分配混合と分散混合の説明で不十分なのは高分子のレオロジーを考慮していない点である。むしろ伸長流動と剪断流動で混錬が進むと表現したほうが良い。
混練機にはバンバリーやロール混錬のようなバッチプロセスもあれば押出機から進化した連続式プロセスの混練機も存在する。二軸混練機は生産性が高いと信じられてこの70年進歩してきた装置である。
二軸混練機はどれも同じと思っている人が多い。どの二軸混練機を買えばよいか尋ねられたなら迷わずKOBELCOブランドをお勧めする。少し高価だがこのブランドの混練機でうまく混練できないならば他の二軸混練機ではさらに悪い結果となる。但し、正規のルートで購入し技術サービスをしっかりと受けるという前提である。
神戸製鋼から特別にPRを依頼されているわけではない。これまでKOBELCO含め10種類の二軸混練機を扱ってみての感想である。もしKOBELCOの混練機を使ってもうまくゆかない場合は弊社へご相談ください。
中間転写ベルトのコンパウンドの混錬では、KOBELCOブランドの中古品を小平製作所で改良し、成果を出すことができた。KOBELCO製品の良いところは各部品の信頼性が高いことである。中古品でも中国のローカル企業の製品よりも性能が高い。
但しKOBELCO製品を使用しても、スクリューセグメントの設計が悪ければうまく混練できない。どのような材料を混錬したいのか相談すれば最適に近い設計を神戸製鋼がしてくれる。こうしたサービスも含めた価格と思えばKOBELCO製品は高くはない。
カテゴリー : 高分子
pagetop
混錬の教科書を開くと分配混合と分散混合という言葉が出てくる。二軸混練機のスクリューセグメントの考え方でもこの言葉が使われ、両者の理解がその教科書を読み解くポイントになっている。
混練技術を現場で指導された時に、混錬とは混ぜる機能と練る機能の両者をバランスよく実現することであり、分配混合と分散混合の考え方では説明がつかない、と習った。そしてカオス混合という究極の混練技術の存在を教えられた。
カオス混合では混合と言う言葉が使用されているが、カオス混練と表現したほうが良い、とも習った。但しその実現方法は当方の宿題にされて30年間考えることになったが、指導社員の説明から混練技術が未だ科学として完成していないことを充分に理解できた。
しかし混錬の教科書を読むと、分配混合と分散混合の理論的扱いに終始した説明がなされ、あたかも混練プロセスは科学で説明がつくような錯覚になる。
指導社員から科学では説明がつかないロール混練の楽しさを教えられた。ただ二本の丸棒が回転しその間隙で混錬が進むのであるが、そこではカオス混合も起きている可能性があると説明を受け、毎日どの部分がカオスなのか観察をしながら仕事をした。同期の友人からは、訳の分からない説明をまともに信じて仕事を行う姿こそカオスだと笑われたが。
カテゴリー : 高分子
pagetop
ゴム会社で3ケ月間防振ゴムの開発を担当した。新入社員のテーマとして一年間担当する予定のテーマだったが、サービス残業を行い3ケ月間で処方を仕上げた。指導社員が極めて熱意のある優秀な技術者で毎日最低2時間は混練技術の指導を現場でしてくださった。
物理が専門の技術者で一年間に得られるであろう重要なデータをすべてシミュレーションで示し、その内容を1週間かけて講義してくださった。研究の進め方について大学と企業の違いを知り、カルチャーショックのような衝撃を受け、駄馬の先走り状態になった。
この頃を思い出してみると技術者として最も充実していた。高純度SiCの仕事もそれなりに充実していたが、それは事業家としての充実感であり、技術者としては満たされない毎日だった。吸収した知識をすぐに実戦に生かす技術者としての醍醐味は防振ゴム開発の仕事ほどではなかった。
STAP細胞の騒動では未熟な研究者が指導者に恵まれなかった発言をしていたが、技術の伝承において優れた指導者は必須である。科学の知識は書物から学ぶことができるが、技術は書物だけで学ぶのは難しい。混練プロセスのような科学で解明が遅れている分野ではなおさらである。
指導社員はゴム会社であまり大切に処遇されていなかったが、実務者としての力量と技術の伝承者としての力量はずば抜けていた人である。部下の立場で評価すれば100点であったが、その上司の立場から見た時に高い評価を受けていなかった、と思われる。
サラリーマン人生を振り返ると、この指導社員より優秀な技術者には出会っていない。この指導社員の実務スタイルが、3ケ月の業務を終えた時に当方の目標になっていた。
たった3ケ月間混練プロセスを担当しただけであるが、優れた指導者のおかげで得意な技術分野の一つになった。35年前短期間に獲得した知識と技術で9年前中間転写ベルト用コンパウンド工場をやはり短期間に立ち上げることができた。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
セラミックスの成型方法はいろいろ用途に応じて使い分けられている。その泥漿を練り上げるにも今日では連続式混練機が一部で使用されている。30年ほど前にその話を初めて聞いた時には驚いた。その泥漿を練り上げる専用の混練機も存在する。
主に剪断混練が使用されていると思われるが、スクリューの摩耗が心配である。知人の技術者に聞いたところ、専用の材料が使用されているとのこと。昔は摩耗が激しかったが最近は良い材料も開発されたとも言っていた。
中間転写ベルトの開発を行っているときに、セラミックス材料の混錬で使用されている、と言われたKCKと呼ばれる、いわゆる石臼型混練機を使用する機会があった。PPSとカーボンを混練するためにそれを用いたのだが、一般の二軸混練機に比較して混練効率は悪いと感じた。
剪断混錬は効率が良いはずだが、機械の消費電力の割に生産性が悪い。同一電力に換算して比較した時に時間当たりの混練される量が6割ぐらいだった。PPSにカーボンの咬みこみが悪いからだ、と装置を貸してくれた会社の技術者は言っていたが、不思議に感じた。
面白いのは混練して得られたカーボンの分散状態で、二軸混練機のそれと異なっていた。1台購入し材料開発に使用したが、得られた混練物の性能は二軸混練機が60点とすると70点前後で100点に到達できなかった。
ただカーボンの分散状態は特徴的でもう少しその特徴が完璧に発揮されればゴールを達成できたが中途半端な状態であった。今改めて思い出してみるとセラミックス材料の分散でもこの「中途半端さは問題になるはずだがそのような情報はWEBに落ちていない。セラミックス協会誌を読んでいても出てこない。
もしセラミックス業界でKCKを使用されている方で何か疑問を持たれたらご相談していただきたい。どこまで期待に応えられるか不明だが、問題解決のヒント程度は出せるかもしれない。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子の難燃性を評価する技術は、いろいろ開発されてきた。それらをすべてここで解説をしない。大切なことは、それら評価技術の細かい知識を習得するよりも、市場で要求される難燃化規格についてその知識を深める努力をした方が実務上役立つ。
ゆえにそれぞれの業務に必要な評価法を調べていただくこととして、ここではそれを活用するときのポイントを説明したい。
火災で高分子が燃える、という現象は、火源により高分子が熱せられて温度が上昇し、添加物や高分子の分解物がガス化、そしてその酸化が激しくなり、燃焼に至る。
この時酸素不足となれば、酸化が終結し火が消える。高分子の構造に二重結合を形成しやすい要因や脱水素を促進する触媒機能を示す添加剤やラジカル補足剤が存在すれば高分子は炭化する。
ここで生成する炭化物はチャーと呼ばれ、燃焼している面で発泡したチャーが形成されると、それが断熱層になり燃焼が停止する。
この燃焼の各段階すべてを一度に評価できる技術は、最初に述べたように大変難しくなる。ゆえに世の中に存在する難燃化規格では、燃焼現象の一部のプロセスを評価していることになる。
この燃焼という現象をすべてモデル化して記述できれば、実火災のシミュレ-ションが可能となり、一部それが成功しているが、材料設計にそれを活かすことができるかどうかは、別の問題がある。
カテゴリー : 高分子
pagetop
3日前に、高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。
規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる読者もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。
今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。
このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。筆者が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。
当時の上司は、材料が炎から逃げるように設計しているので、溶融型と同様の難燃材料の設計方法の一つ、と自慢していたが、溶融型では、溶融するときの吸熱効果で火を消す機能を発揮しているのである。
材料に足が生えていて逃げ出すのならともかく、燃焼試験装置の炎を避けるように変形するだけでは難燃建築材料ととして不適格であると同時に、そのような材料を合格とする評価試験法にも建築基準としての欠陥があった。
また、技術では、自然現象から生活に必要な「機能」を取り出し、それをロバスト高く再現できることが求められる。餅のようにふくれ、特定の炎だけを避ける機能では、材料に火がついたときの問題を解決できないので、建築用難燃材料の機能として不十分である。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
高分子材料の難燃化と評価法についてその概略を昨日まで述べたが、高分子材料の用途とその設計方針が最初に必要である。
高分子材料の用途が決まると、その分野における難燃性規格が材料開発時に使用する品質評価法の一つとして決まる。設計方針とは後述するコンセプトのことであるが、難燃性規格を合格するためのコンセプトも許される。
規格を通過するためだけのコンセプトで材料開発する、というと科学的でもなくいかがわしささえ感じる人もいるかもしれないが、難燃化規格が用途と実火災を考慮して開発されているはずなので、技術的には賢明な方法となる。
今となっては笑い話となるが、30年以上前にJIS難燃2級という建築材料向けの欠陥評価法があり、この評価法に合格するためにもちのように膨らみ変形する材料が開発された。
サンプルを試験装置に取り付け試験を開始すると、炎から逃げるように高分子発泡体が膨れ、その結果、煙も出なければ燃焼による発熱も無く試験が終わる。
このような材料が市場に出た結果、耐火建築でも簡単に燃えるという事件が発生し、規格の見直しが叫ばれ、簡易耐火試験が建築基準として採用されるにいたった。
当方が技術者としてスタートした頃であり、当時の通産省建築研究所の先生方と規格の見直しのお手伝いをしたが、これは高分子の難燃化「技術」の重要性を学ぶ機会となった。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
UL94-V2試験では、サンプルを垂直に保持する点でLOIと同じだが、着火は下から行う。ゆえに溶融物は下に落ちて火が消える。
ただし、高温で溶融しやすい材料がすべてこのような結果になるわけではない。UL94-V2試験に合格するように「巧みに」材料設計された場合だけである。
高温で溶融しやすい材料でもUL94-V2試験に不合格となる材料は存在し、このLOIが仮に20.5であったとしても、UL試験を行うと廃PETボトルを80%含む樹脂よりも燃えやすい材料との判定になる。
UL試験は、アメリカの民間会社の評価試験法だが、材料の用途における実火災との対応についてよく考えられた試験法として、多くの分野で規格として採用されている。
燃焼時にチャーと呼ばれる炭化層を積極的に生成する炭化促進型難燃化手法で材料を設計しようとする場合に、LOIは他の難燃性試験法よりも実験室で重宝する。
例えば、UL94-V0以上という高い難燃性を実現する材料を設計したい時に、溶融型で高分子の難燃化設計はできない。そのためLOIで21以上となる配合を探索しなければならない。
この段階で難燃化という機能について、材料設計コンセプトからチェックしなければいけない高分子の高次構造因子があれば適宜汎用の分析評価を行う。
燃焼では高分子の熱特性が重要になるので、熱重量分析(TGA)や熱機械分析(TMA)、熱走査時差熱分析(DSC)が主に用いられる。難燃剤の分散状態を知りたければ電子顕微鏡もその手段の一つとして加える。難燃剤の計量を簡便に行う方法として赤外分光法(IR)がある。
ノウハウになるが、先に説明した廃PETボトルを80%含む樹脂では、粘弾性評価装置も難燃性の設計に使用している。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
30年以上前にJIS化されたLOIは、酸素と窒素の混合気体の雰囲気の中に長い板状のサンプルを立て、その上方から着火して燃焼状態を観察し、継続して燃焼するのに必要な最低限の酸素濃度で高分子の燃えにくさを数値化する試験法である。
測定法の定義から一見理にかなった燃焼試験に思えるが、経済性の視点で高分子の用途を眺めた時に、実火災においてこの尺度で決められた序列が適切ではない場合もある。
例えば、空気の酸素濃度は21%程度なのでLOIが22以上となるように難燃剤を添加して寝具が材料設計されていたならば、寝タバコの火が寝具に着火した時に空気中で燃焼を継続することができず、自然に火が消えて燃焼は広がらない。
しかし、LOIが21以下でも燃焼が広がらない材料がある。それは熱で簡単に溶融し消火するように設計された材料である。
このような材料では、たばこの火の程度であれば、溶融時の吸熱効果で火が消える。
この考え方で、高価な難燃剤を用いずPETボトルの廃材を80wt%含有する射出成形可能な難燃性樹脂を四年前に開発した。この樹脂の20wt%の他の組成は、射出成型が難しいPETを易射出成形性にするための成分と靱性を改良する成分、溶融型で難燃性を向上する成分とからなる。
すなわちこれは強相関ソフトマテリアルの概念で設計されコンビナトリアルケミストリーの手法で開発された材料である。
この材料は難燃材を添加していないPETが主成分の樹脂なのでLOIは19以下であるが、UL94-V2試験を行うと自己消火性を示し合格する。
LOIが19前後、すなわち空気中で燃焼し続けると評価された材料でも自己消火性を示すことについて不思議に思われるかもしれない。これは、サンプルを垂直に立て上から着火するというLOIの試験方法にも少し原因がある。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
燃焼とは急激な酸化反応で進む現象なので、どのような火災の状況でも絶対に燃えない有機高分子は存在しない。
ゆえに火災時の燃焼対策としてとられる高分子の高機能化について、高分子の不燃化とは言わず、難燃化という表現が用いられている。
燃える物質と燃えない物質という境界が明確な材料群ならば、その評価技術を一義的に決めることができそうだが、「難燃性」とか「燃えにくさ」という曖昧な尺度に対して、唯一の客観的評価技術を開発することは、直感的に難しい作業になると想像できる。
もしそれをイメージできないならば、具体的な火災を思い浮かべればよい。
火事の現場検証では最も黒焦げになっているところが注目される。そこは酸素不足で高温度に曝された可能性が高く、そのような現象が起きるのは火元と考えられるからだ。
本当に火元だったかどうかは、その他の状況証拠との組み合わせで決められるそうだが、火災の現場を観察すると、高分子の燃え方が一様ではないことに気がつく。
このような状態を実験室で再現しなければならない評価法とは、高分子材料そのものの燃えにくさの数値化以外に様々な因子の絡みあいを盛り込まなければならず複雑になるであろう。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop