1991年10月1日にゴム会社から写真会社へ転職した。前日までゴム会社に勤務していたのでこの月は給与明細書が2通ある。年金も両方の会社から支払われている。高純度SiCの事業を諦め趣味でその研究を続けながら、新たに高分子科学の勉強を始めた。たまたま最初に東工大住田教授の論文を読んだところ、シミュレーションプログラムを趣味で作成していたパーコレーションの話が書かれていた。
転職するきっかけとなったERFでは、粒子がクラスターを作り、そのクラスターの性質で機能が制御されるところはパーコレンションそのもの。30年前にプログラミング言語Cに興味を持ち、LatticeCという処理系を使ってプログラミングの勉強をしていた。勉強を進めるため、パーコレーション転移のシミュレーター開発を趣味で日曜日に自宅で楽しんでいた。
転職後帯電防止技術を担当することになり、その技術にパーコレーション転移が関係している、と直感的にひらめいた。高分子の専門家でないことが幸いした。作りかけていたプログラムを早く完成させるために会社でもプログラミングを始めた。管理職として転職したので数ヶ月は自由な時間を取ることができた。
シミュレーターが完成後、帯電防止層の導電性のシミュレーションに応用したところ現象をうまく表現できた。パーコレーション転移をコンピューターの中で再現するのは簡単である。導電性粒子間に相互作用が働かないときには確率過程で生じる現象だからである。ゆえにこの条件でパーコレーション転移がどのような挙動をとるのか科学的にコンピュータを使用して調べることができる。
パーコレーションの理論についても40年以上前に数学者についてボンド問題とサイト問題として議論されn次元のパーコレーションまで解かれている。すなわちその現象が科学的にほとんど解明され、スタウファーによる優れた教科書も発売されている。しかしこれはあくまで導電性粒子間に相互作用が無い、という前提である。
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カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
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昨日幸運のプロセスについて書きながら、入社4年そこそこの若僧の提案に2億4千万円の先行投資を決断してくださった社長のことを思い出した。転職前に在籍したゴム会社は、人材育成に力を入れており若手活用に長けた会社だった。この会社ではいろいろあったが、社長の前のプレゼンテーションの思い出はその後の研究生活で心の支えになっていた。毎年1度は会社の幹部の方が新設された研究所を見学に来られ一人で歩いた死の谷の数年間を短く感じた思い出がある。
最近は、目標管理を導入し人事評価を成果主義で行っている企業は多いと思う。その時今回のSTAP細胞発見と同様に適切な評価ができているだろうか。新聞報道ではSTAP細胞の研究企画とその立役者は小保方さんである、と誰もが見えている。ものすごく透明性が高いのだ。
企業で同じような成果が出たときに企業機密の問題もあるのでこれほど透明性を高めた報道をしにくいだろう。この点はしかたがないが、企業内においてその成果の評価まで正しく行われているかどうかについて疑問がある。少なくとも自分の体験から現在の国の研究所ほど公平性と企業内の透明性が進んでいる企業は多くはないと思う。例えば10年以上前の事例だが青色発光ダイオード発明の話題では見苦しい企業内のゴタゴタが表に出た。
10年ほど前、高分子同友会で高分子学会賞を受賞されたUさんを招いて研究管理の勉強会を行った。その時話題提供されたUさんが、「技術の立役者は自分ではなくXさんで、彼は研究開始から数年間死の谷を歩かれた後他部署へ異動し、自分があとを継いだ時に今日の成果が出た。だから学会賞メンバーに彼の名前を入れました」(注1)と説明された。勉強会に参加された方は皆感動した。しかし、冷静に考えれば当たり前のことである。
後を継いだ方の誠実、不誠実でその事業の功労者が変わるというのも妙な話だが、それが現実である。Uさんの誠実さはしみじみと伝わり、このような人と一緒に仕事をやりたい、と感じた参加者は多かったはずだ。
経営判断の原則はプロセス責任であり、多くの会社の研究企画プロセスは、いまやステージゲート法あるいはそれに準じた方法が定番となりつつある。研究者の人事考課をこのステージゲート法と連動し行っている企業も多いと思う。しかし時としてこのプロセスからはみ出た成果が出る場合がある。またそれくらい活性化された研究所であるべきだが、その時にそれを正しく評価できるかどうかは中間管理職の力量に依存する(注2)。
