大人のファンタジードラマの設定として、カフカの「変身」のような自分が別の生き物になるタイプや、人生をリセットしてやり直してみたりするタイプ、タイムスリップして別の時代を生きるタイプなどがある。
いずれもあり得ない設定なのでファンタジーなのだが、最近人生をやり直すタイプのドラマが流行しているらしい。
『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』や『東京リベンジャーズ』『ブラッシュアップライフ』などのタイトルが並び、これらのドラマが流行する社会背景の解説がWEBニュースにあった。
この解説を読み、これがこの10年の傾向であることを知った。10年前と言えば、村上春樹の「色彩を持たない多崎つくると巡礼の年」がベストセラーとなっている。
名古屋が関係したこの小説では、年上の恋人沙羅からのアドバイスで、昔の友人たちに主人公は会いにゆく。すなわちこれが巡礼なんだろうけれど、巡礼途中で沙羅が他の男性とデートしている様子を見つけて慌てる。
そして明日沙羅にプロポーズを断られたら、と悩んでいるところで終わるストーリーで、とにかく今を懸命に生きることが大切であることがテーマとなっている。
ストーリーが分かっていても村上春樹の小説は面白いので、もし村上本を一冊読むとしたらこの本をお勧めする。2時間ほどで一気に読めるので、他の著書のように途中で読み飽きることはない。
残念ながらWEBニュースで紹介されたTVドラマを見ていないので、その解説について評価できないが、その解説に書かれていた、「人生をやり直す」、という考え方では、多崎つくるの巡礼は参考になる。
彼は高校時代の友達と会い、自分の過去と向き合うのだが、この小説では、そのきっかけが沙羅のアドバイスである点が面白い。自分の気づきではないのだ。
ところで、人生のやり直しは、誰でも考えるものらしい。人生で成功した友人たちと話していても、一つや二つ「もしーーだったなら」という話が、酒の肴として飛び出す。
しかし、若い人たちが、「人生のやり直し」にあこがれるのは、少し不思議に感じたりする。それよりも今の自分を見つめなおし、これから何をしたいか具体化するために、定年後何をするのかよく考えることをお勧めする。
人生100年時代に、組織人としては65歳までしか生きられないのだ。企業によっては、55歳で線引きをしているところもある。
30歳や40歳で過去のやり直しにあこがれるくらいなら、65歳過ぎてからの人生を真剣に考え、自己実現の戦略を練ることの方が大切である。
ゴム会社は親切にも管理職に対して55歳過ぎると閑職にしてくれる。組織を離れた人生について、10年間考える猶予の時間を給与とともに与えてくれるのである。
未来は、今の行動変容の結果であることを知ると、多崎つくるのように巡礼をしている暇など無い。20年、30年先にまだ長い人生があることを若い人は気がつくべきである。
カテゴリー : 未分類
pagetop
「どうする家康」の視聴率が上がらないらしい。当方もほとんど視聴しなくなった。理由は単純で、面白くないからである。若者受けを狙って演出している、との解説があったが、その若者も見ていないのであれば意味のない演出だ。
ところで石川数正の出奔について、このドラマでは、泣ける話が展開された。演じる松重豊もうまかった。しかし、本当にそのようであったかどうか、ネットにはいろいろ批判が書かれている。
当方は当時の時代背景や石川数正の位置づけから、二人の気持ちとして、ほぼ同様の展開ではなかったか、と思っている。ただ、石川数正の気持ちはそうであっても、このような演出ではうまく伝わらない。
当方は、高純度SiCの半導体治工具事業をゴム会社で立ち上げたが、フロッピーディスクを壊されるなど妨害を受け、それを研究所が隠蔽化する方針としたので、セラミックスのキャリアをすて写真会社へ転職している。
しかし、引き継ぎを行った上司から若手の育成をしたいので、しばらくは指導をお願いすると言われ、写真会社で業務を定時で終えて日野から小平まで通った経験がある。まさにドラマで描かれた石川数正の心境に近い。
しかし、ほぼ指導できた頃、自宅に一通の手紙が来た。そこには、もうゴム会社へ来なくて良い、SiCを忘れろ、と書かれていた。
本来は酒の席でも設けてもらえるのか、と思ったら、もう来なくてよい、というよりも来るなである。その後、たまたま学会賞の審査員になっていた時に、このゴム会社の半導体治工具事業の推薦書を審査することになった。
そこには、当方が転職した翌日から開発が始まった、というウソが書かれていた。現実はこのように展開する。石川数正は歴史に名前が残っているだけでも幸せである。
事業立ち上げまで深夜まで勤務しながら残業手当も出ず、その中で努力したにもかかわらず、名前は基本特許の発明者ぐらいしか残っていない。
学会賞その他多くの受賞をこのテーマは受けているが、すべて事業立ち上げで最も苦労した時に関わっていなかった人物ばかりである。
当方だけでなく、当方の業務引継ぎ後、業務中に脳梗塞になられた上司や無機材研から戻ってきたときの上司の名前は無い。当方は過重労働でこれら上司の希望に答えたが、プロジェクト推進において精神的負担が大きかったと想像している。
お二人とも平均寿命以下で、最初の上司は担当して1年で胃かいようから胃がんになりお亡くなりになっている。転職した当方の名前を書けなくても,その職についておられ脳梗塞で入院された上司の名前だけでも入れていただきたかった。事業がうまく流れている時のメンバーだけ書かれた推薦書を見てこの方たちを思い涙が出た。
カテゴリー : 未分類
pagetop
フィルムの帯電防止層を開発していて、負の誘電率に遭遇した時には驚いた。ちょうど福井大学客員教授に就任した頃で、お世話になった先生が電気化学の教授だった。
ベセラゴが予言したそうだが、キワモノと言われており、データに絶対値をつけて発表したほうが無難だとご指導を受けた。
すなわち、研究の本筋とは関係ないところで研究の価値を下げてしまう問題があったからである。当時取り組んでいたのは、パーコレーションの検出方法である。
当方は、技術経営には興味があったが、基礎研究に身をささげるまでの勇気は無かった。ゆえに、インピーダンスに絶対値をつけて、誘電率の議論とならないように発表を工夫している。
それから10年以上経過して、半導体無端ベルトの開発を担当したときに、「倉地さん、たいへんなものができてます」と電気専門の部下がデータを見せてくれた。負の誘電率である。
確かに大変な現象であるが、半年という限られた時間の中で、カオス混合プラントを立ち上げ、無端ベルトの押出成形歩留まりを10%から100%にしなければならない状況で、少し迷惑な話だった。
高分子の導電性を制御するために、導電性微粒子を絶縁体である高分子に分散し、そのパーコレーションを制御する必要がある。その実験過程で負の誘電率がお化けのように現れた。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
もう「ママ撮って」のような肌色をきれいにとることができる優しいカラーフィルムは無くなってしまったが、このカラーフィルムの帯電防止層には非晶質アルミナが導電体として使用されていた。
面白いのはTACフィルムの帯電防止層として形成されるとそれなりの表面比抵抗を示すが、現像処理後は、それが無くなる。同様の処理を行ったときに、酸化スズゾルを帯電防止層として用いたときには、現像処理後も導電性が残っている。
これも当方が不思議に思った現象で少し研究をした。そしてある結論に至ったのだが、それはここに記載しない。理由はこのアルミナの帯電防止層を発明した人への敬意を示すためである。
アルミナの導電性については、別の機会にこれだけを書きたい。酸化スズゾルとの比較と誤解されるような場所では書きたくないのである。
実は、この非晶質アルミナを用いた帯電防止層は、経験知で巧みに設計された成果である。最初古い報告書を読んだ時に嘘だろうと思ったが、製品で機能しているので事実である。
世の中には科学の形式知から考えられない現象と言うものが存在する。この非晶質アルミナの帯電防止層の導電性は、そのような現象の一つである。
ただ、少し研究してみて、このからくりが、巧妙な経験知の合わせ技であることを知った。開発した技術者が無機材料を大学で専攻してきたゆえの発明だったが、転職して良かった、と感動した技術の一つである。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
pagetop
酸化第二スズ単結晶は絶縁体である。しかし,これがアモルファスになると1000Ωcm前後の導電性を示す。ここで注意しなければいけないのは、酸化第二スズの非晶質体はガラスではない、ということだ。
そもそもガラスとは何か。これが意外にもあまり教科書に書かれていない。ガラスは非晶質体であるが、非晶質体には、ガラスとガラス以外が存在する。
それでは、ガラスとガラス以外は何が異なるのか。それはガラスはガラス転移点を持つが、ガラス以外の非晶質体はガラス転移点を持たない。
酸化第二スズ非晶質体のDSCを測定すると結晶化温度は存在するが、ガラス転移点は観察されない。ゆえに酸化第二スズの非晶質体はガラスではない。
四塩化スズを加水分解すると、酸化第二スズゾル(以下酸化スズゾル)が生成する。この酸化スズゾルには、わずかな水が含まれている。非晶質ゆえに存在する構造水と自由水に分けられ、自由水で導電性が発現するのではないかと想像している。
想像している、と曖昧なことを書いた理由は、1年ほど研究して明確な真理とできなかったからである。ただ、酸化スズゾルを加熱して、重量減少を測定し、導電性を計測すると、重量が減少し始めたところで導電性が1桁悪くなる。
さらに加熱してゆくと300-500℃あたりで、半導体となるがその抵抗を一定にできなかった。また、X線散乱の実験を行い、アモルファスハローの部分を観察すると再現性のない変化を観察できる。
おそらくこのあたりについては、実験数を増やしてゆくと、あるばらつきの範囲で形式知とできるかもしれないが、時間が無かったのと担当者が異動したので研究を辞めた。
どうもこのような地味な研究は若い人に嫌われるようだが、世の中にはきれいなデータを収集できない現象は多い。STAP細胞の実験ではそれを少し手抜きしたので大騒ぎとなった。
「あの日」を読むとマウス云々のところが気にかかるが、世の中には不誠実な学者は多い。形式知を扱う学者は誠実であってほしい。
当方も某国立大学の不誠実な先生に当方のデータで勝手に論文を出されたりして、研究成果を盗られた経験があるが、形式知を扱う研究者は誠実であることが求められる。
ゆえに当方は酸化スズゾルの研究について形式知まで追い込めなかったので、正直に形式知とできなかった、と述べている。しかし、実験結果から想像を膨らませると、酸化スズゾルの合成条件により導電性が変わると予想できる。
そこで実際にいろいろと実験を行ったところ、100Ωcm程度の導電性を示す酸化スズを合成できた。ここまで低くなると、ITOに肉薄する。すなわち、Inをドープしなくても同等の導電性にできたならCDが可能となる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子材料には、不足する機能を補うために添加剤が練りこまれている。あるいは合成後に必要な添加剤を分散し、モノアゲして成形体とする場合もあるが、添加剤無添加の成形体は極めてまれである。
この高分子に添加された物質が、時間経過とともに表面へ浮き出てくる現象をブルームとかブリードアウトとか呼んでいる。この現象を完全に抑え込むためには、添加剤を高分子に反応させるしかない。
しかし、高分子の側鎖を添加剤で変性し、成形体の機能を無事改善できてもこの現象は起きる。変性された高分子がレピュテーション運動により、表面に浮き出てくるからである。
実は添加剤が添加されていなくてもこの現象が起きているのだが、分子構造が一致しているので検出不可能である。すなわち高分子のブリードアウトという現象を全く起きないようにすることは不可能で、起きていても分からないようにすることが精いっぱいの対策となる。
それをどのように行うのかが技術であり、この問題を多数経験していると、現場で遭遇した時にいろいろなアイデアが浮かぶ。すなわち経験知で対応しなければ解決できない問題である。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
当方はセラミックスから金属、高分子材料まですべての材料を製品設計の立場から扱った経験知がある。また、セラミックスでは、高純度SiCの半導体治工具技術が日本化学会技術賞を受賞している。
高分子材料については、帯電防止技術が印刷学会技術賞と日本化学工業会から技術特別賞、高靭性ゼラチン開発に対して写真学会ゼラチン賞を受賞している。
すなわち、当方の開発した技術が高分子からセラミックスまでそれぞれの代表的な学会から何らかの受賞経験があるので、セラミックスから高分子まですべての材料の経験知と形式知がある、と自己紹介しても許されるだろう。
その経験から高分子材料はセラミックスや金属と比較して難しい材料である、と指摘したい。セラミックスや金属では、まず結晶を理解できれば、材料技術者としての一応の基礎ができる、と思うが、高分子材料では、一次構造を理解しただけでは、「像は鼻が長い動物」と言う程度の理解レベルである。
すなわち、その程度の理解では、高分子製品で品質問題が起きた時にどこから対応したらよいのかわからず、右往左往することになる。当方ならばどのような品質問題でもおおよその見積もりができる。
社会に出てきたばかりの技術者を育成し、当方のレベルまで到達するためには、一日3時間の座学で2か月必要である。なぜこれだけの時間が必要なのか。それは高分子の体系が形式知でできていないためである。
セラミックスや金属ではブラベイ格子を基準に材料の結晶について理解の仕方を身につければ、難しいのはアモルファスのガラスだけとなる。ゆえに基礎となる形式知の体系が明確なのでその上に技術の体系を築くことは容易となる(勉強するコツが存在するが—-)
カテゴリー : 一般
pagetop
昨日高分子材料の電気特性について悩ましい問題、と書いたが、その理由は、現象を理解するための体系が、材料の用途で変化しているような錯覚をするためである。
公的機関のホームページにも誤った考え方が記載されていたりする。例えば「配合と物性が1:1で対応する材料設計」という考え方だ。残念ながら高分子材料ではこの考え方では材料開発が難しい。
セラミックスでも焼成温度で相変化する場合では、配合と物性は1:1で対応しないが、高分子材料では配合が同一でも物性が大きく異なる2種以上の材料が類似の製造条件でできる場合が多い。単なるばらつき(偏差)程度の物性の差異ではなく、同一配合でも明らかに異なる材料として捉えなければいけない。
例えばパーコレーション転移が生じる材料群であるが、パーコレーションを制御できるのか、と驚かれる材料技術者がいるかもしれないが、当方のセミナーを受講していただきたい。配合やプロセシングの組み合わせで制御できるのだ。
この問題については、Pythonによるシミュレーションを中心にしたセミナーと5時間当方の経験知を中心に構成したセミナーと2種類用意している。希望者は9月15日以降の日程でご希望の予定を第一希望から第三希望まで書いて申し込んでいただきたい。
カテゴリー : 一般 学会講習会情報
pagetop
高分子材料は一次構造に導電性の構造が無ければ、その成形体は絶縁体となる。ゆえに電気特性を変えたいならば、一次構造をその目的で設計するか、その目的を実現できる添加剤を添加したコンパウンド設計をしなければならない。
この分野で開発を成功させるためには、一次構造の合成技術からコンパウンディング技術まで幅広く精通していなければならない。当方は高分子の一次構造の設計から合成、さらには生産まで経験しているだけでなくコンパウンディングについては書籍を著している。
当方の強みは高分子材料以外に、ペロブスカイトはじめセラミックスの電気特性まで研究経験があり、ペロブスカイト粉末を高分子に分散した材料の電気特性について研究を行っている。
すなわち、高分子の電気特性について実用化に必要な様々な研究開発経験があるのだが、その機能にプロセシングが関わる問題が多いと感じている。
例えば、同一配合処方でもプロセシングが異なれば成形体の電気特性も影響を受けるが、これがどの程度なのか説明できる形式知が存在しない。ゆえに、この関連した周辺技術でお困りの方も含め弊社へ問い合わせていただきたい。
カテゴリー : 一般 学会講習会情報
pagetop
ブルームとかブリードアウトとか呼ばれたりするが、高分子成形体表面がべたつく現象といえばご理解いただけるのではないか。もし、この現象でお困りの方は問い合わせていただきたい。セミナーを企画します。
詳細はこのホームページのセミナーのコーナーをご覧ください。なお、開催希望日につきましては9月15日以降として頂きたく。希望日を第一希望から第三希望まで書いてお申し込みください。
写真会社へ転職した時に最初に成果を出したのは、フィルムの帯電防止技術であるとこの欄で書いている。この帯電防止技術では、ブリードアウト問題も起きていた。
詳細はセミナーで説明するが、高分子材料では成形体に求められるスペックを実現するために様々な添加剤が用いられている。高度な難燃化機能を要求される成形体では、15%近くも難燃剤が添加されるのでその選択を誤るとブリードアウトに悩まされることになる。
帯電防止技術では、イオン導電性高分子を用いるときに30%以上の添加が必要になる。界面活性剤を表面にブリードアウトさせる技術では数%の添加で良い場合もある。
転職した時に成果を出した技術ではイオン導電性高分子が用いられていたのだが、イオン導電性高分子を架橋させる硬化剤による工程汚染の問題が大きかった。
長年の研究課題だったそうで、どのように解決したかはやはりセミナーで解説するが、興味を持ったのは当時の担当者の開発課題への対応である。
市場でブリードアウト問題が起きていても、工程汚染の問題解決業務が忙しかったので営業に対応してもらっていた。すなわち、ブリードアウト問題は、フィルムの品質ばらつきとして起きていたので、ブリードアウトしない製品が大半だった。ゆえに営業で対応できたのである。
このような業務の進め方をやっている企業は多いようだが、技術の姿を見えにくくする原因となることを知ってほしい。工程汚染の問題とブリードアウト問題は関係していた。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop