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2012.12/04 フェノール樹脂の難燃化(1)

約35年ほど前のことですが、高耐火性フェノール樹脂発泡体が新材料として登場した。当時難燃性硬質ポリウレタンフォームが建材として使用されていた時代である。今は無くなりましたが難燃2級というJIS規格があり、この規格に合わせて材料設計されていた。「難燃性」に比較し「高耐火性」という商品名はいかにも燃えにくい名前である。実際にLOIは難燃性硬質ポリウレタンフォームが23-24前後に対し、高耐火性フェノール樹脂発泡体は35前後であった。LOIの値よりも驚いたのは、難燃剤が添加されていなかったことである。

 

M社の高い技術で分子設計され難燃剤を使用せず、難燃2級を通過した、とカタログの説明にありました。分析するとレゾール型フェノール樹脂で硬化触媒として硫酸が使用されていた。有機酸も検出されたので2種類の酸を触媒として用いていることまではわかりましたが、三次元にゲル化した樹脂の分析は大変難しい。ただこの高性能発泡体は3年ほど普及しなかった。理由は、断熱性が硬質ポリウレタンフォームよりも劣っていたためである。発泡密度をそろえて比較しても2倍程度の差がありました。原因は発泡剤として使用しているフロンガスが硬質ポリウレタンフォームでは数年残っているが、フェノール樹脂発泡体では1年未満で抜けてしまうためである。

 

難燃性硬質ポリウレタンフォームが普及して出てきた問題は、実火災でよく燃える、という現象です。LOIが21を超えておればタバコの火程度では燃えないはずですが、よく燃えてしまう。調べてみると、現場発泡した時の条件で、LOIが19前後の難燃性硬質ポリウレタンフォームができることが分かりました。しかし、それでも難燃2級を通過しているのです。原因は、難燃2級の評価方法にあり、硬質ポリウレタンフォームの物性ゆえに、試験炎があたると餅のように膨らみ炎から離れて、燃焼試験に通過する、という状態が観察されました。当時の通産省は慌てて難燃基準を見直し、簡易耐火試験という実火災に近づけた試験方法が登場し、高耐火性フェノール樹脂の出番となりました。

 

簡易耐火試験では燃焼後もある程度防火性を持っていなければならないので、樹脂の炭化率が40%を超える必要があり、硬質ポリウレタンフォームでは不可能な領域でした。炭化率と建材のコストを考慮するとフェノール樹脂発泡体以外の材料はありませんでした。フェノール樹脂材料メーカーが多数発泡体分野に進出してきました。各社のフェノール樹脂を分析しましたところ、M社以外は難燃剤を使用していました。

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2012.12/03 燃焼時のドリッピング防止

樹脂が燃焼すると燃焼時の熱で多くの場合溶融物(ドリッピング現象)が生じる。炭化しやすい樹脂ではドリッピングは生じないが、射出成形や押出成形で成形される樹脂のほとんどは難燃処理しなければ、ドリッピングする。燃焼試験の規格によってはこのドリッピングを防止しなければ通過しない場合がある。

 

例えばUL94-V試験は、燃焼サンプルの下方に硝化綿を置き燃焼試験を行う。硝化綿は少しの火の粉でも燃焼するので、ドリッピングがあると燃焼する。ドリッピングがあっても燃焼しなければ、UL94-V2に通過し、ドリッピングが無い場合にはUL94-V0となる。すなわち、UL94-V0を通過するためにはドリッピングを抑えなければならないが、高度な技術が要求される。

 

よく知られている技術として、PTFEなどのフッ素系樹脂を添加する方法がある。またドリッピングを抑制するための繊維状のフッ素樹脂なども市販されている。1%程度の添加で効果がありうまくゆく場合には感動するぐらいの効果がある。樹脂燃焼時に燃焼面で薄膜を形成し、溶融物を抑えているようだが、ドリッピングが多いときには、大きな火の玉に成長する。

 

