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2023.11/14 混練技術に対する誤解

20世紀に高分子のコンパウンディングに関する研究が進み、20世紀末にはウトラッキーの発明による伸長流動装置が注目された。そして、2000年から数年行われた高分子精密制御プロジェクトでもこの装置に関する研究がとりあげられている。


生産性に難があったので、残念ながらこの装置は実生産で使用されていないが、2005年にはコニカミノルタで当方の発明によるカオス混合装置がPPS無端半導体ベルト用コンパウンドの生産に実用化された。


このカオス混合装置は、ウトラッキーの発明を見直し、生産性を改良した装置である。生産性を改良したところ、カオス混合装置となった。


この装置の特徴は、細いスリットと空洞の組み合わせである。ウトラッキーの伸長流動装置の上位概念で改良案を考案し、ウトラッキーの装置とは異なるコンセプトの装置に仕上げた。


この発明方法は弊社の問題解決法でも解説しているので、ここでは、混練技術について焦点を絞る。混練技術は、未だ科学的解明が不十分な分野である。そのため、ちょっとしたアイデア装置で成功するとそれで鬼の首をとったような研究成果と誤解する人もいる。


このような状態になっているのは、混練の多くの教科書が、コンパウンドのマトリックスを構成する高分子をセラミックスの粉体のように扱い、分配混合と分散混合で扱っていることが原因ではないかと思っている。


当方が1979年にゴム会社へ入社し、指導社員から毎朝3時間で3か月間ご指導いただいた混練技術では、剪断流動と伸長流動、そしてカオス混合の話が中心だった。この内容を知りたい方はゴムタイムズ社から数年前に発刊された当方の著書をご一読ください。


例えば昨年二軸混練機の先に空洞のダイをつけると再生材の物性がバージン材と同等になる技術が公開されたが、これは当方の発明したカオス混合装置のスリットと空洞の組み合わせ一段の技術と見なすことができ、当方の発明の特許抜け技術に位置づけることができる。


ここで注意しなければいけないのは、論文では二軸混練機だけで再生材を混練すると物性が悪くなる、としていることだ。適切な二軸混練機とスクリューセグメントを最適化すれば二軸混練機だけでも再生材の力学物性をバージン材に近づけることができる。


すなわち、バンバリーとロール混練のバッチプロセスよりも二軸混練機の混練性能は低いが、使いこなす工夫で、最大限まで高める必要がある。二軸混練機はハサミと同様で使い方が悪ければ良好なコンパウンドはできない。


バージン材と再生材では混練条件を変更する必要があることを知らない人が多い。PEの再生材はバージン材と異なる混練条件で混練しなければ、良好なコンパウンドとすることができない。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.11/09 高分子の劣化問題

フィルムカメラはペンタックスを学生時代から愛用し、MZ-SとMZ-3を2000年頃使用していた。ちょうどデジタル一眼レフが出始めのころである。C社とN社の開発競争が話題になっており、ペンタックスは蚊帳の外だった。


そこでデジタルカメラは某社に決め、レンズ資産を考慮し、ハイアマに人気が高かったフィルムカメラ**を使い始めた。すなわちこの頃3台の一眼レフを使っていたが、使用頻度の高いのはMZ-Sだった。


**の使用頻度は低く、防湿庫に眠っている時間が長かったのだが、ある日フィルムカバーとなる裏蓋フックが壊れているのを発見した。樹脂製のフックであり、クリープ破壊であることはフラクトグラフィーから明らかだった。


すなわち、設計ミスである。サービスセンターにクレームを入れたら、10000円以上の出費となるというので修理をあきらめ、当方のセミナーで事例として使わせてもらうと許可をとった。受付担当者は親切にも許可してくれた。


さて、ほとんど使わなかったカメラの裏蓋フックが経時で何故壊れたのか。これはセミナーで解説するが、御巣鷹山の墜落事故でも活用されたフラクトグラフィーで推定できるのだ。そしてそのような破壊機構を知っておれば防ぐこともできたのだ(ちなみにペンタックスカメラは金属製で壊れたことが無い。(注))。ゆえに設計ミスとサービスセンターでも告げている。


タグチメソッドを使用しておれば防ぐことができた品質問題であり、F100が設計された時はちょうどTMが普及し始めた頃である。


興味のあるかたは是非下記セミナーに参加していただきたい。

日刊工業セミナー

11/13 樹脂・高分子材料の劣化・破壊のメカニズムとその寿命予測法(大阪)

