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2013.04/17 技術伝承の難しさ

技術者として身につけた公開可能な情報をここで活動報告として記載している。しかし、グラフなどをここで載せられない。生データが無いからだ。しかし、どのようなグラフであったかは記憶してるので文章表現で伝えるように努力している。うまく伝わるかどうか不明だが反響がそれなりにあるので続けて書いている。

 

ゴム会社で技術者として過ごした12年間において高分子技術に携わったのは3年程度。しかし最初の指導社員が優秀な技術者だったので当時先端のレオロジーを身につけることができた。技術の伝承者としても指導社員は優れた人であった。大学院で物理を専攻された理論家ではあったが、実験を重視していた。混練という技術が数式で表現できない世界であるため現場における観察を中心に指導してくださった。

 

12年間の残りの9年は、当時のセラミックスフィーバーに感化されて高純度SiCを企画し、セラミックスの担当者として過ごした。会社から2億4千万円の先行投資を受け、1階がパイロットプラントで2階が実験室の研究棟まで建てもらったためどんなに苦しくても辞めるわけにいかない。しかしゴム会社で畑違いの開発を始めたので、研究所内では評判が悪く、まさに死の谷(death valley:研究開発でたどる最も苦しい期間)を歩くことになった。ただ経営陣からの暖かい激励があったので開発を続けることができた。しかし、直接の妨害行為を受けるに及び、一人で開発を続けている立場として複雑な思いになった。

 

真摯に努力してきたつもりでも、周囲の目は夢の成果に固執する偏屈な人間に写ったのかもしれない。事業の中心となる技術はできていたので会社を去る決断をした。S社とのJVを立ち上げ、技術が後世に残るよう段取りを整え、高分子技術開発を担当できる会社へ転職した。ゴム会社で担当した技術内容に配慮し、セラミックス関係の会社をあえて選ばなかった。S社のK氏にもこの点はご評価頂いた。

 

当時残してきた技術は、無機材質研究所で1年半学んだ成果が多かった。例えばSiCが炭素だけで焼結することは田中英彦先生に教えて頂いた。留学前にフェノール樹脂発泡体の開発を担当していた経験を生かしフェノール樹脂を助剤にして無機材質研究所のHPを使い緻密化に成功したのも留学成果である。また、SiCの結晶化を考えるときに重要になる多形の存在。このシミュレーション法を井上善三郎先生から指導して頂いた。PC9801を1週間稼働させ50層までのスタッキングシミュレーションを実施した。

 

SiCの結晶成長では、わずかなエネルギー差にもかかわらず1600℃前後では3Cが2000℃前後では6Hが優先して成長すること、2Hが低温度で生成してくることが当時の話題で、2Hから6Hへの転移を直接観察する実験を3ケ月間担当した。この時の経験で高純度SiCの新しい合成法を発明でき、学位も取得できた。無機材研で行った50層までのシミュレーションはN88BASICでプログラミングしたが、計算速度もさることながら、中間データが大きく、当時のメモリーでは50層までが計算できる限界だった。その後Lattice Cの廉価版が発売されたので購入し、趣味で100層以上計算可能なプログラムを開発した。

 

SiCの結晶成長は多形という現象の理解が重要である。これらの研究成果は無機材質研究所で短時間にあげた成果で、学位にも盛り込みたかったが、フェノール樹脂を助剤に用いる技術についてはノウハウの部分が多いので取りやめた。またスタッキングシミュレーションもSiCウェハー技術への影響を考慮し学位論文から自主的に外した。しかし、これが失敗であった。

 

フェノール樹脂を助剤にして用いる技術は現在でも生きているが、結晶成長の基礎データについてはうまく伝承されていないのだ。昨年ゴム会社はSiCウェハーの事業をとりやめた。これから成長が見込まれる事業分野なのに残念である。少なくとも写真会社へ転職した1991年当時、SiCに関してそのゴム会社はトップレベルの技術を持っていたはずである。

