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2021.02/17 高分子の難燃化技術を考える(13)

LOIは、燃焼が急激な酸化現象であるという科学の視点から高分子の難燃性のグレードを決めようとした評価法である。

 

一方で、UL規格は、高分子材料の用途により燃焼時の挙動や求められる難燃性のレベルが異なるので、現実的な視点で実火災における材料の難燃性のレベルをモデル化して決めた規格である。

 

モデル化しているので当然のことだが実火災における材料のもらい火を100%実現しているとは言えない。しかし、40年近くの実績があり、産業界でUL規格を採用している製品は国内外に多い。

 

しかし実績のあるUL規格でも十分ではなく、分野ごとに難燃性の規格が存在する場合もあるので、製品開発に当たっては注意を要する。

 

30年ほど前に登場したコーンカロリーメーターは、UL規格よりも大きなサンプルと大きな火源を使用して、煙量なども評価できるので建築基準に採用されるようになった。

 

分野ごとに異なる難燃化規格を前提として、材料設計をどのように行うかは深刻な問題である。難燃性材料を設計するたびに目的とする燃焼試験を行い、材料設計できれば良いが、コーンカロリーメータのような大きなサンプルを用いるときには、事前にスクリーニングする方法がどうしても必要になる。

 

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2021.02/16 高分子の難燃化技術を考える(12)

UL規格とLOIとは相関しない。すなわち、LOIが高くてもULのあるグレードに合格しない材料が存在する。一方ULの最も低いグレードで難燃性試験に合格したからと言って、LOIが21以上となるわけでもない。

 

このUL規格とLOIと相関しない原因は、難燃性評価時の炎とサンプルの位置関係と炎の強さの影響が最も大きい。

 

まず炎の大きさだが、LOIはローソクの炎程度の火力(LOIのことをローソク試験と言っていた老人が当時いた)であるが、ULではそれよりもはるかに火力が強い。

 

この点はわずかな火力で着火する様子を観察する条件で評価しているという理由でLOIが厳しい評価条件となっている。ところが炎とサンプルの位置関係については、LOIは垂直に立てて、サンプルの上方から炎を近づける。

 

UL規格では、サンプルが水平あるいは垂直に置かれた状態で、下方から炎を当てる。実は、炎と言うのは先端が最も温度が高いので、炎とサンプルの位置関係からはUL規格の方が厳しい条件となる。

 

このようにLOIとUL規格では、評価試験方法が異なるので相関が無くても良いのだが、LOIは、継続燃焼し続けるのに必要な最低酸素濃度を指標化しているという科学的根拠なり考え方に納得できる。

 

それでは、それと相関していないUL規格では非科学的で問題があるのかというとそうではない。UL規格では火災における燃焼で「もらい火をしても火が消える」すなわち材料が着火しても燃えにくい、言葉をかえると難燃性という点をうまく評価測定法にとりいれている。

 

すなわち、実火災を想定した時に「燃えにくい」「万が一着火しても火が消える」材料とはどのような燃焼挙動を示すのか、という視点で評価試験法が作られている。

 

 

LOIは、化学反応の酸化現象に着目し考案された評価試験法であるが、UL規格は火災が起きたときの材料挙動を観察して決められた試験法である。

 

 

材料の用途により、火災のリスクは異なるので、製品設計時に経済性も考慮でき便利な規格なので多くの分野で採用されている。

 

 

 

 

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2021.02/15 高分子の難燃化技術を考える(11)

LOIは、燃焼という現象を急激に進行する酸化反応ととらえたときにわかりやすい高分子の難燃性評価指数である。しかし、この指数が見つかっただけで完成とならないのが高分子の難燃化技術である。

 

 

例えば家の構造材料と家電製品の構造材料では、LOIも含め同一基準で材料の難燃性を議論できないことは、すぐに気がつく。

 

 

出火する初期の原因が大きな火種となりやすい家の構造材料では、周囲の材料がすぐに高温にさらされるが、家電製品の内部において出火原因となる火種は小さくても密接している。

 

 

また、家電製品は構成材料の種類を制御管理することが可能となるが、家の場合には不特定多数の材料の製品がその内部に配置された状態で着火することになる。

 

 

すなわち、火災の初期における環境が同一ではなく、その差が大きい。ゆえに火災の発生初期における機構が材料の使用環境で異なることになり、使用環境ごとに適合した評価技術が必要になることに気がつく。

 

 

使用環境ごとに適合した材料の難燃性評価技術が必要になるので、市場の様々な分野に適した難燃性評価法が1970年以降開発されてきた。

 

 

その中でUL規格というアメリカの民間保険会社の研究機関が開発した評価法は、様々な火災現象における材料の変化と経済性リスクをうまくとらえた、難燃性のグレードとなっている。

 

 

建築の難燃性基準の多くがLOIで21以上の材料でなければ通過しないのに対し、UL規格において難燃性が低いレベルの難燃性材料ではLOIが21以下でも合格となる場合がある。

 

 

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2021.02/14 高分子の難燃化技術を考える(10)

極限酸素指数法(LOI)は、物質が継続燃焼するために必要な最低の酸素濃度を指数化した評価技術である。

 

 

空気の酸素濃度はおよそ21%なので、LOIが21以下の物質は、空気の酸素濃度よりも低い領域で燃焼できるので、火がつけば空気中では必ず継続燃焼する。

 

 

逆にLOIが21以上の物質は、酸素濃度が空気よりも高くなければ継続燃焼できないので、空気中で着火しても継続燃焼できないので自己消火性となる。

 

 

燃焼が急激に進行する酸化反応であることを示す、わかりやすい指数だ。しかし、実火災では、周囲の温度が800℃以上になることはよくあり、このくらいの温度になると、大半の有機物は、酸素濃度が低くても熱分解する。

 

 

高分子発泡体の難燃化研究を3年間行ったが、高分子の熱分析は欠かせない分析手法だった。この熱分析経験で600℃以上まで安定な有機高分子に出会ったことが無い。

 

 

窒素中において最も高い温度まで安定だったのは、特殊なフェノール樹脂で400℃まで熱分解しなかった。

 

 

高分子には280℃以下で1%以上熱分解するものも存在し、このフェノール樹脂の熱分析結果には大変びっくりした。ちなみに大抵のフェノール樹脂は280℃近辺から少し熱分解が始まる。

 

 

文献に書かれている限りの方法で製造したフェノール樹脂は350℃以下で熱分解が始まるので400℃まで安定なフェノール樹脂は世界初の材料だった。

 

 

この耐熱性が極めて高いフェノール樹脂でもLOIは38であり、40に届かなかった。ちなみに耐熱温度とLOIとは相関しそうで相関しない。

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2021.02/13 高分子の難燃化技術を考える(9)

1960年代、高分子の熱分解に関して研究が進みLOI法が発表された。1970年にはスガ試験機(株)で酸素指数燃焼性試験機が開発されている。

 

高分子の難燃性について1970年代にはかなり研究が進み、日本でも火災時に発生するガスに着目した建築関係の独自規格が登場している。そして、1980年代に縮合リン酸エステル系難燃剤の発展と臭素系難燃剤の上市が活発に行われた。

 

コーンカロリーメーターは1983年に米国で開発され、1993年にはこの測定装置に関する国際会議がつくばで開催されている。

 

高分子の難燃性評価装置に関する発展史から、全自動酸素指数測定装置の開発がニーズに対応して行われたものであることが伝わるだろうか。

 

但し測定対象サンプルとして燃焼速度の速い発泡体は考慮されていなかったので、ゴム会社の研究所において購入後、使えずに放置する事態になったのだ。

 

当方は、この全自動酸素指数測定装置の自動化機構の理解に努め、燃焼速度に制御が追いつけない問題をただ解決するだけで使い物になることを突き止めた。

 

しかし、改造のためには費用が発生する。課長は金を使わずに改良するように命じてきた。金をかけず一番手っ取り早い方法は、マニュアル測定だった。

 

ところが機械はマニュアル測定に対応していなかったので、制御系の電源を外し、一部ギアも外して、マニュアル制御できるようにして、その手順をアルゴリズムで書いた。

 

何か成果を出せ、という宿題に対しては、発泡体を熱プレスして密度を上げ、全自動酸素指数測定装置でLOIを自動測定し、発泡体のLOIについてはマニュアルで測定し、その両者の相関を求めた。

 

この研究結果から、相関係数がほぼ1となり、誤差分析の結果、発泡体のLOIが最大で0.5程度、熱プレスで高密度化したサンプルよりも低くなる、という成果が得られた。

 

発泡体密度によっては弾性率が低いためにサンプルが自立できない場合もあったので、専用のホルダーを手作りした。お金がないのでタイヤ試作室の職人にお願いし、ステンレスの端材をもらい、加工道具も借りて仕上げた芸術品である。

 

研究報告書とともにこのホルダーも課長に説明したところ、社内の品質発表会に推薦してくれて、そこで賞を頂くことができた。しかし、全自動酸素指数測定装置をただマニュアル測定できるように改造しただけなので、この受賞は心苦しかった。

 

マニュアルの測定手順をアルゴリズムで書いたので、おそらく課長はマニュアルであることに気がつかなかった可能性がある。ただし、アルゴリズムには目視とか手動と言う言葉が随所に登場していたが。

 

改善提案の審査員は、自動装置を手動測定に変えるという逆転の発想が素晴らしい、と褒めてくださったが、なぜか皮肉に聞こえた。研究部門から唯一推薦された発表がこの程度だったので、審査員もコメントに困ったのかもしれない。

 

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2021.02/08 高分子の難燃化技術を考える(6)

火災とは、不規則な燃焼が継続して進行する現象で、燃焼は急激に進行する酸化反応である。このような現象の中で耐えられる高分子材料の機能をどのように設計したらよいのか、という問題を科学的に解くことは難しい。

 

まず、急激に進行する酸化反応は、非平衡の現象である。それを科学的に表現できるほどのレベルに現代の科学は達していない。簡略化したモデルさえ難しい。

 

これは、燃焼試験の一つである極限酸素指数法(LOI)を使用してみるとすぐに理解できる。LOIは、物質の継続燃焼可能とする最低限の酸素濃度を指数化して、物質の難燃性の序列を評価する方法である。

 

着火する手順や、継続燃焼している時の炎の状況まで細かい決め事がある。実はこの試験法を用いて、急激に進行する酸化反応のモデルを組み立てる事すら難しい。

 

何故なら、いくら試料の燃焼状況を管理しても0.25程度ばらつく。多い時にはその測定値に1.0という偏差が観察さることもある。この偏差の原因について少し研究した経験があるが、試料のわずかなばらつきが影響していることが分かり、研究を諦めた。

 

この研究の過程で、発泡体サンプルでもばらつきを小さくできる手法を見出し、当時のJIS規格とは異なる独自の測定法を編み出し、ゴム会社から改善提案賞を頂いた。

 

LOIの測定値の精度を上げるためには、ISO規格でも不足しており、試料のセット方法や、ガス流量の調整方法まで厳格に管理する必要がある。

 

 

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2021.01/31 高分子の難燃化技術を考える(2)

ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画は、すんなり採用された。10か月後に新入社員発表会があるのでそれまでに1回目の試作の工場実験を済ませる計画が指導社員により作成された。

 

この計画も,ただ言葉が躍っているだけの計画であり、実際の実験については、当方に丸投げされた。そうはいってもポリウレタン発泡体など未体験の技術だったので、指導社員に教えを乞うたところ、発泡体生産現場の技術課に情報をもらいにゆく、と説明された。

 

すなわち指導社員も硬質ポリウレタン発泡体の開発経験はあるが、軟質ポリウレタン発泡体の開発は初めて、ということで現場で指導してもらった。この時、企業において技術は現場に存在することを改めて復習した。

 

新入社員研修の工場実習で技術と現場の関係について散々教育されたから、「復習」である。すなわち、現業の技術は現場が維持改善する使命を担っていた。

 

ホスファゼン変性軟質ポリウレタン発泡体は、ゴム会社では新技術であり、また実用化されれば、ポリウレタンでは世界で初めての技術となる。

 

ホスファゼンの構造については、いろいろなデザイン案が考えられたが、イソシアネートとの反応を考慮して、ジアミノホスファゼンを検討することにした。

 

もちろん当時ホスファゼンなど市販されていなかったので、自分でこの化合物を合成する必要があった。

 

しかし入社前の実験でジアミノホスファゼンについては、4種類合成しており、論文の原稿が出来上がっていた。ゆえにこの作業は経験をそのまま生かせるので朝飯前だった。

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2021.01/06 高純度SiC開発(2)

アチソン法は、SiCの生産方法としてエジソンの時代に開発された生産技術である。石英と炭素、おがくずなどを混ぜて積み上げた山に電気でこの山ごと高温に加熱し、SiC化の反応を行う。

