混錬は伸長流動と剪断流動で進むと新入社員の時に教えて頂いた。さらに究極の混練方式として伸長流動と剪断流動が組み合わされたカオス混合を教えていただいた。
ただ当時は誰も見たことがなく幻の技術だと、半分からかわれているような話だった。しかし指導社員からロール混練で起きているらしいとか、当方ならばその技術を創ることができるとかおだてられ、気がついたら30年近く経っていた。
カオス混合装置の第一世代は、PPSとナイロンを相溶させる装置として試行錯誤で創りだした。退職後も検討を続け、現在第三世代を検討中である。第二世代までは実用化に成功している。第三世代は開発に少し資金が必要なのである混練メーカーと交渉中である。
カオス混合は急速な伸長流動と効率の良い剪断流動が組み合わさって進行する。有名なのは京都大学でシミュレーションされた偏心二重円筒で発生するカオス混合だ。当方の第一世代と第二世代の方式は単純なスリット方式で二軸混練機の吐出口に取り付けて使う。
パッシブな装置だが混練効果は高く、PPSと6ナイロンの混合物がこの装置を通過すると科学では説明がつかない現象が生じる。すなわち相溶現象が起きるのだ。フローリーハギンズ理論ではχが正となる二相系は相溶しないことになっているが、単一相になる。スタップ細胞と異なるのは、再現良くその現象が観察されるだけでなく、すでに商品として使われ10年近く経っている現実の世界の話であることだ。
昨年高分子学会から招待を受け一時間ほど講演したが、講演の内容は若い技術者に評判が良かった。経験知と暗黙知を中心に講演を行ったからだと思っている。
一部最近の研究例で形式知も紹介したが、ほんの3分程度で、この講演はほとんど体験談のようになっていた。
講演会場では学会という性格上PRを控えたが、問い合わせは数件あった。しかし昨年は自分で販売するところまで考えていなかったのでせっかくのビジネスチャンスをつぶしたが、製作と販売を協力してくださる会社が現れたので今年からその会社で積極的に売り出すことにした。ご興味のある方は、まず、弊社へお問い合わせください。
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フォルクスワーゲンのディーゼル車で起きた問題は、北米市場で売り上げを伸ばしたかったからという説明が一部の記事に書かれていた。しかしそれだけのためにしては、世界中の市場を失う恐れのあるリスクの大きい戦術だった。経営者がまともに判断していたなら、企業としてそのような戦術をとらなかっただろう。また、不正が10年も放置されていた状況も理解できない。
この不思議な事件についてはやがて解明され、ノンフィクションの読み物も出版されるかもしれないが、当方の経験から担当者及び組織リーダー、特に研究開発部隊のリーダーの技術者魂を疑う。責任は経営陣が負うことになるのだろうが、フォルクスワーゲンの技術者たちは不正を10年も放置しなければいけなかった無力さの罪をどのように償うのか。
許されることではないが、仮に一時不正に手を染める戦術が開発戦略上必要だったとしても、不正の状態を速やかに回復する戦術を打てる様な戦略を立てておくのが研究開発リーダーの使命である。コンプライアンスが重視される現代の経営において不正は絶対に許されないが、例えば新製品の展示会などで張りぼての新製品がおいてあるのを稀に見かけるように、開発が間に合わない時の「インチキ」を、やってはいけないと解っていてもちゃっかりやってしまう技術者はいる。
不正の例ではないが、中間転写ベルトの開発を前任者から引き継いだ時にとった戦略で、商品に絶対登載できないと解っている技術をわざわざ開発した。商品にはできないが外部のコンパウンダーでは実現できない機能を容易に達成できることを示す技術を開発することにより、外部からコンパウンドを購入して開発を進めるという方針を変更し、コンパウンド工場建設の投資を引き出すというゴールをめざす戦略で、納期通り開発を成功させるためには必要な戦術の一つだった。
ところがこれは、商品化ステージの開発であるにもかかわらず、商品化できないことを技術者だけが知っている、という点で周囲を欺くような戦術である。本来このような戦術をとりたくなかったが、前任者の開発方針と計画を一度リセットするためには、どうしても必要な戦術だった。研究開発を成功に導くために、時として不誠実な業務を遂行しなければならない場面は技術開発競争の激しい業界では少なからず現れる。そこで誠実な道を選び失敗するのか、不誠実ではあるが成功の道を選ぶのかは技術者の究極の選択となる。
もし完璧な成功の道が見えているのならば、不誠実とわかっている戦略でもチャレンジしなければ、大企業では研究開発を成功させることができない時がある。大企業ではコミュニケーションによりコンセンサスを得るための手続きが煩雑なため、短期決戦における戦略ではこのようなことが起きやすい。
中間転写ベルトの開発では、カオス混合技術という科学では説明できない(それゆえまともに周囲へ説明できない)新技術の成功により、期限内に部品開発を終えることができ、経営陣に迷惑をかけなかったが、トリッキーな混練技術開発に失敗していたら、フォルクスワーゲンの事件ほどではないにしても、大変なことになっていた。しかし、事前に弊社の研究開発必勝法で戦略と戦術を立案していたので、必ず成功できる道が見えており、それゆえ不誠実と思われるような仕事も堂々と遂行し非科学の技術に対する支持を周囲から得ることができた。
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高分子やセラミックスの材料技術は、その使われる分野によっては形式知よりも実践知や暗黙知の占める割合が多くなる技術である。困るのはこの現実を理解していない人が多い企業で仕事をしなければいけない時だ。アカデミアで何がどこまで明らかにされている、すなわちどれだけの形式知が明らかにされているのか理解していない人がいる場合に出だしを失敗するととんでもないことになる。
このような場合には、技術に関するコミュニケーションで注意が必要である。科学で大抵のことが解明されているだろうと信じている人たちとは、特に気を付けなければいけない。そのような人たちには、まずその認識が間違っていることに気が付いてもらわない限り、コミュニケーションが難しくなる。
例えば、中間転写ベルトの開発体験で書いたように、形式知以外の話を議論の場で持ち出したところ素人扱いされ相手にされなくなった。また電気粘性流体の増粘問題では、実践知で解決したとたんにFDを壊した人が現れた。とにかく科学で大半を理解できると信じている人たちは、実践知や暗黙知を軽蔑する傾向があるので注意が必要だ。理解していてもミスをする。
一方実践知や暗黙知を重視している人とのコミュニケーションでは、その人の経歴を理解してコミュニケーションを行う必要がある。科学がすべての人たちよりもコミュニケーションはとりやすいが、意見がかみ合わなくなることがあるので、その人のバックグラウンドを理解したうえで議論をする必要がある。
例えば樹脂を扱ってきた人とゴムを扱ってきた人では混練に対する考え方が異なる。セラミックスを扱ってきた人とゴムを扱ってきた人では、プロセシングや力学物性の認識は大きく異なる。例えが少し大きく振れすぎたが、このような場合に議論を円滑にするためには聞く力が要求される。議論を始める前にその人の考え方をよく聞くことである。
形式知や実践知に対して調子の良い相槌をうつ人がいる。このような人とのコミュニケーションは比較的気持ちよく進むが、実のある議論まで発展しない物足りなさが残る。高分子材料技術分野で何か問題解決に当たりたいときには、形式知を掘り下げた専門家(本物のプロ)か、あるいは職人にまず相談するのがよいと思っている。
形式知を掘り下げた専門家であれば、その知の限界を理解したうえでアドバイスをしてくれる。また職人であれば自分の体験を一生懸命話してくれる。某大学の先生は、論文を一応書いてはいるが、PPSはよくわからない材料だ、と教えてくださった。また、押出成形について「行ってこいの世界だ」と教えてくれた職人は、ゴムのコンパウンドの設計と混練プロセスの重要性を熱く語ってくれた。
ビジネスコミュニケーションやコーチングなどの研修では、事務業務を扱うシーンが多い。基礎を学ぶには良いが、ここで学んだ内容を技術の現場ですぐに生かせないもどかしさがある。技術者の研修には技術者による技術者のための内容が必要だ。弊社へご相談ください。
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カオス混合は30年以上前に指導社員から教えていただいた混練技術である。彼の説明ではロール混練でそれが起きている、という。そしてその機構をバッチ式ではなく連続式で実現したら混練技術に革新をもたらす、と教えてくれた。そしてその実現が当方の宿題となった。
その後ポリウレタンやフェノール樹脂の難燃化というテーマからセラミックスへ仕事がかわり、カオス混合を考える機会が無くなった。しかし、カオスを混合したらどのようになるのだろうと、酒を飲みながら話のネタにはしていた。
以前紹介したが、退職前の単身赴任の時に偶然その技術開発を行うことになった。人生とは面白いもので、思い続けているとそれがかなうことがある。カオス混合はいつかやってみたいと思い続けてきた技術の一つだ。
思い続けてきたが、ストーカーのように追い続けてきたわけではない。学会で関係する発表があれば、それを聴いてみる、という程度である。印象に残っているのは、日本化学会で発表のあったラテックス粒子の自己組織化現象である。
ラテックスが一層流れる程度の薄いスリットの中にラテックスを流すと規則正しく粒子がならぶという報告である。溶融した高分子の粘性流体をそのような細いスリットに流すことは不可能だが、ロール混練の条件に合わせたスリットへ急速に流したらどうなるか、というアイデアが生まれた。
アイデアが生まれたがそれを実施するまで10年近く月日が流れた。運良くカオス混合を開発できるテーマが目の前に現れた。そして、単身赴任した開発現場には、それをモデル的に確認できる環境が整っていた。
カオス状態とは混沌としたものだが、問題がうまく解決されるときというのは、不思議なことにとんとん拍子に進む。人生全体はカオスのようなものかもしれないが、その一瞬一瞬というのは、努力の積み重ねた結果が現れるのではないか、と思うようになった。
だから苦労しているときには、なおいっそう真摯に努力に励まなければいけないのだろう。長期的視野では、努力は必ず報われると信じたくなる、そんな人生である。
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どのような高分子でも完璧なコンパウンドにできるように、混練技術を形式知として体系化するのは困難だろうと思う。だから、実践知と暗黙知、そしてわずかな形式知の知性の境界を越えた体系化が必要になってくる。
混練技術者とはそれができた人を言う。おそらく30年以上前に当方を指導してくださった指導社員は、今でも通用する混練技術者だろう。彼の指導方法はあくまで実践知が中心に据えられていた。彼の形式知さえも本人は懐疑的に見ていた。
暗黙知を伝える方法も秀逸だった。二本のロールにゴムを巻き付け、それが混練されてゆく様子を30分眺めていた。そしてそこへ少量のカーボンを添加し、あっという間に真っ黒くなる現象を解説してくれた。言葉ではなく黒くなったゴムをロールから外し、実際に触れることでカーボンがゴムに分散された状態を教えてくれた。その説明に分散混合と分配混合は出てこなかった。
彼は職人ではない。ダッシュポットとバネのモデルから導いた常微分方程式を電卓で解き防振ゴムの材料設計を行う京都大大学院出身のレオロジストだった。面白いのはダッシュポットとバネを使ったレオロジーの形式知が将来は使われなくなるだろうと予測していたことだ。
また、研究用のサンプルを作成するときにも、小型のニーダーを使用するのではなく、現場のパイロットスケールのバンバリを使用した点である。マスターバッチを大量に製造できるので効率を考えてのことかと質問したら、ゴムはプロセスの履歴が物性に表れる、と実践知を教えてくれた。
そのほか彼から教えられた知識は多い。3ケ月間マンツーマンで指導され、ゴムの混練技術とその考え方は良く理解できたが、ゴム会社でその知性を活かす機会は二度と無かった。
しかし実践知や暗黙知は、水泳や自転車のように一度身につけると忘れない。形式知は忘れてしまう部分があるが、実践知は体で覚えている。たった3ケ月で身につけた知識(注)であるが、指導社員の熱意とともに自然と思い出す。10年前に単身赴任して、その時初めてバンバリーを操作したときも躊躇なく運転できた。
高分子科学は現在もアカデミアの努力で進歩している。特に高分子物理は地味ながら20年前よりも大きく進歩した。まずダッシュポットとバネのモデルでレオロジーを論じる研究者を見かけなくなったことだ。OCTAの登場で容易に高分子物理をコンピューターで学べる環境が整った。今教科書に書かれている混練の形式知はおそらく10年後は異なった内容になっている可能性が高いと思う。
(注)今ならばブラック企業という騒ぎになるような勤務状態だった。ほとんど毎日自主的な夜勤と休日出勤だったが、楽しかった。会社の管理も緩い時代だったので、実験を思う存分にできた。指導社員からはバネとダッシュポットのモデルから計算された粘弾性のグラフを渡されており、当方はひたすらそのグラフに合った材料を見いだすのが仕事だった。樹脂とエラストマーのポリマーブレンドがすべて計算通りの粘弾性特性になるわけではなかった。
50種類ぐらい検討を進めたところ、樹脂の結晶化度が影響していそうな傾向が見えてきた。さらにその傾向は2種類の群に分かれ、コポリマーが良さそうに思われた。試作サンプルが100を超えたところで多変量解析を行って整理をしてみた。昼間は指導社員の指導を受け、夜は自分の思うように仕事ができたサラリーマンで一番楽しかったときかもしれない。高純度SiCの事業化は今思い出すと楽しかった時代になるが、この防止ゴム開発の3ヶ月間は明確なゴールとチェックポイントが示され、あたかも宝探しのような楽しさが毎日の仕事にあった。材料開発では、形式知ですべて解決できるわけではなく、試行錯誤の作業が必要になる場合がある。凡才にとって、形式知で解決できないテーマは、実践知を磨くチャンスとなる。指導社員はシミュレーションは完成したが、具体的な材料が分かっているわけではない、と正直に教えてくださった。そしてシミュレーションがはずれた材料一つ一つについて、ダッシュポットとバネのモデルで解説してくださった。最初は本当に材料の配合が見つかるのか不安だったが、指導社員が必ずできる、と励ましてくださったので、がむしゃらに混練を続けたら、最初の1ケ月でゴールに近い材料が見つかり、一週間後にはシミュレーションのグラフとずばり適合する処方が見つかった。その後はさらに探索を進める作業と、見つかった系について耐久試験を進める作業と忙しくなった。テーマを開始して3ヶ月後には新しいコンセプトに基づく防止ゴムの実用配合と、その理論の報告書が完成していた。
まったく新しいコンセプトの材料は、試行錯誤のプロセスを経てできあがる場合が多いのではないか?
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樹脂を二軸混練機で混練するときに、分散混合と分配混合という考え方でスクリューセグメントの設計を考えるようだ。ようだ、と書いたのは、当方はこの考え方でスクリューセグメントの設計を行わないからだ。
「未だ科学は発展途上」で、一流のコンパウンド会社から素人扱いされ、混練のアイデアを受け入れていただけなかった体験を紹介した。そこの技術者は、分散混合と分配混合、弱練りと強練りという言葉などあたかも形式知のように使っていた。
しかし、その一流コンパウンドメーカーの形式知をもってしても解決できなかった問題を素人が30年前の実践知で解決したのである。一流と言われたコンパウンダーの混練の形式知とは何か調べてみたところ、某書籍に書いてあり、やはり完成された知識の体系としてまとめられていた。しかし、実際の現象には使えない形式知だと感じた。
分散混合と分配混合については、液体モデルに何か分散させたいときの考え方であり、様々な樹脂の混練でこの考え方が当てはまるわけではない。混練では伸張流動と剪断流動が発生し、その力で混練が進む、という形式知程度しか分かっていない、ととらえた方が良い。
そのほかに二軸混練機を購入するならば、KOBELCO以外はどこの混練機を購入しても同じ、と以前から感じていたが、この10年の経験からこれは正しいかもしれないと思うようになった。
理由は10年前に購入した同社製の中古機が未だトラブルなしで量産に使用されているのと、中古機に対するアフターサービスの良さ、そしてすでに20年以上経っているのに安定に使用できる耐久性などから、made in JAPANのブランドの信頼性の高さが裏付けられたからである。
二軸混練機と言えばKOBELCOというのは実践知ではなく形式知になるのかもしれない。そのくらいすばらしい装置である。中国で数社の混練機を実際に使用してみたが、KOBELCOの足下にも及ばないものばかりだった。KOBELCOの唯一の欠点は値段が高いことである。
もし二軸混練機の勉強をしたいならばKOBELCOのカタログをダウロードして読んでみると良い。スクリューセグメントの考え方も簡単ではあるが丁寧に記載されている。そして購入したくなったら電話をかけ相談すると、スクリューセグメントの設計まで親切に行ってくれる。依頼すればそのシミュレーション結果もサービスとして送ってくれる。ちなみに弊社は同社と無関係の中立の立場である。
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混練を形式知で記述しようとするときに、装置と混練される材料との関係が問題となる。すなわち高分子材料は、その種類により一次構造が異なればレオロジー特性も異なる。しかし、溶融状態のレオロジーについてはいまだ学会で議論されているレベルである。
材料側の物性変化が一義的に定まらない状態で装置と材料の関係を議論するとなると、科学的にどのように論理展開すればよいのか。そこで材料モデルを考案し、近似解を得られるように問題を解くわけだが、ここで怪しいことが起きる。
約10年にわたり、樹脂の混練技術に携わってきた。そして新しいカオス混合装置を開発し、そこから創りだされる新たな材料の特許出願もできた。この装置は日本と中国でそれぞれ稼働している。日本で量産に使用されている装置を第1世代とすれば、中国のそれは思想の進歩した第2世代である。
第1世代を開発したときに、社内のデザインレビュー(DR)と呼ばれる、ステージゲート法のゲートに似た仕組みを突破するためにシミュレーション技術を駆使した。そのときはDRを通したい都合で、あたかも形式知がそこにあるかのような説明をしてきた。
