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2014.07/18 セラミックスの製造プロセス(2)

瀬戸物市には規格外の商品が山のように売られていた。瀬戸物は重要な輸出品であり、この規格外の商品の売り上げが日本のセラミックス産業を支えている、と親から教えられた。子供の頃この説明を素直に納得したが、米を食べるのはアジアが主体であり、お茶碗が欧米にたくさん輸出されていると思えない。瀬戸物市には瀬戸物のフランス人形や高級そうな洋風の水差しや花瓶なども売られていたので、親はそれらを説明していたのだろう。

 

しかし、当時の我が家はそのような洋風の商品を買わずお茶碗探しがもっぱらなイベントであった。瀬戸物市の翌日は食卓がリニューアルされる。家族おそろいの新しいお茶碗やお皿で皆食卓を囲むのは、少し贅沢な気分だった。古いお茶碗やお皿は保存され、食卓に並んでいるものが割れるとそれらで補充された。昔の瀬戸物は割れやすかった、という印象がある。ところが100円ショップの食器は割れる前に欠ける。

 

お茶碗の割れた思い出はあっても欠けた思い出は無い。すなわち100円ショップのお茶碗は絵柄がきれいに揃っていても欠けやすい。これはお茶碗を成形するプロセスの違いが現れている。100円ショップのお茶碗の見かけは瀬戸物市のお茶碗よりも良いが、力学物性は低下している、と思われる。ノリタケの森で買ってきた食器とぶつかると、必ず100円ショップのお茶碗が欠ける。ノリタケブランドのお皿は規格外品でも丈夫である。

 

ノリタケブランドの製品でも一部は射出成形で製造されていると聞いた。ノリタケの森では職人が手作りで製品を製造する様子を見せているが、射出成型による製品もあるという。しかしノリタケブランドのついた食器で欠けやすい食器を見たことが無い。落としてもフローリングの床であれば割れにくい丈夫な製品で、さすがにノリタケブランドと感心したりするが、おそらく製造プロセスだけでなく原材料管理も異なるのであろう。

 

ノリタケブランドの製品の優秀さは、瀬戸物市の規格外品や100円ショップの商品とは別次元である。それでは、これらの成形プロセスの違いがどこに現れるのか。おそらく成形された時のグリーン密度の均一性の違いが欠けやすさにつながっていると推定している。例えばノリタケブランドの製品の焼成前のグリーン密度は、その断面を肉眼で見ても分かるぐらいに緻密で均一である。

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料

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2014.07/17 セラミックスの製造プロセス(1)

便器などの衛生陶器やお茶碗などはセラミックスでできている。便器のような工業製品は、その製造方法が進歩したかと思っていたが、未だにスリップキャストが使用されているという。ただしその生産方法は変わっていないが、生産性は大きく進歩したと言われている。

 

お茶碗は、かつてロクロを使い作られていた。今は、射出成形で作られている。もっとも趣味性の高い高価なお茶碗は今でも手製だが、100円ショップで販売されているお茶碗は二軸混練機で混練し、射出成形で成形されて、素焼き後絵付けし焼結プロセスでお茶碗としてできあがる。そのプロセスのほとんどがオートメーションである。

 

セラミックスの原料は陶土で、瀬戸物などは陶土がそのまま使われているという。すなわち材料費としては陶土の運賃程度であり、自動化されたプロセスによるコストダウンで100円という格安な価格でお茶碗を製造できるのだ。

 

かつてお茶碗は高かった。子供の頃は製造プロセスのほとんどが自動化されていなかったので人件費の寄与が大きかった。また絵付けも現在のようなシール方式では無く手で絵柄を書いていたので、上手下手が子供にも分かった。瀬戸物市にはその出来損ないのお茶碗が縄で束にして売られていた。価格的にはちょうど100円ショップのお茶碗のような感覚である。

 

毎年開催される瀬戸物市は、子供の頃、数少ない娯楽であった。ディズニーランドやサンリオピューロランドのようなテーマパークなどなく、さしずめ瀬戸物市は珍しいテーマパークのようなものだった。6個あるいは12個でひとまとめにされて、その束が300円や500円、良いモノは1000円で売られていた。

 

一つが10円以下というばら売りの茶碗もあった。ただしばら売りの茶碗では、同じものを家族の人数だけ揃えるのに時間がかかったが、瀬戸物市の楽しみの一つであった。ビミョーに色の違う茶碗は良い方で、同じような配色で同じ絵柄のようだが、どう見ても同じに見えない茶碗の中から可能な限り同じように見える茶碗を8個捜すのである。楽しかった。

 

カテゴリー : 連載 電気/電子材料

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2014.06/18 カオス混合(9)

ポリオレフィンとポリスチレン系TPEが相溶するという「笑劇」的実験結果で、それまでのもやもやが一度に晴れた。さっそくこのポリマーアロイを押出成形してフィルムを製造したところ偏光板ができた。ポリスチレン系TPEの量を増やしたところ偏光量は大きくなり、クロスニコルで暗くなる。社内で実験結果を報告しても誰も感心を示さない。また、当方もその目的で実験を行っていなかったのでこの結果はどうでも良かった。

 

アペルの耐熱性を上げるのが当方の仕事であった。ゆえにアペルについて錠と鍵の関係になる高分子を探索したのである。分子モデルを組み立て思考実験を行ったところポリスチレンとイソプレンを組み合わせるとぴったりと寸法があったので、まず易しいところから実験を行ったのだ。科学的にはフローリー・ハギンズ理論で否定されるが、技術的にはうまくゆくと思われる組み合わせである。

 

この組み合わせで成功したならば、ポリオレフィンで同様の分子設計を行えば良いだけである。さらには、得られたTPEについてポリスチレンを水添すればアペルに相溶できるポリオレフィンとなるはずだ。問題は、組み合わせるポリスチレンのTgが82℃なので、Tgを高めることができるかどうかだ。ただしうまく錠と鍵の関係のように相容すれば側鎖基が噛み合ってTgは上がるはずである。

 

ポリスチレン系TPEの量を40wt%まで増やしたところTgは126℃から139℃まで上昇した。ただTgを上げることはできたが最初から予想したとおり複屈折の問題が現れ、この設計ではレンズとして使用できない。複屈折があると分かっていたので偏光板の実験を行ってみたわけだが、一人で作業をしている現実を甘んじて受け入れなければならない残念な結果だった。

 

しかし、χが0でなくとも混練条件を選択すれば、分子どおしがうまく絡み合ってその結果高分子が相溶するという現象を見つけたことは重要な収穫で、カオス混合実現に大きく近づいた感触を得た。

 

年が明けて、この機能を使用しアペルと組み合わせるポリオレフィンの分子設計を行って、レンズの耐熱性を上げる、という企画を提案したが、フローリー・ハギンズ理論から考えて不可能だろうとボツにされた。アペルとポリスチレン系TPEで成功しているから簡単だ、と説明しても採用されなかった。

 

ちょうど写真会社がカメラ会社と「混合」された時期であり、両社がうまく「相溶」したシナジー成果が求められていた。カメラ会社では、PPSと6ナイロン・カーボン系のコンパウンドで中間転写ベルトを開発していたがうまくいっていなかった。このPPSと6ナイロンの組み合わせバインダーはカオス混合の効果を検証するのに魅力的に写った。

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.06/16 カオス混合(8)

三井化学のアペルという光学用ポリオレフィン樹脂は、バルキーな側鎖基によりTgをあげた分子設計がなされている。このバルキーな側鎖基でできる空間に入り込む高分子としてポリスチレン系TPEに着目した。すなわち錠と鍵の関係になるような高分子の組み合わせで相溶を実現しようというコンセプトを考案した。

 

これを実現するためには分子設計だけでなくプロセス設計も重要である。一般に樹脂はTm温度以上で混練される。この樹脂をTmより低い190℃で混練したところ、DSCのTgで計算されるエンタルピーが安定化するために30分以上かかった。Tm付近の200℃では、10分程度で安定化したが、190℃で安定化して得られたエンタルピーよりも高かった。

 

DSCで計測されるTgのエンタルピーは、高分子の自由体積の量に相関するとも言われている。すなわち混練された樹脂がアモルファスでスカスカな状態の場合には、このエンタルピーは大きくなる。逆にアモルファスでも密度が高い場合には、この値は小さくなる。実際に得られた樹脂の密度とこのエンタルピーの値とは相関していた。

 

錠と鍵の関係で相溶させるためにはこのエンタルピーが小さくなるような条件で混練しなくてはいけないだろう。この値が大きくなる条件で混練したのでは、χが0ではないのでうまくバルキーな側鎖基とポリスチレンのベンゼン環とが噛み合わないと想像される。小さくなる条件では、バルキーな側鎖基にポリスチレンのベンゼン環がひっかかり、抱え込みつつ混練が進行してゆくはずだ。

 

バルキーな側鎖基がポリスチレンを抱き込みつつ混練が進行したところでTg以下に急冷すればアペルとポリスチレンが相溶した樹脂が得られるはずである。ただし、このような現象は教科書や論文には書かれていない、あくまで勝手な想像、思考実験だ。技術者にはゴールを実現するための機能が必要で、この機能を探るための思考実験は大変良いツールである。真実が保証されていない現象で発現している機能でも、思考実験では難なく実現できる。

 

この思考実験と仮説とは異なる。仮説とは真理を組み合わせて新たな真理を導き出す(注)ことだが、この思考実験では、真実とは保証されていない条件まで動員して機能の働きを確認するのである。妄想でも構わないのである。ただしどのような思考実験を行い、実際の商品で機能がどの程度のロバストで再現されるのかは、技術者の経験に依存し、それを高めるのは技術者の責任である。

 

常識外れなTm以下で行う樹脂の混練で、そのTg付近のエンタルピーが下がって安定化するなどという科学的真理は存在しない。ゴムのロール混練で得た経験からの「期待値」である。樹脂補強ゴムでは、樹脂のTm以下の混練を何度も経験していた。そして樹脂のTm以上で混練するよりも速く混合が進むことを経験で得ていた。自分で勝手に剪断混練と名付けていた。

 

アペルを混練できそうな170℃から200℃までの温度領域で、短時間で最小のエンタルピーになる条件を探したところ、180℃20分という混練条件でエンタルピーは0.25mj/deg・mg以下と最小になった。この条件で、市販のポリスチレン系TPEとアペルとを混練したところ、完全な透明物は得られなかったが、Tgが一つになる混練物が得られた。

 

ポリスチレン系TPEの最適化を行えば完全に相溶して透明になる現象が観察される、と期待し、300程度合成処方を考え、それを実行してくれるメーカーを探したところD社が見つかった。実際には300もの合成をするまでもなく16番目のTPEと混練して透明なポリマーアロイが得られた。

 

(注)数学では、論理ですべてを証明できるが、物理や化学では論理だけで必要十分な条件で証明できない場合があるので実験が重要になる。すなわち実験により新たな真理を証明するのである。そのために実験サンプルやノートをずさんに扱う、という姿勢は科学者に許されない。

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.06/13 ビッグニュース

本日カオス混合(7)を書くつもりでいたら、昨日次のようなビッグニュースが飛び込んできた。

http://scienceportal.jp/news/newsflash_review/newsflash/2014/06/20140611_03.html

ちょうど今弊社のサイト www.miragiken.com でも燃料電池を取り上げたところだけでなく、このニュースで取り上げている白金触媒に置き換わる金属二核錯体酵素の存在を4月24日の本欄で書いたばかりである。

 

4月24日の活動報告では、東工大S先生の退官記念最終講義に出席した話題を書いた。アカデミアの最終講義だから居眠りをしたという話ではないが、読みようによってはその様にとられてしまう「技術の妄想」の話である。

 

自然現象を前にして、科学は真理を追究するが、技術は機能を考える。これは弊社の科学と技術に対する考え方で、研究開発必勝法プログラムの思想でもある。S先生の最終講義は、まさに酵素を模した金属二核錯体合成の「真理」を追究した話であり、その道半ばで退官するので後進はこの分野を完成して欲しい、と締めくくっていた。

 

S先生は学生時代の先輩で酒の飲みっぷりは良いが頭の回転の速い人だった。しかし講義終了後のパーティーで先生のお仕事は燃料電池の電極になる、というお話をしたところ、僕はその分野はわからんので、という言葉が返ってきた。若い頃はそのような返事をされない先輩だった。

 

年をとって人間が円くなったとか、謙虚な先生だという話をするつもりは無い。優れた科学者のご返事である。当方は、S先生の科学の講義を聴きながら、機能を思いつき燃料電池がひらめいた。そして講義の最中に燃料電池が機能して発電していた。それだけS先生の講義はすばらしく「科学的」世界であった。すなわち普遍性の真理が新しい機能の妄想を生みだし、もし目の前に実験室があれば、すぐにでも燃料電池ができそうな雰囲気になったのだ。講義は面白かったし、先生はその講義を科学者として締めくくられたのだ。ゆえに先ほどのご返事になったのである。

 

もしS先生の最終講義(注)にご興味のある方はお問い合わせください。後日この話題は、www.miragiken.com でも取り上げます。ただこのサイトの記事は書きためてあるので、そこへ割り込ませる関係上1ケ月以上後になります。(未来技術研究部では、昨日高分子同友会で勉強してきました藻類を使ったバイオディーゼルの話題が先に出てきます。)

 

(注)アカデミアの最終講義は通常参加費無料で開催されている。このような儲け話もあるので時間があれば出席するようにしている。

カテゴリー : 一般 宣伝 電気/電子材料

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2014.06/06 シリコーンLIMS(2)

リアクティブブレンド技術としてシリコーンLIMSを見たときに何が問題か。大きく分けて2つ原因がある、と推定している。一つは未だミラブルタイプのゴムについてその物性と高次構造の研究が不十分な点とLIMSにおける反応機構解析がゴム物性の視点から十分に成されていないことである。

 

軟質ポリウレタンフォームやポリウレタンRIMについては古くから研究されており、学会などで報告されたデータに優れた内容の論文が多い。しかし、シリコーンLIMSについてはその配合がブラックボックス化されており、公開された研究報告に学術的な内容が少ない。ましてや物性との関係については材料メーカーのカタログを信じる以外に情報は無い。

 

シリコーンLIMSの材料メーカーの戦略がシリコーンLIMSの技術的発展を遅らせている。換言すればRIMにはSが無いがLIMSとなっていることにより、末端ユーザーが価格に対して弱い立場になっている。

 

シリコーンLIMSでは御三家と呼ばれるメーカーが国内に3社存在する。トップのS社にそれを追うT社とM社である。この三者に見積もり書を出させるとS>T>Mとなる。S社の情報で得た製造条件で他の二者の材料の物性比較をするとS>T>Mという序列になるから面白い。しかし、T,Mそれぞれに製造条件を尋ね、技術レポートをもらい最適条件で評価するとS=T=Mとなる。

 

当たり前のような結果だが、実務の現場ではS社の営業マジックで基本を忘れ、うっかりと同一製造条件でT社とM社を評価するようなミスをする。S社の技術サービスはうまい、というよりもきめ細かい。だからS社の話を鵜呑みにしてT社とM社の材料を評価し、やはりS社の材料が一番良い、となる。

 

S社はサギをしているわけではない。やはりそれなりの技術を持っており、それで営業戦略を展開しているのだ、T社とM社はその点で負けてしまっている。それでは、S社がダントツに優れた技術を持っているのか、というとそうではない。ゴム技術という視点で眺めたときにまだ稚拙と感じるミスを行う。少なくとも1970年代のゴム技術で解決できていた内容を分かっていない品質問題に遭遇した。

 

シリコーンLIMSもwww.miragiken.com で扱う予定にしているが、まだ先の話である。もし質問があれば気軽に尋ねて頂きたい。シリコーンは無機高分子の代表的存在であり、当方は高分子学会無機高分子研究会の企画委員の実績もある。最近は他の講演会に忙しく研究会に参加していないが、今年は時間を作り参加したいと思っている。なお本日東工大で開催される学会  http://www.spsj.or.jp/entry/annaidetail.asp?kaisaino=943 でカオス混合の招待講演者になっている。順番では最後の講演者なのでお時間のある方は足を運んで頂けるとうれしいです。

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

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2014.06/05 シリコーンLIMS(1)

高純度βSiCの前駆体ポリマーはリアクティブブレンドという技術で合成されている。リアクティブブレンドの技術はポリウレタンRIMや、ポリウレタンフォームのワンショット法で経験していたが、写真会社でも同様の技術を退職前に数年担当することになった。それはシリコーンLIMSの技術である。

 

RIMは巻き舌で「リム」と発音するが、LIMSは舌先を上の前歯にくっつけて「リムズ」と発音する。「ズ」がつくので日本人が発音しても、RIMとLIMSの区別は可能である。但し地方によっては、SがついていないのにRIMを「リムズ」と言っていたところもあるので注意を要する。冗談でLIMSの読み方を尋ねてみたら同じ発音であり、大笑いになったことがある。方言を笑うのは失礼と思ったが、ご本人に大受けしたので一緒に笑った。

 

1980年頃開発されたシリコーンLIMSは、シリコーンゴムの廉価版である。シリコーンゴムには、ミラブルタイプのゴムとこのLIMSのゴムの2種類がある。前者はHCR(Heat Cured Rubber)あるいはHVR(Heat Vulcanizing Rubber)とも呼ばれているが、タイヤのゴムのようにロール混練で配合され、成形時に加硫し製造される。

 

LIMSとはLiquid Injection Moldingの略で、低分子液状状態のまま金型に注型し、反応させて重合と加硫を同時に行うシステムである。この説明だけも想像がつくように、ミラブルタイプの成形品のほうがかなりコストが高い。シリコーンゴムのコストダウン技術としてLIMSが登場したと思われる。

 

両者の開発を担当した経験から、高性能を要求される分野にLIMSを使おうという気になれない。リアクティブブレンド技術として未だ完成しておらず、換言すれば現在でもLIMSの開発目標は品質安定化と高性能化であり、30年経った今でも開発が続けられている。

 

シリコーンLIMSの用途は細かい電子部品からローラなどのゴム製品まで多岐にわたるが、いずれも高価でミラブルタイプで作っても価格差の無い部品まである。すなわち成形業者が稼ぐことのできる材料なのである。材料メーカー御三家もしっかりとこの材料で稼いでいる。ゆえに末端ユーザーは、LIMSで設計すべきかミラブルタイプで設計すべきかよく考えた方が良い。

 

業者によっては同じ値段のところもあってびっくりした。もっとも最初から同じ値段では無く、価格が決まって上市した後品質問題が起きてその問題解決のためにミラブルタイプで製造した部品を持ってきたのである。末端ユーザーは知識が無い担当者が多いのでシリコーンゴムは高い、と言ってミラブルタイプで見積もり、LIMSで製品を納めていたのである。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2014.06/04 高純度βSiC合成法の開発(14)

住友金属工業とのJVが、半導体用高純度SiC事業の発展のきっかけとなった。一人で開発の死の谷を歩いているときに、気分転換で外部の顧客探し、マーケティングを行っていた。セラミックスフィーバーはエンジニアリングセラミックスが中心だったが、SiCに関しては半導体用途に対する関心が高まりつつあった。

 

半導体冶工具もエンジニアリングセラミックスのカテゴリーであり、半導体分野の市場を持っていたメーカーで研究開発が進められ、SiC半導体冶工具分野は1990年にそこそこのマーケットが形成されつつあった。しかし、低コストSiCを製造できるアチソン法やそれよりも少し高純度化可能なシリカ還元法のSiCでは、高純度化のためにコストがかかり、高純度粉体は1kgあたり10万円以上で取引されていた。

 

また、ゴム会社のSiCは、シックスナイン以上の高純度であったが、既存の方法のSiCは、それよりも純度が低く、半導体用冶工具はSiへの汚染を防ぐためにCVDによる表面処理が必須であった。ある日自宅に住友金属工業の小嶋荘一さん(注)と言う方からお電話があった。無機材質研究所のT先生から自宅に電話するように言われたからだそうだ。T先生は当方が社内で辛い立場で一人で開発を進めていることをご存じであった。

 

当時の上司に相談したところ、話を進めて良いとの指示を頂いたので、会社に来て頂いた。話はとんとん拍子に進み、まずサンプル提供による共同開発から始めた。最初のサンプルは100g程度で良かったが、次第に量が増え、1ロット1kg要求された。6年間休眠していた高純度SiC量産プラントを稼働させる必要が出てきた。

 

JV立ち上げ後10kgの生産を行うのだが、休眠していたプラントを立ち上げるのは大変であった。上司から一人で仕事を進めるように指示されていたからである。誰も手伝ってくれる人はいなかった。当方の設計した高純度SiC生産用の横型異形プッシャー炉は、最低2人で運転する装置であった。自動化装置も組み込んでいたが、最適化しないままプロジェクトが縮小し装置が休眠状態となっていた。(続く)

 

(注)ゴム会社の高純度SiCが学会賞(日本化学会化学技術賞)を受賞するに当たり、開発の歴史を捏造した推薦書のために一度落選し、二度目に産学連携の成果であるとの修正が書き加えられた形で受賞している。この方の名前も入れて頂きたかったがT先生一人を入れるのが精一杯であった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2014.06/03 高純度βSiC合成法の開発(13)

ゴム会社の50周年記念論文投稿でボツになった夢が無機材質研究所で花開いた。それも昇進試験で同様の内容を書いて否定されたことがきっかけとなってのことである。真っ黄色の結晶粉体が得られたときに無機材研では大騒ぎになったが、ゴム会社ではしばらくその意味がわからず、社員の発明を国の発明として認めてしまう。当然その社員も発明者として影の薄い存在として扱われるのだが、結果としてそれが良かった。

 

ゴム会社の社長の前で半導体用高純度SiCの事業についてプレゼンテーションを行い、2億4千万円の先行投資が決定され、新たな研究棟も建設が決まった。1年前には、3年間留学していて良い、と邪魔者扱いだった社員に対して早く会社へ戻って会社で研究するように、と催促が来るようになった。結局1年半で留学を切り上げ、ゴム会社に戻り開発体制を整備する仕事から始めた。

 

新しい上司の下で10名前後のグループを想定し、テーマ企画も含めシナリオの作成を始めた。ところがこの上司は新しい研究棟の竣工式の日に病気で他界された。5月6日の竣工式が終わるやいなや翌日は葬式という忙しさであった。この上司の墓前には転職するまで毎年参拝していた。米国のゴム会社買収を推進するためリストラが行われ、一人で開発を続けるようになってからは、墓参りがモラールアップのきっかけとなっていた。

 

半導体冶工具について住友金属工業とのJVが決まったときにも真っ先に墓前へご報告にいった。だから、事業が立ち上がったので創業者はいらない、と仏様が判断されたのだろうとも思ったりもした。騒動が泥沼化したときに不思議にも写真会社から管理職としての転職の話が舞い込んだ。将来会社の幹部候補としての条件で年収も150万円程度上昇するという。当時の資料を見ると典型的な異業種のヘッドハンティングだった。

 

ただ写真会社で20年勤め、途中他の会社との統合もあり、転職時の約束など全て吹っ飛んだので、仏様の思し召しで無かったことに気がついた。サラリーマンの流動化が言われて久しいが、やはり日本では最初に勤めた会社で最後まで勤め上げた方が良い。甘言につられて転職し、約束が守られなかった時に惨めだ。当時問題が泥沼化して誠実に判断して自分がやりたい仕事を犠牲にした道を選んだだけに心は複雑である。

 

ただ、このことも含め高純度SiCについて考え始めてから幾つかの偶然が重なる事が多く、不思議に思っている。この時もセラミックスが仕事ではなく、高分子材料の技術開発を担当する話であり、ゴム会社が転職を拒む理由は無かった。ゆえに被害者ではあったが自己責任として真摯に対応することができた。

 