 

このプロセスでαSiCのインゴットを製造後、それを粉砕し粉を製造する。そして何段階かの精製プロセスを経て98%から99%の純度とし、それを昇華法で高純度化するのがレイリー法である。レイリー法ではシリカ還元法で製造されたβSiCも用いることが可能である。

 

それならば、最初に100%の純度の原料を用いてシリカ還元法を行えば、100%の純度のSiCができるのでは、と誰もが考えるので、1980年頃この視点による特許が多数出願されていた。

 

その中には、ポリエチルシリケートと高純度カーボンの組み合わせ(これをA法)や高純度シリカと高純度フェノール樹脂の組み合わせ(これをB法)を原料とする製造法の発明があったが、ポリエチルシリケートと高純度フェノール樹脂の組み合わせ(これをC法)は特許として出願されていなかった。

 

高分子について知識があれば、この組み合わせではフローリー・ハギンズ理論のχが大きいので相分離し、前駆体として用いることができないことに気がつく。

 

これは、科学の視点で当たり前の考え方である。だから特許として出願されていないのだろうと理解し、納得している人は、AIと同じで21世紀において創造的な発明は難しい。

 

また、A法やB法が実用化されていないことから、C法も実用化が難しいだろう、と簡単にあきらめる人は、頭は良くてもおそらくアイデアの出にくい人だ。

 

C法が理想的にできたならば、シリカとカーボンが分子レベルで混合された固体となり、A法やB法で製造された前駆体の状態とは大きく異なる。

 

そしてこの前駆体を用いれば、当時シリカ還元法において誰もなしえていない均一固相反応でSiC化の反応を行うことができる。

 

このことがどれほど科学の世界において斬新かつ重要であったかは、約10年後当方がまとめた研究を勝手に論文投稿したアカデミアの先生がおられたことから理解できるかもしれない。すなわちパイロットプラントができた当時でさえ未発表の内容が数年後でも科学の視点で鮮度を失っていなかった。

 

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2021.01/05 高純度SiC開発(1)

表題の企画をしたのは、40年近く前である。ゴム会社の社長が交代し、新社長がCIを導入すると同時に、1.電池、2.メカトロニクス、3.ファインセラミックスを3本の柱とした全社方針を発表された。

 

このころ、世間ではファインセラミックスフィーバーが吹き荒れ、TVで先端技術であるファインセラミックスの話題を報道しない日が無かった。

 

NHKでは、まだ学生だった宮崎緑氏をナビゲーターに起用した特別番組「日本の先端技術」を放送し、いすゞ自動車が開発したオールセラミックスエンジン車「セラミックスアスカ」の公道を走る様子が紹介された。

 

トヨタや日産自動車は、ガスタービン車の開発や、ガスタービンとモーターを組み合わせたハイブリッド車の開発を発表していた。ファインセラミックスフェアーが毎年国際展示場で開催され、これらは目玉の展示として扱われていた。

 

SiCやSi3N4、サイアロン、高靭性ジルコニアが当時新素材として扱われ、その高純度化技術は、開発目標となっていた。

 

セラミックスの高純度化は、それが高温まで安定という理由でコストがかかった。例えばSiCについては、2300℃以上の温度で昇華再結晶を行うレイリー法が知られていただけである。

 

プラズマやレーザーを使い、高純度SiCを合成する手法も研究されていたが、レイリー方法ほど一般化していなかった。また、量産プロセスとしてコストの問題を抱えていた。

 

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2020.11/03 スピーカーと科学(3)

完成品も販売している自作スピーカーキットメーカー音工房zのセールストークは、うん百万円するスピーカーを数万円で提供、という少し怪しいスローガンである。

 

しかし、これはスピーカーというデバイスが未だ科学として完成していない、と思われる状態だから許される。また、新製品の販売にあたり高価なスピーカーとの比較視聴サービスを提供しているが、これは無料であり良心的だ。

 

部屋の状態を完璧にできない以上、大多数の人間の感性までも満足させるスピーカーは、まだ存在しないのでこのような方法が「科学的成果」とPRするよりも良いかもしれない。

 

すなわち、どこの部屋においても感性を満足させるような完璧な動作が可能なスピーカーを科学的数値で記述などできないので、同一条件でスピーカーの動作比較を行うヒアリングテストによりお客様に優劣を決めさせる音工房Zの方法は、怪しくはなくむしろ良心的である。

 

もし、このことについて疑問に思われる方がいたら、音工房Zの新製品発表会として行われる無料視聴会に参加してみるとよい。

 

うん百万円もするJBLのスピーカーよりも良い音がしたり、100万円を越えるB&Wのスピーカーよりも自然な再生音を聞かせる安価なキットスピーカーを自分の耳で確認できる。

 

最初に指摘したように、オーディオという商品は、それを設置する部屋の条件でその性能が左右される。視聴会では音工房Zが自社製品に合わせた部屋の設計にしている可能性を否定できないが、視聴会で怪しい仕掛けはみつからない。

 

ところで、音の出口となるスピーカーについて、デジタル時代となってもアナログ技術のままである。振動板など各パーツの材料開発は進んだが、電気信号を音に変換する機構についてその進化は20世紀に止まったままである。

 

音工房Zは、スピーカーの箱に着眼し、故長岡鉄夫を師としながら試行錯誤で箱の開発を行っている。開発過程を聞く限り、過去に大手企業で行っていたような科学的プロセスではない。しかし、優れた商品がそれでも生まれている。

 

うまいコーヒーがずば抜けた臭覚の人物により開発されたり、日本料理の達人の存在を認めているように、その性能が感覚に左右される製品では試行錯誤による開発を多くの人は認めている。

 

仮に、これを科学的に行うべきだと思っている人がいるならば、マハラビノスのTM、すなわち多変量解析を行うことになる。

 

1990年ごろ色材の開発に多変量解析を用いた研究成果を拝聴する機会があったが、ナノオーダーの変化を人間の目は検知しているという驚くべき結果が説明された。

 

しかし、これを科学的に検証したという話を聞いていない。目の前に財布があってもポケットの中を探してしまう当方には、この科学的成果がどうでもよい話に聞こえる。

 

試行錯誤について非科学的だから研究開発では許されない、と今でも思っている人(20世紀にはこのような研究者が多かった)には、次の例で納得していただけないだろうか。

 

iPS細胞を生み出すヤマナカファクターの効果について、今科学的に検証が進められている。ところが、その機能については、非科学的方法で見出されたままであり、なぜヤマナカファクターが機能するかは特許が公開されても謎である。

 

もしこれが分かれば、類似機能を発現できる物質を作り出せるはずであるが、そこは科学的解明が難しく、今でもブラックボックスのままである(だからSTAP細胞の騒動が起きたともいえる)。

 

音の出口であるスピーカーにAIを搭載し、出力された音に部屋の情報を加味した成分を載せて完璧な音を出せるようにすればよい、とスピーカーのあるべき姿を仮に描くことができたとしても、それを経済的に作り出すことは難しい。

 

また、バックロードホーンの機構についてさえ、科学的に否定する人がいるのに、このようなフィードバック機構では科学的に明らかな遅延を避けられないので、科学者に開発意欲もわかないかもしれない。

 

どのような機構でiPS細胞ができるのかについて注力するよりも、その応用研究を進めた方が人類への貢献度は高いように、世界最高性能のスピーカーと比較視聴して、それよりも優れた安価なキットのスピーカーを作りだしたほうが、庶民に貢献できる。

 

オーディオの開発の歴史において、科学的成果による優れたパーツが声高に「科学的」と説明されて商品に搭載されては、時代の流れの中で消えていった。

 

今でも残っている「科学的」技術成果も存在するが、それは歴史の流れの中で実績の積み重ねにより皆が良いと認めたものであり、必ずしも科学的に優れているという理由からではないことに気がつくべきである。

 

デジタルアンプが主流になりそうな気配なのに、未だに真空管アンプが最良という人がいる。SN比ではデジタルアンプに負けるがその芳醇な音色は真空管アンプならではである。

 

消えつつあるオーディオ業界から科学が全てではない工業製品が存在することを学ぶべきだと思う。科学は技術進歩を促進するのに役立つ哲学であることは否定しないが、それだけで技術開発がすべてうまくゆくとは思ってはいけない。

 

11月24日、25日に問題解決法の無料セミナーを予定していますので参加希望者は、お申し込みください。時間は13時30分から15時30分までの二時間で、テーマを絞った解説を予定しています。

 

 

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