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2015.08/06 未だ科学は発展途上(16)

カラーレーザープリンターの仕組みは、YMCKの4色のデジタルデータをレーザーで4つの感光ドラムに書き込み、それぞれのドラムにYMCK各色のトナー画像を形成する。そしてこれらを一度中間転写ベルトと呼ばれるベルト上に転写してトナー画像を完成させ、その後ベルトから紙にその画像を再転写し、定着工程で紙にトナーを溶融固定する。
 
各プロセスにおいてトナーの受け渡しは静電気の性質を利用しており、画像品質は各プロセスに使用されている半導体の部材品質とトナー品質に大きく影響を受ける。全行程のモデル材料による機能の科学的解明はされているが、実際の系は均質ではないので各プロセスの細部の誘電体の機能は複雑に変化する。
 
例えばトナーには粒度分布が、各部材には誘電率のばらつきなどが存在するが、それらの細かいばらつきが画像品質にどのような影響を与えるかは、未だ不明であり、新製品開発では、職人的技術が要求されたりする。
 
ところで、中間転写ベルトの抵抗の均一性は重要な品質項目であるが、ベルト全体で抵抗偏差が0という部材を量産することは不可能で、市販されているカラーレーザープリンターの中間転写ベルトには少なからず抵抗ばらつきやその他誘電率のばらつきが存在する。
 
高級機の中間転写ベルトは、導電性カーボンを分散したポリイミド(PI)溶液(ドープ)をベルト状の型にキャストするプロセスで製造されている。ドープには有機溶剤が含まれているので、カーボンをPIに均一分散しやすく、ベルトの周方向の抵抗偏差を小さくできる。
 
PIベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁未満であり、画像品質は高い。しかし、有機溶媒を使用するので環境負荷が大きいだけでなく、高価となる。もしPIを熱可塑性樹脂に置き換えることができれば、大幅なコストダウンを達成できるだけでなく、LCA的にも優れた技術になる。
 
そこで、安価なカラーレーザープリンターには、熱可塑性樹脂製の中間転写ベルトが使用されているが、これは高級機に比較して、要求される画像品質がやや低いから可能となった。ベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁を多少越えても良いので、導電性カーボンを分散した熱可塑性樹脂をベルト状に押出成形して使っている。
 
しかし、高級機である多機能印刷機に用いられる中間転写ベルトでは、PI並の品質を満たすベルトを熱可塑性樹脂で製造することは難しかった。それを非科学的な新たな技術で可能にした。PIと同等品質を目標にしたPPSベルトの印字品質はPIよりも高かった。

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2015.07/11 おもちゃ

事務所の窓際に鉢植えが3つ飾ってある。実は、この鉢植え、太陽光が当たると動くおもちゃである。100円ショップで見つけて飾ってみた。太陽電池とムーブメントがついて100円という価格に驚かされた。

 

機能性高分子の開発は、高分子でも面白い分野の一つである。ただ難しいのは、その応用となる出口である。多数のアイデアが生まれ消えていった過去の歴史を思うと、今更夢の機能性高分子の開発など特別に面白い分野には見えない。しかし、研究としては高分子材料の可能性を考えるときに面白いテーマで高分子の年会にゆくと新しいアイデア提案が一つや二つ必ずある。

 

技術の応用分野というとすぐに産業用途に目を向けるが、おもちゃも新素材や新技術の重要なマーケットの一つと思う。昔新素材だったシリコーンゴムは大人のおもちゃへすぐに展開されバカ売れしたそうだ。そんなある意味ショッキングな話を若いときに聞かされて材料の応用分野として産業用途だけでなくおもちゃも考える習慣となった。

 

ただ、おもちゃの泣き所は昔のダッコチャンのように売れるときと売れないときの落差が大きいことだ。また売り方も大事だ。楽しいと思わせる仕掛けが重要になってくる。さらに楽しい以外に癒やしもおもちゃに必要な要素だ。

 

工業用品の機能は明確でニーズに合わせた商品を企画すれば必ずある規模で売れる。しかし、おもちゃは顧客の「楽しい」とか「癒やされる」という機能が抽象的であり、その売れ行きを見込んだ商品企画は難しい。コンピューターゲームですらそのトレンドが大きく変わりつつあり、事業環境が厳しくなっているという。おもちゃを企業で新規事業として立ち上げるのは難しいが、大学であれば教材も兼ねて事業として立ち上げる方法がある。

 
 
 
 
 
 

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2015.07/10 シリコーンゴム(3)

シリコーンLIMSは、1980年代に急速に普及したシリコーンゴムの技術である。ポリウレタンのRIMとよく似ているが、ポリウレタンと大きく異なるのは、低分子量のシリコーン化合物をA液とB液の二成分にわけ、それを混合して用いる点である。

 

A液とB液の二つの成分をスタティックミキサーや二軸混練機、一軸混練機などで混合して射出成形したり、注型後加熱して成形する。ミラブルタイプのシリコーンゴムよりも生産性が高いので一気に普及した。また、シリコーンメーカーの間で激しい技術開発競争が起き、特許には各メーカーの棲み分けがくっきりと描き出されている。

 

例えば信越、東レ/ダウ、モメンティブの御三家のLIMSは、A液B液にそれぞれ特徴があり、その結果各社技術の限界が存在する。どのような限界があるのか弊社に問い合わせていただきたいが、科学と技術の違いを学ぶのに良い題材である。すなわち科学では真理は一つだが、技術における機能実現の方法は一つではない、という典型例である。

 

多機能複写機の定着ローラにおけるシェアは、上記の順番であり、信越化学がトップである。LIMSの設計に無理が無い点が優位に働いているのだろう。しかし、死角は存在し、他の二社はそこを攻めれば勝てる可能性がある。単身赴任早々福建に出張しなければいけなかったのは、まさにその死角が原因だった。

 

シリコーンポリマーの分野は、原料を安価に調達可能な御三家の寡占状態だが、最近伸びているシリコーン製食器のように素材の市場は今でも拡大しているので、新規参入可能な分野に思える。また、20世紀に開発された、特許の権利が切れた技術を用いても物性の良いシリコーンゴムを提供可能なLIMSを開発可能である。

 

中間転写ベルトの開発を行いながら、単身赴任という気楽さもあり、粘弾性の測定装置を買い込んで研究をしてみた。ワークライフバランスが叫ばれているが、研究が趣味の場合に仕事との境界が怪しくなり、バランスの取り方が難しくなる。単身赴任は家族と離れて寂しい環境であったが、家族に気兼ねなく研究のできる時間がたっぷりあった五年間でもある。シリコーンゴムは辛い単身赴任の状態で一服の清涼剤の位置づけとなった。

 
 
 

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2015.07/09 シリコーンゴム(2)

(昨日からの続き)シリコーンLIMSを使用した定着ローラで品質問題が発生した。問題を解析するには一つの真理が保証される科学的方法が便利である。そこで科学的に原因を推定すると可能性のある3つの原因が考えられた。真理は一つなので、発生している問題の現象を科学的に解析するとこの3つ以外に無い、と考えたが、定着ローラを製造している会社の技術者から、この3つの原因を否定された。製造現場で技術的に何か複雑な現象があるのかもしれないと推定した。そこで、急遽現場を見るために単身赴任してすぐに福建へゆくことになった。

 

福建の工場の現場で新たな発見があった。定着ローラメーカーの技術者がシリコーンLIMSと言う材料を単なる経験だけでとらえており、過去に問題が無かったので今も問題が無い、と経験主義の技術者がよく陥る誤りを犯していた。

 

加硫工程のトンネル炉の中を覗いたところ、空気のゆらぎがおかしい。温度が均一ならば対流は簡単な目視で観察されないはずだが、空気層に明確な境界が存在するかのようなゆらぎが観察された。あきらかに下側数cmの領域の温度が低い!と直感で思いつき、トンネル炉の出口に指を突っ込んでみた。

 

180℃に設定されている、と聞いていたが熱くない。おそるおそる指を高い位置に移動してみたところ、30cm程度の高さで我慢ができなくなった。コンベアベルトを触ってみたところ生暖かい。そこで思い切って腕を突っ込んだところ、現場監督者が慌てて飛んできた。

 

やけどはしなかった。直感が正しく、ベルトから15cm程度は生ぬるい程度である。トンネル炉内部にはファンがついており空気を攪拌しているのでそれはおかしい、と一度否定されたが、目の前でほほえみながら腕を突っ込んでいる当方を見て、それ以上の議論へ発展しなかった。

 

なぜだ、ということになり、現場観察を行ったところ、エアコンの風向きが怪しい、と言うことになった。エアコンはその年の始めから設置されていたらしい。反対側にあるトンネル炉の入り口のコンベアベルトは、きわめて冷たかった。

 

トンネル炉内部の温度分布が不均一のため、定着ローラの端部において加硫不足が起きる現象を考慮しなければいけない。加硫不足は科学的に推定していた原因の一つだったが、技術者の経験では起こり得ない現象だった。エアコンが技術者の経験を狂わせていたのだ。定着ローラの品質故障が必ず端部で起きているという市場の問題と一致し、さらに故障した端部が濡れたようになっている現象を裏付ける大発見である。

 

科学で真理は一つだが、その真理を技術者の経験から否定したくなる場合がある。その時は現場で、科学の真理を頼りにその原因を探ると早く見つけることが可能となる。データとともに確定している科学の真理は揺るぎない。トンネル炉を覗いたら技術者の経験のように空気が揺らいでいた。

 
 
 

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2015.07/08 シリコーンゴム(1)

主鎖がSiOで構成されているシリコーンゴムは無機高分子の代表的素材である。工業的に使用されているのは、ミラブルタイプとLIMSタイプの二種類である。前者は、高分子量のシリコーンを架橋したゴムで、後者は低分子量体を反応させて高分子量化するとともに架橋を同時に進行させて製造したゴムである。

 

1980年代に普及が始まったシリコーンLIMSは、瞬く間にシリコーンゴムの主流になった。身近に接するシリコーンゴムの大半はシリコーンLIMSである。ただやっかいなのは、この分野の情報は特許情報が最先端であり、最近は科学論文であまり取り上げられない。理由は過去のシリコーンの科学でその理解ができるぐらいに20世紀に研究が進んだからである。

 

但し理解はできるが、技術内容が複雑なため誤解も多い。退職前の5年間PPS・ナイロン中間転写ベルト事業立ち上げのため、豊川へ単身赴任したが狐にだまされて転写ベルト以外に様々な仕事をすることになった。このシリコーンゴムの仕事もその一つだが、単身赴任してすぐに福建へゆくことになりびっくりした。

 

福建はウーロンティーで有名であるが中国マフィアの巣窟とも言われている。そこで定着ローラーを生産している日系企業の指導をすることになった。高分子学会の無機高分子研究会でシリコーンゴムについて勉強していたので予備知識があり苦労はしなかったが、困ったのは現場技術者の無理解である。技術として長年開発をやり続けてきた自信から、科学的知識を馬鹿にする。

 

科学では真理は一つだが、技術では技術者の数だけ真理が存在する。機能が実現できれば、その機能を支える自然現象の理解は自由だ。科学で理解を進めれば真理は一つになるが、技術者の勘と経験の世界からの理解では真理は技術者の数となる。当方は技術者の真理を尊重しているのに相手は科学の真理を馬鹿にする。これでは話が進まない。それで現場で説明をすることになり、福建へ急遽ゆくことになった(続く)。

 

 

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2015.07/05 ついでに昨日の続き

昨日高分子自由討論会で頭がすっきりした話を書いた。すっきりしたのはポリカーボネートの問題だけではない。ほかにもいくつかあるが、母校の名古屋大学の先生が発表された3元系の共重合体ブレンドの講演は、先日この欄で紹介したラテックス生産プロセスでひしゃくを使った問題の理解に役だった。

 

今は使用されていないが、30年以上前に開発された写真会社のラテックスAは4元系で奇妙な分子設計だった。勝手な想像だが、3元系ラテックスの混合物ができているのではないか、と疑っていた。

 

20年前当方が担当して開発したラテックスBも少し難しい4元系のラテックスだった。しかし、これは必ず4元系になるようにいろいろと工夫した。過去に開発されたラテックスがあまりにも複雑であり、自分が担当したからには、と意気込んだが、特許を回避しようとしていたら結局4元系の複雑なラテックスになってしまった。

 

ラテックスAの製造釜を覗くと、表面に光が当たった時にいつもきれいな模様が観察される。ゴム会社に勤務していたときに出席した塗料のセミナーで人間の目はナノオーダーまで見ている、という話を聞いた。実際にナノオーダーが見えているのかというとそうではなく、ナノオーダーレベルの構造を変化させたときに表面の模様の変化として人間の目が認識するという意味だ。

 

ラテックスAでは偶然結晶構造のラテックスが一部できていたのかもしれない。名大の先生の講演は開会直後の最初の講演でまだ眠くなるような位置づけではないが、難解でありさらに技術としてどのような応用が考えられるのか分からない科学の講演だった。しかし、一つの真理を示しており、その真理のおかげで、ひしゃくを使った思い出が居眠りをしている頭の中に描かれた。

 

昨今では技術として応用できない研究を軽視する風潮があるが、自然界の新しい真理を生み出す科学の研究は実用性が無くても重要である。なぜなら技術は自然界の現象から人間に有用な機能を取り出し活用する行為であり、自然界の理解が不可欠だからである。

 

技術では、必要であれば科学で理解できていない現象から取り出された機能でも使わなければいけない状況もある。そのような状況における技術開発では新たな科学が生み出される可能性があるのだが、ラテックスAの事例から分かるように、たいていはほったらかしになっているのが現実である。

 

そして開発した担当者が行方不明になれば、技術は単なる行為として伝承されるがその意味が不明のためノウハウとして生かされなくなる。以前科学と技術で書いたが、技術を正しく効率よく伝承するためにはその科学的理解が大切である。そのために真理を導き出してさえいれば、科学の研究はそれだけでも価値がある、というとらえ方はいつの時代でも必要ではないか。

 

ひしゃくの使用回数を5回とした昔の技術者が直感で優れた人物と感じたのは間違っていなかった。ラテックスAでは、ラテックスBよりも規則正しい構造ができる可能性が極めて高い。ラテックスBよりもラテックスAでは必然的に捨て材が多かったはずだ。

 

(補足)ラテックスの合成を経験されていない方にはさっぱり分からない内容かも知れない。またその経験のある方でも4元系などの複雑怪奇な系を合成されていない方には馬鹿な話に見えるのかもしれない。技術開発で組み立てられ機能を発揮しているシステムの中には、その機能がなぜ発揮されているのか不明の技術が製品に使用されている例、として読んでいただければありがたい。当方は半導体用高純度SiCの技術を開発後、このような技術について科学で説明できることと説明できないことを分類しながら技術開発を行ってきたが、材料技術には科学で説明できないことが大変多いことにびっくりしている。最後に担当した電子写真システムは帯電現象を情報の書き込みに利用している。すべての部品を単純化したシステムではそのメカニズムの説明に成功しているが、実際に使用されている部品は複合材料であり、その帯電現象は複雑怪奇である。例えば当方の開発に成功した中間転写ベルト(PPS/ナイロン/カーボンの設計は前任者。当方はプロセシング設計と立ち上げを担当)は、押出成形で製造されているにもかかわらず、キャスト成膜で製造されるPI並以上の性能を発揮している。なぜ性能が良いのか不明である。科学で未解明な現象から機能を取り出し利用するという行為は、科学成立以前、すなわちニュートンが生まれる前の時代に人間が営みとして行っていたヒューマンプロセスである。弊社ではこのヒューマンプロセスの見直しを行っている。

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2015.07/01 科学と技術(9)

高熱伝導性高分子を微粒子分散系高分子として材料設計するときに、パーコレーション転移だけを考えているとうまく材料設計ができない。しかしその現象にはパーコレーションは関係している。複合材料の力学物性にもパーコレーションは関係しているが、その様子は電気抵抗測定の結果のように明確に観察されない。

 

微粒子分散系高分子において、微粒子の分散状態を科学的に論ずる場合には、クラスター生成を確率で取り扱うパーコレーションが科学の世界では一般的である。もう昔のような混合則で議論していては時代遅れである。

 

技術の世界では、現象をシミュレートするのにパーコレーションだろうが混合則だろうがかまわない。もし、ある微粒子分散系高分子にうまくフィットする混合則の式が見つかれば、それを用いて材料設計を行えば良い。現場の不良を考察するときには電卓を活用するが、そのようなときに混合則は便利である。

 

プロセスに異常があり、微粒子の添加量にエラーが生じているかどうか混合則で結論を出すことができる。技術では、機能が重要であり、微粒子のクラスター生成を議論することが目的ではない。このあたりを勘違いして大騒動になったのは、理研のSTAP細胞である。

 

STAP細胞を技術として扱っておれば、あのような結末にならなかった。もし技術として扱っていたならば、繰り返し再現性が上がるまで発表を控えただろうと思われる。STAP現象から再現性よく機能を取り出す手段が見つからなければ、STAP細胞ができないことは技術者ならばすぐに理解でき、実験をそのために計画する。

 

科学の研究を行っているのか技術開発を行っているのか自分の行為を明確に認識して取り組まなければ良い結果が生まれないのは高熱伝導性高分子の開発の場合も同様である。技術開発をやっているつもりで、パーコレーション理論にうまく合わないから、といって研究に取り組んでみるのは「時間とお金」があるならば良いことかもしれない。

 

しかし、パーコレーション理論にうまく合わない現象としてあきらめ、技術として試行錯誤で取り組むのも技術者ならば間違いではない。もしSTAP細胞についてそのように技術として取り組み技術として完成してから発表していたなら、あのような大騒動にならなかったろう。

 

技術開発の現場で面白い現象に遭遇すると科学の世界に目を奪われたりするが、そこをぐっとこらえて技術開発ができるようになりたいと思っている。科学の世界は技術開発が終わってからの楽しみにするようなストイックな技術者でありたい、と努力してきた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.06/30 熱伝導性樹脂

高分子は絶縁体であるとともに熱を伝えにくい材料でもある。ゆえに高分子を熱の良導体にするには、半導体高分子の設計と類似しているが、微粒子を分散することになる。

 

面白いのはパーコレーション転移と同様の現象が現れることである。しかし、半導体材料を設計するときとその現象の様子は少し異なる。エレクトロンとフォノンでは性質が異なるためだが、これも教科書にうまく説明されていない。

 

具体的な現象として、高分子に電気抵抗が低い微粒子を分散すれば、その導電性に応じて、微粒子分散系高分子材料の抵抗が下がる。しかし、熱伝導性樹脂の場合には、いくら熱伝導性が低い粒子を添加しても、その微粒子の熱伝導性に見合うほど樹脂の熱伝導率が下がらないのだ。

 

この現象に初めて接するとパーコレーションのいたずらか、と考えてしまう。しかしそれだけではない。電子伝導はトンネル効果のおかげで微粒子が多少離れていても起きるが、伝熱では微粒子の不連続点で極端に伝わりにくくなるのだ。

 

その結果、熱伝導率が異なる微粒子を集めてきて添加量と熱伝導率の関係をプロットすると、皆同じ曲線にのってしまう。ゆえに効率よく熱伝導樹脂を設計したいなら、科学的に考えるよりも技術的に考えた方が良いアイデアが出てくる。実際に特許なども公開されており、この分野の特許は読んでいると少し面白い。

 

 

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2015.06/19 ペンタックスのカメラ

ペンタックスから新しいデジタル一眼レフカメラが発売された。K-3Ⅱと名付けられたそのカメラには、面白い技術が使われている。リアル・レゾリューションシステムと呼ばれている技術がそれで、ベイヤ配列のイメージセンサーで泣き所と言われたモアレの発生を0にして画像を高精細化する技術である。

 

原理的にモアレの発生が無いイメージセンサーとしてカメラメーカーシグマが採用しているFOVEONが知られている。これは、RGBの各色のセンサーを縦に層状に形成した構造で、イメージセンサーの一つのセルでRGB各色の情報を得ることができる。ベイヤ配列の欠点を克服するために科学的に考え出された技術であることは容易に想像できる。

 

しかし、ペンタクスのシステムは、その方式から根性で考え出されたような技術に見えてしまう。ペンタクスの一眼レフは、K-7と名付けられた機種からイメージセンサーを磁気浮上状態で振動させる手ぶれ補正機構を採用している。K-7、K-5、K-5Ⅱ、K-3と手ぶれ補正の効果を順次改良してきた。

 

このメカニズムを使用して画像の水平を補正する機能までつけたりして、磁気浮上センサーを活用する方法について、とことん考えている。少なくとも製品を通してみえる技術者の頭の中には、イメージセンサーを磁気浮上で制御することだけが常にあったように想像される。

 

そしてセンサーを制御してベイヤ配列の各RGBの素子へ光を導くシステムを発想したのだと思う。FOVEONについては科学的な雰囲気が漂っているが、リアル・レゾリューションシステムには技術者の根性のようなモノが見え隠れするのは当方だけだろうか?

 

当方のカオス混合技術も科学ではなく根性のたまものだが、PPSと6ナイロンを相容させるなど科学では説明できない現象を引き起こし、ナノオーダーの混練まで可能にするびっくりするような技術ができた。但しど根性ではなく、由緒正しい再現性のあるヒューマンプロセスの根性で考案された。ちなみに高純度SiCの前駆体合成技術も、ゾルをミセルにしたラテックス重合技術、PENの巻き癖解消技術などの成功体験も同様である。

 

もちろん酸化スズゾルを用いた帯電防止技術や、防振ゴム、ホスファゼン変性ポリウレタンフォーム、フェノールフォーム天井材、ポリマーアロイ下引き、再生PETを用いた射出成形体など科学的に出した成果も存在する。科学的プロセスとヒューマンプロセスをうまく使うことが大切である。

 

 

 

 

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2015.06/14 SiCウェハー

パワー半導体の市場拡大とともにSiCウェハーの需要が伸びている。パワー半導体にはシリコンウェハーに代わりSiCウェハーが使用される。しかしシリコンウェハーのような大径化が難しく、現在は昇華法で製造されている6インチが最大である。

 

自動車分野では現在はハイブリッド車が主要なお客さんであるが、将来は燃料電池自動車や電気自動車の普及が見込まれ、SiC半導体分野は確実に市場が大きくなると言われている。

 

SiC結晶成長法には、昇華法とガス成長法、溶液法の3種類が存在し、古くから行われている昇華法が現在の主流で、ガス法では、成長速度が3mm/hと高いがなかなか大径化できていない。溶液法では炭素の溶解度をあげたり金属の混入を防いだりと、まだまだ課題が多い。

 

成長速度が遅い昇華法には限界があり、ガス法や溶液法が将来の主流、という見込みが立てられ、現在の開発の中心はガス法や溶液法であり、特許出願の主流である。ガス法はデンソーが、溶液法は新日鉄住金がトップランナーと思われる。

 

不思議なことに昇華法の成長速度を上げようという開発があまり行われていない。昇華法では公開された情報が多くその技術の限界が見えてきたからだが、それは科学的な視点による評価である。技術的視点では、昇華法にまだ可能性が残っている。弊社に問い合わせていただきたい。

 

すべての条件で、結晶成長速度の限界を昇華法では解決できない、という完璧な科学的な証明がされているならば昇華法の技術開発をあきらめても仕方がないかもしれない。しかし、この否定証明は現在のところ困難だろう。ガス法で成長速度の速い現象が見つかっているからだ。

 

 

 

 

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