相溶(miscibility)とは、分子レベルの混ざりやすさを意味するときに用いる。
一方、サンズイ偏が無い相容(compatibility)とは、種類の異なる物質がうまく調和し、機能を発揮している時に用いる言葉である。
また、二成分のポリマーアロイを製造するときに相容化剤(compatibilizerまたはcompatibility accelerator)が用いられるが、なぜか相溶化剤という表記を時折見かける。
混和剤のほうが日本語として適しているとの指摘もあるが、あまり用いられていない。
Flory-Huggins理論で説明したが、二成分の異なる高分子をブレンドした時に相溶する条件は、χ=0またはχ<0となる、非常に特殊な組み合わせの時だけである。
一般的なχ>0の組み合わせでは、海島構造の相分離となる。
今、高分子Aと高分子Bとを重量比1:1でブレンドしたコンパウンドの断面写真があったとする。
この時、高分子Aを海として(マトリックス)高分子Bが島となった大きなドメインが観察されるはずだ。
この時、高分子Bの添加量を減らしてゆくとこのドメインサイズは小さくなってゆく。
非相溶系ポリマーブレンドでは、このように相分離してできる構造が大きくなるため、力学的物性が低下した事例が多い。
ここで、SP値を揃えて合成された2種類のアクリル系ラテックスをブレンドしてからPETフィルムに塗布し、その後熱処理した薄膜について、その断面写真を想像してほしい。
ラテックスの成膜では、熱処理を行っているにも関わらず、ラテックス粒子の形状と混合状態がそのまま観察される。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
シリカゾルをミセルとして用いるアイデアを実用化したのは1993年である。また、金属酸化物ゾルをミセルとして用いる科学論文が初めて発表されたのは2002年である。
科学よりも技術が先を行っていたのだが、この技術コンセプトは、ドラッカーの問題解決法の成果ともいえる。
1991年に写真会社へ転職した。この時コアシェルラテックスが学会でも話題になっていた。ライバル会社の優れた技術であり、転職した写真会社でもこの技術について特許抜け技術がテーマに設定されていた。
このコアシェルラテックスは、ゼラチンの高靭性化技術の決定版として捉えられていた。
すなわち、ゼラチンを改質するときに、シリカゾルとラテックスを用いるのだが、シリカゾルとラテックスを混合した時に、どうしてもシリカゾルの凝集がわずかに生じる。
ゆえに、コアシェルラテックスにしてしまえば、ラテックスとシリカゾルを混合するプロセスや、そのプロセスでシリカゾルが凝集するのを防ぐことができる。
ただし、この技術には欠点があった。すなわちシリカゾルをゼラチンに添加するのは、ゼラチンの硬度を上げるためだが、ラテックスで包んだためにその補強効果が下がってしまう。
だから、コアシェルラテックスはゼラチンの高靭性化手段の決定版ではないのだが、このような技術が提示されるとそれを越えるアイデアを考え出すのが難しくなる。
このような場合にどうするのか。いったん目の前の解を忘れ、本来の「あるべき姿」を真摯に考えることが重要である。
当方はホワイトボードにそのあるべき姿の図を描いたところ、担当者の一人が、すでにできていた、と叫んだ。これが昨日書いた実際の現場の姿である。
目の前の問題について、「あるべき姿」と現実との乖離を明らかにし、あらためて正しい問題を考える、これはコーチングに有効である。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
1493年にコロンブスによるインディアンラバーが発見されている。いつ頃か不明だが二本ロールでゴムを練ることは行われてきたらしい。
1839年にグッドイヤーによる加硫ゴムの発明以降加硫剤のブレンドのためにゴム練り機の改良がなされた。
1909年にダンロップにより加硫促進剤が発明され、1916年にはバンバリーによりバンバリーミキサーが開発された。
タイヤに用いられる高性能な加硫ゴムについて基本的な混練プロセスは、今日に至るまでバンバリーミキサーによるノンプロ練り(プロ練り前に行う練り)と二本ロールによるプロ練り(コンパウンドとして仕上がる練り)から組み立てられている。
1980年ごろから生産性の向上を目的として連続式混練機の導入が検討されてきたが、高性能加硫ゴムについては、すでに述べたようにバンバリーと二本ロールの組み合わせによるバッチプロセスが今でも使われている。
ちなみに、熱可塑性樹脂では、高分子同士のブレンドよりも一次構造の設計が優先されて様々な熱可塑性樹脂が開発されてきた歴史がある。
ゆえに、混練技術に期待されたのは顔料程度の添加剤さえ分散できればよかったので単軸押出機を中心に連続式混練機で混練する技術が発展してきた。
熱可塑性樹脂でポリマーブレンドが広く注目されたのは、1954年にU.S.Rubber社によるABS樹脂の事業化以降である。
そして、押出機の性能向上と同時に1980年頃から二軸混練機という呼び名も一般的になってきた。本書では特に断らない限り、混練に使用する押出機はすべて混練機という呼び名を使用している。
ポリマーブレンドで一般に用いられている二軸混練機でもその呼び名に決まりは無いので、二軸押出機という呼び名ですべて統一している技術者もいる。
連続式混練機の混練能力が低かった1970年頃までならば、それでも良かったが、最近では高性能な混練技術も登場してきたので、混練目的に使われる装置は押出機ではなく混練機と呼び区別すべきだろう。
カテゴリー : 高分子
pagetop
高分子同士のブレンドでは、Flory-Huggins理論の限界を理解できると高分子物性改良手段としてそこに多くを期待できないと、悲観的になるかもしれない。
それにもかかわらず、ゴムの分野では古くからポリマーブレンドの手法が採用されてきた。
ゴム技術者の全員が楽観主義者で根性の塊だったわけではなく、バンバリーとロール練りの組み合わせによるバッチプロセスを採用していた点に着目する必要がある。
特にロール練では、連続式混練機のように練り時間に制約はない。またロールの操作方法により伝説として伝えられていたカオス混合を積極的に活かすこともできる。
混練の歴史において、ゴムの練りを初めてロールで行った技術者はノーベル賞に値するのではないかとさえ思っている。
バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、ゴムの分野で独自の発展をしており、そのプロセスが経済的ではなくても高性能のゴムのコンパウンドを製造するためにタイヤ業界では、現在でも使われている。
カテゴリー : 高分子
pagetop
SP値のところで指摘したが、モノマーの性質だけから混合状態を判断するのは危険である。実際にSP値が既知の溶媒に高分子を溶解してみて判断するのがよい。また、経験知として分子間相互作用を期待できるならば混ざる、と安易に考えない方が良い。
例えば、障子のノリとして使われるポリビニルアルコールに水素結合をしそうな他の高分子を混ぜて均一なポリマーアロイを製造しよう、と考えると失敗する。
ポリビニルアルコール同士の強固な水素結合を壊してまでも他の高分子が混ざろうとしないからである。これは、PVAを用いた障子のノリで容易に確認できる。水で希釈することは可能だが、ご飯粒を分散しようとしても、うまく分散してゆかない。昔は、障子を張り替えている途中でノリが少なくなると飯粒を混ぜてその場を乗り切ることができたが、PVAのノリでは、きれいに飯粒が分散しない。
すなわち、異なる高分子同士を混ぜ高機能な材料を創り出すことは基本的に難しいことだと思っておいた方が安全である。何も考えず試しにやってみよう、と混練してみてもよい実験結果の得られない確率が高い。
異なる高分子同士をブレンドする必要があるときには、コンセプトに基づく材料設計とそこから新しい現象を汲み取る努力あるいは意気込み、気合のような、形式知とはなじめない要素が重要になってくる。
混練は技術のカテゴリーだが、温故知新とか不易流行といった故人の精神に馴染んでおく習慣も、形式知だけでは対応できない混練分野で開発に成功するためには大切なことである。
K(勘)K(経験)D(度胸)を否定しないが、勘が閃いたなら温故知新を実践すると混練分野では技術開発に成功する確率が高くなる。勘や度胸が無くても温故知新は誰でも理解できる。
すなわち、高分子のブレンドについて文献情報が多く公開されているので、それを利用するとよい。過去の情報活用は誰にでもできる成功確率が高い取り組み方法である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
フローリー・ハギンズ式の変形などは省略しているので、関心のある方は、該当する専門書を読んでいただきたい。
しかし、ここで伝えたいのは、Flory-Huggins理論というものが、格子モデルに基づいており、Flory-Hugginsパラメーターχが、エンタルピー項とエントロピー項の和になっている点を式から読み取っていただきたい。
また、二次元の格子モデルから導かれているので、混合物においてコンフォメーション分布の変化を考えていないことや、二成分混合系においてモノマー単位の相互作用変化は、A鎖、B鎖のすべての単位に対して一定値の平均場の変化として捉えていることに注意する必要がある。
これは、混練プロセスで発生する現象としてありえないことである。しかし、現在のところ二成分の高分子混合系に関する状態変化の形式知については、混練で起きる現象と合っていなくても、この理論に頼らざるを得ない。
χについて知っておくべきことをまとめると、先ほど述べたエンタルピー項とエントロピー項の和になっている、といった重要ポイント以外に
(1)1/Tと相関する、
(2)混合の必要条件はGibbs自由エネルギーが減少すること、
(3)正の値の時には非相溶となる、
(4)負の場合にだけ混合する、
(5)溶解度パラメータ、δ1、δ2で表すと
χ12=(Vr/RT)(δ1ーδ2)2 Vr:モノマーのモル体積
といった点である
以上はFlory-Huggins式の概略であるが、この式はかなり大胆な仮定の上に成り立っている式であることを忘れてはいけない。混練を考えるときには、χの本質が自由エネルギーであることを覚えているだけでもよいような形式知である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
下記要領でプラスチック,「フィルムにおける「帯電防止」技術および
表面の電気的特性やブリードのコントロール」という講演会が技術情報協会主催で開催されます。
先日開催されました情報通信の講演会は好評でしたので、9月10日にも5Gの話題を少し触れる予定です。
記
1.日時 2019年9月10日 10:00-17:00
2.場所 東京・五反田]日幸五反田ビル8F 技術情報協会セミナールーム
3.料金 弊社へお問い合わせください。割引料金となります。
4.講師 1部 当方
2部 名古屋産業科学研究所 上席研究員 博士(工学) 小長谷 重次 氏
カテゴリー : 学会講習会情報 宣伝 電気/電子材料 高分子
pagetop
ラテックスの重合技術は、写真業界で進歩してきたように思われる。ゴム会社に入社した時に乳化重合SBRと溶媒重合SBRとどちらが性能が良いのか、議論検討されていた。
その後、写真会社へ入社した時に、ライバル会社のコアシェルラテックス技術の特許網をいかにして潜り抜けるのか技術開発に苦しんでいる状況に遭遇した。
そこでは、当方の問題解決法とコーチングが功を成しゾルをミセルとして用いるラテックス重合技術をライバル会社の対抗技術として完成させることができた。
このゾルをミセルとして用いるラテックス重合技術がどれだけ先端だったのか事実をここだけの話で書くと、高分子学会技術賞を某K大教授の鶴の一声で落ちているのだ。
その2年後ラングミュアーという雑誌にアメリカの研究者による無機のゾルでミセル形成が世界で初めて成功した研究が公開されている。2000年のことである。
アカデミアの先生の名誉のために鶴の一声の内容については書かないが、ろくに勉強もしていない先生の権威を振りかざした一声でせっかくの機会を棒に振っている。
コアシェルラテックスにしてもゾルをミセルに用いたラテックス重合技術にしても最初に開発し実用化しているのは写真業界だった。
写真業界に転職し、最初の3年ほどシャカリキになって勉強したが、その時に先端のラテックス技術が写真会社で開発されてきたことを知った。
銀塩写真技術はコロイド化学が重要な基盤技術である。化粧品もそのコロイド化学が重要で、フィルム会社が化粧品事業で成功したのは、経営の成果だろう。
カテゴリー : 高分子
pagetop
溶解理論の拡張過程で、1941年に高分子の相溶に関するFlory-Huggins式が登場している。格子モデルに用いられた2種類の高分子では同じサイズの構造単位から構成され、これらが規則的な格子を埋めていると仮定している。
しかし、二種の高分子を混練しても、あるいは溶媒に溶解してブレンドしたとしてもこのモデルに示されたような現象は自然に起きない可能性が高い。あくまでもこのモデルは理論式を導くために考案された仮想モデルである。
さて、混合に関するGibbsの自由エネルギーは⊿Gmix=GAB - (GA+GB)となる。ここでGA、GB、GABは、それぞれ分離した状態の成分Aと成分B、および混合状態のGibbs自由エネルギーを表す。
すなわち、この表現は、混合状態の自由エネルギーから、相分離して独立した相となったときの自由エネルギーを引いただけである。
この式についてFlory-Huggins理論では、⊿Gmix=-T⊿St + ⊿Glocと表す。
⊿Glocは(GA+GB)であり、これはモノマー-モノマー対の相互作用の性質によって、混合を促進する方向にも妨げる方向にも働く値を示している。すなわち添え字「loc」は、混合によるモノマーの局所的相互作用変化を表している。
-T⊿Stでは、すべての高分子鎖の重心の運動に関するエントロピーが、混合によって増加することを意味している。ここで⊿Stは並進エントロピーの増加を表している。
⊿Gmixについて混合過程の二つの主要な側面をこれら二つの寄与で表すことができるが、必要なのは⊿Stと⊿Glocについての具体的な式である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
すでに弊社とお客様との共同出願による特許が公開されたので少しオリゴマーについて書いてみる。
高分子技術の状況についてはすでに書いてきたが、オリゴマーの技術は高分子技術よりも理解されていない部分が多い。
すなわち、オリゴマーの材料科学における価値やオリゴマーを制御して合成する技術など未開拓である。
このことを御存じない方が多い。これまでオリゴマーは邪魔な存在ととらえていた技術者も多いのではないか。ゆえに弊社とお客様との共同出願特許が公開されてもその意味が理解されないのではないかと思う。
科学の時代において高分子分野におけるこのような存在を不思議に思う方がおられるかもしれないが、これはパラドックスと呼べるような状況である。
すなわち、科学が進歩すればするほど非科学的分野の新規性と有用性が増加してゆくということだ。
高分子材料分野においてオリゴマーはどちらかと言えば邪魔な存在だった。すなわちうまく重合を制御できないとオリゴマー成分が増えて、それが物性に悪影響を与えてきたのでオリゴマーを取り除く方法が高分子合成において重要だった。
しかし、オリゴマーは、うまく分子量制御し合成して用いると、高分子材料の改質に有用な物質にもなりうるのだ。そしてその有用性について科学では処女地と呼べるような分野である。
今回公開された弊社とお客様との共同出願された特許は、オリゴマーの分子量制御とその結果生まれた新規の現象を含む事例である。ご興味のある方はお問い合わせください。
なお、8月30日のセミナーではこの技術の可能性についても少し説明します。まだセミナーの申し込みをされていない方は、少し空席もございますので今からでも間に合います。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop