活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2016.09/02 科学で解けない問題を如何にして解くのか

現代の科学の知識を活用しても解けない問題は、今でも多い。そのような問題を前にして技術者はどのように問題解決をしたらよいのか。これは、11月度の講演テーマだが、少しその内容の一部を書いてみる。
 
iPS細胞を知らない人はいないだろうが、あのノーベル賞が非科学的方法で問題解決されたことを知っている人は少ない。表現は異なるが要約すると、山中博士は意図的に非科学的方法で問題解決したのでその方法をノーベル賞受賞まで黙っていた、と語っている。
 
山中博士が研究に取り組まれた時に、iPS細胞ができそうなことは当時得られていた科学的情報から予測されていた。ただ科学で解明された遺伝子情報が膨大な量のために実験回数は天文学的になる。すなわち、iPS細胞はできそうだが、それを実現するための方法を短時間で見つけよ、と言う問題は科学的に解くには膨大な数の遺伝子情報を検証しなければならず、不可能に近い難問だった。
 
実際にヤマナカファクターを発表した時にどのように見つけたのか権威者から質問があったらしいが、彼は特許の問題があるので答えられない、と応答している。頭のいい研究者である。
 
例えばPPSと6ナイロンを相溶させた材料の実用化技術について退職前に高分子学会賞に推薦されたが審査会でウソだろう、と思われ落選した。あるいは、古い話だが高純度SiCの合成法を日本化学会で発表した時に故S先生に前駆体合成法について聞かれ、正直に試行錯誤で見つけた、と答え、痛い目に合っている。
 
学会と言う場所ではたとえそれが優れた成果であっても、科学的でなければ全否定される。全否定されたが、フローリーハギンズ理論で説明できない複写機の部品は、問題なく10年過ぎた今でも無事使われている。SiCの前駆体については未だに科学的な解析はされていないにもかかわらず、事業は30年以上続いている。
 
iPS細胞もその発見方法は非科学的であったが、応用研究はどんどん進んでおり日本が先端を走っている分野だ。この分野は素人が学会に参加してもなんとなくわかるところが面白い。研究者が応用研究を重視している学会は非科学的でも成果が素晴らしければ柔軟に受け入れる。
 
すなわち、科学で解明されていないか、科学情報があってもそれを活用する時に何らかの障害がある時には、山中先生のように非科学的方法で問題解決する以外に方法は無いのである。ノーベル賞学者ではないので当方の説明では説得力が無いかもしれないが、ゴム会社の指導社員に教えられて以来非科学的方法を実践して多くの問題を解決してきた体験を11月に公開する。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2016.08/20 研究テーマ

研究テーマの設定は難しい。特に企業においては商品開発テーマと同等評価が得られるような研究テーマ企画と言うのは、それなりの実務経験がないと企画できないのではないか。
 
10年後を見据えた基礎研究です、というのは怪しいテーマが多い。しかし30年前はこのような企画を多く見かけた。ゴム会社だけでなく多くの企業でこのような研究企画が多数推進されていたのではないか。
 
高純度SiCの企画も最初提案した時には、怪しい企画が多く推進されていたにもかかわらず、それらの企画以下に扱われた。最初に提案してから3年後に無機材質研究所留学として実現したのだが、昇進試験の答案に書いたところ0点をつけられたので留学が島流しではないかと不安に思ったりした。
 
この企画は30年以上たった今でも事業として継続されているので、企業の研究企画としては優れた企画だと思う。また、この企画の中の小テーマの一つにSiC合成の反応速度論があり、2000万円かけて超高速熱天秤を開発し、生産に寄与する研究成果を出している。そして学位論文にもなっている。
 
しかし、ゴム会社の研究部門では、この企画は全然評価されなかった。評価されなかったどころか、昇進試験に落とされるぐらいのマイナス評価だった。
 
昇進試験に落ちた結果、研究を完成させる機会が得られたのだから、複雑な気持ちだが、とにかく研究部門における研究テーマの評価として低かったことは確かだろう。
 
しかし、無機材質研究所長はじめ留学でお世話になった先生方には、研究テーマとして高い評価を頂いた。当時セラミックスフィーバーの最中で留学希望者が多く、この評価が無ければ無機材質研究所への留学は実現しなかった。
 
