PPSと6ナイロンはカオス混合により相溶する。これはフローリー・ハギンズ理論から説明できない現象であるが混練技術を工夫すれば起きるのである。
この実験のヒントは、東工大で行われたPPSと4,6ナイロンの相溶現象におけるその場観察である。すなわち、PPSと4,6ナイロンを二枚のガラス円板に挟み、それぞれ反対方向に回転させて剪断流動を発生する。
300℃近くになると円板の周辺部分が透明になってくる現象が観察された。すなわち、温度と剪断力でPPSと4,6ナイロンが相溶することを世界で初めて実証した扇沢グループの実験である。
この研究があまり注目されていないのはもったいないことである。この研究成果を思考実験により展開するとカオス混合装置が生まれる。そして4,6ナイロン以外のナイロンでも相溶するのではないかという妄想が生まれる。
この妄想が目の前で起きると感動に変わるが、当方の部下は当方を信じていなかったので腰を抜かした。当方は妄想で十分に理解していたので感動しただけであるが、彼はキャという悲鳴とともに腰を抜かしたのである。
PPSと6ナイロンの混練されて透明な樹脂液として二軸混練機の吐出口から流れている光景は、それくらい驚くべき光景なのだが、フローリー・ハギンズ理論の問題を理解しておれば感動の光景となる。
6ナイロン以外に12ナイロンとか数種類ナイロンをPPSとともに混練したがいずれも透明な樹脂液となった。面白いのはこの後である。
ストランドとして回収したサンプルを机の中に保管し、在職中こっそりと眺めるのが楽しみとなったが、5年ほど透明だった。2011年3月11日に最終講演が15時から予定されていたのでサンプルを準備していたが、ぐらっと来た。
その後忘れていたが、ストランドとして回収後のサンプルを数年後に見つけたら真っ白くなっていた。すなわち少しずつスピノーダル分解し、白くなったのである。白濁したが、ストランドの柔軟性は失われていなかった。これには腰を抜かしそうになった。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
同一配合で異なる物性のコンパウンドをプロセス設計により作り分ける、これができない技術者は新材料開発能力が低い、と言わざるを得ない。
また、配合と物性は1:1に対応すべき、と某国家プロジェクトの目標に書かれていたようなことを信じている技術者はもっと材料技術について勉強すべきである。
PPS/6ナイロン/カーボンを二軸混練機で常識的な混練をしている限り、押出成形で半導体ベルトの歩留まりが100%となるコンパウンドを製造することは不可能である。
力学物性を犠牲にすれば、二軸混練機を二回用いることで、電気抵抗の安定したコンパウンドを製造可能である。例えば6ナイロン相にカーボンを分散し、それをPPSと混練すると得られる。
しかし、カーボンの分散したナイロン相のドメインが硬いので、そのようなコンパウンドで製造した無端ベルトは紙のような靭性のベルトとなる。
力学物性も電気物性も両方目標物性を満たしたコンパウンドを製造するためには、現在のところカオス混合しかない。すなわち、カーボンの凝集相が6ナイロンの相溶したPPSに分散した高次構造を有するコンパウンドなら電気物性も力学物性もその品質が良好な半導体無端ベルトを押出成形できるようになる。
ただし、PPSと6ナイロンのχは大きいので、これはフローリー・ハギンズの理論に反する、と考えた方は優秀である。カオス混合は、科学の形式知に反するような現象が発生するトランスサイエンスの混練方法である。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
早期退職を決意したとたんに難しい仕事が舞い込んできた。配合を変えずに半導体無端ベルトの押出成形歩留まりを10倍にする仕事である。
某国家プロジェクトの目標として、配合と物性が1:1に相関し、などと間違ったことが書かれていたが、もしこれが形式知となるならば、この仕事の解は無い。
しかし、無機材料でも有機材料でも配合と物性は、1:1で対応しないことの方が多い。ゆえに国家プロジェクトの目標とされたのだろうが、これを1:1で対応させようとするセンスでは、新材料の開発など難しい。
しかし、そのような感覚のテーマに数億円の予算が毎年ついてプロジェクトが進められている日本の研究開発においてその任にある人は、弊社のセミナーで少し勉強した方が良い。
配合が同一でも高分子材料ではコンパウンディングプロセスが異なれば、物性は変化する。これは常識であり、それゆえ新たなプロセシング技術の研究は、いつの時代でも求められている。
PPS/6ナイロン/カーボンの単純な組成で半導体コンパウンドを製造するときに、少なくとも2種類の全く異なる高次構造のコンパウンドを作り分けることが可能だ。