すなわちフッ素系樹脂の添加だけではドリッピング抑制が難しい場合がある。このような場合には炭化促進を促す対策が必要で、リン系難燃剤の増量や炭化しやすい樹脂を20%以上添加するなどの処方変更が必要になる。

 

そのほかにドリッピングを防止する方法があるのかというと、1%程度の添加で効果があるのはフッ素系樹脂ぐらいで、溶融時の樹脂粘度を上げたりする対策では、5%以上の何らかの添加剤が必要になる。すなわち、ドリッピング防止をフッ素系樹脂以外の方法で行う場合には、樹脂の処方の見直しが必要になる。

 

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2012.12/02 合わせ技の難燃化技術

三酸化アンチモンとハロゲン化物との併用技術以外にホウ酸エステルとリン酸エステルとの併用技術、水酸化アルミニウムとポリイミドあるいはポリアミドとの併用など難燃剤の組み合わせで難燃性能を発揮する難燃剤がいくつか存在する。いずれも1成分だけでは難燃化できないか、難燃化できても添加量が多くなる場合である。

 

例えば、水酸化アルミニウムの場合には、単独で添加した場合に40vol%以上も配合しなければLOIが21を超えない場合も存在する。樹脂を自己消火性にするためには、通常の場合LOIが21以上になる必要がある。この程度樹脂に添加した場合に樹脂の力学物性は、無添加の場合よりもかなり低下する。ゆえに炭化しやすい樹脂との併用で添加率を下げるとともに炭化しやすい樹脂成分を増やすことで力学物性を改善している。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルの場合には、難燃化しようとする樹脂によりいささか事情が異なってくる。例えばフェノール樹脂のような炭化しやすい樹脂でLOIが21以下の組成の場合にホウ酸エステルを添加すると単独でLOIは21を超えるようになる。しかしポリエーテル系ポリウレタンの場合にはホウ酸エステルを20vol%程度添加しても難燃化できないだけでなく(LOIが21を超えない)、力学物性は実用性のないものになる。しかしリン酸エステルと併用すると、リン酸エステル単独添加の場合に比較して半分の量で難燃化が可能になる優れた組み合わせである。

 

このように組み合わせ難燃剤というものが知られているが、難燃化レベルを空気中で自己消火するレベルという条件にすると、必ずしもLOIは21を超える必要がなくなる。ドリッピング現象が許されるならば、すなわち要求難燃性能がUL94-V2レベルであるならば燃焼時のドリップ現象を制御し、難燃剤無添加でも樹脂を難燃化できる可能性が出てくる。例えば軟質ポリウレタンフォームではTMPのような低分子成分を構造に導入するだけで自己消火性にすることができるが、LOIは19程度である。PETでも配合処方を工夫するとLOI=20程度でドリップ現象を利用して自己消火性にすることが可能である。コストダウンをしたいときには有効な方法である。

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2012.12/01 三酸化アンチモンの難燃性

三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤と併用して用いられて初めて難燃剤としての性能を発揮します。驚くべきことは、体積分率として数%程度の添加でよい点です。一方樹脂により組み合わせるハロゲン系難燃剤の種類や量については様々です。

 

例えばPPとPSでデカブロモディフェニルオキサイド(DBDPO)を用いる場合PPでは20vol%程度必要だがPSでは10vol%程度でよい。添加量が2倍異なります。PSはPPよりも炭化しやすいから、という説明も納得できますが定説となっている三酸化アンチモンの難燃化機構から考えますと、三酸化アンチモンの量が同じにもかかわらず、DBDPOだけ2倍量必要というのは不思議な現象です。

 

同じことがABSとPBTについても言えます。これらの樹脂ではテトラブロモビスフェノールA(TBA)が使用されますが、三酸化アンチモンが同程度にもかかわらず、やはりハロゲン化物の添加量は2倍程度異なります。

 