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/6839

(注)ペンタックスを50年愛用しているが、品質問題を一度も経験していない。今はリコー社のブランドとなったが、高品質を低価格で供給する良心的なメーカーが無くなるのは寂しいことである。せめてブランドだけでも永遠に残ってほしい。最近はK3を使っている。ちなみに性能がダントツの某社デジカメを2種とミラーレス2種をこの20年近く使用したが、高速連射ができたカメラでミラーが暴れる品質問題に遭遇した。これは購入から1年経っていなかったので無償修理、またミラーレスでも無償修理の品質問題にあっている。性能が高くてもロバストの低いカメラではシェアーを落とす。やはりTMを使うべきだろう。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.11/08 高分子の再生材

2015年から声高に叫ばれた脱高分子は、昨年の再生材に関する法律の施行で沈静化した。また、回収業者による再生材ビジネスも立ち上がってきた。


かつて再生材は安かったが、グローバルに高分子のリサイクルが見直された結果、今やバージン材よりも高価な再生材も存在する。


その結果、バージン材に再生材をブレンドしただけの活用から積極的に再生機能樹脂を創り出そうとするアイデアも出てきて、幾つか特許が公開されている。


ところで回収業者が再生樹脂をビジネスにするときに、使い物にならない廃材も出てくる。これらはサーマルリサイクルにまわす以外に現在のところ方法がないそうだ。


着色の問題もあるのでサーマルリサイクルが一番簡単だが、黒い樹脂として再生すれば活用の道も出てくる。事務機には黒色の樹脂部品は多い。


その時多種類多成分のポリマーブレンドでも力学物性を満たせるようにプロセスも含めて配合設計しなければいけない。詳細はお問い合わせください。


なお、再生材を扱うにあたり、耐久性劣化問題が発生するが、今月の以下のセミナーでその考え方を含めた技術指導を行います。

日刊工業セミナー

11/13 樹脂・高分子材料の劣化・破壊のメカニズムとその寿命予測法(大阪)

https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/6839

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.11/04 難燃性高分子

ほとんどの有機高分子は空気中で燃える。室温で燃えにくい高分子でも温度を上げればよく燃えるようになる。ちなみに400℃以上では空気中で引火しない有機高分子は存在しない。


すなわち、空気中と同じ酸素濃度で400℃以上に加熱すればどのような有機高分子でも燃える。ただし、継続燃焼できるかどうかは、有機高分子の一次構造と高次構造あるいは難燃剤の有無で変化する。


仮にうまく炭化し、継続燃焼を阻止できたとしても、450℃以上の空気中では炭化構造さえ燃えてしまう。難燃性高分子を50年近く前に研究し見出した結論であるが、かぐや姫の期待に応えられない結果にがっかりした。


難燃性高分子という言葉が使われるようになったのは1970年以降であり、それ以前は不燃性高分子の研究が真剣に行われている。


ダイヤモンドは炭素でできているが450℃程度では空気中で燃えないので、科学者は期待して不燃性高分子にチャレンジして耐熱性高分子の研究が進み、1970年末にはその総説が発表されている。


耐熱性高分子の中には、空気中で容易に着火しない構造の化合物も存在する。フェノール樹脂はその耐熱性高分子の一つであるが、製造条件により、空気中で容易に着火して継続燃焼するようなフェノール樹脂を作り出すことができる。


この事例は耐熱構造として一次構造だけでなく高次構造も重要であることを示している。フェノール樹脂は、高次構造の制御により、極限酸素指数で20前後から40前後まで変化する耐熱性高分子である。


高分子の高次構造について解析が難しかった時代の耐熱性高分子の研究は、群盲像をなでる状態に近かったのではないか。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.10/24 プロセシングによる相溶現象

材料技術者としてゴム会社でスタートできたことは、自己実現を考慮した時に幸福だった。特に混練の神様のような指導社員に3か月指導していただいた記憶は今でも鮮明に思い出される。


その時の講義録を基に、ゴムタイムズ社から混練プロセスの本を出版させていただいたが、もし、混練に興味が出てきたら一度読んでいただきたい。巷の混練について書かれた書籍と少し内容が異なる。


混練でおきる現象を考えるために参考となるようにまとめているので、読みやすいと思う。また、二軸混練機についても説明を加えているのでゴム技術者から樹脂技術者まで広い読者の参考となるはずだ。


さて、この本には書いていないが、相容化剤が添加されていなくてもプロセシングで相溶現象を起こすことが可能である。しかし、これは非科学的な現象なので、本では実験データだけ示した。