カテゴリー : 一般

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2013.04/16 SiC繊維

SiC繊維は故矢島教授により発明されたセラミックス繊維である。炭素繊維は空気中高温度で使用できないが、SiC繊維は1200℃前後の空気中でも使用可能である。SiCの焼結体は1400℃前後まで使用可能であるが、SiC繊維は繊維内部に構造欠陥ができるため1200℃前後までである。この耐熱性を上げるために長年努力がなされ、短時間であれば焼結体に近い温度まで使用可能な繊維となった。

 

このSiC繊維はポリジメチルシランを炭素繊維と同様のプロセスで処理して合成される。原料が高価なので炭素繊維より収率が高いにもかかわらず高価である。SiC繊維が炭素繊維よりも優れている点は、空気中における耐酸化性と表面の性質である。例えばアルミの補強材に炭素繊維を使用すると金属間化合物が生成し界面が脆くなるがSiC繊維の場合にはその問題が無くなる。炭素繊維に関するこれらの欠点は表面の性質を変性することができれば解決できる。

 

フェノール樹脂繊維のカイノールはその性能に比較し安価でコストパフォーマンスが高い繊維である。この繊維にTEOSを含浸させると繊維内部にTEOSが分解しながら拡散し、表面から内部にかけてTEOSの分解物が傾斜組成で分散する。これを1600℃前後で焼成するとSiCが傾斜組成で分散した炭素繊維ができる。但し、反応途中でシリカの還元反応がおきるので焼成条件を見つけるのが大変である。

 

このような複雑な焼成条件を見つけるには熱重量分析(TGA)を利用すると便利である。速度論の解析まで行うことができれば、焼成条件を理論的に机上で決めることが可能となる。多くの場合TGAで得られた曲線の形から速度論的解析結果も予測可能なのでTGAのデータだけでも反応条件を決めることは可能である。

 

カイノールへTEOSを含浸させるにはTEOSとカイノール両者の良溶媒を用いると良い。両者の良溶媒を用いるとカイノールへ効率よくTEOSを含浸させることができる。TEOS100%の溶液へカイノールを浸漬させても傾斜組成の繊維はできるが、傾斜組成となっているのは表面付近だけである。

 

傾斜組成のSiC繊維の強度は、内部までTEOSを含浸させた条件が最も良かった。この条件で製造したSiC繊維とアルミ粉を用い、ホットプレスでSiC補強アルミニウムを製造したところ、文献で報告されているSiCウィスカーで補強したアルミニウムと同等以上の物性を持った複合材料が得られた。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/15 炭素繊維

炭素繊維はピッチ系炭素繊維が安価にもかかわらずPANから製造される炭素繊維の品質が良好のため、最も普及している。その価格も下がってきた。日本を代表する化学技術の一つである。かつて高純度SiCのパイロットプラントを立ち上げ後、半導体のマーケットを探索して死の谷を6年間歩いていた時、毎年新しい企画を提案しながら研究予算を工面していた。そのころ、このPAN系炭素繊維に匹敵する品質の炭素繊維をフェノール樹脂繊維(カイノール)から製造することに成功した。

 

カイノールから炭素繊維を製造するのは簡単だが、PAN系炭素繊維と同等の引張強度が出ないのが難点。PANよりも残炭素率が高いにもかかわらず、難黒鉛化炭素ができてしまうので引張強度がPAN系炭素繊維の半分程度となる。曲弾性率にはあまり差がみられないにもかかわらず引張強度が低いのは、炭素繊維の高次構造がPAN系に比較し無秩序でどこかに強度を低下させる欠陥があるためと思われる。

 

カイノールを易黒鉛化するためには、PANのように加熱時に延伸し芳香環を整列させれば良いが、カイノールでは高次構造が3次元化しているので、延伸しても芳香環をPANのように整列できない。その結果難黒鉛化炭素が構造としてできる。延伸力を上げると炭化が開始する温度で繊維が切れる問題があるので延伸力を上げられない。

 

面白いのは延伸力の大きさで切断する温度が不規則に異なるのである。この現象を発見し、昇温速度を一定にして延伸力を調節しながらカイノール繊維を炭素化したところ、引張強度がPAN系並みに向上した。恐らくカイノールでは3次元化していたフェノール樹脂の構造が300℃から450℃にかけて変化し、この構造変化に呼応して延伸力を調節してやると芳香環をうまく整列させることができるのであろう。またこの温度領域で延伸力との組み合わせでカイノール繊維は軟化するような挙動をとる。三次元化していた構造が二次元化するためと推定しているが、研究報告は無い。

 

これはそれなりに面白い実験結果だと思ったが、上司からSiCでは無いので意味が無い、と言われた。特許部からも特許出願には費用がかかるので出願しない、ということになり、せっかくの成果が無駄になる。SiCならば評価してもらえるのか上司に尋ねたら、SiC繊維で炭素繊維並みの価格ならば意味がある、との回答。当時矢島先生が発明した、ポリジメチルシランを前駆体高分子に用いたSiC繊維が販売されていた。しかし高価であった。また炭素繊維を置き換えるほどの魅力が少なく価格が下がる見込みが無かった。

 

そこでカイノール繊維から炭素繊維を製造する実験結果を活かすために炭素繊維同等の価格を目標にSiCとCとの複合繊維開発の企画を立案、1年間研究開発を行い、繊維補強アルミニウムを開発することに成功した。明日SiCとCとの傾斜組織複合繊維について書く。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/14 フラクトグラフィー

材料の破壊について波面観察を行い、破壊に至るメカニズムを解析する手法にフラクトグラフィーと呼ばれる手法がある。金属材料の分野で発展した破壊の解析方法だが、セラミックス分野でもその手法は有効であることが確認された。しかし高分子分野では大学で教えない手法である。非科学的手法と言われる先生もいる。

 

確かに高分子分野では非科学的手法かもしれないが、金属やセラミックス材料同様にゴムや樹脂材料でもうまく破壊機構を説明できる。金属やセラミックスで実績のある手法という理由だけで無く、飛行機の墜落事故の場合に裁判資料として採用されたりした実績のある方法なので高分子材料分野でも普及しても良いと思う。

 

この手法で重要なことは、破壊した面が新鮮でなければならない。新鮮な破壊面を顕微鏡観察して破壊の起点を探す。慣れれば簡単であるが、破壊の起点では破壊エネルギーの伝播速度が最も早くなっているので、そのようなところを探す。コツは破壊エネルギーの伝播速度の早いところでは破壊面はなめらかになっている。そしてなめらかになっている面に放射状のシワが観察され、そのシワの幾つかがある一点を起点に放射状に広がっていることに気がつく。そのある一点が破壊の起点である。

 

破壊の起点が見つかると材料がどのように破壊したのかがわかる。破壊の起点がもともと存在していた大きなボイドであったり、クラックであったり、フィラーの界面であったり、と観察結果に忠実に解析していけばほとんどの場合に破壊の原因について推定がつく。

 

フラクトグラフィーは便利な手法である。例えば、樹脂でできた成形体では、ネジ止めして組み立てたときにボスが割れたりする。それが設計ミスなのか、成形ミスなのか、あるいは他の原因なのか、フラクトグラフィーにより判別できる。耐久試験を行っている時にも使える場合があるが、それは破壊直後の時だけである。破壊直後で無い場合には、破壊の起点を探すのに苦労する。破壊面に他の時間的要因が加わるからである。

 

非科学的方法であるにもかかわらず、フラクトグラフィーは、高分子材料でも重宝する。一度そのコツをマスターすれば簡単に誰でもできる手法なので大学の材料科学の時間に取り上げても良いように思う。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/13 樹脂の混練とその装置の問題

高分子を混練するときに問題となるのが装置や製造条件により混練された高分子の状態が異なる点である。例えば加硫ゴムについては、未だにバンバリーとロールを用いて混練している。その組み合わせによりできあがるゴム物性も異なる。加硫ゴムの場合には、弾性率まで変化する場合があるので混練条件についてはかなり神経を使うことになる。

 

ロール混練において、かえしという作業があり、この作業の回数が異なると耐久性まで影響する。ゴムの処方によりプロセスの差異があまり物性に出ない場合もあるが、樹脂に比較すると物性に与える混練効果の影響は大きいといえる。

 

樹脂では結晶化度が物性に大きく影響するので、混練効果の影響がわかりにくいが、注意深い実験を行うと、樹脂の物性ばらつきに混練効果を観察することが出来る。すなわち、平均値で見ている限り混練の影響が小さくとも、ばらつきという視点で見ると混練の影響を観察することが出来る。

