先日12月6日付けの産経新聞の生活欄に「肉団子をふっくらさせるコツ」というのが載っていたので、昨日おからを紹介させて頂いた。水だけを入れた場合とおからを使用した場合とでは栄養価が異なる。また、1個あたりのカロリーも新聞に紹介された方法よりおからを使用した方が下がりヘルシーな肉ダンゴとなる。歯の悪い老人食としては新聞に紹介された肉ダンゴよりも柔らかくヘルシーである。
今週紹介したように肉ダンゴはうまくできたが、肉ダンゴを大きくしたハンバーグになると難しさは数倍になる。すなわちおからに水分が多量に含まれているので焼き上げたときに密度が下がり、ハンバーグの食感が失われる問題と、ダンゴと異なり大きくなるので少々焼きづらく調理の難しさという新たな問題が発生した。
肉ダンゴの配合に近い処方でもハンバーグ形状のものはでき、味覚にうるさくない老人にはそれで十分かもしれない。ところが鍋種の場合には柔らかさをホクホク感でごまかせるが、ハンバーグは食べている間に温度が下がり、何かスポンジを食べているような食感になる。牛スジをダシにして作ったスープでおからを処理しても、この食感のために倍増した味覚が生きてこない。食感の重要性を改めて認識した。
ところが食感までおからを使用して制御しようとすると難易度が高くなる。現在モスバーガーレベルを目標に開発を続けているが、この開発で最も重要なのは毎週土曜日の食卓がおから料理となる家族の理解である。この2ケ月我が家の食卓は毎週おからハンバーグである。このような状態になると食感よりも味を飛躍的に向上させる技術を導入した方が良い。
これは研究開発と同じで、ゴールを他社並にして開発しているとそこそこの製品しかできないが、革新的な新たなコンセプトで飛躍的なイノベーションを行い、ダントツトップを狙った開発を行うと多少難有りでも商品にまとめ上げることができれば市場に受け入れられるのである。研究開発を理解していない女性議員がスーパーコンピューターの開発で「目標を2番にしたら」と発言したのは有名であるが、市場をコントロールできる立場の企業であればそのような開発でも許されるかもしれない。
しかし、大抵の日本企業はダントツトップを狙う研究開発をしなければ市場で生き残れない時代である。目標設定が企業の生存を左右する状態で、ほとんどの日本企業は研究開発を続けなければいけない。しかしバブル期にこれを忘れた企業も多く、なかなかバブル崩壊から立ち直れなかった。自分たちの技術を乗り越えるだけでなく、否定するぐらいのイノベーションが日々の研究開発で求められている。
おからで実現できた肉ダンゴをふっくらさせるコツをすてるアイデアがおからハンバーグの開発に必要だ。おからを使った場合には、おからに含まれる水分のためにどうしてもふっくらとしたハンバーグになってしまう。またハンバーグにはタマネギを入れるので水分がさらに多くなる。従来の発想を破壊するようなアイデアが無ければおからハンバーグの完成は無い。新たな気持ちで明日の夕食の処方アイデアを練っている。果たして明日家族の感動した顔を見ることができるのか。失敗した状況を考えるよりも成功したときの喜びを期待することが研究開発のコツである。
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おからには、水分が80%以上タンパク質が5%も含まれており滋養豊富のため腐りやすい。冷蔵庫保管で2日が限度とも言われている。おからは豆腐製造の際に大量に生成する産業廃棄物でその活用法が無く問題となっている。過去にバイオプラスチックとして検討された経緯があるがあまり良い材料ができなかった。
ミドリムシのようにパラミロンという1種類の多糖類が含まれているならば活用しやすいが、おからに含まれる多糖類は3種類以上見つかっている。すなわち工業材料として使用するには精製しなくてはならない。ミドリムシのように簡単な処理で50%の高い収率でパラミロン1種類をはき出してくれる便利な資源ではない。
工業材料として有望なミドリムシは、現在ユーグレナという栄養補助食品として会社の株価が上昇するくらいに成功しているが、おからこそこの路線で販売すべき材料と思う。「豆腐の妖精」とか「白の恋人」、「大豆から生まれたシロと色の無い繊維の巡礼の旅」とか名前をつければ、ユーグレナよりも雰囲気は良い。食べられる大豆が原料である。ユーグレナはミドリムシをそのまま言い換えただけである。肥溜めでも育つようなミドリムシに高いお金を払って飲むよりも豆腐の妖精のほうが後味が良い。
おからの繊維素は、お通じをよくするのでたまに卯の花を食べると良い、と亡き母に教えられた。子供の頃、朝早く近所の豆腐屋へ豆腐を買いに行くときには、どんぶりと大きななべを持たされた。豆腐屋に行くとどんぶりに豆腐一丁を入れ、なべには家族で食べるには十分すぎるぐらいのおからを無料で山盛り入れてくれた。
豆腐屋のオヤジはその山盛りに盛られたおからの上にどんぶりを埋めて「ありがとう」と言ったが、産業廃棄物の処理に困っていたのだから、心からの御礼だったのだろう。ご近所にはどんぶりを持たずに大きな鍋だけで来る人もいた。その店のおからはすべて有効利用されていた。
家に帰ると母はおからの半分を庭の草木の肥料として撒いていた。残りの半分は、おいしい卯の花に変わった。実家の草木もおからで育った。おからを肥料としたイチジクや柿の木は毎年我が家の家計を助けるほどの実をつけていたが、柿は残念ながら渋柿で、毎年焼酎で渋抜きをして食べた。
中学生の時に家を改築した。その時庭は半分になり、イチジクの木も柿の木も無くなった。近所の豆腐屋はその2年前にできたスーパーマーケットが原因で廃業に追い込まれた。それとともに我が家のメニューからおいしい卯の花が消えた。
1年ほど前から「そめのやーのトーフです~」という歌とともにミニバンの豆腐屋が毎週金曜日事務所の前に来るようになった。おからは250g60円で販売されている。高いように思われたが、この値段でも結構売れるそうである。たまに売り切れのことがあった。その時おからが売り切れになるのか、と尋ねたのがきっかけになり、我が家のために一袋だけ必ずとって置いてくれるようになった。こうなると買わないわけにゆかないので、おから食品の研究を始めた。
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昨日まで豚ダンゴの作り方を書いたが、ヘルシー指向の方は豚のミンチの代わりに鶏のミンチを使うと良い。但し、鶏肉を使っても、このおからを使用したダンゴはつくねのように硬くならず、ホクホクとした柔らかさの特徴を失わない。
配合は豚肉を鶏肉に変更するだけではだめで、ニンニクの代わりにショウガとシソの大葉10枚を使用する。すなわちおから250g、卵2個、鶏のミンチ350g、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ショウガ少々(チューブ入り7cm程度)、シソの大葉10枚をみじん切りにしたもの、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。
おからをブレンドするところまでの手順は、豚ダンゴと同じである。鶏ダンゴの混練のポイントは、シソの大葉のみじん切りを加えるタイミングである。シソの大葉のみじん切りは、それ以外が均一に混練された段階で加える。すなわち混練過程でシソの大葉が受けるダメージを最小限にしたいのだ。
この考え方はガラス繊維補強樹脂を混練するときにも応用されている。すなわちガラス繊維の供給は、二軸混練機の中間当たりから連続繊維の形態で供給し、繊維を樹脂に分散するスクリューのセグメントにはニーディングディスクなどの剪断力の高いスクリューを使用しない。伸張流動で繊維を分散するようにスクリュー設計している。
鶏ダンゴ程度では、この手順で問題にならないが、ガラス繊維補強樹脂ではガラス繊維にダメージを与えないような混練の仕方が品質問題を起こすことがある。すなわち繊維の分散不良である。見かけ上均一に分散しているように見えてもL/D40前後の二軸混練機の中央からガラス繊維を供給しても十分な分散はできない。しかし、分散効率を上げるために剪断流動を優先した場合には繊維が受けるダメージが大きく、繊維の補強効果が落ちてしまう。