実はロールでゴムのブレンドを行うと、しばしば観察される現象である。また、指導社員からロール混練では、ロール上で起きる現象について科学にとらわれず観察するように指導された。


2成分のゴムのブレンドでは、その組み合わせにより、全体が透明になって混練が進行するケースや半透明で進行するケースなど様々である。これらを観察することでカオス混合のアイデアが生まれた。


カテゴリー : 一般 高分子

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2023.09/22 新規ポリマーアロイ(6)

PPSへ可塑剤や他のポリマーを分散すると、その添加量に応じてTgが変化する。例えば6ナイロンを添加すると、6ナイロンのTgは上がり、PPSのTgは下がる。


すなわち、ポリマーの場合には2種類のTgが観測され、カオス混合により両者は相溶して一つのTgとなるのだが、PPSのTgは相溶により10℃前後下がる。


相溶は、非晶質相だけで起きるので、Tgが下がる欠点はあるが、PPSの靭性改善には良い方法であり、例えばPPSフィルムの場合に6ナイロンがただ添加されただけの場合のMITは3000前後であるが、これが6ナイロンの相溶したフィルムでは20000以上に改善される。


脆いと言われるPPSだが、ここまでMITが改善されると高速プリンターの動的部品である中間転写ベルトへ利用できるようになる。


PPSの改善効果を狙って退職後ナノポリスで研究をしているのだが、このTgを下げないで物性改善できる添加剤を10年ほど前に開発している。


低分子の添加では、低分子のTgは観察されないので、低分子の添加によりPPSのTgが下がる現象だけが観察される。しかし、10年前に開発されたPH01の添加では、なんとPH01の添加量を増やしてもPPSのTgは変化しない。


すなわちPPSの耐熱性を阻害しないで、その靭性を改善できる添加剤である。PH01は低分子ではないが、このような物性を分子設計されたオリゴマーである。詳細は弊社へ問い合わせていただきたいが、興味深いのは力学物性以外の改善効果もナノポリスから最近報告された。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/20 新規ポリマーアロイ(5)

昨日微妙なニュースが飛び込んできた。当方はコロナ禍前の2019年までナノポリスへ出かけては、学生やローカルメーカーの指導をしてきたが、その中に1社PPSコンパウンドを事業としている会社があった。


そこの総経理から中国EVメーカーが使用するPPSコンパウンドについて、全EVメーカーへのPPSコンパウンド納入に成功したという連絡が入った。すなわち中国のEVメーカーで生産される製品に使用されるPPS部品は、当方が指導した会社のコンパウンドになったという。


理由は、世界のどのメーカーよりも高品質だからだそうだ。タグチメソッドを導入し開発したのだからロバストが高いのは当然だが、他社では実現できない品質が達成されている、と自慢していた。


特にMAO処理では、高い品質効果が確認されているという。これは今連載で説明しているが、カオス混合の寄与が高いと思っている。


そのほかに、データサイエンスで解析して得たある知見をコンパウンディングに用いているが、これは科学では説明できない現象(注)を活用している。


科学を重視というよりも科学パラノイアに近い技術者には理解しがたい技術でコンパウンドを生産しているので、他社ではリバースエンジニアリングが難しい。


いろいろ感謝された後、10月に来てほしいと言われたが、現在の日中関係を思い、回答を差し控えた。ナノポリスで指導していた技術については、当方の著書にすべて書いてあり、日本で公開済みであるが、著書の売り上げは芳しくない。弊社へご注文いただければ、送料サービスでお送りいたします。


また、タグチメソッドはじめデータサイエンスについては、セミナー活動を通じ、当方のノウハウを公開している。中国や台湾でもセミナーをたまに実施しているが、集客は日本と比較にならないほど盛況で悩ましい問題だと思っている。


日本でも当方のセミナーに多くの人に参加していただきたいと願っている。今週末の難燃化技術セミナーでも50年近くのノウハウとこの10年の成果やデータサイエンスを用いた開発事例を公開する。また、ディープラーニングについても入門程度の解説を行い、難燃化技術とマテリアルズインフォマティクスについて理解できるよう準備してる。


(注)ほとんどの混練技術に関する形式知の説明では、分配混合と分散混合の概念が用いられている。この概念では理解できない現象が混練で起きている。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/19 新規ポリマーアロイ(4)

PPSは結晶化しやすい樹脂で、力学物性に影響が出るほど球晶が大きくなる。例えば力学物性測定用に射出成形されたPPSを200℃で1時間ほど放置すると、引張強度は低下する。