STAP細胞の騒動を見ていると渦中の若い研究者の将来が心配になる。もう少し自己責任の気持ちを持った方が良い、と思われるが、それを誰も指導していない。ここは理研を去る決断しかないように思われる。早く新しい環境で貢献と自己実現の活動を再開できるように努力した方が良い人生になるような気がする。

 

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2014.06/02 高純度βSiC合成法の開発(12)

昇進試験に落ちた連絡を受けた日の無機材研の話に戻る。昇進試験のショックに落ち込んでいたのは数分だった。I先生やT先生の激励でリベンジを決意した。無機材研でアイデアを検証することについて会社とも十分な調整をした。特許が無機材研から出願されることになる、というのに会社では誰も反対しなかった。検証結果に期待していなかったのである。

 

ゴム会社で、朝9時から高純度SiC合成のために用いる前駆体高分子の合成実験を始めたが、結局終了した夜9時まで食事抜きとなるハードワークとなった。それでも完全に透明になる条件が見つかり、その条件で炭素含有率が異なる10水準のサンプルを合成することができた。

 

この10水準のサンプルを用いて、炭化とSiC化の反応を行うのだが、許された時間は5日である。ゆえに4水準ピックアップして、SiC化の反応では、同時にこの4水準を処理することにした。その時電気炉の暴走が発生し最適条件となった話はすでにこの活動報告で書いた。運も味方したのである。

 

与えられた1週間の時間の中で1日残し、超高純度のSiCを安価に合成できるプロセスが完成したのだが、技術特許をどこが出願するのか改めて問題になった。I先生から基本的には無機材質研究所から出願して頂きたいが、会社とも再度調整するように、とも言われた。

 

当方は実験開始前に会社と調整が済んでいたのでどちらでも良かったが、ゴム会社に電話して驚いた。実験結果が出た後も、研究所のどなたも反対されなかったのである。結局この技術の基本特許はすんなりと無機材質研究所で出願することになった。

 

その後この特許を基に国のプロジェクトの準備が進められるのだが、ささやかな新聞発表もあったのでゴム会社が大慌てになった。結局ゴム会社が無機材質研究所と調整し、国のプロジェクトではなく、ゴム会社で国から斡旋を受けて開発を進める企画になった。試験に落ちてからたった一週間の成果で状況が改善されたことにびっくりした。

 

数ヶ月前のSTAP細胞発表の騒動と当時の無機材研のマネジメントを比較すると面白い。セラミックスフィーバーが吹き荒れていた時に当方の発明はSTAP細胞同様の扱いになってもおかしくない成果であった。30年経過した現在でも某セメント会社からこの技術を利用した類似の特許が出願されているような基本技術である。またゴム会社では現在でもこの技術で事業が展開されている。このような大きな影響力の予想された技術であったため、極めて慎重に研究テーマはマネジメントされた。

 

また、当方が企画から検証まですべて行ったにも関わらず、特許等の書類では末尾に名前が書かれるとか、あるいは全く当方の名前が無い書類もあった。単なるビジター研究員だったので当然であるが、全てについてI先生は当方への配慮として説明してくださった。

 

I先生の人柄を信じていたので、実質の発明者として扱われていない状況に不満を述べないだけで無く、すべてお任せした。その結果、何も騒動は起きず、その後ゴム会社で当方が研究開発できる体制ができ、少なくともある問題が起きるまでは、無難に研究開発を進める体制ができていった。

 

32年経過して思い返してみると、もしこの時STAP細胞発表のような騒動を起こしていたなら学位を取ることもできなかったろう、と胸をなで下ろしている。よい問題にしろ悪い問題にしろ、組織の中で発生した問題について中心人物は静かにしているのが一番である。その結果良くない方向に動いたならば、後日それなりの対応をとっても遅くは無い。これは組織人としての知恵でSTAP細胞の騒動で弁護士まで表に登場したのでは、無難に収集するのが難しくなる。

 

研究開発者にとって一番大切なことは、穏やかに研究開発できる環境である。そのために技術マネジメントが重要である。割烹着が登場した時点で少し胡散臭さを感じたがW大学の学位審査のずさんさまで明るみに出るパンドラの箱をあけたような騒動になっている。

 

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