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2018.11/11 カーボン粉末を分散した高分子半導体

カラーレーザープリンターやカラー複写機の高級機には、中間転写ベルトという部品が使われている。中間転写ベルトを使わず直接紙に転写する直接転写方式もあるが少し画質が落ちるので高級機には使用されていない。このベルトは帯電しやすく放電しやすいように10の10乗から10の9乗Ωcmの体積固有抵抗となるように設計されている。

 

ベルトはこの抵抗の範囲で均一に製造できないと画質が悪くなるので、ポリイミド(PI)にカーボンを分散し溶媒キャスト製膜されたベルトを使用している。面白いのはカーボンが球状のクラスターを形成し、それが島状に分散した高次構造となっていたことだ。

 

これを熱可塑性樹脂を用いて押出成形で製造するとPIの溶媒キャスト製膜のような構造を簡単に造ることができず、パーコレーション転移と格闘することになる。パーコレーション転移の性質をよく知っていると、なぜPIでうまくゆくのか考えるが、わからないとボーっと長期間格闘することになる。

 

10年以上前にある人から仕事を引き継いだ時に、6年検討してきたのでよろしく頼む、と言われたが製品化まで半年しかない状態だった。酸化スズゾルを用いた帯電防止層の開発でパーコレーション転移について十分に研究していたので、前任者の仕事の進め方、すなわち外部から購入していたコンパウンドではゴールにたどり着けないことはすぐにわかった。

 

コンパウンドの段階でPIと同じ高次構造になっていなければ、押出成形でPIと同じ高次構造のベルトを製造することは不可能だが、某R社のコンパウンドは無茶苦茶な構造になっていた。およそ構造制御されたコンパウンドとは言えない状態だった。それでもコンパウンドメーカーの技術者は、最良だという。いろいろ議論して分かったことは、彼が混練の教科書でよく勉強していたことだった。

 

当時の(今でもそうだが)混練の教科書にパーコレーションの問題など全然扱っていない。高分子に粉末を分散した場合にはそのクラスター形成は必ず問題になるはずだが、分配混合と分散混合でお茶を濁しているような状態だ。このような教科書をいくら読んでもカーボンを分散した半導体高分子をロバスト高く設計できない。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2018.11/10 PPSと6ナイロンのDSC

高分子の熱分析について連載で書いている。あるパーティーで分析機器メーカーの営業担当から熱分析装置が売れなくなった話を聞いたり、10年以上前にTMAを購入しようと、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂から生成された炭素材料をもちいて高純度SiCが生成する速度論解析のため超高速熱天秤の開発を依頼したメーカーに電話したところ、熱分析機器は取り扱っていないと言われてショックをうけたりした体験からである。

 

また、ある成形メーカーのご相談を伺ったときに熱分析装置を一台も持っていないと聞いたのでDSCぐらい持っていたほうが良い、とアドバイスし、一番安い装置を導入していただいた。ご相談内容に応えるためにも必要だったからである。成形問題の原因がコンパウンドにあるときにDSC一台あればそれを検出できる。

 

すなわちコンパウンドの品質管理にDSCを用いるのである。10℃/minの昇温速度で溶融温度(Tm)以上まで測定したデータがあればとりあえず、そのデータに関わるエラーを検出できる。Tm以上まで昇温しそこから降温したデータがあれば検出できるエラーも増える。さらに降温時にTcの直前で温度をホールドし結晶化ピークの現れる時間変化を追跡すれば結晶化速度に影響を与えている因子のエラーが分かる。

 

このエラーは、大きい時には昇温時のデータだけでも日々検査として行っておれば見出すことができる。例えば某R社から納入されたPPSと6ナイロン、カーボンのコンパウンドではTcのエンタルピーの変化がロットごとにあった。

 

またピーク位置が変わったりしたこともあった。Tgは6ナイロンとPPSのそれぞれが観察され、大きな変化が無かったが稀にPPSのTgのエンタルピーが小さくなることも観察された。

 

これらのことから、高温度におけるPPSと6ナイロンの相溶の可能性を疑った。実際にはR社の二軸混練機の温度がPPSのTm近辺に設定されて運転されており、これがばらつくことから生じていた現象である。

 

当方からカオス混合の提案をする前に過去に納入されたコンパウンドについてDSC測定を行い、コンパウンドの品質管理の問題を指摘している。しかしD社同様にR社もコンパウンドの品質問題について指摘された事項を受け入れてくれず、結局現場監査を行うことになった。

 

案の定、二軸混練機の温度はPPSのTmに設定されており10℃前後でばらついていた(注)。非相溶系でUCSTの相図になる系ではTm以上で相溶する場合がある。PPSと6ナイロンの相溶現象がばらつきとして起きていた可能性があり、それが過去ロットのDSC測定におけるTgやTcのエンタルピー変化となって表れたのである。

 

R社の技術者は優秀だったが、高分子の相溶現象における相図の知識は乏しかった。フローリーハギンズ理論やLCST、UCSTという言葉を知っていてもそれらが日々の現象としてどのように表れるのか考えた経験がないからだ。

 

これは大学における高分子の授業にも問題がある。高分子物理について完成された学問のごとく教えている現状ではこのような技術者になってしまう。高分子物理について理解されていない形式知の多いことを教えていただきたい。また高分子技術者はボーっと生きていてはいけない。最近は複雑なポリマーアロイを扱わなければいけない時代である。

 

(注)実際には設定された温度を中心にPID制御され5℃以内の変動におさえられるのだが、吸熱あるいは発熱の相変化が起きている場合には、PID制御で追いつかない場合がある。そうすると設定温度よりも10℃以上外れることがある。DSCデータでエラーが検出された場合にコンパウンダーの現場監査は重要だ。その時のコツは混練機の設定温度や樹脂圧のチェックである。特に設定温度はシリンダーごとに設定されているので、指示温度の変動を15分ほど見ておればどのくらいの温度変動があるのかわかる。PID制御が正しく設定されておればまったく指示温度が変動しない場合もある。これが5℃以上変動していたらアウトだ。しかしこのような場合でもコンパウンダーは素人は黙っとれ、というかもしれない。10℃程度の変動はタマにあるとしたり顔でいうのだ。ここで議論してはいけない。したり顔の相手をおだててどのような場合か、とか日々それがどのゾーンで起きるのかなどの情報を聞き出すのだ。日々問題があっても本人がエラーとして気がついていない情報をいくつか教えてくれる。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2018.11/09 高分子の熱分析(8)

DSCで測定される高分子のTgやTc、Tmは、その高分子がどのような履歴を得てきたのかに影響を受ける。ゆえにエラー発見に有効なデータとなる。配合のミスはTGAの計測で発見できるが、DSCのデータからは、コンパウンディングから成形に至る過程で、特に熱的にエラーが無かったかどうかをDSC測定で知ることができる。

 

開発段階で10℃/minでよいからDSC測定をしておくように勧めているのはこのためである。それぞれのパラメータの現れた温度やエンタルピーを管理するだけでも意味がある。大きな熱履歴のエラーがあれば必ずどこかに日々の結果と異なる異常が観察される。

 

また、DSCの測定ではベースラインにも配慮したい。これがまっすぐ水平であれば何も熱的な変化をしていないが、曲線的な変化をしていたならば、何か変化がある。それが熱分解によるのか相変化によるのかは、TGAで確認できる。

 

曲線的な変化をしている温度領域についてDSCと同じ測定雰囲気でTGAを行う。その時、その領域で重量変化が観察され無ければ、相変化その他の変化を疑う。難燃剤が添加されている場合に、それが一部分解しているとポリリン酸を形成する場合があり、これは240℃以下では重量減少を示さずDSCでだらだらした吸熱カーブが得られる。

 

DSCで得られた異常な曲線(吸熱または発熱)で何が起きているかは、他の分析手法で解析しなければいけないが、技術開発過程では異常の発見ができることが重要である。

 

以前この欄で、生産ラインの異常があってもそれを認めずあくまでも成形工程に問題があると主張していたコンパウンドメーカがあったことを紹介している。データの捏造で社長が謝罪する時代なのでこのようなメーカーの名前を公開したいが、カオス混合装置のお客様になるかもしれないので名前の公開は控える。

 

面白かったのは、このメーカーのCTOが、議論の最中に苦し紛れに自分たちのDSCで以前のコンパウンドを計測すればベースラインはまっすぐになる、と答えたことだ。半年以上待っていてもそのようなDSCチャートを提出してもらえなかった。誠意のない会社と言ってしまえばそれまでだが、DSCをよく知らなかった可能性が高い。

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2018.11/08 高分子の熱分析(7)

高分子の熱分析が流行らなくなったのでこのテーマを書いている。しかし、熱分析機器のメーカーからお金を頂いているわけではない。高分子材料を扱っている技術者ならば、DSCやTGA、TMAを自由に使いこなせるようになっていたい。

 

難しい高分子物理の世界とこれら熱分析機器とはつながりがあり、とりわけDSCやTMAは、その測定原理までよく知っておきたい。TGAについては、重量減少のモニターなので理解しやすいと思う。未知の配合の解析にも活用できることを以前紹介している。

 

高分子材料の開発段階ではDSCぐらい測定するようにしたい、と書いた。そして可能ならば、昇温測定と降温測定を行っておくことも勧めている。この日々の測定で異常が無ければよいが、もし異常があったならばTGAの時と同じように恒温測定を行ってみるとよい。

 

結晶性樹脂の場合には、Tcについて恒温測定を行ってみる、すなわちその温度における結晶化のエンタルピーを評価するのだ。ルーチンとして測定されたデータでも結晶化エンタルピーが求められている。恐らくそれらの値は同じような時もあれば異なった値として得られることもある。

 

あるいは、昇温速度を変えて、Tcの変化を見てみるのも有効である。このあたりはTGAの測定で述べたように、反応速度論的解析を行っていることになる。DSCとTGAの測定データから混練段階のエラーを想像した。

 

現場監査を実施したところ、温度センサーが壊れた二軸混練機でコンパウンディングしていた。スの入ったペレットも押収したので、帰国後納入されたペレットの袋を全て調べたら、同じようにスの入ったペレットが見つかった。

 

しかし、誠意のない大手のコンパウンドメーカーは、スが入っていても問題ないという。すなわちセンサーの壊れた二軸混練機で生産されたコンパウンドでも問題ないと言ってきたので、以後取引をしないことにした。

 

品質データねつ造と等しい問題を放置しておくような大手コンパウンダーが日本にあることをお知らせしておく。もしコンパウンドの問題で困っている成形メーカーの技術者は、弊社のお手軽セミナーの活用を申し込んでみてください。

 

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2018.11/07 セミナーのご案内

おひとりさまでも、と始めた弊社のセミナーが好評のため、公募することになりました。基本的な取り決めは以下。

 

1.時間:13時30分から開始

2.参加者上限 6名

3.料金と講義時間:参加者1名の場合に2万円1時間のセミナー。参加者が一名増えるごとに1時間増加、最大4時間とします。質問時間は、人数に関わらず30分。

4.セミナー内容:参加者のご希望にお答えします。基本ルールとして1ケ月以上前に申し込み。内容や参加者は機密事項。

例:高分子の難燃化技術、高分子の混練技術、ブリードアウト、高分子のツボ(専門外の人に便利な内容です)、信頼性工学etc

5.場所:弊社事務所

 

詳細は弊社へお問い合わせください。なお、本件は弊社のサービスプログラムです。

 

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2018.11/06 高分子の熱分析(6)

DSCは、40年前に比較し価格が下がってきたうえに便利なソフトが用意されている機種もあり、高分子材料の実務では自由に使いこなせるようにしたい熱分析装置だ。

 

ブレンド系では、TgやTmの評価が中心になる。タグチメソッドを行ったときに、Tcも含め、エンタルピーと制御因子の関係を調べておくとよい。この測定では、参照側にも必ず試料側に用いたアルミナ粉を入れておくこと。このようにしないと、ベースラインがうまく水平にならない。

 

昇温速度は10℃/min一定で構わないが、昇温と降温両方のデータを得ておくこと。また、Tgが室温付近であるときには液体窒素を用いてTgよりも40℃以上低い温度から測定開始すること。

 

まれにTgが現れないときがある。これはTgが存在しないわけではない。このような場合の測定方法は以前この欄で書いているが、その方法ではなく同一ロットのサンプルを再測定することを勧める。

 

Tgのエンタルピーは、ばらつきが大きく測定され、ペレットの密度と相関する場合が多い。この理由は、自由体積の量とこのエンタルピーは関係している。同じロット内で密度との相関を調べると、かなり高い相関係数となる場合がある。

 

またブレンド系では、ブレンドされた高分子の数だけTgの変曲点が出るはずだが、これが組成の数だけ出ないこともある。もし、相溶系であれば、観察されなくてもよいが、その場合には、Tgの位置がシフトしている。

 

13年前にPPSと6ナイロンをブレンドし、DSC測定を行った。二軸混練機だけを用いて通常の混練を行ったときには、それぞれ単独の場合の位置にTgが観察されたが剪断混練を行ったところ、PPSのTgの位置がわずかに低温側にシフトした。さらにカオス混合装置を用いた場合には、PPSのTgの位置と6ナイロンのそれと中間の位置にただ一つ観察された。

 

このように混練では、混練条件により系のエントロピー項に影響を及ぼし相溶する現象が生じる場合がある。これについて科学的に解明されていないが、技術として十分に活用できる機能だ。

 

例えばPPSと6ナイロン、カーボンをカオス混合し、冷却速度を調節してやると、均等の大きさとなったカーボンクラスタが現れる。これは6ナイロンのわずかなスピノーダル分解が生じるためと想像している。ちなみにこのクラスターサイズは、6ナイロンをMXD6というPPSと相溶しやすいナイロンを用いると小さくなる。

 

 

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2018.11/05 高分子の熱分析(5)

熱分析装置は、最初に無機化合物の研究で活用された。1970年代末ごろから高分子への応用が行われるようになった。この普及により高分子のガラス転移(Tg)点の研究も進んだが、高分子のTgやTcの熱分析における挙動が無機化合物のガラスで観察される様子と少し異なる点についてあまり深い議論がなされていない。

 

熱分析法で反応速度論的解析を行う場合に昇温速度を変えたり、恒温測定を行ったりして活性化エネルギや速度定数を求めたりできるが、高分子では無機化合物のように反応途中までしかモニターされたデータと仮説とがうまく一致していない事例が多い。

 

例えば、シュウ酸やポリエチレンのような単純な構造の熱重量分析では、フリーマン・キャロル法やドイル小沢法でモニターされた90%以上の速度論データをうまくまとめることができる。

 

しかし、ポリエーテル系ポリウレタンでは、発生ガスをモニターしながら一次構造のどの部分が分解しているのか重量減少カーブとの対応を確認しながら解析すると構造によっては30%程度過ぎたあたりからノイズ成分が多くなる。

 

添加剤が添加されたポリウレタンでは、熱重量減少カーブの単純な解析が困難になる。但し添加剤とマトリックスとの相互作用を仮説し、その変化の様子を説明することは可能である。それでも学会発表に耐えうる解析までまとめ上げるには、発生ガスや熱分解途中の生成物について分析するなどの手間が必要になる。

 

このような面倒な手続きが必要という理由で、熱分析装置が使われなくなっていった、と思われ、熱分析装置専業メーカーの倒産や異業種への転換も起きている。しかし、高分子の実務では熱分析装置はおおよその現象を迅速に知ることができるので便利である。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2018.11/02 高分子の熱分析(4)

1970年代の高分子材料の研究テーマとして熱重量分析(TGA)は、重要テーマの一つだった。しかし、最近TGAはあまり使われない。熱分析と言えばDSCがよく使われる。

 

しかし、空気中あるいは窒素中のそれぞれの雰囲気で昇温過程における熱分解の様子を調べると様々な情報が得られるが、科学的な視点からでは、それらの情報だけで結論を下すことが出来なくて、その他の情報との併用で議論することになる。しかもその時に刺身のツマほどの扱いよりもひどく、時にはパセリのような扱いを受けることもある。

 

このような背景があり、TGAがあまり使われなくなってきたのかもしれない。昔はフリーマン・キャロル法やドイル・小沢法を適用し、どちらの解析がよいかと議論されたときもあったが、今はあまりたくさんの情報が得られないので、と決めつけられ使われなくなってきた。

 

しかし、加硫ゴムなどの分析ではTGAをまず手始めに使いたくなるが、TGAを普段使い慣れていない人にはこの気持ちは分からないだろう。ましてや、高分子に精通した研究者は、WETの分析にすぐ着手する。

 

たしかに、未加硫のゴムや樹脂では、溶媒に溶かし、GPCやガスクロをはじめ様々な分析手段に持ち込むことが可能だが、加硫ゴムや一部ゲル化した樹脂などの分析では、それができない。そこでTGAを手始めに行いたい、となるのだが、TGAはお手軽な分析方法である。

 

煮ても焼いても食えないような加硫ゴムや高分子ゲルでも加熱分解による重量減少カーブからおおよその構造が見えてくる。当然ではあるが、測定条件の工夫をしての話である。この時どのような工夫をするのかと言われると分析対象によるので一口に説明できない。

 

しかし、熱分析法に共通している、昇温速度を変えて測定すると反応速度論的解析が行えるという点に着目すると、恒温測定も行いたくなる。すなわち、まず速度論的解析方法に着目した工夫が多くの場合に有効である。

 

加熱してもある温度以下では分解しない成分の量を見出したい場合でも、この着眼点を使う。昇温プログラムを作成し、昇温と恒温の両者を組み合わせての分析法が使える。TGAからの情報で問題のヒントが見えてきたりすることもある。

 

難燃剤の効果について、もし交互効果の存在を調べたいなら、2種類の難燃剤を混ぜた状態で熱分解の挙動を調べ、それが単成分の場合と異なるかどうかと分析を進めればよい。ただしこの場合に、難燃剤だけではその交互効果が現れないこともあるので注意が必要だ。高分子に分散した状態で初めて交互作用が観察される場合もある。

 

 

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2018.11/01 高分子の熱分析(3)

DSC(示差走査熱量計)にしてもTGA(熱重量分析)にしても、熱分析では測定時の昇温速度をどれだけにすればよいのかが問題になる。すなわち昇温速度が異なると変曲点の現れる位置、すなわち現象の変化している状態を示す温度が変わるためである。

 

学位論文でSiCの生成反応速度を研究したときには、2000℃まで1分で昇温可能な超高温TGAをYAGレーザーと赤外線イメージ炉を組み合わせて開発した。そして、1℃/min、2℃/min、4℃/min、8℃/minの昇温速度で測定された重量減少カーブから世界で初めてシリカ還元法における反応機構を明らかにした。

 

これはエチルシリケートとフェノール樹脂から製造された前駆体を炭化して分子状態で均一なシリカとカーボンの混合物を開発できたこととこの超高温TGAが完成して初めて達成できた研究成果である。

 

シリカとカーボンが分子レベルで均一になっている炭化物を用いてTGAを測定するとCOを発生して重量減少し反応が進行する様子をモニターできる。反応が均一素反応で進行するので、各昇温速度で測定されたこの重量減少曲線を解析し、反応機構や活性化エネルギーを求めることが可能だ。

 

シリカとカーボンが不均一になっている混合物を用いるとCO以外にSiOが揮発し、重量減少曲線が複雑になる。この複雑な機構について長い間議論が続けられていたが、当方の研究成果でこの議論に終止符が打たれた。

 

このように熱分析では昇温速度を変えることにより、反応速度論の解析ができ、DSCを用いれば結晶化速度を求めることもできる。ゆえに日常の技術開発で活用するときにどのくらいの昇温速度を設定すればよいのか悩むことになる。

 

経験的にとりあえずデータをとっておこうという意味では、DSCもTGAも10℃/minでよい。時間が許されるならば5℃/minとなるが、測定に二倍の時間がかかる。PPS中間転写ベルトの開発を行っていた時には1日に10サンプル以上熱分析を行うことが日常となっていたのでこの昇温速度の問題は大きかったが、10℃/minよりも早く温度を上げて測定することは認めなかった。昇温速度を速くしすぎると、得られる情報の精度が悪くなるためだ。

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2018.10/31 高分子の熱分析(2)

それでは、DSCで何がわかるのか。DSCでは、サンプルがその温度で熱量の変化を伴う状態にあるかどうかを教えてくれる。すなわち、溶融時には吸熱変化をするので、溶融し始める温度から吸熱状態を示す信号を出してくれる。

 

結晶化では発熱を示す信号を出してくれるが、ここで注意しなければいけないのが、結晶化は相転移であり、無機ガラスでは、Tgよりも低い温度領域にTcが現れるが、高分子ではTgより高い温度領域でTcが観察される点である。

 

相転移ではないTgは物質の比熱が変化するだけの変化でベースラインの移動として観察されるが、Tcは明確な発熱ピークとして観察さる。簡便には10℃/minの昇温速度で計測し、昇温の測定だけでもペレットや成形体に存在する熱的変化が関わる品質異常を調べることが可能だ。

 

一種類の高分子についてDSCを測定すると、Tg、Tc、Tmが観察される。高分子の種類によってはTcが現れない場合がある。しかしTgだけでもプロセスの履歴について同じであったか異なっていたのかという情報を知ることができる。

 

Tg部分のエンタルピーは、プロセスにおける熱履歴が異なると変化するので、自分の扱っている材料についておおよその値を知っていると、工程異常を発見できたりする。Tcが観察されるならばこの発熱量はプロセスの履歴や不純物の影響などを受けたりするので併用すると判断を出しやすい。

 

昇温測定と降温測定を繰り返し行うとさらに多くの情報が得られる。また、結晶成長の反応速度論的研究をDSCで行うことも可能だ。TGAとTMAを併用して解析することもできるし、X線小角散乱と組み合わせて解析することもある。DSCはTgやTc、Tmを見るだけの装置ではなく使いこなすことによって情報を引き出す装置である。

カテゴリー : 高分子

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