しかし正しく行われなかったときの会社の風土に与える損失が大きいことをトップは認識すべきである。今回のSTAP細胞の報道から研究成果の取り扱いについて国の研究所の透明性(注3)を知ることができたが、その結果若手育成についてもいつのまにか企業より恵まれた環境になっていることが明らかになった。
(注1)Xさんの所属が研究開発とは無関係の職場であり、参加者メンバーからその部署の役割について質問が出た。その時の回答。
(注2)そもそも新しい研究シーズが生まれるような風土作りは、全社方針も重要だが中間管理職のマネージメントが風土に与える影響が大きい。
(注3)新聞記事は小保方さん中心であったが、その研究に関わった方々の談話でも感動した。大きな発明は多くの人の協力で実現する、という典型例だろう。ただし創造という活動の多くは、個人の努力の賜で、ブレークスルーした立役者がそれなりに評価されたかどうかはその後の企業風土に影響する。うまくできない企業はイノベーターが育ちにくい。
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小保方さんが最初に研究テーマを見いだしたヒューマンプロセスにおいて、たまたま実験を担当したという幸運と、その仕事を担当して現物現場主義により研究テーマとして設定するまでのプロセスを指摘した。前者の幸運のプロセスについては、まだ公開されていないので書けなかった。
ここは手前味噌になるが、高純度SiCの発明における幸運の例をもとに夢をビジョンに具体化するまでの彼女の真摯な努力が果たした役割を述べてみたい。
30年近く前、まだ高分子をブレンドしてセラミックスを合成する技術が知られていなかった時代に世界に先駆け、フェノール樹脂とポリエチルシリケートから高純度SiCの発明を実現できたのも幸運のプロセスであった。しかしその幸運に巡り会えたのは、専門外であり手段や方法の具体的アイデアが無かったために、高分子を前駆体にして高純度SiCを合成したい、と一途に思いビジョンの具体化に努めた結果だと思っている。
ゴム会社で高分子の難燃化技術開発を担当していたときに50周年記念論文の募集があった。世間はセラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れ、どこもかしこもセラミックスの研究をやり始めたことが新聞に毎日のように紹介されていた。社長はファインセラミックスの新事業を基本方針として全社員に示していた。このような背景から高分子技術をもとに半導体用高純度セラミックス事業を立ち上げる夢を書き50周年記念論文として応募した。
しかしこの論文はボツとなったが、無機材質研究所留学の機会を得た。セラミックスなど専門外だったので慌てて勉強を始めたが、フェノール樹脂天井材の開発を担当していたのは幸運だった。高純度SiCの原料として使用することになる重要な素材だったからである。
無機材質研究所に留学してからは、ビジターとして粛々と指示された業務をこなす毎日だったが、ゴム会社の人事部からかかってきた昇進が遅れるという電話がきっかけで、モチベーションダウンを心配したI総合研究官から1週間自由に実験をしても良い、といわれた。この一週間を活用して高純度SiCの合成技術シ-ズを生み出すことができた。
高純度SiCの新しい合成技術について最初から明確なアイデアがあったわけではないが、半導体用セラミックスを高分子から創造する、というビジョンを持ち続け努力した結果幸運を活かすチャンスが訪れたと思っている。
恐らく彼女も万能細胞に対する大まかなビジョンを持ち続け、細管で細胞が刺激を受けて幹細胞になるという現象に遭遇した幸運を活かすことができたと推定している。すなわち幸運を引き寄せるヒューマンプロセスとは、夢を少しでも具体化したビジョンとして描き、そのさらなる具体化と実現に向けて真摯に努力を続けることではないか、と考えた。
その努力の過程で、ビジョンのカテゴリーで新現象に遭遇したときに、他の人と異なる視点で現象を捉えることが可能となり新発見に至る。すなわち新現象が偶然彼女の前に現れたのではなく、彼女のビジョンを具体化しようとしていた日々の努力があったので、多くの人が見落としていた現象を新現象として捉えることができたのだ。
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STAP細胞発見のテーマ設定プロセスは、非科学的プロセスで行われている。雑誌「ネイチャー」で最初に不採用とした編集者の見解もそれを指摘している。ところで非科学的プロセスは排除されるべきことなのか?
イノベーションを引き起こすような発明発見を科学的プロセスで行おうと50年以上前にTRIZやUSITが考案されたが、TRIZやUSITでイノベーションを引き起こすような大きな発明発見が成された事例を聞いたことがない。イノベーションを引き起こすようなプロセスは、むしろマッハが指摘しているように非科学的プロセスから生まれている。
非科学的プロセス、例えば「幸運プロセス」を活用して、それなりに努力すればイノベーションを引き起こせる分野の存在を示したのも今回の発明の意味である。もし小保方さんがハーバード大学で若いマウスから幹細胞を取り出す実験を担当しなかったら彼女は今回の発明発見をする役割になっていなかった可能性がある。このあたりは、幸運が作用している、といってもよいのではないか。
ただ、ハーバード大学へ留学するまでの彼女の努力や実験を担当してからの彼女の姿勢は、科学とか非科学に無関係に若い研究者の模範となる。ハーバード大学で今回の実験を担当するという幸運を引き寄せたプロセスについて紹介されていないが、実験を担当した幸運をチャンスに変えるまでのプロセスは新聞情報に掲載されていた。それは典型的なヒューマンプロセスであった。
おそらく彼女以外の人も同様の実験を担当していただろう。そして彼女でなくとも刺激で幹細胞ができている現象を見ていたはずだ。しかし、目の前の現象を従来の科学の常識からありえない現象として認識し、自分の担当している仕事は、若いマウスのリンパ細胞から小さな幹細胞を選び出す作業と納得し、生物化学の大発見となる現象が目の前にあっても気がつかずに作業を行っていたと推定される。
しかし、彼女はマウスから取り出した細胞に幹細胞が含まれていないことに疑問を持ち、細い管を通過した後に幹細胞が取り出されている不思議な現象に興味を持った。そして非科学な考え方であるけれども刺激で幹細胞ができている、とその現象を素直に捉え、それを実証するために研究を始めた。このヒューマンプロセスは、「現物現場主義」という言葉として技術開発では有名な取り組み方である。
すなわち技術開発の現場では、科学的な論理の説明よりも実際に現場で起きている現象が優先される。このあたりは会社により考え方が異なっていることを知ったが、ゴム会社のように徹底して現物現場主義で攻める姿勢の方が技術開発はうまくゆく。周囲から現象の見間違いと指摘されても、彼女は自分の目の前の現象を信じ、現物現場にこだわり成果を出している。
正しい現物現場主義では、非科学的な現象も受け入れなければならない。そのとき、それを誤差あるいは実験の失敗と捉えるのか、非科学的現象でもゴールを実現する有効な現象と捉えるのかにより、問題解決において次に取るべきアクションが異なってくる。現物現場主義というヒューマンプロセスにおいて重要な姿勢を取らない場合に非科学的な現象を否定し排除し、その結果新発見を見逃したり問題解決を困難にする場合がある。STAP細胞は、現物現場主義で発見された成果という見方もできる。
実は生科学分野に限らず高分子材料分野でも「幸運プロセス」でささやかであるが工業的に重要な発明発見の機会が多数存在する。6月に開催されるポリマーフォーラムの招待講演者に推薦されたが、そこで行うプロセシングの講演も「幸運プロセス」で問題解決できた技術成果で、フローリー・ハギンズ理論に合わない現象を紹介する。
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前回まで説明したようにケミカルアタックは科学的に扱いにくい現象であり、それを逆手にとって問題のある樹脂を供給しながら、原因をケミカルアタックにして煙に巻くような樹脂メーカーもあるので成形技術を担当している人は注意する必要がある。成形現場に怪しいところがあると永遠に結論を出せなくなる。
現代の高分子の分析技術は正体不明のケミカルアタックを完璧に証明できるほどのレベルではない。ケミカルアタックとは樹脂供給メーカーがエラーを認めなかったら原因が闇の中になってしまうような問題である。換言すれば誠実な樹脂供給メーカーであれば、ケミカルアタックという問題が発生したときに現場対応で迅速に問題解決する。
しかし証明ができなくとも樹脂メーカーの担当者が成形技術者を煙に巻こうとしているかどうかは、樹脂の破壊機構を学べば見当がつくようになる。まず実務の手順から説明する。樹脂の破壊した箇所は汚染しないように注意して保存することが重要である。破壊した箇所から、樹脂に配合されていない油や界面活性剤などの「ケミカル物質」が見つかったならケミカルアタックの可能性が高い。現場からケミカル物質を除去する作業が対策になる。
ケミカル物質が検出されなかったときにどうするか。フラクトグラフィーを行い破壊に至った原因を探る。具体的には、破壊の起点を探すのである。破壊の起点がケミカル物質と無関係のボイドやクレーズだった場合には樹脂起因の可能性が高くなる。
