スキルを持たない科学的知識のある新しいタイプの職人が増えている。新入社員から2-3年は技術者に指導されて仕事ができるので本人も会社も困らないが、その後その様な人材はメーカーのお荷物になる。
スキルの高い職人の場合は、それなりに働く場所を用意すれば会社に貢献できるが、学校で学んだ科学的知識をスキルのように誤解していた職人は、その知識が時代とともに陳腐化すると働き場所は無くなる。しかしこのような職人でも長年の開発経験はあるはずだ。
職人がここに気がつくかどうかで、会社に貢献できる人材とどうしようもない人材の二通りに分かれる。長年の開発経験があれば、開発現場から肉体労働が主体の現場へ異動しても会社への貢献ができるが、後者の人材は、そもそも知識労働者の時代の特徴を理解していないので貢献ができないだけでなく、会社にとってその存在すら負の資産になる。
技術者を目指していたはずなのに職人になってしまった、と反省している人材は弊社へご相談ください。適切なアドバイスを致します。50歳になっても意欲さえあれば会社に貢献できる技術者になれると思っている。
本人の意欲さえあればいつでもやり直しができるのが技術者という職業の良いところである。科学者という職業は、年齢とともに能力は必ず低下するという問題もあり、やり直しができるかどうかは個人差が大きい。技術者については、技術者として努力してきた経験があれば、いつでも新しいタイプの職人から技術者へ転向することが可能である。本人と会社にそのような意欲があるかどうかの問題である。
会社によっては技術者を育成していない会社もある。転職してびっくりしたのは、若い人から技術者になりたい、という言葉を聞けない技術部門があったことである。大卒のスタッフの多くは皆管理職志望で、開発現場で技術を担当するのは昇進するための一つのキャリアという位置づけとして考えている。
人事考課における議論でも技術者としての評価をせず、いわゆる総合職としての評価が主体である。すなわち技術者として昇進できない会社である。このような会社では技術の伝承は十分に行われず、昇進できなかった人は技術者にもなれず職人になってゆく。このような会社では技術者が育たないだけでなく、基盤技術も育たないので業界の中で上位になれない。
一方フェローとか専門職、エキスパートなどの役職を用意し、技術者にも昇進の道を用意している会社もある。その様な会社では、技術者は技術者として育ち、企業の業績も向上する。そして業界トップとなる会社も出てくる。メーカーはこのような会社をお手本とすべき、と思う。
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バブルがはじけたときにホワイトカラーのリストラが急激に進んだ。しかしこの時は主に事務部門であり、実用レベルまで技術が進歩したコンピューターの普及がその部門のリストラを加速した。しかし技術開発部門では事務処理担当者の数が減らされただけで、職人のリストラまで行われなかった。
バブル崩壊から20年以上経過し、日本のメーカーにとって新たな成長分野が見えないまま現代のIT成熟時代に至った。失われた10年から新たな成長分野を探索した10年も過ぎ、ソフト化した技術社会が出現した。新技術が市場をリードする時代は過去の事例となり、顧客とともに市場で価値(注)を創造してゆく時代になった。
ソフト化した技術社会では、企画開発力のある技術者が重要であり、過去のルーチン化した開発業務をこなす技術者は「高度な業務を扱うことが専業となる」職人になっていった。これは長期間の修業により高度な技能を身につけた過去の職人と異なり、長い科学教育で身につけた科学知識を活用して高性能な装置を使うことのできる新時代の職人である。このような職人は、過去の職人のような高度なスキルを持ってアウトプットを生産しているのではなく、高度な知識が無ければ扱えない機械の助けを借りてアウトプットを出しているのである。
かつての開発現場ではこのような職人でも立派な技術者として扱われてきたが、ソフト化した技術社会では、高性能な装置にもコンピューターが搭載され、「高度な知識が無くても」一定の手順に従い装置を動かせば、装置にあらかじめ組み込まれたデータベースで判断まで行い、自動でアウトプットとしてまとめてくれる。
装置だけでなく、日々の業務も蓄積されたデータベースが学校で習って身につけた知識を陳腐化し、高度な教育を受けていない職人との差を縮めてしまった。すなわち日々大量に創出されるデータとそれを加工するサービスがあふれているソフト化した社会が学校教育の科学知識をあたかも不要とし、知識労働者で主に科学的知識を活用してきた技術者を職人に追いやってしまった。
(注)それまで技術者は機械装置の機能を実現することだけを考えればよかったが、現在は市場で要求される価値を実現する機能を考えなければいけなくなった。すなわち技術者はハードだけでなくソフトまでも考えなければいけない時代である。
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科学と技術について、以前この欄で述べた。すなわち科学者と技術者は、真理を追究する仕事に携わる者が科学者であり、自然界の現象から新たな機能を発見し、その機能実現を目指す者が技術者である。
それでは、技術者と職人の違いとは何か。技術者と自称する人にこの問いを投げかけると自分は技術者であるが職人は現場で仕事をする人、とか技能を有する人とかの答が返ってくる。しかし、技術者と自称する人の中に自分が職人であることを分かっていない人が多くなってきた。
小学校から科学について学ぶが、技術についてはその職に就かない限り、現在の教育システムでは学ぶことができない。すなわち科学は学校で学べるが、技術は企業以外で学べない。職人には職業訓練所があるので企業以外でも学ぶ機会があるが、技術者は企業で実際に製品開発を担当しながらその力量を磨かない限り育たない。
高学歴となった現代社会では、知識労働者の活躍できる場面が増えてきたが、一方で知識労働者である技術者の生み出した自動化ラインのおかげで職人の仕事は少なくなった。職人の仕事は少なくなったが、知識労働者の職人化が目立ってきた。
知識労働者の働く意味は「貢献」と「自己実現」である、とドラッカーは述べているが、自己実現の努力を怠ると、知識労働者の職人化が起きる。人事部門とか経理部門では、そのような職人は専門職として仕事を担当し、定年退職までそれを続けることが可能である。ただしこのような部門でもOA化が進み、1970年代から仕事が少なくなってきた。ホワイトカラーのリストラを1990年代から進めた結果、定常状態となり職人の存在が問題とならなくなった。
事務部門のリストラは進んだが、技樹部門のホワイトカラーには手つかずの企業が多い。技術部門で知識労働者が技術者として育たず、職人になってしまった場合には技術革新の激しい現代において不要の人材になる。高度経済成長下の日本でそのような人材が増えていても、市場が拡大していったので開発部門で問題にならなかった。
バブルがはじけ低成長下の日本で、さらに人件費の安い他のアジア諸国の新興企業と戦うことになったメーカーではリストラの進んでいない開発部門のコスト削減が重要になってきた。もはや開発部門で職人を多数雇用できない環境になってきたのである。
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「追い出し部屋」と呼ばれる問題が人事権の乱用として批判を受け、デスクワーク主体の仕事から、肉体労働の必要な仕事などに異動させた社員を今秋にも元の職場などに戻すという記事があった。かつてバブルがはじける直前に某社の「座敷牢制度」が新聞に取り上げられたことがある。座敷牢という呼び名も凄いが、追い出し部屋という呼び名にも愛情が無い。
このようなニュースは、経営者やその会社に批判が集まりがちである。また新聞表現も会社側の対応に批判的になり、「追い出し部屋」とか「座敷牢制度」とか過激になる。しかし、この会社はブラック企業ではなく、優良企業である。また、このような施策で社内風土がどのように変質していくかは不明だが、少なくともひどい社内風土という評判も聞かない。
座敷牢と騒がれた会社では、新聞で問題が取り上げられた後、当方のFDへのいたずらが起き、数年後には新聞に載るようなとんでもないできごとが起きたりして、社内風土が入社した時から大きく変質していった。当方はある種の恐れを感じ写真会社へ転職したが、20年経過し、講演者として招待された時に、当方が入社した風土に戻っている変貌ぶりを見て驚き、経営者の努力と苦労に敬意を表したくなった。そして組織風土とは経営の努力で大きく変わると言うことを学んだ。
ゴム会社では買収したアメリカ企業の立て直しに10年以上の時間がかかり、その間血のにじむような経営努力がなされ、その過程で新聞が書き立てたような早期退職者問題が発生した。会社は倒産しそうな極限の状況であり、決して安易な判断で行われていたわけではない。新聞が騒ぎすぎている、と思った。しかしその厳しさは風土の変質を招いた。
ただし、企業としては早期退職者を募って人件費を削減したかっただけである。手順として新しい職場を紹介しており、無理矢理従業員を退職に追いやったわけではない。新聞の「追い出し部屋」という表現は少し過激すぎる。
ドラッカーは知識労働者の働く意味を「貢献」と「自己実現」にあると定義した。この定義に従えば、知識労働者は会社へ「貢献」する努力をしなければいけない。自らの存在が会社に迷惑をかけている、と思われたなら、「貢献」するにはどうしたら良いのか自ら判断しなければいけない。
当方はゴム会社で6年間苦労して育てた高純度SiC事業を住友金属工業とのJVとしてスタートし、これからというところで転職した。高純度SiCを製造する技術は完成し、当方でなくても開発を進められる状況だったので、自己の身の振り方を真摯に考えた。
その結果専門とは異なる分野への転職という道を選ぶことになった。辛い選択ではあったが、知識労働者が真摯に判断しこのような決断をしなければ事態の打開ができない状況だった。当方が自ら身を引いても高純度SiC事業は20年以上経った今もゴム会社で続いている。仕事を継続したかった思いは今でもある。
もし知識労働者が「貢献」と「自己実現」を真摯に考える習慣になっていたら、「追い出し部屋」や「座敷牢」と呼ばれるような手段を経営者は取る必要は無くなる。弊社の研究開発必勝法プログラムには、体験に基づきこのような知識労働者の問題を解決するプログラムについてオプションとして用意しています。
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小保方氏の学位論文には不正があったが、その取り消しには当たらない、という早稲田大学の見解が昨日新聞発表された。不正の方法と学位の授与との関係に因果関係が無いから学位取り消しに当たらない、という。おそらく裁判になった時を想定した解釈だろう。
新聞には丁寧な説明が書かれていたが、早稲田大学の学位審査は、多少の不正を行っても論文のロジックが厳密であれば審査には影響しない、と言っているような内容である。一方で、彼女の論文は正常な審査であれば通過しなかったが、すでに審査された学位論文を取り消すまでには至らないと、通過しないレベルの論文が通過したので許されるというおかしなことも述べている。
この姿勢は真理を追究する科学者を育てる、という視点から見ると大変恐ろしいことなのだ。すなわち捏造を行ってもそれが明らかにならない、ロジックで厳格に支持された捏造ならば許される、と言っているようなものである。
科学の世界では、新しい発見について科学的な証明を行うために実験は不可欠である。実験を行い新しい自然現象が再現された時に仮説が正しい、となる。早稲田大学から今回発表された見解は、厳密な論理で裏打ちされた実験ならば、誰にも分からない捏造をやっても良いですよ、と言っているのである。
もしこのような姿勢でSTAP細胞の実験が行われたならば、野依所長の晩節を汚すことになる。野依所長は捏造されたかどうか分からない実験結果を信じて判断を下す役目にあるからだ。
そもそも科学に携わる人間は一点の曇りも無い心の持ち主(追記)の天職であったはずである。性善説で科学の世界は動いてきた、といわれるのはそのためである。ところが分けの分からない科学的成果でもそれが人類に役立つ「かもしれない」と権威づけられたときに科学者が地位と名声を得られるような時代になってから、研究の捏造が増えてきたのである。
技術の世界では実際に安定した品質の「モノ」ができなければ地位や名声は得られない。だから他人の成果を取り上げるような不正は行われても、その成果にインチキな実験が含まれるという余地は少ない。
仮に捏造を行ったとしても実際に機能が実現される前提が保証されていなければ捏造の価値が無くなるのである(注)。ロジックが厳密で誰にも分からなくなる捏造を認めた科学の世界は、捏造が品質に影響してその結果が市場で影響の出る技術の世界とはもはや車の両輪に例えられない。
少なくとも不正を不正として認め、不正の無い状態の論文を受け入れる、というセレモニーを行うべきで、「まちがって下書きが製本され、それで学位審査が行われた」という言い訳が通用していてはおかしいのである。もっとも早稲田大学の学位とはその程度のレベル、と言うのであれば話はべつだが。
(注)企業秘密と成果の早期公開との問題を解決するために、学会発表でデータを黒塗りしたりすることは暗黙の了解となっているが。
(追記)下書きが間違って製本されそれが審査された、という言い訳が今回認められている。この言い訳の内容について、どこからアイデアが出てくるのであろうか。また、それを簡単に認めてしまう大学をどのように理解すればよいのであろうか。苦労して学位を取得した経験からはとても理解できないことが起きている。
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瀬戸物市には規格外の商品が山のように売られていた。瀬戸物は重要な輸出品であり、この規格外の商品の売り上げが日本のセラミックス産業を支えている、と親から教えられた。子供の頃この説明を素直に納得したが、米を食べるのはアジアが主体であり、お茶碗が欧米にたくさん輸出されていると思えない。瀬戸物市には瀬戸物のフランス人形や高級そうな洋風の水差しや花瓶なども売られていたので、親はそれらを説明していたのだろう。
しかし、当時の我が家はそのような洋風の商品を買わずお茶碗探しがもっぱらなイベントであった。瀬戸物市の翌日は食卓がリニューアルされる。家族おそろいの新しいお茶碗やお皿で皆食卓を囲むのは、少し贅沢な気分だった。古いお茶碗やお皿は保存され、食卓に並んでいるものが割れるとそれらで補充された。昔の瀬戸物は割れやすかった、という印象がある。ところが100円ショップの食器は割れる前に欠ける。
お茶碗の割れた思い出はあっても欠けた思い出は無い。すなわち100円ショップのお茶碗は絵柄がきれいに揃っていても欠けやすい。これはお茶碗を成形するプロセスの違いが現れている。100円ショップのお茶碗の見かけは瀬戸物市のお茶碗よりも良いが、力学物性は低下している、と思われる。ノリタケの森で買ってきた食器とぶつかると、必ず100円ショップのお茶碗が欠ける。ノリタケブランドのお皿は規格外品でも丈夫である。
ノリタケブランドの製品でも一部は射出成形で製造されていると聞いた。ノリタケの森では職人が手作りで製品を製造する様子を見せているが、射出成型による製品もあるという。しかしノリタケブランドのついた食器で欠けやすい食器を見たことが無い。落としてもフローリングの床であれば割れにくい丈夫な製品で、さすがにノリタケブランドと感心したりするが、おそらく製造プロセスだけでなく原材料管理も異なるのであろう。
ノリタケブランドの製品の優秀さは、瀬戸物市の規格外品や100円ショップの商品とは別次元である。それでは、これらの成形プロセスの違いがどこに現れるのか。おそらく成形された時のグリーン密度の均一性の違いが欠けやすさにつながっていると推定している。例えばノリタケブランドの製品の焼成前のグリーン密度は、その断面を肉眼で見ても分かるぐらいに緻密で均一である。
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STAP細胞の再現にむけて小保方氏がメンバーに加わってから、再現確認ができたとの報告が無い。200回以上もSTAP細胞を作ることに成功した、と会見で言われていたのでそろそろ再現成功の報告があってもよい頃である。
STAP細胞の有無はともかくその現象も含めて科学的に高度な内容でありながら、そこに一般の関心が集まる、まさに英知を結集しているテーマといえる。当方もお節介ではあるが、問題解決に役立ててもらおうとその生成機構に関係する可能性の高い論文を1ケ月前に提供させて頂いた。
当方が提供させて頂いたのは、細いスリットを通過するときに生じるレオロジー現象について考察された最も新しい論文で、キャピラリーを細胞が通過するSTAP現象を考察するときに必要となる考え方が書かれている。すでに報告されているようにSTAP細胞は細いキャピラリーを通過したときにできる。ただその再現が難しく、小保方氏以外では成功していないので問題が発生しているのである。
2相以上で構成された物質が細いキャピラリーを通過するときに、そこで働く剪断速度により、相界面などの微細領域においてレオロジーに起因する不思議な現象が発生する。例えば当方の発明したカオス混合装置はそこに着目し技術開発を行い、フロリー・ハギンズ理論(注1)に反する結果を8年前に発見してその開発に成功している。
この成果は退職前に元写真会社の子会社の工場でプラントとして実現することができた。そして、そこで生産された材料を使った製品が年間1000億円程度売り上げているとのうれしい話を風の便りに聞いた。科学的に未解明な機能を使った製品を送り出してから大きなトラブルも無くプラントが稼働しているのは、科学と技術の違いを30年間考え続けてきた成果ともいえるのでうれしい。
当時は細い隙間で発生しているレオロジー現象の論文も無く、ただ目の前で起きた現象をすなおに機能として活用してプラントを立ち上げた。研究を行わず技術としての完成を目指した(注2)ので無事成功したのである。この点が重要であり、さらに最近この時の現象を説明できる論文が公開されたので送ったのである。
植物の細胞と人間の細胞は、細胞膜の有無などその構造が異なる。植物ではSTAP現象が観察されるが動物では観察されない、というのがこれまでの科学の常識であった。しかし、STAP現象というものが微細領域のレオロジーが関わる現象ならば、動物の細胞でも起きる可能性がある。ただ、このレオロジー現象については、まだ科学的に不明な点が多い。
材料科学の成果である当方の仕事では送付した論文程度で現象をうまく説明できたが、生科学分野ではさらに精度をあげた実験が必要になってくる。生科学と高分子科学の境界領域の科学が一気に進むことを願って論文を送った。
(注1)ノーベル賞を受賞したフローリーの理論である。
(注2)技術としての完成を目指すために観察記録は重要である。しかし、当時開発期間が1年も無く社内のステージゲートもどきの研究管理に対応するため、実験ノートをつけるやいなや新しい現象をパワーポイントの資料としてまとめる必要があった。
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かつて日本には押出機や多軸混練機のメーカーが多数存在した。その何社かは廃業し、現在残っているメーカーは、それなりの特徴のあるメーカーである。根津にある小平製作所はロール専業メーカーとしてスタートし、現在は工作機械や各種プロセス機械も扱っている。
混練プラントを建設するときに建屋の費用以外にどれだけかかるのか。例えば1t/h程度の混練機を用いた場合に2億円前後あるいはそれ以上の見積もりが出てくる。この価格が妥当かどうかの判断力は、各社の生産技術を担当する技術者の力量に依存する。かつて1億円以下で混練プラントを建設した経験から、この世界も水商売だと思った。
信頼性が価格に入っている、とある営業担当が言っていたが、1億円以下でも退職までトラブル無しで稼働していた。1億円以下で担当してくれたのは日本の中小企業だが、他社が倍以上の見積もりを出してくる中、もの凄い根性を見積もり書から感じた。計量フィーダーも手抜きをせず一流品を使用していた。
先日中国の混練機メーカーを見学し、腰が抜けた。日本の1/5以下の価格で二軸混練機が販売されているのである。しかも納期は2-3ケ月とのこと。見学した工場には、完成した二軸混練機がずらっと並んでいた。説明を聞くと、シリンダーやスクリューの加工プロセスが日本のメーカーに比較し劣っていた。HIP処理を行っていないのである。
しかし、溶接部分やその他の加工を見ても中国品質としては丁寧な仕上がりで、その値段の安さが光っていた。500kg/hの吐出量の混練機の価格は、発売されたばかりのレボーグGTS300馬力一台購入できる程度である。スペックを見る限り、ガラス繊維などのフィラーが添加されていないコンパウンドであれば無理なく混練できるのではないだろうか。
スクリューセグメントもフルフライトスクリュー、各種ニーダーローダーからローターまで揃っている。形状や仕上げを見てもPEやPPなどのコンパウンドを問題なく混練できると思われる。そしてその実績もあるとの説明を受けた。日本では見かけたことの無いメーカーだが、欧米の有名な混練機メーカーの技術者がスピンアウトして設立した会社だという。
そしてグループ会社にはフィーダーのメーカーも存在し、この企業グループに頼めば5000万円以下でも新品の混練プラントを作れそうである。驚異的である。中国の技術進歩は二軸混練機にも見ることができ、産業用機械の分野では日本の技術に肉薄してきた。
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ケミカルアタックという現象は、応力がかかっている樹脂に化学物質が付着して破壊に至る現象である、と思っていた。仮に応力がかかっていなくても、樹脂には射出成形時の内部歪みが存在するので化学物質が付着するとクラックが発生することがある。
この現象に初めて出会ったのは、小学校の低学年の時に水陸両用のスーパーカーのプラモデルで遊んでいたときだ。これは、サンダーバードの前に放送された人形劇「スーパーカー」に登場した車がモデルになっていた。
お小遣いを全て使い購入したプラモデルは、完成からわずか一ヶ月でギアボックスを固定していたボスが壊れ使い物にならなくなった。ギアボックスには付属していたグリースをたっぷり塗っていた。破壊したボスは少し変色していたのでグリースでプラスチックが腐ったのではないか(注1)、と疑問に思った。その後いくつかプラモデルを作ったが、例え異音がしてもグリースを塗るのをやめた。
中学校に進級し化学クラブに入部した。そこで真っ先に実験を行ったのはケミカルアタックの実験である。当時からケミカルアタックという言葉は存在した。また金原現象という言葉やパーコレーションという言葉も覚えた。そして大人になるにつれこれらの言葉がトラッキング現象や混合則という言葉との相違で悩み仕事に活かされていった。
ケミカルアタックは退職前6年間によく接触した言葉である。電子写真の複合機におけるボス割れでケミカルアタックという品質故障が多いのを疑問に思った。そしてこれが樹脂メーカーの責任逃れに便利な言葉であることをある一流メーカーの役員も含めた品質問題の議論の場所で知った。
一流企業の看板を掲げながら、現場の品質管理も不十分で「ス」の入ったペレットを納入し、それが原因でボス割れが起きていてもケミカルアタックと主張した凄い企業である。可能な限りのケミカルアタックを否定するデータを揃えても、ケミカルアタックでないことを認めなかった。挙げ句の果てはケミカルアタックを知らないのか、というところまで発展した。日本の樹脂メーカーの信用も地に落ちた。
また、ケミカルアタックという品質故障が正体不明の場合に樹脂メーカーが用いる便利な技術用語であることもこの時覚えた。子供の頃に覚えた意味では狭く、一流樹脂メーカーの技術者に馬鹿にされた(注2)。言葉は拡張されてゆくものである(続く)。
(注1)警察官であった亡父が泣いている息子を慰めるために言った言葉である。今から考えれば、科学者ではなかった亡父の冴えた推理である、と思う。
(注2)これは実話で、すでにこの欄でも過去に紹介している。中国の現場で二軸混練機のシリンダー温度が管理されず40℃も高い温度で混練され、「ス」の入ったペレットが生産されていた。証拠写真や正常に生産されたときのペレットとの強度比較、DSC、電子顕微鏡写真、IR、ガスクロなど会社で活用できるデータを使い、ペレットの異常を証明したつもりであったがケミカルアタックの一言で片付けられた。個人的には訴訟まで起こしたかったが、企業間の問題であり、結局ケミカルアタックという言葉で幕が引かれた。フロッピーディスクを壊された事件同様にサラリーマン時代の悔しい思い出の一つである。樹脂メーカーのこのような姿勢に成形メーカーは注意されたほうがよい。ただし、誠意が無いのは一部の樹脂メーカーだと思う。
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マツダが同社のリコールの原因は部品にある、として東海ゴムを訴えたという。これまでの日本における部品メーカーと組立てメーカーとの関係ではあり得ない訴訟である(注)。東海ゴムの利益がすべて無くなってしまう金額である。詳細については新聞記事をご覧ください。
以前この欄でも書いたケミカルアタックの問題もこのような事件と関係してくる。樹脂材料メーカーと組み立てメーカーの間では、品質問題が生まれたときに暗黙の了解で組み立てメーカーが責任を負っているケースが多い。すなわち市場の問題解決のためには樹脂メーカーの協力が必要で、迅速な解決を優先し樹脂メーカーと二人三脚で市場問題の解決に当たるために組み立てメーカーが譲歩してきた。
樹脂部品の接合部分には応力がかかるので、樹脂の製造ばらつきで大きく強度低下する場合には明らかに樹脂メーカーの責任であるが、そのような場合でもケミカルアタックという言葉が使われてきたケースがある。明らかに大手樹脂メーカーに過失があっても、ケミカルアタックとして問題解決した事例を少なくとも一度体験した。一度の体験で多くあるような書き方をしている、と思われると心外だが、担当者の話で樹脂メーカーにケミカルアタックと言われたらそれで終わりだ、という言葉もある。
この体験が元になり会社の品質問題のデータベースを見たところ、ケミカルアタックが原因となっている品質問題が多くびっくりした。ケミカルアタックは樹脂の接合部分で発生する原因不明の品質問題で使用するには便利な言葉のようだ。
マツダと東海ゴムの問題はケミカルアタックではない。ゆえに本欄の表題は、あたかもケミカルアタックが自動車のリコール問題と関係しているかの誤解を生む表現である。意識的にこのような表題をつけている。すなわち誤解を生み出す言葉の不思議さに気がついて頂きたいからである。業界用語の中には大まかな定義の言葉があり、当業者がその大まかな定義の中で納得しながら言葉を使用している。
ケミカルアタックは本来ケミカル製品の影響で樹脂部品の寿命が著しく低下した現象で使用されてきた言葉である。しかし、樹脂メーカーは原因不明の強度低下の問題にまでこのような言葉を使い始めたために、この言葉の意味は大きく拡張された。実際にあった話だが、現場で接合部分の強度低下が起きると、原因を調べもせずケミカルアタックとして処理していた。
言葉を適切に用いなかったために現場の感度が低下した事例だが、組み立てメーカーと部品メーカーとの関係においても、従来の慣習から見ると違和感のあるマツダと東海ゴムの訴訟のような刺激が必要になってきた時代かもしれない。すなわち材料メーカーや部品メーカーがあぐらをかいているとこのような訴訟が必要なように、不適切な言葉の使用でその場を繕っていると、そのうちこの言葉から大きなしっぺ返しを受けるかもしれない。
(注)海外では多い。
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