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2017.03/19 パーコレーションと複合材料(5)

酸化スズゾルとゼラチンバインダーとを複合化して透明帯電防止層を製造する技術は、特公昭35-6616に書かれている。ただし実施例には一部重要なノウハウが書かれていない。この特許が出願された時代は、ITOが盛んに研究されていた頃で、酸化スズは透明導電体材料として注目されていた。ただしその導電機構については解明されていなかった。


高純度酸化スズが絶縁体であると科学的に解明されたのは1980年代で、無機材質研究所の成果である。長い間酸化スズの導電性について科学的解明が難しかったのは高純度単結晶を製造する技術が無かったからである。


無機材質研究所では、各種金属酸化物単結晶の研究過程で高純度酸化スズ単結晶の合成に成功し、その電気特性の解明が可能となり、それが絶縁体であるとの科学的結論を導き出した。そして高純度酸化スズ単結晶は絶縁体であるという科学的に正しい真理を確定している。


フィラーの電気特性でさえこのように科学的解明が難しいのに、そのフィラーとマトリックスとの相互作用になってくると天文学的な難易度になる。すべてが解明されてから技術を開発する、などと考えていたら技術開発競争で負けてしまう。


だから、どうしても非科学的技術開発が必要となってくる。科学的情報が乏しい中で開発が進められた酸化スズゾル透明帯電防止層は、間違いなく非科学的方法の成果だった。


面白いのは、写真会社へ転職したときに酸化スズゾルでは写真フィルム用の帯電防止層を製造できない、という社内論文が書かれた直後で当方がパーコレーションのシミュレーションプログラムのアルゴリズムを完成させたときだった。このような否定証明の科学的論文が正しく書かれていたのは、パーコレーション転移という現象が関係していたにもかかわらず、混合則で考察が進められていたからである。すぐにパーコレーションをシミュレートするプログラム開発に着手した。


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2017.03/18 高分子材料(54)

樹脂材料を製品に用いるときにその耐熱性が問題になる。困ったことに用途でこの耐熱性に対する考え方が異なるので注意が必要である。まず樹脂材料の熱物性を表すパラメーターには、ガラス転移点(Tg)、結晶化温度(Tc)、溶融温度(Tm)の3種類存在する。

 

無機材料では結晶が溶ける温度と融点はほぼ一致するから製品設計でTcとTmを区別して考える必要はないが、樹脂では耐熱性を考えるときにTcを区別してとり上げなければいけない場合が存在する。すなわち樹脂の応用分野における耐熱性がTmよりも低いTcにより左右される場合である。

 

もっともTgはそれよりも低い領域に現れ、強度や熱膨張が製品の耐熱性を議論するためのパラメーターであるならば、複合材料以外ではこの温度未満で樹脂を使用するように製品設計する、と簡単にいえる(簡単にいえるが、これがいつも当てはまるわけではないことを本欄で以前紹介している。すなわち一般に行われている判断でもそれを適用してはいけない場合が存在する。詳細は弊社へ問いあわせていただきたい)。それに比較し、Tcまで問題にならないと思われる製品性能で設計する場合にTcの決め方が問題になる。樹脂の物性表に書かれたTcを安直に耐熱性の上限として採用すると市場で品質問題を起こす原因になる。

 

よく教科書に材料の耐熱性はTgやTcで左右されると書かれていたりするが、製品設計で樹脂の耐熱性を考えるときには、開発の初期段階で実際の使用環境に近い最高温度に樹脂の成形体を置きその影響を調べる姿勢が求められる。安易にTgやTcでその耐熱性を判断してはいけない。

 

例えば強度や熱膨張が製品の耐熱性に影響する場合に樹脂のTgで使用温度の上限が決まると先に述べたが、繊維強化複合材料では樹脂のTg以上でも強度材料として用いることが可能となる場合が存在する(これは「簡単にいえる」場合と逆の事例である。早い話が高分子材料で耐熱性という品質を設計するときにはいつでも現物を実際の使用環境で評価する必要がある。TgやTc,Tmだけで耐熱性を決めてはいけない)。

