高分子材料に他の成分を分散して現れる現象を30年以上前まで経験則である混合則で議論されてきた。当方が帯電防止層で観察された現象をパーコレーションで説明した時にも、他のセッションで混合則による考察がなされていたのでパーコレーションが日本で一般化しはじめたのは1990年ごろのことと思っている。
ポリジメチルシランを用いて世界で初めてSiCを合成されたのは矢島先生だが、ポリマーアロイを前駆体にしてSiCを世界で初めて合成したのは当方であることは、無機材質研究所の先生方がご存知で特許もそこから出願されている。
高分子材料の難燃化技術でイントメッセント系の耐熱層が話題となったのは1990年前後だが、当方は燃焼時の熱でガラスを生成し難燃化する技術を1981年に工場試作している。
汎用二軸混練機に伸長流動装置を取り付けたのはウトラッキーであるが、それを改良しカオス混合による効率的な混練でポリマーアロイの製造に世界で初めて成功したのは当方である。
電気粘性流体について、傾斜組成粉体や微粒子分散型粒子などの特殊構造の半導体粒子が高い電気粘性効果を示すことを世界で初めて実証したのは当方で、その耐久問題も解決している。ただ、パーコレーションについては、世界初であるかどうか自信がない。
何故なら、1950年代に数学者が議論をはじめ、それから40年近く経っていたからだ。そして、シミュレーションプログラムについて論文を書こうと調査したところ、調査の2か月前に学会誌「炭素」に類似のシミュレーションについて論文が投稿されていた。
すなわち、日本化学会で混合則でまだその現象を議論していた時代に、炭素学会でパーコレーションが議論されていた可能性が高い。スタウファーによる浸透理論の教科書が登場したのは1980年代で、当方が初めて指導社員から説明を受けたのは1979年である。
指導社員は、混合則を説明しながら本当はパーコレーションで説明するのが好ましいが、材料屋は信じていない、とぼやいていた。おそらくアカデミックな研究所でパーコレーションが議論された可能性があり指導社員はその議論で周囲から叩かれた可能性が高い。
その後無機材研へ留学する直前にゴムへカーボンを分散し半導体ロールを開発企画していた主任研究員が当方に物性バラツキについて相談してきた。その時にパーコレーションの説明をしたら鼻で笑われた。
ちょうどCの勉強を始めた頃で、Cを用いてシミュレーションプログラムを作ってみようと考えていた頃である。1990年前後まで材料屋には混合則が一般的であったことは確かである。パーコレーションの概念が材料屋にどのように浸透していったのか定かではない。
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高分子材料にしてもセラミックスや金属材料にしてもそれを形にして利用するときには、どこかの段階で配合設計技術が必要になる。
道具だけでなく料理も配合設計が必要になってくるが、料理の配合設計と道具の配合設計との違いは、味見を舌でするかどうかという大きな違いがある。
刀鍛冶が出てくる番組で、刀鍛冶が刀をなめながら研いでいたシーンを見たことがあるが、これは例外として、一般に道具の配合設計では道具の機能について評価しながら最適化を行ってゆく。
材料設計に携わる人は、化学系の学問を修めた人が多いが、この評価をする行為に着目すると物理や数学のスキルも要求されるのが配合設計技術である。
化学系の人は物理や数学が不得意であることに大学へ入学して驚いた。理系を志すにあたり物理や数学が不得意だから化学を目指した、という友人もいた。
しかし、配合設計技術では化学同様に物理や数学のスキルが重要である。最近ではマテリアルインフォマティクスも取り入れなければいけないので情報工学のスキルも要求されるようになった。
もっとも、当方が学生時代に情報工学などという学問は無かった。情報工学を理系の文学部と表現している人がいるが、このような感覚では情報工学は進歩しない。
確かに文学部的ではあるが、科学のあらゆる分野に精通していることが要求される学問である。すなわち、化学や物理学、数学について配合設計ができるぐらいの知識があってはじめてマテリアルインフォマティクスの研究ができる。
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例えばヘキサフェノキシホスファゼンのような疎水性物質を水に分散したい場合にどうしたらよいか。昔からこのような場合にはオイル分散技術が使用されてきた。
オイル分散技術とは疎水性物質をオイルに溶解し、その状態でコロイドとする技術である。必要に応じてオイルをオートクレーブ中で取り除くのだが、100%取り除くことはできない。
ゆえに環境問題について厳しくなった時代に、このオイル分散技術では、残った微量のオイルの処理が問題となる。疎水性の高分子もこの方法でコロイドを製造することができるので便利な技術であるが、今の時代に合ったオイルを用いない技術が求められている。
分子の一部に親水基を持っていると、低分子でも高分子でも何とかO/W型コロイドにできるが、全く親水基を持たない物質の場合には、これまで技術手段は無かったが、5年前皮革の難燃化技術開発でホスファゼンの水分散コロイドが必要になり技術開発した。
この技術を用いると、水系コーティング液の開発も可能となる。また、皮革の難燃化技術開発で気がついたのだが、疎水性繊維の内部に物質輸送する技術の開発も可能となる。
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機能性セラミックスを設計する技法と機能性高分子を設計する技法は異なる。機能性セラミックスでは科学的に美しい体系ができているが、機能性高分子では、科学的というよりも技術的方法論となる。
また、理論的な設計値を実現し品質管理を行う場合でも機能性セラミックスの方が容易である。高分子材料では、およそセラミックスの設計値のばらつきの10倍以上ばらつく場合が多い。
もちろん機能性高分子でも、機能性セラミックスと同様にばらつきの小さい材料設計が可能な場合があるが、それは少数派である。
具体的に導電性という性質を取り上げた場合に、機能性セラミックスでは、酸化物系セラミックスから選択し材料設計を行う。透明導電性と限定すると酸化スズ系か酸化チタン、酸化バナジウム、酸化亜鉛と絞られてくる。
そして、導電性の設計方法も異原子のドーピングにより、酸素欠陥を生み出すという方法が知られている。電子伝導性高分子については、白川博士のノーベル賞受賞で知られるように画期的な発見として知られている。
一次構造の設計において高分子のパイ軌道を活用する場合には、分子軌道法も活用でき科学的議論を展開しやすいが、高分子に導電性を付与する方法にはカーボンのような導電性フィラーを練りこむ方法が古くから知られており、この方法はかつて混合則で議論されていたように経験的となる。
また、半導体高分子を材料設計する場合に、一次構造で材料設計するよりもカーボンの添加について混合則で材料設計した方が経済的である。
ただし、導電性物質を高分子に練りこみ半導体を設計するときに、導電性のばらつきを半導体セラミックス並みに品質管理するためには、材料設計に少し工夫が必要になる。
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高分子材料の多くの分野ではコンパウンディング技術が重要となるが、大別して2つの難しさがある。一つは品質問題に関わらず、実技の難しさと、品質問題が起きなければ気がつかない難しさである。
品質問題が起きなければ、混練技術の難易度に気がつかない原因は、機械を導入し混練すればとりあえずコンパウンド(ペレット)ができるからである。
とりあえずできたペレットで何も問題が起きなければ、混練技術の存在を忘れることさえある。逆に何か問題が起きたときに、原因がわからなくなってはじめて混練技術の難しさに気づく。
15年以上前の話になるが、国内で一流と言われているメーカーからコンパウンドを購入し押出成形により半導体無端ベルトの開発が行われていた。
歩留まりがなかなか上がらず、製品化期限まで半年という段階になって当方にリーダーを代わってくれと言ってきた部長がいた。
当方は引き受けて、中古機を集めコンパウンド工場を立ち上げて歩留まり100%となるコンパウンドの生産を開始し、問題解決するのだが、それまで誰もコンパウンドに問題があると気がついていなかった。
面白いのは、それから一流コンパウンドメーカーは研究開発を進め、当方が立ち上げた工場の技術と類似技術の特許出願を10件ほど行っている。
問題に気がつかない限り、技術開発をスタートできないような厄介な技術であるが、「正しい問題」に気がつくことの重要性をドラッカーが指摘しているように、混練技術についても正しい問題を考える習慣をつければよいだけである。
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疎水性材料である油を水に分散したい時には、界面活性剤を用いる。水に対して1-3%程度の界面活性剤と水に分散したい少量の油と大量の水とを混合すると白濁状態になる。
この時製造されたコロイドの透明性は、油と水の量比による。ここで界面活性剤を用いなければ、水と油へ二相分離する。
サラダにかけるドレッシングには、油と水に分離しているタイプや白濁状態のタイプが存在するが、これはドレッシングの設計思想に依存している。また二相に分離している状態を食べるときに懸濁状態にして振りかける設計は、なんとなくフレッシュなイメージである。
身近な製品を眺めてみても、疎水性の油をどのように水に分散するのか、その工夫が技術者によりなされていることに気がつく。
界面活性剤により安定化されたコロイドあるいはドレッシングのような振ればある時間安定な懸濁状態となり、やがて相分離するコロイドなど様々なコロイドが存在し、そこにどのような機能が働いているのかと不思議に思うと界面科学を勉強することになる。
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物質には水に溶解する材料と水に溶けない、あるいは安定に分散しない材料が存在する。前者については、肉眼では溶けているように見えても微粒子として安定に水に分散しているだけの状態も含まれるが、この状態の水分散状態の物質をコロイドと呼ぶ。
また、前者のように水に溶解するか、微粒子状態で安定に分散できる物質を親水性物質と呼ぶ。一方後者のような物質は疎水性物質と呼ばれる。
疎水性の油を水に分散したい時には、界面活性剤を用いるが、界面活性剤の構造は、親水性部分と疎水性部分でできており、界面活性剤を水に分散すると、親水性部分を水側に、疎水性部分は特定の量で球状に凝集し、安定化する。
凝集した疎水性部分には水を含まない空間が形成されるが、それはミセルと呼ばれる。ミセルには疎水性物質を溶かし込む能力あるいは機能が存在する。
また、界面活性剤の親水性部分と疎水性部分の比率をHLB値とよび、これは界面活性剤の特徴を示す重要なパラメーターである。(続く)
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昨日からの続きとなるが、コンパウンドの電気特性と成形体の電気特性を一致させると簡単に言うことができても、それを実行しようとすると大変高い技術が要求される。
絶縁体高分子を半導体に変性するために導電性物質を絶縁体高分子に分散する必要があるが、その時にパーコレーション転移という現象が発生する。
コロナウィルスの感染メカニズムでポピュラーになったが、連鎖状態であるクラスターを制御しなければパーコレーション転移を安定化できない。
ただし、詳細を省略するが、コンパウンド段階でパーコレーション転移を制御できても、成形段階でその再現ができなければ、コンパウンド段階の電気特性を成形段階で再現できない。
そのため、コンパウンド段階におけるパーコレーションを目的とした設計通りの値に制御できているかどうか、品質管理する必要がある。評価方法も含め、詳細は弊社に問い合わせていただきたい。ここでは書けない高度な技術が必要なのだ。
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高級カラー複写機には、YMCK4色の感光体に記録されたトナー画像を紙に転写する前に一か所に集める部品、中間転写ベルトが使われている。
コストダウンのため安価なレーザーカラープリンターではそれを使わず直接紙に転写するタイプ、直接転写方式も存在するが、トナーを静電気で付着移動させながら情報記録を行うシステムなので、静電気の特性を管理できない紙に直接転写する方式はあくまでもコストダウンの手法である。
プリンター設計で画像の美しさに配慮すると、紙に直接転写する方式ではなく、電気特性の均一性に優れた中間転写ベルトに一度トナー画像を形成させてから紙に転写する方式が優れているのだが、一工程の部品が増えるのでコストが高くなる。
それでも低価格プリンターに中間転写方式を用いる良心的なメーカーがあるが、これは低コストで中間転写ベルトを製造できる技術力があるからだ。
さて、この中間転写ベルトは半導体コンパウンドを用いて押出成形されるのだが、コンパウンド段階とベルト段階で電気特性が一致していることが好ましい。
好ましい、と表現している理由は、そうでなくても、すなわちコンパウンドと中間転写ベルトとの電気特性が一致していなくても、押出成形段階で調整する方法もあるが、押出成形というプロセシングの特徴を考慮すると避けた方が良い。(続く)
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摺動部材でなくても良いのだが、脆いPPSの意外な用途として、ベアリングとか中間転写ベルトのような動的部品がある。いずれも特許が出ており、脆い材料をどのように使用しているのか参考になる。
例えば中間転写ベルトでは、ナイロンとの複合化で高靭性を実現し動的部品に使用可能としている。また、トナーの清掃にブレードを用いても滑りやすく摺動部材としても使用可能な表面性である。
摺動部材としては、PPSを繊維化して用いる事例も特許出願されており、PPSが脆い、というイメージでアイデアを出そうとするとこのような技術は出てこない。
脆いPPSの靭性を高める技術開発は古くから行われているが、ナイロンの添加にしてもTgが下がる問題があった。この問題の解決にオリゴマーが有効であり、それを活用した特許出願を弊社は行っている。
この技術の優れているところは、PPSの結晶成長も抑制する効果があるようで、200℃の雰囲気に長時間放置しても強度低下がわずかである。未変性のPPSでは結晶成長のため、靭性が下がり強度低下する。
PPSの問題はTgが低い点だが、これはFRP化することによりTgよりも高い温度での使用が可能となる。炭素繊維との複合線材は実用化された。
PPSのFRPであれば、高温度まで耐久出来る摺動部材が可能となる。弊社の特許は現在審査請求中であるが、この技術を活用したいと考えておられるところに売却しても良いので問い合わせていただきたい。
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