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2023.09/13 新規ポリマーアロイ(1)

早期退職を決意したとたんに難しい仕事が舞い込んできた。配合を変えずに半導体無端ベルトの押出成形歩留まりを10倍にする仕事である。


某国家プロジェクトの目標として、配合と物性が1:1に相関し、などと間違ったことが書かれていたが、もしこれが形式知となるならば、この仕事の解は無い。


しかし、無機材料でも有機材料でも配合と物性は、1:1で対応しないことの方が多い。ゆえに国家プロジェクトの目標とされたのだろうが、これを1:1で対応させようとするセンスでは、新材料の開発など難しい。


しかし、そのような感覚のテーマに数億円の予算が毎年ついてプロジェクトが進められている日本の研究開発においてその任にある人は、弊社のセミナーで少し勉強した方が良い。


配合が同一でも高分子材料ではコンパウンディングプロセスが異なれば、物性は変化する。これは常識であり、それゆえ新たなプロセシング技術の研究は、いつの時代でも求められている。


PPS/6ナイロン/カーボンの単純な組成で半導体コンパウンドを製造するときに、少なくとも2種類の全く異なる高次構造のコンパウンドを作り分けることが可能だ。


技を磨けばこの単純な組成で3種類以上の高次構造を創り分けることができる。負の誘電率を有するコンパウンドまで製造できた、と書くとウソだという人がいるかもしれないが、電気技術者にコンパウンドの評価をお願いしていたら、彼が見つけてくれたのである。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/12 Pythonで学ぶパーコレーション

絶縁体高分子に導電性微粒子を分散すると半導体高分子が得られるが、この時に発生する現象がパーコレーションで、導電性微粒子の体積分率が増加した時に体積固有抵抗がある体積分率で急激に減少する領域ではパーコレーション転移が起きている。


このシミュレーションプログラムをPythonで作成しながらパーコレーション転移について学ぶセミナーを常時開設しているので、関心のあるかたは問い合わせていただきたい。


帯電防止技術と複合プリンターのキーパーツ開発事例をもとに、パーコレーション転移のシミュレーション方法とそれを活用した製品開発技法を解説し、同時にPythonによるプログラムの解説を行う。


このプログラム解説は、単なるPythonの文法解説以外にプログラミング言語としてのPythonの特徴をクリアにし、発展的独習が可能なように指導している。


プログラミング言語は、名古屋弁や大阪弁よりも易しく、コツさえつかめれば自学自習が可能であり、そのコツを弊社のセミナーでは伝授している。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/08 マテリアルズインフォマティクスの問題

かつて高分子のレオロジーについてダッシュポットとバネのモデルを用いて研究していた時代があった。しかし、クリープという現象についてこのモデルでは説明できないことが分かり、1980年代に頓挫している。


ゴム会社では、1970年代に数理モデルによる高分子研究は否定され、研究者はひどい目にあったらしい。当方のようなセラミックス事業を研究所で住友金属工業とのJVを起こしたケースでは会議前になるとFDを壊されたりという妨害を受けたので、当時のレオロジー研究者は大変だったのではないかと想像している。


さて、2010年代に第3次AIブームが始まって、日本でもマテリアルズインフォマティクスが流行したので、慌てて飛びついた企業が多いのではないか。


マテリアルズインフォマティクスという何か魔法のような名称だが、1980年前後に情報工学の講座設置ブームが起きた時の流れであるデータサイエンスの一分野である。


第三次AIブームでAIが導入されたデータサイエンスと書けばわかりやすいかもしれない。コンピューターという学習機械を用いてビッグデータで機械学習を行い、答えを見つけようという手法である。


これで新しい知を見つけられるとアカデミアが騒ぎ、マテリアルズインフォマティクスを推進する会社まで生まれている。弊社はこのブームが起きる前から問題解決法の一手法として多変量解析を指導してきたが、この多変量解析は、機械学習の一手法に組み入れられている。


これは少し問題である。確かに機械学習の側面もあるが、多変量解析には多変量解析の解析方法が存在し、その中には単純に回帰を求めるだけではない方法もある。


50年近く多変量解析を利用してきて、この手法を気軽に機械学習の一手法として説明しないでいただきたいと思っている。多変量解析の一部に機械学習もある、そして機械学習には多変量解析以外の方法もある、ぐらいのほうが誤解を生まない。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.09/06 Pythonで学ぶパーコレーション