 

テストピースの実験で観察される偏差の大きさよりも射出成形体の物性で現れる偏差のほうが大きくなる。これは射出成形の金型の中で混練が進むからである。このため大きい射出成形体では部位に依存した物性の偏差が大きくなる。FEMを用いて設計した金型を変更しなくてはいけない場合も出てくるかもしれない。このような問題に遭遇しても樹脂の混練状態にあまり大きな関心が払われてこなかった。

 

樹脂の混練には、ゴムと異なり連続式の混練機が用いられる。軸の本数により単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機などと呼ばれている。軸が多くなれば混練機の価格は高くなるが混練効率は上がる。単軸混練機でも混練は進むが、同じL/Dで比較したときに二軸混練機の半分以下の性能しか無いと考えるべきだ。二軸以上の混練機の性能は単軸以上にスクリューの設計因子が多くなる分、混練効率を上げることができる。2成分以上の高分子を混練するときには、安定な射出成形体を得たいならば単軸では不可能と考えるべきだ。シミュレーション以上の差が実際に発生する。

 

単軸混練機でも混練は可能だが、本来は押出専用機と考えていた方が良い。市場で樹脂の混練に関わる問題が発生したときにスクリューの設計変更を行い混練効率を上げようとしても二軸混練機ほどの効率アップを達成できない。教科書には剪断力を発生させるスクリューデザインが載っていたりするが、温度上昇は一人前に起きるが温度上昇に比較して混練はあまり進んでいないのでがっかりする。単軸混練機でスクリューの設計を変更してもあまり期待した効果は得られない。

 

二軸混練機以上の多軸式の場合には、スクリューの設計は混練効率に大きく影響を与える。特に剪断力を発生するローターはすばらしく、某社のローターは、発熱も抑えられ混練効率が高い。ただしそれでもゴムの混練で用いるオープンロールほどの混練レベルを達成することは難しい。樹脂を一度オープンロールで混練し、その物性を確認してみると連続式混練機の問題が分かってくる。連続式混練機の性能の問題を解決できる技術がありますのでご相談していただきたく。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2013.04/12 PENフィルムの巻き癖(質問回答)

スペシャリティーポリマーであるPENについては、昨日で終了予定でありましたが、質問が来ましたので回答します。ガラス転移温度以上の熱処理とガラス転移温度以下の熱処理の違いについて説明して欲しいという質問です。

 

高分子を射出成形あるいは押出成形などで成形すると内部に歪みが残ることがあります。この残留歪みが緩和現象と組み合わさり、成形体が変形したりします。この歪みをとるには、一般にガラス転移温度以下で熱処理を行います。ガラス転移温度以上で行うと、ガラス状態にあった分子が運動するために成形体が歪んでしまうから、とその方面の教科書には書かれています。

 

しかし実際に熱処理を行うと、ガラス転移温度付近で長時間成形体を保持した場合には、ガラス転移温度以下でも成形体は歪んでしまうことがあります。実験を行ってこの状態を観察したときに疑問を持つかどうかで高分子材料に対する知識を実験から吸収できるかどうかが分かれます。

 

ライバル会社の技術者も恐らく同様の実験結果を経験したと思います。ガラス転移温度以下でも成形体が歪むのは温度分布の偏差のため、と自分を納得させ、アニール条件は、成形体が歪まない温度を試行錯誤で決めていった、と推定しています。熱処理の実験を行っている人に、期待した温度で期待した実験結果が得られなかったときに質問すると、必ず温度の偏差を理由に挙げます。有機材料の研究者が抱えるこの問題についても言及したいですが、とりあえず質問の答だけに焦点を合わせます。

 

問題が残っていることを承知の上での回答です。ガラス転移温度以下では、ガラス状態になっているため高分子の分子運動性が拘束されていますが、自由体積周辺では高分子は運動性を持っています。ゆえに、この部分だけが熱処理によりガラス転移温度近辺で熱処理した温度における平衡状態になり、熱歪みが解消されガラス転移温度近くの熱処理した温度領域まで耐熱性があがります。

 

ガラス転移温度以上の熱処理では、ガラス状態にあった分子の運動性が活発になり、自由体積部分だけでなく、ガラス状態にあったところまでその温度の平衡状態へ至ります。このとき動く部分が多くなるのでガラス転移温度以上では、成形体が大きく歪む、と教科書には書かれています。

 

この解答には問題があります。しかし、一般的にはこのように言われており、この説明を信じる限りにおいては、高温短時間熱処理というアイデアは生まれません。高温短時間熱処理は、まだ科学的に実証されていない非平衡における現象を扱った非科学領域のアイデアです。弊社では、このような非科学領域まで取り込んだアイデア創出法を提供しています。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/11 PENフィルムの巻き癖(4)

ライバル技術では長時間アニールというプロセス手段を用いて、高次構造の制御を行い、巻き癖を解消していた。長時間アニールで密度がわずかに上がり、応力緩和しにくくなった。この密度上昇が高次構造を制御した結果というのがライバル技術で、その説明にはPENの結晶部分と非晶部分において、非晶部分の自由体積のパッキングが進んだためと書かれていた。

 

高分子の長時間アニールは一般にガラス転移温度以下で行われる。ゆえに特許に書かれている熱処理温度の領域は、高分子技術の観点で公知領域となるが、PENの巻き癖と結びつけた技術は初めてなので特許として成立する可能性が高かった。

 

ところで弊社の問題解決法を当時すでに実戦で使用していた。さっそくホワイトボードにあるべき姿のマンガを書いた。詳細は省略するが、コーチングを行いながら、高温度短時間アニール技術が問題解決した解答として得られた。

 

ガラス転移温度以上で熱処理を行うと樹脂では変形が生じる。フィルムならばでこぼこのフィルムになる。ゆえにガラス転移温度以上のアニールは非常識な結論である。このような結論を頭の良い社員に納得させるためには、自ら解答を出したと満足できるコーチングが最良の方法である。

 

コーチングは効果的で、すぐに工場で試作をしようと頭の良い社員は言い出した。火はついたが燃焼を制御できない状態になった。社内のルールではパイロットプラントで試作を行ってから工場の試作に移るのだが、頭の良い社員は、技術内容がパイロットプラントのデータを活用できない”キワモノ”であることに気がつき、工場で試作した方が早い、と言いだした。失敗すれば1000万円が無駄になるが、若い熱意に動かされ、いきなり工場試作を行う決断をした。しかし、基礎データも何も無く、いきなり工場で実験という手順については社内調整が大変だった。硬直した会社では不可能な調整である。

 

しかしこの写真会社の風土はこのような場合に良い方向に働く。若い人に評判の良い会社である。山を乗り越え、1日工場を借り切って実験を行ったら、大成功であった。ライバル技術の特許に抵触しない巻き癖のつきにくいPENフィルムが高温短時間アニールで完成し、量産試作に成功したのである。”キワモノ技術”と心配したが、面白いことに試作ラインで後から実験を行っても、きちんと再現する”科学的な”技術であった。また、できあがったPENの高次構造がライバル技術のプロセスで作られる高次構造と異なっていることも分析データで得られた。

 

高分子の高次構造制御を解説している教科書は多い。そこには実際に見てきたようなマンガが書かれていたりする。この開発ではそのマンガが大変役にたった。工場試作を行う前に頭の中でマンガが展開されたのである。そしてできたような気になって、若い人の心に火がついたのである。

 

技術開発では”成功する”と信じる熱意がまず重要である。熱意はスピードを生みだす。これほど短時間の技術開発は、ゴム会社で行った高純度SiCの開発以来である。科学的に未解明の領域の技術は、高純度SiCの開発経験で生まれた弊社の問題解決法が効果的に働く。

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2013.04/10 PENフィルムの巻き癖(3)

PENの巻き癖とその高次構造の関係については、科学的な香りをつけた報告がライバル会社から発表されていた。やや胡散臭い論理で技術の正当性が説明されていた。発表内容を読む限りにおいては、唯一のすごい科学技術でそれに取って代わる技術開発は不可能に思われた。学会賞の審査員もそのように思ったに違いない。

 

技術内容は熱処理により高分子の高次構造を制御する“もすごく高度な”技術と言われていた。しかし、熱処理技術は高分子材料分野よりも金属やセラミックス材料分野のほうが進歩している。温度というパラメーターが強度因子であり、容量因子であるエネルギーと異なることの重要性を高分子材料の研究者はあまり考えない。PENの巻き癖解消技術についてもライバル特許は大きな穴を残していた。恐らく気がついていなかったはずである。

 

大量の特許群を整理してみると大穴があいていた。しかもその大穴は長時間アニールする必要が無く、ロールtoロールで巻き癖解消が可能な生産効率の高い技術領域で、むしろ学会賞の技術よりも好ましい領域である。技術開発で注意しなければいけないのは、自分たちの技術が科学的に完璧で唯一の技術とうぬぼれてしまうことである。

 

科学とは技術の世界に包含されることを忘れている。非科学的な技術という領域があることを技術者は、いつも忘れないことである。非科学的な技術とは科学的に解明されていないか、あるいは科学的に否定される技術のことである。

 

実は学会賞を受賞していたが、ライバル会社の説明には科学的に怪しい内容が多数含まれていた。怪しい内容をさも科学的であるがごとく現象をうまく説明していた。学会賞を取るにはこのようなプレゼンテーション能力が重要である。その結果、技術者全員がそれを信じたのだろう。そのおかげで特許に大穴が残されることになった。

 

弊社の問題解決法ではこのような似非科学の技術に対抗するアイデアをうまく考え出すことが可能な方法を提供している。すなわち科学的に完璧に説明されないかぎり、どこかに穴を見いだすことができるのである。科学的に完璧な場合には弊社の問題解決法でも太刀打ちできない。それでも、非科学的技術で解決できる余地が残っている場合には弊社の問題解決法でアイデアをうまく導き出すことが可能である。このPENの巻き癖解消技術でも科学的考察ではなく問題解決法で技術手段を見つけ出した。

 

<明日に続く>

 

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2013.04/09 PENフィルムの巻き癖(2)

PENフィルムの損失係数を規定した特許は脅威に感じられた。しかし、特許をよく読むと、レオロジーを知らないのか、あるいは意図的にインチキ特許を書いたのか不明だが、科学的におかしい特許であった。すなわち損失係数の測定と書かれているが、大きな応力をかけて測定していたのである。

 

粘弾性の測定に詳しい技術者ならば、この測定方法がすぐにおかしいことに気がつく。すなわち粘弾性の性質を評価するためには、本来応力ゼロで測定することが望ましい。しかし、応力ゼロでは物性測定ができないので、わずかな歪みをかけて測定することになる。

 

特許では、サンプルに大きな応力をかけていた。すなわち損失係数の測定と特許には記載してあるが、応力緩和と相関するパラメーターを測定していることになり、物質固有の損失係数の測定になっていないのである。発明者が粘弾性に詳しくないか、あるいは特許審査官の目を欺くための手法なのか不明だが、物質固有のパラメーターを規定した特許になっていないことに気がつき安心した。

 

PENフィルムの巻き癖はPENが応力緩和して現れる現象であることが解明されていた。応力緩和とは、長年使用していたパンツのゴム紐が伸びた状態になるような現象である。中年太りの体型だったので応力緩和の実験量は豊富であった。ゆえにPENの巻き癖解消技術に関してはすぐに理解ができた。すなわちフィルムを巻いた状態にしていると、フィルムの内側は圧縮応力を、外側は引張応力を受けることになる。その結果応力緩和で巻き癖がつくのである。

 

PENの損失係数を規定したライバル特許は、損失係数を扱っているが、実際には応力緩和しない領域をパラメーターで規定しているだけの特許であった。樹脂の応力緩和が高次構造に影響を受けることも当時知られており、異なる高次構造を作り出して応力緩和しにくいPENにすればよいのである。

 

若い技術者に考えたことを説明したら、高次構造の制御と簡単に言うがどのように構造制御したら良いのか、と質問された。ライバル特許を読んでいてすぐに指示してきた仕事であると気がつく頭の良い社員である。頭のいい人はとかく生まれたばかりのアイデアを否定する傾向にある。君ならできる、と持ち上げたら、すばらしいアイデアだから一緒に考えてください、と上司の私が丸め込まれ、PENの高次構造を必死に勉強することになった。確かにアイデアまでは良かったが、世の中に情報が無い世界であった。科学的に難しいのであれば、技術的なセンスで問題解決する以外に方法の無い状態だった。

 

<明日に続く>

 

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2013.04/08 PENフィルムの巻き癖(1)

いまや写真はデジタルカメラで撮影するのでフィルムをほとんど見かけなくなった。またAPSフィルムなど入手がかなり困難になったばかりでなく、APSというフィルム規格など忘れ去られたかもしれない。このAPSフィルムというのはデジタルカメラ普及前のアナログ技術のささやかな抵抗だったような気がする。一般的に使用されていた135フィルム(35mm幅のパトローネ入り写真フィルム)の24x36mmの規格に対し16.7×30.2mmと画像面積がやや狭い規格である。イースタマンコダックが提唱し富士フィルム、キャノン、ミノルタ、ニコンの5社で作り上げた規格である。

 

残念ながらコニカはこの中に入れてもらえなかった。ビジネスとは厳しい世界である。ただ、この規格は写真愛好家から見れば普及する見込みの無い規格に思われた。当時銀塩フィルムの技術が進歩して画像面積を小さくしてもA4レベルの引き延ばし程度ならば差が分からない、ということでイーストマンコダックと富士フィルムがカメラメーカーを巻き込んで普及させようとした規格である。小さくなっても135フィルムと価格差は無いので付加価値をあげることができるメーカーサイドの考え方である。

 

いろいろユーザーメリットが書き立てられていたが、写真愛好家の立場に立てば普及しそうに無い商品である。同じ解像度の技術で面積を小さくしているのだから画像品質は135フィルムよりも悪くなる。規格が登場当時には無視していてもよい商品、と思っていたが、上位2社のフィルム会社が品揃えしているので売れないと分かっていても商品開発をしなければならなかった。画質を愛好するお客様にメリットの無い商品と不満を持ちつつ技術開発を担当した。

 

APSフィルムにはPENという高価なエンジニアリングプラスチックが使用された。135フィルムと同じようにTACでも良さそうに思えたが、巻き癖の問題がありPENが採用された。135フィルムは現像処理後、帯状の状態でお客様の手元に戻るが、APSフィルムではカートリッジの中に巻き込んだままお客様にお返しする。ネガの保存に場所をとらない長所がある、と言われていたが、それほどのアイデアには思われない。巻き込んだまま保管されるので巻き癖がつきやすいTACを使用することができなくてPENが採用され、PENフィルムの物性が規格にもなっていた。

 

20年近く前に標準化を武器に戦う手法が盛んになりつつあったが、このAPSも写真フィルム上位2社が規格を武器に下位2社から特許料を吸い上げる戦法で、お客様のため、と言うよりも企業の論理が強かった。弱肉強食のためならお客様メリットが二の次になる、そんな傲慢な技術に見えた。当然このような規格はすぐに売れなくなったが、それでも商品を揃えなければ写真フィルム会社の面目が立たない、ということで少しでも特許を回避できる技術を開発することが技術者の重要課題となった。

 

PENフィルムの巻き癖解消技術については、富士フィルムの技術が学会賞まで受賞し、技術として完成されていて特許回避が難しい、と言われていた。学会賞では科学的にフィルムの巻き癖という問題を解明しており、それを解消するために10時間以上かかる長時間アニールという技術を完成したとある。ただし長時間アニール技術は元巻き状態で保管時に実施するのでコストに影響しない、といわれていたが、いささか技術としてセンスが悪いように感じた。

 

フィルム技術であれば、ロールtoロールで元巻きに巻かれたときには製品としてできあがっている状態が好ましい。ライバルよりセンスの良い技術を開発しようと意気込んでいたら、フィルムの損失係数を規定した特許が出てきた。物質特許なので知財部から、この特許回避はできないでしょう、と言われたが、科学的には不可能だが技術で回避する、と今から思えば若さから大胆な回答をした、と少し反省している。しかし幸運なことに回避できた。努力は成功を信じて必死でしてみるものである。

<明日に続く>

 

 

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