 

科学的に考えると耐熱性はTgやTcで議論できそうで、実際に議論できる領域も存在したとしても、製品設計では現物でその使用環境における耐熱性を調べる実験を行いその使用できる上限温度を決める必要がある。非科学的かもしれないが、品質問題を起こさないために科学で安直に判断してはいけない。

 

製品の耐熱性がTgよりもはるかに低い温度領域となる場合も存在するからである。このような科学的に想像のつかない世界が存在するのが製品設計の世界である、というのはタイヤ会社において新入社員発表会の席で学んだ忘れられない言葉である。

 

 

 

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2017.03/17 パーコレーションと複合材料(4)

複合材料のパーコレーション転移で、フィラーで形成されるクラスターを自由に制御する技術は大変高度であり、この特殊なケースは自己組織化というカテゴリーに分類されたりする。


この制御因子が、科学的に解明されているのかされていないのかはっきりしていないのが現在の状況である。だからパーコレーションの制御技術について、前回は運に左右されるようなことを書いた。


すなわち、この制御因子は、複合材料の種類や材料を製造したり賦形したりするときのプロセシングで重要ではあるにもかかわらず科学的に解明されていない、と当方は考えている。


腕のいい技術者ならば概略の制御因子を述べる(注)ことができても、それが科学的に必ず成立するとは言いがたい。だからパーコレーション転移の制御技術は、時として非科学的方法が有効であったりする。


PPS中間転写ベルトにおいて、カーボンがパーコレーション転移を起こしている島状のクラスターをパーコレーション転移が起きないように均一に分配混合を進める技術は非科学的方法で開発された。ただし神棚を作ってお祈りをしたわけではない。いわゆるKKDだ。ただしKKDといっても弊社で指導しているPPAPやその他の問題解決技法を駆使したうえでのKKDだ。ヤマカン頼りではない。


ところで、このような技術を科学的に開発できると思っている人は、科学者として優秀な方かとんでもない勘違いをしている人かどちらかだろう。優秀な方であれば、いつでもどのような材料やプロセスでも成立する具体的な理論と方法を示すことができるはずである。しかし実際にはそれができないから、特殊な材料や特殊な条件でうまく組織構造を制御できた系について自己組織化と称して研究を進めている。


(注)中間転写ベルトのPPS/6ナイロン/カーボンという処方は当方が考えたのではない。前任者の部長とその部下のマネージャーが、PPS/カーボン系においてパーコレーションの制御ができなくて、島状に相分離する6ナイロンにカーボンをくっつけたらよいのではないかという願望アイデアから考え出されたらしい。このアイデアがよかったかどうかについては批判をする気になれない。このアイデアのおかげで退職前の仕事が生まれたのだから。現代の技術にも非科学的な成り立ちの技術が存在する。iPS細胞でもとりあえず24個の遺伝子を突っ込んでみた、という試みがノーベル賞のきっかけとなったことを山中先生はインタビューで話されていた。


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2017.03/15 パーコレーションと複合材料(3)

フィラーを高分子に分散するときには必ずマトリックスとなる高分子とフィラーとの間に相互作用が働く。フィラーのサイズが小さかったり静電気を帯びやすかったりしたなら、フィラーどおしの相互作用も問題になる。


このような相互作用を考えて科学的にこの問題を解こうとすると複雑になり難しい問題となる。科学の世界では、真理をわかりやすく導くために、しばしば現象を簡単にして議論が見えるようにする。


これをモデル化と言ったりしているが、パーコレーションの数学的取り扱いでは、最初に一切の相互作用を無視して統計的にパーコレーションが生じるモデルで議論している。そして今ではn次元のモデルまでパーコレーション転移の閾値が計算されている。


科学の世界は楽しく、何に活用できるのか分からないn次元までパーコレーションという現象が解明されているのだ。そしてモデルにより閾値が微妙に変わることまで確認されている。


すなわち、フィラーと高分子材料との間にまったく相互作用が無い、と仮定してもその閾値は、現象のモデル化すなわち現象のとらえ方で変化するのがパーコレーション転移である、と正しく理解していることは重要である。


具体的な知識として、導電性微粒子が真球でマトリックスとの間で相互作用がないと仮定したときに、体積分率で30vol%から60vol%の間で、閾値はばらつくということである。微粒子に異方性が出てくれば、それが20vol%あるいは10vol%さらにはそれ以下になる場合がある。


導電性のカーボンを高分子に分散して10の9乗Ω前後の体積固有抵抗で安定に作るという技術は、配合やプロセシングで工夫しなければ不可能に近いことだと容易に想像がつく。またもしこれがうまくいっているのなら、それは運がよかったということになる。


PPSと6ナイロン、カーボンという配合を変更せずにそのような体積固有抵抗で安定な無端ベルトを半年で完成してください、という要求は、パーコレーションという現象を正しく理解しているなら神頼みと同じことなのだ。引き受けた当方もプロセシングに一縷の望みをかけてサラリーマン最後の仕事としておみくじを引くつもりだった。


それがカオス混合技術という大吉のおみくじを引くことになっただけのことだ。ここまでは運がよかったが、退職日を2011年3月11日に決めたことは運が悪かった。当方のために用意された最終講演会も送別会も吹っ飛び帰宅難民になった。


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2017.03/14 パーコレーションと複合材料(2)

フィラーを高分子材料に分散しようとすると、フィラーと高分子材料との間には必ず何らかの相互作用が働き、思うような高次構造を実現出来ない、というのが材料屋の悩みで古くから混合則が議論されてきた。


混合則では、例えば導電体を高分子材料に分散して抵抗を制御しようとする問題において、その抵抗変化の関係がR=n1xR1+n2xR2(直列接続)と書き表されるのか、1/R=(n1/R1)+(n2/R2)(並列接続)と書き表されるのか、といった議論となる。


すなわちフィラーが直列接続的に高分子材料に分散しているのか並列接続的に分散しているのか、という議論である。そのままこの議論を聞いていると科学的な議論に聞こえる。


電子顕微鏡など直接高次構造を見ることが可能となってもこのような議論がなされており、さらに、フィラーの分散状態について混合則の式を改良してより近似式として「自分の実験データ」をうまく説明できる式が幾つか提案される始末である。


この混合則の議論について歴史的に調べたなら、科学が重箱の隅をつつき始めたときにどうなるかが見えてくるのではないかとさえ思いたくなるぐらい幾つかの近似式が過去に提案されている。


複合材料の世界では、混合則による議論が30年以上続けられており、それをまじめに扱った学位論文を読んだときには、思わず吹き出してしまった。重回帰式で式を求めるだけの仕事で学位が取れた時代がこの半世紀の間にもあったのだ。


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2017.03/13 パーコレーションと複合材料(1)

PPS中間転写ベルトの高次構造の話を先週書いていたら、パーコレーションの理解が重要であることに気がついた。パーコレーション転移については、数学者によりかなり昔から研究されていた内容だが、複合材料の世界ではその現象を混合則で1980年代頃まで議論していた。


当方が日本化学会で酸化スズゾルのパーコレーション転移に関する研究を1990年代に発表しても同じセッションで混合則を用いた現象の考察がされていたような状況だった。


まず、混練機などを用いてフィラーを高分子材料に分散するとどのような現象が起きるのか簡単に説明すると、フィラーと高分子材料との間で相互作用が全く働かなければ、フィラーは高分子材料に統計的に分散して行く。教科書には分散混合と分配混合で分散が進行すると説明しているが、ここでは現象を簡単にとらえて説明する。


フィラーの添加量が少なければ、フィラーは凝集することなく高分子材料にばらばらに分散する。今フィラーが真球だとすると、30vol%前後添加された段階で、フィラーどおしの接触(凝集)がどこかで起きやすくなる。


これが60vol%前後になるともはや凝集を全く起こさずに分散することは難しくなり、必ず凝集ができる。このフィラーどおしがくっついた状態をクラスターと呼ぶ。


このクラスターの生成する現象について科学的に論じようとしたのがパーコレーションの理論である。パーコレーションの問題は材料の世界だけでなく、例えば山火事でも問題になり、数学者は山火事の問題を議論していて、抵抗変化などもその議論の中に組み入れていったらしい。


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2017.03/10 高分子材料(53)

PPS/6ナイロン/カーボンの3成分について混合プロセスを工夫すると、球状のカーボンクラスターが島状に均一に分散した高次構造を持ち、電気抵抗が安定した半導体ベルトを製造できる。

 

しかも押出成形プロセスにおいて引取速度を制御してベルトの電気抵抗を調節することが可能となる。すなわちカーボンクラスターは密着しているのではなく、その島の状態でパーコレーション転移が起きているのだ。

 

これは一種の自己組織化のような現象で、6ナイロンを無理に相溶させたために、ベルト成形過程で少しスピノーダル分解が始まり、特殊なカーボンクラスターの構造が生成したのである。

 

これが妄想かどうかは、PPSに相溶しやすいMXD6というナイロンや、このナイロンと6ナイロンを等量添加した系などで同様の実験を行うと、それぞれでカーボンクラスターの大きさが変化し、それがχの影響を受けていることなどが観察された。

 

高分子学会賞審査会でもこのあたりを説明しているが、審査員にはあまりその面白さが分かってもらえなかった。ご興味のある方は問い合わせていただきたい。

 

このあたりの技術は材料技術として応用範囲が広く、経済産業省のサポインなどにも応募したが採用されず、日本ではこのような技術は評価されないと思い、中国のローカル企業の指導ネタとして利用し細々と実績を上げている。

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2017.03/08 高分子材料(52)

6ナイロンが相溶したPPSをマトリックスに用いた半導体ベルトの高次構造は、球状のカーボンクラスターがパーコレーション転移を起こさずに抵抗を安定化している構造をとっていた。

 

導電性の良好なカーボンを絶縁体高分子に分散し、高分子を半導体にする技術は、50年以上前から開発されていた。しかしその時にパーコレーション転移の概念は用いられず、混合則が適用されてきた。

 

パーコレーションという概念が高分子材料で一般的に用いられるようになったのは、1990年以降で、1990年末に当方の部下がパーコレーションの概念を用いた帯電防止層の劣化現象を日本化学会で発表し講演賞を受賞できたほどである。

 

数学の世界では山火事の現象をパーコレーションの概念で扱い解析が進められていた。1950年代にはパーコレーションの閾値がモデルにより変化する問題についてボンド問題とサイト問題として議論されている。

 

パーコレーション転移の概念が高分子材料分野で普及が遅れたことについては、以前この欄で紹介した。今ではフィラーの分散についてパーコレーションで扱うことは常識となっているが、このパーコレーション転移をどのように制御したらよいのか、そのコツについてはあまり発表されていない。

 

絶縁体高分子を半導体にするには導電性のよいカーボンが一般に用いられるが、10の10乗前後を安定に作り出すにはちょっとした工夫が必要である。

 

詳しくは弊社に問い合わせていただきたいが、パーコレーション転移を起こしている凝集粒子、すなわち球状のクラスターを分散する方法は、その工夫の一つして優れた方法である。

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2017.03/07 高分子材料(51)

粘弾性試験機は、高分子材料の動的粘度あるいは弾性率の周波数分散を求めるためだけの装置だけではない。高分子が紐状の分子であることから描かれる妄想についてこの装置をうまく用いた実験で確認することが可能である。

 

PPS中間転写ベルト用コンパウンドの生産ラインを立ち上げたときに、フローリーハギンズの理論で否定されるPPSと6ナイロンが相溶している状態をどのように品質管理するのか問題になった。

 

高分子の専門家がいなかったので、迅速に世界初のカオス混合プロセスを立ち上げることができた。これが専門家集団の中での提案だったなら、その検証のために数年が費やされたかもしれない。

 

科学の知識が少ない集団では、非科学的な内容の技術を立ち上げることは、誰も判断することができないという理由で容易である。これが科学者集団であるとSTAP細胞のような騒動になる。

 

山中先生もiPS細胞の技術を発見されたときにはその発表の仕方に大変気を使われていたそうだが、科学者が多い組織では、時として技術立ち上げがうまくゆかないことが多い。

 

科学が分からない集団の組織では、非科学的なことであろうと何だろうと簡単にできるならやってしまえという体育会系のノリで仕事を進めることができる。カオス混合プロセスもそんなノリで、開発が進められた。

 

ただそのような状況でも品質管理には慎重になる。PPSと6ナイロンの相溶をコンパウンド段階で管理せよとの声があがった。言い出すことは簡単であるが、それを実行するには難しい事象はビジネスプロセスでよくある。

 

えてして難しい問題になればなるほど皆わからないから騒ぎ出す。この相溶の問題も誰も理解していなかったので、コンパウンド段階における相溶の品質管理という大合唱が起きた。

 

量産まで3ケ月しかない段階で、手軽に相溶状態を管理する評価技術開発が求められた。二成分だけならばヘイズは一つの品質管理の指標になるがカーボンが分散しているために不透明で,相容状態の判定に光の透過性を使用できない。

 

この時粘弾性試験機をトリッキーに使用し品質管理する手法を思いついた。詳細は省略するが妄想から作り出した評価技術だが、タグチメソッドのSN比の概念も採用した手法で周囲を納得させやすいパラメーターを見つけることができた。

 

驚くべきことに、力学パラメーターなのに中間転写ベルトの周方向の抵抗ばらつきという電気的なパラメーターと相関したのだ。これにはびっくりしたが、高次構造が媒介変数になっているのかもしれないと思い、電子顕微鏡写真も動員して並べたところ、妄想が妄想ではなくなって、相関することが当然であるとの考察が可能となった。

 

高分子材料のような科学的解明が遅れている分野ではこのような妄想あるいは心眼による技術開発が重要であり、科学、科学と叫んでいても解けない問題の時に、この開発手法で簡単に解決できることがある。

 

コンパウンドの粘弾性測定により、押出成形で無端ベルトを生産するときの品質管理技術としたのだが、これが高分子の高次構造を粘弾性試験により評価している点については想定内だったが、その高次構造がベルトの周方向の抵抗ばらつきまで関係しており、その結果、力学測定で電気特性の品質管理を行うという面白い技術ができあがった。

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2017.03/06 高分子材料(50)

昨日の粘弾性の実験でPPSという樹脂が300℃において溶融しにくいことを書いた。このことで溶融しても粘度が高く、さらに300℃で6ナイロンと混錬するときにそれらの粘度差が極めて大きいのではないかと容易に想像がつく。

 

 

2成分の高分子を混練するときに、粘度差が大きいと剪断流動では細かいサイズまで混錬できないことが知られている。また、混練の教科書を読むとそのような結果を示すグラフが伸長流動との比較で示されている。

 

一方カオス混合で得られたPPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドは、300℃に設定された粘弾性試験機の中で容易に溶けて均一な融体となる。それは粘弾性試験をすれば容易に理解できる。

 

さらにPPSだけでは、290℃前後で動的粘度の上昇が起き始めるのに、6ナイロンが相溶したPPSでは260℃前後まで低粘度のまま均一の融体となっている。

 

このような粘弾性の観察結果から、PPSの融点より低い温度でも混練可能で、その時に混練がどのように進行してゆくのか思いめぐらすことが可能である。

 

もちろんこのような妄想は科学的ではない。科学的ではないが高分子材料の開発ではこのような妄想が新材料の創出やプロセシングの改善に役立ったりする。

 

現場を重視する技術者はこのような妄想を密かに行っている。このとき技術者の頭に描かれているのはひも状の高分子である。

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