技を磨けばこの単純な組成で3種類以上の高次構造を創り分けることができる。負の誘電率を有するコンパウンドまで製造できた、と書くとウソだという人がいるかもしれないが、電気技術者にコンパウンドの評価をお願いしていたら、彼が見つけてくれたのである。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
絶縁体高分子に導電性微粒子を分散すると半導体高分子が得られるが、この時に発生する現象がパーコレーションで、導電性微粒子の体積分率が増加した時に体積固有抵抗がある体積分率で急激に減少する領域ではパーコレーション転移が起きている。
このシミュレーションプログラムをPythonで作成しながらパーコレーション転移について学ぶセミナーを常時開設しているので、関心のあるかたは問い合わせていただきたい。
帯電防止技術と複合プリンターのキーパーツ開発事例をもとに、パーコレーション転移のシミュレーション方法とそれを活用した製品開発技法を解説し、同時にPythonによるプログラムの解説を行う。
このプログラム解説は、単なるPythonの文法解説以外にプログラミング言語としてのPythonの特徴をクリアにし、発展的独習が可能なように指導している。
プログラミング言語は、名古屋弁や大阪弁よりも易しく、コツさえつかめれば自学自習が可能であり、そのコツを弊社のセミナーでは伝授している。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
絶縁体高分子に導電性微粒子を分散し抵抗測定を行うと、その添加率(体積分率)に従い、抵抗が減少する。そしてある添加率のところで急激に抵抗が減少する現象が観察される。
これがパーコレーション転移と呼ばれる現象で、電気抵抗だけでなく、弾性率や線膨張率でもその変化を確認することができる。ただし、電気抵抗のように桁数が大きく変動する変化ではないので、あまり注目されていない。
ただ、昔から混合則とか複合則というルールがあり、未だにいいかげんな教科書でこのルールを見かけることがある。1990年ごろ、当方が日本化学会で研究発表を行ったときに、パーコレーションという言葉を用いたが、会場がシーンとなってびっくりした。
他のセッションでは、複合則とか混合則という言葉が常識的に使われていたので、奇異に思われたのだろう。当方は1979年に指導社員からパーコレーションの説明を受けている。
当時はスタウファーの教科書が頼りであったが、化学系の人でこの教科書を読んでいる人は皆無だった。その教科書によれば、カリフォルニアの山火事について数学者たちがボンド問題とサイト問題として議論したのが最初だという。1950年代で当方が生まれた頃の話である。
それが高分子の世界で一般的になるのに40年以上かかっている。数理モデルを数式で理解することが難しかったからである。この数式はコロナの流行でよくテレビで見たようなクラスター理論と通じている。
無限クラスターが生成するところがパーコレーションの閾値である。微粒子が真球であれば、体積分率で30%前後のところである。長径と短径の比、アスペクト比が大きくなるにつれこの閾値は小さくなる。
数式で数理モデルを理解しようとすると大変であるが、コンピューターの中で実際に微粒子が分散する状態を再現して計算すると理解しやすい。
このシミュレーション法についてエンジン部分のPythonプログラムを配布してWEBセミナーを弊社で行っています。Pythonのプログラミングを学ぶには良い教材ですのでお問い合わせください。パーコレーションを理解できるとPythonが身についている、というセミナーです。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
フィルムの帯電防止層を開発していて、負の誘電率に遭遇した時には驚いた。ちょうど福井大学客員教授に就任した頃で、お世話になった先生が電気化学の教授だった。
ベセラゴが予言したそうだが、キワモノと言われており、データに絶対値をつけて発表したほうが無難だとご指導を受けた。
すなわち、研究の本筋とは関係ないところで研究の価値を下げてしまう問題があったからである。当時取り組んでいたのは、パーコレーションの検出方法である。
当方は、技術経営には興味があったが、基礎研究に身をささげるまでの勇気は無かった。ゆえに、インピーダンスに絶対値をつけて、誘電率の議論とならないように発表を工夫している。
それから10年以上経過して、半導体無端ベルトの開発を担当したときに、「倉地さん、たいへんなものができてます」と電気専門の部下がデータを見せてくれた。負の誘電率である。
確かに大変な現象であるが、半年という限られた時間の中で、カオス混合プラントを立ち上げ、無端ベルトの押出成形歩留まりを10%から100%にしなければならない状況で、少し迷惑な話だった。
高分子の導電性を制御するために、導電性微粒子を絶縁体である高分子に分散し、そのパーコレーションを制御する必要がある。その実験過程で負の誘電率がお化けのように現れた。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
もう「ママ撮って」のような肌色をきれいにとることができる優しいカラーフィルムは無くなってしまったが、このカラーフィルムの帯電防止層には非晶質アルミナが導電体として使用されていた。
面白いのはTACフィルムの帯電防止層として形成されるとそれなりの表面比抵抗を示すが、現像処理後は、それが無くなる。同様の処理を行ったときに、酸化スズゾルを帯電防止層として用いたときには、現像処理後も導電性が残っている。
これも当方が不思議に思った現象で少し研究をした。そしてある結論に至ったのだが、それはここに記載しない。理由はこのアルミナの帯電防止層を発明した人への敬意を示すためである。
アルミナの導電性については、別の機会にこれだけを書きたい。酸化スズゾルとの比較と誤解されるような場所では書きたくないのである。
実は、この非晶質アルミナを用いた帯電防止層は、経験知で巧みに設計された成果である。最初古い報告書を読んだ時に嘘だろうと思ったが、製品で機能しているので事実である。
世の中には科学の形式知から考えられない現象と言うものが存在する。この非晶質アルミナの帯電防止層の導電性は、そのような現象の一つである。
ただ、少し研究してみて、このからくりが、巧妙な経験知の合わせ技であることを知った。開発した技術者が無機材料を大学で専攻してきたゆえの発明だったが、転職して良かった、と感動した技術の一つである。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料
pagetop
酸化第二スズ単結晶は絶縁体である。しかし,これがアモルファスになると1000Ωcm前後の導電性を示す。ここで注意しなければいけないのは、酸化第二スズの非晶質体はガラスではない、ということだ。
そもそもガラスとは何か。これが意外にもあまり教科書に書かれていない。ガラスは非晶質体であるが、非晶質体には、ガラスとガラス以外が存在する。
それでは、ガラスとガラス以外は何が異なるのか。それはガラスはガラス転移点を持つが、ガラス以外の非晶質体はガラス転移点を持たない。
酸化第二スズ非晶質体のDSCを測定すると結晶化温度は存在するが、ガラス転移点は観察されない。ゆえに酸化第二スズの非晶質体はガラスではない。
四塩化スズを加水分解すると、酸化第二スズゾル(以下酸化スズゾル)が生成する。この酸化スズゾルには、わずかな水が含まれている。非晶質ゆえに存在する構造水と自由水に分けられ、自由水で導電性が発現するのではないかと想像している。
想像している、と曖昧なことを書いた理由は、1年ほど研究して明確な真理とできなかったからである。ただ、酸化スズゾルを加熱して、重量減少を測定し、導電性を計測すると、重量が減少し始めたところで導電性が1桁悪くなる。
さらに加熱してゆくと300-500℃あたりで、半導体となるがその抵抗を一定にできなかった。また、X線散乱の実験を行い、アモルファスハローの部分を観察すると再現性のない変化を観察できる。
おそらくこのあたりについては、実験数を増やしてゆくと、あるばらつきの範囲で形式知とできるかもしれないが、時間が無かったのと担当者が異動したので研究を辞めた。
どうもこのような地味な研究は若い人に嫌われるようだが、世の中にはきれいなデータを収集できない現象は多い。STAP細胞の実験ではそれを少し手抜きしたので大騒ぎとなった。
「あの日」を読むとマウス云々のところが気にかかるが、世の中には不誠実な学者は多い。形式知を扱う学者は誠実であってほしい。
当方も某国立大学の不誠実な先生に当方のデータで勝手に論文を出されたりして、研究成果を盗られた経験があるが、形式知を扱う研究者は誠実であることが求められる。
ゆえに当方は酸化スズゾルの研究について形式知まで追い込めなかったので、正直に形式知とできなかった、と述べている。しかし、実験結果から想像を膨らませると、酸化スズゾルの合成条件により導電性が変わると予想できる。
そこで実際にいろいろと実験を行ったところ、100Ωcm程度の導電性を示す酸化スズを合成できた。ここまで低くなると、ITOに肉薄する。すなわち、Inをドープしなくても同等の導電性にできたならCDが可能となる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
7月5日に日刊工業新聞主催により表題のセミナーが開催される。(https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/6553)
高分子の破壊と劣化については、金属やセラミックス同様に1970年代まで線形破壊力学として研究されてきた。当方が社会人となった時に、その研究方向の雲行きが怪しくなってきたときである。
その3年後にセラミックスフィーバーが起き、セラミックス分野では破壊と劣化に関する研究が急速に進歩した。これは、当時高効率ガスタービン開発を目標としたムーンライト計画の寄与するところだが、信頼性工学も導入されて、いすゞ自動車は世界初のオールセラミックスエンジン車の開発に成功している。
セラミックスアスカがその車で、その疾走する姿を映し出した「日本の先端技術」と言う番組は、日本中の技術者が視聴した。そのナビゲーターだった当時慶応大学学生宮崎緑氏は一躍技術者の憧れのマドンナとなった(あれから40年過ぎているので—。)。
また、セラミックス事業を行っていないメーカー1000社近くが新たにセラミックス市場に参入している。当方の在籍したゴム会社も高純度SiCを武器に半導体治工具事業へ参入し30年事業が行われた(今は愛知県にあるセラミックス事業の会社MARUWAに事業譲渡された。)。
セラミックスや金属では線形破壊力学の延長線上で形式知が体系化され、御巣鷹山の飛行機事故の裁判では、判例にフラクトグラフィーが使用されている。
ところが高分子材料の破壊と劣化問題については未だトランスサイエンス領域の学問である。日本におけるマテリアルズインフォマティクスの黎明期に線形破壊力学を持ち出し、高分子の破壊を説明していた学者がいたが、この分野の研究について無知な学者と言いたくなるような講演を行っていた。
さて、7月5日のセミナーでは、当方がSiCの破壊について研究した成果も含め講演する。すなわち改めて材料の破壊の歴史的背景から丁寧に説明し、実務でどのように対応したらよいのか、当方の体験を基に解説する。
実務で高分子材料を扱っている技術者は是非この機会に受講していただきたい。そこでは、某大学の先生のご指導を受け、アーレニウスプロットで考察を行い寿命予測した高分子材料の機能部品でとんでもない品質問題を起こした事例を紹介する。
この問題を当方が1か月程度で火消を行った自慢話となってしまうかもしれないが、実務の参考になる事例と思っている。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子材料が実用化されるためには、用途に応じた最適化が検討される。合成高分子が無かった時代には、飯粒は重要な接着剤だった。紙の接着であれば飯粒が十分な接着剤の役目を果たした。
小学一年か二年生だった時、ボール紙で夏休みの工作として作品を作ることになり市販のノリではなく飯粒で接着した思い出がある。市販のノリを使わなかった理由は、飯粒の接着性に興味があったからである。
今から思えば馬鹿な行為であるが、また、親にもその作業性の悪さを指摘されたりしているが、子供心に飯粒が接着剤として機能することに面白さを感じていたのだろう。
この思い出は悲惨な結果だったので今でも記憶しているのだが、接着部分にカビが生えたのだ。カビを取り除いてもそれが生えていたところは変色していた。
このとき、工作用ノリには防腐剤が添加されていることを学んだのだが、情けないのは大泣きをしたことである。大泣きをした思い出は今でも記憶しているが、その後夏休みの工作がどうなったのか記憶が無い。
そもそも飯粒で紙工作をしようとした発想は、親か兄弟からノリはご飯粒から出来ている、とかいう中途半端な知識を教えられたためで、その時防腐剤が添加されていることを聞かなかった。
そのような経験があり、怪しい新しい知識を百科事典で調べるようになった。当時インターネットなど無く家庭用百科事典ブームであり、子供のいる多くの家庭には1セット百科事典があった。
当方の家庭にあった百科事典には、料理について食材を混ぜる方法の説明はあったが、ノリに防腐剤をどのように混ぜているのか記述されていなかった記憶がある。
母親から大量に混ぜるので機械を使っているとの説明を受けたが、どのような機械なのかは企業秘密だ、と教えられた。当時母親の答えには企業秘密が多く、世の中は秘密ばかりと不思議に思っていた。
しかし、添加剤を高分子に混ぜる技術には今でも企業秘密にすべき内容がある。このような技術に遭遇された方は弊社にご相談ください。高分子に添加剤を混ぜる方法について、今でも技術の差が生まれる分野である。同一配合でも機能に大きな差が現れる不思議な現象は、この混ぜる技術が関係している。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop