加硫ゴムは、加硫してはじめてゴム弾性を示す。未加硫ゴムは室温で流動性があり力を加えると大きく変形しそのままの姿で流動してる。Tgが室温以上の樹脂と性状の違いが著しい。
TgからTmまでの動的弾性率においてその温度変化は、いわゆる樹脂と呼ばれる高分子と加硫ゴムとして用いられる高分子で大きく異なり、樹脂ではもう一つ変曲点が観察されるが、ゴムでは何ら変化が無い。面白いのは、ゴムではTmよりも低い温度領域で普通に混錬したりするが、樹脂ではTm以上の温度領域で混練するのが常識になっている。
逆に樹脂をTmよりも低い温度で混練するというと常識が無いと笑われたりする場合もある。ゴムでは混練温度を柔軟に扱うが、樹脂はTmより低い温度だと分子の断裂が起きてだめだ、と強く否定する人がいる。カオス混合を公式の場で初めてプレゼンした高分子学会技術賞の審査会でも議論になったが、このような人と話すと疲れる。
分子の断裂が起きるかどうかはスクリューセグメントにも依存するので頭ごなしに否定するほうがおかしいが、PPSの中間転写ベルトを開発してみて、これは樹脂技術者の特殊性あるいは厳しい言い方をすれば偏屈ととらえたほうがよいと思っている。ゴム技術者のほうが樹脂技術者よりも柔軟な人が多い。
PPSは「カーボンを嚙みこみにくい剛直な分子」ではなく、柔軟でカーボンの分散制御も行いやすい分子に思われる。混練条件を注意深く変化させて実験をすればその様子を観察することも可能だ。またその実験方法はノウハウだ。
だからTm温度以下で混練してもスクリューセグメントさえデザインすれば分子の断裂を起こさず混練可能である。これを樹脂技術者の審査員は偉い!とうぬぼれているのか知らないが、10分間の審査会で頭ごなしに否定するような意見を述べられては、そこで審査の議論は終わる。6年たっても事業として続いている筋の好い技術を心無い審査員のためにだめにされた。
実は樹脂をTmよりも低い温度で混練するとTm以上の混練物と異なる性状の材料が得られることがある。実例を示すと退職時に実用化が決まった廃PETボトルを用いた環境対応樹脂ではPETのTm以上の温度領域で混練すると射出成型が可能な樹脂ができない。
ゴム会社で社会人をスタートできたのは幸運だった。もし樹脂材料技術を最初に担当していたらTm以下で混練しようなどと考えなかったと思う。今中国で樹脂技術を指導しているが、この混練温度の考え方も指導している。
機能を実現するのが技術であり科学とは異なる側面が技術にはあるので内心はもったいないと思っているが、学会賞の審査でも否定されサポインで3回も落選した技術ならば日本で不要なのかもしれない、と考えて中国でさらに磨きをかけている。
STAP細胞の騒動でも垣間見えた科学こそ命という社会風潮は、新しい技術の創造を阻害する場合もあるのだ。今の科学で説明できない技術でも機能を再現よく実用化できるのならそれを評価し受け入れる寛容さがほしい。
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この欄では技術の視点で高分子材料について書いているが、ゴムの説明について現代は難しい時代だ。40年前ならば、ゴムといえば加硫ゴムが常識だったが今は熱可塑性エラストマーの普及で加硫ゴム以外もゴムと呼ばれるようになってきた。熱可塑性エラストマーがゴムの代表のようになっている時代だ。
身の回りのゴムで加硫ゴムが極端に少なくなった。コンピューターのマウスに使用されているゴム部分はほとんどが熱可塑性エラストマーで、年数がたつとべたべたしてくる。出来の悪い製品では、一年程度で可塑剤がブリードアウトし、触るのが気持ち悪くなる製品もある。ハツカネズミのほうが手触りがよい。
ポリエチレンはコポリマーとして利用されるときにはゴムの代用である。ひどい製品になるとポリエチレンに可塑剤だけブレンドしてゴムパッキンとして利用している場合がある。中国で見つけた食品容器の多くはこのポリエチレンをゴムパッキンとして使用していた。
ゴムの性能という視点でざっくりと見たときに、加硫ゴムの物性は熱可塑性エラストマーよりも優れており、加硫ゴムのコストダウン品として熱可塑性エラストマーが利用されている。自動車用タイヤはいまだに加硫ゴムでなければ製品を作れないが、遊園地にあるおもちゃのカート用タイヤには熱可塑性エラストマーが一般に使われている。
いまや室温で弾性体であればゴムと呼んでおり、樹脂に可塑剤をたっぷりと添加したものまでゴムとして利用されている例も存在するので、ゴムと樹脂で高分子材料を分類しようとすると頭が混乱するかもしれない。
