ケミカルアタックとは、樹脂に油が付着し、その油により樹脂にクレーズが発生、やがて破壊に至る現象である。60年以上前から知られている現象で、当方が小学校低学年の時に、今井模型の社長から頂いた手紙にも書かれていた。
さて、ケミカルアタックについて調べてみると、十分な解説がなされていないことに気がつく。この品質問題で難しいところは、トランスサイエンスとなる現象も存在する点である。
よくSP値との関係で説明されていたりするが、SP値がずれていても発生するときがある。例えば成形体のウェルドラインのところは起きやすい場所である。しかし、これがいつでも起きるといえないところが難しい。
それから、常に応力がかかり、クリープが進行している所でも起きやすい。低密度の部分でも起きやすい。注意しなければいけないのは、大物の射出成形体である。均一な密度でできていない時に起きる。
実験室で促進試験を行い、因子を探す実験を行ってみると分かるが、樹脂の種類が異なると発生の仕方も異なることに気がつく。大変悩ましい品質問題である。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
シリコンゴムを製造する方法は、2種類ある。高分子量のシリコンゴムを加硫する方法と低分子量のシリコンを反応させて鎖延長と加硫とを同時に進行させるLiquid Injection Moldhing(LIMS)と呼ばれる方法である。
前者の方が耐久性が高く物性コントロールが容易である。LIMSは、プロセス依存性が大きく出るので、配合とプロセシングの両方を配慮しながら開発する必要がある。
LIMSでよくやる失敗は既存の生産プロセスをそのまま使用して品質の悪いシリコンゴムを生産していても気がつかないことである。
結論から先にいうと、配合が変われば、プロセス条件のロバストまでも変化するということである。ロバストをご存知ない方は、タグチメソッドを勉強していただきたい。
プロセシングのロバストが配合ごとに変化することを奇異に感じる方は、高分子を勉強していただきたい。その後タグチメソッドを勉強すると理解が深まるかもしれない。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
軟質ポリウレタン発泡体は、イソシアネート化合物とポリオール(多くはジオール)化合物との反応で合成されるが、この時、発泡剤を添加する。
発泡剤には、不燃性の低沸点化合物や水が使われ、水とイソシアネート基の反応で生成する二酸化炭素ガスも発泡剤となる。この時ウレア基が生成し、このウレア基が架橋点となって3次元ネットワーク化合物となる。
ゆえに、ウレア基だけでなくポリオール化合物の分子量がエラストマーの弾性率に影響する。また、ウレア基は凝集しやすいので、3次元構造といっても単純にウレア基のモル数だけでその構造は決まらない。
50年近く前に、この軟質ポリウレタンの高次構造と力学物性の関係を研究した。驚くべきことに、加硫ゴムと異なり、その関係が明確であり、高次構造と力学物性の関係を論じるモデルとして扱いやすい材料であることを学んだ。
例えば、ウレア基の凝集を破壊するような大きな立体障害となる化合物をイソシアネート基と反応させておくと、ウレア基の凝集が壊れ弾性率が低下する。それを工夫してやると、弾性率の低下を少なくし、損失係数を上げることも可能となる。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
ポリウレタン発泡体には、柔らかい発泡体から硬い発泡体まであるが、身近に見かけるポリウレタン発泡体は、柔らかいものがほとんどである。
柔らかい発泡体でも、ポリエステル系とポリエーテル系では、少し肌さわり感が異なる。寝具に使用されている柔らかい発泡体は、ポリエーテル系が大半である。
とりあえず、柔らかい発泡体、軟質ポリウレタン発泡体に絞って話を進めるが、この軟質ポリウレタンという材料は奥が深い。
コストを無視すれば、あらゆる粘弾性の特性をもったエラストマーを製造することができる。その物性制御技術もゴムのブレンド技術に比較すれば易しい。
ゴムのブレンド技術は、ただ混ぜているだけ、と思われている人がいるかもしれないが、配合とプロセシングの影響を受ける。ゆえにリバースエンジニアリングが難しい。
しかし、軟質ポリウレタンエラストマーのリバースエンジニアリングは加硫ゴムに比較すると易しい。すなわち、配合組成の再現性が高いのだが、この配合組成だけで物性がコントロールされているところが凄いのである。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
大抵の高分子材料は絶縁体なので、低湿度下では帯電しやすい。ゆえに、用途により帯電防止技術が採用される。例えば、親水性化合物を添加したり、表面に導電性物質を塗布したりする。
簡単な技術に思われている方が多いと思うが、電子部品の分野では意外と難しい。ただ材料の導電性を良くするだけではいけない場合がある。
また、摩擦帯電が問題となる時には、表面比抵抗を下げるだけでは対応できない場合がある。さらに、市場で問題にならないと分からない場合がある。
一番厄介なのは、市場で問題が発生した時に、それがゴムや樹脂の帯電防止技術が問題と気がつかない時や、気がついても対策が分からない時である。
転職して1年もたたない時に、印刷感材のクレーム対応に担当者と出かけて見た光景では、思わず笑ってしまった。帯電防止されたフィルムが金属板に吸着して搬送途中に張り付いていたのだ。
担当者は頭を抱えていたが、当方はすぐに原因が分かった。笑ってしまって担当者に申し訳なかったが、電気抵抗の低い(導電性の高い)金属板に帯電して吸着していたのである。
滑らない漫才は面白いが、金属表面を滑らない帯電防止フィルムも見ていて面白いのである。この面白さがわからないと対策案も出てこない。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
ポリウレタンをホスファゼンで変性するときに、ホスファゼンの官能基のデザインが重要である。イソシアネート基と反応させる時には、アミノ基の導入が有利である。
ホスファゼンをアミノ化するには、アンモニアを用いる。面白いのは常圧でアンモニアとホスファゼンを反応させると、アンモニア2分子のみと反応する。
しかも、同一のリン原子上に2分子のアンモニアが反応し、常圧ではそれ以上反応は進行しない。アンモニアガスの圧力を高めると、すなわち反応をオートクレーブ中で行うと、ホスファゼンのすべての塩素原子がアンモニアに置換され、6モルのアミノ基がホスファゼン1分子に導入される。
ゆえに、イソシアネート基との反応を前提としたときに、ホスファゼンのこの性質は便利である。すなわち、ホスファゼン1分子に2モルのアミノ基を導入したいならば、ホスファゼンを溶解した反応液にアンモニア水を所定量添加し、高速攪拌するだけで簡単にホスファゼンにアミノ基を導入できる。
残った未反応の塩素は、求核試薬で置換する。コストを考えるなら、ナトリウムフェノキシドを用いればよい。これも簡単に塩素を置換でき、低コストでイソシアネートを化学修飾できる試薬を合成可能である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
Li二次電池の固体電解質は、10-1000Ωcm程度の導電性があり、現在実用化されつつある。かつて,ホスフォリルトリアミドやホスファゼン固体電解質を学生時代に検討し、ゴム会社に入社後その材料の導電性について評価した経験がある。
その結果は、論文発表され、当方の学位論文に成果が記載されている。しかし、世間で注目されたホスファゼン固体電解質は、当方が検討したホスファゼン固体電解質と少し異なり、ホスファゼンポリマーの固体電解質である。
当方の検討したのは、環状ホスファゼンの側鎖基に芳香環をつけ、それをスルフォン化した化合物である。水素をLiイオンにイオン交換可能で、実際にイオン交換した場合の電気特性も測定している。
最良と思われる構造をもったホスファゼン化合物では、1000Ωcm程度のプロトン導電体で、これをイオン交換したLi電解質では、1000Ωcm程度の体積固有抵抗を示した。
当時は、今ほど知識が豊富ではなかったので、研究をそこで辞めているが、改めて過去の研究を見てみると、ホスファゼンポリマーとしていない点がメリットになり、100倍程度導電性を改良可能ではないかと思うようになった。
ちなみに体積固有抵抗の逆数が導電率となるが、昔は1000Ω㎝程度であると導電率で表現するのが恥ずかしい、と言われていた時代である。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
明日8日に日刊工業新聞主催で高分子材料の寿命評価と破壊に関するセミナーが開催されるが、ご興味のあるかたは、お問い合わせください。今からでも間に合います。
さて、高分子材料の寿命予測はトランスサイエンスのテーマであり、弊社の得意分野である。高分子の劣化と言えば、1980年代に溶液の中で酸化速度を計測する研究が流行している。
現実の高分子材料は、溶液など含んだ状態で使用されていないので、あまり意味のない研究である。意味のない研究であるが、アカデミアでは研究のための研究として流行していた。
しかし、実使用状態における高分子材料について、酸化状態を調べてみると、意外と酸化されていないことに気がつく。また、プロセシングによる劣化が問題視され、熱劣化防止剤が開発されている。
ただ、コンパウンディングにおいて剪断混練を行えばたいていの高分子材料は熱劣化がほとんど起きないので、この技術も無駄技術になる可能性がある。
このように、高分子材料の劣化について、技術開発は難しいのだが、2000年前後に高分子学会の雑誌高分子に、鉄道研究所を退職された研究者が、高分子の劣化パターンにはいくつかあり、云々という記事を書いていたが、あまり話題にならなかった。
この記事については、経験的に十分納得できる内容であり、その後の若手の研究発表が無いか調べてきたが、アカデミアはあまりこの論文に関心を示さなかったようだ。
昨年中国で開催された再生樹脂の国際会議に招待講演で呼ばれた時、この話を少ししたところ、結構質問が発表後あった。高分子同友会でこの時の体験談を報告しているが、技術情報協会の雑誌にも報告書が掲載されているのでご興味のあるかたは読んでいただきたい。
高分子材料を10年以上放置した時にどうなるかを研究する難しさは、サンプルの科学的信頼性である。実はそのために実験装置が開発されているのだが、この装置についてほとんど改良が進んでいない。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
2025年7月8日に日刊工業新聞社主催で「樹脂・高分子材料の劣化・破壊のメカニズムとその寿命予測法」というタイトルのセミナーを開催します。詳細は弊社にお問い合わせください。あるいは、日刊工業新聞社のサイトでお申し込み頂いても構いません。
最近再生材ブームとなり、再生材の価格が高騰しています。一方その品質が問題になり悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。特に再生材の寿命予測の問題が、という相談をお受けしたりすることがあり、このセミナーでもその答えを解説しております。
あるいは、樹脂やゴム部品を使用した製品が市場で問題を起こした場合に、迅速に対応する方法もセミナーでは事例を基に解説いたします。
50年以上前に線形破壊力学が登場しておりますが、なぜか化学系の学部では授業で取り上げられません。しかし、その形式知は、高分子の破壊を考えるときに、その考え方の基礎になります。
chatGPTは、高分子分野では形式知になっていないフラクトグラフィーを簡単にやってくれたりします。WEB上にセラミックスや金属のフラクトグラフィーの結果があるからですが、これは大変参考になります。
ただし、プロンプトデザインを行わないとハルシネーションの回答を得て悩むことになります。このような先端の話題も本セミナーで取り上げます。
カテゴリー : 高分子
pagetop
富士フィルムが、そのコーティング技術を応用して化粧品業界に参入したことは有名な話であるが、松田聖子と小泉今日子を起用したCMにはびっくりした。
ターゲットが若い人ではなかったからである。最近は男性用化粧品なども登場しており、化粧品業界は、今後も大きく成長する分野と思われるが、先日某国立大学教授の接待問題がワイドショーで紹介されたので、化粧品と高分子について調べてみた。
驚いたのは、まさにコーティング技術の応用分野として高分子技術者が十分に打ち込める面白いネタがたくさんあるのだ。PETやTAC表面のような単純な問題ではなく、皮膚表面には常在菌が大量にいて、善玉菌をうまく生かしながらコーティングしなければいけないのである。
このような分野では、一般の界面活性剤では、常在菌を殺してしまう可能性があるので、高分子活性剤の使いこなしが重要になってくる。
また、30年ほど前にゾルをミセルにしたラテックス重合に成功し、その技術を応用したゼラチン開発で写真学会から賞を頂いているが、こうした小技が必要だ。
善玉菌は殺したり、あるいはその活動を活発にしたりしてはいけないらしく、高分子活性剤や無機微粒子を活性剤として活用する技術が菌に優しい。
コロナが大流行しているときに、キスの問題(注)を論じた記事を読んだが、こうしたカップル間の問題回避にも高分子によるコーティング膜は重要になってくる。
某国立大学の先生の御乱行がきっかけでマイクロバイオームなる面白い話題を見つけた。男性化粧品の次は、カップルスキンケアが話題になるのかもしれない。
(注)10秒間のキスで8000万個の細菌が交換されるそうだ。どのように調査したのかは記事にかかれていなかったのでウソ八百かもしれない。1秒間にすれば800万個だが—
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop