの物性に及びませんが、コストはナイロン樹脂やPSをブレンドした方が安価です。コストや物性のバランスを見ているとPC/ABSの選ばれている理由が良好な外観にあるように思えてきます。
このPC/ABSのポリマーアロイにも泣き所が有り、少し高度な射出成形技術が要求されると言うことです。すなわち多成分系のブレンドなので、金型温度などの射出成形条件をうまく管理しなければ、テープ剥離というような外観の品質問題が起きやすい。この品質問題はこれまで射出成形技術の問題とされていましたが、コンパウンドの混練に先端技術を用いますと皆無にできます。すなわちコンパウンドの寄与が大きい故障です。もしご興味がございましたら弊社へお問い合わせください。
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合成技術グループのK1チャートを基に思考実験を組み立ててみました。
1.シリカゾルの粒子に高分子が吸着し、安定なミセルができる。
2.ミセル内にラテックスが取り込まれ、ラテックスの合成が行われる。
3.ラテックスの合成後も、ミセルは安定に存在し、そこへゼラチンを混合しても、シリカゾルの凝集は生じない。
4.3で出来上がった水溶液を塗布して作った単膜にはシリカゾルが均一に分散しており、ゼラチンの脆さが改善されている。
この思考実験を繰り返し頭の中で行いますと、ラテックスの合成経験があれば1においてシリカゾルに高分子を吸着させる条件が重要であるという勘が働きます。その理由は、シリカゾル表面で反応させながら高分子を合成した場合には、コア・シェルラテックスができるためです。新技術では、ラテックスの原料を反応させないために、シリカゾル表面へ高分子を吸着させているだけです。このように考えますと、この吸着条件は、新技術となり、特許を出願できます。
すなわち、コア・シェルラテックスと異なり、ラテックスは微粒子表面で反応せず、シリカゾルから独立して合成されています。この条件は従来のラテックスの合成条件と同じですので、思考実験を行わなければシリカゾルへ高分子を吸着させるプロセスを見落とすところでした。
このように思考実験は、前向きの推論で進めますので、アイデアが発散する方向へ展開されてゆきます。ゆえに思考実験を繰り返して行いますと見落としていたアクションや課題などに気がつくことがあります。
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エネルギー問題への関心やボーイング787の事故もあり、Liイオン二次電池に対する関心が高いのでしょうか。昨日の報告に対して反響が結構ありましてびっくりしています。本日続編でもう少し詳細情報を書きますが、一部有料情報につきましてはお問い合わせください。
まず、講師の先生は、京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻教授吉田潤一先生です。開催場所は、高分子学会高分子同友会会議室。ここで月に何回か勉強会が開催されています。詳しくは高分子学会へお問い合わせください。
講演のタイトルは、「高性能リチウムイオン電池のためのピレンテトラオン構造をもつ有機ポリマー正極材料の開発」で、講演内容のポイントは
(1)Liイオン二次電池の正極物質に最適な分子構造を理論計算により設計。
(2)設計した分子を導入したポリマーを合成し、Liイオン移動型の二次電池を開発。
(3)高蓄電エネルギー密度、高い充放電サイクル特性、高速充放電を実現。
1980年代にブリヂストンでポリアニリン正極を用いたLiイオン二次電池が実用化され、日本化学会化学技術賞を受賞いたしました。この業績は、正真正銘の世界初の高分子Liイオン二次電池の実用化であるとともに白河先生のノーベル賞の具現化でもあります。
しかし、吉田先生のご研究は、このポリアニリン正極よりも遙かに性能が良く、新たな可能性を示す成果をあげられており、すばらしいご研究と思いましたので昨日取り上げました。また、この成果の公開を許可されたP社にも敬意を表したいと思っています。
企業研究の場合にそれが新しいコンセプトであればあるほどなかなか外部発表までさせて頂けません。例えば、フローリーハギンズ理論から絶対に相溶しないと思われる有機高分子と無機高分子を新しいコンセプトで均一に相溶することに成功したポリマー前駆体を用いた高純度SiCの技術についてなかなか発表できませんでした。ポリアニリンのLiイオン二次電池の発明よりも早く実現していたのですが、日本化学会化学技術賞の受賞はポリアニリン二次電池の受賞から20年以上過ぎていました。
そのような経験もあり、昨日の研究報告を許可されたP社の技術に対する自信に敬意を表したいと思っています。
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ホワイトボードの半分のエリアには、1cmほどのミミズ状の絵がいっぱい描かれ、その中に2cmほどの丸が書かれています。1cmほどのミミズ状の絵は、ミセルというものを作っています。
筆者「図をよく見てください。同じに見えませんか?」
担当者「シリカゾルをミセルにしてラテックスを合成すればいいんですね。」
さっそくK0チャートとK1チャートを作成しました。あるべき姿はホワイトボードに書かれた、ゾルをミセルに用いてラテックスが合成された状態の図です。担当者は、ベテランでしたのでK0チャートは、経験から合成技術のグループと評価技術のグループがあるべき姿に向けて直列につながった図を簡単に描き、合成技術よりも評価技術がゴール達成のために重要である、と指摘しました。
すなわちゾルをミセルにした合成技術は世界初であり、仮にラテックスの合成に成功しても、シリカゾルが凝集する場合があるかもしれない、というのです。さらに、どこまでの凝集が許されるのか、評価技術を開発し技術の目標を決めたい、と説明がありました。
担当者が描いたK0チャートは直列でしたが、マンパワーを補強し、合成技術グループと評価技術グループをあるべき姿に向けて並行に進めることにしました。すなわちそれぞれのグループのK0ポイントは、あるべき姿と一致します。
<明日へ続く>
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