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2015.02/04 混練プロセス(30)後藤さんの問題との共通点

イスラム国の事件については、ジャーナリストである後藤さん一人の自己責任論でかたずかない問題である。今回の事件で、世界中の(少なくとも日本中の)知識人がイスラム国と後藤さんの問題を考えたのではないか。ただ遊びに行って捕まったのであれば、これほどの問題にならなかったであろう。彼は彼の使命ゆえに第一線を越え事件に巻き込まれたのである。ただ、政府から渡航禁止要請が3度も出されていた、というから少々残念ではある。しかし、その人の職業観とも関係するので複雑である。

 

PPSを用いた中間転写ベルトの開発における混練プロセスの内製化というテーマはこの問題に似ていた。外部のコンパウンドメーカーの技術サービスから素人は黙っとれ、と言われ、半年後に迫ったテーマ判断の答が、悪い方に決まってしまった。その悪い方の決断をするために、退職間際の自分が招聘されたと考えられる状況でもあった。

 

QMSの観点から、配合処方の改良はできず、残されている問題解決手段はプロセス技術だけである。そのプロセス技術について企画では混練技術まで開発する計画になっていなかったので、人モノ金など経営資源は0であった。唯一の頼みとした優良企業からは協力を断られてしまったのだ。優良企業を動かすのも管理職の力量と言ってしまえばその能力が無かったことになるが、その点は前任者も同様の力量である。

 

しかし、環境負荷が大きく高価なPIで製造されていたプロセスを無溶媒の押出技術に置き換えることは、環境経営の視点から重要であり、技術成果となる大幅なコストダウンと失敗したことによる負の利益を比較して考えると、周囲や上司が仮に反対しても成功確率の高いことがわかっている「やるべき」技術開発である。

 

幸い自由にできる2000万円の設備予算があったので根津にある中小企業にお願いし、成功したらそこで生産することになるであろう子会社の工場の敷地と全く同じ面積の空き工場を探してもらい、そこで混練プロセスを組み立ててもらうことにした。しかしこれは2000万円でできる仕事ではなく、根津の中小企業の先行投資となる仕事である(注)。

 

ゴム会社における高純度SiCのパイロットプラント建設はじめ過去の成功実績から社長は快諾してくれた。当方は自己責任(一応周囲の関係者には話したが誰も判断を下せる内容ではなかった)でこの外部のプロジェクトを推進し、毎日曜日は東京へ自費で帰る生活になった。その結果家族は今でも当方が単身赴任していた感覚は無かった、と言っている。

 

ゴム会社における高純度SiCの事業化では6年間と言う長い道のりを一人で歩くことになったが、会社の役員にその使命が認められており、予算も少しあった。しかし、コンパウンドの内製化プロジェクトは半年と言う短い期間ではあるが、会社からは承認されていない(2000万円の稟議にはセンター長の印も必要だったので正しくは黙認状態)使命を自己責任で遂行しなければならなかった。しかし役職から会社のためにその使命は遂行すべきと判断し、さらに根津の子会社社長も当方を信頼してくださったこともあって、休日返上でがんばった。

 

その結果は大成功し、半年後予算外申請で混練プロセス建設予算を計上することができた。工場立ち上げから新製品販売開始までの期間が短すぎることを考慮したら、この申請も本来は却下されるべきであったが、なぜかすんなり通ったのだ。皆の心の中の思いは、PPS中間転写ベルトを新製品に載せたかったのである。その後前任者はその成果でセンター長に昇進し、当方は新しい上司に1年後の2011年3月11日を退職日と決めたことを伝えた。誕生日よりも早い退職予定日である。

 

(注)二軸混練プロセスを建設するには、発注から完成まで日本では最低半年かかる、と言われている。また、納入されてから立ち上げまで、最低1ケ月は必要である。これを中古機の導入で短縮し、さらにQMSの要求を満たすために最低3ケ月まで縮める必要があった。すなわちPPS中間転写ベルトの採用可否判断をするときには、内製化コンパウンドで製造したベルトが完成していなくてはならなかった。豊臣秀吉の一夜城と同じ戦術をとったのである。社内の各部署の暗黙の承認と協力が無ければ実現できなかった仕事である。

カテゴリー : 高分子

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2015.02/03 混練プロセス(29)高次構造設計

中間転写ベルトの業務は手の施しようのないテーマに見えたが、コンパウンドメーカーを見学して問題を解決するための方針が得られた。従来の二軸混練機の考え方にイノベーションを行えばよいのである。30年以上前の指導社員から概念を教えられたカオス混合装置を開発するチャンスが左遷で訪れた。