絶縁体高分子に導電性微粒子を分散し抵抗測定を行うと、その添加率(体積分率)に従い、抵抗が減少する。そしてある添加率のところで急激に抵抗が減少する現象が観察される。


これがパーコレーション転移と呼ばれる現象で、電気抵抗だけでなく、弾性率や線膨張率でもその変化を確認することができる。ただし、電気抵抗のように桁数が大きく変動する変化ではないので、あまり注目されていない。


ただ、昔から混合則とか複合則というルールがあり、未だにいいかげんな教科書でこのルールを見かけることがある。1990年ごろ、当方が日本化学会で研究発表を行ったときに、パーコレーションという言葉を用いたが、会場がシーンとなってびっくりした。


他のセッションでは、複合則とか混合則という言葉が常識的に使われていたので、奇異に思われたのだろう。当方は1979年に指導社員からパーコレーションの説明を受けている。


当時はスタウファーの教科書が頼りであったが、化学系の人でこの教科書を読んでいる人は皆無だった。その教科書によれば、カリフォルニアの山火事について数学者たちがボンド問題とサイト問題として議論したのが最初だという。1950年代で当方が生まれた頃の話である。


それが高分子の世界で一般的になるのに40年以上かかっている。数理モデルを数式で理解することが難しかったからである。この数式はコロナの流行でよくテレビで見たようなクラスター理論と通じている。


無限クラスターが生成するところがパーコレーションの閾値である。微粒子が真球であれば、体積分率で30%前後のところである。長径と短径の比、アスペクト比が大きくなるにつれこの閾値は小さくなる。


数式で数理モデルを理解しようとすると大変であるが、コンピューターの中で実際に微粒子が分散する状態を再現して計算すると理解しやすい。


このシミュレーション法についてエンジン部分のPythonプログラムを配布してWEBセミナーを弊社で行っています。Pythonのプログラミングを学ぶには良い教材ですのでお問い合わせください。パーコレーションを理解できるとPythonが身についている、というセミナーです。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/04 人生はカオスである。

ゴム会社に入社したきっかけは、オイルショックの影響で就職氷河期だったこと、車に関心があったこと、たまたま合格通知が他の企業よりも早く来たことなどの要因が重なっている。


それでも入社前送られてきた創業者の伝記を読み、啓発されて高純度SiCの半導体治工具事業を起業しサラリーマンとしては12年間勤務したゴム会社に多大な貢献をしたと思っている。


しかも、この仕事を成功させるまでに十分な残業代が支払われていないばかりか、出張費など持ち出しも多かった。さらにこの仕事の前に担当していた高分子の難燃化技術では、天井材や寝具などの成果を出しているが、過重労働の毎日だった。


これらの技術企画は当方でなければ立案出来ないと言える個性豊かな企画と言われている。これらの企画の前に担当した業務が、研究所に配属された最初の仕事となる。


それは、ゴム会社に勤務した経歴として分かりやすい、樹脂補強ゴムの開発である。3か月という短期間であったが、バンバリーとロール混練の実技を身に着けるには十分な作業量と、スキルと高度な専門知識を学ぶこともできた。


レオロジーの専門家であり、実技のスキルも高かった指導社員のおかげで、1年間の予定のゴールを3か月で実現でき、混練のスキルを研究所で最も高いレベルと転職前に言われるほどの濃厚な毎日だった。


この時ご指導いただいた知識とスキルのおかげで、写真会社転職後様々な成果をあげることができた。ゴム会社では大学院で学んだ知識で成果を出したが、写真会社では、ゴム会社で3か月間学んだ知識で成果を出している。


面白いのは、この3か月間に指導社員から出された宿題を写真会社の最後の5年間で実現できたことである。指導社員からはカオス混合技術について研究するように言われていたが、この指導社員から別れた後、ゴム会社で研究する機会は無かった。


それが、写真会社で偶然生まれたのだ。企業の統合により、カメラ会社で6年ほど研究開発されていたテーマを担当することになったためである。そのテーマは、国内で高分子技術ではトップクラスの企業からコンパウンドが提供されて進められていた。


そして、コンパウンドの改良をしなければ問題点を解決できないテーマだったので、その企業にお願いした。ところが、断られた上に勝手に自分でやれ、と言われたので、カオス混合プラント建設のチャンスが生まれた。

そして大成功だった。その後、このメーカーからもカオス混合に関する特許出願が10件ほど出ているのを知り、何となく嬉しかった。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.09/01 お化けの話