ガラス繊維が混練でダメージを受け補強効果を失う様子は、鶏ダンゴでシソの大葉を最初に添加してみるとわかる。できあがった鶏ダンゴの味は、ショウガの香りが強く、シソ味が無くなっている。鶏ダンゴはシソ味が無くなってもおいしいが、繊維補強樹脂では弾性率が低下し使い物にならなくなる。この添加タイミングでシソ味が少なくなる現象から混練でかなりの剪断力がかかっていることを理解して欲しい。
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おから250gをボールに入れたら、まず料理用のヘラで押さえつけて、表面を平らにならす。この操作だけでも、卵-小麦粉-ニンニクの系はおからの中に分散する。これは、東工大扇沢教授の研究論文にも書かれている。すなわちブレンドしたポリマーをホットプレスすると分散が進行するのである。この現象は混練不十分なコンパウンドが、成形過程で品質問題を引き起こす原因を説明している。成形過程でも混練が進行するのである。だからコンパウンドの混練では成形過程でさらに混練が進行しないレベルまで混練する必要がある。
表面を平らにならし全体に十分に圧を加えたら、へらで5等分程度にしてボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返すとおから-卵-小麦粉-ニンニクの系の混練が進み均一になる。かなりの高粘度であるがこのような操作にすると、それほどの力を加えなくとも混練を進めることができる。カオス混合もおおよそこのように効率的に混練を進めていると思われる。
おから-卵-小麦粉-ニンニクの系が均一になったら、この系の上に豚肉と豚の背脂をのせ、塩、コショー、味の素の順にふりかける。その後豚肉の系だけを軽くヘラで突っつきながら調味料を豚肉の中に分散させる。この操作だけでもできあがる豚ダンゴの味が変わるので面白い。すなわち混練操作では添加順序もできあがるコンパウンドの物性を支配している。タンブラーで配合物を固体分散し、そのまま混練しているコンパウンダーを見かけるが、それでは良い物性のコンパウンドができない処方があることを認識すべきである。
豚肉の中に調味料を分散できたら、ヘラで豚肉をボールの中で平らに引き延ばす。この時ボールの中は、おから-卵-小麦粉-ニンニクの系の層と豚肉-豚肉の背脂-調味料の層が分かれた状態になっている。この状態になっているところへ粗挽きコショーを振りかける。その後5分割しボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返す。
この操作を行っているときに粗挽きコショーの粒が、次第に均一に分散されてゆく様子を観察することが出来る。ボールの片側に寄せ集め、押しつぶす、といった単純な操作の繰り返しだけでも混練が進むのである。全体が均一になったところでダンゴを作るのだが、ダンゴは直径1.5cmから2cm程度が食べやすい。この時十分に圧縮してダンゴを作ることがコツである。カチカチになるまで圧縮しても大丈夫である。鍋の中で柔らかくホクホクの状態になる。
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鍋がおいしい季節になった。おからと豚肉で作る豚ダンゴの鍋はいかが。ホクホクして柔らかく、老人食として最適のように思う。特に歯が悪くなり肉を食べられなくなったお年寄りには好まれると思う。また、おからには豆腐の栄養素がそのまま入っている滋養豊富な食材で、さらに繊維も含まれるのでこの食材で繊維不足を解消できる。
鍋の食材は、豚ダンゴ以外は自由である。また水炊き状態から鍋を始め、ポン酢で具を食するスタイルでも良いし、鍋に赤だしをいれて味噌仕立ての鍋にしても良い。どのようにしてもこの豚ダンゴにはよく合うし、良いダシが出る。鍋のレシピは自由だが、豚ダンゴについては、老人用に適した配合を公開する。鍋に入れて崩れにくく、ツクネのような硬さではなく、ホクホクして柔らかい老人でも食べられるダンゴの作り方である。
この豚ダンゴは、1年かけて開発したおから食品シリーズの一つである。そこそこおいしいレベルの以下の配合を最近開発できた。おから250g、卵2個、豚のミンチ300g、豚の背脂30g(ミンチ加工)、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ニンニク少々(チューブ入り5cm程度)、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。この配合で6人分前後の豚ダンゴができる。
まず、卵2個をボールに入れ、黄身と白身が均一になるように良く撹拌する。均一になったら、卵を激しく撹拌しながら小麦粉を10g以上30g未満(20g前後が好ましい)少しずつ加える。この時、卵を撹拌しないで小麦粉を20g前後ボールに入れて撹拌するといった料理番組でやっているような方法でしてはいけない。
その方法でも小麦粉を均一に分散できたように見えるが、その様にして小麦粉を添加した場合に注意深く観察すると小さなダマダマ(凝集体)が残っている。小麦粉を如何に均一に卵に分散できるかがまず大切なノウハウになる。小さな凝集体は豚ダンゴの強度を低下させ、鍋に入れたときに豚ダンゴが崩れる原因になる。
ここでも高分子の混練技術の重要性を垣間見ることができる。すなわち高次構造に硬い大きな構造が残っていると高分子の靱性を低下させる、という線形破壊力学の教科書に書かれている現象である。崩れにくく、ホクホクして柔らかいダンゴに仕上げるにはこの段階が重要になる。
小麦粉を均一に分散した卵にニンニクを少々添加して激しく撹拌し、ニンニクを均一に分散する。そこへおから250gを入れ、ニンニクと小麦粉を均一に分散した卵と混ぜるのだが、ここで昨日まで書いた混練技術の知識が要求される。カオス混合の考え方を導入して混ぜるのである。料理用のへらが便利だが、オタマでも何とか使える。(明日へ続く)
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高度経済成長時代と異なり、サラリーマンは大変な時代である。管理職の階層も簡素化された企業が多い。簡素化されても会社の先行き不透明感からカオス状態のプレーイングマネージャーもいるかもしれない。多くの階層があった状態が、失われた20年の間に圧縮され折り曲げられて、経営者層管理者層担当者層の区分けがよく練り上げられた組織体制に変貌していった。
混練にも層流状態が折り曲げられ、分配混合と分散混合をうまく組み合わせて進行するカオス混合がある。カオス混合は餅つきやパイ生地練りに見られる混練方法である。例えばオープンロールによる混練ではカオス混合を実現できる技があり、効率良く均一分散と微細化を進めることが可能となっている。
オープンロールでは、ロールにゴムを巻き付けて運転するだけでも狭いギャップのロール間を通過するだけで高い応力がかかり、分散混合で微細化が進行する。ここにナイフを用いた返し作業をうまく行うとカオス混合となるが、このナイフ作業には高いスキルが要求される。30数年前このナイフ作業で悪戦苦闘し技を1週間で習得した体験がある。
この悪戦苦闘のきっかけを与えてくれたのは当時の指導社員で、カオス混合を機械で連続的に実現する装置を考えると混練に革新をもたらすと教えてくれた。カオス混合とはどのようなプロセスなのか勉強するためにオープンロールの技を鍛える必要があったのだが、練習の効果が出てナノオーダーで樹脂が分散した樹脂補強ゴムを開発することができた。TEMで撮影されたナノオーダーの海島構造を見たときに感動した。
10年ほど前に偏芯二重円筒で発生するカオス混合流に関するシミュレーションの論文が発表されている。偏芯二重円筒の装置以外にも写真会社から二軸混練機に取り付けてカオス混合流を発生させる装置が実用化され5年前に特許出願済みである。この装置を用いるとPPSと6ナイロンを相容させることが可能となる。
最近混練分野においてカオス混合に関心が高くなっている。混練は2世紀近い技術開発が行われてきたが、ナノテクノロジーの生産性を改善する目的で研究開発すべきではないだろうか。もしこの技術に興味のある企業があれば、研究のためにご協力をお願いしたい。新たな構造を考案したのでそれを実験で確認したいのだが弊社には混練機が無い。実用性のある研究テーマです。
