専門の話になるが、高分子材料は成形されて機能が発揮されるが、その時必ず成形前に添加剤が混合される。高分子合成時に必要な添加剤を加える方法もあるが多くは合成後の高分子に必要な添加剤が混合されている。
ラテックスのような低粘度の材料の処理プロセスでは溶融せずに高速攪拌可能だが、多くは高温度で一度高分子を溶融させて添加剤と混合する。
この時、練りも同時に行うと高分子の物性は改良される。練りとは、高分子1本1本の絡み合いを進めるプロセスである。加硫ゴムではこの1本1本の高分子の絡み合いが十分に行われない場合に、力学物性が極端に悪くなるので、ゴム材料を扱う技術者は練りの重要性を理解している。
しかし、圧力をかけて固める射出成形では、この練りの効果は表れにくい。練りの効果が全く現れないのではなく、樹脂材料技術者が気がつかないケースが多い。
ある射出成形技術を研究されているアカデミアの先生に研究の目標を尋ねたところ、どのようなコンパウンドでも良好な射出成形体を得る技術を確立すること、と答えられた。
しかし射出成形技術においてもコンパウンドの性能が極端に低ければどうにもならないケースは存在する。
高性能加硫ゴム材料を扱っている技術者は皆コンパウンドの混練プロセスの重要性を理解している。加硫ゴムの押出成形では、コンパウンド性能が成形体にそのまま表れるそうだ。これは樹脂の押出成形も同様である。
15年以上前になるが、半導体無端ベルトの押出成形を担当することになって自力でコンパウンド工場を半年で立ち上げた経験があることをこの欄で以前書いたが、睡眠時間を4時間以下に削って過重労働をしなければいけなかったのは、コンパウンド供給会社の技術者が混練プロセスの重要性を知らなかったからだ。
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ワイブル統計は、最弱リングモデルで導かれている。最弱リングモデルとは、製品品質の最も壊れやすいところで品質劣化が起きれば、製品の機能の寿命であるという考え方だ。
大変わかりやすいモデルで、製品の故障解析手法として普及している。また、このモデルの統計的扱いと式の導出方法は、高校の数学の知識があれば理解できるので、統計手法として易しい部類である。
ただ、セミナーを通じて感じることは、品質管理部門に比較して研究開発部門で普及していない不思議さである。そこで、弊社はこのホームページにワイブル統計のプログラムを無料公開して普及に努めている。
製品品質のデータ処理だけでなく、引張強度データについても処理を行うと、強度データのばらつき構造を整理できる。
例えば高分子材料の引張強度は、弾性率と靭性が影響するが、それ以外にサンプルの取り扱いプロセスも大きく影響する。
ワイブル統計でデータ処理を行い、傾きの大きな1本のグラフが得られれば良いが、複合型のグラフが得られたならば、弊社へご相談ください。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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昨日は成形体の電気特性がコンパウンドの電気特性に影響を受ける話を書いた。力学特性も同様である。ただし力学特性は、電気特性に比較して物性評価時におけるばらつきが大きいのでコンパウンドの影響を議論しにくい問題がある。
引張強度の測定を事例に物性評価のばらつきについて説明する。まず、物性評価時にサンプルを評価装置へ取り付けるときのばらつきが存在する。これは5人ほどに同じサンプルについて引張強度測定を実施してもらうと明らかに有意差として観察される。
測定時の注意点を細かく指導し、測定時に監視しながら実施するとそれが小さくなるか無くなるので、こうした物性評価に不向きな人がいることにも配慮する必要がある。
高偏差値の大学を出ていても精度の良い力学特性評価をできない人がいることも知っておいた方が良い。力学特性評価は、個人のスキルが出やすい項目である。
次にサンプルの形状の影響である。射出成型時の歪が形状に現れることもあれば、サンプル保管時に形状ばらつきが生じることもある。新入社員の時に当時最先端の樹脂補強ゴムを開発していた。
その時、引張強度サンプルについては測定本数よりも1本多く作成することを指導された。さらに、シートサンプルから切り出した後2日ほど静置して評価サンプルを選び出すように、とも指導された。
たいていの場合に予備の1本は無駄だったが、まれに変形していることがあった。このような場合に1本だけでなく2-3本ダメになることもあったので、予備の本数を増やした記憶が残っている。
力学特性について電気特性よりも測定技術上の問題の影響を受けることが意外と知られていない。測定技術上の問題を解決してから成形体の不均一性を評価すると成形ロットや位置の影響などを検出できる場合がある。
カテゴリー : 一般 連載 高分子
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成形体の均一性にペレットの均一性が影響を及ぼすことが意外と知られていない。高分子の混練技術の目的に成形体の均一性を実現できるコンパウンドの提供という項目があることをご存知ないコンパウンドメーカーも存在する。
これは絶縁体である高分子にカーボンなどの導電体をブレンドし半導体シートあるいは半導体ベルトを製造して平面の表面比抵抗を数点計測して確認できる。
コンパウンド段階で電気特性が均一であると、押出成形あるいはインフレーション成形を行ったときにシートなりベルトの面内の電気特性が均一となる場合が多い。
