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2018.12/21 指導社員の重要性

新入社員時代担当した樹脂補強ゴムの指導社員は、部下の立場から見て理想的な上司だった。また、いまこそコーチングが部下の指導スキルとして注目されているが、彼の指導スタイルはティーチングとコーチングをほどよくミックスされたスタイルであり、専門技術を要求される部門では、技術の伝承も要求されるという意味で理想的なリーダーだった。

 

写真会社に転職してびっくりしたのは、現場で「チーチーパッパはやめろ」と言われた役員と出会ったことだ。確かに転職した会社では十分な技術伝承が行われているとはいいがたい事態と多数遭遇している。

 

例えば、昭和35年に出願された世界初の重要な技術が全く伝承されず、周辺の評価技術も含め0に近い状態になっていた。不思議に思い、その歴史を調べたらいくつかメーカーとして問題点が見つかった。言い過ぎかもしれないが、技術伝承のDNAを排除するような経営が行われていた。

 

ゴム会社は、技術伝承に全社として取り組んでいる会社であるが、技術に無理解な中間管理職もいるのでそれが癌のように突然増殖するような状況が生まれたりする。しかし、新入社員研修で経験する現場実習のおかげと思うが、異業種交流の場で出会うこの会社の技術者は技術伝承に理解を示す。

 

写真会社でよく耳にした意見に「勉強は自分でする」という自己実現の考え方がある。それに対して、ゴム会社は知識の獲得も含め、社員の自己実現努力に対して好意的であり,会社による積極的支援が充実している。また、社員の留学支援体制も創業者の著書にも書かれているように強固である。

 

恐らく、会社の方針と言うよりも社風として社員の自己実現をどのように位置づけて考えてゆくか、という視点が受け継がれているからだろう。ゴム会社は厳しい会社、と言われるが、この意味で実際には社員に優しい風土だと思っている。これは異なる会社風土に接してみないとわからない。

 

樹脂補強ゴムのテーマを実行中に座学が毎日行われていたが、このようなことを許容する風土のおかげで指導社員の指導方法を批判される人はいなかった。

 

指導社員はたまに冗談で「私は指導され社員」と同僚に語っておられたが、おそらくこの言葉は新入社員の指導を行うときの姿勢として要求される、重要なノウハウを意味している。

 

セラミックスの研究室で2年間過ごし、ゴムのことなどさっぱりわからなかった新入社員から能力を引き出し、新規配合を開発できただけでなく、特許草案や報告書を指導開始の3ケ月後には書けるようになっていたのである。

 

そして、その時の経験知から、30年後カオス混合装置を開発し、中間転写ベルトに用いるPPSコンパウンド工場を3ケ月で0から立ち上げる仕事を成功させている。この指導社員の指導力の賜物である。

 

カテゴリー : 一般

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2018.12/20 技術開発経験談(12)

およそ研修期間中に習った内容や、ドラッカーのマネジメントに書かれた理想とは程遠い状態のように思われたが、マネジメントの意味が人を成し成果を出させることならば、指導社員のマネジメントや主任研究員のマネジメント姿勢はそれなりに成功していたのだろう。

 

樹脂補強ゴムのテーマは、特許出願され、そして1年後には化工品部隊により防振ゴムとして製品化された。研究部門として十分な成果が出たのである。しかし、この研究テーマでは研究部門の誰も評価されなかった、といううわさ話を聞いた。

 

その原因が当方にあった、というのだから忌々しき噂である。3ケ月でできるような簡単なテーマを1年の計画で計上していた、という噂も聞こえてきた。そこには当方の過重労働の頑張りの情報は無く、3ケ月間、他部署が研究部門を応援していた姿を誉める話が尾ひれとしてついていた。

 

指導社員はその後課長まで昇進され定年退職されたが、その知識の豊富さは、在職した12年間、その右に出る人を見たことがない。ゴム会社では能力やその成果を十分に評価されず退職される方が多いとも言われていたが、おそらくピラミッド組織で運営される日本の会社ではこのような事例が多いのだろう。

 

この時の主任研究員とは3ケ月の間、ほとんど会話をする機会が無かった。テーマについては指導社員がすべて報告していたからだが、当方が専門外の新入社員ということであまり期待されていなかったからとも他の人から聞かされた。

 

この話を信じるきっかけになったのは、この3年後当方が高純度SiCの開発に成功した時である。無機材質研究所に留学し人事部所属だったが、途中からこの主任研究員の方が上司になったと、筑波までご挨拶に来られ、その後当方の私生活も含め、いろいろ心配されたり、食事に誘われたりしたからである。

 

その姿勢が大変正直な方であきれたが、ある日新入社員時代の話をしたところ、専門外の新入社員を配属されたので指導社員に任せきりにされた本心を話され後に、謝罪された。この姿勢には誠実さを感じた。樹脂補強ゴムのテーマを終えて、とんでもない主任研究員が上司になるが、やはり管理職には誠実さが要求される。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.12/19 技術開発経験談(11)

1週間に一度課内会議があり、そこで指導社員が当方のデータをまとめ報告されていた。しかし、その報告内容は、当方がその週に行った実験ではなく立案された計画に基づいた進捗に合わせていたので、すぐに報告と当方が行っている実験との乖離が生まれた。

 

指導社員は、この点について気にすることは無い、と言われ、その乖離について話さないように口止めされた。そのため、課長である主任研究員から過重労働の注意を受けたときには、実験が下手で失敗していますと適当に答えていた。

 

主任研究員は、樹脂補強ゴムの混練は難しいから十分に健康に注意しスキル向上に務めてください、と激励してくださったが、残業代が出ないことについては触れなかった。

 

半年間の研修で会社の規定や規則、労働法規などについて習っていたので自分の業務姿勢を多少は心配していたが、楽しさが優先され過重労働について疑問に思わなくなった。また、タイヤ開発を担当している同期から深夜残業や過重労働なんて日本の会社で常識だという声もあり、それが当たり前の習慣になっていった。

 

ところで、テーマを担当して2ケ月ほど経過した時に、指導社員の週報の報告が大きく変わった。急に1年後のゴールに近い内容になっていった。おそらくこの時に当方の異動の話が出ていたのだろう。

 

12月中旬に職場異動を通達され、当方はややショックを受けたがすでに目標の配合処方が見つかっていたので、異動までに仕事を完成させ報告書を提出します、と回答したところ、主任研究員からそこまでやらなくてよいとの、なんとも気の抜ける激励を受けた。

 

主任研究員は、3ケ月後職場異動するまで一度も小生の仕事ぶりを実験室に見に来なかった。恐らく不器用で肉体労働が好きで口も達者な体育会系新入社員に見えたのかもしれない。

 

その後無機材質研究所留学中に高純度SiCの発明を行ったとき、真っ先に研究所の受け皿になると申し出られたのはこの主任研究員で、その時には複雑な思いで部下になった。

 

サラリーマンは、上司の立場で部下を選ぶ権利はあるが、部下の立場では上司を円満に代える手段はない。職場における人間関係は円満が重要だが、上司との関係はゴマをするぐらいの気持ちがちょうどよい、とサラリーマンを終えて思うようになった。

 

若い時には、なかなかそこまでの気持ちにはなれないものだが、ゴマをすられて悪い気持ちになる人は少ない。上司が人事権を持っている組織では、業務成果をいくら上げても上司との関係が悪ければよい評価にはならないことを早いうちに理解することが大切である。

 

また、円満な組織風土の場合に管理者は単純に喜んではいけない。実際はゴマすりの横行しているとんでもない組織の場合もあるからだ。管理者はたとえごますりがあったとしても厳しく成果で部下を評価すべきである。

 

これは実践から、必ず成果を出せる風土をつくる方法の一つだと実感している。成果を出していないような人の昇進が早い組織はやがては成果が出なくなる。本来は成果の出る組織なのにそれが無い場合にはこのあたりを疑う必要がある。

 

当時のゴム会社の研究所は社内で成果の出ない雲の上の組織とうわさされていた。このような噂は、新入社員であれば酒の肴として尾ひれをつけて話すものである。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.12/18 樹脂補強ゴムのロール混練

1970年末にタイヤのビード部のゴムを樹脂補強ゴムで設計する技術が登場している。この時用いられた樹脂はフェノール樹脂である。フェノール樹脂にはレゾール型とノボラック型があり、前者は室温で流動性を有する分子量が低い樹脂を容易に製造可能である。

 

ゆえにゴムへ配合して混練する時の難易度は低い。しかしノボラック型フェノール樹脂はゴムの混練温度範囲で粘度が高く混練の難易度は高い。ゆえにビード部のゴムとして最初に実用化されたのはレゾール型フェノール樹脂との複合化で、その後ノボラック型との複合化で製造された樹脂補強ゴムが登場している。

 

プロセス性の悪いノボラック型フェノール樹脂とゴムとの複合化が検討されたのは、特許回避のためとフェノール樹脂以外の樹脂ではゴムとの複合化で海島構造になりにくかったためである。ゴムへ少量添加しても高次構造が海島構造となるのはフェノール樹脂だけと当初思われていた。

 

しかし、樹脂をゴムへうまく混練できれば、樹脂の少量添加でも樹脂が海となる高次構造をとりうることを当方の指導社員は見出した。そのとき用いられた技がカオス混合である。

 

ところで樹脂をゴムに分散しにくい原因は、ゴムの溶融温度付近で樹脂の粘度が高いためである。これは混練の教科書にも書かれているように、大きな粘度差があるときに剪断流動ではせいぜい10μm程度の構造サイズまでの分散しかできない。

 

伸長流動では、教科書によればその限界が無くなると言われている。混練で伸長流動による混練が20世紀末より注目されるようになった理由である。しかし伸長流動でも、樹脂が溶融していなければ、樹脂の粒子径が大きいとその分散が難しいので、どうしても混練効率の高い剪断流動による分散も必要になる。

 

これが伸長流動と剪断流動とが程よく機能するカオス混合に最近注目するようになった理由である。ロール混練では技を使ってカオス混合が可能である。ゆえに樹脂補強ゴムの混練ではこのカオス混合の技を習得することが最初に必要で、同一処方を用いて1週間混練の練習をした。

 

カオス混合を用いても結晶化している樹脂をゴムへ分散するには難しい。そのような場合には、事前に樹脂を微粉末にしてから混練するが、ゴムの溶融温度で結晶がなかなか融解しないので剪断流動を駆使して分散することになる。

 

このようにゴムと樹脂の混練は難しく、その実現のためにプロセシングの工夫に頭を使うことになる。表面が平滑な二本のロールで混練が進行することも不思議だったが、技を体得し頭を使うと混練効率が上昇する面白さがあった。

 

ロールの表面は平滑だがロール混練を工夫していると脳みそのしわが増えてゆくような錯覚になった。指導社員がニーダーを安直に使用するのではなくロールで混練するように指導された意図を理解できた。

カテゴリー : 高分子

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2018.12/17 技術開発経験談(10)

指導社員の形式知や経験知、暗黙知の豊富さには驚かされた。また、率先して実験を行われていたが、樹脂補強ゴムのテーマとは全く無関係の実験であるだけでなく、レオロジーとの関係も不明な実験であることも多かった。

 

指導社員は就業時間後は囲碁をされるのが習慣だった。定時になると業務を終え机の上を整理したかと思うと姿が消えていた。

 

一度どこに行かれるのかついていったところ、DEMOS室というミニコンの設置された部屋に入られ、その中で囲碁を始められた。

 

そこは、空調が効き快適ではあるが事務を行う部屋は無く、段ボール箱を広げた上に座り、囲碁を打っていた。指導社員の会社における生活はこのように、朝出勤すると午前中は小生の指導にあて、午後は定時まで自分の業務、定時後は囲碁というのが習慣だった。

 

知識をどこで吸収しているのか不思議に思い尋ねたところ、出勤の往復時間が2時間あり、本を読むには十分な時間だと教えてくれた。多くの研究員が、講習会で出張しても指導社員は率先して出張することが無かった。

 

これも不思議だったので尋ねたところ、情報は学術雑誌を読めば先端の情報を容易に取得でき、講習会で間違った話を聞くよりも良い、と言われた。間違った話、という指摘にびっくりしてその意味を質問したところ、教科書通りの話は間違っていることが多いから、と理由を説明された。

 

そして、大学教授として転職された某部長がご自分の理論に合うように部下に実験させてデータを収集している話を聞かされた。これは当時の高分子科学の実情を知るには十分な事例だった。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.12/16 CDをどこで買えばよい?

近所のレコード店が壊滅してから20年近くたつ。豊川へ単身赴任したときに、たまたま近所に大きなCD店があったので5年間はそこでCDを手に入れることができた。

 

退職してから困ったのは池袋まで行かなければCDを販売している店が無い。他人が本やレコード、CDをどのように購入しているのか知らないが、当方は昔から立ち読み派だった。すなわち本でもレコードやCDでも少し中身を覗いてから購入する習慣だった。

 

だから中身がわからない袋とじ特集のあるような本は購入しない。本やレコード、CDは、まず趣味嗜好に沿っているかどうかが重要で、自分の嫌いなものを高いお金を払って買おうという動機にはならない。

 

しかし、デジタル化の流れはこのような習慣にも大きく影響し、この10年新しいレコードやCDを購入していない。していない、というよりも購入する機会が無くなったのだ。

 

今音楽はネット配信の時代で、ネットでチョイ聴きも可能である。さらに新譜でなければ無償で音楽を聴くことが可能だ。便利になったわけだが、そのかわりジャケットを眺める楽しみが無くなった。

 

レコードやCDの楽しみの一つにそのジャケットのデザインがある。ネット配信では手に取って楽しむためにプリントアウトしなければいけない。プリントアウトしてみてはじめてレコードやCDのジャケットの持っていた魅力に気がついた。

 

 

カテゴリー : 一般

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2018.12/15 混練の神様

ゴム会社における新入社員時代の経験談を書いているが、たった3ケ月の指導期間であるにも関わらず、研修終了時のプレゼンでCTOから「技術とは何か」と、同期の社員1名がその説教の直後退職するような激しい技術論の薫陶を受けた直後でもあり、この時の指導社員は高純度SiCの事業化経験と同様に生涯忘れられない人物となった。

 

後輩への技術の伝承はメーカーに勤める技術者の重要な仕事の一つであるが、ゴーンの給与と技術者の処遇とを比較するとそれを重要な使命ととらえ、無償の貢献として行えるかどうか疑問である。

 

ましてや、成果を出しても評価されないだけでなく左遷までされたのでは、私費まで投じて獲得したスキルを無償で伝承しようなどとは考えないものだ。組織と技術者に信頼関係が無ければ、伝承どころではなく逃げ出す技術者も出てくる。経営者はこの点をよく認識しない限り、せっかく蓄積された技術が蓄積されず流出するだけになる。

 

それゆえ技術の伝承を円滑にできる方法を経営者は真摯に考えなければいけない。経営者が真摯に考えない限り、いくら誠実な技術者であっても自己の技術を無償で伝承しようなどとは考えないだけでなく、自ら技術を磨こうとする技術者さえも生まれない。

 

当方が体験した大企業は、自ら技術者として自己実現する人を冷遇する環境だった。指導社員は彼の同期より4年以上昇進が遅れている人だった。彼の実力であれば本来数名の部下を率いて研究開発を推進できたはずだ。しかし、当方が初めての部下となるような処遇をされていた。

 

噂では彼の新入社員時代における上司との折り合いが悪く、よい評価査定がついていなかったという。このような処遇のされ方をされても、彼は当方に対しては熱心に技術伝承をしてくださった。

 

FD事件で転職するまでの12年間ゴム会社に勤務したが、この指導社員ほど混練技術について精通した技術者と出会ったことがなかった。形式知や経験知だけでなく、質問をすれば暗黙知を必死に伝承しようと努力された。その技術伝承の姿勢は、まるで混練の神様のように見えたほどである。

 

 

 

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.12/14 技術開発経験談(9)

樹脂補強ゴムの開発テーマはたった3ケ月で完了した。指導社員は、当方が初めての部下だったので親身に業務以外についても指導してくださった。

 

部下の立場としてそれを指導されても困るということもあった。しかし、30年以上実務を経験してみると、それらは表現の問題であり社会経験の乏しかった当方には誤解を与える内容であるが組織活動の視点で考えなければいけない問題、と思うようになった。

 

例えば、「アイデアは盗まれるので研究の真の狙いは周囲に言うな」、とか、「成果は他人に簡単に盗られ評価されないことがあるので、仕事をするときには自己実現に励め」という指導である。

 

指導社員は大学院でレオロジーを研究し、ゴム会社に入社後もその専門を活かす仕事を担当していた。しかし、実務を通して大学で学んだダッシュポットとバネのモデルで高分子のレオロジーを研究する間違いに気がついたという。その結果、混練プロセスの研究がライフワークであり、当方にカオス混合を実用化してほしいと言われた。

 

また、会社の中に混練プロセスを研究しているグループがあり、そのメンバーには指導社員のアイデアを話してはいけない、と指導された。そして、研究テーマは樹脂補強ゴムだが、このゴムの開発を通して、プロセスの問題を考えてほしい、混練プロセスが当方の専門家としての目標だとも言われた。

 

樹脂補強ゴムのテーマを防振ゴム開発まで担当することができないので、この仕事で当方が評価されないこと、それゆえに評価ではなく自己のスキルアップに専念して欲しい、と言われ、当方が進んで過重労働を行っても注意されなかった。

 

当方は自己実現目標を早期に混練技術をマスターすることとし、朝の座学は指導社員と懸命に毎日遭遇した現象について議論した。樹脂補強ゴムは、溶融温度の異なる樹脂とゴムとをブレンドしなければならず、それを実現するためには「技」が必要だった。

 

このロール混練における技こそ指導社員が他言してはならぬと言われたことで、カオス混合に通じる技術アイデアである。指導社員は通常の方法ではゴムに分散できない樹脂を分散するための技をKKDで見出していた。ご興味のある方はお問い合わせください。

 

 

 

 

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2018.12/13 技術開発経験談(8)

年末年始の休日を返上し報告書をまとめ上げたが、研究としてはたった一つの真理しか得られなかった。測定された樹脂のSP値をゴムのSP値と比較してもその相関は、あるとはいいがたい結果だった。

 

原因は、指導社員が用意してくださった樹脂以外に当時の新素材樹脂(TPE)を評価に加える提案を当方がしたためで、SP値との関係を説明しにくい結果となった。

 

また、TPE以外の樹脂でもSP値がゴムと離れているにもかかわらず、うまく海島構造を形成していた事例も見出された。

 

指導社員は、研究のシナリオを考えて樹脂の手配をされていたのだが、当方の素人の提案と素人ゆえにロール混練条件を多数変更していたロールの操作がそのシナリオを無駄にしたような結果となった。

 

すなわち、得られた多数のデータを見ると、シミュレーションで示された防振ゴムのモデルにおいて、バネ定数を高めるには樹脂を添加し硬度を高めればよい、という仮説をほぼ立証してはいるが、そのバネ定数が必ずしもカタログ上の樹脂の弾性率と相関していなかった。

 

しかし、これはDSCの結果から樹脂補強ゴムに配合された樹脂の結晶化度が異なっていることが原因と推定され、その視点で結晶化度の異なるTPEを添加した系で確認したところ、その結晶化度とゴム硬度が相関していたという結果だった。

 

詳細は当時出願した特許をご覧いただきたいが、樹脂補強ゴムにおける樹脂の配合効果が単純ではないことに感動した。しかもそれがプロセスにも依存していたことから、指導社員に教えられた夢のカオス混合という混練技術に強く魅かれるようになった。

 

2011年に起業後カオス混合装置について、その開発費用を得るため経産省の補助金申請を数度行ったが、補助金を頂けなかった。また、大手樹脂メーカーに共同開発のお願いやコンサル契約をお願いしたりしたがかなわなかった。

 

仕方がないので中国樹脂メーカーとカオス混合装置の開発を進め現在に至るが、この7年間に当時をしのぐ事例が得られ、先月日本のシンクタンク大手KRIが主催されたシンポジウムで発表する機会を得た。数社から引き合いがきて良い年を迎えることが出来そうだ。

 

しかし日本の樹脂メーカーは混練技術に無頓着でよいのか?この7年間に開発された新コンセプトに基づく添加剤をある樹脂に添加した場合には、その添加効果がカオス混合に大きく依存している結果も出ている。この添加剤のすごいところは、添加により樹脂のTgを下げないが、Tmを下げたりその他の効果が得られることだ。

 

ただしこの効果はカオス混合で初めて現れる、混練技術に依存した樹脂の性能を上げる添加剤である。これは、樹脂メーカーの技術をブラックボックス化できる。このようなコンセプトは40年前のこの3ケ月の混練体験で思いついた。

 

 

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2018.12/12 技術開発経験談(7)

指導社員の計画は、緻密だった。指導される側は、ただ、計画に沿ったメニューをこなすだけだった。また、1年間の実験で使用する材料はすべて手配され倉庫に積まれていた。

 

さらに、その計画を進めていった結果、必ずそれが成功すると科学的なシミュレーションで示されていた。ただし、これはあくまでも計算上のことで本当にできるかどうかは当時の高分子科学から得られる知識で保証されていなかった(恐らく今でも科学的に理論だけで保証できないはずだ(注))。

 

それに対して、指導社員はKKDを駆使して成功の見本となる材料を作り上げていた。しかし、その見本はロバストの無い見本であり、プロセス依存性が大きいだけでなく耐久寿命のばらつきも大きかった。

 

当方が、1年の計画を3ケ月に短縮できたのは、緻密な計画と分析担当の女性を2名に増員されたことが見かけ上大きく寄与しているが、このKKDで作られた見本の存在も研究成果を実用化するときの問題点を早期に得ることができたので期間短縮に重要だった(これはアジャイル開発である)。

 

KKDによるサンプルがプロセス依存性の大きいことをこのサンプル処方を用いた1週間のロール混練の練習で指導社員に説明している。この1種類の処方だけで行った1週間の練習期間のデータについて指導社員が丁寧に回答をしてくださったので、バンバリーの操作からロール混練におけるツボなどプロセスに関わる経験知や暗黙知を体得できた。

 

また、毎日1種類の同じ処方を混練しては加硫し引張試験を繰り返している姿は周囲の同情を誘い、多くの先輩社員が当方の作業中に近寄ってきてああでもない、こうでもない、とそれぞれの暗黙知を提供し指導してくださったので大変勉強になった。

 

先輩社員の中には当方の学生時代の専攻領域とゴム会社と言うミスマッチをからかわれる方もおられたが、それはそれで社会勉強になった。ただし、大学で何を学び社会でどのように貢献するかは、ドラッカーの書に書いてあった受け売りの回答をしていたため生意気な新入社員に誤解されたかもしれない。

 

当時配属された研究所ではゴム会社の事業に関わる基礎研究を学生時代に学んでこられた方が多かった。そのため、仕事のやり方が学生時代と変わらぬスタイルになるという弊害が職場に存在した。

 

例えば、混練というプロセスは、経験知や暗黙知の占める割合の大きなプロセスである。ゴム会社の研究所では、科学的アプローチでこれを研究されているグループがあった。しかしこのグループの研究スタイルを指導社員は否定されていた。

 

研究の進め方についてアカデミアの方法を学生時代に学ぶ。しかし事業を考慮した研究スタイルのあることを社会人のスタートの時に実務を通して学べたのは、その後高純度SiCの事業を立ち上げるときに役立った。

 

セラミックスのプロセシングもゴムのプロセシングと同様に経験知や暗黙知が多い世界である。しかし、このような世界は、言葉で聴くだけではなかなかそこに潜む知を実感として理解できない。

 

工場実習期間中に現場の職長から、押出成形は行ってこいの世界だ、とわかりやすく教えられた体験では、なかなかその神髄まで理解できなかった。しかし、指導社員がKKDで作成された成功見本を1週間何度も繰り返し混練しながらその言葉を味わってみると、大変含蓄がある言葉だと理解できた。

 

科学の研究では、目の前の現象について仮説を設定し、それを実験で真であるかどうかを確認しながら進めてゆく。しかし実験結果にばらつきが大きい時には、仮説が真であるかどうかを証明することが難しくなる。イムレラカトシュは「方法の擁護」の中でこの問題を扱い、否定証明こそ科学で完璧にできる唯一の方法だと述べている。

 

これを平易に言えば、ゴム材料の研究を科学のスタイルで仕事を進めると「できない」という報告書が山積みになることを意味している。事業ではこのような状態は無駄な研究と評価される。事業に貢献できる研究とは指導社員がやられていたようなアジャイル開発のスタイルが好ましいと新入社員のこの時期に学んでいる。

 

(注)スタップ細胞の騒動で理研の某理事が、細かい実験はやめてとにかくスタップ細胞を作れ、一つでもできればよいと言っている、とインタビューで回答していた姿を今でも忘れられない。科学のスタイルでできることを示すのは、実際に繰り返し再現できる事実を積み上げなければならない。科学に存在するこの不完全性があるゆえに捏造が生まれる。捏造ではないが、ゴム会社の某部長が生み出したような怪しい理論が氾濫する事態にもなる。科学的に正しいが実務では役立たない理論をどのように伝承するのかも技術の指導では重要である。指導社員が神様に見えたのはこのような指導をうまくされたからだ。

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