成形体から引張試験片を切り出し引張試験を行い、強度が仕様どおりかどうか調べる。樹脂に問題があるとこの強度のばらつきが大きくなるか、あるいは低いところでばらつきが小さくなって観察される。
強度の低いサンプルの破面を観察し、ボイドやクレーズが破壊の起点になっていないか探る。すると樹脂に問題があるとそのような破壊の起点が幾つか見つかる。このような結果が出たら樹脂に問題がある。ペレットを観察するとスが入っていたり、ペレットにボイドやクレーズが観察されたりする。
ただし、この評価を樹脂メーカーに示しても難癖をつけて認めないメーカーもあった。直接の証拠を示すためにスの入ったペレットや、それを生産した現場(中国)で温度管理がされていなかった証拠写真を示しても、そのメーカーはケミカルアタックではない、という実験結果を認めなかった(注)。そのような不誠実なメーカーからは樹脂を購入しないことだ(続く)。
(注)引張試験片を成形体から切り出すときに、正確にダンベル試験片の形状にするのは難しい。試験結果が低くなるのはダンベル試験片の形状と指摘されたり、問題を示すDSCのベースラインが少し怪しい、などと難癖をつけられた。こちらも悔しいから不可能に近いDSCのベースラインがまっすぐになったチャートを見せてみろ、といったらその場で約束したが一ヶ月経過しても送られてこなかった。ペレットのスが観察されなくなったら問題が解決した。状況証拠では混練の温度管理が悪く状態の悪いペレットが原因であったことを示している。樹脂メーカーと類似の問題を経験された国内の成形樹脂メーカーはお気軽にご相談ください。ケミカルアタックの問題に関しては対応方法を電話にて無料で指南致します。
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今回の発見の意味について、問題解決でヒューマンシステムが重要になってきたことを昨日指摘した。異なる側面であるが日本の若手研究者に対する研究環境の変化について述べてみたい。
かつて20世紀の研究開発環境には老害の問題が指摘されていた。権威ある先生が若手の研究成果を自分の成果として公表していた例もある。当方も会社で独自に研究を進め、論文の下書きをして会社の許可を得て論文発表の価値評価を頂くためと学位申請をお願いするためにT大の先生にご相談に行ったら、大変良い論文だから、とその先生の名前が筆頭で論文発表された経験を持つ。その様な時代があったのだ。
また企業内部における成果の扱いもひどいもので、他人の成果を自分の成果として学会発表しても最終的に企業の成果になるのだから、と実際に実験を行い死の谷を必死で歩いたその成果を他人に発表されても我慢するより仕方のない状況であった。そのような時代があったことを思い出すと、実際に新しい現象に着眼し、その問題解決を実際に進めている人が若手の女性であってもその人をリーダーにして研究を進め、成果が出たところで評価したというニュースはもの凄い衝撃的なことなのだ。
もし20年前ならば、今回のようなニュースの取り上げられ方にはならなかった、と思われる。国立大学の先生に高純度SiCの論文の執筆者筆頭にしてもらえなかったのは20年前なのだから。また企業の中には未だに研究成果の扱いを曖昧にしている企業もあるので、むしろ国の研究システム体制の先進性がSTAP細胞のニュースで明らかになったのではないだろうか。
今年の6月に開催されるフォーラムで高分子学会から招待講演の依頼を受けた。退職後もカオス混合の研究を続けるために起業をしたのだが、混練技術というローテクに見られている分野だけに経済的には大変である。もし関心のある方は、講演を聴きに来て頂きたい。すでに国内外の企業で生産に使用されている技術である。若手だけでなく未知の分野をめざし年寄りも頑張っている。
今月末には技術情報協会のセミナーで高分子の難燃化技術について新しい知見を講演する。こちらは弊社に問い合わせて頂ければ割引券があります。
燃焼時にガラスを生成し高分子を難燃化するトリックを考案して33年、難燃剤を使用せずLOIが18程度の樹脂を配合処方の工夫でUL94規格を通過させる技術へたどり着いた。この技術はじめ退職後研究を続けているナノテクによる難燃化技術の将来について述べる。
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ケミカルアタックはケミカル製品と樹脂の溶解度指数(SP)で決まる、という説明も樹脂の教科書に書かれていたりする。またそこに着目したケミカルアタック防止樹脂という怪しい特許も存在する。確かにSPあるいはχパラメーターに着目すればケミカルアタックを防ぐことは可能である。ただし、その値を分子構造から計算で求めた場合には痛い目に遭う可能性が高い。
さらに高分子の溶解の問題あるいは相溶の問題は、実は科学的に100%解明されていない。例えばχの大きい高分子を相溶させた経験がある。光学用樹脂のアペルは側鎖基が嵩高い構造をしている。Tgを高くするためにそのような構造に設計しているわけであるが、そのためこの空間にうまく入るように高分子を設計してやると、χが大きくても相溶させることが可能である。
15年近く前に様々な条件で重合したポリスチレンをアペルに混練したところ、16番目の処方で重合したポリスチレンを相溶させることができた。このポリスチレンを相溶したアペルは興味深い熱特性を示した。
二種の高分子が相溶したこの樹脂は、室温で透明であるが、80-90℃で白濁が始まる。これはポリスチレンのTgに相当する温度領域である。しかし、135℃前後で透明になり始める。この135℃というのはアペルのTgである。
この現象から分かるように分子の一次構造が特殊であるとSPやχパラメーターと無関係に相溶という現象が起きることがあるのだ。高分子のモノマー構造からχを定義し組み立てられたフローリー・ハギンズ理論は大変狭い現象を扱っている理論であるか、あるいは間違っている可能性がある。科学とは一つそれを否定する現象が現れたら再度理論の見直しが行われなければならないが、アペルで見つかった現象を知っているアカデミアの学者は少ない。
ケミカルアタックが発生した状態を油と樹脂のχパラメーターあるいはSPからうまく説明することができたとしても対策は実技で対応することが賢明である。現象を科学的に説明することと再発を防止する実務では目的とするゴールが異なるのである。再発防止策は技術的に現場に即して対応することが必要である(続く)。
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STAP細胞の応用分野に関し、すでにTVや新聞の報道で山中博士のiPS細胞との比較なども行いながら夢が語られている。ここではSTAP細胞の発明から日々の技術開発に活用できるヒントを考えてみる。
理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーの話によると、昨年春に英科学誌「ネイチャー」に投稿した際には、「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄していると酷評され、掲載を却下された」ということです。
このことは、彼女の発明発見そのものが非科学的であったことを示しています。また論文も昨年春の段階では、非科学的と評価されていることです。この点は新しい技術開発を志すときに参考にすべき重要なことだと思う。
また彼女が今回の発明のヒントを思いついたのは、ハーバード大学で行っていたマウスから若い幹細胞を取り出す実験だ、と語っている。小さな幹細胞だけを取り出すために細い管の中を通して選別する実験において、管を通す前には無かった幹細胞がなぜできるのか、と考えたそうである。すなわち幹細胞を選び出す実験において、結果である現象を重視して、選び出しているのではなく細胞が刺激を受けて幹細胞になっている、と考えたのである。
また、細い管を通るときの刺激で幹細胞ができているのだから、もし刺激で幹細胞ができるならば、細胞に与える刺激をいろいろ試してみよう、と実験を行った。そして、オレンジジュースくらいの酸っぱさの刺激がSTAP細胞作成に適していると発見し、今回の発表に至った。
この着想とその後のアクションのプロセスが今回成功するために最も重要なことである。科学的常識にとらわれず、実験の結果である現象に着目し、その現象を再現するためにどのようなアクションが必要か彼女は考えた。これは弊社の研究開発必勝法プログラムで一般の技術開発でどのように実践したら良いか具体的方法を説明している。
科学的方法を重視する指導者は、まず仮説を考えろという。しかしその仮説の立案方法をうまくコーチングできない。実は科学的常識から仮説を考える作業は小学校から学んできてもなかなか身につかない難しい作業プロセスである。弊社の研究開発法プログラムではカラスができる程度のレベルでコーチングする方法を提供し、その結果小保方さんのレベルの技術成果がでる可能性を高める。
ここでカラスを例に出したのは、以前見たテレビ番組で紹介されたカラスの行動が参考になる、と思い出したためで他意は無い。その番組ではカラスがガードレールに止まっていたところから始まった。そのカラスは、たまたま通過した自動車がクルミを轢き、殻が割れて実が出たシーンを見ました。そこで、別のクルミをくわえてきて道路に置いたところ同じシーンが再現されたので、自動車にクルミの殻を割らせる工夫を思いつき、それを繰り返すようになった。
カラスは目の前の現象を見て、その再現を実現できるアクションを試し、それに成功して、堅いクルミの殻を割る簡単な方法を発明したのです。このカラスの発明プロセスで重要なことは、堅いクルミの殻が割れるとおいしいクルミの実が出てくる、という結果を再現しようと考えて、新たなクルミをくわえて道路においている、ということです。そして人間がカラスよりも賢いのは、自動車の代わりになる道具を試してみるという点です。
弊社の研究開発必勝法プログラムの一部を紹介しました。ご興味のある方はお問い合わせください。
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ケミカルアタックは、環境応力割れとも呼ばれている。樹脂のまわりにケミカル製品が存在すると、本来の強度以下の応力または歪みで樹脂が破壊する現象は、いつでも発生するわけではない。もしいつでも発生する現象であれば、ケミカル製品の容器を樹脂で作ることができなくなる。
いつでも発生するわけではないので科学的に取り扱いにくい問題である。例えばポリスチレンでもSPSの場合にはケミカルアタックを起こしにくい。ゆえにSPSの箸なども登場している。この経験からケミカルアタックは非晶質相が多いと発生しやすい、という直感がはたらく。
ここで、ABS樹脂やPC、PC/ABS樹脂でケミカルアタックによる故障が多いのはそのためか、と思わず膝を叩いた人は樹脂を少し知っている人である。一方ポリエチレンやポリプロピレンが脆くなって痛い目に遭った人は納得がゆかない。実は結晶性樹脂でもケミカルアタックは起きるのである(注)。
ただし、ケミカルアタックが起きたときに樹脂の種類によりその破壊機構が異なる。結晶性樹脂でケミカルアタックが起きた場合には脆性的に破壊する。例えば界面活性剤の水溶液をポリエチレン容器に入れて販売しているケースがあるが、「年」のオーダーでケミカルアタックが進行する。ゆえに破壊したときにケミカルアタックだったのか経時劣化なのか分からないことが多い。そのため、知らずに自動車窓用ウオッシャー液をポリエチレン容器に入れて販売している例を店頭で見る。
このようにケミカルアタックでは、非晶質樹脂でも結晶質樹脂でも発生し、その発生機構が異なるが、非晶質樹脂特有の問題として扱っている教科書も存在するので注意が必要だ。科学的には非晶質樹脂特有の問題、と説明した方が説明しやすいからだが、ケミカルアタックに対して科学的に取り組むと問題解決できない、というぐらいに心がけておいた方が痛い目に遭わない。
(注)PCは、非晶性樹脂に分類される場合があるが、正しくは結晶性樹脂である。結晶性樹脂とか非晶性樹脂という呼び名は、成形体の状態で業界では使われている。しかし、正しくは全く結晶化しない樹脂に対して非晶性樹脂という言葉を使用すべきである。例えばポリオレフィン樹脂で光学用途に使用されているアペルという樹脂は結晶化する。しかし非晶性樹脂として売られている。そのため樹脂が結晶化して引き起こす問題を見落とす。
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ケミカルアタックという名称は現象をわかりにくくする名称である。樹脂にオイルなどの「ケミカル製品」が付着し、それにより膨潤して、あるいは樹脂内部の添加剤が物理的影響を受けて樹脂が破壊に至る現象で、何も問題が無い状態における破壊応力よりも30%以上低い応力で材料が破壊する、化学的現象というよりも物理的現象と捉えた方が良いかもしれない。
ケミカルアタックに初めて遭遇したのは小学生の頃である。プラモデル(「スーパーカー」というTV番組に登場した車)の自動車を組み立てて遊んでいたら、ギアボックスがはずれ壊れた。組み立て方法には、ギアボックスがスムーズに動くようにグリースを濡るように説明されている。そのグリースがギアボックスを支えていたボスに付着し、ケミカルアタックでボス割れを引き起こし壊れたのだ。
ギアボックスはモーターの動力をタイヤに伝える機能があり、常に応力がかかっている。ギアボックスは、ねじ釘でボスに固定されていた。今から考えると組み立て説明書が悪い、ということになる。また添付されたグリースもケミカルアタックを考慮されたグリ-スでなかった。
グリースに問題があるが、なぜ組み立て説明書が悪い、という結論をくだしたのか。ケミカルアタックの説明がされていなかったからだ。ケミカルアタックの問題は、このような問題なのだ。すなわち科学的にはケミカルアタックを起こさないグリースに変更すれば解決がつくように見える。しかし、添付されたグリース以外の油をユーザーが使用する可能性もあり、その注意を喚起するように対策を打たなければ防ぐことはできない。
すなわち科学だけでケミカルアタックを捉えると実技で失敗する問題である。それではケミカルアタックという問題はどのような問題なのか改めて考えてみる(続く)。
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