フィルムの帯電防止層を開発していて、負の誘電率に遭遇した時には驚いた。ちょうど福井大学客員教授に就任した頃で、お世話になった先生が電気化学の教授だった。


ベセラゴが予言したそうだが、キワモノと言われており、データに絶対値をつけて発表したほうが無難だとご指導を受けた。


すなわち、研究の本筋とは関係ないところで研究の価値を下げてしまう問題があったからである。当時取り組んでいたのは、パーコレーションの検出方法である。


当方は、技術経営には興味があったが、基礎研究に身をささげるまでの勇気は無かった。ゆえに、インピーダンスに絶対値をつけて、誘電率の議論とならないように発表を工夫している。


それから10年以上経過して、半導体無端ベルトの開発を担当したときに、「倉地さん、たいへんなものができてます」と電気専門の部下がデータを見せてくれた。負の誘電率である。


確かに大変な現象であるが、半年という限られた時間の中で、カオス混合プラントを立ち上げ、無端ベルトの押出成形歩留まりを10%から100%にしなければならない状況で、少し迷惑な話だった。


高分子の導電性を制御するために、導電性微粒子を絶縁体である高分子に分散し、そのパーコレーションを制御する必要がある。その実験過程で負の誘電率がお化けのように現れた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.08/30 酸化第二スズ

酸化第二スズ単結晶は絶縁体である。しかし,これがアモルファスになると1000Ωcm前後の導電性を示す。ここで注意しなければいけないのは、酸化第二スズの非晶質体はガラスではない、ということだ。


そもそもガラスとは何か。これが意外にもあまり教科書に書かれていない。ガラスは非晶質体であるが、非晶質体には、ガラスとガラス以外が存在する。


それでは、ガラスとガラス以外は何が異なるのか。それはガラスはガラス転移点を持つが、ガラス以外の非晶質体はガラス転移点を持たない。


酸化第二スズ非晶質体のDSCを測定すると結晶化温度は存在するが、ガラス転移点は観察されない。ゆえに酸化第二スズの非晶質体はガラスではない。


四塩化スズを加水分解すると、酸化第二スズゾル(以下酸化スズゾル)が生成する。この酸化スズゾルには、わずかな水が含まれている。非晶質ゆえに存在する構造水と自由水に分けられ、自由水で導電性が発現するのではないかと想像している。


想像している、と曖昧なことを書いた理由は、1年ほど研究して明確な真理とできなかったからである。ただ、酸化スズゾルを加熱して、重量減少を測定し、導電性を計測すると、重量が減少し始めたところで導電性が1桁悪くなる。


さらに加熱してゆくと300-500℃あたりで、半導体となるがその抵抗を一定にできなかった。また、X線散乱の実験を行い、アモルファスハローの部分を観察すると再現性のない変化を観察できる。


おそらくこのあたりについては、実験数を増やしてゆくと、あるばらつきの範囲で形式知とできるかもしれないが、時間が無かったのと担当者が異動したので研究を辞めた。


どうもこのような地味な研究は若い人に嫌われるようだが、世の中にはきれいなデータを収集できない現象は多い。STAP細胞の実験ではそれを少し手抜きしたので大騒ぎとなった。


「あの日」を読むとマウス云々のところが気にかかるが、世の中には不誠実な学者は多い。形式知を扱う学者は誠実であってほしい。


当方も某国立大学の不誠実な先生に当方のデータで勝手に論文を出されたりして、研究成果を盗られた経験があるが、形式知を扱う研究者は誠実であることが求められる。


ゆえに当方は酸化スズゾルの研究について形式知まで追い込めなかったので、正直に形式知とできなかった、と述べている。しかし、実験結果から想像を膨らませると、酸化スズゾルの合成条件により導電性が変わると予想できる。


そこで実際にいろいろと実験を行ったところ、100Ωcm程度の導電性を示す酸化スズを合成できた。ここまで低くなると、ITOに肉薄する。すなわち、Inをドープしなくても同等の導電性にできたならCDが可能となる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.08/29 ブリードアウト

高分子材料には、不足する機能を補うために添加剤が練りこまれている。あるいは合成後に必要な添加剤を分散し、モノアゲして成形体とする場合もあるが、添加剤無添加の成形体は極めてまれである。


この高分子に添加された物質が、時間経過とともに表面へ浮き出てくる現象をブルームとかブリードアウトとか呼んでいる。この現象を完全に抑え込むためには、添加剤を高分子に反応させるしかない。


しかし、高分子の側鎖を添加剤で変性し、成形体の機能を無事改善できてもこの現象は起きる。変性された高分子がレピュテーション運動により、表面に浮き出てくるからである。