ここで、コンパウンドの電気特性が均一ならば確実に成形体で均一になるとは限らないことに注意する必要がある。パーコレーション転移という現象が起きるためだ。
すなわち、コンパウンドの電気特性を均一にしただけでは不十分で、パーコレーションが安定化されていることも要求される。
パーコレーション転移については後日説明するが、混練技術の重要性を示す現象の一つが半導体高分子の成形プロセスで起きる。半導体シートや半導体ベルトを製造するときに、コンパウンドの電気特性が不均一であると電気特性を均一化できないことを知っておいてほしい。
ただし、コンパウンドの電気特性についてどこまで均一性とパーコレーションの安定性を実現すべきかは、求められる成形体の電気特性により変化する。
コンパウンド段階で10%程度のばらつきがあっても成形体で5%程度のばらつきに抑えることも可能である。このあたりはコンパウンドの配合設計にも依存する難しい問題である。ただ、成形体の均一性に混練技術が影響することを知っておいてほしい。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
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PETやPENフィルム、PPSベルトの開発で正体不明のボツや目玉故障を経験している。いずれも1mm以下の大きさなので満足な分析ができず、正体不明となる。
そこで、粘弾性測定ができるほどの量を採取する努力を行い、正体不明部分の粘弾性を測定した経験がある。馬鹿げた作業という人もいたが、それなりの結果が得られた。
高分子材料の高次構造について研究がかなり進んだが、実務におけるすべての故障について科学的にこたえられるレベルにまだ到達していない。
例えば1種類の結晶性高分子について、構造は結晶部分と非晶部分が必ずできる。高分子の静置場でできる結晶は球晶だが、これはラメラと非晶部分で出来上がっている。
非晶部分には大きさが不確かな自由体積部分が存在し、無機ガラスのように均一性が高くない。すなわち高分子の非晶部分はかなり不均一な構造である。
この非晶部分の科学的研究が十分に進んでいない。球晶の構造については研究がかなり進んだが、非晶部分については不明確なところが多い。
多くの高分子の成形プロセスでは、高分子を高温にして溶融するプロセスが使用される。この時溶融温度付近の高い温度で溶融させて流動性を得るのだが、この高分子融体についての研究が不十分である。
PPSで実験を行っても、実験条件を機能に着眼して設定すると理解に苦しむ結果が得られる。ただ、ある仮説を設定し思考実験を行うと説明可能だが、これは科学的ではない。
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朝寝坊をして6時に目が覚めた。支度を整えて本欄を書こうとしたら、NHKで表題の番組を放送していた。1972年2月にグアムから帰還した横井庄一氏の話である。
彼が雑誌社に頼まれて一人テープに吹き込んだ声を中心に番組が構成されていたが、当方の文章では表現できないほどの壮絶な体験がそこに記されていた。そして彼が語り部としての使命感だけで生き延びていたこともそのテープから理解できた。
まだ二十歳前の当方にとって横井庄一氏の帰国シーンは衝撃的だった。当方だけでなく日本全国が彼の帰国に沸いた。彼のグアム生活の展示会では長蛇の列ができたことからも、その関心の高さを理解できる。
帰国してから彼はその体験を語り始めたが、ある日突然語るのを辞めてしまった。これは今の時代でも想像できるように、彼の語った内容に対する批判からである。
この放送で紹介されたテープは公開しない条件で録音されたものであるが、一人の人間がジャングルで戦争が終わっても苦労して生きてきた体験談は、戦争というものを知ることだけでなく、人が生きるとは何かを知る意味でも重要である。
記録を見る限り、彼と小野田氏以外戦後のジャングルで壮絶な人生を生きた人はいないのである。彼らの人生を学ぶ意味は、まさに「戦争」と「命」を学ぶことかもしれない。
敗戦が濃厚ならば投降すればよい、あるいは兵士でなければ逃げ出せばよい、という意見が今起きているロシアとウクライナの戦争において安易に語る人がいるが、彼の声を聴くとそれでは命をつなげない甘い意見であると理解できる。
ひとたび戦争状態になれば人道など保証されないのだ。それだけではなく、グアムでは部下を見捨てて戦争が終わっていないのに投降した上官の話などが彼の語りから飛び出した。
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高分子材料の成形体を製造するときにペレット状のコンパウンドが用いられる場合が多い。この時ペレット一粒一粒の組成が均一であっても成形体で品質故障が現れることがある。
射出成形体では目立たないが、押出成形やインフレーション成形で発生する。そこで故障部位をケミカル分析してみると組成が均一なので分析結果に現れず、原因不明となる。
ところが故障部位のレオロジーを測定してやると故障部位が他の部分と異なる特性であることを発見できる。
あるいは、結晶性樹脂ならば故障部位の結晶化度を測定することにより他の部位との差異を見出せるかもしれない。
このように組成が均一な原料を用いても、成形体を製造するときに原料を一度溶融させる必要があるので溶融が不均一だったと思われる品質故障が発生する。
溶融の不均一性であれば、成形時にダイに至るまでのシリンダーの中を均一にする努力をすれば解消できる、と考えて努力すると、努力が報われて、品質故障の発生頻度が下がる。
しかし、発生頻度が下がってもなかなかゼロにできない。このじれったさは、実際に経験してみないと分からない。
成膜されたPETフィルムを体育館に広げて15名ほどの研究者で品質故障部位をマジックで印をつけてみた。ゼロにできたと思ってもどこかに数10個は品質故障部位が見つかっただけでなく、ラインの検出器をすり抜けた部分も存在した。
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高分子材料の成形体を大別すると、射出成形に代表される材料へ圧力をかけて金型に押し出して注入し、さらに圧力をかけて固めて製造された成形体とフィルムのように金型から押出し、高い圧力をかけることなく成形された成形体に分かれる。
PETボトルはブロー成型と呼ばれる方法で、材料を膨らませて金型に押し付けるように成形して製造されるので、成形時に圧力がかかる成形法である。
すなわち、高分子材料の成形体には、押し出されて製造されただけの成形体と高い圧力がかけられて成形された成形体とがある。
押出成形でも一方向に延伸したり、縦と横に延伸(二軸延伸)されたり、して応力がかけられるので成形時に何らかの力が材料にかかっており、まったく材料に力をかけずに一定の形状で製造された成形体は無い。
このように高分子材料の成形体では、大なり小なり応力がかけられて成形されるので、その応力分布を均一にできない限り、どこかに歪が残る。
このような成形時の応力分布の不均一性以外に組成の不均一性が高分子材料の成形体には存在する。ゆえに品質管理技術が重要となるが、研究開発段階でこれを忘れている企業が多いのではないか。故田口玄一先生は、川下における品質のロバスト確保のために研究開発段階からタグチメソッドの使用を勧めていた。
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高分子の混練技術の難しさは、混練されたコンパウンドがどのような状態になれば完成したと言えるのか不明確だからである。そして不明確であることを理解していない技術者が多いのも問題である。
高性能加硫ゴムの混練では、バンバリーとロールが未だに用いられているが、この理由を理解している技術者も少ない。
そもそも二軸混練機があれば高分子の混練ができると安直に考えている人が多い。顔料の分散程度ならば、一軸混練機でもなんとかなるが、高性能のコンパウンドを混練したいならば、プロセシングの設計から始めなければいけない。
この時、そもそもプロセシングの設計とは何ぞや、と質問していては駄目である。ゴールである成形体の高次構造設計から始まり、それを実現するためのプロセスを設計することなのだが、このやり方は科学的に一つと決まっていない。
恐らく技術者の数だけその方法はあるのだろう。問題はそれが分からない、あるいは意識していない技術者が多いことだ。15年以上前にPPS無端半導体ベルトを担当した時に頭ごなしに当方の見解を否定されたことがある。
科学的に何が正しい、と一義に決められない分野では、他の技術者の見解を大切にするのが正しい技術者の姿勢である、という理由で、その方は技術者ではなかった可能性が高い。
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今回のロシアとウクライナとの戦争がいつ終結するかわからないが、台湾有事の問題だけでなく、日本が中国とロシアに攻められたら、という意見が目立つようになってきた。
ウクライナのケースと異なるから、それは考えなくても良い、という意見もあるが、説得力が乏しい。まだ、ウクライナで戦争が継続されていることに納得できないからだ。
そもそもウクライナの戦争は、プーチン大統領のNATOに対する脅威から始まっている、と言われている。そして戦争が始まる前から、ロシアのウクライナ侵攻がささやかれて、それが現実となった。
連日放送される戦場の様子を見る限り、ロシアが仮にこの戦争に一時的に勝たとしってもクリミア併合のようにはうまく進まないように思われる。なぜなら国民の大半が高い士気を持った状態では占領政策がうまくゆかないことは過去の歴史から自明である。
それよりも、ロシアが勝った状態を連日のニュースから想像できない点も心配だ。ロシアの国営放送では戦争反対の映像が流され、主犯の女性は罰金刑となった。もうすぐロシア国内で何らかの変化が起きるのかもしれない。
さて、多くの期待通りに、日本においてウクライナのような他国による侵略の心配はないと思いたいが、北方領土以外にもすでに他国の侵略を受けている。竹島は未だに韓国に占領されたままだし、尖閣諸島も風前の灯火状態だ。
沖縄に米軍基地があっても北方領土や竹島問題に米国は何もしてくれない。これで尖閣諸島も中国に占領されたなら、さすがに危険だと思わなければいけないが、橋下氏のようにそうなったら逃げ出せばよい、などという考え方では国家や民族は成り立たない。
もっとも震災同様に自分の命を守ることがまず大切、という自己責任論を理解できないわけではないが、そのような視点に立ったときに国家や民族をどのように次の世代に説明してゆけばよいのか。ちなみに世界史の視点で眺めたときに日本民族のように永く国家を維持している民族の例は少ない。
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