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2014.09/03 省エネタイヤ(4)

省燃費用タイヤに使われるSBRは40万t/年になるという。主にトレッド用のゴムの配合に使用されるのだが、この数値だけ見ても省燃費タイヤの普及のすさまじさを知ることができる。ちなみに乗用車用タイヤ1本の重量は概略7kg程度である。すなわちゴムは少なくとも3kg以上は使われているはずなので、配合量を考慮すると数十万台以上の車が省燃費タイヤということになる。

 

さて省エネタイヤは転がり抵抗を低減したタイヤであることは書いたが、これは運動時のゴムのエネルギーロスを少なくすること、すなわちヒステリシスロスあるいは損失係数と呼ばれるtanδを小さくできる材料にすることである。

 

タイヤは路面への食いつきを大きくするとGRIP力が向上するが、この特性とは相反する材料設計が求められる。要するに二律背反の材料設計を求められるわけだが、この解決には、トレドに使われるゴムの運動モードの解析が行われ解決の糸口が見つかった。

 

すなわちタイヤのGRIP力で重要なのは運動の高周波領域における損失係数の向上であり、転がり抵抗の低減では、低周波数領域における損失係数を低減すれば良いことがわかった。ゴムの運動モードと品質特性の関係は省エネタイヤに限らず、防振ゴムやその他ゴム製品で良く出てくるテーマである。古くからゴム会社ではノウハウとして使われてきた。

 

科学的に分かってしまえば簡単だが、40年前は温度時間換算則を使った仮説レベルの内容であった。それは昔は1000Hz以上の高周波数領域のゴム物性など直接測定することができなかったからだ。しかし、ゴム会社の友人に聞いた情報では、10年前実際に装置を開発し高周波数領域の物性を測定し、温度時間換算則の正しさが確認されたのだという。

 

科学では物理学で構築された理論から導かれた現象を説明できる方法が得られると実際にそれを検証したデータが示されて初めて科学的真実となる。ゴムについては、長い間温度時間換算則という仮説段階の理論を使い、高周波数領域の動的物性を推定していた。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2014.09/02 省エネタイヤ(3)

10年程前からシリカの分散を促進するSBRの特許が多くなっている。原因はこれであった。すなわち、40年前はカップリング剤を用いるのがシリカ分散技術のキーテクノロジーであったのが、現在の省エネ技術ではポリマーの改良でシリカの分散状態を制御するのがトレンドである。

 

すなわちシリカの分散制御という目的は40年前と変わらないが、その手段が新しくなり、ポリマーメーカーがこぞってその技術開発を行っているのだ。ポリマーメーカーによるシリカフィラーの補強構造に関する技術発表も多い。

 

この10年日本化学会年会には出席していたが高分子学会の年会には出ていなかった。高分子自由討論会にでていれば十分な情報が入っていると思っていた。

 

今年の高分子自由討論会でもシリカフィラーの分散を促す変性SBRの技術発表があったが、たかが40年前の技術、と軽く見ていた。しかし、特許を整理してみたところ、目的は40年以上前と変わらないがその達成手段が、カップリング剤から変性ポリマーへ変化していたのだ。

 

技術というものはピンポイントで見ると新しさを感じないことがあるので注意が必要だ。高分子自由討論会における変性ポリマーの発表ではシリカの分散を促進する効果のみ強調していたので、40年前の技術を知っていた当方には新鮮みが感じられなかった。

 

しかし、技術のトレンドとしてその新しさを説明してくれていたらもう少し質問したいことがあったのに、と後悔した。下手に生半可な知識があると情報に対する感度が落ちるので注意が必要である。

 

 

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2014.09/01 省エネタイヤ(2)

新入社員研修で「二律背反」という言葉をよく聞いた。「技術開発は、二律背反を克服することである」とまで言っていた役員もいた。ちょうど二度のオイルショックでタイヤの省エネ技術がテーマになっていた頃だ。

 

タイヤのゴムのフィラーにはカーボンブラックが使われている。このカーボンブラックだけでは転がり抵抗とWET SKID のバランスをとることができないのだ。WET SKIDを犠牲にせず転がり抵抗を低減できる技術としてシリカフィラーが注目されていた。

 

しかし、シリカの表面は水酸基が存在するのでカーボンブラックのようにポリマーとの親和性が悪くゴムと混練すると凝集して分散する。この問題を解決するために使われたのがシランカップリング剤である。

 

シランカップリング剤でシリカ表面を化学修飾し、ゴムとの親和性を増すとともに、その結果分散性があがる。シランカップリング剤は当初分散性を上げるために使われたが、すぐにゴム分子との反応を考慮した試薬が開発された。

 

ゴム分子との反応を考慮されたシランカップリング剤では、その分子構造に加硫可能な構造があり、その構造でゴム分子と反応し、シリカ表面で反応することでフィラーとしての機能を発揮する。カーボンブラックではこのような面倒な手続きを踏まなくても、表面がゴム分子との反応性に富んでいるのでそのまま使用できる。

 

このようにシランカップリング剤は省エネ技術のために開発されたのでは無く、その前からシリカの分散性を上げる技術としてタイヤには使用されていた。1970年代ホワイトレターというタイヤの飾りが流行したことがあった。タイヤのブランド名を白いゴムで書いたタイヤだ。この時の白いゴムにはシリカフィラーが使われ、そのゴムへの分散を促進するためにシランカップリング剤が使用された。

 

ホワイトレターにシリカフィラーが使用されたが、タイヤのトレッドゴムにそれが使われたのは省エネ技術としてである。現在販売されている省エネタイヤも40年前の技術を使っていると思っていたが、店頭にはシリカフィラーの技術を新たに開発したかのような説明が踊っている。これはおもしろい、温故知新があるかもしれない、と思い少し特許を調べてみた。

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2014.08/31 省エネタイヤ(1)

タイヤの残溝が少なくなったので、タイヤを交換した。12年勤務したゴム会社のタイヤである。交換前のタイヤは10年使用したにも関わらず外観はひび割れも無くきれいだった。技術の進歩を感じた。

 

新車への交換を考えていたのでタイヤ交換を見送るつもりであったが、万が一を考えて6ケ月後の車検前であるが交換を決意した。恐らく車は廃車にされるので、交換したタイヤはムダになるかもしれないが、タイヤメーカーに勤務した経験からリスク回避のため新しいタイヤへ交換した。

 

驚いたのは、省エネタイヤがブームで店頭には省エネの文字が並ぶ。新入社員時代にも同様のブームがあったがこれほどでは無かった。40年ほど前二回のオイルショック騒動で石油資源に対する関心が高まり、省エネタイヤが開発された。

 

自動車全体に対するタイヤの省エネ効果はわずかであっても、省エネタイヤとそうでないタイヤとの省エネルギーの差は大きく、宣伝に活用された。この省エネタイヤの技術に使われたのがシリカである。

 

タイヤの補強材料にはカーボンが用いられているが、この一部をシリカに置き換えることで、エネルギーロスが減少しタイヤの転がり抵抗が小さくなる。ただ、エネルギーロスが小さくなるとグリップ力が悪くなる(WET SKIDが低下)ので、転がり抵抗とWET SKIDのバランスをとる必要が出てくる。

 

当時タイヤ用ゴムへのシリカの配合技術は先端技術だった。カーボンフィラーでは対応出来ない転がり抵抗とWET SKIDのバランスをうまくとることのできる、コストの安い唯一のフィラーとしてシリカは注目された。

 

 

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2014.08/30 餅つき

子供の頃、夏休みでも餅米が手に入ると餅をついていたような記憶がある。夏の餅つきはともかく年末の餅つきは年中行事の一つであった。家を新築してから、餅つきに使用していた広い土間が無くなり、使っていた石臼が新しくできた庭のオブジェになったために餅つきの行事は無くなった。親類からの頂き物は、お祝いでなくとも赤飯を炊くのに使われた。

 

餅つきは子供の頃の楽しい思い出の一つだった。餅はネバネバ物質であるが、なぜか触れることも食べることも抵抗がなかった。生まれたときから接していたためだろう。餅つきをやってみたいと思っていたが、残念ながらいつも見ているだけで、餅をつくのは父と兄の役目だった。

 

餅を返すのは姉の役目で、母は蒸す係だった。当方はつき上がった餅をつまみ食いしながら成形する仕事をたまに担当していた。つまみ食いが多いので、毎年途中からお役御免になっていた。

 

餅つきで面白かったのは食紅を添加するときれいな桜色のお餅ができあがることだ。杵でただついているだけである。返しの操作で混ぜるプロセスもあるのだが、食紅の分散に大きく寄与しているのは、杵でついたときである。

 

杵でついたときに食紅は全体に広がる。その様子は見ていて不思議だった。今ならば剪断流動と伸張流動が同時に働くカオス混合のような混練プロセスだから効率が良い、と理解できるが昔は不思議だった。

 

この時の思い出は、退職前5年間担当した電子写真のキーパーツ開発で大いに役だった。中間転写ベルト用コンパウンドの生産ライン短期立ち上げや難燃剤を用いないUL94-V2通過の内装材開発という成果に結びついた。後者は回収PETボトルを80%利用した環境樹脂である。この回収PETボトルを用いた樹脂開発の仕事は退職後社長賞を受賞したとの知らせが元同僚から届いた。

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2014.08/27 混練

混練とは「混ぜる」ことと「練る」ことをおこなうプロセスである。「混ぜる」ことは日常の行動で、例えばカードゲームやマージャン、料理などで経験し、直感的に理解できる。「練る」ことについては、意外と日常意識しなければ行っていない。

 

汚い話で恐縮だが、昔子供は青い鼻水を垂らしていた。なぜ今の子は透明な鼻水で昔の子供が青かったのか知らないが、その汚い鼻水で遊んでいる子もいた。戦後10年と少ししか経過していない名古屋のはずれには、まだ大空襲の傷跡が残っており、今のように遊びが豊富では無かった。

 

子供が遊びを創り出さなければいけない時代でもあった。鼻水も遊びの道具であったが、その遊びが始まると当方は気持ち悪いから家に逃げ帰った。ネバネバを練るプロセスを見ると子供の頃のトラウマであまり気持ちの良い感じがしない。納豆も食べられるようになったのは結婚してからである。

 

トラウマとなっていたプロセスが当方の仕事として重要なスキルの一つになっているのだから人生はわからない。気持ち悪くても目を背けず真正面から取り組まなくてはならない苦痛。ゴム練りを最初に体験したときには地獄であった。やや緑色をしていたアロマ油は、特に気持ち悪かった。

 

そんな経験から「混ぜる」と「練る」には大きな違いがあり、混練技術に接する前から興味があった。「混ぜて」いるだけなら性状の変化は少ないが、「練っていると」物質の状態が大きく変化する場合があるのだ。青い鼻水は粘度が増し付着したときに拭き取るとコーティングされたような跡が残った。子供心に単なる水と異なる現象について不思議に思った。

 

混練の教科書を読むと分配混合と分散混合の話が出てくる。混練プロセスをモデルで説明するための概念だが、これは混練の理解を誤った方に導くような気がする。混合により分散が進む場合の説明ならば良いかもしれないが、「練り」の部分をこのモデルでは説明していない。

 

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2014.08/26 二軸混練機

二軸混練機は押出機を基にして発展している連続式混練機である。未だに完成版の混練機は存在しない。かつて10数年前に国研でL/Dの大変大きな混練機が開発されたが、それすらも高い評価を受けていない。

 

連続式混練機に対して、古くからゴムなどの混練では、バンバリーとロールによるバッチ式混練が用いられてきた。例えば動的加硫技術を用いたTPVは、バッチ式混練プロセスで製造された樹脂補強ゴムの性能に及ばない。

 

TPVの性能には幾つか問題があっても射出成形可能な安価なゴムという性質があり、歯ブラシの柄の部分に使われているゴムやマウスの一部などに使用されている。最近では、自動車部品に使われているバッチプロセスによる加硫ゴムの分野にも使われ始めた。少しずつ改良されているのである。

 

TPVも混練プロセスを工夫してやるとその性能が上がる。例えば先ほど述べたようにバッチ式プロセスで混練を行い、プレス加硫を行うと連続式混練機で製造したゴムよりも圧縮永久歪みなどが大きく改良される。

 

この事実は連続式混練機の性能が未だバッチ式プロセスに追いついていないことを示している。20世紀末にウトラッキーによるEFMが発表されたが、普及しなかった。それなりに連続式混練機の性能向上に寄与する装置であったが生産性が低かった。

 

当方が開発したカオス混合装置は、EFM同様に二軸混練機の先に取り付けて使用するが、生産性が高いのが特徴である。この装置を二軸混練機の先に取り付けて、PPSと6ナイロンを混練するとそれぞれが相溶した均一なブレンド物、ポリマーアロイが生成する。また、この10年用途が広がっているPC/ABSを混練すると高次構造の細かくなったポリマーアロイが得られる。本件に関してご興味のある方はお問い合わせください。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2014.08/21 執筆依頼

昨日工業用途のポリマー材料,エンジニアリングプラスチック,合成ゴムなどの 高分子材料の研究開発をテーマにした技術情報誌「Polyfile]から、2014年11月号の特集について執筆依頼を受けた。執筆内容については公開して良いのかどうか不明だが、当方の体得している技術の一つについて、科学と技術の視点にわけて、解説する予定でいる。もしご関心のある方は、購入してご一読ください。

 

これまでこのような業界誌からの執筆依頼を受けてきたが、可能な限り科学的に書くことを心がけてきた。しかし、それでも伝えたいことを書くためには、妄想と批判されても技術者の視点で見たときのポイントを述べるようこころがけた。

 

しかし、「妄想」が多すぎた場合に同僚から「好き勝手に書いている」とか、「よくあそこまで言いきるね」とか批判されてきた。業界誌は学会誌と異なるので技術者の妄想を書いても許されると思い、当方は書いてきたが、このような批判を受けると少しは心が痛む。

 

当方も学位を取得し、科学の世界で研究を行いたいと思っている技術者である。しかし、科学の世界にも定員があり、そこからはじき出されている身分では、せめて科学の世界で活躍されている研究者の先をゆく技術(注)を開発したい、と自己実現の目標を設定し研鑽してきた。

 

例えばSTAP細胞の論文では捏造と騒がれているが、あれは科学の世界で見ているからだ。もし本当にSTAP細胞ができているならば、技術論文として優れた論文である。STAP細胞の研究では、STAP細胞を製造する技術が無いために科学の研究ができない状態なのだ。

 

iPS細胞では、最初にそれを作る技術を消去法で開発し、科学の研究を開始している。STAP細胞については、小保方さんが200回も作成した、と言っているが、それを再現できる技術まで創り上げていなかったから問題になっているのだ。笹井さんも「あれは技術論文だ」と言えば良かった。

 

しかし、彼の立場ではそれが許されないだけでなく再現できないことも苦しい状況に追い込んだ。再現できていれば捏造ではなく妄想を分かりやすくするために脚色した技術論文となる。多くの特許がこのように出願されており、捏造などと批判されていない。技術では再現さえできれば、分かりやすく説明するための工夫は捏造とよばない。

 

一人の人間が200回も作成できているならば、いつかは第三者も作成できるようになる。当方は高純度SiCの前駆体製造技術について、たまたま電気炉の暴走があり1回成功しただけで、2億4千万円の先行投資をゴム会社で頂いている。そしてその先行投資された技術は今でもブリヂストンで事業として継続されている。

 

技術とは科学的に証明できなくても、機能をロバストよく再現できればそれで完成といえるのだ。タグチメソッドはそれを実現できる唯一の方法で、日本で生まれアメリカで育ち、日本に逆輸入された優れた問題解決法である。

 

今回執筆依頼を受けた内容について詳細は雑誌のPR記事をご覧頂きたいが、これまで公開してこなかった30年前に開発した技術についても惜しみなく公開するのでご一読ください。ちなみに本技術については、ゴム会社でたった2年だけ担当した技術で、退職前の一年間の最後の暇つぶしの期間に30年前を思い出しながら商品を一点仕上げることができた、由緒正しき「妄想」である。

 

技術とはそれを身につけることができるならば、担当した期間は無関係である。技術者の中には5年以上も担当しながら技術の完成を実現できない人もいる。一方一週間程度でも優れた技術を体得する人もいる。高純度SiCの技術はたった一日で生まれ、その一日で体得できた技術である。1日という期間であるが、未だに注目され時々質問を受ける。また某社からは数年前に改めて異なる視点で特許出願がされていた。

 

www.miragiken.com 」では、未来技術についてマンガで書いている。ドラッカーは誰も見たことの無い世界がはじまる、と予言し他界されたが、誰も見たことの無い世界を書くのにマンガは適した表現手段である。

 

(注)電気粘性流体の技術をいくつか開発したが、FDを壊して開発活動を妨害してきたのは研究者である。犯人は、「なぜそんなに早くできるのか、隠している論文を見せよ」とある日迫ってきたが、とんでもない勘違いである。電気粘性流体の科学論文など読んでいなかった。技術者は、その心眼で現象を眺め機能が正しく働く様子を心に描き、技術をデザインしているのである。その具体的方法を弊社では研究開発必勝法として販売している。

カテゴリー : 一般 宣伝 高分子

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2014.08/19 高分子の難燃化(5)

ホウ酸エステルとリン酸エステルを組み合わせた難燃化システムは、軟質ポリウレタン発泡体の効果的な難燃剤だった。また、中間体である、ボロンホスフェート誘導体も単離することに成功した。燃焼面にきれいなガラス相の薄膜を形成するのだ。ゆえにドリッピングも防いだ。

 

このヒントは始末書を書かされた開発成果ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームから得られた。すなわち通常のリン酸エステルを高分子に添加すると、燃焼時にリン酸エステルは熱分解してオルソリン酸を生成する。このオルソリン酸は250℃前後で揮発するので、燃焼時には燃焼している系外へ放出される。

 

これが空気を遮断して高分子の炭化を促進すると説明した教科書もあるが、この説明にはやや無理がある。なぜなら三酸化アンチモンとハロゲン系難燃剤の組み合わせほど難燃性が高くないからだ。このシステムで生成するハロゲン化アンチモンは強力な難燃剤である。

 

リン系の難燃剤は主に燃焼系内で機能して炭化促進に機能している、と考えた方が実際の現象とあってくる。またこのように考えると、オルソリン酸を系内に固定化するアイデアが出てくる。ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせシステムはこのような発想から生み出された。

 

ホスファゼンは高温度で重合するので気相に放出されない。これは燃焼後の残渣を調べるとPNOが検出されるのと、組成分析から得られる80%以上のPが残っている事実とで証明できる。

 

リン系難燃剤を効果的に利用するには、燃焼時に生成するオルソリン酸をうまく系内に固定化して効果的に難燃化できる方法を考えれば良い。詳しくは弊社へ質問してください。またリケジョが活躍する www.miragiken.com でも未来の高分子難燃化技術として扱う予定です。

 

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2014.08/18 高分子の難燃化(4)

UL94規格ではドリップの有無で評価が大きく変わる。例えばV0試験では、ドリップがあった場合にいくら燃焼時間が短くとも硝化綿が燃焼するとV2となってしまう。この規格は実火災を念頭においた規格であり、科学的な見地から開発されたLOI評価法と相関が無い。

 

環境対応の必要性からノンハロゲン化技術に関心が集まり、リン系難燃剤の開発が進められ、耐熱性の高い新たなリン酸エステル系難燃剤もこの十年にいくつか開発された。リン系難燃剤では、その難燃化機構からリン原子の濃度とLOIとは相関する傾向にある。ポリウレタンや、PS、PC、ABS等でそのような実験結果が得られている。

 

しかし、LOIが24を越えたあたりから、リン原子の量が増えてもLOIが増加しなくなる場合がある。LOIが18前後の樹脂の場合では、21未満と21以上では相関係数が変化する。すなわちLOIが21は変曲点であり、それ以上では傾きが小さくなる傾向がある。

 

その結果、UL試験のV0以上を狙おうとした場合に難燃剤を20部近くも添加しなければいけなくなる場合が出てくる。コストも物性も考えなければこのような材料設計でも良いが、コストや物性のバランスを取ろうとすると難燃剤の添加量はせめて15%未満にしたい。

 

そうすると難燃助剤(と書いて良いのか知らないが)の添加という発想が出てくる。有名なところでは、ドリップ防止を狙ったフッソ樹脂の添加や、イントメッセント系の設計でメラミン樹脂との組み合わせを考えたりする。また、PC系ではシリコーンをグラフトしたPC樹脂を用いるアイデアも特許出願されている。

 

こうした考え方がいろいろ研究されてきて、特許出願が2000年頃から増えてきた。当方は、1980年にポリウレタン発泡体をホスファゼン変性して、10部未満で高い難燃性の発泡樹脂を開発し特許では無く始末書を書いている。そして始末書の汚名挽回策として燃焼時にガラスを生成するコンセプトで、硼酸エステルとリン酸エステルの組み合わせシステムを開発した。世間より20年早い発想でノンハロゲン難燃システムを完成した。

 

 

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