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高分子とカーボンブラックの組み合わせで混練がどこまで進行したのかカーボンブラックの分散状態から決めるのは難しい。理由は、カーボンブラックの凝集体の分散が見かけ上一定になっても、力学物性が安定していなかったからだ。すなわち電子顕微鏡で観察したカーボンブラックの分散状態に差異が無くともゴムの力学物性に差が存在した。
新入社員時代に練習用サンプルの混練を行っていたとき、日々サンプルの分析を分析グループの女性陣が親切にやってくれた。指導社員がそのように手配してくれていたわけだが、日々力学物性と分析データをつきあわせる会議は担当者に囲まれ一瞬のうちに1時間が過ぎた。混練の難しい配合に四苦八苦している姿を周囲は「いじめ」に見ていたようだが、内心は竜宮城に通うような日々であった。そこで混練の進み具合をカーボンブラックの分散状態から探るのは難しい、という結論となった。
当時は混練の進み具合の指標がよく分からず、結局力学物性が最良の状態で安定したところが合格ラインという結論になったのだが、この問題を再度考えるチャンスが50代に訪れた。写真会社でラインから外され、自由な時間が増えた時だ。その時にこの問題を考えるため外部のメーカーにお願いし混練機を借り、混練で樹脂の部分自由体積の変化がどうなるか調べた。処遇が原因で業務に対するモチベーションが下がった場合には、腐るのではなく若く希望に燃えていた時代を思い出すのが一番である。
ポリオレフィン樹脂を小型バンバリーで混練し、部分自由体積の変化を調べたところ、30分以上混練すると部分自由体積の量が一定になることを見いだした。部分自由体積の軸とレオロジーのパラメーターの軸で混練条件の異なるサンプルをプロットしたところ興味深い結果が得られた。
市販のポリオレフィン樹脂だけで混練を行ったときの変化を観察し、混練で進むのが分散だけでなく高分子の変性も行われていることをデータで確認できたわけだが、この結果からカーボンブラックの分散が見かけ上均一に見えたとしても、混練が不十分であると力学物性が安定化しない、といった新入社員時代に体験した現象について理解できた。
若い時には辛い仕事を楽しい環境で推進できモチベーションが上がったが、50代は辛い環境で楽しい仕事を行いモチベーションが下がるのを防いだ。仕事が楽しければ面白いように成果が出る。「サラリーマン、腐ったら負け」という言葉があるが本当だ。
運良く社長まで昇進できる人もいるが、社長になっていたら若い時に竜宮城で頂いた玉手箱を開ける機会もなかった。運良くラインからはずれたため実験を行う時間ができて写真会社でゴム会社で出会った問題を解くことができた。「自由に何でもしてよい」とは、当時の上司の言葉だが、50過ぎのサラリーマンの身には一瞬残酷に聞こえたが竜宮城の玉手箱の存在に気がつき、幸運の一言になった。
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昨日分配混合と分散混合を説明したが、スタティックミキサーは、分配混合に特化した混合装置である。このミキサーには駆動部が無く、ねじれた流路で流体を交互に反転させて効率的な位置交換を行いながら均一化を進める構造になっている(注)。
スタティックミキサーは、その構造から粘度が低い流体の混合に用いられるが、注意しなければならないのは、分散粒径の微細化が得意ではないことである。すなわちメカニカルに微細化を進めることができないので、ケミカルに微細化する仕掛けを流体の中に仕込んでおかない限り、数ミクロンオーダーの構造の分散までが限界であることを知っておく必要がある。
このオーダーであると最終的な材料の力学物性に影響を与えるケースがでてくる。例えば弾性率が高い材料の場合には靱性に影響が出る。もしスタティックミキサーで混合して得られた材料物性の力学強度が期待された値よりも低い場合や脆さが期待された感覚よりも脆い場合にはスタティックミキサーを疑った方が良い。スタティックミキサーには流体の均一化には効果があるが微細化にはあまり有効な混合方法ではない。
スタティックミキサーのこのような欠点や分散粒径が靱性に影響を与えることはあまり知られていない。また引張強度や曲強度は、靱性と弾性率に影響を受ける。すなわち分散粒径は強度と関係することになる。ただ、分散粒径と靱性の関係は材料の弾性率が変化すると変わるのでこの点に気がつかないことがあるが、これは線形破壊力学に書かれている科学の話である。またスタティックミキサーの欠点に気がついたのは経験の話である。その経験では痛い目に遭った。
スタティックミキサーは簡便な混合装置なので普及しているが、高機能部品の製造ラインにも用いられているのを見てびっくりした。例えばシリコーンLIMSの処方を混合するときにスタティックミキサーが頻繁に使用されているが、高機能シリコーン部品を実現できる実力があるとは思っていなかった。しかし高機能シリコーン部品でしばしば品質問題が起きている、という話をよく聞くし、先の痛い目にあった経験はシリコーンLIMSを使用した部品である。強度の問題であればスタティックミキサーすなわち分散を必要とする材料のできあがった構造を疑った方が良い。
ところでウトラッキーの伸張流動装置は、ギャップの狭い鋭利な空隙に流体を通過させて高い応力で伸張流動を発生させ、分散混合を進める機構である。この装置の問題点は微細化を進めるために伸張流動を発生させている空隙が流動を妨げ生産効率を落とす問題である。現在樹脂生産に用いられている時間当たり1t以上の吐出量の混練を実現しようとすると実現不可能な大きさの装置となる。
特許は出ていないが、スタティックミキサーに伸張流動装置を組み合わせるのは良い方法で、本日この欄を読まれた読者は幸運である。シリコーンLIMSをスタティックミキサーで混合していて問題が発生したら伸張流動装置を組み合わせてみると良い。その他のアイデアもあるのでご興味を持たれた方はご質問ください。
(注)スタティックミキサーでも伸長流動と剪断流動が発生しているので微細化が進行する、と勘違いしている人がいる。バンバリーミキサーが微細化を不得意としているようにスタティックミキサーも微細化は得意では無い。微細化はできない装置とまで書きたいが、そこまで書くと間違いを指摘されそうなので書かないが、その程度の混合装置なので使用に当たって注意が必要である。スタティックミキサーで微細化を行いたいときには、化学の力をを必要とする。
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溶融した樹脂が混練で変形する時の変形の仕方、すなわち流動状態及びその時に樹脂に働く力は、剪断流動と伸張流動の2つの組み合わせで表現できるが、その結果混練機の中で2種以上の成分の混合が進行するモデルは、分配混合と分散混合の2種に分けて考えられている。これは最近の研究成果で30年以上前にはなかった考え方である。
分配混合は系全体にわたる各成分の均一化に相当するモデルであり、分散混合は、分散相の微細化に相当するモデルである。分配混合では、歪みの作用による各成分の引伸ばし、重ね合わせによる相対的な位置交換が重要となる。このため、各成分が濡れることができるかどうかが問題となり、その結果形成された界面へ作用する歪みの大きさとその方向が混合を進める支配因子となる。
昨日変形による歪み速度は、応力F/溶融状態におけるその時の粘度ηで表現されると書いたが、この関係から分かるように、樹脂の粘度で歪み速度が影響をうける。すなわち混合が進行しているときの樹脂の粘度で分配混合が影響を受けることになる。
このモデルで問題となるのは、樹脂の動的粘度は温度と周波数に依存して変化しているが、シミュレーションの時には適当な粘度を放り込んで計算していることである。なかなかシミュレーションと実際の樹脂の混合の様子が一致しないのは動的粘度の扱いが難しいことも影響している。混練の経験の無い人はここで勘違いをすることが多い。あるいは、このような考え方なので新しいアイデアを出せないあるいは目の前の問題解決で間違った対策をすることになる。
また、分散混合のモデルでは分散相の分裂と微細化の考え方が重要で、応力の作用が支配因子となる書き方が一般の教科書で書かれている。しかし、混練機の中では、壁面への衝突や熱輻射が働いており、単純に混練機のローターで働く剪断力だけでは応力の作用をモデル化できない。さらに無機のフィラーの混合では壁面で発生する摩耗の効果を考えなければならない。粘度や流動状態の影響があるのは分配混合と同じであるが、微細化過程の考え方は、多数の因子が働くので論文に書かれているような単純なモデルでは説明が難しいと思っている。
長い間、剪断流動により微細化は難しい、と言われてきた。10年ほど前の国研、高分子精密制御プロジェクトではナノテクノ本命技術を目指し、L/Dがとてつもなく大きい二軸混練機を製作し、伸張流動を中心にした混練が検討された。またウトラッキーにより発明された伸張流動装置も同時に検討された。それなりの成果が出て、ナノオーダーへの分散が機械装置でできることが示されたが、一方で産総研の研究結果では高速剪断流動でもナノオーダーの分散が進むことも発見された。
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入社して初めての忘年会は憂鬱で暗かった。テーマが無くなったので他部署へ異動することになったのだ。忘年会は送別会も兼ねていた。テーマを早く進めることができたので褒められるのかと思ったら意外な展開が待っていた。厳しい会社である。それでも上司が間違えてプレゼンテーションしたおかげで成果がでたわけだから査定が良くなるのかと期待したら、入社2年間の業績では査定がつかない、と告げられ落胆した。ボーナスは新入社員お決まりの金額であった。
ただ、10月11月のがむしゃらな仕事の進め方で、多くの方の指導を受けることができ、密度の高い2ケ月間だった。また12月は指導社員が仕事をまとめてくれたので、1ケ月樹脂補強ゴムについてゆっくり勉強することができた。
樹脂補強ゴムはバンバリーとロールで混練していたが、当時熱可塑性エラストマーの新素材開発が盛んで、二軸混練機でゴムを混練する新技術が注目されていた。熱可塑性エラストマー(TPE)は1933年にグッドリッチにおいて軟質PVCで実現された歴史の古い技術であったが、性能が中途半端なため1960年頃までゴム屋はあまり注目しなかった。PU系のTPEの成功でTPEの学問的研究が盛んになるとともに市場も加硫ゴム分野に拡大してきた。1970年代には、ポリウレタンRIMを用いたウレタンタイヤが世界中で研究されたが、そのアイデアは実用化困難な技術であると、分かった時代である(注)。
1980年前後には二軸混練機の中でゴムの架橋を進める動的架橋技術の研究が始まり、技術と市場が大きく拡大することになる。すなわち、樹脂補強ゴムというのはゴム屋が考えた材料の呼び名で樹脂屋が考えたのがTPEである。また、二軸混練機を用いると生産性が著しく上がるので、動的架橋技術も含め、材料開発は二軸混練機中心に進むことになる。そして樹脂とゴムのあいの子の材料はTPEとして呼ばれるようになってゆく。
今でもTPE関係の特許出願は盛んで、特許の中心は二軸混練機の中で行うゴムの加硫方法である。ただ面白いのは最近プロセスの改良を進める特許出願も行われてきており、混練技術に対する関心も高くなってきているように思われる。もし現在の混練技術にご不満あるいはご興味のある方は弊社にご連絡ください。
(注)乗用車用タイヤは絶対にポリウレタンRIMで実用化できない、という結論を出すところまで徹底的にタイヤ会社は研究し尽くした。すなわちポリウレタンRIMは事業の根幹を揺るがす破壊的技術だったからである。その成果で遊園地のカートなどの遊具のタイヤはポリウレタンRIMで作られるようになりコストダウンが進んだ。しかし、公道を走る車のタイヤは未だに加硫ゴムである。ゴムという材料はプロセスが異なると性能が大きく変わるのである。樹脂の混練プロセスは、未だゴムの混練プロセス及びその哲学に追いついていない。
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