混練のシミュレーションなど普通に計算するとうまく適合した結果など出ないのだが、シミュレーションそのものを実際に合うようにパラメーターを設定して結果を出してきた。すなわち通常粘弾性の測定データを入れるところを、現実にあうパラメータの値を入力し、結果とあわせこんで計算したのだ。
実際にあわせて計算しているので、何のためのシミュレーションだ、というつっこみは起きるかもしれないが、実際に計算しているので捏造には当たらない。データを説明しやすいようにシミュレーションで得られるきれいなグラフィックを利用したかっただけである。
そのようなシミュレーションのやり方で分かったことはいくつかあるが、スクリューセグメントを設計するために行う混練機の温度シミュレーションは、実践知によく適合すると感じた。もっとも実践知が蓄積されるとシミュレーションを行わなくてもスクリューセグメントの配置から概略温度変化は予想がつくようになりシミュレーションなど不要だが、実践知が無いときには、シミュレーションされた温度データは頼りになるはずだ。
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身の回りにある高分子材料には必ず何か添加剤が入っている。高分子合成段階に添加剤も一緒に混合する方法もあるが、多くは混練機で添加剤を高分子に混練する。
二種以上の高分子を混ぜるときには必ず混練プロセスが必要になるが、この混練技術について誤解が多い。例えば、未だ科学で完全に解明された混練プロセスは存在しない、という事実でさえも否定する人がいる。
これはゴム会社を定年で退職した同期の技術者に聞いた話だが、ようやくロール混練について80%ほど科学的に解明できたところだ、とのこと。バンバリ-については未だ藪の中だそうだ(注1)。
だから混練について書かれた書籍は、非科学的内容と受け止めながら読む必要があるが、科学的に断定して書かれている論文に遭遇すると誤解が生まれるのも仕方がないとため息がでてしまう。
混練について書かれた論文を読むときにはこのような考え方もある、というぐらいの心構えが必要である。それでは、混練技術を理解するための基礎は何か、と問われるとレオロジーという抽象的な回答になる。
混練プロセスでは、伸張流動と剪断流動が起きており、この組み合わせで混練が進む、というのが一般的な考え方だ。そして少し古い論文には、剪断流動では細かく分散できる粒径に限界があり、ナノオーダーまで分散するには伸張流動が有利である、と書かれている。
しかし、2000年頃に行われた高分子精密制御プロジェクトで、高速剪断流動でナノオーダーまで高分子が分散されることも示された(注2)。すなわち過去に書かれていた剪断流動の話は混練プロセスにおけるスクリューの回転速度の範囲では、という条件付きで読む必要がある。
(注1)昔は闇の中、と言われたので少しは進歩した。
(注2)あの技術は分子量低下が起きているからだめな研究だ、と批判していた人がいたが、分子量低下が起きていてもナノオーダーまで分散している、という見方が実践知による見方である。なぜ500回転前後の二軸混練機で剪断流動を中心とした混練でナノオーダーまでゆかないのか、と疑問を持つことは重要である。そして1000回転以上でナノオーダーまで混練が剪断流動で進むという実践知が生まれている。ここで問題になるのは、せっかく有用な知が生まれても、実験結果に科学的な厳密性が欠けている部分をみつけ、知の全てを非科学的と否定することである。混練では少しの条件変動で興味深い結果が生まれたりすることがある。それらをどのように扱うかで技術の蓄積量が変わる。
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高分子のガラス転移点(Tg)は、溶融して液状となった高分子を冷却する過程で高分子が流動できなくなり、固体となった時に現れる変曲点である。無機ガラスのTgよりも高分子のTgは面白い。
分子レベルでは運動性を失っていないので、分子を眺めることができたならば微小領域の隙間を観察すると、犬のしっぽのように高分子の端がぴくんぴくんと動いている様子を見ることができる。
この部分は、高分子の自由体積(部分)と呼ばれる。すなわち高分子を溶融状態から急冷すると非晶質となるが、この状態で、完全に分子運動が凍結された部分と自由体積部分の二つの構造ができる。
結晶性高分子では、さらに非晶質状態の中で規則性が高い構造もできるので、高分子の急冷プロセスでは3種類の高次構造ができることになる。これらは構造の特性が異なるので、急冷した高分子を熱分析、例えばDSCをTg温度を超えるあたりまで測定したときには3種類の変曲点が現れても良さそうだが、DSCの感度はそこまで高くなく、Tgが一つ観察されるだけである。(ただし、結晶性高分子では結晶化温度Tcで鋭いピークを示すので、2つ現れることになるが)
二種以上のコポリマーでは二つ以上Tgが観察されるが、ここでは話を簡単にするために1種類の高分子で考える。さて、DSCで観察されるTgは、結晶化温度を示すTcのピークのように鋭く現れない。明らかなピークとして現れず、時にはわかりにくい情報となるが、高分子のプロセシングの履歴をそこに観測することができる。
教科書を読むとTgはTcのような相転移ではないのでDSCでは、熱エネルギーの解放あるいは吸収を示すピークとして観察されない、とある。そしてただ比熱が変化するのでベースラインの変化が観察されるだけ、とそっけない説明である。
昔そのベースラインの変化量は高分子の自由体積の量を示している、と習った。そして、DSCでTgを計測してそのような単純なグラフとして現れた時にはうまく測定できた、と思っていたが、Tgが現れなかったり(注)、ピークとして現れたりするデータと遭遇するようになり、その意味の奥深さを味わっている。いまだ実践知と暗黙知の残っている世界である。
(注)DSC測定において、Tgが観察されない場合の隠し技がある。Tgが観察されないからTgが無い、という結論は正しくなく、そのような材料でもTMAを用いるときちんとTgが現れる。隠し技を用いるとDSCでも本来のTgが現れるようになる。
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中間転写ベルトのコンパウンドは、子会社の敷地を間借りして建設されたプラントで現在も生産が続けられている(現在はリスク管理の観点から国内2ケ所で生産を行っている)。科学では説明できない6ナイロンとPPSが相溶したコンパウンドが、技術で組み立てられた生産体制で品質が安定に維持(注)され、後工程の押出成形で高品質のベルト生産を可能としている。
科学の知の体系では、二相に相分離すべき系である。当初の材料設計では、この考え方に沿って開発が進められた。しかし、技術として完成できなかっただけでなく、分析を科学的に進めてもその原因を解明できなかった。
科学的に解決困難に見えたのだが、電気粘性流体の増粘の問題や酸化スズゾル薄膜の導電性問題のように、ウェルド部分では必ずこのような現象が生じるため、この技術を完成させることは不可能だという論法で前任者は否定証明を行わず、技術を完成させる意志決定をして当方に相談に来た。科学的手順でゆきづまったらヒューマンプロセスに頼る賢明さが大切である。
ところで、科学の知の体系では高分子のプロセシングの効果に関する情報が不足している。理由は、多くの高分子材料が非平衡で進行するプロセシングにより生産されているからである。これは科学的な解明が難しく、今でも研究が行われているテーマである。しかし技術では技術者の想像力により、異分野で行われている類似のプロセシングを応用することができる。そして異分野で成功した事例で起きている変化を活用し新たな材料を作り出すことができる(アナロジーの活用はヒューマンプロセスの一つ)。
技術者の知の体系では、アナロジーは重要な手段で、科学の知の体系では想像のつかない技術を生み出す原動力になっている。科学で未解明の現象でも、アナロジーにより機能を絞り出し、技術の実体として実現できる。
科学以外を排除するマネジメントでは、このような技術を生み出す土壌は育たない。TRIZやUSITなどのツールを用いて技術を科学で支配し、開発を論理的に進めることは科学の勉強になるかもしれない。しかし、実践知や暗黙知を軽蔑する風土では、形式知を超える技術を生み出すことが難しくなる。
6ナイロンとPPSが相溶し、しなやかなベルトを生み出すコンパウンドに科学的な解説を与えることは難しいが、カオス混合という技術について実践知と暗黙知がどのように生かされたのか説明することはできる。昨年高分子学会から招待されて、すでに公開された資料とその後の研究成果を基に1時間の講演を行っった。また、暑くて眠れない夜には、フローリー・ハギンズ理論の見直しを行い、睡眠不足解消に役立っている。
(注)ベルトの電気特性をコンパウンド段階でチェックしている。その結果、工場出荷されたコンパウンドでエラーが一度も起きていないという。弊社の研究開発必勝法を用いて短期間にプラント立ち上げから品質管理体制まで当方含め3人で行った。高純度SiCのプラントと同様に小平製作所に助けていただいた。
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