機能性材料を設計するには、セラミックスや金属であれば、その機能を持った結晶構造を選択するところから始まる。例えば、ペロブスカイトは高誘電体あるいは圧電体などの性質を持った化合物群で、各種機能材料を設計するときに利用されている。
このような構造と機能との関係を備えた材料について、金属やセラミックスの教科書を見ると、強相関物質という言葉が使われている。例えば銅のような導電体では、その結晶構造を構成する原子の原子間距離が変化したとき、それに相関して導電性が変化する現象が観察されており、ここから強相関物質という概念が生まれている。
この材料の構成因子と機能が相関するという概念は、機能性高分子材料を取り扱うときにも重要で、2000年前後に強相関ソフトマテリアルという言葉が生まれている。ゆえに機能性高分子材料の開発では、目標とする機能と相関する因子を材料に創り込む考え方で設計を行う。
例えば、導電性材料を高分子の一次構造で実現したいならば、ポリアセチレンやポリアニリンにドーパントを組み合わせた設計になる。高次構造で実現したいならば、絶縁性の樹脂に導電性フィラーを添加するシステムを選択して材料設計を行う。
前者ではロバストの高い導電性を容易に実現出来るが、後者では導電性フィラーの分散状態で引き起こされるパーコレーション転移という悩ましい問題がつきまとう。しかし、大半の高分子は絶縁体なので、後者をうまく使いこなす技術は重要である。
ところで、機能性高分子材料を電子部品に適用するときには、電気的機能以外に難燃性という機能も多くの分野で必要となる。
燃えやすい高分子材料を燃えにくくするためには、難燃性のフィラーもしくは難燃剤を添加しなければいけないが、材料の難燃性機能と難燃剤あるいは難燃フィラー添加量との間にも相関性が現れる。
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フィルムを抵抗とコンデンサーのモデルで置き換え数値解析したところ、インピーダンスの周波数依存性のデータで低周波数領域で観察される異常分散には、モデルのコンデンサー成分が関係していることを理解できた。
実際に得られているデータから推測される抵抗とコンデンサーの値を入れて考察すると、コンデンサー成分が少なくなってゆく現象として低周波数領域のインピーダンスの絶対値の異常分散を説明できた。
ただし、20Hzのインピーダンスの絶対値が大きくなってゆくと灰付着距離が短くなってゆく現象について感覚的に理解できなかった。インピーダンスは交流の抵抗成分である。抵抗が大きくなってゆくと、帯電防止能力が上がってゆく、という矛盾を奇妙に感じた。
しかし、交流は直流と異なり、その抵抗成分にコンデンサーが含まれる。すなわち直流の抵抗成分とは数式の表現が異なるのである。直流でコンデンサーは絶縁体として測定されるので、抵抗成分として評価することはできないが、交流では、抵抗とコンデンサーを含む回路でインピーダンスとして評価される。
交流の抵抗成分の一つコンデンサーが少なくなるということは、直流の抵抗成分が多くなる、ということを表しており、このように解釈すると現象を矛盾なく理解できる。
すなわち、フィルムの帯電において帯電後の放電は直流的に放電するのではなく、低周波数の交流として放電している可能性がある。こうしてインピーダンスの絶対値について、数値解析で考察し得られたデータの解釈ができたのだが、ふと新入社員時代を思い出した。
指導社員は、レオロジーに秀でた人で電卓を用いて粘弾性モデルを解いていた。そのときの粘弾性モデルは、抵抗とコンデンサーのモデルとよく似た、ばねとダッシュポットのモデルだった。ゴム物性について粘弾性モデルを組み立て、それを電卓で計算し、粘弾性のシミュレーションを行い材料設計を行うスタイルは、まさに科学的技法そのものだった。指導社員は、10年後にはこの技法は使われなくなると説明していた。
実際に今時粘弾性モデルで材料設計を行っている人を見たことがない。今やOCTAを使う時代である。しかし電気物性に関しては、抵抗とコンデンサーのモデルが使われている。インピーダンスアナライザーでは、キャパシタンスの計測にモデルを設定しなければいけない。
手元に1999年に書かれた粘弾性材料力学入門というコピーがある。ある雑誌を読んでいたときにあまりにも時代を感じた内容だったのでコピーしたのだが、おそらく粘弾性材料力学という分野は、交流回路論のアナロジーとして発展した学問だろう。
学問だけが科学として発展し、気がついたら現実の高分子粘弾性体と異なる世界が築かれたのだが、1999年でもこの論文を入門書として書いていた学者はシーラカンスそのものと思われる。そのような視点で読むと面白い。
最も面白いのは、ナイロン6を事例に出して、今後データを集めてゆきたい、と述べている点である。プロセスにより高次構造が変化すれば、粘弾性データは影響を受けることが20年以上前から知られている。この論文が書かれた頃、分子一本のレオロジーが議論され始めた頃でもある。
この面白さは,20世紀は科学の時代であったが、その科学とはどのようなものなのかを表している点にある。この論文に書かれている内容は科学として正しいから学会誌に掲載されていたのだろう。
技術は人間の営みとして進歩するので、このような科学に対してはどうしても厳しい見方になる。モノ創りの時代と言われて久しいが、科学でモノ創りができない、と言われる由縁である。ご興味のある方はお問い合わせください。
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水曜日書いたように、評価技術は計測されるパラメーターと実技テストの結果との相関を調べ試行錯誤で創り上げた。100Hz以下のある値におけるインピーダンスの絶対値が灰付着距離と相関する、ということが分かったので、モデルを使ってその科学的意味を探ってみた。
これは電気化学がご専門である福井大学青木教授のご指導を受けながら数値解析で試みた。フィルムをコンデンサーと抵抗を組み合わせたモデルに置き換え、そのモデルについて計算式を組み立てる。そして、実際に計測されたインピーダンスの周波数依存性データとの比較を行い、得られている計算式の理解が正しいか考察を進めた。
これは電極反応を考察するときに行われる手法だそうであるが、やってみると難解だが面白い。計算式の整理は形式微分なので頭を使う必要はない。式を整理して得られた関係式でシミュレーションを行ったところ、実験データをうまく説明できた。
すなわちフィルムを置き換えた抵抗とコンデンサーのモデルが適切である可能性が高いのである。自然現象を数式で表現できたので、数式のどの項がどのように現象に影響を与えているのか考察すると、自然現象の理解が進む。
いわゆるこれは科学の研究である。科学の研究は慣れてしまえば形式的な作業となるので易しい。本来誰でも科学の研究はできるのである。ただ、慣れるまでが大変で、これは水泳や楽器の演奏など趣味の世界と一緒である。
自然を科学で楽しめるようになるためには、流行歌を楽器で自由自在に演奏して楽しめるようになるまでと一緒で練習が必要である。小学校に入ってから大学院を卒業するまで18年間科学を練習してきた。
器用ですね、とは青木先生のお褒めの言葉であった。式を変換しシミュレーション結果を導いた小生をこのようにほめてくださる先生も科学というものをよく理解されている。習うより慣れろ、である。
だから今時のように簡単にコピペで論文を書いてしまうと慣れることができない。他人の論文を拝借するときでも昔は、手でアルファベットを一文字一文字拾ったのである。
外人の書いた論文の表現を拝借しながら、自分で書きなれた表現を優先して論文を書くから、他人の論文をちゃっかり真似ても自分の論文になっていた(注)。世の中便利になって、真似ることが不正になってしまった。
昔は真似ることにより科学という哲学を身に着けていったのである。だから英語の論文を真似ることは不正ではなかった。学習だったのである。ただ、今の人真似は、単なる転載であり、昔の真似る作業とは異なると思う。
(注)実名を出すと問題になるので出さないが、ゴム会社で学位論文をまとめていたときに、お世話になっていた大学で、博士論文の何冊かを見本として読んでいた。すると過去に読んだ論文とそっくりの学位論文があった。用いている化合物が異なるだけである。科学における論理の展開は、真実であれば、どれもこれも一緒になる。当時はそのように納得していたが。小生の論文は、すべてが世界初の材料について書いたので、まとめるのに苦労している。
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無機材料のTmは、その結晶の融点である。だから無機材料ではTc(max)=Tmとなる。ところが高分子では、この関係が崩れるだけでなくDSCで測定した時のTmは、時としてブロードな吸熱ピークとなったりする。
これは20世紀の高分子科学の研究テーマとなっていた。そして結晶性の悪いPETについてTm+Tg=2Tc(max)なる関係式まで提案されている。この関係がどのような意味を持つのか知らないが、高分子のTmがTgやTcにすなわちガラス相や結晶相の影響を受けている、という解釈は重要である。