 

人生とは、塞翁が馬の如きといわれるが、最後までわからないものである。夢と希望を死ぬまで持ち続けたほうが良い、と思った。ゴム会社で高純度SiCの事業を立ち上げ、志半ばで転職しなければならない事件に巻き込まれた。転職までする必要は無い、という説得もあったが、誠実な視点で判断をすれば、FDを壊した犯人捜しをしなければよかったのだ。あるいは、不誠実であるが事件を隠すことに徹すればよかった。

 

自分で企画し、学位論文までまとめた事業に対する未練があり、転職後も悩んでいた。また、ヘッドハンティングでありながら転職した部署はバブルとともに無くなって約束は満たされず、転職を後悔したりもした。しかし、ブルーレイ用樹脂レンズの開発で、新入社員の時に出された宿題を考える機会ができ、そしてそれを解決するチャンスがサラリーマン生活最後に訪れた。

 

PPSと6ナイロンの二相を単相にできるとしたら、指導社員から教えられたカオス混合しかないのである。ただフローリーハギンズの理論に反する考え方でリスクは高い。リスクは高いが、過去にポリスチレンの一次構造を制御してポリオレフィンに相溶させた実績があった。現代の科学の視点では怪しい解決方法であるが、新しい科学の事例を技術で創りだしてきた自負と豊富な経験があるので、何とかできる可能性は高い、と思った。

 

一方抵抗の安定化については、パーコレーション転移を制御すればよい問題である。目標とするベルトの抵抗は、10の10乗Ωcm前後であり、これを導電性の良いカーボンで実現するためには、カーボンを凝集体で分散し、凝集体の体積固有抵抗を10の4乗Ωcm程度に設計しなければいけないことをシミュレーションで求めた。

 

このように考察を最初に行う習慣やシミュレーションで高分子の高次構造設計を行う材料開発の方法も、3ケ月間親身に指導してくださったゴム会社の混錬のプロである指導社員から学んだことである。混練プロセスでは何が起きているのかわからないので、最初に目標とする材料の構造を設定することが重要である。混練方法をダイナミックに変更し、その構造が得られた混練方法がその材料を製造する条件となる。このような実験を行う場合にはバンバリーやロールは便利な混練装置となる。

 

バンバリーやロールは二軸混練機よりも機構が単純である。しかし使い方で様々な混錬を実現できる。ただ二軸混練機に比較して操作が難しく、数日の訓練が必要である。特に安全面の注意が重要で、ゴム会社の現場で実習をした時に指先のなくなった人を見て、ロール作業の危険性を学んだ。ちなみに根津にある小平製作所は安全なロール混練設備の開発では実績のある会社だ。実技指導もしてくれるなどサービス満点の会社である。

 

二軸混練機でも工夫で高分子の高次構造を制御可能である。但しこの場合も目標とする材料の構造をあらかじめ設計しておく必要がある。材料設計を行わない場合には、混練を繰り返しても何をやっているのか不明になる。実は混練プロセスをAのように行えば必ずBの構造ができる、という学術的な法則はなく、一般に言われているのは経験則である。目標とする高次構造を設定するのは混練プロセスの経験則を獲得するためである。

 

PPS/ナイロン/カーボンからなる中間転写ベルトのコンパウンドでは、2種類の高次構造を設計した。一つはナイロン相にカーボンが分散し、10の4乗Ωcmの体積固有抵抗の島となり、それがPPSに分散している構造である。これはフローリーハギンズ理論に適合した案である。もう一つはフローリーハギンズ理論に反したアイデアで、6ナイロンがPPSに相溶したマトリックスの中にカーボンの凝集体が分散した構造である。この二つの構造を目標に混練プロセスを検討した。

カテゴリー : 高分子

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2015.02/02 混練プロセス(28)教科書は正しいか?

PPS樹脂を用いた中間転写ベルトは、脆さを改善するために6ナイロンが添加されていた。それにもかかわらず、製品として見た時に改善効果はわずかである。しかし、6ナイロンを添加したことでパーコレーション転移の制御が難しくなり,何のために6ナイロンを添加したのかわからない状態だった。

 

前任者に聞くと、最初の添加目的はPPSの靱性を改善するために6ナイロンを添加した訳ではなく、6ナイロンにカーボンを結合して分散させて抵抗を安定化しようとした、とのこと。しかし、6ナイロンを添加したらベルトのMIT値(靱性の一つの指標)がPPS単体の3倍以上になった。抵抗安定化に効果は無かったが、そのまま検討を続けた。その結果、当初の目的が改善されなかったので、にっちもさっちもいかなくなった。

 

そして、採用可否判断まであと半年となったので、自分の手に負えなくなり当方へ仕事を依頼してきた。QMSの都合があるので、この処方のままゴールを実現してほしい、と難しいお願いをしてきた。周囲が成功しないだろうと悲観的になっている理由を理解できた。すなわち手の施しようのない、終了すべきテーマだったのである。

 

中間転写ベルトは、外部からコンパウンドを調達して押出工程の開発を中心に業務が進められていた。押出というのは、いってこいの世界だ、とゴム会社で習った。すなわち射出成型では金型の中で樹脂が固まるのでコンパウンドの問題を吸収できる余地が存在するが、押出技術はコンパウンドが金型を通り抜けるだけなので混練プロセスの影響が成形体にそのまま現れる、と言う意味だ。

 

すなわち、混練プロセスに注目すれば問題解決できる簡単なテーマだったのである。問題は外部のコンパウンドメーカーが名門企業だったので、誰もそのプロセスの間違いに気がつかなかったのだ。さっそく高度の技術があると言われた工場を見学したところ、教科書通りの混練プロセスで、評判にうそは無かった。

 

しかし、水を流し粘土鉱物を二軸混練機でナノ分散するような、とんでもない技術が公開されている時代である。教科書通りに二軸混練機を使うのは、もはや時代遅れである。また、生産性は悪いがウトラッキーが提案したようなアイデアもあり、二軸混練機のイノベーションを進めなければいけない時代である。

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2015.02/01 混練プロセス(27)高次構造を混練プロセスで設計

高分子の高次構造を混練プロセスで設計できる、と教えてくれたのは指導社員である。混練プロセスでは非晶領域を主に変性できる、と教えてくれた。高分子の結晶について研究が進み始めたころのことで、アモルファスの研究は無機のガラスでも進んでいなかった。当時ガラスの研究についてはそこから結晶化する挙動を解析しそのモルフォロジーを議論する論文が窯業協会誌に多数投稿されていた時代である。

 

何が混練プロセスでどう変わるのか、と言うことを論じている論文などなかった。混練プロセスはブラックボックス化された世界だった。またゴム会社の中でも優れた技術者は独自の世界観を持って混練プロセスを開発していた。指導社員もその一人で、彼の見解に関して批判する技術者もいた。

 

しかしダッシュポットとばねのモデルを関数電卓で計算する姿についてほとんどの技術者は驚いていた。さらに計算をしながらゴムの世界のシミュレーションをこのモデルで計算する時代は終わった、とぶつぶつ語る姿は、若い技術者にはかっこよくも見えた。

 

最初説明を聞いた時にはさっぱりわからなかったが、tanΔの形が非晶領域と関係している仮説及びそれをモデル計算した結果となぜ樹脂と複合化し樹脂補強ゴムとするのかという講義は、座学だけでなく混練プロセスの現場でも展開され、高分子ガラスへの関心が高まった。しかし窯業協会誌に掲載された無機のガラスの研究に感化され、3ケ月後にまとめた研究報告書は、樹脂補強ゴムの弾性率と樹脂の結晶化度に関する考察となった。

 

指導社員から伝承された技術内容を科学的にまとめることなど難しく、当時X線の小角散乱などで容易に研究できた高分子結晶の視点で研究報告書をまとめた。指導社員に提出したところ、指導した内容ではなく独自の見解をまとめるほど優秀だ、と皮肉交じりに褒められたことを覚えている。

 

本当は指導された内容で報告書をまとめたかったが、非晶領域の科学的アプローチの方法がよくわからなかったのだ。指導社員から学んだのは技術であって科学ではない、と思っていたほどだ。しかしテーマを終了後改めて講義録を読み直すと内容は科学的論理で展開され、シミュレーション結果は3ケ月間に集められたデータによって実証されていた。

 

この時の経験はゴム会社でその後生かされず、写真会社に転職して開花した。特にブルーレイ用対物樹脂レンズは生産不可能とテーマを担当した直後に発表したり、PPS中間転写ベルトを外部のコンパウンドメーカーに頼っていては開発を失敗すると提案してコンパウンド内製化を成功させたりと周囲を驚かせた(顰蹙をかったのかもしれないが)。いずれも非晶質の挙動に着目して開発した成果である。

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2015.01/31 混練プロセス(26)(媒介変数としての高次構造の作りこみ)

電気特性と力学特性というまったく異なる事象のパラメーターが相関するような現象が本当に起きるのか。PPS-ナイロンーカーボンの3元系で製造された中間転写ベルトでは、そのパラメーターの一組が見つかったので、押出工程で抜き取り検査を行っている電気特性について、混練プロセスで粘弾性評価を行いその品質を管理している。

 

その結果、退職するまでの4年間押出工程で品質問題を起こしたコンパウンドのロットは無かった。外部のコンパウンドメーカーの技術サービスから引っ込んでおれ、と言われたのでコンパウンドメーカーとの打ち合わせはマネージャーに任せ、コンパウンドの内製化の準備を始めた時に行った業務であり、これは転職してきた若者の最初の成果である。

 

すなわちコンパウンド開発の最初の仕事として、ベルトを製造しなくてもコンパウンド段階でベルト性能を評価する方法について検討した。この方法を開発しようとしたのは混練プロセスだけを独立して検討したかったからだ。外部からコンパウンドを購入し開発する方針で進められていた業務に、リスク回避のための内製化検討で製造したコンパウンドまで評価する業務を推進することはマンパワーの関係で不可能だった。

 

また、外部メーカーのコンパウンドと同じ条件で押出してよいのかも不明であり、うまく内製化コンパウンドの開発を進めないと同じ穴のモグラと勘違いされる可能性があった。幸いにもコンパウンドメーカーのモグラは当方のコンパウンドプロセスに紛れ込まず、新たに生まれたモグラを退治するだけで済んだ。新たに生まれたモグラは、氏素性が解っていたので一発で仕留めることができた。新たに生まれたモグラについては粘弾性評価で簡単に見つけることができたのである。

 

中間転写ベルトの基本機能は電気特性なのに、それが力学特性を評価する粘弾性装置でエラーを見つけることができるという不思議さに、転職してきた若者は夢中になって仕事をするようになった。知識労働者のモラールは知的好奇心が刺激されれば上がる。

 

かつて有機合成を大学で学びながら最初に担当した仕事がバンバリーとロール混錬で一瞬モラールが下がったが、優秀な指導社員のおかげでサービス残業も苦にならず仕事に没頭することができた時のことを思い出した。

 

異なる事象のパラメーターが高次構造を媒介変数として相関する話は、混練プロセスを学んだ時に感動した知識の一つである。高分子物性の媒介変数を作りこむために混練プロセスの理解は重要である。

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2015.01/30 混練プロセス(25)

(昨日の続き)単身赴任してテーマの問題点を整理してみたが、へたくそなモグラたたきをしている状況だった。モグラが頭を出していないのに一生懸命ハンマーを振り回していた。すなわちモグラは混練プロセスにいるのに押出プロセスでモグラたたきをしていたのである。

 

コンパウンドメーカーは、そこでモグラが暴れまわっているのにモグラを見ようともせず、押出プロセスにモグラが走って行った、と騒いでいるだけだった。コンパウンドメーカーにモグラ用の罠を提案してもモグラを捕まえた経験のないものは黙っとれ、と相手にしてくれない。

 

部下のマネージャーはPPSベルトの電子顕微鏡写真をいっぱい集めてモグラを探していた。電子顕微鏡写真というのは大変狭い領域を見ていることに気がついていない。コンパウンドの解析データを尋ねたら、ベルトの写真と変わらなかったのでベルトを中心に問題の原因を解析している、という。いくら見える化しても見えない人には、あるいは見ようとしない人には無駄である、という典型的な状況だった。

 

たまたま単身赴任した同じ時期に、ゴムベルトの押出をやっていた、という若者が転職してきた。ベルトが嫌でこの会社に来たのにまたベルトをやることになってがっかりした、と言っていたのでコンパウンドを担当させることにした。

 

粘弾性測定装置を用いた様々の測定法を指導し、コンパウンドの粘弾性について解析させた。マネージャーは開発しているのは中間転写ベルトなので力学特性ではなく電気特性の評価が重要ではないか、と仕事の進め方について疑問をぶつけてきたが、力学特性と電気特性との強相関性を講義し煙に巻いた。

 

30年前に、ゴム会社の指導社員から高分子物性に関して高次構造との相関があれば事象の異なる特性も相関するという面白い現象が起きる、と習った。目標を達成した中間転写ベルトの材料ではそれが起きるはずである、と想像した。また、粘弾性評価という巨視的な材料評価は、コンパウンドの混錬の状態を観察するのに適した方法である。

 

高分子材料では解析目的に適したサイズをまず決めなければいけない。導電性微粒子と絶縁体の複合材料において、導電性はパーコレーション転移という現象で決定される。最も小さい領域は、微粒子界面の現象で、接触点の一点は大変小さいが導電性微粒子同士にわずかな接触があればホッピング伝導領域も含め微粒子サイズレベルよりも大きなサイズとなる。

 

すなわち電子顕微鏡で求めることができるのは、微粒子の集合体であるクラスターの大きさ程度で、クラスターの分散状態やその状態から生じる現象を見るためには、もう少し大きな領域を見る必要がある。粘弾性評価を工夫すると、その領域で引き起こされる現象を観察することが可能となる。粘弾性評価装置は動的弾性率を求めるだけの装置ではないのだ。

 

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2015.01/29 混練プロセス(24)

混錬により何が変わるのか?これが理解されていないと混練機の性能を評価することができない。混練プロセスにより高分子は変性されているのだが、それに気がつかず、ただひたすら二軸混練機の混練条件を変えてみてみても、目的とする物性が得られるわけではない。

 

また二軸混練機のどこに問題があるのかも解明できない。混合では分散が均一になっていること、とそのゴールを明確に言える。しかし、混錬は単なる混合ではなく練も行われている。そして練を活用して混合も進めている、と言うことに気がつかなければ、二軸混練機を使用して材料の開発などできない。

 

また、既存の二軸混練機ではゴールを実現できない場合もあることを知らなければ、材料開発はモグラたたきになる。2005年に八王子勤務から、近くには中京の熱海と言われる蒲郡があり、お稲荷さんとちくわで有名な豊川へ単身赴任した時に一生懸命モグラたたきを行っているコンパウンドメーカーに出会った。

 

モグラの捕まえ方と料理の仕方を教える、と言ったら素人は黙っとれ、と技術サービスに言われた。確かにそれまで二軸混練機を使用したのは、パルプ樹脂複合材料を開発しようとした時に、KOBELCOの二軸混練機を一度借りて、二軸混練機では異臭のしないパルプ樹脂複合材料はできない、という結論をだした経験だけである。

 

6年もPPSというモグラをたたいている一流のコンパウンドメーカーの技術者のような二軸混練機の経験は無い。しかし、3ケ月間二本のロールとバンバリーを相手に平均睡眠4時間以下という状態で格闘し、世界初の樹脂補強ゴムで某社の防振ゴムを仕上げた経験があった。混錬で高分子の何が変性されるのか豊富な分析データとシミュレーションデータ、およびそれらと実データとの突合せで混錬の理解を深くし新たなテーマの整理ができていた。モグラを当時と同じ3ケ月で料理できる自信はあった。

 

豊川へは左遷だったが、約30年前の課題を解決できるチャンスとなる楽しい単身赴任だった。家族にもなぜ楽しい顔をしているのか、と言われた。当時赴任する途中のドライブインで撮影した家族写真では、一人だけ楽しそうな顔が写っていた。サラリーマン最後の仕事をする覚悟もできており、後は周囲が失敗するだろうと噂していたテーマを成功させるだけであった。

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2015.01/28 混練プロセス(23)

上海近郊の大学で見学した混練機は怪しげな設備であったが、混錬性能をあげるためにはロータの改良が重要という主張は正しいと思った。そして押出部分とロータ部分を分けた設備を開発している点は間違っていないが、ロータの改良をしている、といいながらも見せてくれたロータの種類は少なかった。

 

ただそのすべての形状は印象に残った。モーノポンプと呼ばれる特殊なポンプに使用されているスクリューとロータを組み合わせたような形である。恐らくロータに送り機能をつけたくて考え出された構造と思われるが、通訳の説明にはそのような解説は無かった。

 

また、押出機と組み合わせているのでそこまで考えて設計していないのかもしれない。しかし、もしヤマカンであのような構造に至ったとするならば面白い、と帰国する飛行機の中で考えた。やや怪しげな先生だったが、もしかしたら混練マニアかもしれない、と思った。

 

雑談では混練技術をライフワークとして考えているとか世界中で自分ほど混練技術を研究している研究者はいない、とか連発していた。そして混練技術の教科書的な説明を数式をまじえながら説明するその姿は自信に満ち溢れていた。見える化した二軸混練機はその先生の自信作だ。

 

ただ残念だったのは高分子と混練技術の関係を質問しても答えていただけなかった点である。一応高分子が専門と自称していたが、面談で9割は混練設備の話で残り1割はナノカーボンを分散したというポリエチレンシートの話である。

 

このポリエチレンシートの話では、本当に分散が成功したのか示す証拠を見せていただけなかっただけでなく、日本の高分子学会技術賞を受賞した、粘土を高分子にナノ分散した研究のこともご存じなかった。

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2015.01/27 混練プロセス(22)

二軸混練機の運転で難しいのは、スクリューセグメントの設計と混練温度である。スクリューセグメントについては押出機として使われていた時代から様々なデザインのスクリューがある。スクリューを眺めているとその時代の技術者の思いが伝わってくるようなものもある。

 

30年以上前に二軸混練機を使用していた技術者は、あまり練を意識していなかったように思われる。混合を促進する構造のスクリューばかりである。ローターを発明した技術者は恐らくこの点に着目したのかもしれない。この30年間に様々なローターが開発されている。

 

上海近郊にある某大学で混錬を研究しているという先生の紹介を受けた。ポリエチレンにナノカーボンを分散する研究を行っているという。そして、その先生の独創とされるすべてロータで構成された混練機を見せられた。

 

押出機と組み合わせて使用するような構造で、実験室には、それも独創の押出機と組み合わせて、システムとしてオリジナルな設備だと説明していた。そしてそのシステム構成に秘密があり、詳しくは教えられない、と言ってきた。

 

どこが秘密なのかさっぱりわからなかったが、ナノカーボンの分散に成功したと言われるポリエチレンシートを見せられた。真っ黒なポリエチレンシートを渡されたが、その電顕写真はこれから撮影するのですぐに返せという。怪しげな説明である。

 

その後混錬の講義をするというので、1時間プレゼンテーションを聞いたが、一般の教科書に書かれた内容の後に独創と称するロータの写真が少し述べられただけのがっかりする講義だった。混練機のシステムやロータが独創であることを何度も聞かされたがその性能の発揮された十分な証拠を見せていただけなかった。

 

現地通訳を介しての説明なので我慢していたが、プレゼンテーションが終了してからウトラッキーのEFMの評価を聞いたところ、ウトラッキーなど知らない、といい、EFMはなんだ、と聞いてきた。伸長流動装置のことだ、と言ったら、どんな構造をしている、と聞いてきたので、議論をやめた。

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2015.01/26 混練プロセス(21)

バンバリーや二本ロールで樹脂を混練する人はあまりいないと思うが、ぜひ一度試してほしい。例えばオープンロールで樹脂を混練すると、時間はかかり、樹脂によっては面倒な現象が起きる。しかし目的とする温度で丁寧に練り上げることができるので、特定の温度で混練された樹脂サンプルが必要な時に重宝する。

 

15年ほど前にパルプとポリエチレンの複合材料をロール混錬で製造し、異臭のしないパルプ樹脂複合材料を開発した。二軸混練機やKCK、バンバリーで混練すると、どのように温度調整しても異臭のする複合材料しかできなかった。しかしオープンロールで混練したところ、パルプの熱分解物が人間の鼻では感知できないレベルの量になった。

 

これはオープンロールだから臭気が揮発した、というよりも混練温度を管理することができた効果である。すなわち二軸混練機やKCK、バンバリーミキサーなどの密閉系混練プロセスでは、温度計の指示温度よりも10℃以上高い温度がサンプルにかかっている。実際にどの程度の温度がかかっているのかはスクリューの構造にもよる。

 

二軸混練機のシミュレーターによれば、指示温度よりも20℃以上も高くなる場合もある。もちろんこれは二軸混練機のスクリューセグメントの設計や運転条件、混練時の樹脂粘度にも依存し、ケースにより大きく異なるが、二軸混練機の設定温度よりも高い温度に樹脂がさらされていることは確かである。

 

パルプ樹脂複合材料は、異臭の発生を抑えるために温度を低く設定しようとする剪断発熱が多くなり、混練時に加熱が不均一になりやすい。その結果いくら低温度にしても部分的にパルプの熱分解温度以上になるところができて、異臭が発生する。ゆえに密閉系の混練機を使用した場合には異臭の発生を抑える混練条件を見出すことができなかった。

 

シミュレーションの結果では最適点が見出されたが、実際に混練してみると複合材料の混錬をパルプの熱分解温度以下で混練することができなかったので、剪断発熱が予想以上に多いと推定された。新入社員の実習経験から想定内の出来事ではあったが驚いた。

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