実は添加剤が添加されていなくてもこの現象が起きているのだが、分子構造が一致しているので検出不可能である。すなわち高分子のブリードアウトという現象を全く起きないようにすることは不可能で、起きていても分からないようにすることが精いっぱいの対策となる。


それをどのように行うのかが技術であり、この問題を多数経験していると、現場で遭遇した時にいろいろなアイデアが浮かぶ。すなわち経験知で対応しなければ解決できない問題である。

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2023.08/25 ブリードアウトのセミナー

ブルームとかブリードアウトとか呼ばれたりするが、高分子成形体表面がべたつく現象といえばご理解いただけるのではないか。もし、この現象でお困りの方は問い合わせていただきたい。セミナーを企画します。


詳細はこのホームページのセミナーのコーナーをご覧ください。なお、開催希望日につきましては9月15日以降として頂きたく。希望日を第一希望から第三希望まで書いてお申し込みください。


写真会社へ転職した時に最初に成果を出したのは、フィルムの帯電防止技術であるとこの欄で書いている。この帯電防止技術では、ブリードアウト問題も起きていた。


詳細はセミナーで説明するが、高分子材料では成形体に求められるスペックを実現するために様々な添加剤が用いられている。高度な難燃化機能を要求される成形体では、15%近くも難燃剤が添加されるのでその選択を誤るとブリードアウトに悩まされることになる。


帯電防止技術では、イオン導電性高分子を用いるときに30%以上の添加が必要になる。界面活性剤を表面にブリードアウトさせる技術では数%の添加で良い場合もある。


転職した時に成果を出した技術ではイオン導電性高分子が用いられていたのだが、イオン導電性高分子を架橋させる硬化剤による工程汚染の問題が大きかった。


長年の研究課題だったそうで、どのように解決したかはやはりセミナーで解説するが、興味を持ったのは当時の担当者の開発課題への対応である。


市場でブリードアウト問題が起きていても、工程汚染の問題解決業務が忙しかったので営業に対応してもらっていた。すなわち、ブリードアウト問題は、フィルムの品質ばらつきとして起きていたので、ブリードアウトしない製品が大半だった。ゆえに営業で対応できたのである。


このような業務の進め方をやっている企業は多いようだが、技術の姿を見えにくくする原因となることを知ってほしい。工程汚染の問題とブリードアウト問題は関係していた。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.07/17 高分子と火災と評価技術(4)

高分子の不燃化は難しいが、燃えにくくする技術ならばできそうだ、と1970年前後の高分子材料の研究者は考えた。そして高分子の難燃化技術の開発がそのころから活発になるのだが、「燃えにくく」する技術の評価をどうするかが議論された。


1971年に書かれた書籍には、LOIに関して触れられていない。空気中で実際に燃焼させてそれを観察する評価技術が中心だった。


そのころ、燃焼とは急激に進行する酸化反応なので、どのくらいの酸素濃度で継続燃焼できるのか、という指標が科学者達から考えだされたばかりである。


1995年にJIS化されているが、当方は1977年にスガ燃焼試験機を使用し、PVAフィルムのLOIを測定している。その時PVAフィルムの燃焼速度が速いために使用法に書かれた条件では測定が難しかった。


点火器の炎の大きさなどを工夫し、測定可能な条件を見出して、燃焼を継続可能な最低限の酸素濃度を求めることができた。その同じ条件で、新規反応型難燃化剤で変性されたPVAについてLOIを測定したところ、添加量に対して線形性の高い関係が得られた。


LOIの測定法について書かれた論文には、ろうそくの炎のように燃焼、と書かれているので、測定法の工夫は、どのようにそのような燃焼条件を実現するのか、がコツとなる。


東日本大震災ではキャンドルアートが話題になり、最近再度そのアーティストが話題になっているが、規格に準じた測定において測定不能となるサンプルのLOI測定には、ちょろちょろと美しく継続燃焼できるように調整するアーティスティックなテクニックが重要である。


規格に準じて評価し測定不能と結論を出すのも良いが、実験の目的によりどうしてもLOIを知りたい時がある。その時には、規格外の方法であっても測定可能な条件があることを知っておいてほしい。


LOIは、ろうそく燃焼法として書かれた時代もあった。規格に準じて測定を行うことは大切だが、測定不能であっても工夫して測定値を求めると、タグチメソッドの基本機能として使用可能である。

カテゴリー : 一般 高分子

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