天然高分子以外は皆分子量を持つ多分散系が高分子の一つの特徴だが、分子量の異なる多成分の混合物である、という認識は、DSCでTmがブロードニングを起こす現象の説明となる。
また、Tmにおける明確な吸熱ピークは、サンプルに存在した結晶相への帰属が可能で、これはサンプルの同定のための重要な情報となる。すなわち高分子のTmも無機材料と同じで結晶の溶融温度であるが、各原子がひも状につながれているためにTcとのずれを引き起こしている。
そしてプロセシングの視点で見た場合に、束縛はされるが原子の部分的な運動が可能となるTgも溶融温度の一つ、という見方が重要だと思っている。これは教科書には書かれていないが、いろいろ高分子材料について考えるときの当方のノウハウの一つでもある。
例えば、高分子の相溶は、非晶質相だけで生じる現象である。結晶相で相溶現象は見つかっていない。面白いのはχの大きな高分子の組み合わせでカオス混合を用いて相溶させた時にTg以下に冷却すると相溶状態で安定化するのだ。
おそらく準安定状態だろうと思うが、PPSと6ナイロンをそのようにして相溶させたペレットを用いて押出成形を行っても両者が相溶したフィルムが得られる。成形過程でTm以上に加熱されるが、相溶したまま流動している。
この融体をゆっくり冷却するとPPSと6ナイロンはスピノーダル分解を起こし相分離する。PPSは結晶化し金属音のする物質に変化する。しかし、急冷した場合には相溶した状態のPPSが得られる。
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この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。
1.混練の経験知を伝承する講演会
(1)日時 5月19日 10時30分-16時まで
(2)場所:江東区産業会館 第1会議室
(3)参加費:49,980円(税込)
(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522
2.その他シランカップリング剤に関する講演会や7月にも上記1の講演会を予定しております。日時等弊社へお問い合わせください。
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TgからTmの温度領域でも混練が可能ということからTg以上で高分子は流動性を有することがわかる。ただし結晶はTm以上に上げなければ溶融しない場合もある。ここで溶融しない場合もある、と書いたのは、Tm以下で結晶が溶融する場合もあるからだ。
さすがにここまで書くと眉唾でこの欄を読まれる方が多いと思うが、ゴム会社で樹脂補強ゴムの研究開発を行ったときに見つけた現象である。配合や混練条件が重なると溶融しないはずの低い温度で樹脂がロール混錬で溶融する。
実際に扱った系はTPEとNRなどのポリマーブレンドだが、ある配合で本来溶融しないはずの結晶が溶融し、加硫ゴムにしたときに樹脂成分が海となったきれいな海島構造の樹脂補強ゴムを製造することができた。
また10年前の例ではPPSと6ナイロンを混錬する温度についてPPSのTmより低い温度で混錬に成功している。これは一発勝負で混練条件を決めたときの経験談だが、トルクオーバーが二度ほど起きた。しかし、ポリエチレンとパルプの混練で成功体験があったのでチャレンジし続けたら、急激にトルクが下がる条件がTm未満で見つかった。
この混錬温度で大切なことは多成分配合系においてTm以上と以下でコンパウンドの物性が大きく変わる現象が観察されることである。そしてその現象を見ると、Tm以下でも高分子は流動して混錬されていることが理解できる。
このようなプロセシングにおける現象は、無機材料ではどうなのか。Tmと原子の拡散が関係しており、無機の結晶よりも低い温度で焼結を行うためには、低温度で液相を形成できるような助剤を添加しなければいけない。
しかし低温度液相ができると異常粒成長が起きる問題があり、助剤設計が焼結の配合技術として重要になってくる。高分子の世界と異なり、かなり昔から結晶のTmより低い温度で形成される液晶相が議論されてきた。このように無機材料のプロセシング技術においてもTm以下の溶融現象は活用されている。
(注)
本日の内容は大サービスである。さらに詳細を知りたい方はお問い合わせください。
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プロセシングにおいてもTmとTgに対する誤解がある。樹脂の混練はTm以上で行われることが多いが、Tm以下の温度領域でも混練は可能である。
