活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2020.09/10 高分子の誘電率制御(2)

ヒューリスティックな手法は、難しい手法ではないが、知らない人には、マジックのように不思議に見えるようだ。

 

頭の良い人ほどその手法を受け入れられないかもしれない。実績では偏差値40前後の高校生から社会人になった人を指導して大発明ができている。

 

要は現象をどうとらえ、そこに存在する機能をモデル化して頭の中でそれ動かすことができればよく、将棋や囲碁の打ち手を考えるより易しい。

 

しかし、頭の良い人は現象を科学的に捉えようとして、その手法の有効性をなかなか理解できない。科学で何でも解決できると思っているその頭がおかしいことに気がつかない。

 

自然科学で解決できていない現象は、まだたくさん存在する。素粒子物理学でも今ようやくその果てが見えてきたところではないか。

 

完成したと言っている物理学者もいるが、素粒子物理学の完成は、それを自然物理学や化学などの世界とシームレスに体系化できた時である。化学では、未だ怪しい錬金術師が活躍できる分野である。

 

当方が今月無料セミナーを開催するのでそれを聴講していただければご理解いただけるが、当方が指導するヒューリスティックな手法は科学的である。

 

科学的な手法で科学で解明されていない問題を解くことが可能である。ただし、そこで得られた解は、科学的かどうか検証する必要があるが。

 

話が脱線したが、電気粘性流体で設計した傾斜組成の粒子に対しても他の人からそれでできたと言われても使えない、と一流企業ではよくある評論家的意見が出てきたので少し科学で味付けした。

 

意外にも誘電体超微粒子分散微粒子やコンデンサー分散微粒子は、すんなり理解された。創作した当方にしてみれば、この二つの粒子の方が怪しい。怪しいだけでなく、傾斜組成粒子よりも少し性能が劣る。

 

非科学的な傾斜組成粒子のほうが性能が良く、製造方法も管理可能で量産性があった。コンデンサー分散型粒子は、インタカレーショーンなど時間のかかる現象を駆使して材料を製造しなければいけないのでコストアップすることは見えていた。

 

非科学的な傾斜組成粒子については、5μm程度のモデル粒子を実際に製造し、それを輪切りにして電子顕微鏡写真を撮影したり、表面と中心部、およびその中間の導電性を測定し、傾斜組成になっていることを確認している。

 

しかし残念ながらFD問題隠蔽化に納得できず転職してしまった。そのため公開されたデータ特許に掲載された傾斜組成の写真だけである。

 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.09/09 高分子の誘電率制御(1)

絶縁体セラミクスの中でペロブスカイトと呼ばれる一群の結晶は、強誘電体として知られ、周波数依存性があってもコンデンサー用材料として欠かせない部材である。

 

高分子ではフッ化ビニリデンはじめ一部のフッ素系或いはシアネート基を有する材料が強誘電ポリマーとして知られている。これらは、側鎖基も含めて電荷の偏りで発生する大きな双極子モーメントにより強誘電体としての性質を示す。

 

また、ペロブスカイト同様に圧電性も示す。今は昔となってしまったが、オーディオ業界の雄、パイオニアがフッ化ビニリデンを振動板として用いたヘッドフォーンやツイーターを発売した実績がある。

 

フッ化ビニリデンを振動板として用いたヘッドフォーンは能率が悪かったが、SN比の高い自然な響きをしていた。ヘッドフォーンで音楽を聴くのは苦手であったがこの美しい音に惚れて購入した。

 

ところで電気粘性粒体という材料が20年以上前に盛んに研究され、あの日産自動車ではサスペンションまで試作された。

 

電気粘性流体とは、絶縁油に半導体粒子を分散した液体であり、電場のONとOFFでそのレオロジー特性を流体から固体にまで制御可能な物質である。

 

この流体に電場をかけると、各粒子に双極子が生じ、その相互作用のため、粒子が電場と同じ方向に並んだクラスターを作る。

 

ONセットとOFFセットの応答性の良い電気粘性流体を設計するためには、半導体微粒子の設計が重要で、電場を受けると帯電しやすく、電場が無くなると帯電した電荷を速やかに無くす仕組みが重要である。

 

このような材料は科学的に考えていては、山中先生ではないが生きているうちに創り出すことはできない。ヒューリスティックな手法で、傾斜組成粒子や超微粒子分散粒子、コンデンサー分散粒子など瞬間芸的に生み出した。

 

この創造力は訓練すればだれでもできるのだが、当時のプロジェクトリーダーからどうしてそのような情報を仕入れたのか教えろ、と会議室で詰め寄られた。

 

頭を指さしたら、切れたので怖くなって会議室を飛び出したが、そのくらいインパクトのある発明だったようだ。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/17 コンセプト(10)

粒子の凝集体でできたドメインの分散状態について、パーコレーション転移が考えられる。ドメイン内部も同様にパーコレーション転移が起きていたほうが抵抗が安定する。

 

すなわち、凝集体のパーコレーション転移を制御して、その制御された凝集体の分散についてもパーコレーションを制御するというと難しそうに見えるが、混練の教科書には簡単にできそうに書いてある。

 

だから間違っているのである。分配混合を行えばそれができる、と言ってもそれは教科書の中での出来事であって、実際の現象を制御しようとなると、知恵が必要になる。

 

方法は2つある。6ナイロン相に全てのカーボンを分散し、6ナイロン相の中でパーコレーション転移を完結させておく。そうすればカーボン量に応じて、10の6乗から10の4乗までの体積固有抵抗の半導体相を形成できる。

 

そしてこれをPPSに分散するのが一つの方法で、これは最初に6ナイロンとカーボンを混練し、それをPPSと混練するという分割プロセスで簡単に実現できる。

 

もう一つの方法は、PPSに6ナイロン相を相溶させて、そこにカーボンを分散すると、6ナイロン相がスピノーダル分解を起こし、相分離するときに、PPS相で安定に分散しないカーボンは、6ナイロンに引きずられて凝集粒子相を形成する。

 

これは、かなりの難易度というよりも科学で否定される禁じ手である。ただ、高分子の世界では、科学で解明されていない現象が多いという理由で、このアイデアを積極的に考えると、新技術を生み出せる可能性がある。

 

ただこのようなチャレンジが許される風土であるかどうかが問題となるが、幸運なことに写真会社が合併したカメラ会社の風土は、それが許される風土だった。

 

最もこの無謀なPPS中間転写ベルトの押出成形技術はそのような風土だったから6年も続いていたテーマだった。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/15 コンセプト(8)

Wパーコレーション転移による抵抗の安定化が、このときのヒューリスティックな解であり、コンセプトであった。しかし、これは科学的に証明された解ではなかったし、それを証明するためには数値解析も必要となるので、科学的な解について退職後の楽しみに残しておくことにした。

 

余談だが、2011年3月11日に早期退職して最初に着手したのが、会社設立とこのWパーコレーションの数値シミュレーションによる研究である。ソフト開発も含めほぼ一年かかっている。

 

Wパーコレーション転移を制御できれば、ベルトの周方向の抵抗偏差を小さくできることは、日本化学工業協会から賞を頂いた酸化スズゾルのパーコレーション転移の研究から容易に想像できた。

 

この経験があったので、ヒューリスティックな解を簡単に得ることができ、その解がほぼ正しいこともすぐに確信した。

 

すなわち、カーボンの導電性が高いために、カーボンが分散している樹脂でパーコレーション転移が発生すると、樹脂の抵抗変動は大きくなる。

 

もしカーボンの導電性を悪くすることができれば、パーコレーション転移が発生してもカーボンが分散している樹脂の抵抗変動を小さくできる。

 

カーボン材料を変更することができないので、どのように樹脂に分散している粒子の導電性を悪くするのかが難しい問題となるが、これもヒューリスティックな解を材料開発のプロであれば簡単に見つけることが可能だ。

 

逆にこの解をすぐに見出せない材料技術者は、もっと勉強する必要がある。勉強の必要な技術者は弊社へご相談ください。特訓をしてこのような問題のヒューリスティックな解を容易に見出すコツを指南します。

 

断っておくが、ヒューリスティックな解とど素人の山勘や第六感とは、その質において大きく異なる。後者でもヒューリスティックな解と言えなくもないが、正しい答えとなる確率は低い。

 

正しい確度の高い解を得る方法があり、それが弊社の研究開発必勝法である。弊社の問題解決必勝法は、確度の高いヒューリスティックな解を得る手法というAIの時代にAIではできないヒューリスティックな問題解決法である。

 

人間の人間による人間のための問題解決法である。感染症の専門家をこの手法で鍛えれば、コロナ禍の問題を即座に解決できる。

 

さて、導電性の高いカーボンについて、ふわふわな凝集状態で体積固有抵抗を測定すると10の6乗程度の半導体としての抵抗を示す。

 

このふわふわに凝集している状態へ均等に圧力をかけてゆくと、みかけ比重は0.9から1.6程度まで上がる。さらに静水圧加圧(CIP)を行うと1.95から2.0程度まで密度を上げることが可能だ。

 

横軸にカーボンのみかけ比重をとり、それぞれのみかけ比重の時の体積固有抵抗を測定するとほぼ1Ωcmまで下がる。すなわち、カーボンを凝集粒子とするとその凝集粒子の密度で体積固有抵抗を制御できることになる。

 

ここまで書くと勘のいい人ならば、Wパーコレーション転移の制御というコンセプトをすぐに理解できるかもしれない。

 

カーボンを凝集粒子としてPPSと6ナイロンで形成されるマトリックスに分散すればよいだけである。

 

凝集粒子の中で起きたパーコレーション転移とその凝集粒子が分散して生じるパーコレーション転移の二つのパーコレーション転移を制御すれば、ベルトの周方向で抵抗が安定したベルトを得ることが可能となる。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/13 コンセプト(7)

ベルト生産を終了し、押出機内に残っていたコンパウンドを清掃するために、クリーニング樹脂で押し出すのだが、早く作業を終えるために押出機のスクリュー回転速度を上げたのだ。

 

その結果、金型内では樹脂流動の剪断速度が上がる。PPSと4,6ナイロンのコンパウンドについて剪断速度が上がると4,6ナイロンがPPSに相溶し、透明になったという研究論文が東工大から発表されていた。

 

この研究論文によれば、フローリー・ハギンズ理論によるχが0より大きいPPSと4,6ナイロンが剪断流動状態でその速度が速い時には相溶することを意味している。すなわち、フローリー・ハギンズ理論では、χ>0では相溶しない、とされるが、特殊な条件下では、相溶が起きることが示された。

 

東工大と同様の視点、あるいはコンセプトを当方は、ポリオレフィンとポリスチレンの組み合わせで確認していた。この組み合わせもχ>0であるにもかかわらず、ある条件で相溶し、透明になるのだ。

 

某会社の研究者に当方のコンセプトを信頼していただき、様々なポリスチレンをそこから供給していただいた。

 

データ駆動型開発を進め16番目に提供していただいたポリスチレンで透明になった時には、まっ黄色な高純度SiCが得られた時ほどではないが、うれしかった。

 

これらの実験データから、低周波数の雑音を発生したベルトについて分析し、PPSと6ナイロンが相溶しているかどうか確認することがアクションとして重要となる。

 

そのアクションで相溶していることが確認されたら、押出成形プロセスを使って、PPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドを製造し、それでベルトを生産したら面白いことが起きるかもしれない。

 

ただし、これをすぐに実行してはいけない。面白いことが起きなかった場合の対策が必要で、その対策のシナリオが確実に遂行できるように根回しが次のアクションとして必要となる。

 

そのために、面白いことが起きた場合と起きなかった場合を包含可能なコンセプトを練り上げる必要があった。

 

本来なら、研究開発期間を半年程度とり、人材を投入して十分なデータを集め研究として完成させてからテーマとして行うべきところだが、製品化までに残された時間がたった半年である。ヒューリスティックな解によるコンセプトを練り上げない限り、間に合わない。どうするか。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/11 コンセプト(6)

妄想は、時としてヒューリスティックな問題解決法につながる。PPSと6ナイロン、カーボンの3成分からなるコンパウンドが、押出成形でベルトに変わる。

 

その瞬間、PPSは結晶化してベルトは金属音を放つ。フローリー・ハギンズ理論の正しさを示すかのように6ナイロンがPPSに相溶せず、溶融状態のPPS分子が折れ曲がり、ラメラを形成後それが集まり球晶となる。

 

その結果、6ナイロンは島相として、PPSの海に分散する。これは妄想ではなく高分子化学の教科書に書かれていても良い話である。

 

島状に分散した6ナイロンもパーコレーション転移を起こせば、カーボンもパーコレーション転移を生じる。だから、カーボンは6ナイロンの分散の影響を受け様々な分散状態となる。この辺りから妄想の領域に入ってゆく。

 

ベルトの押出金型には必ず中子が必要で、中子をどのように固定するのかで金型形状が異なるが、固定部分でウェルドが発生する問題がある。

 

固定部分があっても流動状態が均一であれば大きな問題にならないが、6ナイロンの油滴やカーボン粒子が流動を不均一にする。その結果ウェルド部分は他と異なるパーコレーション転移を起こす。

 

妄想が少しずつ膨らんで行くが、もし6ナイロンがPPSに相溶して流れていたらどうなるか、とか、相溶しない組み合わせだから、金型を出てサイジングダイに接触した瞬間にスピノーダル分解を起こす、とか、スピノーダル分解して6ナイロンが析出するときに6ナイロンと相性の良いカーボンは6ナイロン相の島に集まってくるとか、までたどり着くと、カーボンの分散状態を制御してベルト抵抗を均一に安定化するヒントも見えてくる。

 

ものすごい妄想であるが、白日夢を見ているかのようにボーとしていた瞬間、低周波数音が聞こえてきたのである。

 

6ナイロンがPPSに相溶したままならば、PPSは結晶化せず、ベルトは金属音とならない。また、相溶という現象は、非晶質相だけで起きる現象、というのは科学の世界の話である。

 

低周波数の音を発生しているベルトでは、PPSに6ナイロンが相溶するという信じられない現象が起きているかもしれない、と思っても、妄想は妄想として扱い、現実に取るべきアクションを冷静に考えなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/07 コンセプト(3)

始末書をまとめているときに、ホウ酸エステルを合成し、それをポリウレタンの変性材として使用する実験を行ってみた。

 

ホウ酸エステルを持ち出したのは「温故知新」という行動である。始末書でごたごたしているときに新しいアイデアを考えているゆとりなど無い。

 

当時は高分子技術において難燃化技術の関心が高まっていた時代であり、古代の難燃化技術について書かれたコラム記事が研究室の隅に放置されていた。

 

この状態は誰かがそれをすでに検討してダメだったことを示している。すぐに検討された人に尋ねたら、ホウ素系の化合物には高い難燃効果は無いという実験結果だったらしい。

 

幸運だった。ダメな実験結果から予見される、ダメな実験をやらなくても済んだからである。「温故知新」とは、過去を振り返りそのまま実行することではなく、「新しいコンセプトの下で過去の知見を見直すこと」なのだ。

 

古きをたずねて、古い技術をそのまま見ていても、古いだけである。新しきを知るためには、過去と異なる視点を持たなければならない。過去と異なる視点とは新しいコンセプトで見つめなおすことである。

 

すぐにホウ酸エステルが過去に難燃剤として検討されていないことに気がついた。ホウ酸エステルに着眼したのは、無機アルコキシドからガラスを合成する研究が当時の花形テーマだったからで、当方の独創というよりも、情報として周囲にあふれていたからである。

 

当時の先端の情報をもとに古い現象を見なおした。この段階で、まだ、新しいコンセプトは生まれていない。

 

自己評価するときに、無能かどうかという能力の捉え方の方が努力目標を設定した時に実現可能性が高くなる、と思っている。

 

とかく有能であらんとすると高い目標設定をしがちであるが、無能ではないかと自己を見つめるときに、無能にならないように努力する行動を起こすことができる。

 

ホウ酸エステルについて難燃剤としての検討が過去にされていなかったので、複雑に考えることなく、まずそれを合成することにした。ここで大学4年の時に有機金属合成化学の研究室で学んだ経験が生きた。

 

配位子という視点で、エステル化反応にジエタノールアミンを用いたのである。未経験者ならばホウ酸エステルの合成にグリセリンとかを選んでエステル化の研究として行うかもしれない。

 

有機金属化学を1年間学んだ経験があり、当時の研究室の諸先輩の顔を思い出し、無能と笑われないために、迷わずジエタノールアミンとホウ酸の組み合わせを実験している。

 

そして合成された化合物とリン酸エステルとを組み合わせて加熱する実験を行い、ボロンホスフェートを簡単に合成できることを見出している。

 

この実験結果は、ホウ酸エステルとリン酸エステルをポリウレタンに添加しておけば、燃焼時の熱で容易に反応してボロンホスフェートができることを示している。

 

あとはボロンホスフェートの難燃効果を調べれば、新しい難燃化システムの完成である。

 

たった2日間の実験で、「燃焼時の熱でガラスを生成し、高分子を難燃化する」というコンセプトが生まれた。

 

新しいコンセプトは、温故知新と学生時代に厳しいがレベルの高い研究室で学んだ知的財産と、実験という体力勝負をいとわない愚直さで生み出された。

 

学会で発表した時の懇親会で多くの先生が褒めてくださったが、能力というよりも始末書騒動から始まった業務に対する姿勢の変化が大きいと思った。

 

新しい発明を行うには、コンセプトが重要となるが、汗を流すことをいとわない心がけで、コンセプトを見出したならば、すぐにそれを具体化する行動を起こす必要がある。

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2020.08/05 コンセプト(2)

研究開発におけるコンセプトの重要性について、始末書でもめているときに気がついた。ところが、マネージャーが無責任であることはマネジメントにおいて重要な要素の一つかもしれない、と一瞬誤解したことがきっかけである。

 

この誤解は、有能で責任感のあるマネージャーがそのようにふるまったときに部下のマネジメントとして成功するかもしれないが、本当に無責任な上司のもとでは、その後の災難も予見して部下は行動しなければいけない、という過剰な行動原理まで身に着けることになる。

 

この体験は、退職前の中間転写ベルトの開発にいたるまで役立っているが、担当者の立場では残酷な結果を生み出す恐れもあり、好ましくない行動原理と思っている。

 

企業において、多くの場合に部下は上司を選べないので、健全な組織運営のためには、部下の立場でもリスクマネジメントが重要となってくる。

 

それは、上司の顔色を窺ったり、忖度という気の使い方ではなく、部下と上司の関係においてどのような役割を担当者は果たすべきなのかという発想に基づくものであり、その推進過程では、自分が社長になったつもりでリスクを予見し、上司に「謙虚にかつ果敢に」提案を行う行動が重要となる。

 

ちなみにドラッカーが言うところのマネジメントの定義とは、人をなして成果を出すことであり、幸運にも頼りないマネージャーを前にした場合にスタッフはこの組織のリスク回避のためにマネージャーを助け自分が頑張らなくては、とモラールアップにつなげなければいけない。

 

健全なこのような発想ができる様になれば、企業において発生する悲劇を少なくできると思っている。

 

注意しなければいけないのは、本当に頼りない人を前にしたときに、その人に代わって自分が組織のマネジメントまでも行うつもり(あくまでも「つもり」である。実際のマネジメントは上司を通じて実現する)で仕事を請け負わないと、成果に関わらず、さらなる倍返しの災難が襲う。

 

新入社員ではあったが、工場試作を成功させても始末書を命じられたので、行動の反省として高校時代から読み続けてきたドラッカーの名言の数々を思い出し、コンセプトの明確化の重要性にたどり着いた。

 

すなわち、始末書を書く事態になっているのは、研究の目的と意味が十分に周囲へ伝わらず、経済性だけの議論になったためであり、問題となったホスファゼンの研究が、研究所として事業を見据えた明確なコンセプトに基づくもので、この試作の成功により、新たな基盤技術が作られることを始末書に書く必要がある、と気がついたのだ。

 

今思い出してみても、この始末書騒動は自己の成長のために大変役立った。研究として成功したにもかかわらず、新入社員2年間は下がらない規程になっていた給与が100円下がっていたりしてサラリーマンの苦い思い出となっているが、企業の研究開発というものを社会人1年目で真剣に考えるための貴重なきっかけとなった。

 

また、この時の経験から、無機材研留学時、正解を書いたにもかかわらず昇進試験に落ちた時、迷わず高純度SiCの合成実験を是が非でも成功させる決断をしている。

 

体力という自己の強みを生かした過重労働により5日間という短期間で実験を成功させて、給与明細書の数値が大きく変化しただけでなく、社長から2億4千万円の先行投資まで得ている。

 

この高純度SiCの発明まで当時の業務スタイルにおいて共通している上位のコンセプトは、無機高分子を用いたプロセシングの工夫であり、このコンセプトは学位論文の骨子となった。始末書騒動は、30年ゴム会社で続いた異色の事業ともつながっていた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop

2020.08/04 コンセプト(1)

軟質ポリウレタン発泡体難燃化技術のテーマを担当した時に世界初の難燃化技術を提案してほしいと言われた。そこで当時注目されていた新素材ホスファゼンを難燃剤として応用する技術を企画した。

 

特に明確なコンセプトがあったわけでなく、世界初=当時の先端技術の応用研究=ホスファゼンという単純な連想ゲームである。

 

工場試作まで成功したが始末書を書かされた話をこの欄で書いている。市販されていない材料を自分で合成して研究テーマを成功させた。ところが、事業性が無い、ということで社内の問題になった。

 

管理職がテーマとして認めて推進したわけだから、管理職が責任を取るべきなのに、新入社員がやりたいと主張したので新入社員の責任ということになり始末書を書かされたのである。

 

半年もかけない開発期間で過重労働をして工場試作を成功に導いても始末書である。もちろん新入社員二年間は残業代が出ないのでタダ働きである。

 

パワハラが問題となる今時にこのような入社間もない社員の扱いを信じてもらえないかもしれないが、事実であり証拠も思い出として残している。

 

始末書の内容でもめたのだが、新規合成されたホスファゼンでイントメッセント系(当時このような概念は無かった。イギリスの学会誌にも掲載されている)の難燃化システムという世界初の成果を経済的に実現するために、「燃焼時の熱でガラスを生成させ難燃化する」コンセプトを管理職に提案し、それを始末書に書いた。

 

始末書か企画書かわからないような書類だったが、管理職が喜んで経営陣に提出している。そして半年後には工場試作を成功させよ、と想像される業務量から労災につながるような過重労働を命じてきた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop

2020.07/30 混練温度

高分子の混練温度について誤解をしている人が多い。特に樹脂の混練経験者は、Tm以上にシリンダー温度を設定しなければ、混練できないと誤解している。

 

高分子はTgとTmの中間領域の温度でも混練できるのだ。ゴムのロール混練では、室温で混練した経験がある。

 

このような話をすると、ステレオタイプ的に分子の断裂を言い出す人がいる。実は、Tm以上で混練しても配合設計が悪ければ分子の断裂は起きる。混練で分子の断裂は起きるのだが、条件設定によりその程度は変化する。

 

すなわち、Tmの温度以下で二軸混練機を用いて混練するときに、各シリンダー温度の設定の仕方が重要になってくる。これはノウハウになるので詳しく書かないが、ご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。

 

混練温度をTg以上で任意に設定できる技を身に着けると、二成分以上のポリマーブレンドをうまく混練できるようになる。

 

換言すれば、ブレンドしたい高分子の溶融時の粘度を揃える、あるいは近い温度で混練することが可能となる。これがどのような意味を持っているのかもご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。

カテゴリー : 高分子

pagetop