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2023.06/07 二軸混練機とTM

二軸混練機を用いて高性能ポリマーアロイのコンパウンディングを行う時に、その条件を決めるためにタグチメソッド(TM)は大変便利だ。カオス混合機を取り付けた二軸混練機のスケールを大きくしてもその再現性は高い。ただし、カオス混合機が取り付けられていないと苦労する。


二軸混練機については、反応器であるにもかかわらず、化学工学的に相似形として扱えないことを現場の技術者はよく知っている。すなわち時間当たり10kgの処理能力の二軸混練機で吐出量が1時間当たり300kgスケールを予測することができない。


これはバンバリーとロール混練を組み合わせて用いる場合でも同様であるが、二軸混練機の場合には全く予測できない場合が多い。バンバリーとロール混練を組み合わせた場合には、ロール混練時間を多少伸ばす程度で大スケールで小スケール時の検討結果を再現できる。


しかし、二軸混練機では小スケールのコンパウンド性能を全く再現できないことすらある。結局小スケールの再現ができるレベルまで生産量を落とし量産に入る場合が多いのではないか。あるいは、大スケールで妥協ができる程度に改めて条件の変更を行う場合もある。


これはTMを用いても同様である。TMを用いた場合に大スケール化した時にうまく再現できる場合もあるが、複雑なコンパウンドの場合に大スケール化により機能を実現できない場合がある。


これは、二軸混練機が大きくなると混練性能がスケールとともに劣化するからである。1時間当たりの吐出量を100kgから300kg、すなわち3倍程度のスケールアップでもうまく再現できない場合がある。


しかし、カオス混合機をつけてTMを行うと、そのような場合でも再現できた経験が多い。全く手におえないという経験は現在のところ無い。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.06/06 難燃化技術と耐熱性高分子

高分子の難燃化技術が急速に進歩したのは1970年以降である。1970年代中ごろには高分子の難燃化手法に関する書籍も販売されている。そして1980年代には各種リン酸エステル系難燃剤が上市され、1990年代には臭素系難燃剤のブームとなった。


修士2年間の研究で当方はPVAの難燃化技術の論文を1報書いている。当時珍しいLOIの装置を近所の女子大被服科で研究している、と指導教官から教えられて、装置を借りてLOIの評価を行っている。


PVAは接着剤や塗膜として用いられているがその難燃化が難しいということでどこかの企業が研究を持ち込んできた。それを担当する学生がいないということで小生が引き受けた次第。


ホスフォリルトリアミドの重合研究を行っていたので、そのホルマリン付加体を新規に合成しPVAの反応型難燃剤として用いたのだが、1か月もかからず研究をまとめることができた。


この時無機高分子で耐熱性高分子を合成しようと研究していたのだが、耐熱性高分子よりも難燃化技術の方が社会的に貢献度が高いと予感した。


ホスファゼンのジアミノ体の調査をはじめ、修士課程を修了後、4月1日にゴム会社へ入社する前の3週間ほどで、ショートコミュニケーションやホスファゼンの環鎖状型重合に関する論文をまとめている。


残念ながら400℃を越える耐熱性高分子を製造することはできなかったが、この時の高分子難燃化技術に関する調査研究がゴム会社入社後にポリウレタンの難燃化技術で活かされている。

カテゴリー : 一般 高分子

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2023.06/03 添加剤を高分子に混ぜる

高分子材料が実用化されるためには、用途に応じた最適化が検討される。合成高分子が無かった時代には、飯粒は重要な接着剤だった。紙の接着であれば飯粒が十分な接着剤の役目を果たした。


小学一年か二年生だった時、ボール紙で夏休みの工作として作品を作ることになり市販のノリではなく飯粒で接着した思い出がある。市販のノリを使わなかった理由は、飯粒の接着性に興味があったからである。


今から思えば馬鹿な行為であるが、また、親にもその作業性の悪さを指摘されたりしているが、子供心に飯粒が接着剤として機能することに面白さを感じていたのだろう。


この思い出は悲惨な結果だったので今でも記憶しているのだが、接着部分にカビが生えたのだ。カビを取り除いてもそれが生えていたところは変色していた。


このとき、工作用ノリには防腐剤が添加されていることを学んだのだが、情けないのは大泣きをしたことである。大泣きをした思い出は今でも記憶しているが、その後夏休みの工作がどうなったのか記憶が無い。


そもそも飯粒で紙工作をしようとした発想は、親か兄弟からノリはご飯粒から出来ている、とかいう中途半端な知識を教えられたためで、その時防腐剤が添加されていることを聞かなかった。


そのような経験があり、怪しい新しい知識を百科事典で調べるようになった。当時インターネットなど無く家庭用百科事典ブームであり、子供のいる多くの家庭には1セット百科事典があった。


当方の家庭にあった百科事典には、料理について食材を混ぜる方法の説明はあったが、ノリに防腐剤をどのように混ぜているのか記述されていなかった記憶がある。


母親から大量に混ぜるので機械を使っているとの説明を受けたが、どのような機械なのかは企業秘密だ、と教えられた。当時母親の答えには企業秘密が多く、世の中は秘密ばかりと不思議に思っていた。


しかし、添加剤を高分子に混ぜる技術には今でも企業秘密にすべき内容がある。このような技術に遭遇された方は弊社にご相談ください。高分子に添加剤を混ぜる方法について、今でも技術の差が生まれる分野である。同一配合でも機能に大きな差が現れる不思議な現象は、この混ぜる技術が関係している。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.06/02 高分子の機能向上

高分子の高機能化には一次構造の設計と複合化による設計の2種あり、開発の容易性において後者の方が経済的な視点から優位である。


一次構造の設計では重合条件が障害となる。すなわち机上で理想的な一次構造を設計できたとしても重合できなければ、あるいは側鎖の化学修飾にしても合成できなければその機能性を確認できない。


それに対して複合化による材料設計は、混練機が手元にあればおおよその検討をつける実験を容易にできる。但し、それが量産で再現できるかどうかは別の問題だが、とりあえず機能の確認をするためのモノを作ることができる。


複合化で高機能化が期待できる結果が得られたならば、タグチメソッド(TM)を行うとロバストの高い高機能性高分子ができる。


高分子の重合特許よりもコンパウンディングに関する特許の方が圧倒的に出願件数が多いのはこのような容易性からも説明ができる。


高分子の高機能化において工業的にはコンパウンディング技術が重要になってくるが、実はこの技術に関する形式知は少ない。論文を読んでもそこに書かれた結果を手元の混練機で再現できない場合も存在する。


また混練プロセスにおいて、バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、連続プロセスよりも高性能のコンパウンディングが可能である。しかし、この経験知はあまり知られていない。また樹脂をロールで混錬すると説明した時に笑う技術者もいるから面白い。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.05/20 モデルベースデザイン

20年近く前、すなわち早期退職前に担当した中間転写ベルトの開発は、データサイエンスを積極的に取り込んだモデルベース開発の集大成となった。


数理モデルにより、開発ターゲットのふるまいを企画段階に考察する手法は、研究開発を成功させる有効な方法である。数理モデルとしてどのようなものを考えるかは、技術者の力量によるが、力量が高ければ、アジャイル開発も可能となる。


タグチメソッドや多変量解析による考察は数理モデルで設計する一手法である。中間転写ベルトでは、6年近く前任者が国内トップメーカーと共同開発を続けたデータが存在したので、当初これらのデータを多変量解析で処理している。


その結果、コンパウンドに問題があるとの結論に至り、カオス混合をコンパウンドメーカーへお願いすることになるのだが、QMSの仕組みもあり、量産まで半年という状態で頭を抱えた思い出がある。


そこでパコレーションシミュレーションをみなおし、6ナイロン相にカーボンを分散させ、それをPPSに分散させたベルトを押出成形してモデルベースデザインを実証するのだが、必死だった。


カオス混合装置を手作りし、それでPPSと6ナイロンが相溶し、わずかにスピノーダル分解が起きる機能で形成されたカーボンのクラスターがドメインをつくり分散した理想的なコンパウンドを創造した。


センター長に予算交渉し、コンパウンド開発のために中途採用1名と職人1名、当方含めて3名でコンパウンド工場立ち上げプロジェクトグループを立ち上げた。


その後は以前書いているので省略するが、モデルベース開発は、研究開発を著しく加速する。企画から量産立ち上げまで半年で、コンパウンドだけでも数億円の利益の出る技術が完成できるのだ。


数理モデルで現象を考察するコツは、ただ、ひたすら黙って現象を観察すればよい。会議で「素人は黙っとれ」とコンパウンドメーカー部長に言われたのだが、その結果当方を黙らせるために工場見学の機会ができた。


ところが、二軸混練機のラインが稼働しているだけの何の工夫もない工場だったので、これでは歩留まりをあげるコンパウンドを生産するまでに時間がかかると納得している。今タイヤ工場の見学が難しくなったが、ゴム工場のコンパウンドラインは技術を感じることができるラインである。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.05/18 パーコレーションの制御

導電性微粒子を絶縁体高分子に分散し半導体高分子を設計するときに、導電性微粒子の導電性が銅と同じくらい高いと10の9乗Ωcmの材料を安定に製造することが難しくなる。


これを昨日書いたようなシミュレーターで考察すると、半導体高分子を安定に製造するためのアイデアが容易に見えてくる。数式でシミュレーションしていたのでは直感的にアイデアへつながらない。


すなわち、非科学的なシミュレーターであっても良いアイデアが出てくるのだ。むしろ数式で考えるよりも良いのかもしれないと思っている。科学的にこだわっていてもアイデアが出なければ仕方がない。


詳しくはこのホームページで募集してるセミナーを受講していただきたいが、希望者がいれば土日に開講することも可能である。土日であれば一人でも特別サービスで1万円で講義を行っている。


平日が3万円なのに土日が1万円であることを不思議に思われるかもしれないが、平日は企業の方の受講を想定し、土日は個人のスキルアップを目標に受講されるのではないかと期待している。


当方は企業を退職するまで土日に勉強していたが、このようなセミナーがあれば便利だと思っていた。自分が受講したいと思っていたので、今それを実現している。土日はストレス解消に弊社のセミナーを受講してみてはいかがでしょうか。是非お問い合わせください。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.05/10 例題3(3)

高純度酸化スズゾルを用いた透明導電薄膜の技術が科学的に否定された背景には、パーコレーションという現象が1990年頃材料技術者に知られていなかった問題がある。


パーコレションという現象は数学者により1950年代から議論されてきたが、それが材料の混合技術において分散現象と関わる重要な議論と広く材料技術者に知られるようになったのは、1990年以降である。


その原因は、材料の混合分散について混合則(あるいは複合則)で議論されてきたからである。また、スタウファーにより体系化された浸透理論をそのまま材料技術者が理解するには難しすぎた。


また、数式により表現されてもそれをそのまま現象理解に結び付けられるかどうかは、データサイエンスで材料技術のアイデアを練る手法理解で要求される「苦痛」を我慢できるかどうか、という問題と似ているところがあった。


ここで「苦痛」と表現したのは、科学の方法こそ技術開発で許される唯一の方法と信じている人には、データサイエンスで示された答えを受け入れるだけでも耐えがたい感覚になる人がいるからである。


当方はそのような人が引き起こした事件のために新事業をゴム会社で起業しながらも転職しなければいけない状態に追い込まれている。


データサイエンスの研究は科学であっても、それを材料技術に応用する、あるいは問題解決法として利用するときに非科学的という感覚になる人がいる。


また、タグチメソッドは1990年代に普及が始まったが、30年以上経った今でもその手法をご存知ない方が多い。これは、指導側の問題もあると思い、弊社ではデータサイエンスの視点で学びやすくした教材を用意している。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2023.05/09 例題3(2)

高純度酸化スズゾルを用いた透明帯電防止層の製造は科学的に不可能、と否定証明が展開された論文により、写真フィルムの透明帯電防止層の材料として高純度酸化スズゾルが否定されたので、イオン導電性高分子が写真会社で使用されていた。


ATOやITOなどの材料が研究対象として選ばれなかったのは、ライバル会社から多数の特許出願が成されていたからである。ライバル会社からは組み合わせ特許も含め3000件近い発明が公開されていた。


この多数の発明を整理してみようと思い、特許を取り寄せ読み込んでいったところ、1980年代の中ごろから戦略出願されていることに気がついた。


すなわち、それらより以前に出願された特許には、特公昭35-6616が登場するのだが、戦略出願されるようになってからは、その存在が隠されるような表現になっていた。


今となっては笑い話にもできるが、当時小西六工業時代の特許を詳しく知っている技術者が一人もいなかったのだ。特許庁まで出向き、その周辺も含め特許を調べたところ、その特許1件だけがぽつんと出願された状態だったことに驚いた。


また、出願企業を見て衝撃を受けている。転職先の図書室で過去の研究報告書を調べたところ、ホコリをかぶっていた廃棄予定の段ボール箱の中から、写真業界における帯電防止技術と書かれた冊子を見つけた。


その冊子には番号が付けられ、限定された数だけ社内に配布されたとあった。しかし、その限定版が廃棄予定の箱の中から出てきたのだ。これ以上は書かないが、帯電防止の基盤技術が社名の変更とともに無くなったことを知った。


さて、このような状態で否定証明された酸化スズゾル技術を再度企画として提案するにはどうしたらよいのか。この答えは日本化学工業協会から技術特別賞を受賞した年に日本化学会春季年会で「温故知新の技術」として問題解決法も含め講演している。