しかし、なぜか樹脂の混練を長くやってきた人にこの話をすると笑われる。Tm以下であると分子の断裂が起きるので好ましくないと言うのである。
カオス混合のプレをある賞の審査会で行ったときにも笑われて受賞を逃がした。審査員はゴムがTm以下の温度でロール混錬されている事例を知らなかったらしい。
ゴムの混練をTm以上で行うこともあるが、ロール混錬ではTm以下で行うケースが多い。古紙とフィルムの樹脂缶廃材を活用してパルプ樹脂複合材料を開発した時に古紙が熱分解して発生するアルデヒド類の対策で苦しんだ。
このとき樹脂のTmより低い温度でロール混錬して古紙を分散したところ無臭でポリスチレン並みの力学物性を持ったパルプ樹脂複合材料を製造することができた。Tmより低い温度でも樹脂の混練は可能である。
10年以上前にTm以下で樹脂を混錬する特許が某大学の元教授により出願されている。この先生もゴムのロール混錬技術をご存じなかったようだ。さすがにそのままのクレームで特許は成立せず、樹脂の配合を特定して特許が成立している。
すなわちTgからTmの温度領域で高分子材料を混錬する技術は公知なのだ。実は、Tm以下で高分子材料を混錬するとTm以上の温度領域で混錬するよりも樹脂のある物性の面で良い場合がある。このようなノウハウが樹脂技術者に常識ではないようだ。
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面白いのはDSCでTgが観察されない場合が出てきても、TMAでは、Tgを変曲点として観察することが可能である。
DSCでは高分子材料のエンタルピー変化で構造の情報を得ようとしているが、TMAでは高分子材料の体積変化から構造の情報を探るので、高分子鎖の分子運動の情報がそのまま検出され、DSCで測定できなかったガラス相の検出を可能としている。
TMAについては針入モードの場合がJIS化されているだけでその他の測定モードについては標準化されていない。ゆえにデータを見るときに注意が必要である。ちなみに測定荷重によってもチャートに現れるカーブが変化する。
TMAは、標準化が進んでいるDSCよりも普及していないが、材料の耐熱性という実用面の情報が得られるメリットがあるので、そろえておきたい分析機器である。すなわち、実務上重要である寸法変化の挙動を直接計測可能なので、DSCよりも実用に即してマクロな測定法を工夫でき、便利な装置である。
高分子の融点の話であるが、TgのことをDSCやTMAなど分析機器を持ち出し説明しているのには理由がある。
そもそもガラスとは、過冷却液体のことで、液体状態から非平衡プロセスで冷却した時に結晶化温度Tcで結晶化できず、そのまま冷却され液体のまま分子運動性を失い固体になった物質のことである。
分子運動性を失い固体となる温度がTgであり、その温度で力学物性が変化するため実用上融点Tmよりも重要な温度という技術者もいる。また、プロセシングの設計を行う場合には、このTgをどのように認識するかで設計方針が変わる。
しかしおもしろいことに、このTgがあまり問題にされていない材料も存在する。例えば買い物袋のポリエチレンのTgは-125℃であり、Tgよりもはるかに高い温度の力学的用途で使用されている。
高分子材料を機械的用途に扱う時に、耐久性の上限温度をTgの温度にワンパターンで設定する技術者がいるが、高分子材料を使いこなす視点でこれは時として「もったいない」考え方となる。
工夫すれば耐久性の上限温度をTgとTmの間に設定できる場合がある。特殊な用途では、Tm以上で高分子の分解温度近辺まで耐熱性を設定できる場合もある。評価技術を駆使して高分子の限界性能ぎりぎりまで機能を絞り出す技術開発も高分子技術の醍醐味である。
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Tg以下でも高分子鎖が運動しながら凍結されてガラス状態になる可能性、あるいは疎な部分のパッキングが進み密度が上がる可能性は、クリープやアニール(注)のメカニズムを考えるときに重要で、漫画的でもよいから頭に描けるようにしていると便利である。
例えば、結晶性高分子ならば結晶の量をDSCからおおよそ知ることが可能である。結晶の量がわかれば残りは非晶領域の量となる。
結晶の量を同一にした樹脂の比重を測定してみると、5%前後から多い時には10%前後さらには20%もばらつくことがありビックリする。これは、非晶領域の自由体積部分がばらつくためであり、ガラス相の量もばらついている。
ガラス相がほとんど存在しない場合も樹脂の熱履歴によりできる場合があり、それでDSCを測定した場合にTgがあらわれないことになる。
このように理解するとDSCのTgの現れ方が、Tcのようなピークとして観察されず、比熱の変化すなわちベースラインの変化としてどのような量がチャートに描かれているのか理解できる。また、この変化量であるエンタルピーが自由体積部分とかかわっていることも納得がゆく。
(注)高分子成形体のクリープしやすさをアニールにより改良することが可能である。過去に成功した体験として、PENフィルムの巻き癖を解消した技術がある。PENフィルムを鉛筆に何重もまき付け、1ケ月放置しておくと巻き癖がつく。この巻き癖の付き易さはPENフィルムの熱履歴により変化する。特にTg近辺での熱履歴には大きく影響を受ける。ゆえにTg近辺で熱処理(アニール)を行うと巻き癖を付きにくく出来る。これはフィルム会社2社からそれぞれ異なるアニール条件の発明として特許が出願され成立している。今や過去の話になったが、PENフィルムはAPS(アドバンスドフォトシステム)フィルムの支持体として使用された。この用途のために最初出願されていたのが通常のTg以下でアニールする方法である。Tg以下でアニールすれば、パッキングが進んでいない自由体積部分が変化し、巻き癖が付きにくくなる。こんなことが特許になった時代がある。Tg以下でアニールするのはあまりにも常識的で面白くないと思い、Tg以上でアニールする技術を開発し、特許出願した。フィルム成形をされた経験のある方ならばその非常識さが分かっておられると思う。Tg以上の温度でフィルムをアニールすることはできない、とまで言う部下がいた。当方は転職者でフィルム成形の経験が無かったので気楽にやってみなければわからんだろう、とトライしたら簡単にできた。しかもフィルムの巻き癖が付かないようにするためのTg以下のアニールが4日以上必要なのに対してたった数分で大丈夫だったのだ。さらに短時間で出来るのでは、と思い、いきなりラインで実験したら、できた。技術は自然界から機能を取り出すことが出来ればなんでもありの世界である。
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組紐実験で天井に放り投げ、出来るだけばらばらになるように床に落としてみると、高分子の自由体積ばかりで構成された状態を創り出すことが出来る。すなわちこれは全くガラス相の存在しない非晶状態である。
実は高分子にガラス転移点がいつも存在する、というのは間違っている可能性がある。ガラス転移点が存在しない高分子材料ができる場合も希にあるのだ。
DSCで高分子材料の測定を行うと、希にTg(ガラス転移点)が現れないことがある。すなわちTc(結晶化温度)とTm(融点)だけのチャート、あるいはTmだけのチャートが得られる場合がある。
Tcが現れない場合は、新たにサンプルを取り替えて測定しても現れないので繰り返し再現性があり、気持ち悪くないが、Tgが現れない場合に、試料を交換して測定し直すとTgが現れ納得する。
このようにTgが現れない現象は再現性が乏しい。ゆえに何らかの測定のミスで科学的な事実ではないと解釈されているようで、高分子にTgが現れる、ということは当然の現象のように教科書には書かれている。
一度樹脂のペレットの一粒一粒の密度を測定し、密度の最も低いペレットについて、ニッパーで粉砕し、得られた試料でDSCを測定したところ再現良くTgの現れないチャートが得られた。
この試料でDSCを測定しているときにTgが現れるであろう手前の温度で昇温を10分ほどホールドし、測定を再開したところきれいなTgの変曲点が観察された。
これらの実験結果は、固体状態で、ある程度高分子鎖が動くことが可能な自由体積部分の存在を示しており、Tgより低い温度でもぴこぴこと動いている間に、少し動きにくい部分が近寄ってきて運動性が凍結されガラス状態へ変化していくように思いたくなる現象だ。
このストーリーは心眼で見た勝手な妄想だるが、間違いないだろうと思う。妄想癖は忌み嫌われたりするが、高分子については妄想が新たなアイデアを生み出したり、科学的に未解明な現象で引き起こされる品質問題の解決を容易にする。
また、高分子物理がまだ発展段階なので技術者はこのような妄想をできるようにしなければ目の前の品質問題を解決できる新しいアイデアを生み出すことができない。頭の中をいつでも思春期のように若々しくする努力が高分子の問題解決に有効である。形式知だけで高分子を眺めていても新たな技術は生まれない。
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