高分子成形体のトラブルで劣化は厄介な問題である。なぜなら金属やセラミックスのように破壊力学の形式知が整っていないからである。
今でも1-2件時代遅れの研究発表として、劣化と結び付けた高分子の酸化分解の研究がある。自動酸化という現象があるので、高分子の劣化が酸化分解で進行する、という説明は分かり易い。
しかし、500年以上前のゴムの塊について表面付近のゴムは酸化分解して低分子量化していたが、内部はそれほどの酸化が進んでいなかった事実を知ると、酸化劣化という現象を溶媒中で実験することにいくつか疑問が出てくる。
30年以上前にポリウレタンの加水分解が大問題とされたことがある。ポリウレタンの劣化現象は即座に解析され、対策の効果もすぐに現れたが、他のプラスチックについて未だに劣化現象の理解が進んでいない。
古いところでは、井上靖の「氷壁」を是非読んでいただきたい。これが高分子の劣化とどのように結びつくのか、一読していただければご理解いただけるが、これは作品が発表される1年前に起きた事件、実話をモチーフにしている。
すなわち、ナイロンザイルが結晶化して脆くなり切断し遭難した、あの事件である。当方が生まれて間もないころに起きた事件だが、その後何度も映画化されTVドラマも作られた。
滑落して死亡する小坂はその時代の二枚目が、魚津はニヒルなあるいは個性派の俳優によって演じられる形が定番となったドラマだが、ドラマ以上に実話はどろどろと展開している。
東洋レーヨンのナイロンを東京製綱がロープにした製品で事件が起きたのだが、安全基準ができるまでに20年以上かかっている。その間に20人以上もの登山者が安全基準のないナイロンザイルの犠牲になった。
次週火曜日に大阪で高分子の破壊と寿命予測に関する日刊工業新聞主催のセミナーでこのあたりの話も少し致します。最近の話題ではホンダのリコール問題を取り上げます。ご興味のあるかたはお問い合わせください。
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PPSの押出成形で気になっていたことがある。当方以外にも気にしていた人がいたが、こんなものでしょう、という会話で終わっていた。順調に成形技術が完成していたのでラインを触りたくなかった。
あれから20年近く経った。中国でPPSコンパウンドの開発を指導したりして、この時と関係するような現象を見てきた。レオロジーの測定装置を販売している会社にお願いして一日機械を借りて実験した。
楽しかった。想像していた結果となったのだ。それから10年経った。以下は想像の話で、妄想程度にご一読いただければと思う。
まず、PPSの押出成形において金型と押出機の中間ネックの温度安定性が悪かった問題。規則正しい揺らぎならばPID制御の影響だが、最大10℃前後の範囲で変化している温度の揺らぎとヒーターで加熱しているのに設定温度よりも5℃低い状態が続いたり、と気持ちの悪い変化だった。
このような変化があったにもかかわらず、押出成形は安定だった。この時の変化は、PPSの球晶がラメラに崩れ、その崩れたラメラが溶融していた時の変化ではなかったろうか、と想像している。
DSCの計測結果では、Tm付近でブロードに吸熱ピークが現れる。この時のピークトップを樹脂のTmとしているが、実は完全に融解した状態ではない。5月28日大阪で開催される日刊工業新聞社主催のセミナーではデータとともにご説明いたします。
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金属やセラミックスと異なり、高分子を理解するためにはある程度の芸術的なセンスが要求されるように思う。技術全般に対してそのような見解を述べる方がおられるが、例えばセラミックスの工業製品であれば、芸術的なセンスをデザイナーに任せて、材料開発を形式知で行う、ということが可能だ。
ところが、高分子材料では、形式知が整備されていない分野が多いので、セラミックスや金属のように形式知中心により技術開発を進めることができない。
これはゴム会社から写真会社に転職して分かった。形式知をもとに開発の無限ループに陥っていた人がいた。そして改めてゴム会社の研究所にいた研究者たちを思い出しても芸術を理解できない人たちは、形式的な否定証明を好んで用いていた(無限ループをする方が技術者として期待できる)。
科学ならば少し勉強すれば誰でも使いこなせるようになるが、芸術的なセンスとなるとやはりそれなりの訓練が必要だ。当方がここで必要と言っているレベルは、天性の芸術性ではなくある程度の訓練で身につく芸術性のレベルである。
例えばフローリーハギンズ理論がある。これを信じ現象をこの理論に沿って眺めていると、PPS/6ナイロン/カーボンという決まった配合のコンパウンドで実用的な半導体無端ベルトを開発することはできない。
それこそ無地のキャンパスに欲望に沿ってオブジェクトを描き上げるぐらいの感覚で材料設計を行わなければ実用化できなかったと思っている。
そこにあったのは論理ではなく、パーコレーションを制御したいという欲望だけであった。その欲望を満たすための高分子高次構造の絵を書きあげた(注)ときに、転写ベルトの実用化を確信した。
コンパウンドの開発に6年を費やしたと前任者に聞いていたが、その材料設計と全く異なる発想で、配合組成は同一のまま、全く異なるコンパウンドを芸術的な視点で設計したのである。
荒唐無稽な自慢話をしているのではない。分かり易く言えば、6が月後に迫った製品の新発売までに前任者の開発した配合を変えずに実用化するために実現されなければいけない高次構造の絵を書いたのである。
そこには、形式知からの論理的必然性は無い。逆にその絵から技術として用意しなければいけない設備を考えていった。そこでカオス混合が出てくるのだが、カオス混合機など世の中に無かった。
これもただ絵を書いただけである。ゴム会社に入社した時にご指導いただいた指導社員から教えていただいたカオス混合を実現するための設備の絵を書いただけである。
おそらくダ・ビンチも飛行機の設計をこのようにしていたはずだ。但しダ・ビンチの飛行機では人類初の飛行機を作ることができなかった。
ダ・ビンチは飛行機を見たことが無かった。しかし、当方は指導社員にロール混練におけるカオス混合の「技」を見せていただいた。その「技」に似せてカオス混合機の絵を書いただけで、ダ・ビンチとの違いは「見た」経験の有無である。観察は重要である。
今はどうか知らないが、工学部建築学科ではヌードのデッサンを授業として行う、というので喜んでいた友人がいた。建築学科だけでなく工学部では必要な学習だと思う。
ヌードでなくても加納典明が説明していたようなキャベツのデッサンでも構わない。当方は学生時代に写真と平行して少し絵を書いていたが、その才能の無さに気がつき、写真だけが趣味となった。カメラを被写体に向けるだけでも観察眼を養うことは可能である。
(注)これは実話である。Pythonで学ぶパーコレーション転移というセミナーでも体験談を話している。科学的に考えると二律背反となるような問題解決には、技術で解決、とはゴム会社のCTOが好んで言われていたことだが、芸術まで含んだ技術である。「芸術的な技術」というものがあるが、科学で考えてアイデアが出ない時には、芸術を考える頭の使い方をすべきである。美というものは調和がとれていなければいけない、と言っていた人がいたが、必ずしも調和は必要ない。パーコレーションは、相互作用の無い前提では、統計の確率に左右され、当方独自のシミュレーションで得られる一つだけのグラフは、必ずしも美しいグラフとならないが、クラスター生成の条件を様々にして得られた複数のグラフが描かれた様子は美しい。その美しさの中に実現すべき技術の条件があった。ただセミナーの時にはこのような説明をしていません。ここでは正直に当時の体験を書きました。
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データマイニングでは、データの処理方法がアルゴリズムと同様に大切な技術であると、社会人のスタート時に知ったのは幸運だった。79年10月1日に研究所へ配属され、樹脂補強ゴムの研究を担当した。これをデータサイエンスにより、3か月でモノにしている。
1年のテーマを3か月で済ませてしまったので、1980年1月に職場異動となって新たなテーマを担当することになった。軟質ポリウレタン発泡体の難燃化研究企画を立案している最中の職場で、世界初の難燃化技術を開発するように命じられた。
そこで、まだ市販されていなかったホスファゼンで軟質ポリウレタンフォームを変性する研究企画を提案したところあっさり通過している。その後のドタバタについて以前書いているので省略するが、この時にもデータサイエンスのスキルは役立った。
当時、耐熱高分子の研究ブームが一段落し、高分子難燃化研究の黎明期だった。そこで高分子の骨格と耐熱性や難燃性の解析を重回帰分析で行っている。その結果リン系化合物の難燃剤を用いた難燃化の寄与が一次構造の設計より10倍以上高いことから、ホスファゼンを選択している。
ホスファゼンを選んだ理由は、P=N骨格がリン酸エステル系難燃剤のように難燃効果を発揮するのか興味があったからである。
当時提案されていたりん系難燃剤の難燃化機構では、オルソリン酸の形態で脱水触媒として働いていることが知られていた。P=N耐熱骨格の構造でどの程度の難燃化効果が発揮されるのかは知られていなかった。
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マテリアルズ・インフォマティクスとは何か。機械学習やデータマイニングなどの情報科学の技術を用いて、材料開発の効率化を図る分野や技術のこと、と説明される。
ここで問題となるのは、機械学習の意味である。理由は機械学習の中に統計手法や多変量解析なども含める、というのが今の考え方である。そしてAIのような手法は深層学習としてカテゴライズされる。
もっと素直にあるいは平易にデータサイエンスで研究開発の効率化を図る分野や技術ではいけないのだろうか。この説明を否定する意見は無い、と思っているが、わざわざ機械学習として言いたい背景に先端の香りを載せたい、という魂胆が見え隠れする。
第一次AIブームが終わりかけた頃に日本で情報工学科設立ブームが起きている。その時、情報工学の目的としてデータサイエンスがあった。統計手法が大型コンピューターの利用により発展し、多変量解析という手法が普及した。
ゴム会社に入社した時の同期に情報工学科出身の優秀な新入社員がいて、情報工学について熱く語ってくれた。そのおかげで学ぶつもりの無かった情報工学を趣味として勉強し始めた。
この趣味を加速したのは、彼と同じグループで新入社員の研修を1か月半行ったことと、配属先の上司が80万円のローンを部下である当方に課してパソコンの購入をせまった出来事がある。今ならパワハラによる犯罪だ。
この辺りは、過去にこの欄で書いているので探して読んでいただきたいが、大卒の初任給10万円の時代に80万円のローンは大変だった。ゆえに、必死でデータサイエンスを勉強し、日々の材料開発にデータサイエンスを使うようになった。
すなわち、脅迫的な80万円のローンにより、マテリアルズ・インフォマティクスを40年以上前から趣味としてやらざるをえなくなったのである。今から思えばすごい上司とのめぐり逢いかもしれない。
ところが、当時のゴム会社の研究所では、マテリアルズ・インフォマティクスを科学として認めていなかった。人事部は年間1人50万円かけて、新入社員に基礎統計の研修(日科技連主催)を課していたが、研究所ではこれを形骸化していた。
もし基礎研究所が積極的に取り組んでいたら50年前からマテリアルズ・インフォマティクスが発展していたかもしれないが、基礎研究所ではこの手法を非科学的として、嫌っていただけでなく積極的に業務に取り入れようと努力する社員を迫害していた。当方は会議前になるとFDまで壊され妨害されたのである。
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今は良い時代になった。非科学的なマテリアルズ・インフォマティクスを日本のアカデミアが率先して研究に取り入れ、某コンサル企業は、100社以上指導したという。
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いくらで請け負って指導されたか知らないが、弊社ならば各企業の風土やご予算に応じご指導いたします。また高額なソフトの導入ではなく、無料のPythonの導入をご指導いたします。
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安い!分かり易い!マテリアルズ・インフォマティクスにご興味がございましたらお問い合わせください。導入におけるマネジメント方法からご指導いたします。
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科学的に証明されたホウ酸エステルとリン酸エステル併用系の技術について、データサイエンスを用いホウ素とリンの難燃化寄与率を40年以上前に求めている。
すなわち、マテリアルズインフォマティクスを40年以上前から実施していました、という内容が3月20日の発表です。これだけではつまらないので、今流行の深層学習の手法で解いた結果も加えました。
機械学習を研究対象にされている方の感情を逆なでするような発表になっては申し訳ないので、ここにタグチメソッドの結果も加え、3種類のデータサイエンスの手法の比較、という内容でまとめている。
30年以上前に転職した時の学びを活かして発表しましたところ、座長がツボをついた質問をしてくださった。樹脂補強ゴムの開発ではどのようにデータサイエンスを活用したのか、という、待ってましたと言いたくなる良い質問です。
データサイエンスを科学の研究に導入するときに注意しなければいけないのは、味噌糞一緒にデータを処理してはいけない、という点である。すなわち、データマイニングにより得たい知の目標に応じてデータを前処理する必要がある。
昔は、データベースなどという言葉でデータをひとくくりとしていたのですが、今はデータウェアハウスという呼び方になっているのはこのためだ。
すなわち、発表では詳しく説明できなかった、データサイエンスを研究開発で活用するときの大切なノウハウの部分を丁寧に回答しました。
40年以上前からデータサイエンスを活用していました、と自慢しているような回答となりましたが、発表を盛り上げていただき座長をやられていた斎藤先生に感謝しております。
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この10年、マテリアルズインフォマティクスの講演が多くなってきたが、中には学会で発表するには疑問のある内容を見かけるようになった。
そもそも、データサイエンスを科学の研究の場に導入する意味を正しく理解していないと思われる研究者も増えてきた。
まず明確にしておきたいが、イムレラカトシュが指摘しているように、科学の方法として完璧な方法は否定証明である、ということを充分に理解していただきたい。
当方は、「電気粘性流体の耐久性問題を界面活性剤で解くことができない」という否定証明された現象について、データサイエンスを用いて一晩で「耐久性のある電気粘性流体を界面活性剤の添加で実用化レベルまで仕上げた。」
その結果、非科学的方法で事業を立ち上げようとしたとして、ゴム会社の研究所で袋叩きに合い、写真会社へ転職している。30年以上前、科学こそ日本を発展させる、と多くの企業は盲信していた時代の事件である。
「技術の日産」と、明確に「技術開発で科学を利用しようと」している企業は、少なかった。科学を追及している企業が日本に多かったために失われた30年となった。事業を支えるのは技術である、とようやく声を出して言える時代が日本にも来た。
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当方のノウハウでさらに社会に貢献しようと形式知の部分について学会活動も始めました。経験知につきましては、トラブル解析の実務について概略をまとめてみましたのでご活用ください。今後高分子材料の寿命耐久性評価法や破壊に対する考え方についてもまとめる予定でいます。また、セミナーも皆さんのリクエストにより行ってゆきますのでご相談ください。
2024年3月現在、Amazonの電子書籍Kindle限定で販売中です。
価格は2,000円となっております。
下記は書籍目次と索引のサンプルになります。
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金属やセラミックスでは非破壊検査が可能なので市場におけるトラブルを防止できる。また、その努力を怠ったときには、それなりのペナルティーを受ける。
いわゆるPLの問題なのだが、破壊に関する形式知の成果として、圧力隔壁の破壊により御巣鷹山で墜落した飛行機事故における裁判がある。
この裁判では金属のフラクトグラフィーが証拠として活用された。すなわち、材料の破壊に関する科学の偉大な成果である。ところが、高分子材料では未だにこのような成果が出ていない。
出ていないというより、未だ出せないのだ。そのあたりの話を来週火曜日に開催される技術情報協会のセミナーで詳しく解悦する。また、デンソーのガソリンポンプのトラブルで発生したホンダのリコール問題についても触れる。
PPS成形体の密度管理を怠ったために発生したリコールだが、実はそれだけではない問題についても解説する。弊社の開発したPh01という添加剤は一つのソリューションだが、来週火曜日(3/26)のセミナーに参加希望の方は弊社へ問い合わせていただきたい。割引券がございます。
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ゴムや樹脂のトラブル解析に、熱分析技術は不可欠である。TGAやDSC、TMAと並んだ文字を見て、すぐに測定法やデータが思い浮かぶようになりたい。
特に実務でこれらの材料の品質管理をされている方は、自分で測定ができるようにしておくとよい。使用頻度としてTMAは他の熱分析法よりも低くなるが、持っているといざという時に役立つ。
注意点として、JISやISOにはDSCを20℃/minで測定するように書いてあるが、TGAを同じ速度で計測すると、一部の情報を見ることができなくなる。TGAは10℃/min以下で測定したい。
困るのは昇温速度が異なると、変化温度の位置が変わるところである。ゆえに、熱分析はすべて10℃/minで計測し比較するようにしたい。
ゴムや樹脂のトラブル解析の大半は熱分析でその原因が見えてくるので、熱分析法を身に着けていると、対策を早く取れる。
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