このあたりの考察が必ずしも十分ではありません。特許情報を見ましても同様の傾向があり、難燃剤の研究開発を始めてから不思議に思っていました。軟質ポリウレタンフォームの難燃化研究をスタートした時の比較対象は三酸化アンチモンと塩ビとの組み合わせの難燃化システムで、当時の主力商品でした。この比較サンプルで興味深かったのは、配合手順で、同一難燃性を得るのに必要な塩ビ粉の量が変化したことです。

 

三酸化アンチモンの分散状態に大きな差異は出ませんでしたが、塩ビ粉の分散状態が変化していました。塩ビ粉はそれ自身凝集しやすく軟質ポリウレタン中の凝集粒子の大きさに違いがありました。また分散粒径にも違いがあり分散が大きい場合には、塩ビ粉の量が多めになっていました。当時の結果はハロゲン化物の分散状態がその必要な添加量に影響を及ぼしている、という非常に理解しやすい結果でした。

 

 

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2012.11/30 V0を狙う樹脂の難燃剤

樹脂の難燃化技術は、樹脂を産業部材へ応用しようとする時に重要な技術である。ところが樹脂の種類により効果的な難燃化技術が異なる難しい技術である。またその評価技術も万能の評価技術は無く、それぞれの業界で決められた難燃化基準に応じて樹脂が処方される。UL94は評価技術としてかなり普及してきたが、実技評価なので材料の基礎物性値として採用しがたいのでLOIがその代わりに普及している。

 

LOIは、極限酸素指数法と呼ばれ酸素と窒素を混合したガス中で材料を燃焼させて燃焼挙動を観察する評価法である。評価方法は、自己消火を示す酸素濃度で最小の値を採用する方法ですが、偏差0.5程度で計測値が得られるので、樹脂への難燃剤の効果を表現するのに便利な方法である。

 

さて、樹脂の難燃性設計を行うに当たり、実技評価としてUL94を対象に考えてみる。電子部品などの内装材としてはV2レベルとしている場合が多いが、外装材になるとV0レベルあるいは5VBが要求される。5VBとはV0と同等かそれ以上の難燃性が要求されるレベルである。樹脂の種類により同等となる場合とならない場合があるが、5VBの方が難燃剤の添加量が多くなる場合が一般的なので5VBの方が難燃性レベルが少し高いと思われる。V0を通過するために要求されるLOIは、25から34となり、これも樹脂の処方により様々にばらつく。スクリーニングするときには、LOIの線形性の高さを利用してUL94との対応表を作り、LOIを基準に処方設計する方法が良く行われる。

 

樹脂に添加する難燃材の量は力学物性に影響するので少ない方が良いが、V0レベルを狙う場合に、難燃効果の高い難燃剤でも少なくとも体積分率で10vol%程度添加する必要がある。体積分率で表現したのは、難燃剤の種類により比重が異なるからである。体積分率でこのくらい添加すると力学物性では弾性率と可塑性に影響が出るので引張強度とか曲強度の低下が生じる。強度を低下させたくないときには、粒子状固体で分散する難燃剤が選ばれる。この用途では赤燐あるいは三酸化アンチモンとハロゲン系化合物との組み合わせが定番となりつつあるが、ホスファゼン誘導体も最近コストが低下してきたので試しておきたい難燃剤である。多少の強度低下に目をつぶるならばリン酸エステル系あるいは臭素系難燃剤が選ばれる。

 

環境規制の問題も絡むので、臭素系難燃剤や、アンチモン系処方は注意する必要がある。例えばRoHSでは、アンチモン系処方は問題とされないが、臭素系難燃剤の多くは禁止されている。またアンチモン系処方はRoHSで禁止されてはいないが、自主規制としてアンチモン系を採用しない企業もいる。こうした状況を考えると、V0を達成できる難燃剤として将来の規制も見据えると、ホスファゼン誘導体かリン酸エステルの縮合体、赤燐系とリン系難燃剤以外に効果的な難燃剤が見当たらない。樹脂の難燃化技術開発はあまり注目されていないが、まだまだ開発の余地が多く残っている分野である。

 

現在コストや力学物性への影響を考えた時に最も汎用的にV0を狙えるのは、と問われるとアンチモン系複合化難燃技術となるが、環境の問題が見え隠れする。業界によっては、すでにリン系難燃剤しか選択の余地のない業界もある。難燃剤メーカーがんばれ!

 

 

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2012.11/29 ゼラチンの靱性向上技術(2)

ゼラチンは脆い材料ですが、銀塩と安定な保護コロイドを作る、現像処理を水中で行う時に容易に水で膨潤するポリマーであるなど銀塩写真フィルムには欠かせない材料です。このゼラチン改質技術として、1990年前後にシリカゾルをコアにその周囲をラテックスで覆うコアシェルラテックス技術が開発されました。有機無機ハイブリッド技術としても取り上げられ、アカデミアでも研究されました。

 

しかし、コアシェルラテックスにも泣き所があり、粒子が通常のラテックスよりも大きくなる問題やゼラチンへの添加量の制御、特にシリカゾルとラテックスの量比の制御ができないという問題がありました。コアシェルラテックスによるゼラチン改質技術のポイントは、従来のようにシリカゾルとラテックスとを別々にゼラチン水溶液へ添加するとシリカゾルの凝集が少し生じ、その凝集体が破壊の起点になり、ゼラチンを脆くする問題を解決した点にあります。

 

要はシリカゾルの凝集を防ぐことが技術の目標にあったわけで、その目標達成のために凝集しやすいシリカゾルの周りをラテックスで覆っただけです。もう少し気の利いた解決方法はないのか、と考えて出てきたのが、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術です。すなわち、シリカゾルをミセルとして用いてラテックスを重合すれば、任意のシリカゾルとラテックスの量比の材料を作ることができます。

 

アイデアはよかったのですが、こうしたゾルをミセルに用いた技術は、2000年にLAGMUARという科学雑誌に研究報告されるまで存在しませんでした。また、頭で考えたようにうまくゆきません。コアシェルラテックスができてしまいます。早い話がコアシェルラテックスは当時先端技術でしたが、ゾルをミセルに用いる技術よりも優しかったので先に登場したわけです。冷静に考えれば、ゾルをミセルに用いた技術では有機無機ハイブリッド材料を設計するときにも自由度が広がります。ゆえにコアシェルラテックス技術よりも用途が広いわけで、技術が完成すれば画期的な有機無機ハイブリッド技術になります。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス合成技術の難易度がかなり高いことが分かりましたので、弊社の問題解決法で問題を解きましたら、技術を容易に開発でき、1995年に実用化できました。驚くべきことにゾルをミセルに用いたラテックスをゼラチンに添加してもシリカゾルの凝集体ができません。ゾルが安定なミセルを作っているためですが、さらに驚いたのは、ゼラチンの靱性が飛躍的に向上したことです。これは破壊力学の研究成果が公開されていましたのですぐに理解できました。すなわち固い超微粒子が均一に分散している材料の破壊挙動を解析すると、破壊エネルギーが超微粒子で分散され靱性が向上するという機構であることが知られておりました。

 

このゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は高分子学会技術賞に推薦されましたが、高分子の先生方はコロイド化学に疎いためか評価されず落選いたしました。しかし写真学会からは評価され、ゼラチン賞を受賞しております。おそらく当時は技術が先端過ぎたので信じてもらえなかったのかもしれません。

 

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2012.11/28 ゼラチンの靱性向上技術(1)

 デジタルカメラの普及で写真フィルムを身近に見ることが少なくなりましたが、写真フィルムの画像を記録する部分には、光に反応して画像を形成する銀塩の結晶を分散したゼラチンが使用されており、銀塩写真フィルムとも言われています。この画像を記録する層を保護するための保護層が表面に塗布されており、この層もゼラチンで作られています。すなわち銀塩写真フィルムは、ゼラチンでできた薄膜が、0.1mm前後の厚みのプラスチックフィルムに何層も積層された構造をしております。

 

また、ゼラチンはゼリーとして食用にも使用されているので、柔らかくて脆い材料という力学物性を身近に体感することができます。銀塩写真フィルムとして厄介なのは、乾燥すると簡単にひび割れる性質です。このように銀塩写真フィルムの画像形成層は、ガラスのコップよりも脆い材料でできています。

 

 銀塩写真フィルムは、撮影した画像を現像処理して目に見えるようにします。この現像処理は、水中における化学反応なので、ゼラチンは水を吸い、さらに柔らかくなり傷がつきやすくなります。また現像処理後の乾燥プロセスでは、乾燥速度を早くするとゼラチンは急速に硬く脆くなりひび割れます。銀塩写真フィルム開発の歴史は、画像技術以外にゼラチンの力学物性改良の歴史でもあります。

 

 この柔らかくて脆いゼラチンを硬くするために、ゼラチンへシリカゾルという硬い超微粒子を分散する技術が開発されました。シリカゾルを分散したゼラチンは硬くなりましたが、さらに脆くなりました。そこで脆さを改善するためにラテックスと呼ばれる柔らかいゴムの超微粒子をシリカゾルと一緒にゼラチンに分散する技術が開発されました。

 

 このようにしてゼラチンの柔らかさと脆さを改善するために技術開発が続けられ、シリカゾルとラテックスの組み合わせで力学物性のバランスをとる技術が1990年頃まで使用されてきました。しかし銀塩写真フィルムの現像処理時間が短くなるにつれ、銀塩写真フィルムを搬送するスピードが速くなり、従来のゼラチン改質技術では擦り傷が目立つようになりました。また、乾燥速度も速くなりひび割れしやすくなりました。すなわち、単純にシリカゾルとラテックスを組み合わせてゼラチンに分散する技術では、現像処理の時間を1分以下にすることができませんでした。

 

 

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2012.11/27 ホスファゼン油

電気粘性流体は、特殊な半導体微粒子と絶縁油とからできている。ゴムの袋に入れる場合には、ゴムから抽出される成分を無害化するための添加剤を添加しなければいけない。それにしても3成分で高機能な油ができる。

 

20年以上前にブリヂストンで担当した最後の仕事で、高純度SiCの開発を一人で担当しながら片手間にやりました仕事です。片手間でやった仕事の割には成果をたくさん出すことができました。ゴムからの抽出物を無害化する成分の開発成果、特殊な半導体微粒子の開発成果は在職中に採用されました。絶縁油は、試作まで行いましたが、仕事の妨害を受けたFD破壊事件のためやむなく中断し転職したため最後まで仕上げることはできませんでした。

 

文字通りブリヂストンの最後の仕事になりました絶縁油ですが、これを完成させたら電気粘性流体の組成全部を開発したことになります。さらにこの絶縁油はライフワークの一つとして研究していたホスファゼンを応用した技術なので、できれば最後まで仕上げたかった、と思っています。

 

ホスファゼンは、PN結合を含む環状化合物の総称で、無機ベンゼンと呼ばれています。昇華性を示す化合物はベンゼンのように気持ちの良い匂いがします。側鎖基をいろいろ変化させると機能性材料になります。例えば、PN化合物なので難燃剤分野は最も利用されている分野です。電池の電解質にも使われています。イオン導電体にもなります。PN環の誘電率が高いので、電気粘性流体に使用すると、とんでもない性能が出ます。

 

ブリヂストンでホスファゼン変性ポリウレタンフォームの研究を行い、その後Li二次電池用に難燃性イオン導電体としての研究(学位論文の一部)、そして最後に電気粘性流体用の絶縁油開発を行いましたが、この絶縁油は少し面白い構造をしています。ホスファゼンは、3員環以上の多環状化合物を選択的に合成することが難しいですが、それでも8員環以上の化合物も見つかっています。7員環の化合物は融点が低くー10℃以下で、他の員数の化合物を溶かすと凝固点効果でさらに融点が下がります。誘電率も高いので電気粘性流体への応用を検討しました。

 

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2012.11/26 高純度SiCのホットプレス

フェノール樹脂とポリエチルシリケート、酸触媒から合成される半導体用高純度SiC紛体は、そのままでは常圧焼結でもホットプレスでも焼結できない。これは猪股先生の焼結理論から自明であり、共有結合性のあるセラミックス紛体は、皆同様の結果となる。ゆえに焼結するときには助剤が必要でせっかく高純度に合成できても成形体として用いるときに純度が下がることになる。高純度のまま使用する場合には昇華法によるウェハー作成が最も適した分野である。

 

SiCの焼結技術については1980年前後にプロチャスカの発明が発表され、一応の完成をみた。ホットプレスによる検討が1970年代に行われ、カーボンはじめいくつかの助剤系が見つかっていた。そしてボロンとカーボンを用いる常圧焼結技術がプロチャスカにより開発された、というのが概略の歴史であるが、1990年代までSiC製品の大半は反応焼結で製造されていた。ブリヂストンがS社とJVを立ち上げた時にも特許出願を行い反応焼結体で半導体治工具を作っていた。

 

高純度SiCは、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの比率を変えることにより高純度カーボンを同時に製造することが可能である。ホットプレスに必要な助剤量1-6%前後も容易に制御できる。この高純度カーボンを残すメリットは他にもあり、カーボンが均一に分散した高純度紛体を製造できたり、SiC合成の時に粒子の大きさが均一になったりする。後者はカーボンが存在すると粒成長を阻害するからで、nmレベルの均一な超微粒子のSiCまで製造することが可能である。

 

高純度SiC合成時に高純度カーボンを微量同時に合成する条件でホットプレス用高純度SiCを合成できる。カーボンだけでSiCをホットプレスするときにカーボンの分散状態が緻密化に影響する。カーボンが拡散しにくいためであるが、このような観点からも高純度カーボンの同時合成条件は重要である。

 

高純度SiC合成時に高純度カーボンを残す合成条件は、ホットプレスに有利なだけでなく、超微粒子化できるので昇華法の原料としても長所となる。今から約30年前の発明である。

 

 

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2012.11/25 有機無機ハイブリッド材料

32年間の材料技術者生活で様々な商品開発に携わった。開発した新材料(部材)も多い。もっとも多く開発したカテゴリーは、有機無機ハイブリッド材料である。

 

ホスファゼン変性ポリウレタンフォームやホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームでは、難燃化システムとしての有機無機ハイブリッド材料の可能性を検討した。

 

半導体用高純度SiCでは、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドにより世界で初めて相溶化を達成した。TEOSを中心とした有機無機ハイブリッド材料の研究が活発になるのは1985年以降なのでこの技術は有機高分子と無機高分子を均一に混合した世界初の事例です。

 

ゾルをミセルに用いた有機無機ハイブリッドラテックス薄膜では、1996年に世界初のゾルをミセルに用いたラテックス重合技術を開発し、容易に有機無機ハイブリッド材料を合成できる道を開いた。コロイド関係を扱う学術雑誌(Langmuar)に世界初のゾルをミセルに用いたイギリス人の論文が登場したのは2000年でコニカの特許は4年早い。

 

酸化スズゾルのパーコレーション転移を制御した帯電防止膜では、プロセシングを駆使し体積分率15vol%でパーコレーション転移を達成している。酸化スズゾルの一次粒子は球状であるが、合成条件を工夫し金魚のウンコ状にした。ただ商品化では内製ではなく他社のゾルを用いたので20vol%前後で制御している。

 

その他中間転写ベルトや電気粘性流体など自分で企画しなかった技術もありますが、有機無機ハイブリッド材料は機能部材としての用途が広いキーテクノロジーと思います。

開発された有機無機ハイブリッド材料で汎用的なのは、ゾルをミセルに用いたラテックス技術とポリエチルシリケートとフェノール樹脂を相溶させたリアクティブブレンド技術です。この2つを使い分けて生み出される有機無機ハイブリッド材料の可能性は広い。

 

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