ゴム会社の研究部門では散々な評価だったが、ゴム会社の故服部社長には大変褒めていただいた。「なぜ研究部門でこのような企画ができないのか」とまで酒の席で言われた。不思議に思い後日上司に尋ねたら、新事業部門の企画として最初説明されたらしいとのこと。
 
早い話が、当時の研究部門管理職の方々は、この研究テーマに関わりたくなかったと思われる。この研究テーマに関しては30年以上事業が続いている「不思議さ」以外にFD事件も含め奇妙な体験は多い。ただ、若い時の企業に貢献したいという「思い」の強さが成功に結び付いたと思っている。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop

2016.08/19 フィラーの分散

流動性のある物質の中に微粒子が分散している状態をコロイドといい、それが流動性を持っているときにゾル、流動性が無くなるとゲルと呼ぶ。これは化学の世界だけに限らず、日常会話にも登場する。
 
例えば殺虫剤を散布すれば、エアロゾル(エアゾル)という言葉が出てくるし、今は死語となったガンクロが夏の時期には町に現れ、何やらつまみながら「げるってる」などという言葉を発する光景に稀に出会う。
 
コロイドとかゾル、ゲルなどという科学用語は、いまやフツーの日本語になりつつある。だから微粒子の分散技術も簡単に理解できる時代ではあるが、現場の技術者は難しく考えている。これは、教科書にも責任がある。
 
例えば、ゼータ電位の問題。液体の中に微粒子を分散した時にその表面に何らかの電荷が現れ、と説明が始まる。微粒子表面に電荷が現れる現象は、もう日常生活で経験済みである。
 
昔電気粘性流体の開発を担当していた時にゼータ電位の問題はよく議論していた。現象の理解や説明には便利なパラメーターである。しかし、粒子が凝集したり(クラスターを形成したり)、何か不純物が入ってきたりして複雑になってくると途端にこの問題は難しくなる。計測データを見てもマクロ的な現象から説明をし始めたりする始末である。
 
何のためにモデル系を作ってゼータ電位を測定したりしていたのでしょう、と自分で自分の行動を笑ってしまう。コロイド科学を真面目に研究するのは難しい。しかしフィラーの分散を直感的にとらえ理解するのはそれほど難しくない。
 
夏の日のクーラーの効いていない電車の車内を想定して欲しい。乗客が少ない間は、皆距離をおいて乗っている。次第に混雑してきても前からいた乗客は自分の位置を変えて、距離を置こうとする姿を観察できる。混雑していない時に座っている乗客の前に立てば上目づかいで睨まれたりする。感じが悪いのでやはり少し距離を置く。
 
すなわち混具合で電車の中の人の配置がかわるようにコロイドでも濃度によりクラスターのでき方が変わる。このようなことは直感的にわかる。みるからに恋人どおしのカップルは空いている電車の中でも離れようとしない。これは、高分子の中にフィラーを添加した時と似ている。凝集性の強いフィラーは添加量が少なくても分散は難しい。
 
だからカップリング剤でフィラーを前処理する必要が出てくるのだが、恋人どおしを引き離すのが難しいのと同様に、凝集粒子をカップリング剤で処理してもその凝集を完全にとくのは、カップリング剤以外に一工夫が必要である。フィラーの分散の問題は科学で真面目に考える前に直感でまず現象を整理していった方が面白いアイデアが浮かぶ。
 

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2016.07/12 耐熱可塑剤

PPSやPPEなどのエンプラを混練する時に困るのは、混練温度が高いことである。すなわち混練温度が高いことから、これらの樹脂と組み合わせる添加剤に耐熱性という制約が付く。
 
PPSと6ナイロンの配合についてカオス混合を行うときに、PPSの混練温度は低く設定している。どの程度に、というのはノウハウの範囲だが、この技術が高分子学会技術賞に推薦されたとき、説明に困った質問があった。
 
ナイロンが分解して低分子量になり、相容したのだろう、という審査官の決めつけによる質問である。混練温度は低いので分解は起きていない、と回答したら、それではPPSが溶解しないだろう、と質問が返された。
 
低い温度で混練が進行する特殊な技術だと説明したが理解して頂けなかった。サラリーマン最後のチャンスで技術賞を取り損ねたが、残念と言うよりも科学的な現象以外信じて頂けないという状態に頭を抱えた。
 
20世紀は科学が技術を牽引した時代だが、21世紀は技術が非科学的な現象をどんどん実用化し、科学を牽引しなければ、イノベーションは生じない。特に高分子分野は科学的に正しいと信じられている内容にも怪しい部分が存在する学問である。
 
セラミックスも同様で、かつて焼結理論に関して大激論があった。高分子分野にもこの時のような議論がされても良い理論が幾つかあるが、日本の高分子研究者は優しい人ばかりだ。
 
さて、PPSと6ナイロンの相溶は、それを達成しなければ開発が失敗し、その責任を取らされる立場で実現している。退職前だったのでそのような役割が回ってきたのだが、すなおに失敗するのは悔しいからカオス混合を考案した。
 
しかし、その時耐熱可塑材のアイデアも同時に誕生した。PPSに6ナイロンを相溶するとそれぞれのTgが一つとなり、両者のTgの中間に現れる。PPSにとってはTgが下がることになる。その結果、PPSのTgを基準にした耐熱性は低下する。
 
耐熱可塑剤のアイデアは、エンプラの耐熱性を落とさずに混練時の可塑化効果だけを狙った化合物ができないかというコンセプトであり、可塑剤と呼ぶのは正しくないが、適当な言葉が無い。良い名称は見つかっていないが、ようやくコンセプトを実現出来た。ご興味のある方はお問い合わせください。
    

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.07/08 熱伝導樹脂

一般に高分子材料は導電性や熱伝導性がわるい。ゆえに樹脂の導電性の改良には、カーボンなどの導電性フィラーを添加し、熱伝導性の改良にはダイヤモンドやBNなどの熱伝導性フィラーを添加する。
 
このような高分子材料へフィラーを添加する物性改良方法では、パーコレーション転移が観察される。面白いのは導電性の改良時に現れるパーコレーション転移の挙動と熱伝導性材料で観察される挙動が異なることだ。
 
熱伝導性材料で観察されるパーコレーション転移の挙動は、弾性率の変化で観察されるそれと近い。理由を知りたい方は弊社へ問い合わせていただきたいが、古典的には、複合材料の教科書には、混合則として十把一絡げで説明されている。
 
また、少し手の込んだ方法としてMaxwell-Euckenの理論式やNielsenの理論式が知られている。しかし、高分子材料にフィラーを添加したときには、クラスター生成を確率的に捉えるスタウファーらによるパーコレーションの考え方で、統一的に理解可能である。
 
面白いのは、導電性材料で観察される不安定さでは、パーコレーションという現象を直感的に理解していただけるが、熱伝導や弾性率の問題では、ぴんとこない人が多い。
 
この理由は、例えばフィラーの熱伝導性が大きく変化しているのに、添加量と複合材料の熱伝導率の関係が一つの曲線上にプロットされたり、アスペクト比の効果が導電性ほど顕著に現れなかったりと導電性材料とは少し異なった挙動となるからだ。
 
現象を科学的に正しく理解できないと材料開発を進めることができないので、年に2-3件はこの関連の質問がある。科学的にはフィラーの分散をパーコレーションで説明でき、パーコレーションによる考察が可能となれば、あとは技術で改良するだけである。
 
ただし、科学的な美しいデータが得られないこともある。科学と技術の違いを理解できておれば難しい問題ではないのだが。また、熱伝導性フィラーとしてダイヤモンドが要求される場面は少なく、シリカやアルミナ程度でフィラーとして十分目的を達成できる場合が多い。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2016.07/07 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(16)

配合設計を組み立てる段階では、タグチメソッド以外の統計手法で開発を進めてもよい。例えばドリップ防止に用いられるフッ素樹脂の組み合わせ効果については、一因子実験による分散分析で有意性を示すことができる。
 
また、メラミンイソシアヌレートや硫酸メラミン、リン酸メラミンなどのメラミン系の添加剤にも他の難燃剤との組み合わせについて交互効果が存在する。こうした組み合わせ効果を見つけるには、タグチメソッドを使用するよりも多変量解析や実験計画法で探索した方が効率的である。
 
システムが決まっていない段階で、タグチメソッドは、SN比を求めるための実験数が多くなり探索に時間がかかる。ポリマーアロイの難燃化を検討するときに、評価技術の知識以外に開発手法の特徴を理解して、効率的にロバストの高い技術開発を指向するとよい。
 
複雑な交互効果を用いた事例として、ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の併用システムを開発した。ホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせは公知となっているが、うまく計画を組んで実験すると、このシステムを最適化でき、その交互効果が顕著に表れる場合がある。そしてイントメッセント系の高価なリン酸エステルを用いなくても低コストなシステムを組むことも可能となる。
 
また、PC/ABSのような相分離系ポリマーアロイでは、難燃剤がどの相に分散しやすいのかという問題もある。このような問題では、OCTAを活用でき、シミュレーションでリン酸エステル系難燃剤の分散をある程度予測することが可能である。
 
ちなみにホスファゼンとリン酸エステル系難燃剤の組み合わせシステムについて、シミュレーションで見いだしたリン酸エステルを用いてタグチメソッドによる最適化を行い、すべての樹脂材料がリサイクル材である難燃性PC/ABSの開発に成功した。
 
この時、基本機能にLOIを用いて、信号因子として組み合わせ難燃剤の添加率を3水準、誤差としてLOI評価に用いるサンプルの厚みをとってタグチメソッドを行っている。その結果、ホスファゼンと特定のリン酸エステルとの組み合わせでSN比3dBの改善効果を見いだした。 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.07/06 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(15)

あらかじめ難燃化システムが決まっている場合には、材料評価技術として難燃規格だけを用いてそれに適合するよう開発を進めることも可能である。
 
すでに説明したように、この場合にはタグチメソッドが便利で、基本機能のパラメータとして燃焼時間や燃焼速度、あるいはLOIを利用できる。
 
 例えば電子機器の外装材として需要が伸びているPC系のポリマーアロイでは、UL94-V0規格の燃焼時間を基本機能として採用しタグチメソッドで開発を進めることができる。この時サンプル試験片の厚みや事前のエージング処理などは外側因子として配置し実験する。
 
 ただし、すでに難燃化システムが決まっている場合には、外側因子として難燃剤の添加率を信号因子に採り実験を組んだほうが好ましい。また、この時の基本機能には、難燃剤の添加率に対して線形性が高いLOIを使用した方が良い。
 
故田口先生は、タグチメソッドは「手法」であり難燃化システムや基本機能の選択は技術者の責任である、と言われていたが、システムとして古典的な三酸化アンチモンとハロゲンの組み合わせを採用するのか、ノンハロゲン系を指向してイントメッセント系の難燃剤を使うのか、新たな難燃化システムを組み立てるのか、あるいは基本機能として何を選ぶのかなどは、まさに技術者の責任である。
 
ところで、ポリマーアロイの難燃化システムについては多数の特許が存在しており、特許回避策も技術開発を進める上で重要である。幸いにもPC/ABSでは主要な難燃化手法が公知技術となっている。ゆえに特許回避策として公知技術の組み合わせを選択することが可能である。
 
公知技術の組み合わせでも驚くべき事実が出れば、それは発明となる。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.07/05 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(14)

このシリーズ(13)で行った考察により、燃焼時の熱でガラス(無機高分子)を生成してリンを燃焼している系内に固定化して、その触媒作用によりチャー生成を効果的に促進する難燃化システムを配合設計した。
 
ジエタノールアミンとホウ酸とを反応させて、ホウ酸エステルオリゴマーを合成し、リン酸エステル系難燃剤であるTCPPと組み合わせ軟質ポリウレタン発泡体に配合したところ、驚くべきことにTCPPを用いてもリンの含有率に対するLOI増加率はDAPPと同程度に高くなった。
 
このホウ酸エステルオリゴマーを他のリン酸エステル系難燃剤と組み合わせても同様の効果が得られるのかどうかを40種以上の配合系についてLOI法で調べた。そして実験で得られた多数のデータを多変量解析で処理した。
 
ホウ酸エステルオリゴマーだけを軟質ポリウレタン発泡体に添加しても、LOIの変化はわずかであり難燃効果が認められなかったが、驚くべきことに、ホウ素原子の標準偏回帰係数がリン原子との交互作用の影響で高くなっていた。
  
重回帰式 LOI=2.95×(P含有率)+15.17×(B含有率)+0.14×(Cl含有率)+18.3
標準偏回帰係数 P含有率:0.65  B含有率:0.40  Cl含有率:0.11
重回帰係数   0.84
  
 さらにTGAの測定データでは、600℃における残渣が多くなる傾向が観察され、その残渣を化学分析したところ、ホウ酸エステルオリゴマーとリン酸エステル系難燃剤が反応して生成したと思われるボロンホスフェートが配合量に相当する含有率で確認された。
 
 ホスファゼンを用いた難燃化システムで見出された、燃焼時にリンをその系内に固定するとリンの難燃効果を高めることができる、という経験仮説に基づき、燃焼時の熱で無機高分子を生成しリンを系内に固定化する難燃化システムを考案することができた。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.07/03 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(13)

TGAの測定結果を見ると、測定雰囲気の違い(空気中と窒素中)で熱分解の様子が異なり、600℃における残渣が空気中で測定したときに窒素中よりも増えているというデータが得られている。
 
窒素中の測定では、単なる熱分解過程の情報となるが、空気中で測定した場合には酸化分解の情報も含まれてくる。実際の火災では、空気中における熱分解となるので空気中におけるTGA測定が行われるが、酸欠状態でも燃焼が進行するので、空気中だけでなく窒素中のデータと比較して考察する必要がある。
 
このTGAのデータでは300℃あたりから600℃までの領域で難燃剤の働きにより、チャーを生成しながら熱分解していることを読み取ることができる。また、有機物の分解が終了した600℃の残渣量を比較することにより、難燃剤の働きによるチャー生成の効果を評価できる。この考察のためにLOIと600℃における残渣量との関係をグラフでまとめている。
 
 空気中で計測されたこの結果について考察すると、TCPPではLOIが増加していてもチャーの生成量が変化していない。また、DAPPはFyrol-6と同様にチャー生成量がLOIと相関しているが、Fyrol-6よりもLOIとの相関が高い。この考察から、炭化促進型難燃剤でも2タイプ存在することが示唆される。
 
さらに600℃におけるそれぞれの残渣について化学分析してみると、DAPPでは、配合した量に相当するリンの90%近くが残っている。しかし、Fyrol-6やTCPPでは、同様の分析で大半のリンが揮発していたことが示された。
 
 詳細を省略するが、この難燃剤の揮発と以前説明した煤発生量とは関係があり、煤がポリウレタンから生成された炭化物である点に着目すると、ホスファゼンは燃焼時に煤を発生せず効果的にチャーを形成する機構で炭化促進している。これは高分子の難燃化技術を開発するときに重要なヒントとなる。
 
 以上の評価技術を駆使した考察から、炭化促進型難燃化システムでは、燃焼時にリンが揮発しないように燃焼時の系内に固定するシステムが理想的な難燃剤ではなかろうか、という経験仮説が思い浮かぶ。また、オルソリン酸の沸点が240℃前後にあることや、TGAにおける重量減少速度がこの温度領域で早くなることから、燃焼時にリンを固定化するアイデアは有効と思われる。また、この経験仮説をホスファゼン以外の難燃剤で確認できれば、新たな難燃化システムの開発につながる。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2016.07/02 配合設計(たとえば難燃性樹脂)(12)

 DAPPについては、トリレンジイソシアネート(TDI)と反応させてプレポリマーを合成し、マトリックスの主鎖に難燃剤成分を組み込んだ(反応型)システムと粉末の形態で難燃剤をマトリックスに分散した(添加型)システムの両者について検討している。
 
DAPPを添加型とプレポリマーすなわち反応型で添加した処方で両者の違いを観察した。添加型では、反応型と比較してLOIが低くなるという実験結果が出た。
 
これから、難燃剤の分散状態がLOIに影響することがわかる。また、DAPPをプレポリマーの形態で添加した試料で最も難燃効果が高くなっているが、DAPPは他の難燃剤に比較して単位量あたりのリン含有率が高い。
 
リンの含有率で難燃性能を比較したところ、DAPPの難燃効果が他の難燃剤の効果よりもわずかに高くなっている。
 
ただし、LOIが21を越えるあたりから同じ反応型であるFyrol-6との差は無くなっている。ちなみに、Fyrol-6は両末端にTDIと反応する水酸基を持った化合物で反応型難燃剤として機能している。
 
これをTCPPと比較することにより、添加型難燃剤よりも反応型難燃剤の方が効果的に難燃性の機能を発揮している現象を捉えることができる。
 
すなわち、難燃剤は、添加型よりも反応型難燃剤のほうが効率よく機能し、リン酸エステル系難燃剤よりもホスファゼン系難燃剤のほうが高い難燃効果を有している。

カテゴリー : 高分子

pagetop