否定証明された企画を再度復活するには、プレゼンテーション能力だけで解決できない問題が発生する。この酸化スズゾル技術の復活企画をしているときに、自費で会社で使用するノートPCを購入しなければいけない状態(注)になっている。


(注)MS-DOSの時代に、職場のPCは1台を数人で共同使用する状態だったので、データを職場のPCのハードディスクに保存することができなかった。しかし、企画途中のデータがFD数枚になったのでハードディスクなしに作業ができなかった。これ以上は書かないが、否定証明された企画を復活するときには、それなりのリスクが存在することは知っておいてほしい。

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2023.05/08 例題3(1)

金属酸化物は酸素欠陥を生成しやすいので、その電気物性を科学的に議論するときには単結晶の測定データが用いられる。しかし、公開されているデータの中には、単結晶の合成が難しい、という理由で多結晶体の測定結果があるので注意する必要がある。


酸化スズの電気物性について科学的に正確なデータが測定されたのは1980年代である。無機材質研究所で構造欠陥の無い単結晶が製造されて、高純度酸化スズが絶縁体であることが確認された。


ゆえにITOやATOに導電性があるのは、不純物の添加により酸素欠陥が生成するためであり、それにより半導体領域から導電体領域までの電気特性が発現する。


1980年代に初めてこれが証明されたのだが、透明導電体は1960年代から蒸着法で製造されたITOが実用化されていた。また、このころ世界で初めて非晶質高純度酸化スズゾルの導電性が今は存在しない小西六工業(株)の研究者により発見されている。


小西六工業(株)からは特公昭35ー6616という特許が公開されるやいなや、写真界の巨人イースタマンコダックや当時セルロース製造会社から生まれたばかりの会社から技術に追いつこうと特許が多数出願されている。


小西六工業(株)は静電気の研究でトップを走っており、当時今でも通用する帯電防止に関する技術体系が生まれている。ゼロックスから複写機が発表されてすぐにユービックスを商品化できたのはその基盤技術が存在したからである。


日本が帯電防止の研究で世界トップレベルだったことを知ったのは、ゴム会社から転職し、酸化スズゾルの導電性について否定証明が成された社内研究論文を読んだことがきっかけである。


無機材研の研究成果を知っていたにもかかわらず、その社内研究報告書に疑問を感じたのは、当方の転職の原因が電気粘性流体耐久性問題に関する否定証明をひっくり返し、その結果当時推進していた住友金属工業とのJVの業務妨害を受けるようになったトラウマからである。


すなわち、「また、否定証明か」というデジャブのような気持ち悪さからである。酸化スズ透明導電薄膜の研究に初めて接したにもかかわらず、その否定証明の論理展開に恐怖さえ感じている。

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2023.05/03 例題2

5年以上研究開発が行われ、量産試作段階でも歩留まり10%未満の押出成形による部品があった。時折30%近く歩留まりが上がることもあったので、量産が決まったのだが、半年後には80%以上の歩留まりにしなければ、大赤字になることが予想されていた。


コンパウンドを外部の国内一流コンパウンドメーカーから購入し、押出成形を内製化しており、コンパウンドを外部から購入するサプライチェーンと配合の変更は、QMSの仕組み上不可能だった。


そのような段階でリーダー交代を引き受けた。さて、どのように問題を解決したらよいのか。このような問題では、故ドラッカーが著書に書いていたように、正しい問題を明らかにすることが重要である。


経験知から、押出成形では、コンパウンドの出来が悪ければ、絶対に良い成形体ができない、といわれているので、たとえ世界的に有名なメーカーのコンパウンドであっても出来が悪いのは明らかだった。


5年以上の開発期間で採取されたデータをデータサイエンスにより解析してみても、コンパウンドのロットばらつきが大きいことが示され(注)、コンパウンドを改良しなくてはゴールを実現できないことは明らかだった。


過去のデータを解析すると、さらに現在の配合のままでもコンパウンドの構造ばらつきを制御すれば目標の表面比抵抗を実現できることが示された。ゆえに配合処方を変更しなくても大丈夫であることは、多数のデータから確信できた。


ゆえにコンパウンドメーカーが高次構造を制御するためプロセシングを変更してくれれば、歩留まり80%以上の実現が可能と見通すことができたので、リーダーの交代を引き受けている。これはデータサイエンスの成果である。


過去データの解析以外に、プロセシングを変更した時のコンパウンドについてその高次構造も含めたゴールを明確にする必要があった。さて、どうしたらよいか?これもやはりデータサイエンスで解答を導くことが可能であり、データサイエンスによる問題解決法のセミナーでその手法を公開している。

(注)単相関で眺めていても気がつかない問題だった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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