高分子材料の寿命予測にアーレニウスプロットや時間温度換算則は大切な知識だが、これらが経験知であることを知っておくことは重要である。
アーレニウスプロットは反応速度論で利用されているので形式知と勘違いされている人がいるが、寿命予測に用いるときには、経験知と捉えた方が良い。
科学の問題についてトランスサイエンスという言葉が50年近く前に物理学者の言葉として生まれている。福島原発の問題が起きたときに、日本でこの言葉が一時注目された。
「科学に問うことはできるが、科学で答えることができない問題」という意味だが、高分子材料の寿命予測は、まさにトランスサイエンスと呼んでよい問題だ。
このような考え方に対して異を唱える人がいるので、ここではこれ以上書かないが、有料のセミナーでは、時間温度換算則の問題も含め説明している。
しかし、一度痛い目にあうと高分子材料の寿命予測に関して慎重になる。例えば「最高の品質で社会に貢献」という社是のゴム会社に入社した時に、「科学でタイヤはできない。技術でタイヤを造る」とCTOに教えられた。
写真会社で単身赴任するや否や、まさにこのCTOの教えを活かす出来事に遭遇したので迷うことなく火消を行っている。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子材料のフラクトグラフィーをいろいろ経験すると、セラミックスでは体験できない現象に出会う。例えば破断面の構造をSEMで観察すると、脆性破壊したと思われるドメインの周囲を延性破壊したような構造が覆っているような構造に遭遇することがある。
SSカーブでは、マクロ的に脆性破壊していてもミクロの部分でフィブリルが存在しているのだ。このような構造にセラミックスでは出会ったことが無い。
あるいはポリマーアロイ、例えばPC/ABSで未溶融のPCと思われる大きなドメイン、すなわちABS相を含まずPCだけからなる相が観察されることもある。このような場合に厄介なのはそれほどの強度低下が無いために品質問題を見落とすことがある。
このような材料で成形体を製造すると、テープ剥離という品質問題が起きる。すなわち、未溶融のPCが表面に現れ、それがテープのように薄皮として剥離したりする問題だ。
テープ剥離という品質問題と樹脂の劣化寿命とが結びつかないかもしれないが、ウェザーメーターで耐久試験を行うと靭性値に劣化問題として観察されることがあるので厄介だ。
最初に紹介した脆性破壊と延性破壊のミクロ構造が存在するような材料でも、耐久試験結果が悪くなる場合がある。ただし、いつでも再現よく劣化するわけでもないのでややこしい。
このように、高分子のフラクトグラフィーを実施した時に訳が分からなくなるようなことも生じる。これを承知して実施すればフラクトグラフィーは有効な方法となるが、わけのわからない問題を生み出して悩むようであれば、場数を踏んだ専門家に相談した方が良い。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
金属についてその寿命予測はほぼ科学的に可能である、と信じられており、金属の疲労により生じた事故についてフラクトグラフィーによる解析が裁判の判例として存在する。
しかし、高分子材料についてその手法は未だに金属のように信頼できる手法として普及していない。しかし、品質問題が起きたときにその原因解析を行うために破断面の情報は重要である。
破断面の解析、フラクトグラフィーを成功させるためには、破断直後の汚染されていない破面が重要である。問題の起きている現場で、マクロレンズによる破面の写真撮影だけでも原因解明ができる場合がある。
最近のデジタルカメラは画素数が高いのでマクロレンズで等倍撮影後、デジタル画像を拡大することにより数十ミクロン以上のボイドあるいは異物を見つけることが可能だ。
そして、そこを起点にして同心円状の模様を探し見つかったならば、ほぼそこが破壊の起点となった可能性が高い。さらに、平滑破面と凸凹破面が連続して見つかると、その材料が破壊に至ったシナリオを描くことが可能だ。
すなわち、平滑破面では破壊エネルギーの伝播速度が速かったためにできた可能性が高く、凹凸破面はその速度が遅かったために形成された、と推定される。
これらは金属におけるフラクトグラフィーの手法をそのまま当てはめているのだが、樹脂材料ではよくあてはまる。加硫ゴムでも同様の現象が観察されたりするが、平滑破面かどうか悩む場合も存在する。
また、異物が見つかった時に異物よりも大きいボイドがその異物の存在していたところにできていたりして、異物が原因となったのかボイドが原因となったのか不明となる場合がある。
高分子のフラクトグラフィーでは、時に説明が難しくなる破面が観察されたりして、いつも成功するとは限らないが、材料の破壊で発生した品質問題を解決するときに有力な手段となる。ところが、科学的ではないという理由で解説書が少ない。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子のクリープ現象は、金属やセラミックスのクリープ現象より複雑である。例えば高純度SiC成形体のような材料でも1450℃以上で観察可能なクリープが起きるが、これは拡散クリープである。
室温で実験を行うと天文学的な観測時間となる。そこで高温度で加速実験を行ってクリープ速度を求め、時間に対する変形量のマスターカーブを描くことが可能で、これが実際の現象とよく適合する。
金属やセラミックス材料では時間温度換算則を用いてこのような実験を行い、構造材料の設計を行っても市場でクリープによる品質問題を発生することは稀である。
例えばシリコーン半導体製造に用いられるダミーウェハーは、過去に高純度石英が用いられてきたが、クリープによるたわみ変形の問題があった。
シリコーンウェハーの加工温度におけるSiCのクリープ速度は石英のそれよりもはるかに遅い。シリコーンウェハーが大口径化されたのでSiCダミーウェハーはこの分野の必需品となった。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイ前駆体を用いた高純度SiC製造プロセスは40年以上前に当方により発明された。日本化学会技術賞も受賞しているこの製造方法は高純度SiCを経済的に製造できる優れた技術である。
この技術の発明により、高温度構造材料として用いられていた高純度石英の問題が解決され、信頼性の高い高純度構造材料の設計が可能となった。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
高分子材料の力学物性について問題となるのは破壊力学の形式知が完成していない点である。例えば引張強度のばらつきは、金属よりも大きい場合が多い。
金属の破壊について線形破壊力学でうまく説明できるが、高分子材料では破壊現象についてうまく説明できない場合が多い。それでも金属でよく用いられるフラクトグラフィーを適用すると破壊の起点を知ることができる。
その他、金属材料で実績のある方法を破壊現象について適用してみるとうまくあてはまるところがあったりする。ゆえに、時間温度換算則を用いてクリープ破壊を解析できそうに錯覚する。
温度領域に十分配慮して実験を行えば、マスターカーブを描くことができ、それなりに予測ができてしまう。実はこれが品質問題を引き起こす原因となる。
高分子材料のクリープ速度は金属のそれよりも密度の影響を受けやすい。それどころか高分子材料は射出成形条件のばらつきから密度が大きくばらつく。
仮にこのことを理解してマスターカーブについて密度依存性を確認したりする。このときどれだけの密度ばらつきを見込んで実験を行うのかという問題が存在する。
防湿庫に保管していたカメラの裏蓋フックの破壊は、カメラを静置したままだったので、クリープ破壊の可能性が高い。破面のフラクトグラフィーを行ってもそれを理解できた。
裏蓋を開けるためにスプリングがついているが、これにより一定応力がフックにかかりクリープ破壊に至った可能性が高いのだが、高分子材料の物性をよく理解しそれなりの実験を行えば品質問題を防げたはずである。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop
金属材料で材料力学や破壊力学の学問、形式知が体系づけられ、セラミックスフィーバーの時にセラミックスでもその確かさが確認されて、ワイブル統計が劣化予測に有効なことなど確認された。
しかし、高分子材料では線形破壊力学に当てはまらない例が出てきて、非線形破壊力学なども提唱されたが、有効な方法が無いまま、現在に至りマテリアルインフォマティクスの研究の一分野として推進されている。
劣化寿命予測について、実務ではアーレニウスプロットや時間温度換算則を用い、化学的な劣化と物理的な劣化の両面から実験室でモデル実験を行い、その材料の寿命予測を行う。
金属やセラミックスではそれがうまくいっても、高分子ではしばしば材料の寿命について品質問題を引き起こしている。例えばN社のフィルム裏蓋が壊れた事例をここで紹介している。
防湿庫の中に静置していただけで、フィルムの感光を保護する裏蓋のフックが壊れたのだ。明らかに耐久試験の失敗による設計ミスである。
機能が優れた製品を市場に送り出しているメーカーであっても、細かい品質設計技術が存在しないことは明らかで、これでは市場を失う、と心配していたら、一眼カメラ業界3位に転落していた。
写真撮影が趣味であり、長い間ペンタックスを使用してきた。某世界大会でもペンタックスカメラは1位を撮らしてくれたが、ミラーレス一眼を開発しないとのことでニコンカメラを購入した。
新品で購入して4か月目、ストロボを外した時にホットシューのバネが一緒に飛び出した。びっくりして保証書と一緒にサービスセンターに持ち込んで修理していただいたら、ストロボが古いタイプなので、とかなんとか言われた。
帰り道専用のストロボを購入し、カメラの接続部分のサイズをノギスで計測したところ、ノギスで測った限りでは古いタイプと同一だった。ちなみにペンタックスは50年近く7台愛用してきたが、サービスセンターのお世話になったことは無い。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
海洋汚染の深刻さを示す事例がニュースとして報じられた。秋田県の海岸でゴミの地層が見つかったという。対馬海流の独特の流れがゴミを秋田県の海岸に集め、風で砂が運ばれて自然にできたという。
TVでの説明はそのようであった。ゴミの種類が中国や韓国から流れてきたゴミが多いので、もっともらしい説明である。しかしそれならばゴミが散らばっていない地層の説明ができない。
ゴミが散らばっていない地層が干潮の時にできた、とするならばミルフィーユのように多層になっているはずである。しかし、TVで映された風景は単層であった。
このゴミの層ができあがったメカニズムは単純ではないことを映像は示していたが、それを説明していた海洋汚染の専門家は簡単に説明していた。そして不要不急の高分子を使うことをやめなければいけない、とお決まりの「脱高分子」のフレーズを述べていた。
高分子の使用をやめれば高分子のごみが減る、というのは、極めて科学的であり、皆が納得するフレーズである。しかし今の時代の海洋汚染の専門家を名乗りたいのであれば、脱高分子以外の高分子のゴミを減らす方法を述べなければいけない。
海洋ゴミに限らず、今のウィルス騒動でも落胆させらるのは、専門家と称する人たちの誠実さの無さである。素人でも科学的に結論を出せるフレーズを述べてしたり顔でいる。このような専門家にインタビュアーは、「あんた、アホか」と突っ込んでほしい。
科学的な誰でもわかる結論を述べてしたり顔をしているような専門家はもういらない時代だ。もしそれしか答えられないなら、「科学的に****という結論になるが、私には専門家としてこれ以上のことはわかりません」と頭を下げるのが、誠実真摯な姿である。
科学的に答えを出せない問題が溢れてきた、50年ほど前に予言されたトランスサイエンスの時代である。専門家はそれを理解したうえで、現象を探求しなければいけない。そうでない専門家は本当のアホである。
高分子材料のゴミが大量に海洋に溢れ、太平洋ゴミベルトができており、各地でも高分子材料のゴミの問題が起きてい海洋汚染の専門家を名乗りたいのであれば、「脱高分子」と答えていてはいけないほど2015年から時間がたっているのだ。7年過ぎた今でも回答が分からない海洋汚染の専門家は弊社にご相談ください。知識を授けます。
カテゴリー : 一般
pagetop
プラスチックによる海洋汚染の深刻さは2015年鼻から血を流していた海亀により世界に知らされた。鼻にストローが刺さっていたためだが、人間の捨てたゴミで生物が傷つく話は、20世紀にもニュースとなっていた。
ただこの海亀が20世紀のそれと異なるのは、続けて太平洋ゴミベルトが報告されたり、ごみを飲み込んだ鯨が浜に打ち上げられたり、と連続してプラごみの話題が報じられるきっかけになる点である。
海洋汚染はプラごみだけでなく、海底火山の爆発などで生じた軽石によっても発生する。軽石が魚のえらにつまり、大量死したニュースは時折報じられる。
プラゴミによる海洋汚染が、自然災害による海洋汚染と比較して深刻なのは、紫外線により熱分解し二酸化炭素を発生する点であるが、意外と知られていない。
地球温暖化阻止のため脱炭素が叫ばれ、様々な対策が進められているが、太平洋ゴミベルトに漂うプラごみについては未だ対策が進まず二酸化炭素を放出している。
二酸化炭素は、動物からも放出されており、牛や羊など反芻胃の動物のげっぷは地球温暖化を考えるときに無視できない量だという。
動物の吐き出す二酸化炭素は、植物の光合成で処理してもらえるように植林を今よりも増やすことで対応するのが自然の仕組みから妥当な解決策と思われるが、太平洋ゴミベルトのゴミは、人類がそれを処理する方法を考えない限り漂い続ける。
カテゴリー : 未分類
pagetop
トランスサイエンスとは、1972年物理学者A.ワインバーグが提唱した言葉である。「科学に問いかけることはできるが、科学では答えられない問題」として、一般に訳される。
50年近く前のこの言葉が日本で注目され始めたのは、2011年東日本大震災で起きた福島原発の爆発がきっかけと言われている。
一方、「科学でタイヤはできない、タイヤは技術で作る」とは、1979年ゴム会社のCTOが新入社員の研修成果発表会で述べた名言である。また、この2年前に当方は大学の特別講義で某企業役員の科学論で「科学と技術は車の両輪である」という名言を聞いている。
トランスサイエンスはアカデミアの方が好んで使われる言葉であるが、残念なのは言葉を発しつつ、科学でしか考えられない矛盾に気がついていない点である。
日本人科学者により書かれたトランスサイエンス論でがっかりさせられるのは、ただその意味解説で終わっているところである。
多くの人が知りたいのは、科学では答えられない問題をどう処理したらよいのかである。日常となったDXは我々の生活を大きく変えたが、実体をわかりにくくし、ひとたびエラーが発生するとその回復に多大なエネルギーのかかる社会を生み出した。
こうしたイノベーションやトランスサイエンスについて詳しく知りたい方は弊社へ問い合わせていただきたい。セラミックスフィーバーとなるやいなや世界で初めて有機高分子と無機高分子のポリマーアロイ製造に成功し高純度SiCの事業をゴム会社で起業した成功体験はじめ様々な技術開発の成功体験に裏付けられたアドバイスから困っている問題の答えまでご提供させていただきます。
カテゴリー : 一般 未分類
pagetop
デジタルトランスフォーメーション(DX)とトランスサイエンスは、今日の社会変化を理解するために欠かせないキーワードである。
DXがいつまで続くのかは、「第三の波」の著者アルビントフラーが答えている。また、ドラッカーはその遺作の中で、「誰も見たことのない世界が始まる」と述べていることから、もうDXが恒常的になった時代だと気がつく。
世の中に4bitマイコンが登場し、まず世の中から計算尺が無くなった。そろばんは教育的目的もありかろうじて日本では生き残った。この変化が起きるやいなや新たに開発された8bitマイコンとともに第三の波が始まり、DXへと繋がった。
産業革命が科学の誕生により、加速され、その後様々なイノベーションの大波小波が引き起こされてきた。今のDXを支えた材料のイノベーションは、日本初のセラミックスフィーバーによりびっくりしたアメリカクリントン大統領が始めたナノテクノロジーの開発から始まっている。
すなわち、20世紀末から21世紀の現在に至るDXは、日本が震源地であることが意外にもあまり知られていない。日本で始まったイノベーションをいち早くキャッチアップしたアメリカではナノテクノロジーを中心に大小様々なイノベーションが起きたのだ。
一方日本では、せっかく日本で始まったイノベーションの波にうまく乗れず、バブル崩壊後GDPが停滞したままだ。この原因をここで詳しく述べないが、一部の大企業の失敗、例えば東芝の事例からそれを理解できる。
カテゴリー : 一般
pagetop