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高分子材料の分類として樹脂とゴムという分け方があるが、これは学術的な分類ではない。例えばこれをカタカナで書いてプラスチックとエラストマーと表現しても学術的ではなく、もし学術論文で樹脂を表現するならば、レジンを使用すべきである。
いつの時代から樹脂とゴム、あるいはプラスチックとエラストマーという分類ができたか知らないが、サイモンとガーファンクルの曲がふんだんに使用された映画「卒業」では、ダスティンホフマン演じるベンという若者に対して、叔父が「これからはプラスチックの時代だ」とアドバイスをしている。レジンの時代、と表現していない。
このことからプラスチックとエラストマーは業界用語としてつかわれてきたのだろうと映画を見ながら考えた。モラトリアムという言葉が生まれた時代の若者像を描いた映画で自分の人生に参考になるかと思い見たのだが、人生ではなく高分子の分類で悩むことになった。
当時販売されていた「工業材料」という月刊誌にたまたまプラスチックとエラストマーの分類について論文が載っており、そこには「Tgが室温以上のものをプラスチックと言い、室温以下の材料をエラストマーという」と説明されていた。
しかしこの説明によるとポリエチレンはエラストマーになるが、一般には樹脂と呼ばれている。面白いのはポリエチレンがエラストマーとして使用されることもあり、この用途では工業材料に書かれていた分類で問題が無い。
そもそも高分子材料は人類誕生とともに日常使用されてきたので、科学の歴史と比較できないくらい人類の生活に技術として浸透している。おいしいうどんは弾性も十分あり数回ならゴムのように伸び縮みし立派なエラストマーだが原料は樹脂である。その製造方法で弾性率が異なり、結果として味覚にも効いてくる。
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PPSと6ナイロンは樹脂の組み合わせだが、樹脂とゴムの組み合わせでは面白い現象が起きる。樹脂の割合を少なくしてゴムとブレンドすると、少ないほうの樹脂が海になり、ゴムが島となる場合があるのだ。
ゴム会社で新入社員時代に担当した樹脂補強ゴムの開発では、樹脂の割合を20%以下でゴムとのブレンドを検討したのだが、樹脂が島になる場合や海になる場合などその組み合わせで様々な高次構造の材料が得られた。
周波数を変化させて粘弾性の周波数分散を測定すると、その高次構造の様子がたちどころにわかった。これは指導社員のご指導が良かったからで、また、分析Grの女性軍団の迅速な高次構造解析の援護射撃も暗黙知ではなく形式知として体得するのに役立った。
樹脂補強ゴムは、バンバリーでノンプロ練を行い、ロールによるプロ練でコンパウンドを仕上げる。そしてモールド中で加硫しながら形状を付与する。同じ配合処方を二軸混練機で動的加硫してコンパウンドを仕上げることもできるが出来上がった成形体の力学物性は異なる。一般に前者のゴム加硫プロセスによる成型方法で製造されたゴムのほうが耐久性も含め良好なゴム物性を示す。
ちなみに二軸混練機で製造された動的加硫によるゴムと樹脂からなるコンパウンドは射出成型で形状を付与できる熱可塑性エラストマー(TPE)の仲間である。この熱可塑性エラストマーには、樹脂とゴムとの共重合体すなわち、一本の紐の中にゴム成分と樹脂成分で構成された材料が代表的で歴史的に早い段階で研究された。この場合には、樹脂部分が架橋点の役割をしてゴム弾性を示すので加硫の必要が無い。
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高分子の相分離は濃度のゆらぎで進行するスピノーダル分解で起きる。大学で習ったときには相分離も結晶成長も意味がよくわからず苦労した。おそらく教えているほうもよくわかっていなかったのではないかと疑っている。しかし、金属やセラミックスを生涯の飯のタネにするつもりで勉強したところ、金属やセラミックスの相分離や結晶成長のほうがもっと複雑で難しい。
早い話が高分子が紐状であるので相分離はスピノーダル分解で進行するのが自然であり、結晶成長は核生成を仮定したアブラミ式になる。学生時代にこのように簡単に説明してもらえれば分かりやすかったのだが、難解な式の説明でそもそもなぜアブラミなのかスピノーダルなのか「?」がいっぱい出た。
高分子前駆体を用いたSiC生成の反応速度論が学位の半分を占めているが、その半分はお決まりの、「なぜ**の速度式を用いたのか」という説明である。無機の反応ではアブラミ以外に反応速度の取扱い方法は多数あり、アブラミ式で反応機構を取り扱うに至った論理を過去の速度論の解析結果をもとに論じることになる。
この部分はスタップ細胞の学位論文で問題となったコピペをしたくなるところだ。当時すでに反応速度論はある程度確立した学問になっていたので一部分はだれが書いても同じ論理の流れになるところが存在する。また同じ論理の流れで無く独自の流れにするならば、そこがまた研究テーマになるのである。
当方は総説を参考にまとめたのだが、コピペをすると膨大な量になり大変なので、図や表を駆使して文章を少なくする努力をした。この工夫は大変勉強になった。すなわち総説では文章で数十ページにわたり論理展開されていたところをフローチャートや表の一覧でまとめたのだ。その結果、無機材料の複雑な結晶成長を反応速度論で解析しなければいけない理由が見えてきた。
そもそもアブラミで仮定する核(注)の存在や濃度勾配などは、反応が進行した結果できているものを観察してその前段階を想像しているに過ぎない。単なる想像では妄想と区別ができないので速度式のあてはめを行って科学の香りを出しているのだ。
無機材料では結晶生成に様々な反応経路が存在するのでこのような速度論が進歩したが、高分子ではこの無機材料における速度論の成果をそのまま利用しているに過ぎない。だから高分子の結晶成長や相分離の話は、無機材料でそれをよく勉強してから学ぶとよく理解できる。そのうえで大学時代に高分子合成の専門家から聞いた講義はやはり少し怪しい内容だったと思っている。
(注)「電子顕微鏡でも観察できない」と総説には簡単に一言書かれていた。無機材料ではこの核が何かという研究も存在する。結晶成長の開始点として核は重要であるが、多くは見ることもできなければ確認することもできない空想の存在である。高分子では明確な核について授業以外では聞いたことがない。学術にはそれを専門にしている人には常識でも専門外には授業以外では一生出会わない言葉も存在する。この言葉の意味の難しさが学術を難解にしている。高分子のスピノーダル分解にしても二種類の色の10本以上の紐の束をよく混ぜてその状態から一種類の紐だけを集める作業をやってみると理解しやすい。例えばPPSと6ナイロンを相溶させて製造したフィルムは、室温でも10年かけてPPSの結晶化が進行し金属音がするようになる。Tg以下でもスピノーダル分解が進行する事例であるのとPPSの芳香環が室温で振動している証拠である。
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カオス混合装置で混錬してPPSと6ナイロンを相溶させたコンパウンドは、吐出後急冷して非晶質状態で成形プロセスに供給する。急冷しなければ、PPSが結晶化して6ナイロン相がPPSの海の中に島として析出する。面白いのはPPSの比率が50%未満でも相溶する。ただし急冷しなければ今度は6ナイロン相の海にPPSが島として析出してくる。
フローリーハギンズ理論によればχが0の時に相溶という現象がおきるのだが、PPSと6ナイロンの組み合わせでは正の値なので相分離する。だから急冷しないときに相分離するのは科学の視点から当たり前の現象である。しかし急冷して6ナイロンが相溶し製造されたコンパウンドは非科学的産物である。急冷という非平衡プロセスのなせる業なのだが、このアイデアは40年以上前に登場したアモルファス金属の製造方法をヒントにしている。
形状記憶合金が登場したときには、話題になったのは使用方法である。最初に大量に実用化されたのはブラジャーの金具だ。洗濯をすると形を整える金具が変形したので問題になっていたのだが、形状記憶合金を使用すると変形しても装着時に体温で形状が元にもどるので、この問題を解決できた。
しかし、PPSと6ナイロンを相溶した非晶質体にはこのような特徴はない。形状を記憶していないがその状態はうまく記憶している。この非晶質コンパウンドを用いて押出成形を行い急冷して無端ベルトを製造すると相溶状態が保たれている。これには驚いた。
押出成形では単軸押出機を用いるので混練能力は低い。ゆえにコンパウンドが溶融状態になるまでに押出機内で相分離するのではないかと心配だった。しかし、この系はスピノーダル分解速度が遅いのかもしれない。ちなみに高分子の相分離はすべてスピノーダル分解で進むといわれている。これも高分子が紐であるからだ。
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PPSの靭性を改良するために6ナイロンをカオス混合で相溶させた。驚くべきことに6ナイロンが7%ほど相溶したPPSフィルムのMIT値は一気に10000以上になった。30000に達した評価結果もある。困ったことに一日試験していても切れないのだ。このくらい靭性が高くなると強度にその効果が表れ、単なる非晶質PPSよりも10%以上引張強度が改善された。
この6ナイロンが相溶したPPSフィルムは振ってみても金属音がしない。非晶質フィルム独特の鈍い音がする。PPSだけを非晶質化した場合よりも結晶の析出が少ないからだ。ほとんど結晶化していない、といってもよいほどだ。
高分子の相溶という現象は非晶質相だけで観察される現象である。すなわちPPS単体で成形するよりも6ナイロンを相溶させたPPSを成形したほうが非晶質相が多くなり、成形されたフィルムの靭性が高くなるのだ。ほとんど結晶ができていないレベルなので弾性率も低くなるが、靭性が改善された効果で、引張強度はPPS単体の時よりも上がる。ただし結晶化していないので弾性率が低く一般のPPSフィルムより強度は低い。
この実験結果に接すると引張強度が弾性率と靭性の関数であるということを体感できる。面白いのは、このフィルムのしなやかさで、PPSがとても教科書に書かれているような剛直な高分子に思えない。むしろその一次構造は柔らかいのでは、と疑いたくなる。
退職直前に高分子学会賞技術賞にこの技術が推薦されたが、サンプルを見せても審査員に信じてもらえなかった。フローリーハギンズの理論で説明できない現象ゆえに理解されなかったのだ。推薦してくださった大学の先生に申しわけないと思った。また高分子の科学とは未だにその程度なのだ。この技術をアカデミアの先生方が理解できるためには高分子物理の研究にもっと力を入れなければいけない。
ところで高分子学会賞を逃がしただけでなく、退職後もこの技術を発展させようとサポインはじめ経済産業省の補助金事業に応募したが、3回ほど応募しても採択されなかったので諦め、中国ローカル企業を指導しつつ技術開発を進めた。その結果、カオス混合技術について普遍的と思われる長所がいくつか明らかになってきた。
高分子材料分野は科学で説明できない技術が生まれるという事例だが、中国で容易に受け入れられ流行しつつある。カオス混合技術が日本で関心を持ってもらえないというのは残念なことだ。
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PPSは、ベンゼン環とイオウ原子とが交互にひも状につながった高分子である。そのフィルムは金属音がする。これは結晶相が多く弾性率が高いためだが、その結果靭性が低くなり少し傷がついただけでびりっと簡単に破れる。
高い弾性率のおかげで引っ張り強度はPETなどに比較して高いのだが、靭性は低い。このような脆いフィルムは、引張強度が高くても動的部品に使いにくい。
例えば、カラー複写機に使用されている中間転写ベルトは、高速で動く部品のため、一般に販売されているようなPPSフィルムでは、引張強度が高くても、すぐに切れてしまう。しかし、このフィルムの結晶化度を下げて非晶質相を多くなるように成形すると引張強度は下がるが靭性が改善され切れなくなる。
フィルムの靭性の尺度としてMIT値がある。これは同じところを何度も繰り返して折り曲げ、切れるまで何回折り曲げることができるのかを評価した値である。一般に販売されているPPSフィルムはこの値が1000未満と小さい。
特殊な成型方法でフィルム化すると非晶質相が増えてMIT値が3000前後まで改善される。ただし先に述べたように脆さは改善されるが非晶質化により弾性率が大きく低下し引張強度は30%以上下がる。
引張強度が低下してもMIT値がこのくらい改善されると印刷速度の遅い低価格のカラーレーザープリンターに使用できるようになる。すなわち動的部品では、引張強度よりも脆さ、靭性値が重要になってくる。さらに高速のカラーレーザープリンターに使用できるように、このPPSを改良するためにはどうしたらよいのか。これは明日説明する。
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高分子の実務では、プロセシングに対する考え方が重要になってくる。ここでプロセシングの知識としなかったのは、ノウハウや体で覚えている具体化できない暗黙知の扱い方も含めたいからだ。
これだけ科学が進んだ時代でも「カン」という、言葉で表現しにくい暗黙知、技術者の心眼以外では見ることのできない世界が高分子材料技術には存在する。当方がこの年になっても、光散乱熱伝導樹脂などという科学的には設計が難しい材料を実現できたりするのは、この心眼のおかげである。
また、単なるスリットを通すだけでカオス混合を実現できるプロセシングを考案できたのもこの心眼のおかげである。ただしこの心眼はヤマカンや第六感ではない。言葉では表現できないが心の中で思い描くことができる知識の体系である。
高分子をひもの塊で表現し、高次構造として非晶質相ができ、それがガラスと自由体積部分に分かれる様子は心眼だけで描くことのできるイメージである。高次構造を設計するときに当方はいつもこのイメージを用いる。カオス混合を考案したときも剛直と言われていたPPSの分子と6ナイロンを並べたイメージが描かれそれが狭いスリットを通過したときに働く機能が頭に描かれた。この描かれたイメージをすぐに実行してカオス混合装置を発明した。
カオス混合装置から出てきたPPSと6ナイロンの相溶し透明となった様子をみながら、PPSは柔軟な分子ではなかろうか、という疑問を持った。芳香環とイオウ原子の結合は芳香環と酸素原子との結合のように柔軟で、その結果6ナイロンを非晶質相で相溶できたのでは、などと頭の中で思い描いたりした。
このような心眼による自由な発想は、たとえそれが非科学的であっても高分子材料を考えるときに大切である。それは高分子材料が成形体になるときに多くの場合非平衡状態だからである。逆に学会の研究発表や教科書に書かれた話は平衡状態を仮定している内容が多い。
統計熱力学が進歩したといっても非平衡状態を科学で論じることが難しいため未だに怪しげな材料設計手法が大切になってくる。怪しくても新しい材料を設計でき実用化できればそれは立派な技術である。技術が出来上がってから科学的にそれを考察し公知の科学理論でその技術を表現し、その結果を知識として共有化する仕事のやり方が高分子材料開発では必要になってくる。
この欄でゾルをミセルに用いたラテックス重合技術について数日にわたり書いたが、この技術で科学的に明らかにできたのは、シリカゾルの周りに高分子活性剤が一分子巻き付いている様子だけだった。ラテックス重合時やゼラチンを投入したときの変化などうまく解明できていない。科学で不明点の多い技術だがロバストは高かった。
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高分子材料の力学物性を改良するには、高分子の高次構造に関する知識が重要になってくる。しかし、当方が大学で学んだ高分子の知識は重合反応が中心で、すなわち一次構造の知識が重視され、高次構造については相分離した海島構造を学んだ程度だった。
一次構造から知識を階層化させて高分子を体系として学ぶために一次構造の知識は大切である。ただし、それは一次構造で高次構造をすべて制御できる、という前提が必要だ。ところが高分子加工では、非平衡状態で成形体を製造する場合が大半であり、一次構造で高次構造を制御し材料設計するといった手順で多くの場合に開発できない。
実務では手元にある高分子の高次構造を解析し、この高次構造と高分子成形体の物性との相関を考察し因子を探る、という作業が中心で、この高次構造を変化させる可能性のある因子の一つとして一次構造を考える、という手順である。
1970年代にはすでに用途が決まると高分子のおおよその種類が決まる、すなわち一次構造と用途の概略の関係が分かってきており、高分子材料メーカー(高分子合成メーカー)と高分子加工メーカーとが別々に事業を展開していた。就職したゴム会社では、合成部門が1970年ごろに社内に存在し合成ゴムの開発をやっていたようだが、1970年末にはその合成部門が独立して別会社になっていた。
余談だが、このゴム会社の研究所にはDNAとして基礎科学から事業を起業するという思想が就職したときにも残っており、研究所の業務の進め方は大学同様のスタイルだった。また、高純度SiCの新合成法を当方が開発したときには、このDNAのおかげですぐに2億4千万円の先行投資が決まり、当方の高純度SiCの事業を将来子会社として独立させるシナリオが大歓迎された。
もしこのシナリオどおり進んでいたなら今頃当方は子会社の社長としてパワートランジスタの開発をやっていたかもしれない。当時の鉛筆書きのプレ資料を時々眺めては若い時を思い出し気持ちを奮い立たせている。
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