これをPPSの劣化と勘違いしてはいけない。球晶が成長したために靭性が低下し、強度が低下したのである。再度粉砕して射出成形すれば強度は復活するのでPPSの分子が断裂したわけではない。


PH01という新たなPPS添加剤を開発した。この添加剤は、カオス混合によりPPSに相溶するが、二軸混練機だけで混練したのでは相溶しない。


PH01を7%添加したPPSをカオス混合しコンパウンドAを製造した。このAを射出成形し、200℃1時間放置しても強度低下しない。6時間放置しても強度はそのままである。


ところが、PH01を同様の添加率で通常の二軸混練機だけで製造したコンパウンドBでは、200℃1時間の放置で強度低下する射出成型体しかできない。


AとBを化学分析しただけでは、その差異は不明である。すなわちリバースエンジニアリングで解明できない射出成形体を製造できる技術ができたのである。


これは中国ナノポリスで行った研究の成果で国内の某社で実用化されている。特許も出願されているので興味のあるかたは確認していただきたい。もちろん弊社へ問い合わせていただいても構わない。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/16 新規ポリマーアロイ(3)

PPSと6ナイロンはカオス混合により相溶する。これはフローリー・ハギンズ理論から説明できない現象であるが混練技術を工夫すれば起きるのである。


この実験のヒントは、東工大で行われたPPSと4,6ナイロンの相溶現象におけるその場観察である。すなわち、PPSと4,6ナイロンを二枚のガラス円板に挟み、それぞれ反対方向に回転させて剪断流動を発生する。


300℃近くになると円板の周辺部分が透明になってくる現象が観察された。すなわち、温度と剪断力でPPSと4,6ナイロンが相溶することを世界で初めて実証した扇沢グループの実験である。


この研究があまり注目されていないのはもったいないことである。この研究成果を思考実験により展開するとカオス混合装置が生まれる。そして4,6ナイロン以外のナイロンでも相溶するのではないかという妄想が生まれる。


この妄想が目の前で起きると感動に変わるが、当方の部下は当方を信じていなかったので腰を抜かした。当方は妄想で十分に理解していたので感動しただけであるが、彼はキャという悲鳴とともに腰を抜かしたのである。


PPSと6ナイロンの混練されて透明な樹脂液として二軸混練機の吐出口から流れている光景は、それくらい驚くべき光景なのだが、フローリー・ハギンズ理論の問題を理解しておれば感動の光景となる。


6ナイロン以外に12ナイロンとか数種類ナイロンをPPSとともに混練したがいずれも透明な樹脂液となった。面白いのはこの後である。


ストランドとして回収したサンプルを机の中に保管し、在職中こっそりと眺めるのが楽しみとなったが、5年ほど透明だった。2011年3月11日に最終講演が15時から予定されていたのでサンプルを準備していたが、ぐらっと来た。


その後忘れていたが、ストランドとして回収後のサンプルを数年後に見つけたら真っ白くなっていた。すなわち少しずつスピノーダル分解し、白くなったのである。白濁したが、ストランドの柔軟性は失われていなかった。これには腰を抜かしそうになった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.09/14 新規ポリマーアロイ(2)

同一配合で異なる物性のコンパウンドをプロセス設計により作り分ける、これができない技術者は新材料開発能力が低い、と言わざるを得ない。


また、配合と物性は1:1に対応すべき、と某国家プロジェクトの目標に書かれていたようなことを信じている技術者はもっと材料技術について勉強すべきである。


PPS/6ナイロン/カーボンを二軸混練機で常識的な混練をしている限り、押出成形で半導体ベルトの歩留まりが100%となるコンパウンドを製造することは不可能である。


力学物性を犠牲にすれば、二軸混練機を二回用いることで、電気抵抗の安定したコンパウンドを製造可能である。例えば6ナイロン相にカーボンを分散し、それをPPSと混練すると得られる。


しかし、カーボンの分散したナイロン相のドメインが硬いので、そのようなコンパウンドで製造した無端ベルトは紙のような靭性のベルトとなる。


力学物性も電気物性も両方目標物性を満たしたコンパウンドを製造するためには、現在のところカオス混合しかない。すなわち、カーボンの凝集相が6ナイロンの相溶したPPSに分散した高次構造を有するコンパウンドなら電気物性も力学物性もその品質が良好な半導体無端ベルトを押出成形できるようになる。


ただし、PPSと6ナイロンのχは大きいので、これはフローリー・ハギンズの理論に反する、と考えた方は優秀である。カオス混合は、科学の形式知に反するような現象が発生するトランスサイエンスの混練方法である。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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