ブリードアウト対策として、高分子に対する添加剤の溶解度を調べたりする。これは間違っていないが、SPも適合させて添加量も最適化しても市場で品質問題を引き起こすのがブリードアウトという現象である。
もし、開発が終了し数年たってから問題が起きると大変である。すでに開発チームは解散しており製造部門で対策しなければいけなくなって技術課が途端に忙しくなる。
ブリードアウトの問題解決が難しいと理解できている経営者ならば改めて開発チームを編成するが、そうでない場合には、販売を担当しているチームで対策している場合もある。
ブリードアウトの問題は、科学的に対策すると大変な工数が要求される。その昔、電気粘性流体をゴムケースに封入して使用する製品を開発していたらゴムから添加剤がブリードアウトして、電気粘性流体の寿命を短くすることが分かった。
すぐに高偏差値の大学を卒業した博士2名を中心に高学歴メンバーを集め1年間投入して華々しい科学的研究成果を出した。「電気粘性流体の耐久性問題は、界面活性剤で解決できない」という科学的に完璧な否定証明の成果だった。
そして、高純度SiCの事業を住友金属工業とのJVとして立ち上げたばかりの当方に、開発チームから添加剤が入ってないゴム開発をしてくれないか、ととんでもない依頼をしてきたので、当方は一晩でこの耐久性問題を解決した。
ゴムから添加剤がブリードアウトする問題を解決するために、添加剤の入っていないゴムを開発しようという素晴らしい発想が、いかにナンセンスであるのかはゴム技術を知っている技術者ならばすぐに理解できる。
しかし、ブリードアウトの問題を純粋に科学的に解決できると信じている科学者には、そのナンセンスな発想が科学的にイノベーションを引き起こす素晴らしいアイデアに思われたらしい。
セラミックスの高純度SiC開発をしていた当方にアイデアの具体化を依頼してきたのもイノベーションを期待してのことだったと思いたいが、単なる工数として考えているとの噂が耳に入ったので、異なる方法(増粘した電気粘性流体を回復する界面活性剤をマテリアルインフォマティクスを活用し一晩かけて探したのだ。30年前の話。)で問題解決したのだ。
ブリードアウトの問題について、純粋に科学として捉え問題解決しようとするととんでもない問題を解決しなくてはならないケースも出てくる。
頭の良い人がなかなか成果を出せない、とドラッカーは嘆き、問題解決法の重要性を著書の行間で述べているが、頭の良い人が常識はずれの問題を起こすとは述べていない。これがきっかけで起きた問題解決のために当方は転職している。
当時は問題解決策として本当に正しかったのか検証できなかったが、高純度SiCの事業はその後30年続いているので、この事業を守るために転職した判断は正しかったのだろう。
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昨日ブリードアウトに関して無料セミナーを実施した。通常1日コースで行っているものを2時間に圧縮してご理解いただけるのか心配だったが、実務で困っている方から質問もあり、2時間のところ15分もオーバーした。
ブリードアウトの問題は、科学的には高分子に添加剤がどれだけ溶解できるか、という問題と高分子の添加剤がどれだけの速度で拡散するのか研究すれば対策可能と思われている方が多い。
たしかにこの現象を科学的に確認するための実験を行うと、論理的に納得のできる実験結果が得られたりする。また、その研究成果も学会で発表されたりしている。
しかし、現実は科学的な解と異なる現象が起きたりして、市場で発生すると慌てる厄介な問題である。だから技術セミナーでこのテーマは昔から比較的人気がある。
今回問題解決法の事例にも使えそうなので無料セミナーとして実施してみたが、講義する側の感想として、時間が少なくて苦労した、というのが実態である。
昨日の参加者に限り、メールによる質問を1件のみ受け付けようと思っています。無料セミナーと言っても当方の技量不足でせっかくの内容が伝わらなかったならご迷惑をおかけしたように感じています。
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高分子材料技術に必要となる形式知を説明することは難しい。大変幅広い知識分野が対象となるからだ。
例えば、ポリウレタン発泡体の技術者であれば、リアクティブブレンドを理解するために高分子反応の形式知が要求される。しかし、これだけでは不十分で、界面活性剤の知識と界面化学の知識が必要だ。
さらに反応が進行してゆくときには、レオロジーの知識が無ければ現象の把握が表面的になる。発泡体の評価には、材料力学の知識も要求される。
さらに、セル状態と強度の関係を考察するときには、破壊力学の知識が要求され、時には有限要素法の知識を引っ張り出してきて、セルの変形状態から破壊に至るまで考察する必要があるかもしれない。
ゴム会社でポリウレタン発泡体やフェノール樹脂発泡体の開発を担当した時に大変だったのは、大学で無機材料の知識と有機反応の知識は大量に詰め込んでいたが、その他について無いに等しかったので、毎日夜遅くまで勉強していたことである。
しかし、この勉強の成果、特に界面化学の形式知については、写真会社に転職しても十分生かすことができただけでなく、界面化学が必要な分野の企業でも十分に業務で成果を出せるほどだった。
酸化第二スズゾルの帯電防止層開発では、無機材料の形式知とこの界面化学の形式知が活用されて日本化学工業協会から賞を頂くことができた。
また、高靭性ゼラチンを開発した時にもこれらの形式知と経験知が生かされ、写真学会からも賞を頂けた。
高分子材料技術に必要な知識は、無機材料技術よりも幅広く、またその深さも時には求められるので、大学までの勉強では不十分である。弊社では、必要最小限の知識を高分子のツボとしてまとめ、セミナーで活用している。
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金属やセラミックスなどの無機材料開発では、結晶の理解が重要で同時に相図を理解していなければ、日々の開発業務で成果のレベルを上げることが難しい。
ところが高分子材料については、無機材料と異なり、「これ」を理解していなければ、という形式知の分野は無いのかもしれない。
ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、無機材料の開発が技術者としてのキャリアとなったが、志半ばで写真会社に転職し、高分子材料技術者としての道を歩き始めた。
そして歩きながら感じたのは、無機材料開発と比較した時の難易度の高さだ。これは専門外だから難しいと感じたわけではない。
無機材料開発では、ある程度お決まりの手順が存在し、とりあえず獲得する必要のある形式知を身に着けておけば、現象の理解ができる。
しかし、高分子材料開発は、無機材料開発と少し勝手が異なる。お決まりの手順が無いのだ。これをお決まりの手順で開発を進めているといつしか新しい材料開発ができなくなる。
例えばゴムの配合開発では、お決まりの手順があるように見える。新入社員の3か月間、レオロジーの神様のような指導社員のご指導を受けたのだが、お決まりの手順とそうでない方法を指導された。
指導社員はお決まりの手順を説明しながら、この方法で新しい技術ができる、と言っている間は一人前ではない、と指導してくれた。そして現象観察に基づく臨機応変の開発ができなければ、新材料の創出は難しい、と。
無機材料技術者よりも高分子材料技術者としてのキャリアが長くなり、高分子材料技術者としてカオス混合技術を開発できた。
そしてつくづく思うのは、高分子材料技術者として一人前になるためには、かなり広範囲の「知」の蓄積が必要だということである。
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来週開催予定の無料セミナーについて。高分子の難燃化セミナーでは、概論を簡単に説明し、データ駆動型実験により難燃剤無添加で開発されたUL94-V2合格環境対応樹脂について解説予定である。
マテアリアルインフォマティクスが最近流行している。AIを使って材料開発、というといかにも今時の手法に見えるが、多変量解析の活用やタグチメソッドもこの手法の一つであり、多変量解析であれば1970年代より開発に活用されてきた。
当方が初めて多変量解析で研究成果を出したのは、タイヤの軽量化技術であり、タイヤメーカー20社の同一サイズのタイヤデータを主成分分析にかけ、各社の特徴を明確にし、さらに主成分得点などを活用し、予測される最軽量の重量見積もりやその時の構造の特徴を明らかにしている。
当時はマイコンが登場したばかりでインテルの8088やザイログのZ80評価キットが販売されていた。
また、シャープはZ80搭載パソコンの発売を開始したが、搭載メモリーは全部で48Kバイトであり、それで多変量解析を行うならばF-DOSのセットが必要だった。
当方はパソコンではなくIBMの大型コンピューター3033付属の統計パッケージを使用して成果を出している。
ゴム会社には大型コンピューターが2台あり、1台は先進のPOS用であり、1台は技術者に開放されていた。
しかし、データを入力すればすぐに結果が出るわけでなく、新入社員のデータは計算処理が後回しにされることが多く、翌日に計算結果を見ることもあった。
多変量解析の有用性について社会人スタートの時に理解することができたのは幸運だった。科学で不明確となりそうな開発では、データ駆動の実験に切り替えて成果を出すことができた。
これが科学が命よりも大切に思っているような研究者には、腹が立つような手法に見えたのかFDを壊されるような研究の妨害(隠蔽化の動きがあり、転職の決断をしている)を受けている。今はアカデミアが率先してそれをやろうというのだから時代の進歩だろう。
イムレラカトシュは、科学と非科学の境界は曖昧であり、時代によりそれは変わる、という名言を残している。これは名言であり、弊社の問題解決法のよりどころでもある。
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ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドにより、分子レベルで均一に混合された前駆体の合成を1982年に成功した。これを用いて、世界で初めて成功した、経済的な高純度SiC合成実験では、電気炉の暴走が重要な役割を果たしている。
すなわち、最初の実験で設定された電気炉のプログラムで実現される温度条件では、未反応のシリカやカーボンが残存していたことが後日の実験で示されたからである。
最初の実験であったことや、その電気炉が納入されたばかりの新品であったことなどから、電気炉の扱いに手慣れた主任研究員の方が、実験条件のプログラムを電気炉に設定してくださった。
当方は、ただサンプルを電気炉にセットしただけで、運転開始もその主任研究員の方が操作された。しかし、SiC化の反応が生じる温度に達した瞬間に電気炉が暴走し始めた。この欄で以前この詳細について述べている。
この結果、高純度SiCの合成に成功したわけだが、暴走という現象が安全上の問題として研究所で検討された。またそれが納入されたばかりの電気炉という理由で、検収作業の疑義の問題にまで及んだ。
すぐに、安全委員会による調査が行われたが、異常が見つからなかっただけでなく、科学的に全く同じ動作で電気炉を運転しても異常は発生せず、暴走原因を解明できなかった。
プログラム運転中に温度センサーに異常が起こればPIDが正しく動作することも、また誤ってどこかボタンが押されたとしても電源が落ちる仕様だったので、何かエラーが発生したとしても今回の暴走のような事態に至らないことも確認された。
このような機械の暴走という異常は、それが再現されない場合に原因不明となってしまう。再現されて初めて科学的に原因を論じることが可能となる厄介な問題だ。
それをおそらく知っているのだろう。こともあろうに池袋で親子を横断歩道ではねた89歳の老人は、機械の暴走を原因として自分に責任がないと言い出した。
自動車では、仮に制御不能となったとしても、危険を回避し事故を起こさないように努める責任が運転者にはある。
車が暴走したならば、あらゆる方法を駆使して「安全に」車を止める責任が運転者にはあり、ただブレーキを踏んでいただけという発言から、それを果たしていなかったことは状況から明らかだ。また、運転者自身それをよく理解しているはずだ。
当方は電気炉の暴走が始まった瞬間に主任研究員に言われ、1度限りの大切なチャンスの実験であったにもかかわらず、非常ボタンを押して電源を落とし暴走を止めることを優先した。すぐに温度が下がり始めたが、断熱材の効果でそれは緩やかだった。
主任研究員が実験室に到着し、再度電源を入れたときに偶然保持温度のプログラムラインに炉体温度が乗ったため、電気炉はプログラムコントロールされ冷却動作に入った。
翌日温度が下がった電気炉の中には、最適条件でSiC化された高純度SiCが合成されていた。それは電気炉の暴走でもなければ見つからない反応温度パターンだった。
この時得られた高純度SiC粉末に対して2億4千万円の先行投資と研究所建設が決まっている。機械の偶然の暴走のおかげで幸運が訪れた。
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高分子材料で発生する品質問題の多くは、科学で正確に論じることが難しい場合が多い。また、正確に論じようとすると分析費用が嵩むので適当なところで妥協することになる。
品質問題が起きたときに、どこまで解析を行い対策を講じるのかは、大変難しい実務上の課題である。
一方、高分子材料の市場で発生する問題について、科学的にすべて解析可能と豪語する人について信用しない方が良い。
高分子材料を階層的にとらえた時に何が問題かさえも曖昧となるケースもあり、それでも具体的な品質問題として解決しなければいけない。
そのようなときに、間違った問題を科学的に正しく解かれても、品質問題を再発することにる。市場での品質問題というのは、科学的正しさよりも再発しないように解決することが一番重要である。
そのため、市場で品質問題が起きると、過去の事例との比較や他で起きていないかなどの調査から始めるのが一般的だが、故障に至る現場の状況調査が不明点の多さを理由に不十分となりがちである。
環境関係の法令整備が進んだので、製品における故障を素材レベルまでその素性をさかのぼることが容易となった。現場の状況調査では、高分子材料の生まれてから故障に至る履歴が重要である。
もし、破壊した状態ならばフラクトグラフィーは必須で、科学的ではないと批判されても現場情報をすべて盛り込んで仮の結論まで出しておくべきである。これは、高分子材料の市場における破壊を考察する重要なノウハウである。
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高分子材料の難燃化技術について、2時間の無料セミナーを行う予定でいるが、テキストの購入をお勧めしたい。
もちろん無料セミナーなのでテキストの購入は義務ではないが、2時間という短時間では、十分な説明ができない。
例えば評価技術については、LOIとUL94規格の簡単な説明程度しかできないので、テキスト付属の予備資料でセミナー後の独習が必要となる。
また、混練技術についても説明できないので、予備資料の独習が前提となる。ゆえにこの無料セミナーはテキストを購入していない聴講者にとって少しハードルは高いが、テキストが無くても難燃化技術の勘所はご理解いただけるように解説する。
以前2日間コースと1日コースで実施した評価結果では、2日間コースの方が評価が高かったので、二時間コースでは、何だこれ、という結果になるかもしれない。
しかし、形式知が少ない分野であり、経験知の伝承の重要性を感じており、2時間の無料セミナーを行うことにした。
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今月質問の多い高分子のブリードアウトについて、2時間の無料セミナーを開催する。通常6時間ほどの内容からポイントだけ取り出して解説する。
高分子初心者のためには、なぜ科学の結果と実務における結果が異なるのか、という視点で解説するので、材料開発の経験が無くても得るものがあると思っている。
二時間のセミナーだが、テキストは、補助資料として解説できなかった部分を添付するので購入する価値はあると思う。
さて、ブリードアウトを理解するためには、二つの重要なポイントがある。一つは溶解現象とは何か、他の一つは高分子の高次構造である。
ブリードアウトという現象は拡散現象であり、その理解は重要だが、実務では拡散現象よりも高分子の高次構造と溶解現象の理解が不可欠である。
これは、教科書に書かれている解説と少し異なる。しかし、実務でブリードアウトという現象を扱った経験から、この二つを十分に理解したうえで拡散現象の理解が重要だと思っている。
すなわち、拡散現象だけでブリードアウトが制御されているのであれば、品質問題の解決は容易である。しかし、現実は実験室の結果が市場で再現されない。
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下記予定で今月WEB会議システムを用いた無料セミナーを予定しています。ご希望の方は弊社へお申し込みください。
10月19日(月)13時30分から15時30分 問題解決法
10月20日(火)13時30分から15時30分 高分子の難燃化技術
10月23日(金)13時30分から15時30分 高分子のブリードアウト
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