通信市場においてファーウェイの問題がニュースになってはじめて、この分野で半導体関連の日本企業が蚊帳の外の状態であることを知った。
また、通信市場の企業に勤務していた高校時代の同級生が10年以上前に嘆いていたのを思い出したが、もう手遅れで、日本企業が基地局や情報端末の半導体市場で、もはや戦うこともできない。
半導体チップでは莫大な研究開発投資が必要になるので参入は難しいが、中国ナノポリスで活動してきた経験から、高分子材料については、まだ参入の機会が存在すると思っている。
ただし、日本の高分子材料メーカーにそのニーズが見えているのかどうか。このコロナ禍で1年以上ナノポリスで活動できなくなったが、今も相談のメールだけ届いている。
弊社は慈善団体ではないので無料の相談は受け付けない、と返事しているのだが、現地に行くこともできないので、お客を逃がさないか心配になってきた。
日本に十分な仕事があれば良いのだが、ニーズが見えていない状態では、仕事も生まれない。しかし、無料でニーズを公開することもできないので難しい問題だ。活動の場を提供してくれる企業を求めている。
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高分子材料についてLOIを21以上にするために材料設計手法は一つになる。LOIが21以下でも空気中で自己消火性になればよい、と言う条件であれば2種類の材料設計手法となる。
UL規格との対応を考慮に入れると、V0以上に合格するためには、LOIを21以上となるように材料設計しなくてはいけない。
V2以下の合格であればLOIを21以上に調節する必要はない。ここでLOIを21以上となるように材料設計した時に必ずV0以上に合格するかと言うとそうではない。
LOIが23であってもV0に合格しないサンプルがある。これは以前ここで述べたように、試験サンプルの設置方法と火源、着火方法の違いから相関性が崩れている。
UL規格とLOIとでは、LOIの方が少し評価法として手軽である。規格通りに行う必要もなく、酸素と窒素の混合ガスを流しながら測定すれば、そこそこの値が得られるからだ。
ただし、その値が規格値となるかというと手作りの装置の出来栄えにより、規格値からのずれが大きくなる。しかし、あまりお金をかけずに手軽に試験をおこなえるという観点でLOIは、材料設計するときのスクリーニングに活用できる。
中国のローカルコンパウンドメーカーで燃焼試験装置どころか力学試験装置その他の評価装置を持っていない企業の指導をした経験がある。1年後にはとりあえず力学試験装置は揃ったが、燃焼試験装置までお金の関係で揃えることができなかった。
そのような劣悪の環境の中でUL94V0に通過するPC/ABSの新処方を開発することに成功している。市場で要求される燃焼試験装置を揃えておくことは商品開発で必須であるが、開発を急ぐときには、いざという方法がある。
難燃性PC/ABSの開発は難易度の高い技術であり、科学的に進めようとするならば、各種評価試験装置が整っていないと開発は不可能である。
しかし、技術を持った職人であれば評価装置が無くても技術開発可能である。逆に技術を持っていない研究者は開発どころかそのような現場で右往左往するだけだろう。
すなわち科学と技術とどのような違いがあるのか知るためには、このような現場で働てみるとよい。技術者ならばこのような現場でもゴールを達成することが可能である。ひ弱な研究者は手足も出せないだろう。
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高分子の難燃性について、燃焼という現象を科学の形式知で正確に論ずることが難しいゆえに評価技術が製品の分野ごとに様々である。
その評価技術さえほぼ出そろったのは20世紀末だ。だから高分子の難燃化技術は科学として未だ完成していない技術といっても間違いない。
ところがこれを理解されていない人が多い。高分子の難燃化技術に関しては、経験知が極めて重要である。またこれを無理に科学の形式知で記述しようとしたとたんに誤解を生みだす恐れがある。
評価技術さえ実務的な視点で決められてきたので、評価の物差しさえ科学の形式知といい難いからである。
このような前提で、高分子の難燃化を研究するときにどのように進めればよいのか、当方の経験知について次回から説明したい。
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LOIは、燃焼が急激な酸化現象であるという科学の視点から高分子の難燃性のグレードを決めようとした評価法である。
一方で、UL規格は、高分子材料の用途により燃焼時の挙動や求められる難燃性のレベルが異なるので、現実的な視点で実火災における材料の難燃性のレベルをモデル化して決めた規格である。
モデル化しているので当然のことだが実火災における材料のもらい火を100%実現しているとは言えない。しかし、40年近くの実績があり、産業界でUL規格を採用している製品は国内外に多い。
しかし実績のあるUL規格でも十分ではなく、分野ごとに難燃性の規格が存在する場合もあるので、製品開発に当たっては注意を要する。
30年ほど前に登場したコーンカロリーメーターは、UL規格よりも大きなサンプルと大きな火源を使用して、煙量なども評価できるので建築基準に採用されるようになった。
分野ごとに異なる難燃化規格を前提として、材料設計をどのように行うかは深刻な問題である。難燃性材料を設計するたびに目的とする燃焼試験を行い、材料設計できれば良いが、コーンカロリーメータのような大きなサンプルを用いるときには、事前にスクリーニングする方法がどうしても必要になる。
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UL規格とLOIとは相関しない。すなわち、LOIが高くてもULのあるグレードに合格しない材料が存在する。一方ULの最も低いグレードで難燃性試験に合格したからと言って、LOIが21以上となるわけでもない。
このUL規格とLOIと相関しない原因は、難燃性評価時の炎とサンプルの位置関係と炎の強さの影響が最も大きい。
まず炎の大きさだが、LOIはローソクの炎程度の火力(LOIのことをローソク試験と言っていた老人が当時いた)であるが、ULではそれよりもはるかに火力が強い。
この点はわずかな火力で着火する様子を観察する条件で評価しているという理由でLOIが厳しい評価条件となっている。ところが炎とサンプルの位置関係については、LOIは垂直に立てて、サンプルの上方から炎を近づける。
UL規格では、サンプルが水平あるいは垂直に置かれた状態で、下方から炎を当てる。実は、炎と言うのは先端が最も温度が高いので、炎とサンプルの位置関係からはUL規格の方が厳しい条件となる。
このようにLOIとUL規格では、評価試験方法が異なるので相関が無くても良いのだが、LOIは、継続燃焼し続けるのに必要な最低酸素濃度を指標化しているという科学的根拠なり考え方に納得できる。
それでは、それと相関していないUL規格では非科学的で問題があるのかというとそうではない。UL規格では火災における燃焼で「もらい火をしても火が消える」すなわち材料が着火しても燃えにくい、言葉をかえると難燃性という点をうまく評価測定法にとりいれている。
すなわち、実火災を想定した時に「燃えにくい」「万が一着火しても火が消える」材料とはどのような燃焼挙動を示すのか、という視点で評価試験法が作られている。
LOIは、化学反応の酸化現象に着目し考案された評価試験法であるが、UL規格は火災が起きたときの材料挙動を観察して決められた試験法である。
材料の用途により、火災のリスクは異なるので、製品設計時に経済性も考慮でき便利な規格なので多くの分野で採用されている。
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LOIは、燃焼という現象を急激に進行する酸化反応ととらえたときにわかりやすい高分子の難燃性評価指数である。しかし、この指数が見つかっただけで完成とならないのが高分子の難燃化技術である。
例えば家の構造材料と家電製品の構造材料では、LOIも含め同一基準で材料の難燃性を議論できないことは、すぐに気がつく。
出火する初期の原因が大きな火種となりやすい家の構造材料では、周囲の材料がすぐに高温にさらされるが、家電製品の内部において出火原因となる火種は小さくても密接している。
また、家電製品は構成材料の種類を制御管理することが可能となるが、家の場合には不特定多数の材料の製品がその内部に配置された状態で着火することになる。
すなわち、火災の初期における環境が同一ではなく、その差が大きい。ゆえに火災の発生初期における機構が材料の使用環境で異なることになり、使用環境ごとに適合した評価技術が必要になることに気がつく。
使用環境ごとに適合した材料の難燃性評価技術が必要になるので、市場の様々な分野に適した難燃性評価法が1970年以降開発されてきた。
その中でUL規格というアメリカの民間保険会社の研究機関が開発した評価法は、様々な火災現象における材料の変化と経済性リスクをうまくとらえた、難燃性のグレードとなっている。
建築の難燃性基準の多くがLOIで21以上の材料でなければ通過しないのに対し、UL規格において難燃性が低いレベルの難燃性材料ではLOIが21以下でも合格となる場合がある。
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極限酸素指数法(LOI)は、物質が継続燃焼するために必要な最低の酸素濃度を指数化した評価技術である。
空気の酸素濃度はおよそ21%なので、LOIが21以下の物質は、空気の酸素濃度よりも低い領域で燃焼できるので、火がつけば空気中では必ず継続燃焼する。
逆にLOIが21以上の物質は、酸素濃度が空気よりも高くなければ継続燃焼できないので、空気中で着火しても継続燃焼できないので自己消火性となる。
燃焼が急激に進行する酸化反応であることを示す、わかりやすい指数だ。しかし、実火災では、周囲の温度が800℃以上になることはよくあり、このくらいの温度になると、大半の有機物は、酸素濃度が低くても熱分解する。
高分子発泡体の難燃化研究を3年間行ったが、高分子の熱分析は欠かせない分析手法だった。この熱分析経験で600℃以上まで安定な有機高分子に出会ったことが無い。
窒素中において最も高い温度まで安定だったのは、特殊なフェノール樹脂で400℃まで熱分解しなかった。
高分子には280℃以下で1%以上熱分解するものも存在し、このフェノール樹脂の熱分析結果には大変びっくりした。ちなみに大抵のフェノール樹脂は280℃近辺から少し熱分解が始まる。
文献に書かれている限りの方法で製造したフェノール樹脂は350℃以下で熱分解が始まるので400℃まで安定なフェノール樹脂は世界初の材料だった。
この耐熱性が極めて高いフェノール樹脂でもLOIは38であり、40に届かなかった。ちなみに耐熱温度とLOIとは相関しそうで相関しない。
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1960年代、高分子の熱分解に関して研究が進みLOI法が発表された。1970年にはスガ試験機(株)で酸素指数燃焼性試験機が開発されている。
高分子の難燃性について1970年代にはかなり研究が進み、日本でも火災時に発生するガスに着目した建築関係の独自規格が登場している。そして、1980年代に縮合リン酸エステル系難燃剤の発展と臭素系難燃剤の上市が活発に行われた。
コーンカロリーメーターは1983年に米国で開発され、1993年にはこの測定装置に関する国際会議がつくばで開催されている。
高分子の難燃性評価装置に関する発展史から、全自動酸素指数測定装置の開発がニーズに対応して行われたものであることが伝わるだろうか。
但し測定対象サンプルとして燃焼速度の速い発泡体は考慮されていなかったので、ゴム会社の研究所において購入後、使えずに放置する事態になったのだ。
当方は、この全自動酸素指数測定装置の自動化機構の理解に努め、燃焼速度に制御が追いつけない問題をただ解決するだけで使い物になることを突き止めた。
しかし、改造のためには費用が発生する。課長は金を使わずに改良するように命じてきた。金をかけず一番手っ取り早い方法は、マニュアル測定だった。
ところが機械はマニュアル測定に対応していなかったので、制御系の電源を外し、一部ギアも外して、マニュアル制御できるようにして、その手順をアルゴリズムで書いた。
何か成果を出せ、という宿題に対しては、発泡体を熱プレスして密度を上げ、全自動酸素指数測定装置でLOIを自動測定し、発泡体のLOIについてはマニュアルで測定し、その両者の相関を求めた。
この研究結果から、相関係数がほぼ1となり、誤差分析の結果、発泡体のLOIが最大で0.5程度、熱プレスで高密度化したサンプルよりも低くなる、という成果が得られた。
発泡体密度によっては弾性率が低いためにサンプルが自立できない場合もあったので、専用のホルダーを手作りした。お金がないのでタイヤ試作室の職人にお願いし、ステンレスの端材をもらい、加工道具も借りて仕上げた芸術品である。
研究報告書とともにこのホルダーも課長に説明したところ、社内の品質発表会に推薦してくれて、そこで賞を頂くことができた。しかし、全自動酸素指数測定装置をただマニュアル測定できるように改造しただけなので、この受賞は心苦しかった。
マニュアルの測定手順をアルゴリズムで書いたので、おそらく課長はマニュアルであることに気がつかなかった可能性がある。ただし、アルゴリズムには目視とか手動と言う言葉が随所に登場していたが。
改善提案の審査員は、自動装置を手動測定に変えるという逆転の発想が素晴らしい、と褒めてくださったが、なぜか皮肉に聞こえた。研究部門から唯一推薦された発表がこの程度だったので、審査員もコメントに困ったのかもしれない。
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火災とは、不規則な燃焼が継続して進行する現象で、燃焼は急激に進行する酸化反応である。このような現象の中で耐えられる高分子材料の機能をどのように設計したらよいのか、という問題を科学的に解くことは難しい。
まず、急激に進行する酸化反応は、非平衡の現象である。それを科学的に表現できるほどのレベルに現代の科学は達していない。簡略化したモデルさえ難しい。
これは、燃焼試験の一つである極限酸素指数法(LOI)を使用してみるとすぐに理解できる。LOIは、物質の継続燃焼可能とする最低限の酸素濃度を指数化して、物質の難燃性の序列を評価する方法である。
着火する手順や、継続燃焼している時の炎の状況まで細かい決め事がある。実はこの試験法を用いて、急激に進行する酸化反応のモデルを組み立てる事すら難しい。
何故なら、いくら試料の燃焼状況を管理しても0.25程度ばらつく。多い時にはその測定値に1.0という偏差が観察さることもある。この偏差の原因について少し研究した経験があるが、試料のわずかなばらつきが影響していることが分かり、研究を諦めた。
この研究の過程で、発泡体サンプルでもばらつきを小さくできる手法を見出し、当時のJIS規格とは異なる独自の測定法を編み出し、ゴム会社から改善提案賞を頂いた。
LOIの測定値の精度を上げるためには、ISO規格でも不足しており、試料のセット方法や、ガス流量の調整方法まで厳格に管理する必要がある。
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ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの企画は、すんなり採用された。10か月後に新入社員発表会があるのでそれまでに1回目の試作の工場実験を済ませる計画が指導社員により作成された。
この計画も,ただ言葉が躍っているだけの計画であり、実際の実験については、当方に丸投げされた。そうはいってもポリウレタン発泡体など未体験の技術だったので、指導社員に教えを乞うたところ、発泡体生産現場の技術課に情報をもらいにゆく、と説明された。
すなわち指導社員も硬質ポリウレタン発泡体の開発経験はあるが、軟質ポリウレタン発泡体の開発は初めて、ということで現場で指導してもらった。この時、企業において技術は現場に存在することを改めて復習した。
新入社員研修の工場実習で技術と現場の関係について散々教育されたから、「復習」である。すなわち、現業の技術は現場が維持改善する使命を担っていた。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタン発泡体は、ゴム会社では新技術であり、また実用化されれば、ポリウレタンでは世界で初めての技術となる。
ホスファゼンの構造については、いろいろなデザイン案が考えられたが、イソシアネートとの反応を考慮して、ジアミノホスファゼンを検討することにした。
もちろん当時ホスファゼンなど市販されていなかったので、自分でこの化合物を合成する必要があった。
しかし入社前の実験でジアミノホスファゼンについては、4種類合成しており、論文の原稿が出来上がっていた。ゆえにこの作業は経験をそのまま生かせるので朝飯前だった。
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